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サッカー ハイプレス 回避 3人目関与の実践手順
現代サッカーでは、相手のハイプレス(前からの強烈なプレッシング)をどう外すかが勝敗を分けます。この記事では、ハイプレス回避の切り札である「3人目関与(サードマンプレー)」を、試合で実際に使えるレベルまで落とし込んで解説します。対象は高校生以上の選手、そしてサッカーに取り組むお子さんを支える保護者の方。現場ですぐ試したくなる具体手順と練習メニュー、失敗時のリカバリーまで一気通貫でまとめました。
はじめに:この記事の目的と対象読者
この記事で学べること(概要)
- ハイプレスの原理・狙いと、相手が仕掛けるトリガーの読み方
- 3人目関与(サードマンプレー)の定義と、ハイプレス回避での使いどころ
- 「ステップ0〜4」で外す実践手順と、ポジション別の役割整理
- 短時間で効く練習ドリル、判断基準、リスク管理とリカバリー
- 試合で使えるチェックリストと、1週間〜1ヶ月の導入ロードマップ
対象:高校生以上の選手とサッカーをする子を持つ保護者
高校生・大学生・社会人の選手、指導者、そしてお子さんの成長を支える保護者の方までを想定しています。専門用語は噛み砕いて説明しつつ、実戦投入できる具体性を重視します。
安全性と現場での注意点
- 接触が増える局面では無理なターンや背後確認不足による衝突に注意。
- 練習時は制限時間や接触ルールを明確化し、疲労時は判断系のドリル量を調整。
- ピッチ環境(滑りやすさ、照明、ライン)を事前確認。スパイク選択も事故防止に有効。
ハイプレスの基本理解
ハイプレスとは何か(原理と狙い)
ハイプレスは、相手のビルドアップ初期(GK・CB・SB・アンカー)に圧力をかけ、ボール奪取やロングボール誘発を狙う守備戦術です。狙いは「時間と前向きの余裕」を奪うこと。数的同数〜やや不利でも、トリガーに連動して一気にボールサイドへ圧縮し、パスコースを閉じます。
相手プレスのトリガーとタイミングの読み方
- バックパスや横パスが緩んだ瞬間
- CBが背中を向けた受け方(体の向きが後ろ)
- 高い位置のサイドバックに出しどころが限定された時
- ルーズボールや浮き球の滞空時間が長い時
- アンカー(ボランチ)が静止して受けに来る時
- タッチライン際で数的不利になった時
これらのトリガーを事前に共有しておくと、味方全体で「来るタイミング」に合わせて3人目関与の準備ができます。
自チームが陥りやすいリスク(ボールロスト、ゾーンの欠損)
- 中央の密集で不用意に前を向こうとして奪われる
- 縦パスが一直線で読まれてインターセプト
- ビルドアップ要員が外に流れすぎ、中央の「休息地点(レストスペース)」が空く
- ボールロスト後の即時奪回(カウンタープレス)に人数を掛けられない
3人目関与(サードマンプレー)とは
定義と基本コンセプト
3人目関与は、「パサー→受け手→3人目」という連続で相手の守備ラインを一気に突破する考え方です。受け手は“壁役”として相手を引きつけ、3人目(フリーマン)が相手の死角や背後に侵入。守備のカバーシャドーを迂回してフリーの選手に前向きでボールを届けます。
なぜハイプレス回避に有効なのか(利点の整理)
- 縦一直線のパスを避け、角度を作ることでインターセプトを回避
- 受け手に寄せる守備者を意図的に引き込み、背後のスペースを拡大
- 3人目が前向きで受けやすく、持ち運びやサイドチェンジが容易
- テンポ変化を作りやすく、相手の連動をズラす
3つの役割:パサー、受け手、3人目(フリーマン)的立ち位置
- パサー:相手を誘導する第一歩。視線とパス角度でプレス方向をコントロール。
- 受け手(壁役):背負い気味に引きつけ、ファーストタッチでラインをずらす。
- 3人目(フリーマン):相手の背中・死角にポジションを取り、タイミング良く加速。
三人目関与で“外す”基本手順(ステップ別)
ステップ0:状況確認(素早いスキャンと合図)
- スキャン頻度:1〜2秒に1回。背後と逆サイドのフリー確認。
- 合図の共有:指差し、名前呼び、手のひらの向きで「落とし」「背後」「縦幅」を即伝達。
ステップ1:最初のパスでプレッシャーを誘導する
例)CB→ボランチへ“わずかに内側”のグラウンダー。敢えて寄せさせ、相手の重心を中央に誘導します。パスの質は「強め・足元半歩前」。これで受け手は前を向かず、壁役を選択しやすくなります。
ステップ2:受け手の即時ファーストタッチでラインを変える
受け手は背負いながら、ファーストタッチで「外側」もしくは「内側斜め後ろ」へズラす。ポイントは体の向き(半身)と接触前の腕での間合い作り。ワンタッチ落としも有効ですが、相手の寄せが遅ければツータッチで角度を確保してOK。
ステップ3:3人目がスペースに飛び込む(角度とタイミング)
- 動き出しは受け手のトラップ前後の“ミリ秒”。合図は視線や体の向きで。
- 角度は対角線。ボールサイドの背後だけでなく、中のレーンやハーフスペースも選択肢。
- オフサイドラインに注意。最終ラインではなく、ひとつ内側で加速開始。
ステップ4:ラストパス/逆サイド展開で圧を剥がす
3人目が前向きで受けたら、選択肢は3つ。ひとつは縦のラストパス、ふたつ目は逆サイドへの展開、みっつ目は持ち運びでプレスを剥がしつつ数的優位を作る。相手のスライドが重い側へ運ぶのが鉄則です。
実践で意識すべき細部(テクニック)
距離感と体の向きの作り方
- パサー⇔受け手:8〜12mで強度のあるパスが打てる距離
- 受け手⇔3人目:10〜18mで前向きに走り抜けられる距離
- 受け手は半身で「外向き70%・内向き30%」。相手を迷わせる角度に。
パスの強さとコース設定(内側と外側を使い分ける)
- 内側コース:相手を中央へ引き込みたい時
- 外側コース:サイドで数的優位を作りたい時
- いずれも“足元半歩前”が基本。受け手の選択肢を最大化します。
ファーストタッチの向きとトラップ技術
- 前に置くのではなく「横前」へずらす。相手の足が届かないラインへ。
- インサイド/アウトサイドの使い分け。外へ流すならアウト、内に引き込むならイン。
- 接触前の腕で距離を作り、体をぶつけずに間合いを確保。
フェイクと視線の使い方でプレスを欺く方法
- 見る→逆へ出す。視線の“ウソ”で相手の重心をズラす。
- 受け手は「前向きの絵」を見せておき、最終的に落とす・叩くを選択。
- 3人目は視線をボールから外し、DFの背中に釘付け。死角から侵入。
ポジション別の動きと役割(中盤・サイド・守備ライン)
センターバック/ビルドアップ時の3人目関与
CBはパス角度の起点。片方が幅を取り、もう片方が内側へ絞って「縦・斜め」のラインを用意。CB→アンカー→逆CB(またはIH)で一気にプレスラインを飛び越えます。GKを絡めた三角形で相手の1stラインを引き出すのも効果的。
ボランチ/中盤でのアイデア(ポジショニングの微調整)
- 背後に潜らず、相手の影から半歩ズレて受ける。
- 受ける前に味方の3人目(IH・SB・ウイング)へ指差しでサイン。
- 落とし先の安全地帯(フリーマンのパスライン)を常に確保。
ウイングやサイドバックでの外し方(幅の利用)
サイドでは「内→外→内」の連続で相手の幅を広げます。SB→IH→ウイングの3人目、またはSB→ウイング→IHの折り返しでハーフスペースを攻略。ウイングは縦突破だけでなく、内側に刺す“背中抜け”の動きで選択肢を増やしましょう。
練習メニュー(ドリル)と進め方
3人ワンツードリル(基礎反復)
- 配置:A(パサー)—8〜10m—B(受け手)—12〜15m—C(3人目)
- 流れ:A→B(強いパス)→Cへ落とし(または背後へスルー)→C前向きで前進
- 制約:ワンタッチ限定→ツータッチ可→方向指定(内/外)で難易度調整
5対3のポゼッション+3人目関与強化
- エリア:20×15m。攻撃5、守備3。3人目への縦突破で+1点。
- ルール:「落とし」からの前進を義務化。3回連続成功で難易度アップ。
- 狙い:視野確保、タイミング共有、パス強度の安定化。
小さなコートでの高圧縮練習(時間・タッチ制限)
- エリア:18×18m。タッチ2回以内、3秒以内に前進の選択肢提示。
- 得点条件:3人目でライン突破→ミニゴール。ロスト後は5秒間の即時奪回。
ゲーム形式での適用(制約を付けて再現する方法)
- 11v11または8v8で「自陣1/3では3人目経由の前進でのみ自陣外へ出られる」制約。
- ハーフタイムに成功/未遂/失敗の映像的メモ(言語化)を共有。
判断基準とリスク管理
いつ敢えて3人目関与を狙うか(リスクとリターンの見極め)
- 相手1stラインが縦に分断され、2ndラインが食いついている時はチャンス。
- 受け手に対して「背中からの寄せ」が遅い時はワンタッチ落としが刺さる。
- 逆に、中央が完全に閉じられたら無理せずサイドで回収(やり直し)や背後ロングも選択。
相手のカウンターへの備え(守備戻りの基準)
- ボールサイドのIHかSBは「レストディフェンス」のアンカー役を1枚残す。
- 3人目に出した直後、パサーは即カバー(背後を抑える位置へ移動)。
- 逆サイドウイングはスライドの遅れに備えて“中絞り”の待機。
失敗した時のリカバリー動作と役割分担
- ロスト地点の最短3人で即時奪回(5秒ルール)を合言葉に。
- 1stプレスが外れたら、背後カバーの選手が一列下がりブロック形成。
- GKは背後カバーの位置を声で統率。縦パス警戒のコーチングを継続。
個人トレーニングで高めるべき能力
パス精度とテンポの調整
- 壁当てで「強いグラウンダー」を連続30本×3セット(左右)。
- 速度変化ドリル:3本強→1本弱→3本強のリズムで相手の重心を揺さぶる感覚を養う。
ファーストタッチ強化メニュー
- 半身での横前トラップ練習。コーン2本を“内/外”のゲートに見立てて角度を出す。
- 背中圧を想定して、軽い接触を入れた状態でのコントロール練習。
視野拡大(ヘッドアップ習慣)とコミュニケーション力
- 2秒に1回のスキャンを意識する“タイマー練習”(声かけで合図)。
- 名前+指差し+キーワード(「外」「背中」「落ちる」)をチームで統一。
フィジカル面(短距離ダッシュと切り返し)
- 5〜10mの加速ダッシュ×6本×3セット。3人目の初速を磨く。
- 切り返しコーンドリル(Y字・V字)で角度変化の質を高める。
指導者・保護者向けの教え方ポイント
段階的な導入法(導入→応用→実戦)
- 導入:3人だけでのワンツーと角度作り。成功体験を積む。
- 応用:5対3や小コートで時間・タッチ制限を付ける。
- 実戦:ゲーム形式で成功条件(3人目経由で得点2倍)を設定。
子ども・高校生への伝え方の注意点(用語とフィードバック)
- 難語の代替:「サードマン」→「3人目」「背中から出る人」。
- 指摘は「行動+次の一手」で短く具体的に(例:半身OK、次は外へ置こう)。
- 映像やメモで“見える化”。成功と未遂を区別して振り返る。
評価基準と成長の可視化(チェックリスト例)
- スキャン回数を自己申告→実測へ(練習でカウント係を置く)。
- 3人目関与の試行回数/成功回数/失敗時の即時奪回成功率。
- パス強度(届く/弾かれる/読まれる)の比率を週単位で記録。
よくあるミスと改善策
タイミングが合わない:原因分析と修正ドリル
- 原因:受け手のタッチが遅い/3人目の動き出しが早すぎる。
- 対策:ワンタッチ縛り→2タッチ可の段階化、合図の統一(手のひらで合図)。
パスが相手に読まれる:フェイクとバリエーションの導入
- 視線フェイク、足の振り幅を小さくして出所を隠す。
- 同サイド反復の後に、1本だけ逆サイド展開を混ぜる(パターン崩し)。
守備の穴を生む:リスクの低減策と役割確認
- 常に1人はレストディフェンス。2列目が同時に飛び出さないルール化。
- ロスト時5秒プレス→外れたら撤退の合図を明確化。
試合で使えるテンプレート(実戦用チェックリスト)
試合前の確認事項(役割・サイン・戻りの合図)
- 誰がパサー/受け手/3人目の第一候補か(状況で交代可)。
- 合図の統一:「落ちる」「背中」「外」+指差し。
- ロスト時の戻りラインとアンカーの残し方を共有。
ハーフタイムでの修正ポイント
- トリガーがどこで発火しているか(バックパス・サイド・中央)。
- 成功形の再現と、届かなかった要因(強度・角度・タイミング)の切り分け。
- 逆サイド活用の回数が少なければ、意図的に最初の角度を外へ。
試合中に簡単に確認できる5項目チェック
- スキャンできているか
- 受け手は半身を作れているか
- パスは足元半歩前に入っているか
- 3人目の走り出しは“タッチ直前/直後”か
- ロスト時5秒の即時奪回をやり切れているか
まとめと実践ロードマップ
1週間・1ヶ月で取り組む優先順
- 1週目:3人ワンツーの基礎。スキャンと半身、パス強度の標準化。
- 2週目:5対3ポゼッションで3人目の回数を増やす。制約付きで判断速度アップ。
- 3週目:小コート高圧縮とゲーム形式の併用。ロスト後5秒ルールを徹底。
- 4週目:試合テンプレートで前日確認→当日実践→振り返りのサイクルを固定化。
習得の目安と次のステップ
- 練習での成功率が50%→70%に上がったら、逆サイド展開や縦持ち運びの選択肢を増やす。
- 相手の対策(受け手への2人目の寄せ)が強くなったら、ダイレクト3rd→ワンタッチサイドチェンジへ発展。
最後に:安全に継続して変化を出すための心構え
3人目関与は、個人技ではなく“チームのリズム”で外す技術です。合図の共有、役割の柔軟な交代、そしてロスト時の即時奪回まで含めて初めて機能します。焦らず段階的に、成功の型を増やすことを大切にしてください。
おわりに:継続が最高の解答
ハイプレスを恐れず、意図的に「誘って、外す」。その核にあるのが3人目関与です。今日からは、ただ繋ぐのではなく「誰を引きつけ、どこを開け、誰が刺すか」をチームで設計してみましょう。小さな成功の積み重ねが、試合の大きな余裕を生みます。