目次
リード
「ハイプレスを続けると後半に足が止まる」「前半は奪えるのに、終盤は置き去りにされる」。そんな悩みは、気合いの問題ではありません。疲れないハイプレスには、走る距離を減らし、判断の迷いを減らし、休む時間を作るための設計図があります。この記事では、個人のスキルからチームのルールまで、90分間バテずにボールを奪い続けるための実践知を、今日から使える形でまとめました。数値はあくまで目安として、現場で微調整して使ってください。
サッカーのハイプレスで疲れないかけ方、バテない90分の奪い方(イントロダクション)
ハイプレスが“疲れる戦術”になりがちな理由
ハイプレスが消耗戦になる主な原因は3つです。①個々がバラバラに出て連動せず、余計なカバーランが増える。②チームの幅と奥行きが広がり、同じスプリントでも距離が伸びる。③奪う合図や狙いが曖昧で、半歩の迷いが積み重なり、加速と減速を何度も繰り返す。この「距離・連動・迷い」の3点を整えるだけで、走行距離と心拍のピーク回数は目に見えて減ります。
疲れないハイプレスの核心:距離・時間・意思決定の最適化
省エネのコアは、走る距離を縮め、意思決定の時間を短くし、判断の質を揃えること。具体的には、ライン間を10〜12m、最終ラインからCFまでの縦のチーム長を25〜30mに保つ。プレスの合図(トリガー)を統一し、0.5秒以内に全員が同方向へ初動する。奪った直後の「前進か保持か」を即断し、回復の時間を作る。科学的というより、現場で“効く”基本です。
この記事の読み方(個人・ユニット・チームの3層で理解)
個人では「身体の向き・間合い・ステップ」を整え、ユニット(1st〜3rdライン+GK)では「役割分担と連動の合図」を合わせ、チームでは「原則・強弱・練習・運用・指標」で仕組みに落とします。どこか1つでも抜けると無駄走りが増えるので、3層を行き来しながら現場に合わせて組み合わせていきましょう。
疲れにくいハイプレスの5原則
原則1:コンパクトネス—縦横の圧縮で走行距離を削る
奪うために走るのではなく、距離を詰めて「走らなくて済む」状況を作ります。目安は縦25〜30m、横はボールサイドに35〜40m。ライン間は10〜12m。これを守るだけで、寄せの1歩が届きやすくなります。
現場のコツ
- 最終ラインの合図で全体が2mずつ押し上げる(CB主導)。
- 逆サイドWGは絞り優先。幅より距離を詰めてシャドーで切る。
- ボールが動いた方向に“全員が半身分”ずれる意識を共有。
原則2:誘導—奪いどころを外線・弱点に固定する
中央で真っ向から潰しにいくより、外へ誘導して選択肢を減らす方が省エネ。利き足逆、低身長CB、足元が不安なGKなど相手の弱点に合わせて「どちらへ追い込むか」を毎試合明確にします。
現場のコツ
- CFはカーブランで片方のCBにボールを持たせる。
- WGはタッチラインと自分で“二枚の壁”を作るイメージ。
- ボランチの背中に人がいる時は、必ず外へ弾く角度で寄せる。
原則3:トリガー—全員が同時に動く合図を統一する
「今いくの?まだ?」の迷いが一番疲れます。横パス、戻し、背中向き、浮き球、弱いトラップなどを合図化し、誰がコールしても一斉に出られる状態を作ります。
現場のコツ
- 合図は声+ジェスチャーの二重化(例:「GO!」と手のスナップ)。
- 合図から0.5秒以内の初動を全員でテスト。遅れたら全員でやり直す。
- 相手が慣れたらフェイクで釣って逆を奪う“二段構え”も準備。
原則4:レストディフェンス—背後と中央を常に守る
「奪いに行く」と「やられない」の両立が、省エネの鍵。背後の直通と中央の縦パスは常に消しておき、失敗しても一発で返されない守備網(残し方)を用意します。
現場のコツ
- SBのどちらかは常にセーフティに残す(ボールサイドが出たら逆が残る)。
- アンカー位置に1人(またはIH)を固定して中央の差し込みを遮断。
- GKはスウィーパーの準備で背後の不安をゼロに近づける。
原則5:奪った後の第1アクション—即前進or保持で回復
奪ってからの2秒が心拍を決めます。前が空いていれば縦に速く。詰まっていれば逆サイドへ展開して30秒休む。どちらを取るか、奪う瞬間から決めておくと回復が早いです。
現場のコツ
- 「縦・横・後ろ」の3択を奪う前に味方で共有しておく。
- 保持を選んだら、アンカー→CB→逆SBまで一度落として心拍を落とす。
- WGはカウンター時こそ“止まる”動きで受け直し、味方を待つ。
役割別ハイプレスの動き方と省エネ化
1stライン(CF/WG):カーブランとカバーシャドーで走らず切る
CFは対角のパスコースをカーブで消しながら寄せ、WGは内側のボランチを自分の影(カバーシャドー)で消します。一直線に走らない。これだけで5本のパスを2本に減らせます。
ポイント
- 最後の3歩を速く、身体は外に切らせる半身。
- 追い込んだら逆足でブレーキ→即切り返しで再加速(減速を丁寧に)。
- GKまで戻させたら全員で10m押し上げる合図を徹底。
2ndライン(IH/ボランチ):斜めスライドで“遅らせながら締める”
出る・出ないの判断を0か100にしない。半歩遅らせて内側のコースだけを締め、相手に「外しかない」と思わせます。スライドの角度は45度を目安に。
ポイント
- 身体の向きはボールとゴールの二等分線。
- 触れそうで触れない距離(1〜1.5m)を維持してパスを限定。
- 奪えそうなら一気に前足で刈る。迷ったら遅らせて味方を待つ。
3rdライン(SB/CB):背後管理と押し上げのスイッチ
最終ラインの一歩が、前線の10mを節約します。背後の直通をケアしつつ、相手が後ろ向きになった瞬間に3m押し上げて全体を圧縮。これが省エネの土台。
ポイント
- CBは縦スピードの速いFWの利き足側を外へ誘導。
- SBはウイング背後のスペース管理と内絞りのバランスを明確に。
- ラインアップのコールは常に最終ラインが主導。
GK:スウィーパー化で背後の恐怖を消す
GKが8〜18m高い位置を取れると、背後への不安が消えて前線が出やすくなります。相手のロングに対しては、最初の一歩を前に。勇気ではなく準備の問題です。
ポイント
- 最終ラインの背後10〜15mに立つイメージ(相手の蹴球力で調整)。
- カバー範囲はペナルティエリアの外側まで想定し、クリア判断を早く。
- 守備時の最重要コールは「背後あり/なし」の連続発信。
トリガーと合図の設計図
代表的トリガー:横パス・戻し・背中向き・浮き球・弱いトラップ
横パスでボールスピードが落ちた瞬間、戻しで相手が前を向けない瞬間、背中向きの保持者、浮き球の滞空、トラップが外へ流れた瞬間。どれも加速しやすい「切り替え点」です。
使い分け
- 横パス:受け手に向けてCFがカーブラン、WGは内切り。
- 戻し:全員半歩前へ。GKへ戻れば一斉に圧縮。
- 浮き球:落下点に最も近い人が体を当て、周囲は二次回収へ。
リスタート専用プレス:ゴールキック/スローイン/フリーキック
止まっているボールは一番狙いやすい局面。配置をテンプレ化しておくと省エネです。
テンプレ例
- ゴールキック:2CB+GKの3点をCF+WGで三角形に封鎖。IHがアンカーを影で消す。
- スローイン:ボールサイドで3対3を作り、内側を切って外へ窒息させる。
- FK(相手陣):ラインを高く取り、セカンドを最短距離で回収。
共通言語の作り方:コール、ジェスチャー、キーワードのルール化
言葉が揃うと初動が揃います。短く、誰でも出せるコールに統一しましょう。
- 「GO!」=全員前進、「HOLD!」=遅らせる、「LOCK!」=外固定。
- 手のスナップは前進、手の平下向きは落ち着く、両腕開きは幅を締める。
- 1週間で3回以上、10秒のミニ確認で習慣化。
プレスの強弱と“波”の作り方
オン/オフの配分—狙う時間帯と休む時間帯
ずっと全開はムリ。前半15分、後半立ち上がり、相手交代直後は狙い目。相手のビルドアップが落ちる時間を見極め、他はミドルブロックで呼吸を整えるプランを持ちます。
ブロックの切替—ハイ→ミドル→リトリートの三段変速
三段変速の合図を決めます。例:「H(ハイ)」「M(ミドル)」「L(リトリート)」でコール。Lに落としたら、奪った後は必ず保持で回復にスイッチ。
相手の型別対策—3バック/2CB/偽SB/偽9への誘導設計
- 3バック:外CBへ誘導→WBへ出た瞬間にタッチラインで囲う。
- 2CB:アンカーを影で消し、片方のCBに持たせて片面圧縮。
- 偽SB:SBの内側突入はIHが引き取り、WGは外を締め続ける。
- 偽9:CBが釣られすぎない。アンカーが一時的に最終ライン化して対応。
走らずに奪う個人スキル
身体の向きと足運び—オープン/クローズの使い分け
外へ誘導したい時は身体を外へ開く「オープン」、中央を締めたい時は「クローズ」。最後の3歩はストライドを短くして減速→加速を滑らかに。
間合い管理—“行かない守備”で選択肢を剥ぐ
奪えない距離で飛び込むのが一番疲れます。1〜1.5mで内側を消し、触れる時だけ一気に。待つ勇気が省エネです。
タックルより奪回—ステップワークとカットの精度
ボールごと狩るより、次のパスをカットして回収する方が安全。前足の面で止め、後足で運ぶ。足裏とインサイドの切替を瞬時に。
1対2を1対1に還元する追い込み方
相手2人に対して、パスラインを影で1本消し、実質1対1に持ち込む。縦か内か、どちらか一方しか使えない状況を作れば、省エネでボールを取り戻せます。
フィジカルと呼吸—90分もつ身体の作り方
有酸素ベース:MAS/テンポ走で“土台”を作る
最大有酸素速度(MAS)を基準にしたインターバルは効率的です。例:MASの100%で15〜20秒走/15〜20秒歩を10〜15本×2セット。テンポ走はゾーン3〜4で6〜12分×2〜3本。土台があると、ハイプレスの回復が速くなります。数値は疲労と相談しながら調整してください。
無酸素反復:RSAドリルで繰返しダッシュに強くなる
リピーテッドスプリントアビリティ(RSA)を高めるには、20〜30m全力×6〜10本、回復は20〜30秒の不完全休息で2〜3セット。フォームの維持を最優先に。
減速・方向転換:ブレーキ筋と股関節の可動性
疲れは「止まる」「切り返す」で溜まります。ノルディックハム、カーフレイズ、クイックランジで減速筋を強化。股関節は90/90ストレッチやワールドグレイテストストレッチで可動性を確保。
ウォームアップと呼吸法:CO2耐性と鼻呼吸の活用
試合前は段階式に。関節モビリティ→コーディネーション→短距離加速→プレスの合図リハーサル。呼吸は鼻呼吸ベースで二酸化炭素耐性を上げ、インターバルの合間に4秒吸って6秒吐くリカバリー呼吸を習慣化。
省エネに効く“休む技術”
セットプレー前後のリズム管理
自分たちのCK/スローインの前後は、あえて保持を選んで呼吸を整える。相手スローイン時はゆっくりサイドチェンジを許さず、外で時間を使わせる。
意図的なファウル/遅行で流れを切る判断
悪い流れでは「遅らせるファウル」も選択肢。危険なカウンターの芽を刈り、ブロックを整える。その際はカードや位置のリスクを考えて安全に行いましょう。
奪った後の保持で心拍を落とすポジショニング
回復の三角形(逆サイドSB・アンカー・CB)を作り、1〜2本は必ず後ろに戻す。WGは幅を取り直し、IHは相手アンカーの背後で顔を出す。
ハイプレス練習メニュー(現場で使えるドリル集)
ロンド拡張:カバーシャドー制限付き6v3/8v4
条件:守備側は常にボランチ役を影で消すこと。攻撃側は中央突破で2点、外経由で1点など加点。3分×4本。守備の初動と角度が一気に良くなります。
トリガー反復:合図で全員同時発進する局面練習
コーチが笛かコールで「横」「戻し」「浮き」を指示。合図から0.5秒で全員が所定の位置へ。20秒ワーク/40秒レスト×10本。判断と初動の迷いを削ります。
ハーフコート7v7+GK:奪いどころ固定ゲーム
片面固定でビルドアップ→外誘導→タッチライン圧縮までを反復。奪ったら10秒でシュート、保持を選んだら逆サイド到達で得点。縦横の圧縮と第1アクションが身につきます。
限定タッチ/タッチライントラップゲーム
攻撃は2タッチ以下、守備は外へしか誘導できないルール。10分ゲーム×2本。外での窒息と回収後の前進をセットで学べます。
試合運用とマネジメント
前後半のプランニングと交代の設計
前半は15分勝負→10分管理→15分勝負、後半は立ち上がり10分勝負→交代→終盤は相手次第で変速。交代は「守備初動が落ちた人」から。プレス要員と保持要員を使い分けます。
キャプテンの役割—ピッチ内での温度調整
キャプテンは「H/M/L」のコール係。相手の顔色(前向きに触れているか、後ろ向きが増えたか)を観て温度調整。迷いが出たら即「HOLD!」で整える文化を作る。
ベンチワーク:水分・補食・クーリングのタイミング
飲水はプレー強度の波に合わせて前倒し。補食はハーフで消化の良い炭水化物と塩分。夏場は首・わきの冷却で心拍を落とす。小さな管理が後半の1歩を生みます。
よくある失敗と即効で直すコツ
1人だけ飛び出す—“待つ勇気”の共有
ボールに釣られて1人だけ行くと、裏を使われて疲れます。「2人目が準備できるまで半身で遅らせる」が合言葉。コーチは“行かない守備”を褒める時間を作ると定着します。
ライン間が空く—縦距離の基準を数値化する
「詰めろ!」ではなく、「ライン間10m」「チーム長30m」と数値で管理。CBが基準をコールし、IHが復唱。メジャー不要、感覚で合わせられるようになります。
ボールウォッチ—背後の通信とスキャン習慣
3秒に1回のスキャン、プレー間の「背後あり/なし」コールで解決。視線の90%はボール、10%は背後へ配分する癖を全員で身につけましょう。
指標と振り返り方法
PPDA/回収位置/ボール奪取までのパス数
PPDA(相手の自陣パスに対する守備行為数の比率)は、前からの圧の大まかな指標。数値だけで良し悪しは決まりませんが、試合間での比較に有用。ボール回収の平均位置、奪取までのパス数も併用すると、狙いが実現できているか見えます。
RPE/心拍/GPSで負荷を見える化
主観的運動強度(RPE)を1〜10で記録し、心拍や走行距離・スプリント回数と突き合わせ。負荷が高すぎれば練習設計を見直し、低すぎれば強度ブロックを増やします。
映像のチェックリスト—5原則の達成度
- 縦25〜30m、ライン間10〜12mが保てているか。
- 奪いどころは外/弱点に固定できたか。
- トリガーに対して0.5秒で初動できたか。
- レストディフェンスで背後・中央は守れたか。
- 奪った直後の第1アクションは整っていたか。
カテゴリー別アレンジ
高校・大学・社会人での練習頻度別プラン
- 高頻度(週5〜6):強度ブロック(ハイプレス)と回復ブロック(保持・技術)を交互に。週1でPPDAや回収位置のレビュー。
- 中頻度(週3〜4):合図統一とユニット連動を優先。ゲーム形式で強度を担保し、個別のRSAは短時間で。
- 低頻度(週1〜2):固定テンプレを作り、リスタートと外誘導に絞る。省エネ設計を前提に試合で微調整。
ジュニア年代:安全と楽しさを両立する工夫
合図はシンプルに「GO/HOLD」の2つ。連続ダッシュは短く、休息を多めに。奪った後は必ずシュートで終わるなど、成功体験を積ませて判断の型を自然に覚えさせます。成長段階を考慮して無理はしないことが最優先です。
FAQ:よくある疑問に答える
足が遅くてもハイプレスは成立する?
成立します。重要なのは「距離を詰めて、角度で切る」こと。出足よりも初期配置と誘導で勝負しましょう。
体格差がある相手への対処法
空中戦を避け、地上戦で二次回収。浮き球には先に体を当てて落下点をずらし、拾う準備を周囲が整えるのが現実的です。
GKの位置はどこまで上げるべき?
相手のキック力と自陣のライン位置で調整。目安は最終ライン背後10〜15m。無理に上げず、ボール状況で一歩ずつ前へ。
後半に足が攣るのを防ぐには?
前日〜当日の水分・塩分・炭水化物の補給、ウォームアップ後の小休止、ハーフの補食、そしてプレスのオン/オフ管理。筋持久の補強と股関節の可動性も効果的です。
まとめ—“バテない90分の奪い方”チェックリスト
チームで守る3つの約束
- 縦25〜30m・ライン間10〜12mを合言葉に。
- 外誘導+レストディフェンスで背後と中央を常時ガード。
- トリガー統一と0.5秒初動で迷いゼロ。
個人が守る3つの約束
- 半身の角度とカバーシャドーで“走らず切る”。
- 1〜1.5mの間合いで遅らせ、触れる時だけ奪う。
- 奪った直後は「縦or保持」を即断して回復を作る。
明日から実践するためのミニ計画
- 練習前に「H/M/L」と「GO/HOLD/LOCK」の共通言語を確認。
- 6v3ロンド(シャドー制限)→トリガー反復→7v7固定ゲームの流れに。
- 試合後はPPDAと回収位置、映像の5原則を5分で振り返る。
あとがき
ハイプレスは気合いで走り切る戦術ではありません。コンパクトに、賢く、同時に動ければ、走る量は自然と減ります。今日の練習で「1歩前へ」の感覚を、明日の試合で「0.5秒早く」の初動を。小さな改善を積み重ねて、90分バテない奪い方を自分たちの当たり前にしていきましょう。
