3-5-2フォーメーションの特徴と現代サッカーにおける強み・弱み

サッカーのフォーメーションには、チームの強みや選手の個性、そして現代サッカーのトレンドが色濃く反映されます。その中でも、「3-5-2フォーメーション」は近年多くのチームで注目される布陣の一つ。守備と攻撃のバランス、スピーディなトランジション、広がる選択肢…。一方で、戦術的な難しさやサイドの脆弱問題も語られがちです。この記事では、3-5-2フォーメーションの特徴、現代サッカーにおける強み・弱みを、選手やチーム、そして指導者・保護者の視点も踏まえてわかりやすく解説します。

はじめに:現代サッカーと3-5-2フォーメーション

近年のサッカー戦術トレンド

サッカーの戦術は時代とともに進化し続けています。近年では、ポゼッション志向の高まりやプレッシングの多様化、個々の選手能力を最大限に引き出す「可変システム」が浸透。特にヨーロッパ主要リーグでは、相手の戦術や選手たちの特長によって多彩なフォーメーションが使い分けられるようになっています。
こうした流れの中、「3バック(3DF)」を軸としつつ、中盤やサイドの人数配置を柔軟に調整できるフォーメーションが注目を集めています。その代表格が「3-5-2」です。

3-5-2の基礎概要

3-5-2とは、ディフェンダー3人・ミッドフィルダー5人・フォワード2人で構成されるフォーメーションです。本来「守備的」ととらえられがちな3バックを、ウィングバックの攻撃参加で積極的にカバーし、中盤の人数を厚くすることで攻守のバランスを実現しやすいという特徴があります。現代サッカーのスピードや強度にも適合しやすく、プロ・アマ問わず採用が増えている布陣です。

3-5-2フォーメーションとは?

ポジションの基本配置

3-5-2の基本的なポジション配置は以下の通りです。

  • ゴールキーパー(GK):1人
  • ディフェンダー(DF):センターバック3人(CB)
  • ウィングバック(WB):左右に各1人(MF)
  • センターミッドフィルダー(CMF):中盤中央に3人配置(アンカー1人+インサイドハーフ2人 例が多い)
  • フォワード(FW):2人(2トップ)

ウィングバックが特徴的で、守備時は最終ラインに吸収されて5バックになり、攻撃時にはサイドアタッカーとして高い位置を取ります。これにより、攻撃と守備の人数を柔軟に変動させられるのが3-5-2の魅力です。

求められる選手像と役割

3-5-2は、各ポジションの役割がはっきりとしつつも、選手に幅広い能力が必要とされる陣形です。特にウィングバックは、90分間上下動が求められるタフなポジション。スプリント力やスタミナ、攻撃力と守備力、どちらも高水準が理想です。
また、中盤の中央では、パスの出し手(レジスタ的な選手)、運動量豊富でボールを狩れる選手、ゴール前に飛び込むアタッキングMFなど、多様なタイプが必要。
ディフェンダーには三者三様の受け持ちエリアと柔軟なカバーリング能力が要求され、フォワード陣はポストプレーから裏抜け、プレスまで幅広くタスクが課されます。

他フォーメーション(4-4-2、4-3-3等)との違い

4-4-2や4-3-3に比べ、3-5-2は「中盤とサイドの人数調整」に強みがあります。
4-4-2は均等な配置で全体のバランスに優れますが、中央・サイドいずれも人数的に上回られることも(特に4-3-3や3-5-2相手に)。4-3-3は前線3枚による攻撃の厚みが特長ですが、3-5-2は逆に中盤にボールを集めて保持し、サイドから分厚く攻めることも可能。
また、5バック化で厚みのある守備も実現でき、現代サッカーの高強度トランジションにも比較的対応しやすい違いがあります。

3-5-2フォーメーションの強み

攻守におけるバランスの良さ

3-5-2最大の強みは、攻守の切り替え時にバランスを失いにくい点。守備時にはウィングバックが下がり、実質5バック化。全幅をカバーしつつ、中央もスペースを空けにくい。攻撃時はWBがサイド高めまで進出、味方と連携してタッチラインをえぐることも可能です。
前に2人のFWがいることで、相手の最終ラインに2点支点を作りつつ、サイドや中盤に数的優位を作りやすいのが特徴です。中央に集まりすぎず、バランスよく人数を分配できる点も大きなアドバンテージになります。

中盤の数的優位とそのメリット

中盤に5人(CMF3人+WBの内側サポート)を配置することで、ポゼッションやセカンドボール回収、プレス対策で優位に立つ場面が多くなります。特に国内外問わず、相手が4-4-2や4-2-3-1の場合は中央で3対2または4対2の形を作れ、ボール保持率やゲームの主導権を握りやすいです。
この数的優位は、“パス回し” → “縦への突破チャンス”を生みやすく、速攻・遅攻の両場面で強みとなります。

サイド攻撃の柔軟性

3-5-2のWBには、高い位置まで一気に攻め上がる働きを持たせることが可能です。サイドが空いていれば一人で駆け上がり、時にインサイドMFとポジションチェンジして中央へ切り込む動きも。相手SBがついてこなければフリーでボールを受けられますし、サイドチェンジから一気に局面を打開する展開も狙えます。
しかも「3人並ぶ最終ライン+両WB」で守備ブロックをつくるため、相手のサイド攻撃に対しても後手に回りにくいバランスを保てます。

トランジション(攻守転換)への強さ

現代サッカーで重視される「攻守の切り替え」にも、3-5-2は有利です。ボールを失った際、中央付近に多くの選手が密集しているため、素早くプレスをかけ、高い位置での即時奪還も狙いやすい環境です。
また、ボール奪取後はWBや2トップが一気に前線へ顔を出せるため、カウンター局面でも攻撃人数を揃えやすいのが特色。トランジションへの順応性の高さも、現代型サッカーにマッチした強みの一つです。

3-5-2フォーメーションの弱み

サイドの脆弱性—変化する守備リスク

ウィングバックは攻撃時に高い位置まで出ていくため、背後やサイドのスペースが空きやすくなります。テンポよくサイドチェンジされてしまう、WBの裏を取られるなど「意図的なサイド攻撃」に弱さを晒してしまうリスクがあります。
特に相手がサイドに素早いウインガーやSBを揃えている場合、WB一人で相手二人の守備対応を迫られると人数的に後手に回る場面も。3バックのサポートも重要になりますが、全体のスライドが遅いと失点に直結しかねません。

スペース管理の難しさ

中央・サイド両方が気になる3-5-2は、スペース管理が重要になります。特に中盤が広がりすぎたり、WBが上がった後にボールロストしたりした場合、戻りが間に合わなければすぐ大きなギャップが生まれてしまいます。
守備局面では、3バックの一人がサイドカバーに出ることも多いですが、その際に中央が薄くなる難しさも。同じく、前線2トップだけではプレス強度が足りず、ビルドアップに苦しむ場合もあり、ポジショニングバランスと連動性の維持が肝要になります。

高い戦術理解度が求められる

3-5-2は、システム自体の柔軟性ゆえ、各選手が「今、どこで、誰と、どう連携するか」を瞬時に判断する力が求められます。特にWBは、攻守の切り替えやタイミングの見極め、他選手とのカバーリングの理解が必須。
また中盤3枚も、相手に応じて流動的に役割を変える必要があります。意思疎通やポジションチェンジなど、チーム内の戦術的共通理解がなければ形骸化しやすいという短所があります。

現代サッカーでの対策とその限界

昨今、3-5-2に対しては様々な対策が研究されています。例えば、WBの背後を狙う攻撃や、SB+ウインガーで横幅を使って数的優位を作る戦術。中盤をフラット化してプレス耐性を上げるなども。
こうした対策に「柔軟なポジションチェンジ」や「システムの可変」で応じる必要がありますが、高度な戦術応用や選手特性への依存度も上がるため、万能に強いとは言い切れません。限界も現れやすいのが事実です。

現代サッカーにおける3-5-2の適応・バリエーション

現役チームによる運用実例

2020年代に入ってから、ヨーロッパ主要リーグや一部国内クラブでも3-5-2型の採用事例が増えています。イタリア・セリエAでは伝統的に3バック文化が根強く、ユベントスやインテルなどが3-5-2やその派生システムで結果を残しました。
また、イングランド・プレミアリーグでも、チェルシーやトッテナムなどが状況に応じて採用。短期的な状況打破だけでなく、シーズン通じたメインフォーメーションとして機能した例もあります。
日本のJリーグでも、J1・J2含めて多くのチームが3-5-2や3-4-2-1などを柔軟に運用し、トランジション重視型のサッカーに対応しています。

選手起用と特性への最適化

3-5-2の真価を引き出すには、選手一人ひとりの特性発揮が不可欠です。肉体的・戦術的にタフなWBはもちろん、センターバック(CB)にも広範囲をカバーできる走力、危機察知能力、空中戦の強さが求められます。特にサイドをカバーに行くCBは、対人守備力とスピード両方があると理想的です。
中盤MFの組み合わせ一つで攻守の特徴が大きく変わるため、選手の個性やシチュエーションに応じた“カスタマイズ”が不可欠です。

可変システムとの連動—フォーメーションの変化

現代サッカーでは「可変型」のフォーメーションも主流。3-5-2は守備時5-3-2、攻撃時は3-3-4や3-4-3、時に4-4-2に変化するなど状況によって人の動きを連動させます。
例えばビルドアップ時にフィールドプレーヤーの一人が最終ラインに吸収されて4バック化、中盤一枚がアンカーで残る形、あるいは前線人数を増やして数的優位を狙う形など、可変システムの基盤としても3-5-2は重宝されます。
この可変力が現代サッカーの「局面ごとの最適化」にピッタリとはまるのも、3-5-2が多くのクラブで選択肢となる理由です。

3-5-2フォーメーションを活用する選手・指導者へのアドバイス

トレーニングで意識すべきポイント

3-5-2でうまくプレーするためには、個人の判断力・走力はもちろん、チーム全体の連動が重要です。特にWBの攻守切り替え・戻り、DFラインの縦横スライド連携、MFによるセカンドボールへの対応は反復練習が必須。
味方WBやCB、MFとの「声かけ」「カバー意識」を高め、常にコミュニケーションを取りましょう。
また、ライン間のスペーシング練習やサイドチェンジ・プレス回避のパターン練習もおすすめです。

実践で役立つ個人・チームの工夫

各ポジションごとの工夫も鍵です。WBであれば攻撃参加時の“第三の動き”――1つ飛ばした受けなおしや、中央へのカットイン―を積極的に意識。CBは、相手ウインガーが流れてきた際のステップアップorスライドの判断。
MFは縦のパスコース・サポートラインを絶えず意識し、FWは“ポスト+裏抜け”を使い分けて相手最終ラインに圧力をかけ続けましょう。
チームとしては「ライン間に誰を立たせ、どこで数的優位を作るか」が大切です。ビルドアップ→サイド展開→中央再侵入の流れを掴んでおくと、攻撃が整理されます。

育成年代やアマチュアが活用する際のヒント

育成年代・アマチュアで3-5-2を活用する際には、シンプルな意思疎通個人戦術の役割明確化が特に重要です。
システムの強弱はもちろんありますが、「皆が何のためにどこへ動くのか」をはっきりさせることが先決。難解な決まりごとを詰め込み過ぎず、「WBはここまで」「CBはここをカバー」など基本ルールを徹底しましょう。
また、身体的負担の大きいポジションはローテーションを導入したり、体力の向上やポジションごとの専門スキルをバランスよく鍛えることも大切です。

まとめ:3-5-2の現在地とこれから

現代サッカーでの3-5-2の位置づけ

3-5-2は、その柔軟性と戦術的魅力から、世界中の多くのクラブや代表チームでも重要な選択肢となっています。守→攻、攻→守、双方に強みがあり、現代サッカーのテンポ&強度に対応しやすい布陣のひとつです。
一方で、常に時代や相手によって“流行り廃り”もあり、場合によっては弱点が露呈することも。だからこそ、フォーメーション自体よりも「誰が、どのように動き、どんな意図で使うか」に目を向けることが大切です。

強みと弱みを活かすためには

3-5-2を活かす鍵は、「戦術の理解度」「個々の柔軟性」「全体のコミュニケーション」です。
各ポジションごとに求められる基本を徹底しつつ、シチュエーションごとに小さな工夫や新しいチャレンジも大切にしてください。チームの個性や選手一人ひとりの特性を最大化し、強みと弱みを整理して向き合うことで、3-5-2は十二分に“勝てるシステム”となります。
迷った時は、「どうやって数的優位を作るか」「ウィークポイントをカバーできるか」を常に意識してみる――これが、現代サッカーにおいて3-5-2を扱う上での、普遍的なヒントとなってくれるでしょう。

この記事では3-5-2フォーメーションの現代的な特徴、活用方法、そして実際に運用する際のアドバイスをお届けしました。サッカーはシステムだけでなく、選手と指導者、そして保護者の皆さんによる“気づき”や“工夫”の積み重ねでもっと面白くなります。自分たちのスタイル、個性、状況に合わせて、ぜひ3-5-2を“使いこなす”一歩を踏み出してみてください。

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