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ハイプレス 配置例を言葉で図解:トリガー別の立ち位置

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ハイプレスは「どこで誰が動き、誰が止まるか」をチーム全員で共有できたときに初めて再現性が生まれます。本記事は、配置図を使わずに、向き・距離・優先順位を言語化して“言葉で図解”します。目で線を引けない分、5m/10m/15mといった距離と、体の向き、相手とボールの関係を丁寧に描写します。練習の前に読み合わせ、ピッチ上で同じ絵を思い浮かべられることを目指しましょう。

本記事の使い方と前提整理

用語の最小セット(1st/2nd/3rdライン、カバーシャドー、スイッチ、圧縮)

・1stライン:最前線の守備者。主にCFやWGが該当。ボール保持者へ最初に圧力をかける役。

・2ndライン:中盤の守備者。縦パスの受け手をカバーシャドーで消し、奪いに出る二番手。

・3rdライン:最終ライン。背後管理と押し上げのタイミングを担い、全体の深さを統制。

・カバーシャドー:自分の背中側にいる相手を、体の向きと立ち位置で「見えない網」に入れ、パスコースを消す技術。

・スイッチ:プレスの合図。誰が最初に行くか、いつ全体で前進するかのトリガー。

・圧縮:ボールサイドに人数と距離を寄せて、幅と縦の空間を同時に狭めること。

ハイプレスの目的とKPI(リスクとリターンの釣り合い)

目的は「高い位置で奪い、短い距離でフィニッシュに入る」こと。そのためのKPI例は以下です。

  • 高位奪取数(相手陣内または中盤高めでの奪取)/90分
  • PPDA/OPPDA(相手が自陣で行うパス数あたりの自チームの守備アクション数)
  • 被サイドチェンジ成功数と、その後の被前進率
  • ロングボール後のセカンド回収率

ハイプレスは失敗時の被カウンターが痛手になりやすい戦術です。KPIの改善だけでなく、失点起点の見直し(どのトリガーで無理をしたか)も同時に追いかけるとバランスが取れます。

言葉で図解するための表現ルール(向き・距離・優先順位)

  • 向き:原則「相手の利き足外側45度」を起点に、縦を消しながら外へ誘導。内切り/外切りはコールで即変更。
  • 距離:5m=即奪いの間合い、10m=圧力は届く、15m=カバー優先。数値は目安として共通認識に。
  • 優先順位:ゴール方向の縦パス遮断>ボール保持者への圧>逆サイドの予防。常に「縦を先に消す」。

ハイプレスの原則を言葉で図解

距離と角度:5m/10m/15mの基準と体の向き

・5m:踏み込めばワンタッチでボールに触れる距離。体の向きは斜めで内側の縦パスをシャドーに入れつつ、外へ追い込む。

・10m:相手の視線にプレッシャーを与えられる距離。ステップで一気に5mへ詰められる準備姿勢を取る。

・15m:直接奪いには行かず、カバーとスライドの準備。味方の背中を守る位置取りを優先。

カバーシャドーで消すレーン(縦・斜め・逆サイド)

最優先は「縦」。次に「内側の斜め」。最後に「逆サイドへの逃げ」。1stラインは縦と内側斜めを背中で消し、2ndラインは受け手の足元に対して半身で寄せる。逆サイドは3rdライン+逆サイドWGで“見張る”だけにし、易々と通させない心理的圧も作る。

ボールサイド圧縮と逆サイド管理(幅と深さ)

ボールサイドは縦10m×横15m程度に3〜5人を詰めるイメージ。逆サイドは1人は中寄り、もう1人は縦の背後警戒。横幅を削るほど背後の一本で割られるリスクが上がるため、深さ(最後尾の高さ)とのバランスで決める。

最終ラインの押し上げと背後管理(GKのスイーパー化)

最終ラインはボールの滞在時間に合わせて1〜3mずつ前進。CBは身体を半身で開き、背後ランへの予備動作を常に準備。GKはスイーパーとしてペナルティエリア外2〜8mを出入りし、ロングに対して最初のカバーを担う。

トリガーと禁止トリガー(行ってはいけない合図)

良いトリガー:バックパス、横パス減速、重いトラップ、浮き球の滞空、背中受けなど。禁止トリガー:相手の前向き確定、数的不利下での内側スルー、味方の押し上げ未完了。合図は「押し上げ」「内切り」「外切り」など一言で。

トリガー別の配置例(言葉で図解)

T1:バックパスが出た瞬間の立ち位置(全体の一斉前進)

1stラインは5mまで詰め、体は外切り45度。2ndラインは縦10mまで押し上げ、アンカーをシャドーに入れる。3rdラインはセンターサークル手前まで2〜3m前進。逆サイドWGは中間ポジションでサイドチェンジを牽制。

T2:横パスの速度が落ちた瞬間(斜め圧とカバーシャドー)

ボール移動中に1stが斜めから進行方向へ差し込む。背中で内側の中盤を消し、パス受けのファーストタッチを制限。2ndは縦関係を作り、受け手の内側足へ5〜7mで待ち構える。

T3:CBのファーストタッチが外に流れた時(タッチライン罠)

外へ運ばせ、タッチラインを“味方のもう1人”に。1stは外切り固定、2ndは内側の縦パス先に寄せてインターセプト準備。SBとWGで2対1の囲いを作り、足元を止めるかスローインに逃がす。

T4:CBのファーストタッチが内に入った時(内切りとアンカー消し)

1stは内切りに切替。進路を狭め、アンカーへ斜めのレーンをシャドーで遮断。2ndの8番が一列前に出て即圧、背後の6番がその分だけカバーに沈む。

T5:GKのトラップが重くなった時(GKへスプリント)

CFが一直線に5mまで詰め、片方の足へ限定。WG2枚はCBへ対して内側から外切り。2ndはアンカーとSBの中間に立ち、浮いたボールのセカンド回収を優先する。

T6:アンカー(6番)への縦パスが浮いた/バウンドした時(即圧)

受け手が前向きになれない瞬間。最も近い2ndが前から刺し、1stは背中でCBへの戻しを遮断。後方は5m前進して縦の分断を完成させる。

T7:サイドライン際での背中受け(背面からの制限と逆回収)

受け手の背中側から寄せ、外足を止める。内側は2ndのカバーでカット。落としや背面ターンを許さない距離(3〜5m)で“止めて奪う”を徹底。

T8:SBへの高いボール(競りと落下点の先取り)

WGが競り、SB/8番が落下点先取り。1stはCBへのリターンをシャドーで遮断。3rdは一列押し上げ、こぼれの二次回収を拾う。

T9:相手のスローイン(自陣側)を罠にする(3人目奪取)

投げ手の選択肢を3つに限定。受け手の背中側に2nd、投げ手と受け手を1stが同時に視野に入れ、3人目の戻しに対して前向きで差し込む。

T10:サイドチェンジの浮き球中(ボール移動中の前進)

滞空中にライン全体で3〜5m前進。着地点の受け手に対し、1stが体を内向き45度で寄せ、2ndは内側レーンの刈り取り準備。逆サイドWGは中へ絞り、二次のサイドチェンジを遅らせる。

T11:3バックの幅取りに対する当て方(外誘導と内切りの使い分け)

外誘導:CFが中央CBへ内切り、WGが外CBへ直進。内切り:WGが外CBへ内切り、CFが中央の縦を消す。相手のアンカー位置で切り替える。

T12:2CB+アンカーの菱形を崩す(縦切りと斜め圧の連動)

CFがCB→アンカーの縦をシャドーで切り、WGが斜め前からCBへ圧。8番がアンカーの背中に貼り、背面受けを不可能にする。

T13:ゴールキック(短い/長い)への配置(ゾーン分担)

短い:CFはGKの利き足側45度に、WGはSBを内側から消す。8番はアンカーの逆足側へ。長い:CBは競り要員+カバー要員で分担、周囲は落下点周り8〜10mの輪を作る。

T14:ロングボール後のセカンドフェーズ(回収隊形)

競り→落下点→逆サイドの順に三角形を形成。最初に触れなくても、二つ目・三つ目で奪う前提で5〜8mの距離感をキープ。

T15:GK→SB→WGの三角回避への対抗(パス先先で止める)

SBへ行きながら、WGへの次の線を先に消す。1stは曲線的に走り、SBには「外は空けるが内は通さない」角度で。2ndがSB→内の縦に差し込み、三角の3本目を断つ。

フォーメーション別:立ち位置の基準と微調整

4-3-3のハイプレス(WGの内切り基準と8番の押し上げ)

WGは内切りが基本。8番は片方が前進、もう片方がカバーの縦関係に。アンカーはCB背後の蓋として5〜8mの距離を維持。

4-4-2のハイプレス(2トップの角度とサイドハーフの役割)

2トップは片方が内切り、片方がアンカーの影に立つ。SHはSBへ出るが、背後のWGを3rdと分担。縦スライドでライン間を閉じる。

4-2-3-1のハイプレス(10番の影とダブルボランチの縦スライド)

10番はアンカーを影で消す役。ダブルボランチはボールサイドが前進、逆サイドが蓋。距離は6〜8mで上下動。

3-4-3/5-4-1のハイプレス(ウイングバックの高さ管理)

WBは相手SBへ出られる位置に初期配置。背中はCBが外に引き出されすぎないよう三角形を保つ。1トップは内切りで中央封鎖。

相手3バック/2CB+アンカー/ダブルピボーテへの合わせ方

3バックには外誘導、2CB+アンカーには縦切り、ダブルピボーテにはボックスの片側を圧縮して分断がベース。

相手のビルドアップ型別の当てはめ

2CB+アンカー(1-2の土台)を消す配置

CFがアンカーの縦切り、WGがCBへ。8番はアンカー背後に影を落とす。戻しを許すが、前進の縦は消す。

2CB+ダブルピボーテ(2-2ボックス)を分断する配置

ボールサイドのピボーテへ2ndが刺し、逆サイドは捨て気味。CFはCB間の横パスに合わせて角度を変え、四角形の片側を潰す。

3-2(偽SB/偽CB含む)への外→内の罠

外CBに誘導してから内へ一気に圧縮。内側の2に対しては受け手の前を取る競争を仕掛ける。

3-1(リベロ型)に対する内切りと背後管理

中央リベロへは内切りで縦を遮断。WBの高さに応じて3rdの背後ラインは1〜2m深めに設定し、ロングのケアを優先。

GKを第11人とするビルドアップへの圧の掛け方

GKへの戻しに対して利き足外側から曲線で詰める。CB→GK→逆CBの三角を、2ndのスライド前進で切断。

奪った後のファーストアクション設計

5秒ルールと3レーン前進(縦・斜め・外→内)

奪取から5秒は最短距離でゴールへ。中央・右斜め・左外の3レーンで一人ずつ同時前進し、選択肢を3つ用意。

ボール保持者の選択肢3つと周囲の準備

即縦、斜め裏、保持の3択。周囲は「逆足前」「視野確保」「背後スタート」を同時に整える。

カウンタープレス(リプレッシング)への移行合図

前進が詰まった瞬間に最短5mで再圧。外側は切らず、内側を閉じて奪い直す。合図は「再圧」。

リスク管理と裏ケアの言語化

最終ラインの背後コントロール(体の向き・予備動作)

半身で内向き、利き足側の裏へ出られない角度に。相手FWの視線が裏へ動いた瞬間に一歩先に下がる予備動作。

GKのスイーパー化とスタートポジション

ハイライン時はPA外2〜8mにベースを置き、背後の刈り取り役に。味方CBの対人強度次第で高さを微調整。

ファウルマネジメントと危険地帯の切り方

中央30mは不用意な後ろからの接触を避け、外へ追い出してから奪う。止めるファウルはタッチライン際で、素早いリトリートをセット。

トレーニングメニュー(現場で即使える)

3v3+2サーバー:トリガー反応の基礎

横パス減速・浮き球・重いトラップの合図で一斉圧。5m/10mの距離コールを味方同士で出し合う。

6v4ビルド対プレス:非対称の角度作り

4はCF+WG+8番想定。内切り/外切りをコーチがコールし、角度変更を即時に。成功条件は「縦パス遮断回数」。

8v8ハーフピッチ:ゾーン制限付きの圧縮

ボールサイド15mレーンのみ侵入可にし、逆サイドは中間ポジション義務。サイドチェンジ時に3m前進のルールを付与。

11v11:トリガー宣言ルールと評価方法

キャプテンまたはGKが「押し上げ/内切り/外切り」を宣言。各宣言後の3アクション以内に奪取できた数を集計。

個別練習:1st/2ndディフェンダーの役割交換ドリル

2人1組で、内切り→外切り→縦切りを15秒ごとに交代。体の向きと踏み込みの癖を矯正。

データで測るハイプレスの質

PPDA/OPPDAの読み方(落とし穴と目安)

数値が低いほど前から守備をしている傾向。ただし相手のプレースタイルや天候で変動。試合内の分割(前半/後半、スコア状況)で比較する。

ハイターンオーバー(高位奪取)と期待値の関係

高位で奪うほどシュートまでの距離が短くなる傾向。単純な回数だけでなく、奪取後の最初のパス成功率も併記すると実効性が見える。

被ロングボール後の回収率と守備の安定性

競り勝ちよりも「二つ目・三つ目回収率」が安定の鍵。配置と距離の再現性を見る。

失点の起点分析:どのトリガーで破綻したか

「誰が出たか」より「いつ出たか」。押し上げ未完了で出たのか、禁止トリガーで無理をしたのかを特定する。

コールワードとチーム内の共通言語

一言で通じる合図(押し上げ・内切り・シャドー)

・押し上げ:全体2m前進。・内切り/外切り:角度変更。・シャドー:背中で消せの合図。短く、誰でも出せる言葉に統一。

ベンチからのコーチング例(位置・角度・優先順位)

「縦消して!」「角度45!」「逆見張って!」のように、消すレーン→体の向き→逆サイドの順で伝える。

主将とGKの役割分担(誰がいつ号令するか)

主将はフィールドの押し上げスイッチ、GKは背後管理の号令。二重コールにならないよう事前に役割固定。

よくある失敗を直すチェックリスト

早すぎるプレッシャー/遅い押し上げのズレ修正

出る人は相手のトラップ方向を見てから0.3秒待つ、押し上げはボール移動中に実行。この順序を徹底。

2ndラインが平坦になる問題(層の分離で解決)

縦関係を30〜40cmでも作れば視野とシャドーが安定。足元一直線をやめ、半身で段差を作る。

アンカーを消せない時のシャドー角度調整

相手の利き足外側に立ち、背中をアンカーへ向ける。膝とつま先の向きまで合わせると効果が上がる。

背後一発で外される時のCB/GK連携

CBは予備動作を早く、GKはスタート位置を1〜2m高く。合図は「背中!」で即共通認識。

疲労時のプレス強度維持(交代とブロック化)

交代の合図はPPDA悪化やスプリント回数低下を目安に。5分間だけブロック化して呼吸を整えるオプションも持つ。

年代・レベル別のアレンジ

高校・大学:強度を保つローテーション設計

WGと8番のタスクが重くなるため、時間帯で役割を入れ替え、スプリント負荷を分散する。

社会人・アマチュア:勤務後の負荷管理と簡素化

トリガーを3つ(バックパス、横減速、浮き球)に絞る。距離のコールを共通化して疲労時の判断を補助。

ジュニアユース:距離感の学習優先と成功体験作り

5m・10mゲームで感覚を先に作り、後から戦術語を当てはめる。奪えた回数を可視化してモチベーションに。

試合前準備と相手分析のテンプレ

相手GKの足元・利き足・視線癖のチェック

利き足側への逃げ癖、視線が先に向く方向を確認。ゴールキックの短い/長いの傾向もメモ。

CBのファーストタッチ方向と運ぶ癖

外に運ぶのか内に入るのかでT3/T4を使い分け。肩の向きと準備姿勢で事前に読めることが多い。

アンカーの立ち位置と受け方(体の向き)

背中受けが多いなら即圧、半身で前向きが早いならシャドーで先に消す。利き足前に置かせない。

ゴールキック配置の傾向とリスタート速度

素早い再開なら初期配置を高めに。GKが溜めるタイプならT1/T5を狙う。コーチ陣で事前に合図の優先順位を決める。

FAQ(実戦で湧きやすい疑問)

プレスが外された直後は前進か撤退か?

外された地点と人数状況で判断。中央で外れたら即撤退、サイドで外れたら再圧が基本。

WGは内切りと外切りどちらが基本?

基本は内切り(縦遮断)。相手SBが内側に強い場合のみ外切りでタッチライン罠へ。

相手がロング一辺倒ならどうする?

セカンド回収の配置を優先。1stは行き過ぎず、落下点の周囲8〜10mに厚みを作る。

同点終盤とリード終盤での優先順位は?

同点:奪って短く刺す。リード:外誘導→遅らせ→回収の三段構え。無理な前進は避ける。

審判基準が厳しい日の寄せ方は?

正面からの奪いに切替。手の使用を減らし、進路妨害ではなく角度で奪う。

まとめ:合図・角度・距離を整えればハイプレスは再現できる

今日から使える3つの約束事

  • 縦を先に消してから寄せる(常に内側45度)
  • 5m/10m/15mを声で共有(詰めるか、待つか、カバーか)
  • トリガーは「バックパス・横減速・重いトラップ」を最優先

振り返りノートの付け方(次節へつなげる)

成功したトリガー/失敗したトリガー、押し上げのタイミング、背後ケアの位置を試合時間とセットで記録。動画と合わせて「いつ出たか」を中心に見返すと、次節の修正点が明確になります。

図がなくても、共通の言葉があればピッチで同じ絵を描けます。合図・角度・距離。この3つをそろえるだけで、ハイプレスは“怖い賭け”から“積み上げられる武器”に変わります。明日のトレーニングから、まずは一つのトリガーに絞ってチームの合意を作ってみてください。

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