この記事では、サッカーの「サードマン受け直し(Third-man run/Third-man combination)」を、現場で“すぐ定着させる”ことを狙った練習設計としてまとめました。ポイントは、技術・判断・連動を切り離さずに、段階的なドリルとゲーム化を行うこと。高校生以上の選手はもちろん、子どもを持つ親御さんが家庭でサポートできるヒントも紹介します。図解や画像は使わず、言葉でイメージできるように丁寧にお伝えします。
目次
はじめに:この記事の目的と想定読者
想定読者(高校生以上の選手、子どもを持つ親)
対象は、部活・クラブでプレーする高校生以上の選手、大学・社会人の競技者、そしてサッカーをしている子どもを支える親御さんです。コーチや指導者の方にも、メニュー組み立てのヒントとして役立つ内容を意識しています。
この記事で得られること(ゴール・学習成果)
読み終えると、以下が明確になります。
- サードマン受け直しの定義と狙いが理解できる
- 段階別ドリルをそのまま実施できる(基本→応用→ゲーム化)
- よくあるミスを修正する具体策と、効果測定の方法がわかる
- 家庭や個人での取り組み方(短時間の反復・声かけ)が用意できる
サードマン受け直しを学ぶ意義(短期・中長期)
短期的には、相手の守備を一気にズラす「縦への推進力」と「前進率」の向上が狙えます。中長期では、ポジショナルプレーの理解、タイミングと角度の質、味方との連動意識が高まり、どの戦術システムでも活きる普遍的な武器になります。
サードマン(受け直し)とは何か:基本概念と戦術的意義
サードマン受け直しの定義と仕組み
サードマン受け直しとは、「ボール保持者(1人目)→中継(2人目)→最終的に受け直す選手(3人目)」という三者の連動で、守備の矢印をずらし、前進やフィニッシュに直結させる組み立てです。2人目は一見“壁”のように振る舞うこともあれば、誘いのパスを受けて素早くリリースするクッション役にもなります。3人目は、受け直すために相手の視野外・背後・ライン間へ再出現することが特徴です。
チーム攻撃での役割(突破と時間の創出)
三人目の関与は、密集地帯をワンテンポで突破したり、相手のプレスを空転させたりするのに有効です。ライン間で受け直せれば、相手中盤が後追いになり、前向きの時間を作れます。サイドでも中央でも使えるため、チームの攻撃テンプレートとして持っておく価値が高いです。
守備を切り崩すための原理(スペースと連動)
原理はシンプルです。
- 相手の背後や死角に「3人目が現れる」
- 2人目が相手の重心・注意を引き付けてから素早くリリース
- 1人目はパス後のポジション取り(サポートライン)を素早く更新
この連動で、守備者の判断を一瞬遅らせ、スペースを先取りできます。
三人目の関与に必要な基礎技術と判断力
パス精度とテンポ(スルーパス/縦パスの違い)
縦パスは足元へ素早く刺し、2人目のリリースを助けます。スルーパスは背後のスペースに流す意図が強く、3人目が走る角度と速度に合わせた強度が重要です。どちらも「次のプレーが最短で選べる位置」に置くことが条件です。
ファーストタッチと体の向き(受ける・返すの準備)
2人目は、受ける前から体を半開きにし、次のレシーバーを視野に入れておくこと。ファーストタッチは「次のパスが出しやすい位置」に置き、1.5タッチ(ボールスピードに応じて0.5タッチ短縮)で素早く返す。3人目は受け直す瞬間に前向きで置ける位置へ出現します。
視野・情報処理(周囲を見る習慣とタイミング)
三人目の関与は「見る→決める→動く」が0.5秒単位で起こります。ボールが届く前に首を振る回数を増やし、相手の背中の向き・ラインの高さ・味方の準備状況を確認しましょう。目安は、パスが来る前後で合計2〜3回。
ドリル前のウォームアップと準備
身体的ウォームアップ(可動域・ダイナミックストレッチ)
- 股関節・足首の可動域ドリル(ヒップオープナー、アンクルモビリティ)各30秒×2
- ランジ系(前・斜め・回旋)各6回×2
- 10〜15mのビルドアップ走(スキップ、サイドシャッフル、オープンステップ)各2本
ボールを使った技術的ウォームアップ(パス&トラップ)
- 2人組の1.5タッチパス(片足限定→両足→方向転換)30〜45秒×3セット
- ファーストタッチの置き場所ゲーム(1m四方のターゲット内に収める)左右各10回
コーチングポイントと安全配慮
- 合図の共有(開始・停止・制限時間)と接触時の声掛けを徹底
- ピッチの凹凸・用具位置を事前確認
- 呼吸と強度を段階的に上げ、急加速・急停止の頻度を最初は抑える
基本ドリル(段階的に習得するための受け直しワーク)
ドリルA:2対1+サードマン(基本の役割と狙い)
セットアップ
- 15×12mの長方形。攻撃2+中継1(計3人)対フリーディフェンダー1
- マーカー3つで、1人目・2人目・3人目の初期位置を示す(目安)
進め方
- 1人目が2人目へ縦パス→2人目はワンタッチで反転側または背後へリリース→3人目が受け直して前進ラインを通過できたら成功
- 守備はパスラインを読み、インターセプト狙いに限定(最初は強度低め)
コーチングポイント
- 2人目の半身・体の向きとファーストタッチの置きどころ
- 3人目のタイミング(早出すぎ→オフサイド的な無効空間、遅すぎ→通らない)
- 1人目のパス後のサポートライン更新(ボールウォッチを避ける)
よくあるミスと修正
- 2人目が止まって受ける→ボール前でステップを細かく刻み、動きながら半身で受ける
- 3人目の角度が浅い→相手の背中から斜めに出現し、前向きで触れるラインに立つ
発展
- 守備の自由度を上げる(奪ったらカウンター1タッチで出口へ)
- タッチ制限(2人目は原則ワンタッチ、3人目は2タッチ以内)
ドリルB:3パス・ループ(受け直しのテンポ訓練)
セットアップ
- 10×10mの正方形。攻撃3名でパス回し。守備なしから開始
進め方
- 1→2→3→1…の順で「受け直し」を伴うパターンを連続実施
- 合図で左右回りに切り替え、テンポを崩さずループ
コーチングポイント
- 「パスは次のパスのために出す」ボールスピードを一定に
- 首振り回数の目安(ボール到達前後で2回)を守る
発展
- 中にパッシブ守備1名→アクティブ守備1名へ段階アップ
- 時間制限(30秒で成功ループ何回?)で競争化
ドリルC:ワンツー+受け直し(距離と角度の調整)
セットアップ
- 縦18m×横12m。コーンで縦レーンを3本に区切る(中央と両サイド)
進め方
- 中央で1-2(ワンツー)を作り、サイドへ受け直す3人目が斜めに出現
- 受け直したらフィニッシュゾーン(最終ライン)を通過して終了
コーチングポイント
- ワンツーの返しは、3人目の走る“先”に置く(足元に戻さない)
- 3人目は縦だけでなく斜めに入ることで前向きの一歩を確保
発展
- 守備1〜2名を配置し、中央封鎖orサイド誘導の制約を設定
- 3人目のタッチ数を1タッチ限定にしてスピードを上げる
応用ドリル:スペース認知と複雑性を上げる練習
ドリルD:ポジショナルゲーム(グリッド内でのサードマン)
セットアップ
- 30×20mを縦に3レーン、横に2ゾーンに分割。5対3の保持
ルール
- 得点条件は「サードマン受け直しからのゾーン越え成功」
- 同一レーンに3人が長時間重ならない制約を付与
狙い
- レーン移動とタイミングの認知、サポート角度の質
ドリルE:シチュエーショナルゲーム(サイドチェンジ含む)
セットアップ
- 40×30m、6対6+フリーマン2(サイドライン外)
ルール
- サイドから中央へのサードマン受け直し成功で2点
- サイドチェンジを絡めた受け直し成功で3点
狙い
- 逆サイドの認知、相手ブロックの横ズレを最大化
難度調整とバリエーション(人数・スペース・ルール)
- 人数:保持側を+1〜2名、守備を−1にして学習→徐々にイーブンへ
- スペース:成功率60〜70%を維持する広さから開始→縮小して負荷
- ルール:タッチ制限、方向制限、得点条件の重み付けで意図を強調
ゲーム化と競争要素を取り入れたトレーニング
ポイント制ミニゲーム(成功で得点化)
「サードマン受け直しからの前進=2点、通常の前進=1点」のように評価の重みを付けます。狙いを明示すると、選手が自発的に三人目の関与を探し始めます。
時間/回数制限チャレンジ(判断速度の強化)
- 30秒で何回、三人目でライン越えできるか
- タッチ数合計をチームで30以内に抑えるミッション
チーム対抗のモチベーション設計
- 勝利チームは次セットのルール選択権を獲得
- 負けチームは“良かったプレーの発表役”で学習を言語化
セッション設計:練習メニューの組み立て方と例
90分セッションの例(ウォームアップ→ドリル→ゲーム)
- 0〜10分:身体的ウォームアップ(モビリティ+動き作り)
- 10〜20分:技術的ウォームアップ(1.5タッチ+方向転換)
- 20〜35分:ドリルA(2対1+サードマン)
- 35〜50分:ドリルB(3パス・ループ、守備ありへ発展)
- 50〜65分:ドリルC(ワンツー+受け直し、角度と距離)
- 65〜80分:ドリルDまたはE(ポジショナル/シチュエーショナル)
- 80〜90分:ゲーム化(ポイント制ミニゲーム)→クールダウン
初心者向け短時間メニュー(20〜30分)
- 0〜5分:動き作り+2人組パス
- 5〜12分:ドリルB(守備なし→パッシブ守備1)
- 12〜20分:ドリルA(成功体験を優先、タッチ制限なし)
- +5〜10分:時間があれば簡易ミニゲーム(10×15m、3対3)
高校生チーム向け週次プログラム例(強度と頻度)
- 週2〜3回のうち、1回は「サードマン特化日」を設定
- マイクロサイクル例:火(基礎・技術)→木(応用・ゲーム化)→土(試合形式)
- 総ボリュームは「成功反復80〜120回/週」を目安(強度は段階調整)
コーチングの言葉かけとフィードバック例
即時フィードバックのフレーズ(肯定と修正)
- 肯定:「今の角度、相手の背中から最高」「体を半身にしたから次が速い!」
- 修正:「受ける前に1回だけ首振ろう」「返しは走る先に、置きにいこう」
映像やセルフチェックを使った振り返り法
- 練習を短いクリップに分け、成功直前の動き出しをスローで確認
- チェック点:首振り回数、体の向き、3人目の出現タイミング、パスの置き所
個別指導で優先するポイント(技術・判断・意図)
- 技術:ファーストタッチの置きどころとパス強度
- 判断:2人目が引き付けてから離すまでの時間管理
- 意図:なぜそのコースを選んだかを言語化(成功・失敗に関わらず)
よくあるミスと具体的な改善方法
動き出しが遅れる・判断が遅い時の修正練習
- 合図反応ドリル:コーチの音(手拍子2回→出る)に同期して3人目が出現
- 制限時間付き:縦パスから2秒以内に受け直し完了で1点
受け手の体の向きが悪い場合の改善ドリル
- 半身固定ドリル:2人目は受ける前に片足を外向きにセットしてから受ける
- ターゲットゲート:次のパス方向に小ゲートを設置し、そこを通す
パスの強さ・方向が合わない時の反復練習
- 距離別パス強度ラダー(8m/12m/16mで強度を段階化して反復)
- “置きパス”練習:味方の走る先1m四方に止める感覚を養う
評価と進捗管理:効果測定の方法
練習内で測る定量的指標(成功率・時間・回数)
- 成功率:サードマン受け直し→前進成功/試行回数(目安60%→75%→80%)
- 所要時間:縦パスから受け直しまでの秒数(目安2.5秒→2.0秒)
- タッチ総数:1プレーの合計タッチ(目安7→5へ削減)
定性評価のチェックリスト(判断・連携・意図)
- 首振りのタイミングと回数が安定している
- 2人目の半身とファーストタッチの質が安定
- 3人目が相手の死角から適切な角度で出現
- 狙い(なぜそこへ出した/出たか)を言語化できる
動画比較による成長確認と目標設定
- 週初と週末の同ドリルを並べ、速度・角度・前向き時間を比較
- 次週の目標(例:成功率+5%、平均所要時間−0.2秒)を設定
親向けアドバイス:家庭でできるサポートと見守り方
家庭での練習メニュー(短時間でできる反復)
- 壁当て1.5タッチ(左右各30秒×2)
- 首振り習慣:ボールが来る前後で2回首を振る“言葉の合図”を家族が担当
- ターゲット置きパス:1m四方のマットへ置く練習(強度コントロール)
練習後のフィードバックの与え方(褒め方・改善点)
- 結果ではなくプロセス(角度・タイミング・視野)を具体的に褒める
- 改善点は1つに絞る(例:「今日は首振りだけ意識しよう」)
メンタルサポートと参加の促し方(プレッシャー管理)
- 「チャレンジの数=成長の数」という前提を共有
- 失敗の直後は原因探しではなく、次の1本に意識をリセット
Q&A:想定される質問と具体的な回答例
よくある質問1:チームに持ち帰るタイミングは?
ドリルBでテンポが安定し、ドリルA/Cで成功率が60%を超えた頃が目安です。ゲーム化(ポイント制)を入れると現場浸透が早まります。
よくある質問2:個人練習で何を優先すべきか?
ファーストタッチの置きどころと首振りの習慣化です。壁当てとターゲット置きパスを短時間でも毎日継続すると、集団練習での質が目に見えて変わります。
よくある質問3:練習頻度と休息のバランスは?
高強度セッションは週2回まで、他は技術・判断の軽強度に。48時間以内に同部位へ高負荷を重ねない配慮がパフォーマンスの安定につながります。
まとめと次のステップ:今日から始める優先アクション
優先順位(まずやること3つ)
- 半身で受ける+首振りをセットで習慣化
- 2人目のリリースを速く、3人目は相手の背中から出現
- 得点条件を「サードマン優遇」にしてゲーム化
短期目標と中長期プランの作り方
- 1〜2週:基本ドリルで成功率60%
- 3〜4週:応用+ゲーム化で70〜75%
- 5週以降:実戦の決定機創出につながる再現性を80%へ
継続のコツと参考にする練習頻度
- 成功反復80〜120回/週を目安に、負荷と回復の波をつくる
- 動画で“良い1本”を保存し、イメージの上書きを続ける
あとがき
三人目の関与は、技術が飛び抜けていなくても「見る・決める・動く」の整合性が高まるほど、チームを前進させられる武器になります。すぐに完璧にはなりませんが、狙いを明確にしたドリルと、楽しめるゲーム化で、定着のスピードは確実に上がります。今日の練習から、まずは半身・首振り・置きパスの3点を合言葉に始めてみてください。