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プレスの合図(トリガー)具体例を図解イメージで整理

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相手のビルドアップを「何となく」で追いかけると、追えば追うほど外されます。勝負を分けるのは、行くか行かないかの判断をそろえる“合図(トリガー)”。この記事は、図解イメージをテキストで可視化しながら、今日から共通認識にできるプレスの合図を整理します。読むだけで終わりにせず、練習メニューとチェックリストまで一気通貫で使える内容にしました。

はじめに — プレスの合図(トリガー)を“図解イメージ”で整理する目的

この記事の読み方と到達目標

狙いはシンプルです。全員が同じ「絵」を頭に持ち、同じ合図で一歩目をそろえること。読み終えたら、チームで「優先合図を3つ」に絞り、言葉と図で共有できる状態を目指します。

  • まずは原則と合図の意味を理解(全体像の把握)
  • 次にエリア別・状況別の具体例をインプット(図解で視覚化)
  • 最後に練習メニューとチェックリストで実装(明日から運用)

図解イメージ(テキスト表現)の凡例と記号ルール

O=自チーム X=相手 G=ゴールキーパー→/↗/↘=移動・プレス方向 ⇒=強いプレス↑/→=体の向き(受け手の向き)( )=カバーシャドー(通させない線)[ ]=ゾーン/レーン表示—— = サイドライン | = 縦ライン

プレスの合図(トリガー)とは何か:用語定義と誤解の整理

プレスの合図(トリガー)は、「いま行けば確率が高い」という共同サインです。個人の気合ではなく、ボール保持者の技術・体の向き・パス方向・味方と相手の配置から生まれる「客観的に優位な瞬間」。誤解されやすいのは「合図=常に奪いに行く」こと。実際は“遅らせる”“方向づける”が主目的になる場面も多く、奪取は結果です。重要なのは合図でスイッチが入り、役割と角度がそろうこと。

プレスの原則と狙いを30秒で俯瞰

意図:奪う/遅らせる/方向付けるの優先順位

  • 最優先:ゴールに近い危険を下げる(遅らせる)
  • 次点:狙ったレーンへ誘導し、奪取ゾーンを作る(方向付ける)
  • 条件が整えば:数的/位置的優位で奪う(奪取)

役割分担:1st/2nd/3rdディフェンダーの機能

  • 1st:ボール保持者へ角度つきで接近、利き足/パスコースを制限
  • 2nd:最短の逃げ道に待ち構える(インターセプト/出所封鎖)
  • 3rd:背後と逆サイドを管理、奪った後の出口も準備

時間・距離・角度:成功率を左右する3要素

  • 時間:トラップ直後/視線低下など「一瞬の停止」を逃さない
  • 距離:2~6mは奪取、7~10mは遅らせ/方向づけが適正目安
  • 角度:内切り/外切りの選択で奪取ゾーンへ誘導

エリア別のプレス合図(トリガー)マップ

GK/CBのビルドアップ開始局面でのトリガー

  • CBの体がGK方向へ開いた瞬間(バックパス予備動作)
  • GKの片足限定のトラップ(戻しが弱い/方向限定)
  • 縦パス後のCBのリカバリー歩幅が乱れた瞬間
[G]—X—X   ↖  |O→    X⇐(内切りでアンカーを影に)

SB/ウイングのサイドレーンでのトリガー

  • タッチライン方向へ背中が向く(内側が見えない)
  • サイドチェンジの落下点で受け手が後ろ体重
  • SBが高すぎて背後のサポートが不在

IH/ボランチの中央レーンでのトリガー

  • 背中向きの縦受け(ファーストタッチが逃げる)
  • アンカーが単独で孤立(サポート角度ゼロ)
  • 内へのくさびに対して視線が落ちる(認知固定)

最終ライン裏のスペース管理から生まれるトリガー

  • 相手CFがボールサイドと逆で遅れている(背後ランの脅威が低い)
  • 長いボールの助走が取れない体勢
  • 風向き/ピッチ状態でロングが伸びない日(環境も合図)

セットプレー明け・リスタート時のトリガー

  • スローイン受けの背中向き・足元密集
  • CK/FK明けの配置ずれ(アンバランスな間合い)
  • 主審の笛後、最初のパスが横/戻しで遅い

技術・身体の向きに由来する典型トリガー10選

背中向きの受け手(前進不能の体の向き)

背中向きは内側への選択肢が少ない。1stは背中を固定、2ndは前向きの出口を消す。

トラップが浮いた/流れた(制御不全)

浮いた瞬間は地面との接点ゼロ。0.5秒の停止で距離を詰める。

逆足での受け直しが必要(テンポ低下)

逆足の持ち替えは視線が落ちやすい。内切りで持ち替え方向を誘導。

視線がボールに落ちる(認知の固定化)

顔が下がったら「寄せの合図」。背後の受け手はライン上げでオフを狙う。

重心が止まる/後ろ体重(再加速困難)

着地のタイミングでスプリントを合わせる。コンタクトは反則にならない範囲で。

受け手が孤立(サポート角度ゼロ)

孤立は「はめ所」。2ndが奪う気で、3rdは奪った後の出口を開ける。

横パスで速度が落ちる(滞留)

横→横は並行移動で前進意図が薄い。ボールが外側へ移るほど外誘導で圧縮。

バックパスでボールが死ぬ(弱い戻し)

弱い戻しは進行方向が限定。GK/CBへ「同時圧縮」。

GKへの戻しが片足限定(予測可)

利き足側へ限定して角度を作る。逆足へは切らず、蹴らせて回収。

ボールと味方の距離が開く(ライン間伸長)

縦に間延びした瞬間は分断のチャンス。1stが縦を切り、2ndが内側で奪取を狙う。

パス方向・配球パターンに由来するトリガー

横パス→横パス(並行移動の連続)

守備側は“波”でスライド。3本目の横パスで一気に圧縮が基本。

バックパス→前進断念の合図

戻しの瞬間はラインアップの合図。前に出て距離を詰める。

縦パスの受け手が背中向き(背中捕獲)

カバーシャドーで縦を消してから寄せ、後ろ向きのまま奪取ゾーンへ誘導。

サイドチェンジの浮き球(移動中に圧縮)

ボールが空中の間に10~15mスライド。落下点で二重囲い。

内へのくさびに対する内切り/外切りの選択

相手の得意足とサポート角度で決定。奪いたいゾーンへ“鍵かけ”を選ぶ。

システム別:4-4-2/4-3-3/3-4-3のプレス設計

4-4-2の外切り基調とCB→SB誘導

X(CB) ⇒ X(SB)   ↑内切りでアンカー影O(FW)→  O(WG)⇒タッチラインへ圧縮

2トップでCBを分断し、外へ誘い、サイドで数的同数〜優位に。

4-3-3の内切り基調とアンカー締め

WGが内切りでアンカーを影に入れ、CFが片CBへ圧力。逆SBを遠くする。

3-4-3の斜め圧縮とWBの高さ管理

斜めの圧縮で外と中を同時に締める。WBの高さは背後ケアとトレード。

ミラープレスと非ミラーの使い分け

相手と同数で当てるミラープレスは奪取力が高いが、背後リスクが増える。非ミラーは出口を誘導し、待ち構える。

前線の枚数と背後リスクのトレードオフ

1枚増やすと1ライン薄くなる。相手のロング精度と自陣カバー能力で調整。

図解イメージで見る「はめ方」パターン集(テキスト視覚化)

サイドで三角形を作る“袋小路”

———Touch———   X(SB)  ↙   O(WG)  OSB→     OIH↑(内鍵)

WGが外、SBが前、IHが内で鍵。出口は後ろのみ=戻しを合図に圧縮。

CB→SB→WGでのスイッチ封鎖

X(CB)→X(SB)→X(WG)   OCF→  OSB⇒  OWG⇐(挟む)

逆サイドの閉鎖でスイッチ面を消す

弱サイドのOWGは中へ絞り( )でサイドチェンジ遮断(逆サイドを“消してから”寄せる=逃げ道なし)

ハーフスペースの扉を開けない“内鍵”

ライン間[ハーフスペース]O(IH)が( )で受け手を影に→外へ誘導→袋小路

縦ズレ/横ズレの連動(1st-2nd-3rdの階段)

1st=前へ縦ズレ 2nd=同レーンで待つ 3rd=横ズレで背後ケア

カバーシャドーで縦のラインを切る

O→(  )→X(縦パス線が“影”に入る)体の向きで切るから奪いに行きやすい

カウンタープレス(即時奪回)のトリガーと条件

失って3秒・10mルール(回収半径の概念)

失って3秒以内・ボールから10m以内に3人以上いれば即時奪回を選択。これを外れたら即撤退が原則。

外→内/内→外の切り替え方向

外で失ったら内へ圧縮、中央で失ったら外へ逃がす。危険度の高い中央を最短で閉じる運用。

ボールサイドの人数・角度・距離の最適化

  • 人数:3人以上
  • 角度:180度包囲(正面+斜め2方向)
  • 距離:2~6mの射程をキープ

ファウルマネジメントと“止める”勇気

カウンター危険域では戦術的ファウルも選択肢。ただしカード/位置/時間帯で判断。

リスク管理:行く/行かないの判断基準

最終ラインの枚数と背後ケア(カバーの優先)

最終ラインが2枚しか残らないなら、行く人数を1人減らす。SBの内絞りで背後ケアを優先。

相手の長いボールに対する準備

風上・足の速いCF・高精度CBの有無でライン設定を変える。セカンド回収位置を事前に決める。

体力の波とプレス強度の配分(ゾーン管理)

前半15分/後半立ち上がりに強度MAX、飲水前後はコントロールなど、チームで波を設計。

イエロー/ファウルリスクと賢い撤退

警告持ちは“方向づけ専任”。無理に刈り取らず、遅らせ役に切り替える。

相手にトリガーを与えない攻撃側の対策(対策を知ることで精度を上げる)

体の向きとワンタッチの設計

受け手は半身、ワンタッチで前向きへ。守備側はこれを崩す角度で寄せる。

GKを絡めた3人目・4人目の関与

GKを3人目にするとプレスの矢印がズレる。守備側はGKへの戻しを合図に全体前進。

幅と深さの同時確保(縦横ストレッチ)

幅と深さを広げられるとプレスは伸ばされる。守備側は片方を先に閉じ、もう片方を遅れて閉じる“波”。

遅い横パスを作らない“テンポ守護”

横→横→戻しは最大の合図。攻撃側はテンポを落とさない、守備側は落ちるのを待ってはめる。

年代・レベル別の留意点と導入順序

高校年代:運動量依存からの脱却(合図の言語化)

「トラップ浮いたらGO」「戻しで前進」のように短い言葉で統一。走る前に合図。

大学・社会人:相手分析とゲームモデルの整合

相手の得意足/配球傾向を事前にタグ化。自チームのモデルに合う合図だけを採用。

育成年代:個人守備原則→小集団→全体へ段階化

1対1の角度→2対2でカバー→3対3で方向づけ→全体。段階を飛ばさない。

練習メニュー:トリガーの認知→実行をつなぐ

2対2+サーバー:体の向き認知ドリル

条件:サーバーから受け手が背中向きで受けたら守備は即GO。攻撃は半身で受ければ加点。

3対3+フリーマン:背中捕獲と内切り/外切り判断

フリーマンへの縦を影で切る→外へ誘導→戻しで圧縮の流れを反復。

5対5+GK:サイド圧縮と逆サイド閉鎖ルール

逆サイドWGは必ず中へ絞る。サイドで袋小路→戻しで全体前進。

8対8/11対11:トリガー宣言制ゲーム(言語化)

誰かが「戻し!」と宣言→全員の反応速度を評価。宣言と実行のズレを映像で即確認。

負荷設定(ピッチサイズ/制限タッチ/時間)

  • 狭い×少タッチ=認知速度の強化
  • 広い×多タッチ=背後リスクの判断強化

図解イメージの作り方:チーム内共有テンプレート

簡易ピッチ図の描き方(縦5×横3ゾーン)

[守] [中] [攻][左] [中] [右] の3×5マスで位置関係を共有

矢印/影の使い分け(圧力・カバー・カット)

  • ⇒:圧力の最短線
  • ( ):カバーシャドーで通させない線
  • →:誘導方向(強制ではなく“案内”)

共有フォーマット例:合図→動き→狙い→リスク

合図:戻しが弱い動き:全体3m前進/内切り狙い:SBで袋小路→奪取リスク:背後の1本→最終ラインの高さ注意

映像分析とデータで“合図”を可視化する

タグ付け手順:発火→アプローチ→結果

  • 発火:どの合図で動いたか(例:背中向き/戻し)
  • アプローチ:1st/2nd/3rdの角度と距離
  • 結果:奪取/遅らせ/突破/ファウル

PPDA/ハイリカバリー数の読み方

PPDAは相手のパス1本あたりにどれだけ圧力をかけたかの目安。低いほど圧力高。ハイリカバリーは敵陣でのボール奪回数。合図の質が上がると、同じ運動量でも数値が改善しやすい。

個人・ユニット別の貢献度指標

「発火に関与した回数」「影で切った縦パス数」「戻しに合わせた前進距離」など、目に見えにくい貢献を可視化。

よくある誤解とつまずきの処方箋

“走れば奪える”は誤り:角度と距離が先

直線ダッシュは外される。半身で近づき、影で縦を消してから寄せる。

全員同時に行くのではなく“波”で行く

1stが合図と角度を作り、0.5秒後に2nd、さらに0.5秒後に3rd。波の時間差が外しにくさ。

FWがサボると全て崩れる理由(1stの価値)

1stが方向づけを失うと後ろは「正解の角度」を失う。前からの影が全ての基準。

奪えない時間帯の“遅らせ”の作法

前進スピードだけ落とせばOK。無理に取り切らず、ラインを整えるまで時間を買う。

ケーススタディ:一般化できる学びの抽出

ハイプレス成功例:GK戻しを合図に圧縮

X(CB)→X(G)   合図! OCF⇒ OWG内切り⇒ OSB前進→結果:SBへ誘導→袋小路→スローイン奪取

ミドルブロックでの中央封鎖と外誘導

IHがアンカーを影に入れ、外へ誘導。外で回収できなくても中央が閉まっている限り致命傷にならない。

ローブロックからのカウンタープレス転換

自陣で奪取→前向きへの出口を準備→失ったら即3秒・10mルールで回収。低い位置でも合図は同じ。

チェックリストと試合前の合図共有

口頭合図/ジェスチャーの統一(簡潔3語)

  • 「戻し!」=全体前進
  • 「背中!」=縦切って寄せ
  • 「浮いた!」=一気圧力

キックオフ前の確認10項目

  1. 優先合図トップ3
  2. 内切り/外切りの基準
  3. 1st/2nd/3rdの担当
  4. GK戻し時の全体前進幅
  5. 逆サイドの絞り位置
  6. ロング対策のライン設定
  7. カード持ちの役割変更
  8. 飲水前後の強度プラン
  9. セットプレー明けの合図
  10. カウンタープレスの撤退条件

ハーフタイム修正の優先順位

  • 合図が機能しているか(発火→結果の整合)
  • 距離・角度のズレ(誰が遅い/早い)
  • 背後リスクとラインの高さ再設定

まとめ:明日から使える“3つの実装ステップ”

合図を減らして深く(優先合図を3つに絞る)

「戻し」「背中」「浮いた」に限定。まずはこれだけで一歩目をそろえる。

図解イメージで同じ絵を見て話す

ピッチを3×5に分け、O/Xと矢印/影だけで共有。複雑な戦術語より、同じ図が強い共通言語。

練習→映像→修正のループを短く回す

宣言制ゲームで合図→映像で確認→数値(PPDA/ハイリカバリー)で評価。翌練習で修正。

おわりに

プレスは“運動量の勝負”ではなく、“合図の共有”で決まります。勝てる瞬間に全員が同じ角度で踏み出せるか。今日、チームで優先合図を3つ決め、テキスト図解で掲示板に貼ってください。合図がそろった瞬間、同じ走行距離でも守備は別物に変わります。

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