ミドルプレスは「守りながら奪いに行く」現実的な選択肢です。この記事では、図や画像なしでも頭に絵が浮かぶように、言葉と合図で動きを合わせる方法をまとめました。練習設計、合図、評価までを一気通貫で言語化し、現場でそのまま使える形に落とし込みます。
目次
- 導入:図なしでも「見える」ミドルプレスとは
 - ミドルプレスの練習方法を図で理解(図なしで言語化)
 - 原則の言語化:判断を速くする5つの優先順位
 - プレス開始のトリガー集と合図
 - 基本配置と役割(4-4-2/4-3-3/3-4-2-1に対応)
 - コミュニケーション設計:情報量を減らして速くする
 - 練習設計の全体像(段階的に“見える化”)
 - ドリル1:方向限定の2対2+サーバー(基礎の矢印作り)
 - ドリル2:3対3+2フリーマン(中央封鎖と背中管理)
 - ドリル3:6対6ゾーン分割(横スライドの速度)
 - ドリル4:8対8ハーフコート(トリガー反復)
 - ドリル5:11対11条件付きゲーム(評価と定着)
 - トリガー別の反復メニュー集
 - 個人守備の技術を磨く
 - フィジカルと呼吸管理:走れるミドルプレスへ
 - データと言葉で“見える化”する評価法
 - よくある失敗と修正アプローチ
 - レベル別・人数別アレンジ
 - ポジション別の最重要習慣
 - セットプレー→即ミドルプレスの移行設計
 - チームルールの言語化テンプレート
 - FAQ:現場で出る疑問に答える
 - まとめと次のステップ
 - あとがき
 
導入:図なしでも「見える」ミドルプレスとは
この記事のゴールと到達基準
ゴールは「合図ひとつで全員が同じ矢印を向ける」こと。到達基準は次の3点です。1) プレスの開始合図と役割が口頭で共有できる。2) 練習から試合へ同じ言葉で移行できる。3) 奪取位置と回数を簡易に可視化し、修正サイクルを回せる。
ミドルプレスの定義とローブロック/ハイプレスとの違い
ミドルプレスは自陣と相手陣の中間エリア(センターサード)から圧力を高め、外へ誘導して奪う守備です。ローブロックはより低い位置でブロックを固め、ハイプレスは最前線から即時奪回を狙います。ミドルは「相手の前進を遅らせ、ミスを引き出して狙い所で奪う」中強度の選択肢です。
前提となる個人技術・体力・コミュニケーション
個人は「間合い」「体の向き」「減速~再加速」。チームは「追い込み先の一致」と「背後管理」。言語は短く、誰でも再現できる単語で統一します。
ミドルプレスの練習方法を図で理解(図なしで言語化)
文章と合図で空間を共有する考え方
合図は短く、方向と意図が同時に伝わる言葉にします。例:「外!」「内切れ!」「縦消せ!」「逆注意!」「プッシュ!」。声と同時に体の向きと指差しで矢印を示し、全員の頭に同じ線を引きます。
ピッチを言葉で分割するフレーム
横は「左-中央-右」、縦は「後ろ-中-前」。さらに縦5レーンを言葉に置き換え「タッチライン-ハーフスペース-中央-ハーフスペース-タッチライン」。合図は「右ハーフ閉じて」「中央ロック」「左外へ」などで統一します。
練習設計における可視化の原則
原則は3つ。1) 名称固定(誰が聞いても同じ場所/動きが浮かぶ)。2) 合図→アクション→評価の1サイクルを最短化。3) 得点条件や本数で「正解の動き」を強調する。
原則の言語化:判断を速くする5つの優先順位
優先1:中央封鎖(相手アンカーの消し方)
最前線と中盤の影を重ねてアンカーを二重で隠します。合図は「ナカ消せ」。相手が内側を見上げた瞬間に前が半歩出て縦を切ります。
優先2:外へ誘導(タッチラインを味方に)
内を閉じて外へ。外に出たらサイドで数的同数以上を作り「遅らせ→囲む」。合図は「外!」。
優先3:縦パスの抑止とパス後の即圧力
縦を許す時は「背中から刺す」準備。縦刺しが出たら「パス後0.5秒」で圧力。合図は「背中!」。
優先4:背後管理(最後のラインの統率)
CBとGKが最終責任。「ライン上げる/下げる」を短く「プッシュ/ドロップ」で。背後のランナーは受け渡しを「指名」で確定。
優先5:奪った後の前進ルート確保
奪取地点の逆方向(弱サイド)に最初の出口を用意。「逆!」の合図で1本目を通し、2本目で離脱します。
プレス開始のトリガー集と合図
CBの横運び・顔上げ直後
合図「内切れ」。2トップ(またはCF+IH)で縦を消し、外へ誘導。
SBへのパスが背中側にずれる瞬間
トラップに時間がかかるので「プッシュ!」で一気に圧縮。縦ラインを同時に上げます。
アンカーの足元への縦刺し
「背中!」で受け手の体勢に合わせて前後サンド。前は遅らせ、後ろが奪い切る。
バックパス/GKへの戻し
「ゴー!」で最前線が斜めに切り、外へ。2列目は中をロック。
浮き球の滞空時間を利用
「寄せろ!」。落下点に先着+セカンド回収で一気に押し上げ。
合図(コールワード・ジェスチャー)の統一
言葉は10語以内、指差しは矢印、掌で「止まれ/遅らせ」。視線でマークの受け渡しを示す。
基本配置と役割(4-4-2/4-3-3/3-4-2-1に対応)
4-4-2:2トップの切り方とサイドMFの絞り
2トップは縦を消して外へ切る。サイドMFは内側に絞り、SBに出る時は背中のIH/CBと連携。「外は出る、内は閉じる」。
4-3-3:ウイングの内外スイッチと8番の出入り
ウイングが内切りでアンカー遮断、8番がSBへ圧力。逆の8番は中央を蓋。CFはCB間を斜めに。
3-4-2-1:シャドーの矢印とWBの高さ管理
シャドーは内切りで縦を閉じ、WBが外圧。3CBはライン統率と逆サイドのケア。
GKの積極関与:背後統率とスローでの再プレス
GKは「プッシュ/ドロップ」の号令役。奪った後は速いスローで相手整う前に再度圧力。
コミュニケーション設計:情報量を減らして速くする
口頭コール(短い単語で意思統一)
推奨:外、内、縦、逆、プッシュ、ドロップ、スイッチ、トラップ、背中、残れ。
指差し・掌の向き・体の向きで意図共有
指差し=追い込み先、掌=止める、体の向き=切る方向。
視線のセットプレー:誰が誰を見るかのルール化
ボール→最前線、縦パス先→ボランチ、背後→CB/GKと固定し、受け渡しは指名制。
練習設計の全体像(段階的に“見える化”)
ステップ1:個人技術(間合い・体の向き)
1対1で外切りの角度と減速方法を習得。
ステップ2:ユニット連動(2〜4人)
外へ誘導→サンドの2対2、3対3で矢印の整合性を練習。
ステップ3:ライン連動(中盤—最終ライン)
背後管理と押し上げのタイミングをコールで同期。
ステップ4:全体ゲームへの移行
トリガー指定から自由選択へ。評価指標を共有。
観察ポイントと修正の順序
中央封鎖→外誘導→背後→回収→前進の順で修正。
ドリル1:方向限定の2対2+サーバー(基礎の矢印作り)
目的:外へ誘導しながら前進を遅らせる
内を消し、外タッチラインを味方に。
設定:コート寸法・制約・得点条件
幅12〜16m×長さ18〜22m。攻撃はサーバーから開始。守備は内切り必須。外で奪取or外へ押し出しで1点。
進行:段階的難易度アップ
素足→2タッチ制限→フリータッチ→逆サイド解放。
成功基準:身体の向き・距離・ステップ
半身、1.5〜2m、最後は小刻みステップで減速。
コーチングキュー:最初の一歩と遮断角度
最初の一歩で縦を切る。足は外足前、内足を引いて斜めに。
ドリル2:3対3+2フリーマン(中央封鎖と背中管理)
目的:内を消して外へ、外で奪う
中央通過を激減させる狙い。
設定:レーン分割と侵入ルール
3レーン(左-中-右)。フリーマンは外のみ。中央レーン縦通過=攻撃加点、守備は外奪取=加点。
進行:フリーマンの位置で難易度調整
外2→外1→内1(難)。
成功基準:縦パスの本数削減
5分間の中央縦刺し本数を記録し低減を目標化。
コーチングキュー:受け渡しの声と指差し
「スイッチ!」で交代、「背中!」で二重挟み。
ドリル3:6対6ゾーン分割(横スライドの速度)
目的:ボールサイド過密と逆サイド管理
同サイド圧縮と逆サイドの遅延を両立。
設定:3ゾーン+タッチ制限
横3ゾーン。攻撃2タッチ、守備自由。逆サイドは最大2人まで。
進行:移動制限を段階解除
ゾーン固定→1人フリー→全員自由。
成功基準:奪取までの回数と時間
1奪取までのパス本数と秒数を短縮。
コーチングキュー:ラインの押し上げタイミング
外へ出た瞬間に「プッシュ!」で一段前へ。
ドリル4:8対8ハーフコート(トリガー反復)
目的:試合に近い密度でトリガーを自動化
指定トリガーで全員が同時に動く習慣化。
設定:ビルドアップ側の制限と得点方法
相手CBは2タッチ、GKへの戻しで守備2点。高位奪取→10秒以内得点は+1点。
進行:トリガー指定→自由選択へ
「バックパスのみ」→「2つ選択」→「自由」。
成功基準:高位奪取の回数と質
相手陣ハーフ内の奪取回数と直後の前進成功率。
コーチングキュー:最前線の切り方設計
CFはCB間を斜め、ウイング/IHは内切り固定。
ドリル5:11対11条件付きゲーム(評価と定着)
目的:チームルールの検証と微調整
実戦環境で言語ルールを検証。
設定:得点2倍ゾーンと回数目標
相手陣センターサードで奪って得点→2倍。高位奪取5回/45分を目標。
進行:前後半でルール差を比較
前半:トリガー固定。後半:自由。結果比較で修正点を抽出。
評価指標:PPDA簡易版と回収位置
相手の自陣~中盤でのパス本数÷こちらの守備アクション(奪取、インターセプト、タックル)。数値が小さいほど圧力が高い。
コーチングキュー:交代選手の即時適応
入る前にコールワードと追い込み先を確認。「外/内」「プッシュ/ドロップ」だけでも共有。
トリガー別の反復メニュー集
CBの横運び→外誘導→サイド罠
内切り→外へ→サイドで2対1の遅らせ→囲む。
アンカー背中受け→即圧力→背面奪取
前は遅らせ、後ろが刺す。足裏で止めた瞬間が合図。
SBが高い配置→背後使わせず外圧縮
縦を切り、足元限定。内側はボランチが蓋。
バックパス→ライン押し上げ→GKへ矢印
全員2m前進。GKの利き足側を切って一方向へ。
相手の弱い足へ追い込み→逆足処理の強要
身体の向きで誘導。逆足トラップ時に一気に。
個人守備の技術を磨く
間合いと減速(ブレーキの作り方)
最後の2mで歩幅を半分→重心低く→横へ対応。
体の向き:股関節の開き角と半身
内を閉じる時は外足前、骨盤は外へ45度。
ステップワーク:サイドステップとクロスオーバー
短距離はサイド、距離詰めはクロス→減速はサイドへ戻す。
タックルの種類と使い分け
ブロック、プレス、スライドの3種。基本は足を出し切らず遅らせる。
“奪い切らない守備”で時間を稼ぐ
奪うより先に方向を限定。数秒稼げば味方が囲める。
フィジカルと呼吸管理:走れるミドルプレスへ
インターバル処方(距離×本数×休息比)
30m×8本×3セット、作業:休息=1:2。フォーム維持が前提。
再加速の反復(RSE:Repeated Sprint Effort)
15mダッシュ+減速+15m再加速を10~12反復、セット間3分。
ウォームアップとクールダウンの型
動的ストレッチ→可変ペース走→方向転換。終了後は呼気を長く、下肢中心の静的ストレッチ。
練習週内の負荷マネジメント
高-中-低-休の波を作る。トリガー反復は高日に集中。
データと言葉で“見える化”する評価法
PPDA簡易版のつけ方(手書き運用)
相手が自陣~中盤で回したパス数をカウント。こちらの守備アクション(チャレンジ/インターセプト/奪取)で割る。練習ごとに記録。
ボール奪取位置の言語ヒートマップ
「左外/左内/中央/右内/右外」の5区分で本数を線で記す。週ごとの偏りを確認。
チェックリスト:原則遵守率
中央封鎖、外誘導、背後管理、即圧、出口確保の5項目を◯/△/×で評価。
動画の撮り方と振り返り設計
斜め後方の高い位置から全体が入るように。合図と動きが一致した/してない場面を抽出。
よくある失敗と修正アプローチ
追い込み先の不一致→コールワード再統一
「外/内」を5分間ゲームで固定し、声が出ない人を指名。
距離感が広い→ライン間縮小の基準づくり
「ボールから自軍最終ラインまで30m以内」を合図「縮めろ」で即時修正。
背後のケア不足→最後尾の指揮命令確立
GK/CBが常に「プッシュ/ドロップ」を発信。無言を減点対象に。
ファウル多発→体の向きと接触の質改善
正面からぶつからず、半身で横圧を基本に。
前線の空回り→後方の準備が整うまで待つ
「待て!」の合図を許可し、全体でラインを合わせてから。
レベル別・人数別アレンジ
高校・大学・社会人向けの強度設計
セット時間4~6分、レスト2分。トリガー2種同時運用。
小学生・親子での導入(安全と楽しい導線)
幅狭コートで外へ誘導→タッチで加点。接触少なめ。
少人数(3〜6人)で成立するメニュー
2対2+1/3対3ロンド(外切りルール)で反復。
屋内・雨天時の代替案
フットサルコートでタッチ制限強め、背後はパス1本禁止に。
ポジション別の最重要習慣
ストライカー:切り方と影の作り方
CB間の縦を影で消す。片方のCBへ斜め寄せ。
ウイング:内外スイッチのタイミング
ボールが外へ出た瞬間に内切り→SBに出る。
インサイドハーフ:背中の情報収集
常に首振り。縦刺しの前兆を拾う。
アンカー:内側の蓋と後退の基準
縦を最優先で遮断。背後ランは指名して渡す。
CB:背後管理と押し上げの号令
GKと声を二重化。「プッシュ/ドロップ」を最短ワードで。
SB:縦スライドと外切りの角度
外に出る時も内を切る半身を崩さない。
GK:逆サイド管理とリスタートの質
逆サイドの枚数確認と素早い再開で二次プレスへ。
セットプレー→即ミドルプレスの移行設計
自チームCK/FK直後の隊列再編
キッカーの「戻れ」で2列化、背後はCB+アンカーで蓋。
相手リスタートへの1stアクション
ホイッスル前に追い込み先を宣言。「外固定!」。
境界線上のファウルからの再配置
ボールと逆サイドは1枚残し。ライン高さをGKが決定。
チームルールの言語化テンプレート
共通語彙リスト(10語以内)
外/内/縦/逆/プッシュ/ドロップ/スイッチ/トラップ/背中/残れ。
毎試合のKPI設定と共有方法
高位奪取回数、PPDA簡易、奪取から10秒以内の前進成功率の3点を試合前に掲示。
試合後の振り返りシート例
良かったトリガー/噛み合わなかった場面/次戦の強化トリガー(1つに絞る)。
FAQ:現場で出る疑問に答える
相手がロングボール多用のときは?
最終ラインのスタート位置を3~5m下げ「落下点主義」。セカンド回収に人を厚く。
走れない時間帯の対処は?
ローブロックへ一時移行。合図「ドロップ」でライン統一、回復後に再プレス。
主審の基準が厳しいときの守備は?
接触を減らし、影で消す守備へ。奪い切りより遅らせに比重。
交代直後の選手がハマらないときは?
入る前に「追い込み先」「自分の合図」を確認。最初の1プレーを簡単に設定。
まとめと次のステップ
今日から始める最小セット
共通語彙の決定→2対2外誘導→8対8トリガー固定で10分。まずは矢印を揃える。
4週間プログレッションの例
1週目:個人と2対2/2週目:3対3+ゾーン/3週目:8対8トリガー反復/4週目:条件付き11対11と評価。
定着後の発展(ハイブリッド化)
相手や時間帯でミドル⇄ハイ/ローを切り替え。合図は同じ言語で運用。
あとがき
ミドルプレスは「どこで奪うか」を全員で決めるスポーツの会話です。図がなくても、短い言葉と同じ矢印があれば十分に機能します。今日決めた言葉を、明日の練習、週末の試合にそのまま持ち込み、数値で振り返る。これを繰り返せば、守備は必ず“見える化”され、再現性が上がります。継続してアップデートしていきましょう。
