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サッカー 映像タギング ルール共通規約の設計図

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映像を見返すたびにタグの呼び方が違う、同じ「チャンス」でも人によって基準がバラバラ…。そんな小さなズレが積み重なると、分析はもちろん、育成やスカウティングの精度まで目減りします。本稿は、そのズレを減らし再現性を上げるための「サッカー 映像タギング ルール共通規約の設計図」です。日々の現場で使える実務目線と、データとして積み上げられる構造の両立を目指しています。

はじめに:なぜ『サッカー 映像タギング ルール共通規約の設計図』が必要か

現場で起きているタグ定義の混乱と非互換

同じプレーでも「縦パス」「ライン間」「スルーパス」など呼び方が複数あり、タグ入力者ごとに解釈が揺れます。さらに、チームや年代が変わると、タグセット自体が互換性を失い、長期比較や外部データとの統合が難しくなります。これを解消するには、タグ名だけでなく「定義・判定基準・境界条件・例外」を含む共通規約が必要です。

指標の一貫性がパフォーマンス分析に与える影響

タグの定義が一定であれば、KPIやトレンドが正しく比較できます。逆に定義がブレると、トレーニングの効果測定や選手評価にノイズが混ざり、意思決定が遅れます。一貫性は、数字の「信頼区間」を狭め、学習速度を上げるレバレッジになります。

育成年代からトップまで横断する共通言語の価値

同じ言葉・同じ基準で振り返れることは、年齢やレベルをまたぐ学びの土台です。高校から大学、社会人・プロへ進む過程でも、タグ定義が共有されていれば、定点観測が可能になり、個人・チームの成長曲線を可視化できます。

設計思想とスコープ定義

目的の明確化(分析・育成・スカウティング・振り返り)

  • 分析:試合と練習のパフォーマンス把握、傾向の抽出。
  • 育成:技術・判断・戦術理解の記録、個別課題のトラッキング。
  • スカウティング:再現性ある比較指標での評価。
  • 振り返り:選手・スタッフ・保護者が同じ言葉で会話できる仕組み。

対象コンテンツ(試合/トレーニング/セットプレー練習)

公式戦、練習試合、紅白戦、ポゼッション系ドリル、戦術ドリル、セットプレー反復などを対象。練習は意図が明確なため、タグに「メニューID」や「テーマ」を付与できるようにします。

データ粒度(イベント/シーケンス/フェーズ/メタ)

  • イベント:単一のアクション(パス、シュート、タックル等)。
  • シーケンス:連続するイベントの塊(攻撃の一連の流れ、カウンター等)。
  • フェーズ:ゲームの相(ポゼッション、トランジション等)。
  • メタ:試合情報、映像条件、タグの信頼度などの付帯情報。

導入段階別レイヤー(ライト/スタンダード/アドバンス)

  • ライト:最小タグで可視化。週次レビュー向け。
  • スタンダード:戦術分析と育成KPIに十分な粒度。
  • アドバンス:空間・時間・難易度・意図の分離まで実施。外部データ連携を想定。

コアエンティティとデータモデル設計

タグ階層(ドメイン→カテゴリー→イベント→属性)

上位から「ドメイン(攻撃・守備等)」「カテゴリー(パス・ドリブル等)」「イベント(具体的な行為)」「属性(方向・結果など補足)」の階層を採用。機械判読と人の理解を両立します。

時間情報(開始・終了・トリガー・オフセット)

  • 開始時刻:イベントの発生瞬間(例:ボールリリース)。
  • 終了時刻:結果確定(例:受け手がコントロールした瞬間)。
  • トリガー:発生要因(例:インターセプト)。
  • オフセット:前後の余白秒数(プリ/ポスト)で文脈を確保。

空間情報(ゾーン・レーン・距離・角度)

ピッチ座標は「ゾーン×レーン」の離散化と、距離・角度の連続量を併用。座標がない映像でもゾーニングのみで運用可能にします。

参加者(チーム・選手・役割・ポジション)

チームID、選手ID、役割(キッカー、受け手、プレス発起者等)、ポジション(配置/タスク)を分離。背番号変更やポジション変更にも耐える設計とします。

コンテキスト(スコア・時間帯・ゲームフェーズ)

試合状況(リード/ビハインド)、時間帯(序盤/中盤/終盤)、相(攻撃/守備/トランジション)を紐づけ、同じイベントでも重み付けを可能にします。

標準用語集(Glossary)と定義ルール

ポゼッション/トランジション/セットプレーの統一定義

  • ポゼッション:意図的に保持しつつ前進または循環する相。自チームの連続ボール支配が前提。
  • トランジション:奪取またはロスト直後から、次の相に落ち着くまで。
  • セットプレー:レフェリーの再開合図から次のオープンプレー確立まで(CK、FK、PK、スローイン等)。

プレー相(ビルドアップ/創造/フィニッシュ/守備圧)

  • ビルドアップ:自陣〜中盤で前進基盤を作る段階。
  • 創造:敵陣ミドル〜アタッキングサードで崩しを試みる段階。
  • フィニッシュ:シュートに至る直前〜直後の段階。
  • 守備圧:ボール非保持側の圧力行為全般(遅らせ・限定・奪取)。

判定区分(明確/曖昧/不明)の扱い

  • 明確:映像で基準を満たすと判断できる。
  • 曖昧:基準に近接、要レビュー。タグに「confidence=0.5」など信頼度属性を付加。
  • 不明:情報不足。未確定タグとして保留、後追いで更新。

共通タグ体系(設計図)の全体像

ドメインA:攻撃

パス、ドリブル、前進・保持、フィニッシュ、チャンスメイクなど。

ドメインB:守備

プレッシング、デュエル、奪取、ブロック、守備ブレイクなど。

ドメインC:トランジション

攻守転換、ファーストアクション、カウンター、ネガトラなど。

ドメインD:セットプレー

CK、FK、スローイン、PK。

ドメインE:ゴールキーパー

ショットストップ、配球、クロス対応、スイーパー行動。

ドメインF:ファウル・レフェリー関連

反則、カード、VAR関連。

ドメインG:ゲーム状態・メタデータ

スコア、時間帯、気象、交代・負傷、映像品質など。

ドメインA:攻撃タグ仕様

パス(方向・距離・種類・結果)

  • 方向:縦・横・斜め・後方。
  • 距離:ショート(〜10m)/ミドル(10〜30m)/ロング(30m〜)。
  • 種類:グラウンダー、フローティング、スルー、クロス、スイッチ、ワンツー、落とし。
  • 結果:成功、カット、アウト、ミス、ファウル誘発。

ドリブル(突破・運ぶ・方向転換)

  • 突破:対人勝利で相手を置き去り。
  • 運ぶ:前進距離を稼ぐドライブ。
  • 方向転換:リズム変化、切り返しで優位作り。

ボール保持の質(前進・保持・循環)

  • 前進:ライン間侵入、サード間の移動。
  • 保持:奪われにくい管理(プレッシャー下の安定)。
  • 循環:サイドチェンジ、テンポ調整で崩し準備。

フィニッシュ(シュート種・xG参照・枠内外・ブロック)

  • シュート種:インステップ、インサイド、ボレー、ヘディング等。
  • xG参照:シュート位置・角度・状況をもとに期待値を記録(推計手法は別管理)。
  • 結果:枠内、枠外、ブロック、得点、セーブ。

チャンスメイク(ラストパス・アシスト前・スイッチ)

  • ラストパス:シュート直前の供給。
  • アシスト前(2ndアシスト):得点起点の一つ前。
  • スイッチ:守備網の向きを変える配球。

ドメインB:守備タグ仕様

プレッシング(トリガー・ライン・方向付け)

  • トリガー:バックパス、トラップミス、サイド誘導等。
  • ライン:1st(前線)/2nd(中盤)/3rd(最終)。
  • 方向付け:内切り、外切り、限定、罠への誘導。

デュエル(地上戦・空中戦・結果)

  • 地上戦:タックル、当たり合い。
  • 空中戦:競り合い、セカンド回収。
  • 結果:勝ち、負け、相打ち、ファウル。

ボール奪取(インターセプト・タックル・回収)

  • インターセプト:パスカット。
  • タックル:接触を伴う奪取。
  • 回収:こぼれ球、セカンドボールの確保。

ブロック(シュート・クロス・パス)

  • シュートブロック:身体でコース遮断。
  • クロスブロック:配球前の阻止、出所制限。
  • パスブロック:レーン封鎖で通さない。

守備ブレイク(ライン突破・数的不利・ミス)

  • ライン突破:最終ラインを割られる。
  • 数的不利:局地での枚数負け。
  • li>ミス:クリアミス、パスミス、ポジションエラー。

ドメインC:トランジションタグ仕様

攻守転換開始トリガー(奪取/ロスト)

奪取(インターセプト、タックル、回収)/ロスト(パスミス、被奪取、トラップミス)を明示。

ファーストアクション(前進/固定/安全化)

  • 前進:一気に敵陣へ運ぶ。
  • 固定:相手を引きつけ時間を作る。
  • 安全化:リスク低減(戻す、外へ逃がす)。

カウンターの速度・人数・経路

  • 速度:高速/中速/低速。
  • 人数:2人、3人、4人以上。
  • 経路:中央/ハーフスペース/サイド。

ネガトラ(即時奪回・遅らせ・リトリート)

  • 即時奪回:5秒以内の再奪取を狙う。
  • 遅らせ:前進を止め、全体を整える。
  • リトリート:自陣に撤退しブロック形成。

ドメインD:セットプレータグ仕様

CK(キッカー属性・配球ゾーン・戦術パターン)

  • キッカー属性:利き足、インスイング/アウトスイング。
  • 配球ゾーン:ニア/中央/ファー/ペナルティ外。
  • パターン:ゾーン/マン混合、ニアフリック、スクリーン等。

FK(直接/間接・距離帯・壁枚数)

  • 種別:直接/間接。
  • 距離帯:〜20m/20〜25m/25m〜。
  • 壁:枚数、視界妨害の有無。

スローイン(位置・リスタート速度)

  • 位置:自陣/中盤/敵陣、サイド帯。
  • 速度:クイック/通常。

PK(方向・高さ・成功・セーブ要因)

  • 方向:左/中央/右。
  • 高さ:低/中/高。
  • 結果:成功、セーブ、ポスト/バー、枠外。セーブ要因(コース読み、反応、助走遅延等)。

ドメインE:GKタグ仕様

ショットストップ(セーブ技術・反応・ブロッキング)

  • 技術:キャッチ/弾き/ブロック(スプレッド、Kブロック等)。
  • 反応:至近距離、ディフレクション対応。
  • ポジショニング:角度消し、シュートレーン管理。

配球(スロー・キック・ビルドアップ参加)

  • スロー:ロール、オーバーアーム、クイック。
  • キック:ゴールキック、パント、ロングパス。
  • 参加:CB間に落ちる、背後サポート、スイッチ起点。

クロス対応(キャッチ/パンチング/ゾーン)

  • 手段:キャッチ、パンチング、弾き出し。
  • ゾーン:ニア/中央/ファー、6yd内外。

スイーパーGK(カバー距離・オフライン守備)

  • カバー距離:クリア位置までの推定メートル。
  • オフライン守備:ライン裏対応、スルーパス遮断。

ドメインF:ファウル・レフェリー関連

反則種別(チャージ・ホールディング・ハンド等)

IFAB競技規則の用語に準拠したカテゴリー分けを採用(例:チャージ、トリッピング、ホールディング、ハンド)。

カード(警告・退場・理由コード)

カード種別、理由コード(抗議、反スポーツ的行為、DOGSO等)、時間、該当選手を記録。

VAR関連イベント(チェック・レビュー・最終判定)

チェック開始、オンフィールドレビュー、最終判定を時系列で管理。適用試合のみ。

ドメインG:ゲーム状態・メタデータ

スコア・時間帯・局面(開始/中盤/終盤)

スコア差(-2以下/-1/0/+1/+2以上)、時間帯(0-15/16-30/…)、局面(開始/中盤/終盤)を併記すると比較が容易です。

気象・ピッチ・照明・映像品質タグ

天候(晴/雨/風)、気温帯、芝(天然/人工/コンディション)、照明(昼/ナイター)、映像(解像度、fps、固定/手持ち、角度)。

交代・負傷・用具・中断

交代時間、負傷種別(推定)、用具トラブル、中断理由(飲水、VAR、照明等)。

属性設計と付随メタデータ

結果属性(成功・失敗・アウトカムコード)

成功/失敗に加え、「得点」「シュート創出」「被カウンター」などアウトカムコードを複数付与可能にします。

技術属性(キック部位・利き足・体の部位)

利き足、逆足、インサイド/アウト/インステップ、ヘッド、胸トラップなどを統一語で登録。

戦術属性(数的状況・ライン間・レーン・列)

数的状況(優位/同数/不利)、ライン間侵入、サイド/中央レーン、列(最終/中間/最前)を付加。

難易度・プレッシャー指標

相手距離(至近/近/中/遠)、体勢(良/普通/不安定)、視野(前方確保/背後から圧)で難易度を簡易スコア化。

意図と実行の分離記録(宣言型タグ)

「意図:背後」「実行:足元」「結果:カット」のように、意図/実行/結果を分離タグで管理。改善点が明確になります。

タイムスタンプ・同期ルール

イベント基準点(ボールタッチ/リリース/接触)

パスは「リリース」、トラップは「初回接触」、タックルは「接触開始」を基準。基準はカテゴリごとに固定します。

プリ/ポストマージンの標準値

  • プリ:1.0秒、ポスト:1.5秒を初期値。
  • ハイライト生成は目的別に可変(例:フィニッシュはプリ3.0秒)。

重複イベントの優先順位とネスト

ネスト(同時進行)を許容。優先順位は「反則>得点>負傷>プレーイベント」の順で上書き表示。ログ上はIDで別管理。

サンプリングレートと可変fps対応

動画の実測fpsをメタに保存。フレーム基準と時間基準の両方を保持し、可変fpsでも誤差を最小化します。

空間モデリングの標準

ピッチ分割(3/5/7レーン×3ゾーンの選択指針)

  • ライト:3レーン×3ゾーン(簡易)。
  • スタンダード:5レーン×3ゾーン(推奨)。
  • アドバンス:7レーン×3ゾーン(詳細)。

可変式ゾーン(自陣・中盤・敵陣のダイナミック境界)

ラインの高さやブロック位置に応じて境界を動的に解釈するオプション。固定境界と併記可能にします。

シュート位置・角度・距離の定義

シュート地点は接触点、角度はゴールポスト間を頂点に算出、距離はゴール中央からの直線距離で統一。

パスライン(縦・横・斜め・スイッチ)の分類

出し手と受け手の相対座標で方向判定。スイッチはサイドレーン跨ぎ+角度閾値(例:60°以上)。

プレスライン(1st/2nd/3rd)の基準

ボール位置を基準に前線・中盤・最終ラインで定義。自陣/敵陣で閾値を微調整します。

サンプルタグ最小セット(ミニマムバイアブル規約)

攻撃ミニマム20タグ

  • 縦パス成功/失敗、横パス成功/失敗、斜めパス成功/失敗、バックパス、スルーパス、スイッチ、クロス、ラストパス、ドリブル突破、ドリブル運ぶ、ワンツー、落とし、ポストプレー、前進成功、保持、サイドチェンジ、シュート枠内、シュート枠外、得点

守備ミニマム20タグ

  • プレッシング開始、内切り誘導、外切り誘導、タックル成功/失敗、インターセプト、ブロック(シュート/クロス)、デュエル勝ち/負け、セカンド回収、遅らせ成功、数的優位形成、ライン押し上げ、ライン突破許容、被チャンス、クリア成功/失敗、ミス、反則、カード、被シュート枠内

トランジション10タグ

  • 奪取、ロスト、即時奪回試行、遅らせ、リトリート、カウンター開始、高速カウンター、中央経路、サイド経路、カウンター終息

セットプレー10タグ

  • CKインスイング/アウトスイング、ニア配球、ファー配球、FK直接/間接、スローインクイック、PK成功/失敗、CK二次攻撃

GK10タグ

  • セーブ、ブロック、キャッチ、パンチング、パント、ゴールキック、ロールスロー、スルーパス対応、ライン裏クリア、ビルドアップ参加

メタ10タグ

  • スコア状況、時間帯、天候、ピッチ状態、映像解像度、fps、カメラ角度、交代、負傷、中断

詳細タグ辞書(拡張セットの雛形)

年代別拡張(U-15/U-18/一般)

判断速度やフィジカル差を考慮し、難易度閾値を年代別に調整。例:U-15はプレッシャー距離の閾値を広めに設定。

ポジション別拡張(SB/CB/IH/WG/CF/GK)

SBのオーバーラップ/インナーラップ、IHのライン間受け、CFのポスト/背後抜け等を追加。

戦術別拡張(ポゼッション/ダイレクト/ハイプレス)

スタイル別KPI(例:ポゼッションなら循環→前進の効率、ダイレクトなら背後走りと前向きプレー比率)。

競技レベル別拡張(学校/地域/全国/プロ)

映像品質やスタッツ取得可能性に応じて粒度を最適化。プロは空間連続量を多めに。

育成KPI連動(テクニック・判断・フィジカル)

テク(成功率/部位)、判断(選択肢の妥当度)、フィジカル(スプリント関与回数)をタグから派生指標化。

命名規則とコード体系

英数コードと日本語ラベルの両立

外部連携向けに英数コード(例:PASS_THRU)、画面表示は日本語ラベル(スルーパス)。両者を辞書でマッピング。

略語・接頭辞・接尾辞の一貫性

DOM(ドメイン)、CAT(カテゴリー)、EVT(イベント)、ATT(属性)など接頭辞で階層を明示。接尾辞に結果(_S/_F)。

バージョニング規約(SemVer)

MAJOR.MINOR.PATCHの三段。定義変更はMAJOR、タグ追加はMINOR、誤記修正はPATCH。

廃止タグの扱いと後方互換方針

Deprecateフラグを付与し即時削除は避ける。移行先タグを必ず提示。変換テーブルを公開。

人手タギング運用フロー

事前準備(マスター・テンプレート・チェックリスト)

試合メタ記入、タグセット選択、ショートカット設定、品質基準の共有を事前に実施。

ライブタギング/ポストタギングの基準

  • ライブ:ミニマムセットに限定、ハイライト抽出用。
  • ポスト:精緻化、属性付与、曖昧タグの確定。

品質管理(ダブルチェック・レビュー・承認)

二者入力→差分抽出→レビュー会→承認の4段階。重要イベントは第三者確認。

教育と認定制度(トレーニング→テスト→資格)

オンライン教材→模擬タギング→合格基準(IAA閾値)で認定。更新制で基準を維持。

作業時間の目安と効率化テクニック

90分試合のポストタギングは1.5〜3.0倍速が目安。テンプレ、キーボードショートカット、マクロで効率化。

自動化・AI連携ガイド

自動検出対象(ゴール/シュート/ファウル等)

音量ピークや映像パターンでゴール候補、ボール速度変化でシュート候補、接触音・審判動作でファウル候補を抽出。

誤検出・未検出の扱い(人手確定ループ)

AIの提案は「候補」扱い。人手で確定/却下/修正し、学習用ログに残します。

セミオート運用(サジェスト→確定→監査)

しきい値を場面別に調整。確定後は監査リストに自動で積み、重要タグはダブルチェック。

データ連携(API/CSV/JSON/ストレージ)

インポート/エクスポート形式を明記。ファイル名規約とメタの同梱を徹底します。

品質保証(QA)と信頼性評価

一致率・再現率のKPI設計

Precision(適合率)とRecall(再現率)をイベント種別ごとに管理。総合点ではなく用途別に評価します。

インターアノテーター一致(IAA)の測定

同一映像を複数人でタグ付けし一致指標(例:Cohen’s kappa)を測定。閾値未達なら定義の見直し。

監査ログ・編集履歴・権限管理

誰がいつ何を変えたかを全て記録。編集権限は役割別に分離し、承認フローを強制。

リグレッションチェックの手順

タグ定義更新時に過去データの一部で再計測し、統計的に差分を確認。想定外の変化はロールバック。

可視化・ダッシュボード設計ガイド

必須チャート(xG・ヒート・パスネットワーク)

xGトレンド、選手/エリア別ヒート、パスネットワークで全体像を掴む。タグの粒度が可視化品質を左右します。

フィルタ(フェーズ・ゾーン・選手・時間)

フェーズ、ゾーン、選手、時間帯、スコア状況で絞り込み。保存可能なビューを作ると振り返りが早いです。

ハイライト生成ルール(閾値・組み合わせ)

例:「前進成功+ラストパス」または「即時奪回+シュート」で自動ハイライト。閾値は目的別に複数プロファイルを持つ。

ストーリーテリングのベストプラクティス

「問い→証拠→示唆→次の行動」で1枚スライドに収める。タグは物語の骨子に合わせて並べます。

セキュリティ・プライバシー・権利

顔・背番号・個人情報の扱い

映像共有時は目的外利用を禁止。外部公開は同意の範囲内で実施し、必要に応じて匿名化。

配信権・二次利用・著作権の確認

大会・リーグ規約を確認し、映像の二次利用範囲を明文化。クラブ/学校の承認ルートを整備。

未成年データの同意取得・保管

保護者同意を文書で取得し、保管期間・閲覧権限を規定。撤回手続きも用意。

アクセス制御と鍵管理

ユーザー権限、期限付きリンク、暗号化ストレージを標準に。鍵のローテーションポリシーを設定。

データ管理とファイル命名規約

試合メタ(大会・節・対戦カード・会場)

大会名、節、対戦カード、会場、キックオフ時刻、審判団をメタに標準化。

命名規則(チーム略称・日付・バージョン)

例:YYYYMMDD_LEAGUE_HOME-AWAY_vMAJOR.MINOR.patch.mp4/.json。チーム略称は統一辞書を使用。

映像品質タグ(解像度・fps・視点・音声)

解像度(720p/1080p/4K)、fps、視点(メイン/サブ/ゴール裏)、音声の有無を明記。

バックアップとアーカイブ方針

3-2-1ルール(3コピー、2メディア、1つはオフサイト)。改訂時はスナップショットを残す。

実装ステップと導入ロードマップ

30日で始めるライト版

  • Week1:ミニマムセット決定、命名規則配布。
  • Week2:ライブ運用開始、ハイライト自動化。
  • Week3:ポストタギングの型化。
  • Week4:最初のQAと振り返り。

90日でのチーム内標準化

教育→認定→ダブルチェックを回し、IAA目標を設定。テンプレとショートカットで属人性を排除。

現場からのフィードバックループ

週次で「定義の曖昧箇所」を収集し、月次で辞書改訂。変更はSemVerで告知。

ロールアウトの失敗例と対策

  • タグ多すぎ→ミニマム回帰と拡張は別レイヤーへ。
  • 教育不足→認定制度と再テスト。
  • ツール不統一→フォーマット共通化(CSV/JSON)。

ベンチマークと外部規格との互換

IFABルール参照の扱い

反則・再開の定義は競技規則を参照し、タグ名称を整合。解釈が必要な箇所は備考に記載。

Opta/Wyscout/StatsBombとのマッピング指針

外部ベンダーの用語と当規約のイベント/属性を対応表で整理。粒度差は変換ルールで吸収します。

学術研究との橋渡し(公開データセット)

公開データの座標・イベント仕様をメタに記し、再現性のある比較を可能にします。

よくある落とし穴とFAQ

タグの増やしすぎ問題と収束方法

「目的に寄与しない」「重複」「使用頻度が低い」は候補から除外。四半期ごとに棚卸しを実施。

定義の曖昧さを解消する記述ルール

必ず「定義」「境界条件」「含む/含まない」「例」をセットで記述。曖昧タグはconfidenceで保留。

主観と客観の混線を避ける分離設計

事実(パス方向/距離)と評価(良い/悪い)を別タグに分離。後者はレビュー時に付与。

撮影角度・品質による誤差対策

角度や解像度のメタを必ず記録。低品質映像はタグ粒度を下げ、誤差の大きい属性はN/Aで扱う。

時短テク(ショートカット・テンプレ)

頻出シーケンスのテンプレ、ホットキー、オートフィル、候補サジェストで作業を短縮。

サンプル運用ドキュメント雛形

タギングガイドPDF目次案

  • 1. 目的/スコープ
  • 2. 用語集
  • 3. タグ定義(ドメイン別)
  • 4. 運用フロー
  • 5. QA/評価手順
  • 6. 変更管理/バージョニング

研修スライド構成案

  • 導入(なぜ必要か)
  • 最小セット演習
  • ケーススタディ(境界事例)
  • レビューと一致率測定

チェックリスト例(事前/当日/事後)

  • 事前:辞書更新確認、ショートカット確認、メタ入力。
  • 当日:映像品質確認、ライブタグ範囲、バックアップ。
  • 事後:ダブルチェック、QA記録、ダッシュボード更新。

成果の測定とフィードバック設計

パフォーマンスKPIとの結びつけ

前進成功率、即時奪回率、被ライン突破数などを試合結果やxG差と紐づけ、勝ち筋/負け筋を特定。

練習メニュー・個人課題への反映

課題→練習設計→次戦評価のループを週単位で回す。タグは課題の「証拠」として使います。

選手・保護者・コーチへの伝達設計

難しい用語を避け、タグと映像クリップで短いレポートを共有。共通言語が関係者の理解を深めます。

今後の拡張とコミュニティ運営

オープン規格化の検討

規約を公開し、幅広い現場での利用と検証を促進。相互運用性を高めます。

共同リポジトリ運用(変更提案・レビュー)

変更提案→レビュー→合意→リリースの手順を透明化。履歴を残し、議論を資産化します。

改訂サイクルと合意形成プロセス

定期改訂(例:半年)と緊急修正の二本立て。合意は投票/専門家レビューを併用。

付録:タグ定義テンプレート

テンプレ項目一覧(定義・例・境界条件)

  • タグ名/コード
  • 定義
  • 含む/含まない
  • 判定基準(映像の基準点)
  • 属性(方向/距離/結果等)
  • 例/反例
  • 備考(注意点、参考規則)
  • 信頼度(confidence)

記入例(攻撃/守備/セットプレー)

  • スルーパス(PASS_THRU):DFライン裏へ走者の進行方向へ出すパス。含む:裏抜けへ進行方向。含まない:足元供給。
  • 即時奪回(TRN_REPRESS):ロスト後5秒以内に複数人で圧力。基準:プレッシャー開始時刻。
  • CKニア配球(SP_CK_NEAR):ニアゾーン(1stポスト付近)へ配球。

ライセンス方針(利用・改変・共有)

利用と改変を許可し、変更点の明示と再共有を推奨。相互発展を目指します。

まとめ:共通規約の実装で得られる再現性と競争力

一貫性のある評価と育成の加速

同じ定義・同じ手順でタグ付けすることで、比較が意味を持ち、学習サイクルが加速します。

映像タギングの標準化による学習効率向上

ミニマム→スタンダード→アドバンスの段階導入で無理なく定着。可視化・自動化と噛み合うことで、現場の意思決定が速くなります。

次の改訂に向けた実務からのフィードバック募集

本「サッカー 映像タギング ルール共通規約の設計図」は、実装して使ってもらうことで磨かれます。現場の声を反映し、より使いやすく、互換性の高い規約へ一緒に育てていきましょう。

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