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サッカーコーチングワード一覧で即伝わる声かけ術

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サッカーコーチングワード一覧で即伝わる声かけ術

ピッチでの一言は、パス1本と同じくらい試合を動かします。短く、具体的で、すぐ動ける言葉が揃っているチームは、判断が速くミスが減り、同じ練習でも成果が出やすい。この記事では、即伝わるコーチングワードを「原則→フェーズ別→ポジション別→運用」の順に整理し、今日から使える一覧と定着のコツまでまとめました。図解なしでもすぐ導入できるよう、二音節・三音節を中心に実戦用の言い回しで揃えています。

導入:なぜ「即伝わる声かけ」が試合を変えるのか

即伝わる=短く・具体・肯定・行動指示

良い声かけは「短い」「具体」「肯定」「行動指示」の4点がそろいます。例えば「もっと周り見ろ」よりも「タツヤ、ターンなし→リターン!」の方が、誰に何をどうするかが明確です。短いほど脳の処理が早く、肯定形ほど迷いが減ります。

判断スピードと実行率を上げる言語化の力

サッカーは0.5秒の判断が結果に直結します。共通言語があると、同じ状況で同じリアクションが揃いやすくなり、3人目の連動が増えます。個々の意思疎通が「合図→動作」に縮み、実行率が上がります。

良い声かけがミスを減らすメカニズム

曖昧な言葉は解釈の幅が広く、タイミングが遅れがち。逆に「名前→動詞→場所」の順序で具体化すると、選手は視線を合わせやすく、実行動作が安定します。結果としてパスズレ・被る動き・寄せ遅れが減ります。

本記事の使い方と前提(用語の定義・対象・場面)

用語の前提:フェーズ・役割・時制の統一

本記事ではフェーズを「攻撃」「守備」「トランジション」「セットプレー」に分け、役割は「1st(主働)/2nd(補助)/3rd(連動)」で整理します。時制は「今すぐの動作」を優先し、次の2手先は短縮語で示します。

練習と試合での使い分け

練習では説明語を使い、試合では短縮語に切り替えます。例:練習「縦関係作って三人目」→試合「縦→サンメ」。日常から試合語に寄せると切り替えがスムーズです。

個人指示とチーム指示の切り分け

個人指示は「名前→動詞→場所」、チーム指示は「合言葉→方向→枚数」を基本形に。例:個人「ユウタ、入れ替わり→内」/チーム「ライン↑→5m」。

即伝わるコーチングワードの5原則

原則1:二音節〜三音節で短く

例:ターンなし→「ナシ」、前向け→「マエ」、縦スルー→「タテ」、切り替え→「キリカエ」、背後→「ウラ」。

原則2:動詞から始める(行動を即す)

例:「見て」→「見て→出す」。「寄せて」→「寄せ→限定」。名詞中心より動作で始めると一歩目が出ます。

原則3:肯定的に伝える(やること指定)

NG「するな」「下げるな」→OK「外使え」「安全」。やらないことより、やることを指定します。

原則4:主語と対象を明確に(名前→動詞→場所)

「ケンタ、預け→外」「アオイ、見る→背中」。固有名を前に置くと、周囲も連動しやすい。

原則5:トリガーとセットで覚える

状況とセットの合言葉を決める。例:相手後ろ向き→「寄せドン」、GK保持→「ライン押し」、縦パス入る→「落ち3」。

攻撃フェーズのコーチングワード一覧

ビルドアップ:後方での前進を助ける声かけ

  • 「サポ角」:斜めの受け角度へ。
  • 「リタ」:リターン要求(ワンツーの起点)。
  • 「逆振」:逆サイド展開。
  • 「吸って→離す」:引きつけてから離す。
  • 「キープ→外」:安全に外へ。
  • 「縦差し→落ち」:縦パス後の落としを促す。
  • 「内→外→裏」:インナー経由で最終ライン背後へ。

前進(ミドルサード):ライン間の活用

  • 「間立て」:ライン間に立つ。
  • 「背中見て」:ミドルで前向きの味方を探す。
  • 「落ち3」:縦→落とし→3人目の抜け。
  • 「スイッチ」:位置入れ替え(短縮「スイ」)。
  • 「内回り」:インナーラップ。
  • 「前向けた!」:前向きに入れた合図で加速。

サイド攻撃:幅と裏の使い分け

  • 「張る」:タッチライン幅取り。
  • 「絞る」:サイドハーフの内側化。
  • 「外1→中2」:外で1タッチ、中へ2枚侵入。
  • 「外中外」:外→内→外の連続性。
  • 「裏刺し」:SB/SHの背後ラン。
  • 「マイナス」:ペナ内マイナス折り返し。

中央突破:縦パス後のサポート

  • 「背負い→落ち」:CFの背負いから落とし。
  • 「刺さる」:IHが縦に刺す。
  • 「壁!」:ワンツーの壁役。
  • 「裏抜け2」:2人同時の背後ラン。
  • 「止めて配る」:ボランチのテンポ作り。

ラストサード:質と枚数の最適化

  • 「枚数合わせ」:ボックス内の人数調整。
  • 「ニア占有」:ニアゾーン確保。
  • 「ファー待ち」:ファー側の遅れて入る。
  • 「二列目」:セカンドラインの到達確認。
  • 「クロス質」:低い速い/巻く/ふわりの指示。

フィニッシュ:シュート局面の合言葉

  • 「打て!」:判断迷いを断つ合図。
  • 「枠!」:枠内優先。
  • 「こぼれ」:セカンド狙い。
  • 「ニアズドン」:ニアニアへの速い合わせ。
  • 「カーブ/ニア強」:シュート質の簡易共有。

守備フェーズのコーチングワード一覧

第一次守備者(1stDF):寄せ・向き・限定

  • 「寄せ速」:最初の2歩を速く。
  • 「外限定」:外へコース制限。
  • 「内切る」:内側切り。
  • 「足出すな」:フェイントで剥がされ防止(代替「間合い」)。
  • 「縦消し」:縦パスライン遮断。

カバー&バランス:二次・三次守備の連動

  • 「背中ケア」:マークの背後管理。
  • 「スライド」:横移動の合図。
  • 「インカバー」:内側の保険。
  • 「四角作る」:周囲で箱型の囲い。

コンパクトネス:縦横の距離管理

  • 「縦15」:縦距離の目安(メートルはチーム基準で)。
  • 「ライン上げ」:押し上げ。
  • 「間詰め」:ライン間を圧縮。
  • 「幅寄せ」:ボールサイドに凝縮。

プレストリガー:奪い所の共通理解

  • 「背向き今」:相手が背を向けた瞬間。
  • 「浮き球今」:浮き球コントロール前。
  • 「外向かせ」:外に誘導して挟む。
  • 「GK戻し→押し」:GKに戻った瞬間ラインアップ。

ブロック守備:ラインコントロール

  • 「中締め」:中央閉鎖を優先。
  • 「外OK」:外へ誘導容認。
  • 「弾いて出る」:クリア後のラインアップ。
  • 「入ってない」:ペナ外シュートは見極め。

奪取後の即時判断(カウンターストップ含む)

  • 「一発縦/落ち着け」:奪って速攻か保持か。
  • 「ファウルOK」:危険地帯外で戦術ファウルの合図(規則内で冷静に)。
  • 「ボール隠す」:相手の切替を空振りさせる保護。

トランジション(攻→守/守→攻)のコーチングワード一覧

守→攻:ファーストタッチと最初の一手

  • 「前向き!」:一発で前向き。
  • 「外使え」:外の安全ルート。
  • 「縦一本」:一撃カウンター。
  • 「サポ2」:サポート2枚の確保。

攻→守:即時奪回と遅らせの判断

  • 「即奪」:5秒奪回。
  • 「遅らせ」:前進を遅らせ整える。
  • 「内切り→外へ」:中央閉鎖の合意。
  • 「ファー締め」:逆サイド警戒。

5秒ルール・3人目の関与を促す言葉

  • 「5秒!」:即時奪回のカウント合図。
  • 「3人目」:3rdマンの参加を指示。
  • 「二次!」:弾かれた後の二次攻撃/守備。

セットプレーのコーチングワード一覧

CK攻撃:ニア・ファー・セカンド

  • 「ニア走る」「ファー溜め」「セカ拾い」
  • 「ニアスラ」:ニアでスラす。
  • 「手前低い/奥巻く」:キック質の共有。

CK守備:マンツー・ゾーン・リバウンド

  • 「マン確認」「ゾーン位置」「リバ回収」
  • 「ファーポスト!」:ファー側カバー。
  • 「ライン↑→出る」:クリア後の押し上げ。

FK攻撃:直接/間接と二次攻撃

  • 「直/間」:キックの意図共有。
  • 「セカ準備」:弾かれた後の回収。
  • 「こぼれ打て」:シュート準備。

FK守備:壁・キーパーライン・セカンド回収

  • 「壁右半歩」「跳ぶ/跳ばない」
  • 「キパライン」:GKの基準線共有。
  • 「セカ拾い→外へ」

スローイン:再現性の高い合図

  • 「足元/背後/戻し」
  • 「ワンツー」「スイッチ」
  • 「内サポ」「外張る」

PK:キッカーとキーパーの声かけ

  • キッカー「ルーティン」「枠」「信じて」
  • GK「待て」「読み切る」「弾き外」

ポジション別のコーチングワード

GK:コーチングの優先順位と単語設計

  • 「ライン↑↓」:最優先はDFライン。
  • 「中締め/外誘導」:守備方針の提示。
  • 「時間ある/ない」:保持者の情報。
  • 「背中ケア」「セカ拾い」

CB:ライン統率と限定の言葉

  • 「押す/下げる」:全体の高さ。
  • 「外限定」「縦消し」
  • 「受け渡し」:マークの引き継ぎ。

SB(WB):幅・裏・インナーの合図

  • 「張る/絞る」「裏刺し」「インナー」
  • 「カバー!」:背後の保険。
  • 「外マイナス」:クロスの質。

DMF(アンカー):前後左右の交通整理

  • 「間閉じ」「外OK」「前向かせるな」
  • 「縦差し→落ち」「逆振」
  • 「二列目入る」

CMF:縦関係と三人目の活性化

  • 「縦関係」「落ち3」「刺さる」
  • 「前向けた!」「サポ角」

WG/SH:外中外と背後の使い分け

  • 「外1→中2」「裏抜け」「インナー」
  • 「ニア占有」「ファー待ち」

CF/ST:起点作りとフィニッシュワード

  • 「背負い→落ち」「壁」「裏同時」
  • 「枠」「こぼれ」

レベル・年代別の言い換えと注意点

中学生向け:単語化とジェスチャー併用

単語+指差しが有効。「外!→指で外」「裏!→背中を手で指す」。言葉は二音節中心で統一します。

高校・大学向け:トリガー連動型の短縮語

「背向き今」「浮き今」「GK戻し→押し」など、状況セットの短縮語でスイッチを共有。

社会人・シニア向け:省エネで伝わる言い回し

距離が遠い局面が増えるため「方向+距離」で簡潔に。「外→5」「押し→10」。

初心者〜上級者:抽象度と具体度の調整

初心者は「動詞+一手」。上級者は「トリガー+二手」。例:初級「寄せ」→上級「外限定→挟む」。

試合状況別(時間・スコア)で使い分ける声かけ

リード時:リスク管理と時間の使い方

  • 「無理しない」「外回し」「コーナー取る」
  • 「ライン↑→一斉」

ビハインド時:テンポアップと枚数管理

  • 「テンポ上げ」「枚数かける」「セカ前へ」
  • 「リスクOK」:エリア限定で許容。

同点終盤:セットプレーとセカンド最優先

  • 「ファウル貰う」「CK狙い」「セカ拾い」

警告・退場時:役割再設計の素早い共有

  • 「形4-4-1」「幅捨て→中央」
  • 「カウンターストップ優先」

疲労・痙攣兆候時:省エネの共通言語

  • 「省エネブロック」「外切らない」「蹴って整える」

共通言語のつくり方:短縮形・英語・ジェスチャーの統一

二音節コールの辞書化(例:スイッチ→スイ、リターン→リタ)

チーム辞書をA4一枚に。「スイ」「リタ」「タテ」「ウラ」「マイ」「セカ」「サポ」「スラ」。全員で同じ短縮形に統一。

英語・外来語の使いどころ(例:ワンツー/カバー)

浸透している語は採用。「ワンツー」「カバー」「スクエア」「ライン」。英語を使うときは意味の合意を先に。

ジェスチャーとセットで誤解を減らす

指差し=スペース、手の平=落ち着け、手を回す=テンポ上げ。音が届かない時の代替手段になります。

声の届かせ方:発声・タイミング・指示の方向

通る声=高め×短く×はっきり

低音よりも少し高め、語尾を立て、二音節で区切ると届きやすい。「マエ!」「ウラ!」のように強弱をつけます。

見て→呼んで→指示の順序

視線を合わせてから名前、次に動作。「目→名→動作」。目が合わないと判断が遅れます。

誰に→何を→どこで(3点セット)

「リョウ、出す→外!」「マコ、締め→中!」。空間指定を最後につけると誤解が減ります。

ポジティブ・ネガティブの比率設計

基本はポジティブ7:ネガティブ3。否定形はリスク回避の最小限にとどめます。

NGワードと代替フレーズ

抽象的すぎる指示の言い換え

  • NG「集中しろ」→OK「セカ拾い!」
  • NG「もっと動け」→OK「サポ角!」「裏!」
  • NG「しっかり」→OK「外限定!」「間詰め!」

否定形の回避と肯定形への変換

  • NG「下げるな」→OK「前向け」「外使え」
  • NG「取られるな」→OK「体入れ」「キープ」

遅い指示を早くするコツ(事前合図)

  • 「次縦!」:受ける前に次の選択を提示。
  • 「背中注意!」:縦パス前に予告。
  • 「クロス質!」:持ち替え前に種類を決める。

練習で定着させるトレーニングメニュー

コール&プレー(言ってから出す)

パス前に必ずコール。「リタ→パス」「タテ→刺す」。コールがないパスは無効にするルールで徹底。

制約ゲームでワードを強制する

条件例:「縦差し後は『落ち3』の声が出た時だけ3人目侵入可」。言葉が行動を解禁する設計に。

シャドープレーで動きと言葉の同期

11対0のポジショナルで、合図だけで前進。各フェーズで使うコールを固定化していく。

ミニゲームの評価指標:コール数×成功率

「有効コール数」「コール後の成功率」を可視化。数だけでなく成功と紐づけると質が上がります。

チーム導入のステップ:設計→共有→運用→改善

設計:目的→トリガー→ワード→合図

例:目的「外誘導で奪う」→トリガー「背向き」→ワード「外限定」→合図「手で外指す」。

共有:配布・ロッカールール・タッチライン掲示

A4一枚の辞書を配布、ロッカーに貼り、ベンチ前にミニ版掲示。誰でも即確認できる状態に。

運用:担当割り(GK/DF/中盤/前線)

ユニットごとにコーチング担当を決める。試合中も担当が「言葉の温度」を整えます。

改善:試合後レビューと語彙の棚卸し

映像の「声」を振り返り、被った語・届かない語を削除。新陳代謝で辞書を軽く保つ。

事例シナリオ:よくある4場面でのコーチング

自陣でのビルドアップが詰まるとき

「サポ角→逆振」「リタ→外」「GK戻し→押し」。近い距離の三角で解放し、逆へ一気に。

サイドで数的優位を作るとき

「外中外」「スイ→裏」「マイナス!」。外で引きつけ、内に釣ってから外背後へ。

カウンター対応(数的不利)

「遅らせ」「内切り」「背中ケア」。「ファウルOK」は危険地帯外で冷静に、ルール内で。

ラストプレー(CK/FK)での一言

攻撃「ニアスラ/ファー待ち/セカ拾い」。守備「マン確認/ゾーン位置/弾いて出る」。一言で役割確定。

よくある質問(FAQ)

声が届かない環境でどうする?

ジェスチャー化と短縮語の徹底、ハーフタイムに「合図の再確認」。GKからの伝達リレーも有効です。

選手が恥ずかしがって声を出さない

ミニゲームで「コール加点」を導入。成功体験とセットで声が増えます。役割制で「今日のコーラー」を決めてもOK。

ワードが多すぎて混乱する問題

1フェーズ3語までに絞る。月ごとにテーマを変え、辞書をスリムに保ちましょう。

審判への配慮と言い回しの工夫

ネガティブワードや相手への不適切発言は避け、「自分たちの行動」を指示する言葉に限定。トラブルを未然に防ぎます。

まとめ:今日から使えるチェックリスト

試合前の共通言語確認リスト

  • 攻撃3語:例「リタ/逆振/落ち3」
  • 守備3語:例「外限定/間詰め/スライド」
  • トランジション2語:例「即奪/遅らせ」
  • セットプレー3語:例「ニア/ファー/セカ」

ベンチ掲示用ミニ辞書

  • 短縮形:スイ/リタ/タテ/ウラ/マイ/セカ/サポ/スラ
  • トリガー:背向き今/浮き今/GK戻し→押し
  • 方向+距離:外→5/押し→10

試合後の振り返りテンプレート

  • 使った語/届いた回数/届かなかった理由
  • 成功につながったコールの具体例
  • 削除語/追加語/次節の重点3語

あとがき

言葉は戦術を速くする最小の道具です。二音節の合言葉をチームで共有し、練習でコール→実行を癖づけるだけで、プレーの再現性は上がります。完璧な辞書は要りません。今日の練習から3語だけ決めて、全員で使い切ってみてください。ピッチでの一言が、次の一歩を変えてくれます。

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