守備が整った相手を一発でズラし、ゴールへ直結する。サードマンラン(第三の走り)は、そのための最短ルートです。この記事では、ピッチで即使える「3つの型」を中心に、配置例、作り方、練習、評価までを一本化。図の代わりに擬似図(テキスト図)で動きを言語化しているので、コーチにも選手にもわかりやすく、チームにそのまま持ち帰って落とし込めます。
目次
サードマンランとは何か:定義と原理
定義:第1・第2・第3の役割と「第三の走り」
サードマンランは「3人目の関与で守備の視野外を突く連係」です。役割は次の3つ。
- 第1の選手(起点):最初にボールを持つ/出す選手。縦 or 斜めに刺す視点を持つ。
- 第2の選手(壁役):起点から受けてワンタッチ/ツータッチで返す「壁」。相手を引き寄せる。
- 第3の選手(走者):相手の視野外から背後へ走る「第三の走り」。最後の受け手や針の穴を通す役。
ポイントは、ボールを受けていない第三の選手が決定的なスペースを取ること。パス2本でライン間や背後を割れます。
なぜ効くのか:認知負荷と視野外の侵入
守備者は「ボール・人・スペース」を同時に見ると認知負荷が高まります。壁役に食いついた瞬間、第三の走者は視野から消えやすい。さらに、ボールの移動方向と走者の進行方向が逆ベクトルになると、対応が遅れます。これが、同数でも前進できる理由です。
壁パスとの違いと補完関係
壁パス(ワンツー)は2人での前進。サードマンランは3人で守備の基準点を2カ所以上ずらします。壁パスで相手を寄せ、3人目で裏を取るのが黄金パターン。どちらか一方ではなく〈補完〉が基本です。
サードマンランの配置例を図で理解
擬似図の読み方:番号・レーン・矢印の言語化ルール
この記事ではテキストで動きを表します。
- 番号:1=GK, 2=RB, 3=RCB, 4=LCB, 5=LB, 6=アンカー, 8=IH/CM, 10=トップ下/シャドー, 7=RW, 9=CF, 11=LW
- レーン:左外|左ハーフ|中央|右ハーフ|右外(5レーン)
- 表記:パス=→、落とし=↩、走り=↗/↘、保持=◎、相手最終ライン=——
例)「4→9(↩→8)→8(背後)」=LCBの縦刺し→CFが落として→IHが裏抜けで受け。
4-3-3の配置例:IHの縦抜けでCFをフリーにする
狙いは、IHの背後侵入でCBを釣り出し、CFに時間を作る形。
レーン:左外|左ハーフ|中央|右ハーフ|右外配置: 11 | 8 | 9 | 8 | 7後方: 5 | 6 | 3-4 | | 2最終ライン:———————————————流れ:4→9(第1→第2)/8(左IH)がCB背後へ↗(第3)→ 9はワンタッチで6へ↩、6→8へスルー→8がPA侵入効果:左CBが8の走りに反応→9が中央でフリーに
ポイントは、CFが正面を向かなくても仕事が完結する設計。IHの走りが主役、CFは壁役に徹します。
4-4-2の配置例:CFの落ちとWGのインナーラン
両CFがいる4-4-2には、サイドから中を経由して再度サイド裏を突くのが有効。
右サイド例2(RB)→9(右CF)第1→第2/11(LW)が内側へ↘(第3)9は8(CM)へ落とし↩→8から11へ縦スルー→クロスorカットイン守備反応:RSBが2へ、RCBが9へ→LWの内走りが視野外に
WGは幅を取りすぎず、ハーフスペースの背後を狙います。最終ラインと一直線にならないよう、斜めの走り出しが安全です。
3-4-2-1の配置例:シャドーの背後侵入とWBの釣り出し
WBを餌にして相手SB/SHを外に引き出し、シャドーが内側から背後を突きます。
左:4(LCB)→5(LWB)第1→第2/10(左シャドー)がCB間へ↗(第3)5はワンタッチで6(アンカー)へ↩→6→10へ背後刺し→9がニア/ファーで連動
WBは足元を見せることで相手の重心を外へ固定。縦関係のシャドーが視野外から刺します。
可変システム(2-3-5/3-2-5)でのレーン占有と背後同期
攻撃時の基本は「5レーン占有」。2-3-5ならSBがインサイドに入り、WGが幅。3-2-5ならWBが幅、シャドーが内側。
2-3-5の例: 11|10|9|8|7(最前列) 5 | 6 | 2(中間)背後同期:6→10(第2)→8が裏へ↗(第3)/逆サイドWGは幅固定でCBを釘付け
走る人数は常に1人。もう1人は止まる or 受け直す。これで相手カバーを遅らせます。
即実戦の3型:トリガー別テンプレ
型1:落ちる→引き出す→刺す(CF落ち/IHラン)
トリガー:CFが降りた瞬間、IHが背後を同時スタート。
- 3 or 4→9へ縦刺し(第1→第2)
- 9がワンタッチで6へ落とし(引き出し)
- 6→8へ背後スルー(第3の走りに刺す)
使いどころ:相手CBが前に強い、ボランチが背後ケア不足のとき。
型2:外→中→外(SB内差し→IHリターン→WG裏)
トリガー:SBが内側で受ける/差す。WGは一度静止→背後へ再加速。
- 2→8へ内差し(第1→第2)
- 8がワンタッチで6へリターン(引き寄せ)
- 6→7の背後へスルー(第3の走り)
使いどころ:相手のSHが中を閉め、SBが絞る守備に対して。幅で最後に突く。
型3:中→外→中(アンカー縦刺し→SB内受け→CF背後)
トリガー:アンカーの縦刺しで中を縦ズレ。SBが内側受けで相手SHを内引き。
- 6→10(or 8)へ縦刺し(第1→第2)
- 10が外の2へ流す(内→外)
- 2がワンタッチで9の背後へ(外→中:第3の走り)
使いどころ:相手CBの足が重い、ラインが高いとき。ダイレクト性が命。
3型の使い分け基準:相手のブロック・重心・数的状況
- 相手CBが前に出る:型1(降りた瞬間の背後)
- 相手SHが内を閉める:型2(最後は外で裏)
- 相手ライン高め&中央薄い:型3(中→外→中で最短)
- 数的不利なら:1本目を縦ではなく斜め or 逆サイドへ。走者は1名固定。
作り方:設計手順と導入の道筋
ステップ1:狙うスペースの定義(縦/斜め/最終ライン)
最初に「どこで受けたいか」を決めます。背後(最終ライン裏)、ライン間、逆サイドのニアポケット(SB-CB間)など、具体的に言語化しましょう。
ステップ2:役割配分(第1/第2/第3の特性と適性)
- 第1:前向きに刺せる、逆サイドを見られる選手(CB/6)
- 第2:ワンタッチ精度、相手を引き寄せる技術(9/8/10)
- 第3:タイミングと初速がある選手(WG/IH/シャドー)
ステップ3:発火トリガーと合図(体の向き・減速・声)
- 体の向き:第2が外向き→内向きに変える瞬間が合図
- 減速:第2が一瞬止める→相手が寄る→第3が走る
- 声:短いワード(「差せ」「背後」)で同期
ステップ4:リスク管理(即時奪回の配置とカバー)
- 走者の空けたゾーン後方に6 or 逆IHを残す
- 外した瞬間の5秒間カウンタープレス:縦スイッチ担当を決める
- CBの片方はライン管理、SBはセーフティラインを1歩下げる
ステップ5:評価KPIと振り返りのフレーム
- 意図回数(型を試みた回数)と成功率
- PA侵入、ライン間受け、キーパス数
- ターンオーバー後5秒の奪回率
役割別の注意点とコーチングキュー
第1の選手(起点):体の向き・パス角・認知順序
- 認知順序:背後→ライン間→足元の順にスキャン
- 体の向き:半身で外と中の両方を見せる
- パス角:縦一直線は読まれやすい。斜めで守備の進行方向を逆にする
第2の選手(壁役):一瞬の止める・見せる・外す
- 止める:ボールを触る直前に0.2秒減速→相手を寄せる
- 見せる:外向きの姿勢でサイドを匂わせる
- 外す:ワンタッチで逆へ。触数は多くても2
第3の選手(走者):タイミング・ライン設定・速度変化
- タイミング:第2がボールに触る前に加速開始
- ライン設定:最終ラインと同一線に並ばず、半歩後ろでスタート
- 速度変化:3歩減速→一気に初速で置き去りに
周辺のサポート:逆サイドの幅とセーフティのポジショニング
- 逆WGは幅固定でCBを釘付け
- アンカーはこぼれ球の回収点=円の中心に立つイメージ
ビルドアップからの接続:ゾーン別の作動点
低ブロック相手:内→外→内での圧抜き
中で一度受けて外へ流し、外で釣って再度内へ。クロスではなく、カットバックの角度を作るのが狙い。
中ブロック相手:縦ズレを生む二列目の動き
IH/シャドーがライン間で受けて背後に落とす一手。CB-ボランチ間のズレを継続的に作り続けます。
高ブロック相手:GK/CB含む3人目での前進
GK→CB→IHのリターンでプレスの背中を取る。GKを第1に組み込み、縦パスの角度を作ります。
5秒間のカウンタープレス設計
- 即時圧縮:ボール付近3人で三角形を作る
- 出口封鎖:逆サイドのCMが中央出口を塞ぐ
- 回収後:最短で再度「第3の走り」へ移行(相手の整列前に再攻撃)
相手守備に応じた対策とアジャスト
マンツーマン基準を崩す:偽走と受け手のずらし
本命の走者とは別に「偽走」を1人入れると相手のマークが混乱。受け手は半歩外して視野から消える位置取りを。
ゾーン+カバーを割る:幅/奥行きの同時脅威
幅(WG)と奥行き(IHの背後)を同時に提示。CBとSBの間に「どちらも捨てられない」状況を作ります。
ハイプレス対応:背後ダイレクトとセカンド回収
プレスが強ければ、2本目で背後にダイレクト。回収隊(6+SB+逆IH)を事前に絞っておくとセカンドが拾えます。
ローブロック攻略:釣り出し→再加速の二段階
最初は足元で釣る→一度止めて相手を寄せる→再加速で背後。速度変化で差が出ます。
練習メニュー:段階別ドリル
ウォームアップ:スキャン→体の向き→触数制限
- 30秒スキャンドリル:合図で背番号を読み上げる(認知活性)
- 半身受けドリル:受ける前に外→中の順で首振り
- 2タッチ縛りロンド:ワンタッチの質を高める準備
技術ドリル:二方向パス+第三者走の反復
3人1組。A→B(落とし)→C(背後へ)を左右両向きで反復。落としの質(置く位置)を徹底。
戦術ドリル:3レーン制限のポゼッション(4v4+3)
中央/ハーフ/外の3レーンに制限。得点は「第3の走りでライン間 or 背後に入ったら+1」。判断と配置を同時に鍛えます。
ゲーム形式:6v6+GK 条件付き(3型ボーナス)
- 型1成功=+2、型2/3成功=+1
- 同じ型連続は減点(多様性を促す)
- 5秒奪回成功=+1(リスク管理も評価)
個人メニュー:減速→再加速のスプリント制御
- 10m減速→10m加速×6本(背後ランの再現)
- 肩越しスキャン→スタート合図ラン(オフサイド回避)
よくある失敗と修正ポイント
走るだけでボールが出ない:情報共有と視線誘導
走る前に「差せ/背後」の一言。第2は目線で背後を示し、出し手に合図を送る。
パススピード不足:距離感と足元/スペースの基準
基準は「相手が触れない最速」。足元でなく、次の一歩が前に出るスペースに置く感覚を統一。
オフサイド頻発:最終ライン観察と肩越しスキャン
走る直前に肩越しでライン確認→半歩遅らせて加速。第2の落とし位置が前になりすぎないように。
縦一辺倒:幅の管理と3人目の位置入れ替え
同じレーンに3人並ばない。WGとIHで縦横を入れ替えて守備の基準を消す。
具体的なコールと非言語シグナル
言語キュー例:「差せ」「預け」「背後」「スルー」
短く、具体的に。チームで語彙を統一すると一気に精度が上がります。
非言語キュー:手の合図・目線・減速の使い分け
- 手:指差しは背後、手のひらは足元
- 目線:第2が一度外を見てから内へ出すと相手が釣られる
- 減速:第2が止まる=走者の出発サイン
チーム内共通ルールの作り方
- 合図は2種類まで(言語+非言語)
- トリガーは「体の向き変化」「減速」「視線」の3つ
- 週1回は3型のどれかをテーマに固定練習
データと評価指標(KPI)
KPI例:第3走絡みのPA侵入・ライン間受け回数・Key Pass
- PA侵入(サードマン起点):試合あたり3回以上
- ライン間受け→背後の連結回数:2回以上
- キーパス:WG/IH合計で5本目標
映像/目視でのチェックリスト運用
- 走る前の合図があったか
- 第2の触数が2以下か
- 背後へ出す前に釣り出しが発生したか
練習から試合への転移率の測り方
練習での成功回数(型別)→試合の試行回数/成功回数で転移率を算出。数週単位で増減を追い、ドリルを調整。
コンディショニングと怪我予防
ハムストリングス保護:加速/減速の比率管理
背後ランは伸張ストレスが高い。練習では加速:減速=3:2の本数で計画し、終盤は減速系を控えめに。
週内計画:高強度日の配置と回復戦略
- 第3の走りが多い日は72時間空けて再設定
- 可動性(ヒップ/足首)→スプリント→補強の順で組む
試合前日~当日の調整とウォームアップ
- 前日:10~15mの流しを数本、出力は70~80%
- 当日:動的ストレッチ→加速3本→型の確認(無圧でパターン確認)
よくある質問(FAQ)
ジュニア年代での導入は可能?段階的な難易度設定
可能です。U12までは「外→中→外」の型2から。ワンタッチと合図の統一に絞れば安全に浸透します。
左右非対称の使い分けは有効?強みの偏り活用
有効。左は型1、右は型2など、選手の特性に合わせて左右で役割固定すると再現性が上がります。
セットプレーへの応用:CK/スローインの3人目
CKはニア落とし→ファーの第三、スローインは受け手(第2)が落としてインナーラン(第3)で裏を取る形が使えます。
まとめ:チェックリストと明日の行動
即実戦の3型チェックリスト
- 型1:CFが降りたらIHが同時出発できているか
- 型2:SBの内差し→IHリターン→WG再加速が滑らかか
- 型3:6の縦刺し後、外経由からの背後がスムーズか
練習メニューの導入手順(15分/30分/60分)
- 15分:技術ドリル(3人組)+言語/非言語キュー統一
- 30分:3レーン制限ポゼッション+型ボーナス
- 60分:6v6+GK 条件付きゲーム→映像/目視でKPI集計
次の試合での合図とルールの簡易共有
- 合図は「差せ/背後」の2語に限定
- 第2は触数2以内、走者は同時スタート
- 外したら5秒カウンタープレス(誰がどこへ)を明確化
おわりに
サードマンランは、天才的なひらめきではなく「配置×タイミング×合図」の組み合わせです。明日のトレーニングで3型のうち1つだけでも徹底してください。小さな成功が積み上がると、相手のブロックは必ずほどけます。シンプルに、速く、そして再現性高く。グッドラック。
