目次
リード文
ゾーン14の使い方とコツ:頭に描く崩しの型。ゴールに直結するラストパスの多くが、このゾーンから生まれます。この記事では、専門用語を噛み砕きつつ、実戦で再現できる「崩しの型」をテキスト図解で共有します。難しいセットプレーや個の超技術に頼らず、チーム全員が同じ絵を見られること。その積み重ねが、得点に一番近いプレーを増やします。今日からの練習にそのまま落とし込めるよう、原則・テンプレ・練習・KPIまで一本のラインでつなぎました。
導入:なぜ今「ゾーン14」なのか
ゾーン14の定義とピッチ上の位置
ゾーン14とは、一般的にペナルティエリア正面・アーク周辺の一帯(PAの頂点前)を指す分析上の呼称です。ピッチを縦横に分割して管理する「ゾーン分け」の中で、中央の“最後の一列手前”に当たります。ここで前を向いてプレーできると、シュート・スルーパス・サイドへの展開と選択肢が同時に開くため、守備にとって最も守りづらい地点のひとつです。
海外分析での重要性と国内での誤解
欧州のクラブ分析では、ゾーン14からのパスがショットアシスト(シュートにつながるパス)になりやすい傾向が頻繁に報告されています。一方で国内では「中で詰まってミドルしか打てない」「奪われたら即カウンターで危険」という誤解も根強いです。ポイントは、ゾーン14に“長居しない”。外→中→深いの順で優先順位を整理し、前向きの一発で状況を動かすことです。
本記事のゴールと読み方
本記事は、ゾーン14の使い方を「型」として共有し、練習とKPIまで一気通貫で落とし込むことを目的にしています。テキスト図解で動きをイメージし、原則→型→練習→分析の順に読むと理解がスムーズです。
ゾーン14の基礎理解
5レーン概念とハーフスペースとの関係
ピッチを縦に5本のレーン(左ワイド/左ハーフスペース/中央/右ハーフスペース/右ワイド)に分ける考え方が有効です。ゾーン14は中央~両ハーフスペースのPA手前にまたがる“中央寄りの入口”。ゆえに、ハーフスペースからの侵入と組み合わせると威力が増します。中央に立つのは1人まで。複数人が同じレーンに重なると、守備は楽になります。
ゾーン14とペナルティエリア手前のポケット
「ポケット」とは、最終ラインと中盤ラインの間にできる隙間。ゾーン14の中でも、ハーフスペース寄りのポケットを使うと、守備に囲まれにくく前向きで受けやすいです。中央ぴったりより、半身を作りやすい角度が生まれます。
期待値(xG)とショットアシストの関係(客観データの読み方)
xGは、シュート位置や状況から得点確率を推定する指標です。ゾーン14の価値は、単発のミドルよりも「ここを経由してPA内の良いシュートに結びつける」点にあります。見たいのは「ゾーン14経由のショットアシスト数」「ゾーン14経由でのPA侵入数」。単純なシュート数だけで判断すると、ミドル偏重にぶれやすいので注意しましょう。
「前向きで受ける」価値と身体の向き
同じ場所でも、半身で前を向けているかどうかで価値は別物です。オープンスタンス(ボールとゴールと味方を同時に視野に入れる体の向き)で受けられると、守備のプレッシャーが来る前に次の一手を選べます。ゾーン14では「受ける場所×受ける向き」のセットで考えましょう。
図で理解するゾーン14(テキスト図解)
[図解] 外→中→深いの原則(→記号で動きを表す)
[サイド] → [ハーフスペース] → [ゾーン14] → [PA内]幅で引き伸ばす → 内側へ差す → 前向きで決断 → 一発で深い位置へ
まず外で幅を取り、相手の中盤ラインを横に引き伸ばす。次に内側へスイッチして、ゾーン14で前を向く。最後はPA内へ一手で差し込む。この順番が崩れの筋道です。
[図解] クサビ→落とし→差し込みの三角形
CB/アンカー →(クサビ)→ 受け手(背負う) ↓(落とし) 3人目(前向き) →(差し込み)→ 裏
縦パス(クサビ)を背負って受ける→ワンタッチで後ろの3人目へ落とす→前向きの3人目が裏へ差し込む。ゾーン14で最も再現性の高い基本形です。
[図解] オーバーロードからのスイッチとアイソレーション
左に人数集中(オーバーロード) ↓短い連続パスで相手を圧縮 → 大きなサイドチェンジ(スイッチ) → 逆サイド1v1(アイソレーション)→ 斜めの進入
片側で密度を作って守備を引き寄せ、逆へ一撃で展開。逆サイドの受け手は、内外どちらのレーンでも仕掛け可能に準備します。
[図解] 3人目の動きと逆サイドの関与
ボール保持者 → 味方A(引き出す動き) ↘︎ 味方B(3人目が空いたゾーン14へ)逆サイドWGは同時に中間ポジションへ絞り、カットバックに備える
2人目は囮、3人目が実行役。逆サイドは“眠らない”ように、早めに中へ絞って二次攻撃に参加します。
[図解] ポケット侵入からのカットバック製造
ゾーン14(前向き) → スルーパス → サイドバック/ウイングがPA横へ侵入 → ゴールライン際で折り返し(カットバック)
守備がゴール方向へ下がるタイミングで背後へ差すと、折り返しの精度が上がります。ニア・ペナスポ・ファーの3枚で入るのが基本。
[図解] ミドルの準備とセカンドボール回収ライン
ゾーン14からのミドル → ブロック or GK弾き ↑後方に2枚の回収ライン(アンカー/CB前)→ すぐ二次攻撃
ミドルは「二次攻撃の起点として撃つ」発想で。こぼれ球を拾う配置までがセットです。
ゾーン14攻略の原則(認知・決断・実行)
スキャン頻度と体の向き(半身/オープンスタンス)
受ける直前の首振りは最低2回。来る前・来る瞬間。半身で「裏/逆/足元」を同時に見られる角度を作ること。体の向きで優先順位を相手に“誤読”させるのもテクニックです。
タイミングのずらし方(歩数・速度・ストップ)
走るだけが駆け引きではありません。最後の2~3歩を“歩く”→一瞬ストップ→相手が前に出た背中で受ける。歩幅と速度差でマーカーを外します。
パスの質:角度・強度・足の置き所
クサビは「利き足の前」に、落としは「前進できる側」に。強度は相手の寄せを無効化できるラインスピードで。角度は縦一直線よりも、やや斜めに入ると前向きが作りやすいです。
サポート距離と三角形の維持
三角形は“長すぎない・短すぎない”。約8~15mを目安に、ワンタッチで回せる距離感を保ちます。一直線に並ばないことが鉄則。
リスク管理と即時奪回(ネガトラ対策)
ゾーン14で失うとカウンターが直撃します。外側に保険の三角形を置く、シュート後の回収ラインを2枚用意する、失った瞬間の5秒間は奪回を最優先する。これがセットです。
崩しの型テンプレート集
クサビ→リターン→スルー(縦直線の崩し)
CFが背負って落とし、3人目が縦スルー。シンプルゆえに速い。落としの角度と強度が生命線。
インサイドハーフの裏抜けとワンツー
IHが最終ラインの背後へ斜めに走り、ゾーン14の受け手と壁パス。相手CHの視野外を通ると成功率が上がります。
ウイングの内側絞りとSBの外走り(インバート/アンダーラップ)
WGが内側でゾーン14を触り、SBが外から追い越す。WGが前向きで受けた瞬間、SBへ差し込んでカットバックを狙う定番形。
逆走クサビ(背中に入れて前を向く)
マーカーがボールウォッチになった瞬間、足元ではなく背中へ通す。受け手は半身でステップバック→ターン。前向きを一発で作れます。
ターゲットCFの落とし→3列目差し込み
高いボールでもOK。CFが競って落とす位置を約束し、アンカーやIHが3列目から差し込む。セカンド回収も同時に準備。
ポケット侵入からのカットバック量産ルート
ゾーン14経由でハーフスペース背後に刺し、ニア・中央・ファーで3点取りに入る。折り返しはグラウンダーが基本。
一度外へ→再エントリー(セカンドエントリー)
密集したら外へ出す→守備がラインを上げた瞬間に再び中へ。焦らず密度をコントロールします。
斜めスイッチと逆サイドのダイアゴナルラン
中盤を経由して斜めにサイドチェンジ。逆サイドWGがゴール方向へ斜め走りで最終ラインを外す。
ワイドに釣ってからの中間ポジション受け
CBが運び出し→WGがタッチラインで釣る→IHがライン間の中間で受ける→前向きで加速。守備の戸惑いをつきます。
ファルス9が降りる形と2列目の縦抜け
CFがゾーン14へ降りて受け、CBを引き出す→空いた背中にIH/WGが縦抜け。空間を作る人と使う人を分けるのがコツです。
守備ブロック別の攻め方
4-4-2への攻略ポイント(CHの脇を突く)
CH脇のポケットが狙い目。WGが幅を取り、IHが内側のライン間で受ける。CFの背負いとIHの縦抜けを同期させます。
5-3-2/5-4-1への攻略ポイント(幅とハーフスペースの同時脅威)
最終ラインが5枚なら、外と内の同時脅威が必須。WBの背中へ走らせつつ、ゾーン14で前向きの準備。サイドスイッチでWBを走らせ疲労を蓄積。
4-5-1の密度対策(サイドチェンジと3人目)
中央密度が高いので無理をしない。外→中→外と一度外す→3人目の斜め走りでラインを割ります。
マンツーマン気味の相手への工夫(ジャミング回避)
同数の入れ替えでマークを剥がす。降りる・入れ替わる・止まるの三拍子で“ズレ”を作り、背中で受ける逆走クサビが有効です。
ポジション別の役割と判断基準
センターフォワード(CF):背負う/落とす/裏抜けの配分
前半は落とし多めで周囲を巻き込み、後半は裏抜け比率を上げてCBを迷わせる。背負い時はファウルをもらう意識も選択肢。
ウイング(WG):幅の管理と内外の出入り
タッチラインで広げて内へ入る“タイミング”が命。内で受けるときはSBの外走りとセットで。逆サイドの眠りを防ぎ、中間ポジションを意識。
インサイドハーフ/攻撃的MF:前向き受けと3人目創出
ゾーン14の主役。半身受け・ワンタッチ落とし・スルーパスの三種を高品質で。受けに行くのか、空けて3人目を走らせるのかを瞬時に決めます。
サイドバック(SB):幅取り・裏抜け・インバートの選択
相手WGの足並みを見て、外走りで引っ張るか、内側(インバート)で数的優位を作るか。どちらにせよ“ゾーン14に前向きを生む”ことが目的です。
センターバック(CB)とアンカー:誘導と縦パスの質
運び出して相手を釣る→空いたレーンにクサビ。縦パスは“刺し切る”強度で。アンカーは回収と前進の両立を。
ゴールキーパー(GK):ビルドアップでの釣り出しとテンポ
相手の1stラインを引き出す配球で、中央のライン間を広げる。テンポアップのスイッチもGKの一手で入れられます。
トリガーと合図:チームで共有する認知の言語化
目印になる相手の動き(腰の向き・数的不均衡)
相手CHの腰がサイドへ向いた瞬間=中央の差しどころ。最終ラインが5枚にズレた瞬間=逆サイドのチャンス。言語化して共通認識に。
味方の合図(声かけ・ジェスチャー・キーワード)
「背中!」「返せ!」「差せ!」など短いキーワードで意思統一。手の合図(指差し・手のひら)もセットに。
ボールスピードとタッチ数をトリガー化する
「3本目は縦」「2タッチ以内で中へ」など制約を共有すると、迷いが減ってスピードが上がります。
「待つ勇気」と「刺す勇気」の使い分け
全員が止まると守備は整います。誰かが“待ち”を選んだら、別の誰かが“刺す”で針を入れる。役割の呼吸が重要です。
練習メニュー(個人/少人数/チーム)
個人:半身受けとファーストタッチの方向付けドリル
- コーン2本をゴールと逆サイドに見立て、半身で受けて一歩目で前向きに運ぶ。
- 利き足・逆足ともに、1タッチで前へ置く方向付けを反復。
2〜3人:クサビ→落とし→差し込みの反復
- 距離8〜12mの三角形。強度のある縦パス→落とし→スルーをワンタッチ中心で。
- 落とす位置は「前進できる足」。毎セット役割交代。
4〜6人:ハーフスペース×カットバック回路
- ゾーン14で前向き→ハーフスペース背後へ通す→ゴールラインで折り返し→3枚の入り。
- 二次回収の2枚を常に配置。撃って終わらない習慣を。
7人以上:オーバーロードからのサイドチェンジゲーム
- 片側に制限人数を設け集める→逆サイドへ1本でスイッチできたらボーナス。
- 逆サイドWGの中間ポジション入りを採点対象に。
限定ゲーム:ゾーン14エントリーにボーナス設定
- ゾーン14で前向き受け=+1点、そこからショットアシスト=+2点など、行動を評価。
- 数値化して習慣化を促進。
計測の仕方と負荷管理(RPE/心拍/ボリューム)
- 主観的運動強度(RPE)を終了後に全員記録。ドリル別心拍のピークも把握。
- 週の総ボリューム(本数/時間)と質(成功率)を併記し、過負荷を回避。
分析とKPI:成果を見える化する
ゾーン14エントリー回数と前向き受け率
「侵入回数」だけでなく「前向きでの受け割合」をセットで。量×質の管理がポイントです。
ショットアシストとカットバック回数
ゾーン14経由のショットアシスト数、カットバックからの決定機数をカウント。単発のミドル偏重を防げます。
PA侵入とxThreatの活用例
PA侵入の総数と質(ニア/中央/ファーの入りのバランス)。可能ならxThreatのような前進価値の指標で「どこで脅威が増えたか」を可視化。
失点リスクとボールロスト場所の管理
ゾーン14でのロストは色分けしてマップ化。即時奪回成功率とセットで監視します。
動画分析ワークフロー(撮影→タグ付け→振り返り)
- 撮影:高めの位置から全体が入る画角で。
- タグ付け:エントリー/前向き受け/ショットアシスト/ロストをボタン化。
- 振り返り:翌練開始10分で、良かった3例・改善3例を共有。
よくある失敗とリカバリー
密に入りすぎて幅が消える問題
解決策:片側は幅固定、もう片側は中間ポジションへ。誰かが外で釘付けにする役を担います。
速さだけで崩そうとして精度が落ちる
解決策:タッチ数制限より「落とす位置」「パスの角度」の基準を優先。質→量→速さの順で段階化。
前を向けない受け方(背中の情報不足)
解決策:受ける前に2回スキャン。半身でボールとゴール・逆サイドを同視野に。
予測の共有不足で3人目が遅れる
解決策:トリガーの言語化。「背中」「差せ」のキーワードを徹底し、走る人と出す人を約束。
逆サイドの眠りを防ぐローテーション
解決策:プレーが片側に寄った瞬間、逆サイドWGは中へ5m絞るルール。セカンドボールに先着できます。
相手に読まれた時の第2プラン
ミドルとリバウンドで揺さぶる
ミドルを“脅し”として使い、ブロックを上げさせたら再び背後へ。回収ラインの配置がカギ。
セットプレーをゾーン14準備の延長で設計
CK/FK後の二次球をゾーン14に落とす設計に。ミドルと差し込みの両睨みで崩します。
低い位置での釣り出しと背後即刺し
あえて下がって相手を前に出させる→空いた背中へ即刺し。GKやCBの横運びが効きます。
ボックス外からのクロスバリエーション
深さが取れない日は、ボックス外の早いクロス(ニアゾーン狙い)でCBの背中を突く手も有効です。
年代・レベル別の適用ポイント
高校・ユースでの現実的導入
まずは「クサビ→落とし→差し込み」を週3回反復。評価はゾーン14前向き受け率とショットアシスト数に絞ると浸透が早いです。
大学・社会人でのディテール強化
トリガー言語化とサインの統一、逆走クサビやインバートの使い分けなど細部を詰める。xThreat的な前進価値の視点も取り入れましょう。
親子で取り組む自主練アイデア
半身受け→前向き→壁当てスルーの3点セットを庭や公園で。声かけキーワードを親子で決めると実戦で思い出しやすいです。
1週間トレーニング計画の例
月:技術(受ける・蹴るの品質)
半身受け・方向付け・強度コントロール。逆足の落としも含めて徹底。
火:小集団パターン(崩しの型)
三角形ドリル、ポケット侵入、カットバックの精度。数値で記録。
水:休養/分析(映像レビュー)
10〜15分の動画で良例・改善点を共有。KPIを更新。
木:戦術ゲーム(制限付きゲーム)
ゾーン14エントリーで加点、ロストで減点。判断スピードを上げる。
金:セットプレー+仕上げ
二次球→ゾーン14再侵入の流れを設計。ミドルと差し込みの両方を確認。
土日:試合とレビュー(KPI更新)
実戦でのエントリー回数・前向き受け率・ショットアシスト・回収率を記録し、翌週の課題へ。
用語集(ゾーン14/ポケット/ハーフスペース/3人目 など)
用語の定義と簡潔な説明
- ゾーン14:PA正面のライン間。前向きでの決断が得点に直結しやすい地点。
- ポケット:最終ラインと中盤ラインの間の隙間。受けると有利。
- ハーフスペース:ワイドと中央の間の縦レーン。角度と選択肢が生まれやすい。
- ショットアシスト:シュートにつながるパス。
- xG:期待得点。シュートの質を確率で表す指標。
- 3人目の動き:パス交換に直接関与していない選手が、次の攻撃を完結させる動き。
- オーバーロード:人数を片側に集め、数的優位を作ること。
- アイソレーション:相手を逆側へ寄せ、1対1状況を作ること。
- カットバック:ゴールライン付近からマイナス方向へ折り返すパス。
- ネガトラ:攻撃から守備への切り替え(ネガティブトランジション)。
まとめ:頭に描いて、同じ絵を見る
共通理解がスピードと精度を生む
ゾーン14の使い方は、個のひらめきだけでは安定しません。外→中→深い、クサビ→落とし→差し込み、3人目の動き。チーム全員が同じ“崩しの型”を頭に描けた時、プレーの速さと精度が同時に上がります。
次の一歩:自チームに落とし込むチェックリスト
- ゾーン14“前向き受け率”を今週から集計する
- 三角形ドリルを週3回、距離8〜12mで反復する
- トリガーのキーワード(背中/差せ/返せ)をチームで統一する
- 逆サイドWGの中間ポジション5mルールを導入する
- ミドル後の二次回収ラインを常に2枚準備する
ゾーン14の価値は“前向きの一手”と“次の一手”。今日の練習から、再現できる型で積み上げていきましょう。
