相手のビルドアップを「何となく」で追いかけると、追えば追うほど外されます。勝負を分けるのは、行くか行かないかの判断をそろえる“合図(トリガー)”。この記事は、図解イメージをテキストで可視化しながら、今日から共通認識にできるプレスの合図を整理します。読むだけで終わりにせず、練習メニューとチェックリストまで一気通貫で使える内容にしました。
目次
- はじめに — プレスの合図(トリガー)を“図解イメージ”で整理する目的
- プレスの原則と狙いを30秒で俯瞰
- エリア別のプレス合図(トリガー)マップ
- 技術・身体の向きに由来する典型トリガー10選
- パス方向・配球パターンに由来するトリガー
- システム別:4-4-2/4-3-3/3-4-3のプレス設計
- 図解イメージで見る「はめ方」パターン集(テキスト視覚化)
- カウンタープレス(即時奪回)のトリガーと条件
- リスク管理:行く/行かないの判断基準
- 相手にトリガーを与えない攻撃側の対策(対策を知ることで精度を上げる)
- 年代・レベル別の留意点と導入順序
- 練習メニュー:トリガーの認知→実行をつなぐ
- 図解イメージの作り方:チーム内共有テンプレート
- 映像分析とデータで“合図”を可視化する
- よくある誤解とつまずきの処方箋
- ケーススタディ:一般化できる学びの抽出
- チェックリストと試合前の合図共有
- まとめ:明日から使える“3つの実装ステップ”
- おわりに
はじめに — プレスの合図(トリガー)を“図解イメージ”で整理する目的
この記事の読み方と到達目標
狙いはシンプルです。全員が同じ「絵」を頭に持ち、同じ合図で一歩目をそろえること。読み終えたら、チームで「優先合図を3つ」に絞り、言葉と図で共有できる状態を目指します。
- まずは原則と合図の意味を理解(全体像の把握)
- 次にエリア別・状況別の具体例をインプット(図解で視覚化)
- 最後に練習メニューとチェックリストで実装(明日から運用)
図解イメージ(テキスト表現)の凡例と記号ルール
O=自チーム X=相手 G=ゴールキーパー→/↗/↘=移動・プレス方向 ⇒=強いプレス↑/→=体の向き(受け手の向き)( )=カバーシャドー(通させない線)[ ]=ゾーン/レーン表示—— = サイドライン | = 縦ライン
プレスの合図(トリガー)とは何か:用語定義と誤解の整理
プレスの合図(トリガー)は、「いま行けば確率が高い」という共同サインです。個人の気合ではなく、ボール保持者の技術・体の向き・パス方向・味方と相手の配置から生まれる「客観的に優位な瞬間」。誤解されやすいのは「合図=常に奪いに行く」こと。実際は“遅らせる”“方向づける”が主目的になる場面も多く、奪取は結果です。重要なのは合図でスイッチが入り、役割と角度がそろうこと。
プレスの原則と狙いを30秒で俯瞰
意図:奪う/遅らせる/方向付けるの優先順位
- 最優先:ゴールに近い危険を下げる(遅らせる)
- 次点:狙ったレーンへ誘導し、奪取ゾーンを作る(方向付ける)
- 条件が整えば:数的/位置的優位で奪う(奪取)
役割分担:1st/2nd/3rdディフェンダーの機能
- 1st:ボール保持者へ角度つきで接近、利き足/パスコースを制限
- 2nd:最短の逃げ道に待ち構える(インターセプト/出所封鎖)
- 3rd:背後と逆サイドを管理、奪った後の出口も準備
時間・距離・角度:成功率を左右する3要素
- 時間:トラップ直後/視線低下など「一瞬の停止」を逃さない
- 距離:2~6mは奪取、7~10mは遅らせ/方向づけが適正目安
- 角度:内切り/外切りの選択で奪取ゾーンへ誘導
エリア別のプレス合図(トリガー)マップ
GK/CBのビルドアップ開始局面でのトリガー
- CBの体がGK方向へ開いた瞬間(バックパス予備動作)
- GKの片足限定のトラップ(戻しが弱い/方向限定)
- 縦パス後のCBのリカバリー歩幅が乱れた瞬間
[G]—X—X ↖ |O→ X⇐(内切りでアンカーを影に)
SB/ウイングのサイドレーンでのトリガー
- タッチライン方向へ背中が向く(内側が見えない)
- サイドチェンジの落下点で受け手が後ろ体重
- SBが高すぎて背後のサポートが不在
IH/ボランチの中央レーンでのトリガー
- 背中向きの縦受け(ファーストタッチが逃げる)
- アンカーが単独で孤立(サポート角度ゼロ)
- 内へのくさびに対して視線が落ちる(認知固定)
最終ライン裏のスペース管理から生まれるトリガー
- 相手CFがボールサイドと逆で遅れている(背後ランの脅威が低い)
- 長いボールの助走が取れない体勢
- 風向き/ピッチ状態でロングが伸びない日(環境も合図)
セットプレー明け・リスタート時のトリガー
- スローイン受けの背中向き・足元密集
- CK/FK明けの配置ずれ(アンバランスな間合い)
- 主審の笛後、最初のパスが横/戻しで遅い
技術・身体の向きに由来する典型トリガー10選
背中向きの受け手(前進不能の体の向き)
背中向きは内側への選択肢が少ない。1stは背中を固定、2ndは前向きの出口を消す。
トラップが浮いた/流れた(制御不全)
浮いた瞬間は地面との接点ゼロ。0.5秒の停止で距離を詰める。
逆足での受け直しが必要(テンポ低下)
逆足の持ち替えは視線が落ちやすい。内切りで持ち替え方向を誘導。
視線がボールに落ちる(認知の固定化)
顔が下がったら「寄せの合図」。背後の受け手はライン上げでオフを狙う。
重心が止まる/後ろ体重(再加速困難)
着地のタイミングでスプリントを合わせる。コンタクトは反則にならない範囲で。
受け手が孤立(サポート角度ゼロ)
孤立は「はめ所」。2ndが奪う気で、3rdは奪った後の出口を開ける。
横パスで速度が落ちる(滞留)
横→横は並行移動で前進意図が薄い。ボールが外側へ移るほど外誘導で圧縮。
バックパスでボールが死ぬ(弱い戻し)
弱い戻しは進行方向が限定。GK/CBへ「同時圧縮」。
GKへの戻しが片足限定(予測可)
利き足側へ限定して角度を作る。逆足へは切らず、蹴らせて回収。
ボールと味方の距離が開く(ライン間伸長)
縦に間延びした瞬間は分断のチャンス。1stが縦を切り、2ndが内側で奪取を狙う。
パス方向・配球パターンに由来するトリガー
横パス→横パス(並行移動の連続)
守備側は“波”でスライド。3本目の横パスで一気に圧縮が基本。
バックパス→前進断念の合図
戻しの瞬間はラインアップの合図。前に出て距離を詰める。
縦パスの受け手が背中向き(背中捕獲)
カバーシャドーで縦を消してから寄せ、後ろ向きのまま奪取ゾーンへ誘導。
サイドチェンジの浮き球(移動中に圧縮)
ボールが空中の間に10~15mスライド。落下点で二重囲い。
内へのくさびに対する内切り/外切りの選択
相手の得意足とサポート角度で決定。奪いたいゾーンへ“鍵かけ”を選ぶ。
システム別:4-4-2/4-3-3/3-4-3のプレス設計
4-4-2の外切り基調とCB→SB誘導
X(CB) ⇒ X(SB) ↑内切りでアンカー影O(FW)→ O(WG)⇒タッチラインへ圧縮
2トップでCBを分断し、外へ誘い、サイドで数的同数〜優位に。
4-3-3の内切り基調とアンカー締め
WGが内切りでアンカーを影に入れ、CFが片CBへ圧力。逆SBを遠くする。
3-4-3の斜め圧縮とWBの高さ管理
斜めの圧縮で外と中を同時に締める。WBの高さは背後ケアとトレード。
ミラープレスと非ミラーの使い分け
相手と同数で当てるミラープレスは奪取力が高いが、背後リスクが増える。非ミラーは出口を誘導し、待ち構える。
前線の枚数と背後リスクのトレードオフ
1枚増やすと1ライン薄くなる。相手のロング精度と自陣カバー能力で調整。
図解イメージで見る「はめ方」パターン集(テキスト視覚化)
サイドで三角形を作る“袋小路”
———Touch——— X(SB) ↙ O(WG) OSB→ OIH↑(内鍵)
WGが外、SBが前、IHが内で鍵。出口は後ろのみ=戻しを合図に圧縮。
CB→SB→WGでのスイッチ封鎖
X(CB)→X(SB)→X(WG) OCF→ OSB⇒ OWG⇐(挟む)
逆サイドの閉鎖でスイッチ面を消す
弱サイドのOWGは中へ絞り( )でサイドチェンジ遮断(逆サイドを“消してから”寄せる=逃げ道なし)
ハーフスペースの扉を開けない“内鍵”
ライン間[ハーフスペース]O(IH)が( )で受け手を影に→外へ誘導→袋小路
縦ズレ/横ズレの連動(1st-2nd-3rdの階段)
1st=前へ縦ズレ 2nd=同レーンで待つ 3rd=横ズレで背後ケア
カバーシャドーで縦のラインを切る
O→( )→X(縦パス線が“影”に入る)体の向きで切るから奪いに行きやすい
カウンタープレス(即時奪回)のトリガーと条件
失って3秒・10mルール(回収半径の概念)
失って3秒以内・ボールから10m以内に3人以上いれば即時奪回を選択。これを外れたら即撤退が原則。
外→内/内→外の切り替え方向
外で失ったら内へ圧縮、中央で失ったら外へ逃がす。危険度の高い中央を最短で閉じる運用。
ボールサイドの人数・角度・距離の最適化
- 人数:3人以上
- 角度:180度包囲(正面+斜め2方向)
- 距離:2~6mの射程をキープ
ファウルマネジメントと“止める”勇気
カウンター危険域では戦術的ファウルも選択肢。ただしカード/位置/時間帯で判断。
リスク管理:行く/行かないの判断基準
最終ラインの枚数と背後ケア(カバーの優先)
最終ラインが2枚しか残らないなら、行く人数を1人減らす。SBの内絞りで背後ケアを優先。
相手の長いボールに対する準備
風上・足の速いCF・高精度CBの有無でライン設定を変える。セカンド回収位置を事前に決める。
体力の波とプレス強度の配分(ゾーン管理)
前半15分/後半立ち上がりに強度MAX、飲水前後はコントロールなど、チームで波を設計。
イエロー/ファウルリスクと賢い撤退
警告持ちは“方向づけ専任”。無理に刈り取らず、遅らせ役に切り替える。
相手にトリガーを与えない攻撃側の対策(対策を知ることで精度を上げる)
体の向きとワンタッチの設計
受け手は半身、ワンタッチで前向きへ。守備側はこれを崩す角度で寄せる。
GKを絡めた3人目・4人目の関与
GKを3人目にするとプレスの矢印がズレる。守備側はGKへの戻しを合図に全体前進。
幅と深さの同時確保(縦横ストレッチ)
幅と深さを広げられるとプレスは伸ばされる。守備側は片方を先に閉じ、もう片方を遅れて閉じる“波”。
遅い横パスを作らない“テンポ守護”
横→横→戻しは最大の合図。攻撃側はテンポを落とさない、守備側は落ちるのを待ってはめる。
年代・レベル別の留意点と導入順序
高校年代:運動量依存からの脱却(合図の言語化)
「トラップ浮いたらGO」「戻しで前進」のように短い言葉で統一。走る前に合図。
大学・社会人:相手分析とゲームモデルの整合
相手の得意足/配球傾向を事前にタグ化。自チームのモデルに合う合図だけを採用。
育成年代:個人守備原則→小集団→全体へ段階化
1対1の角度→2対2でカバー→3対3で方向づけ→全体。段階を飛ばさない。
練習メニュー:トリガーの認知→実行をつなぐ
2対2+サーバー:体の向き認知ドリル
条件:サーバーから受け手が背中向きで受けたら守備は即GO。攻撃は半身で受ければ加点。
3対3+フリーマン:背中捕獲と内切り/外切り判断
フリーマンへの縦を影で切る→外へ誘導→戻しで圧縮の流れを反復。
5対5+GK:サイド圧縮と逆サイド閉鎖ルール
逆サイドWGは必ず中へ絞る。サイドで袋小路→戻しで全体前進。
8対8/11対11:トリガー宣言制ゲーム(言語化)
誰かが「戻し!」と宣言→全員の反応速度を評価。宣言と実行のズレを映像で即確認。
負荷設定(ピッチサイズ/制限タッチ/時間)
- 狭い×少タッチ=認知速度の強化
- 広い×多タッチ=背後リスクの判断強化
図解イメージの作り方:チーム内共有テンプレート
簡易ピッチ図の描き方(縦5×横3ゾーン)
[守] [中] [攻][左] [中] [右] の3×5マスで位置関係を共有
矢印/影の使い分け(圧力・カバー・カット)
- ⇒:圧力の最短線
- ( ):カバーシャドーで通させない線
- →:誘導方向(強制ではなく“案内”)
共有フォーマット例:合図→動き→狙い→リスク
合図:戻しが弱い動き:全体3m前進/内切り狙い:SBで袋小路→奪取リスク:背後の1本→最終ラインの高さ注意
映像分析とデータで“合図”を可視化する
タグ付け手順:発火→アプローチ→結果
- 発火:どの合図で動いたか(例:背中向き/戻し)
- アプローチ:1st/2nd/3rdの角度と距離
- 結果:奪取/遅らせ/突破/ファウル
PPDA/ハイリカバリー数の読み方
PPDAは相手のパス1本あたりにどれだけ圧力をかけたかの目安。低いほど圧力高。ハイリカバリーは敵陣でのボール奪回数。合図の質が上がると、同じ運動量でも数値が改善しやすい。
個人・ユニット別の貢献度指標
「発火に関与した回数」「影で切った縦パス数」「戻しに合わせた前進距離」など、目に見えにくい貢献を可視化。
よくある誤解とつまずきの処方箋
“走れば奪える”は誤り:角度と距離が先
直線ダッシュは外される。半身で近づき、影で縦を消してから寄せる。
全員同時に行くのではなく“波”で行く
1stが合図と角度を作り、0.5秒後に2nd、さらに0.5秒後に3rd。波の時間差が外しにくさ。
FWがサボると全て崩れる理由(1stの価値)
1stが方向づけを失うと後ろは「正解の角度」を失う。前からの影が全ての基準。
奪えない時間帯の“遅らせ”の作法
前進スピードだけ落とせばOK。無理に取り切らず、ラインを整えるまで時間を買う。
ケーススタディ:一般化できる学びの抽出
ハイプレス成功例:GK戻しを合図に圧縮
X(CB)→X(G) 合図! OCF⇒ OWG内切り⇒ OSB前進→結果:SBへ誘導→袋小路→スローイン奪取
ミドルブロックでの中央封鎖と外誘導
IHがアンカーを影に入れ、外へ誘導。外で回収できなくても中央が閉まっている限り致命傷にならない。
ローブロックからのカウンタープレス転換
自陣で奪取→前向きへの出口を準備→失ったら即3秒・10mルールで回収。低い位置でも合図は同じ。
チェックリストと試合前の合図共有
口頭合図/ジェスチャーの統一(簡潔3語)
- 「戻し!」=全体前進
- 「背中!」=縦切って寄せ
- 「浮いた!」=一気圧力
キックオフ前の確認10項目
- 優先合図トップ3
- 内切り/外切りの基準
- 1st/2nd/3rdの担当
- GK戻し時の全体前進幅
- 逆サイドの絞り位置
- ロング対策のライン設定
- カード持ちの役割変更
- 飲水前後の強度プラン
- セットプレー明けの合図
- カウンタープレスの撤退条件
ハーフタイム修正の優先順位
- 合図が機能しているか(発火→結果の整合)
- 距離・角度のズレ(誰が遅い/早い)
- 背後リスクとラインの高さ再設定
まとめ:明日から使える“3つの実装ステップ”
合図を減らして深く(優先合図を3つに絞る)
「戻し」「背中」「浮いた」に限定。まずはこれだけで一歩目をそろえる。
図解イメージで同じ絵を見て話す
ピッチを3×5に分け、O/Xと矢印/影だけで共有。複雑な戦術語より、同じ図が強い共通言語。
練習→映像→修正のループを短く回す
宣言制ゲームで合図→映像で確認→数値(PPDA/ハイリカバリー)で評価。翌練習で修正。
おわりに
プレスは“運動量の勝負”ではなく、“合図の共有”で決まります。勝てる瞬間に全員が同じ角度で踏み出せるか。今日、チームで優先合図を3つ決め、テキスト図解で掲示板に貼ってください。合図がそろった瞬間、同じ走行距離でも守備は別物に変わります。
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