トップ » 戦術 » サッカー イベントデータ 無料取得と勝ちに効く活用術

サッカー イベントデータ 無料取得と勝ちに効く活用術

カテゴリ:

データは難しい。けれど、勝つために必要なのは「わかりやすく、すぐ使えること」です。この記事では、サッカーのイベントデータ(プレーの発生・種類・位置・結果)を無料で手に入れる方法と、現場で勝ちに効く使い方までを一本でつなぎます。コーディングが苦手でも大丈夫。最低限の記録から始め、可視化し、次のアクションに変える。今日から実践できる“無料×実戦”のレシピをまとめました。

はじめに:イベントデータはなぜ“勝ち”に直結するのか

イベントデータとは何か(プレーの発生・種類・位置・結果を記録する情報)

イベントデータとは、試合中に起きた個々の出来事を「いつ」「どこで」「誰が」「何をして」「どうなったか」という形で記録した情報のことです。例:12:34・自陣右サイド・#7・インターセプト・成功、12:36・中央・#10・スルーパス・失敗、12:50・PA内左・#9・シュート・枠内…といった単位で蓄積します。粒度(どこまで細かく記録するか)と一貫性(同じ基準で記録するか)が命です。

チームの意思決定にどう効くか(再現性ある改善サイクル)

イベントデータは「事実→解釈→行動」の橋渡し役です。事実(どこでボールを失っているか、どの経路で前進できているか)を見える化すると、解釈(狙い通り/想定外)に根拠が生まれ、具体的な行動(配置変更、トレーニングテーマ、交代判断)につながります。動画だけの振り返りは印象に流されがちですが、イベントデータを添えると再現性のある改善サイクルを回せます。

無料データでも成果は出せるのか(できること/難しいこと)

無料データは「量と粒度が限定的」という制約があります。それでも、ショットマップ、進行(プログレッシブ)パス、PPDA、フィールドティルトなど、勝ちに直結する基本指標は十分に扱えます。一方、全選手の高精度トラッキングや商用レベルの網羅性は難しいため、目的を絞って「必要な最低限」を自前で補う発想が重要です。

無料でサッカーのイベントデータを入手する方法

公式のオープンデータを活用する

一部のリーグ・団体は試合結果や基本イベントを公開しています。提供範囲や二次利用の可否は必ず利用規約を確認してください。再配布や商用利用が制限されているケースが多いです。

StatsBomb Open Data(対象大会が限定された高粒度イベントデータ)

限定された大会・シーズンの高粒度イベントデータが公開されています。パス、キャリー、プレス、シュートの詳細、座標などが含まれ、ショットの期待値(xG)が付与された試合もあります。研究・学習用途に最適です。

Metrica Sportsの公開データ(トラッキング+イベントの学習用セット)

数試合分のトラッキングデータ(選手・ボール位置)とイベントデータがセットで公開。可視化のチュートリアルもあり、トラッキングの基本を学べます。

FBref(試合別・選手別スタッツと一部大会のxGやシュート情報)

主要リーグの試合・選手スタッツやxGなどを閲覧可能。イベントの生データというよりは集計済みの指標ですが、試合分析の参照値として便利です。掲載範囲は大会・シーズンによって異なります。

OpenLigaDB(主にドイツのゴール等イベント・APIあり)

ドイツを中心とした試合結果や一部イベントがAPIで取得可能。スコア推移の把握や試合メタ情報の補強に向いています。

研究用途データセット(SoccerNet 等:登録や非商用利用の条件に留意)

イベント検出やシーン分類のベンチマークとして知られるデータセット群。登録や利用条件の遵守が必要です。学習やプロトタイプ検証に活用できます。

Kaggleの関連データ(試合結果・対戦成績・メタ情報の補助的活用)

コミュニティ投稿のデータセットは品質と更新頻度にばらつきがあります。公式ソースで補強しつつ、メタ情報(試合時刻、天候、過密日程など)の参考に使うのが安全です。

無料枠のあるAPIを試す(API-Football など:仕様・利用規約の確認)

無料枠のあるサッカーAPIでは、試合情報、スタッツ、簡易イベントが取得できる場合があります。レート制限や再配布可否などの規約確認は必須です。

国内向け公開情報の活用(公式テキスト速報・レポートを補助データに)

国内大会のテキスト速報や公式レポートは、イベントの発生時刻や内容の手がかりになります。自分の試合に近い傾向の把握や、用語と分類の参考にしましょう。

自前でイベントを記録する(動画×手動タグ付けで精度と自由度を確保)

最も自由度が高く、チームの狙いに直結します。動画を固定撮影し、後述の手順で手動タグ付け。最小限の項目から始めて、必要に応じて拡張するのがコツです。

自分で集める:手動タグ付けの実践法

撮影環境の最適化(固定カメラ・画角・フレームレート)

  • 固定:三脚+横幅がピッチ全体の7〜8割入る高さ(メイン・バックスタンド上段が理想)。
  • 画角:ハーフコート2台 or 全面1台。迷ったら全面1台で俯瞰重視。
  • 設定:フルHD/30fps以上。露出はオートでも、ピントは固定推奨。

無料ツールの活用(LongoMatch、BORIS、Kinovea)

  • LongoMatch:タグパネルを自作しやすく、イベント時刻の記録が簡単。
  • BORIS:行動観察用。キーボードショートカットで高速にタグ付け可能。
  • Kinovea:座標・速度の簡易計測に便利(ライン引きや角度計測)。

スプレッドシートの設計(時刻、イベント種、座標、結果、関与選手)

最低限のカラム例:period(前/後半)、time(mm:ss)、team、player、event_type(tackle、pass、shotなど)、outcome(成功/失敗/枠内など)、x(0-100)、y(0-100)、assist_from、pressure(yes/no)、notes。

タグの辞書を作る(誰が見ても同じ判断になる定義集)

「奪取=相手の保持を終わらせ、自チームの明確な保持に変わった瞬間」「プログレッシブパス=自陣→敵陣、またはゴールへ一定以上近づくパス」など、判定基準を1枚にまとめ、更新履歴を残します。

動画とデータのひも付け(再現性ある振り返りの作り方)

イベント行に動画のタイムスタンプとクリップURL(ローカルでも可)を付けます。集計→気づき→即再生の流れが作れ、ミーティングが短く濃くなります。

まず集めるべき最小限のイベント項目

必須フィールド(時刻、チーム、選手、イベント種、結果)

この5点があれば、シュート効率、ロストの頻度、得点への連鎖など、基本分析が回ります。迷ったらここから。

あると有用なフィールド(ピッチ座標、プレッシャー有無、奪取位置)

座標があると可視化の幅が広がり、戦術的示唆が一気に増えます。プレッシャー有無や奪取位置は、守備強度と攻撃の出発点の評価に有効です。

イベントの粒度設計(過不足を避けるための判定ルール)

細かすぎると運用が止まり、粗すぎると改善に結びつきません。原則は「意思決定が変わる単位で記録」。例:パスは成功/失敗に加え、前進/横/後退、地上/浮きの4種程度に分ける。

守破離の優先度(最初は“ショット・奪取・ロスト・パス失敗”から)

最初の4項目だけでも効果は出ます。守=型を守る(最小セット)、破=前進パスや運搬(キャリー)を追加、離=チームのゲームモデルに合わせて独自指標を追加。

データ整形のベストプラクティス

スキーマの統一(複数ソースを共通カラムへ正規化)

source、match_id、period、time、team、player、event、outcome、x、yに寄せると、後工程が楽になります。元の名称は辞書で管理。

時間の扱い(ゲームクロックと実時間、前後半の境界)

「前半32:15」「後半12:05」を「総秒=前半秒+後半秒」に統一しておくと、連続イベントの抽出やウィンドウ集計が安定します。

座標系の統一(左右反転、0-100標準化)

自チーム攻撃方向を常に左→右に正規化。ピッチを0-100の正方形座標にすると、異なるソースを合わせやすくなります。

欠損・重複・外れ値の処理(ログと根拠を残す)

欠損は「unknown」で明示、重複は発生理由をコメント、外れ値は動画確認のうえフラグ付け。加工ログを残すと再現性が担保されます。

無料ツールでできる可視化と分析

Pythonでの基礎(pandas、matplotlib、mplsoccer)

pandasで整形、matplotlibで基本図、mplsoccerでピッチ描画。ショットマップ、パスの矢印、ヒートマップが短時間で作れます。

StatsBomb Open Dataの読み込み(statsbombpyの概要)

statsbombpyは公開データを扱うためのPythonラッパー。試合一覧→イベント読み込み→座標正規化→可視化の流れが定番です。

Rの選択肢(worldfootballR、ggplot2、ggsoccer)

R派はworldfootballRで各種サイトのスタッツ取得、ggplot2+ggsoccerで美しいピッチ図を作成。R Markdownで即レポート化できます。

ノーコードでもできる(Googleスプレッドシート、Looker Studio)

スプレッドシートに記録→ピボットで集計→Looker Studioで1枚ダッシュボード。更新はコピペでOK。現場導入が速い方法です。

レポーティングの型(1枚ダッシュボードで“次のアクション”を示す)

  • 左:事実(KPIの数値と推移)
  • 中央:解釈(うまくいった/課題の要因)
  • 右:次の行動(練習メニュー、配置、交代方針)

勝ちに効く活用術10選(無料データでも即実践)

ショットマップで“どこから撃てば入るか”を明確化

座標×結果で配置。PA中央付近の比率をKPI化(例:総シュートの60%以上をPA内に)。練習は“PAに侵入してから撃つ”条件付きに。

プログレッシブパスで前進経路を最適化

前進距離の大きいパスを抽出し、成功パターンの起点と受け位置を特定。相手別に“刺さりやすいレーン”を事前共有。

PPDAと奪取位置で守備強度と押し込み度を把握

PPDAは相手の自陣でのパス数を自チームの守備アクション数で割る指標。低いほど高強度。合わせて奪取の平均位置を追い、狙い通り押し込めているかを点検。

フィールドティルト(敵陣でのパス比率)で主導権を可視化

敵陣での自チームパス数÷(自+相手の敵陣パス数)。50%超をキープできれば主導権を握れている目安に。

サイドチェンジ成功率と起点位置で幅の活用度を点検

横方向40%以上の移動をサイドチェンジと定義。起点が自陣深くに偏っていれば、前進の一時停止や逆サイドのサポート配置を見直す。

セカンドボール回収率でセットプレーの期待値を底上げ

CK/ロングボール後の“最初の競り合い後に確保したチーム”を記録。回収率×シュートまでの到達率で、キッカーの狙いと周辺配置を調整。

トランジション5秒ルールの遵守率を数値化

奪取直後5秒以内に前進またはシュートに至った割合をKPI化。達成率が高い配置と選手組み合わせを固定して再現性を作る。

個人の貢献を“連続イベント”で評価(奪取→前進→決定機)

単発スタッツでは見えにくい連鎖を追跡。奪取→前進→ラストパス/シュートに関与した回数で、真の“つなぎ役”を特定。

交代の最適タイミング(走行代理指標:デュエル頻度・被ロスト)

走行距離がなくても、時間当たりデュエル数や被ロスト増加で疲労を推定。20分移動平均でラインを超えたら交代準備。

相手分析の要点(ビルドアップの癖とプレッシャートリガー)

ゴールキックの配球先、前進が成功するレーン、戻しの合図(背中向き、タッチ重い等)を事前に抽出。狙い撃つトリガーを共有。

ミニxG/xTの作り方入門

公開xGの活用(参照値としての使い方と限界)

FBrefや一部オープンデータのxGは、試合の質をざっくり捉えるのに便利。ただしモデルや入力が違うため、別ソースのxGを単純比較しないのが鉄則です。

自作ライトxG(距離・角度・直前イベントで簡易モデル)

距離(ゴール中心からの距離)と角度(ゴール両ポストで作る角度)、直前イベント(クロス/スルーパス/ドリブル)を特徴量に、ロジスティック回帰で確率を推定。サンプルが少ない場合はバイニング(距離帯×角度帯)で平均得点率を割り当てる方法も有効です。

xTグリッドの適用(公開グリッドを自データ座標へマップ)

ピッチを格子状に分割した“ボール位置の価値”を示すxTグリッドを利用し、パスやキャリーでの価値増加を集計。自分の0-100座標にリスケールするのを忘れずに。

小規模データでのバリデーション(時系列での安定性確認)

対戦相手や天候でブレやすいので、移動平均(3〜5試合)でトレンド確認。大きく外れた試合は動画で理由を検証してモデル更新。

パスネットワーク分析のレシピ

集計手順(組み合わせ頻度、平均受け位置、エッジの重み)

  • ノード:選手の平均受け位置(受けたイベントの座標平均)。
  • エッジ:パスの組み合わせ頻度(太さ)と成功率(色)。
  • フィルタ:10回以上の組み合わせのみ表示など、ノイズ除去。

可視化のコツ(ノードのサイズ・色、左右反転の統一)

ノードサイズはタッチ数、色は前進割合などに。攻撃方向は常に統一し、ホーム/アウェイで左右が変わらないよう反転処理を徹底。

解釈の落とし穴(ボール保持率とネットワーク密度の関係)

保持率が高いほどネットワークは密になります。相対評価(相手・自分の普段比)で見る、進入回数やシュート質と合わせて判断するのがコツです。

実戦へのつなげ方(意図的な“空白の創出”と背後攻略)

密なノードの逆サイドに“空白”が生まれます。意図的に空白を作り、タイミングで背後を取るパターン練習に落とし込みましょう。

現場への落とし込み:練習とミーティングの設計

KPIからメニューへ(例:敵陣での奪取→10秒以内のシュート)

KPI「敵陣での奪取後10秒以内のシュート率30%」を設定し、ミニゲームに条件を付与(カウントダウン、加点ルール)。データと練習を同じ言語にします。

ミーティングは3枚以内(事実→解釈→次の行動)

1枚目:事実(ショットマップ/奪取位置)。2枚目:解釈(狙いとズレ)。3枚目:行動(配置・トレーニング)。時間は10分以内が理想。

動画クリップの使い方(良い例・悪い例の対提示)

ベストと改善例を対で見せると意図が伝わりやすい。イベント行から即ジャンプできるよう、タイムスタンプリンクを用意。

週次ルーティン(試合→分析→練習計画→再評価のサイクル)

試合翌日午前に集計、午後にメニュー作成、翌練習で実装、次戦後に再評価。毎週同じリズムで回すと文化になります。

法務・倫理・運用で気をつけること

利用規約・著作権の順守(スクレイピングや再配布の可否)

サイト/APIごとに規約が異なります。スクレイピングや画像・データの再配布は不可の場合が多いので、必ず確認し、引用は範囲と出典を明記。

個人情報とプライバシー(匿名化と同意の取得)

選手名や顔が映るクリップを外部共有する際は、同意の有無を確認。匿名化(番号のみ、顔隠し)を基本に。

データの再現性と監査ログ(誰が、いつ、どう加工したか)

手順書と変更履歴、加工ログを残し、同じ集計が誰でも再現できる状態に。チーム内の信頼を生みます。

サンプルサイズの罠(短期のブレと意思決定リスク)

1〜2試合の数字はブレます。3〜5試合の移動平均、相手強度の補正、動画での整合性確認をセットに。

よくある質問(FAQ)

無料データだけでどこまで戦える?

ショットの質、前進経路、守備強度の把握までなら十分可能。細かなトラッキングや相手の網羅分析は限界があるため、重要領域だけ自前で補うのが現実的です。

コーディングができなくても始められる?

はい。スプレッドシート+Looker Studioで十分実戦レベル。慣れてからPython/Rに段階移行するとコスパが良いです。

高校・大学・社会人での導入事例の型は?

撮影と最小タグ(ショット・奪取・ロスト・パス失敗)→週次1枚ダッシュボード→練習条件付け。この三点セットが最短距離です。

時間が足りないときの最小セットは?

前後半それぞれ20分だけタグ付け(計40分)→ショットマップと奪取位置だけ可視化→1つだけ行動を決める。翌週に面を広げます。

まとめ:小さく始めて、継続で差をつける

“無料で集める→整える→見せる→行動に変える”の一本化

勝ちに効くのは、華やかなダッシュボードではなく「行動に直結する最小限の数字」。無料データでも、設計と運用で十分な武器になります。

来週からの3ステップ(記録、可視化、1つだけ改善)

  1. 記録:ショット・奪取・ロスト・パス失敗を動画からタグ付け。
  2. 可視化:ショットマップと奪取位置、PPDAを1枚に。
  3. 改善:配置変更やトレーニングを1つだけ実行し、翌週に検証。

データ文化を根づかせるための合言葉(簡単、継続、共有)

簡単に続けられる仕組みにし、結果と動画をすぐ共有。これだけでチームは変わります。小さく始めて、継続で差をつけましょう。

サッカーIQを育む

RSS