目次
- サッカーコーチングワード一覧で即伝わる声かけ術
- 導入:なぜ「即伝わる声かけ」が試合を変えるのか
- 本記事の使い方と前提(用語の定義・対象・場面)
- 即伝わるコーチングワードの5原則
- 攻撃フェーズのコーチングワード一覧
- 守備フェーズのコーチングワード一覧
- トランジション(攻→守/守→攻)のコーチングワード一覧
- セットプレーのコーチングワード一覧
- ポジション別のコーチングワード
- レベル・年代別の言い換えと注意点
- 試合状況別(時間・スコア)で使い分ける声かけ
- 共通言語のつくり方:短縮形・英語・ジェスチャーの統一
- 声の届かせ方:発声・タイミング・指示の方向
- NGワードと代替フレーズ
- 練習で定着させるトレーニングメニュー
- チーム導入のステップ:設計→共有→運用→改善
- 事例シナリオ:よくある4場面でのコーチング
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:今日から使えるチェックリスト
- あとがき
サッカーコーチングワード一覧で即伝わる声かけ術
ピッチでの一言は、パス1本と同じくらい試合を動かします。短く、具体的で、すぐ動ける言葉が揃っているチームは、判断が速くミスが減り、同じ練習でも成果が出やすい。この記事では、即伝わるコーチングワードを「原則→フェーズ別→ポジション別→運用」の順に整理し、今日から使える一覧と定着のコツまでまとめました。図解なしでもすぐ導入できるよう、二音節・三音節を中心に実戦用の言い回しで揃えています。
導入:なぜ「即伝わる声かけ」が試合を変えるのか
即伝わる=短く・具体・肯定・行動指示
良い声かけは「短い」「具体」「肯定」「行動指示」の4点がそろいます。例えば「もっと周り見ろ」よりも「タツヤ、ターンなし→リターン!」の方が、誰に何をどうするかが明確です。短いほど脳の処理が早く、肯定形ほど迷いが減ります。
判断スピードと実行率を上げる言語化の力
サッカーは0.5秒の判断が結果に直結します。共通言語があると、同じ状況で同じリアクションが揃いやすくなり、3人目の連動が増えます。個々の意思疎通が「合図→動作」に縮み、実行率が上がります。
良い声かけがミスを減らすメカニズム
曖昧な言葉は解釈の幅が広く、タイミングが遅れがち。逆に「名前→動詞→場所」の順序で具体化すると、選手は視線を合わせやすく、実行動作が安定します。結果としてパスズレ・被る動き・寄せ遅れが減ります。
本記事の使い方と前提(用語の定義・対象・場面)
用語の前提:フェーズ・役割・時制の統一
本記事ではフェーズを「攻撃」「守備」「トランジション」「セットプレー」に分け、役割は「1st(主働)/2nd(補助)/3rd(連動)」で整理します。時制は「今すぐの動作」を優先し、次の2手先は短縮語で示します。
練習と試合での使い分け
練習では説明語を使い、試合では短縮語に切り替えます。例:練習「縦関係作って三人目」→試合「縦→サンメ」。日常から試合語に寄せると切り替えがスムーズです。
個人指示とチーム指示の切り分け
個人指示は「名前→動詞→場所」、チーム指示は「合言葉→方向→枚数」を基本形に。例:個人「ユウタ、入れ替わり→内」/チーム「ライン↑→5m」。
即伝わるコーチングワードの5原則
原則1:二音節〜三音節で短く
例:ターンなし→「ナシ」、前向け→「マエ」、縦スルー→「タテ」、切り替え→「キリカエ」、背後→「ウラ」。
原則2:動詞から始める(行動を即す)
例:「見て」→「見て→出す」。「寄せて」→「寄せ→限定」。名詞中心より動作で始めると一歩目が出ます。
原則3:肯定的に伝える(やること指定)
NG「するな」「下げるな」→OK「外使え」「安全」。やらないことより、やることを指定します。
原則4:主語と対象を明確に(名前→動詞→場所)
「ケンタ、預け→外」「アオイ、見る→背中」。固有名を前に置くと、周囲も連動しやすい。
原則5:トリガーとセットで覚える
状況とセットの合言葉を決める。例:相手後ろ向き→「寄せドン」、GK保持→「ライン押し」、縦パス入る→「落ち3」。
攻撃フェーズのコーチングワード一覧
ビルドアップ:後方での前進を助ける声かけ
- 「サポ角」:斜めの受け角度へ。
- 「リタ」:リターン要求(ワンツーの起点)。
- 「逆振」:逆サイド展開。
- 「吸って→離す」:引きつけてから離す。
- 「キープ→外」:安全に外へ。
- 「縦差し→落ち」:縦パス後の落としを促す。
- 「内→外→裏」:インナー経由で最終ライン背後へ。
前進(ミドルサード):ライン間の活用
- 「間立て」:ライン間に立つ。
- 「背中見て」:ミドルで前向きの味方を探す。
- 「落ち3」:縦→落とし→3人目の抜け。
- 「スイッチ」:位置入れ替え(短縮「スイ」)。
- 「内回り」:インナーラップ。
- 「前向けた!」:前向きに入れた合図で加速。
サイド攻撃:幅と裏の使い分け
- 「張る」:タッチライン幅取り。
- 「絞る」:サイドハーフの内側化。
- 「外1→中2」:外で1タッチ、中へ2枚侵入。
- 「外中外」:外→内→外の連続性。
- 「裏刺し」:SB/SHの背後ラン。
- 「マイナス」:ペナ内マイナス折り返し。
中央突破:縦パス後のサポート
- 「背負い→落ち」:CFの背負いから落とし。
- 「刺さる」:IHが縦に刺す。
- 「壁!」:ワンツーの壁役。
- 「裏抜け2」:2人同時の背後ラン。
- 「止めて配る」:ボランチのテンポ作り。
ラストサード:質と枚数の最適化
- 「枚数合わせ」:ボックス内の人数調整。
- 「ニア占有」:ニアゾーン確保。
- 「ファー待ち」:ファー側の遅れて入る。
- 「二列目」:セカンドラインの到達確認。
- 「クロス質」:低い速い/巻く/ふわりの指示。
フィニッシュ:シュート局面の合言葉
- 「打て!」:判断迷いを断つ合図。
- 「枠!」:枠内優先。
- 「こぼれ」:セカンド狙い。
- 「ニアズドン」:ニアニアへの速い合わせ。
- 「カーブ/ニア強」:シュート質の簡易共有。
守備フェーズのコーチングワード一覧
第一次守備者(1stDF):寄せ・向き・限定
- 「寄せ速」:最初の2歩を速く。
- 「外限定」:外へコース制限。
- 「内切る」:内側切り。
- 「足出すな」:フェイントで剥がされ防止(代替「間合い」)。
- 「縦消し」:縦パスライン遮断。
カバー&バランス:二次・三次守備の連動
- 「背中ケア」:マークの背後管理。
- 「スライド」:横移動の合図。
- 「インカバー」:内側の保険。
- 「四角作る」:周囲で箱型の囲い。
コンパクトネス:縦横の距離管理
- 「縦15」:縦距離の目安(メートルはチーム基準で)。
- 「ライン上げ」:押し上げ。
- 「間詰め」:ライン間を圧縮。
- 「幅寄せ」:ボールサイドに凝縮。
プレストリガー:奪い所の共通理解
- 「背向き今」:相手が背を向けた瞬間。
- 「浮き球今」:浮き球コントロール前。
- 「外向かせ」:外に誘導して挟む。
- 「GK戻し→押し」:GKに戻った瞬間ラインアップ。
ブロック守備:ラインコントロール
- 「中締め」:中央閉鎖を優先。
- 「外OK」:外へ誘導容認。
- 「弾いて出る」:クリア後のラインアップ。
- 「入ってない」:ペナ外シュートは見極め。
奪取後の即時判断(カウンターストップ含む)
- 「一発縦/落ち着け」:奪って速攻か保持か。
- 「ファウルOK」:危険地帯外で戦術ファウルの合図(規則内で冷静に)。
- 「ボール隠す」:相手の切替を空振りさせる保護。
トランジション(攻→守/守→攻)のコーチングワード一覧
守→攻:ファーストタッチと最初の一手
- 「前向き!」:一発で前向き。
- 「外使え」:外の安全ルート。
- 「縦一本」:一撃カウンター。
- 「サポ2」:サポート2枚の確保。
攻→守:即時奪回と遅らせの判断
- 「即奪」:5秒奪回。
- 「遅らせ」:前進を遅らせ整える。
- 「内切り→外へ」:中央閉鎖の合意。
- 「ファー締め」:逆サイド警戒。
5秒ルール・3人目の関与を促す言葉
- 「5秒!」:即時奪回のカウント合図。
- 「3人目」:3rdマンの参加を指示。
- 「二次!」:弾かれた後の二次攻撃/守備。
セットプレーのコーチングワード一覧
CK攻撃:ニア・ファー・セカンド
- 「ニア走る」「ファー溜め」「セカ拾い」
- 「ニアスラ」:ニアでスラす。
- 「手前低い/奥巻く」:キック質の共有。
CK守備:マンツー・ゾーン・リバウンド
- 「マン確認」「ゾーン位置」「リバ回収」
- 「ファーポスト!」:ファー側カバー。
- 「ライン↑→出る」:クリア後の押し上げ。
FK攻撃:直接/間接と二次攻撃
- 「直/間」:キックの意図共有。
- 「セカ準備」:弾かれた後の回収。
- 「こぼれ打て」:シュート準備。
FK守備:壁・キーパーライン・セカンド回収
- 「壁右半歩」「跳ぶ/跳ばない」
- 「キパライン」:GKの基準線共有。
- 「セカ拾い→外へ」
スローイン:再現性の高い合図
- 「足元/背後/戻し」
- 「ワンツー」「スイッチ」
- 「内サポ」「外張る」
PK:キッカーとキーパーの声かけ
- キッカー「ルーティン」「枠」「信じて」
- GK「待て」「読み切る」「弾き外」
ポジション別のコーチングワード
GK:コーチングの優先順位と単語設計
- 「ライン↑↓」:最優先はDFライン。
- 「中締め/外誘導」:守備方針の提示。
- 「時間ある/ない」:保持者の情報。
- 「背中ケア」「セカ拾い」
CB:ライン統率と限定の言葉
- 「押す/下げる」:全体の高さ。
- 「外限定」「縦消し」
- 「受け渡し」:マークの引き継ぎ。
SB(WB):幅・裏・インナーの合図
- 「張る/絞る」「裏刺し」「インナー」
- 「カバー!」:背後の保険。
- 「外マイナス」:クロスの質。
DMF(アンカー):前後左右の交通整理
- 「間閉じ」「外OK」「前向かせるな」
- 「縦差し→落ち」「逆振」
- 「二列目入る」
CMF:縦関係と三人目の活性化
- 「縦関係」「落ち3」「刺さる」
- 「前向けた!」「サポ角」
WG/SH:外中外と背後の使い分け
- 「外1→中2」「裏抜け」「インナー」
- 「ニア占有」「ファー待ち」
CF/ST:起点作りとフィニッシュワード
- 「背負い→落ち」「壁」「裏同時」
- 「枠」「こぼれ」
レベル・年代別の言い換えと注意点
中学生向け:単語化とジェスチャー併用
単語+指差しが有効。「外!→指で外」「裏!→背中を手で指す」。言葉は二音節中心で統一します。
高校・大学向け:トリガー連動型の短縮語
「背向き今」「浮き今」「GK戻し→押し」など、状況セットの短縮語でスイッチを共有。
社会人・シニア向け:省エネで伝わる言い回し
距離が遠い局面が増えるため「方向+距離」で簡潔に。「外→5」「押し→10」。
初心者〜上級者:抽象度と具体度の調整
初心者は「動詞+一手」。上級者は「トリガー+二手」。例:初級「寄せ」→上級「外限定→挟む」。
試合状況別(時間・スコア)で使い分ける声かけ
リード時:リスク管理と時間の使い方
- 「無理しない」「外回し」「コーナー取る」
- 「ライン↑→一斉」
ビハインド時:テンポアップと枚数管理
- 「テンポ上げ」「枚数かける」「セカ前へ」
- 「リスクOK」:エリア限定で許容。
同点終盤:セットプレーとセカンド最優先
- 「ファウル貰う」「CK狙い」「セカ拾い」
警告・退場時:役割再設計の素早い共有
- 「形4-4-1」「幅捨て→中央」
- 「カウンターストップ優先」
疲労・痙攣兆候時:省エネの共通言語
- 「省エネブロック」「外切らない」「蹴って整える」
共通言語のつくり方:短縮形・英語・ジェスチャーの統一
二音節コールの辞書化(例:スイッチ→スイ、リターン→リタ)
チーム辞書をA4一枚に。「スイ」「リタ」「タテ」「ウラ」「マイ」「セカ」「サポ」「スラ」。全員で同じ短縮形に統一。
英語・外来語の使いどころ(例:ワンツー/カバー)
浸透している語は採用。「ワンツー」「カバー」「スクエア」「ライン」。英語を使うときは意味の合意を先に。
ジェスチャーとセットで誤解を減らす
指差し=スペース、手の平=落ち着け、手を回す=テンポ上げ。音が届かない時の代替手段になります。
声の届かせ方:発声・タイミング・指示の方向
通る声=高め×短く×はっきり
低音よりも少し高め、語尾を立て、二音節で区切ると届きやすい。「マエ!」「ウラ!」のように強弱をつけます。
見て→呼んで→指示の順序
視線を合わせてから名前、次に動作。「目→名→動作」。目が合わないと判断が遅れます。
誰に→何を→どこで(3点セット)
「リョウ、出す→外!」「マコ、締め→中!」。空間指定を最後につけると誤解が減ります。
ポジティブ・ネガティブの比率設計
基本はポジティブ7:ネガティブ3。否定形はリスク回避の最小限にとどめます。
NGワードと代替フレーズ
抽象的すぎる指示の言い換え
- NG「集中しろ」→OK「セカ拾い!」
- NG「もっと動け」→OK「サポ角!」「裏!」
- NG「しっかり」→OK「外限定!」「間詰め!」
否定形の回避と肯定形への変換
- NG「下げるな」→OK「前向け」「外使え」
- NG「取られるな」→OK「体入れ」「キープ」
遅い指示を早くするコツ(事前合図)
- 「次縦!」:受ける前に次の選択を提示。
- 「背中注意!」:縦パス前に予告。
- 「クロス質!」:持ち替え前に種類を決める。
練習で定着させるトレーニングメニュー
コール&プレー(言ってから出す)
パス前に必ずコール。「リタ→パス」「タテ→刺す」。コールがないパスは無効にするルールで徹底。
制約ゲームでワードを強制する
条件例:「縦差し後は『落ち3』の声が出た時だけ3人目侵入可」。言葉が行動を解禁する設計に。
シャドープレーで動きと言葉の同期
11対0のポジショナルで、合図だけで前進。各フェーズで使うコールを固定化していく。
ミニゲームの評価指標:コール数×成功率
「有効コール数」「コール後の成功率」を可視化。数だけでなく成功と紐づけると質が上がります。
チーム導入のステップ:設計→共有→運用→改善
設計:目的→トリガー→ワード→合図
例:目的「外誘導で奪う」→トリガー「背向き」→ワード「外限定」→合図「手で外指す」。
共有:配布・ロッカールール・タッチライン掲示
A4一枚の辞書を配布、ロッカーに貼り、ベンチ前にミニ版掲示。誰でも即確認できる状態に。
運用:担当割り(GK/DF/中盤/前線)
ユニットごとにコーチング担当を決める。試合中も担当が「言葉の温度」を整えます。
改善:試合後レビューと語彙の棚卸し
映像の「声」を振り返り、被った語・届かない語を削除。新陳代謝で辞書を軽く保つ。
事例シナリオ:よくある4場面でのコーチング
自陣でのビルドアップが詰まるとき
「サポ角→逆振」「リタ→外」「GK戻し→押し」。近い距離の三角で解放し、逆へ一気に。
サイドで数的優位を作るとき
「外中外」「スイ→裏」「マイナス!」。外で引きつけ、内に釣ってから外背後へ。
カウンター対応(数的不利)
「遅らせ」「内切り」「背中ケア」。「ファウルOK」は危険地帯外で冷静に、ルール内で。
ラストプレー(CK/FK)での一言
攻撃「ニアスラ/ファー待ち/セカ拾い」。守備「マン確認/ゾーン位置/弾いて出る」。一言で役割確定。
よくある質問(FAQ)
声が届かない環境でどうする?
ジェスチャー化と短縮語の徹底、ハーフタイムに「合図の再確認」。GKからの伝達リレーも有効です。
選手が恥ずかしがって声を出さない
ミニゲームで「コール加点」を導入。成功体験とセットで声が増えます。役割制で「今日のコーラー」を決めてもOK。
ワードが多すぎて混乱する問題
1フェーズ3語までに絞る。月ごとにテーマを変え、辞書をスリムに保ちましょう。
審判への配慮と言い回しの工夫
ネガティブワードや相手への不適切発言は避け、「自分たちの行動」を指示する言葉に限定。トラブルを未然に防ぎます。
まとめ:今日から使えるチェックリスト
試合前の共通言語確認リスト
- 攻撃3語:例「リタ/逆振/落ち3」
- 守備3語:例「外限定/間詰め/スライド」
- トランジション2語:例「即奪/遅らせ」
- セットプレー3語:例「ニア/ファー/セカ」
ベンチ掲示用ミニ辞書
- 短縮形:スイ/リタ/タテ/ウラ/マイ/セカ/サポ/スラ
- トリガー:背向き今/浮き今/GK戻し→押し
- 方向+距離:外→5/押し→10
試合後の振り返りテンプレート
- 使った語/届いた回数/届かなかった理由
- 成功につながったコールの具体例
- 削除語/追加語/次節の重点3語
あとがき
言葉は戦術を速くする最小の道具です。二音節の合言葉をチームで共有し、練習でコール→実行を癖づけるだけで、プレーの再現性は上がります。完璧な辞書は要りません。今日の練習から3語だけ決めて、全員で使い切ってみてください。ピッチでの一言が、次の一歩を変えてくれます。
