サッカー指導者向け練習計画 失敗しない90日ロードマップ
3か月でチームを変える。大がかりな設備や最新機器がなくても、緻密な練習計画とデータの活用、そして日々のコミュニケーションでチームは伸びます。本記事は、現場ですぐに使える「90日の具体的な道筋」と「週・日・セッション単位の設計図」を、失敗しないためのチェックポイントとともにまとめた実践ガイドです。迷いを減らし、再現性の高い成長サイクルをつくりましょう。
失敗しない90日ロードマップの全体像
本ロードマップの目的と到達イメージ
目的は、90日で「勝つための習慣」を構築することです。テクニックや体力をバラバラに鍛えるのではなく、ゲームモデル(自分たちの勝ち筋)に沿って優先順位を決め、測定し、適応する。このサイクルを回し続けることで、試合内容と結果が安定していきます。到達イメージは以下です。
- プレー原則が共通言語化され、選手が自律的に意思決定できる
- 試合強度に耐える身体と、怪我を避ける準備が整う
- KPI(重要指標)で進捗が見える化され、練習が結果につながる
90日で狙う成果の定義(技術・戦術・体力・メンタル)
- 技術:プレッシャー下でも再現性のある1stタッチ、正確なパス/フィニッシュ、方向転換
- 戦術:ビルドアップの出口の明確化、トランジション5秒ルールの徹底、守備ブロックの高さコントロール
- 体力:サッカー特異的持久力(反復スプリント耐性)、加速/減速能力、怪我予防習慣
- メンタル:役割理解、ゲームプラン遵守、ポジティブな声かけと集中のスイッチ
成功の鍵:測定・適応・コミュニケーションの三位一体
- 測定:チームと個人のKPIを週次でチェック(例:進入回数、シュート効率、RPE)
- 適応:数字と映像から課題を特定し、翌週の練習テーマに反映
- コミュニケーション:選手と合意形成し、練習意図を共有。IDP(個別育成計画)で動機づけ
事前準備と現状分析(Day -7〜0)
チーム診断チェックリスト(技術・戦術・身体・メンタル)
- 技術:1stタッチの方向づけ、弱い足の使用率、対人下のボール保持
- 戦術:前進時のサポート角度、数的優位の作り方、守備のスライド速度
- 身体:スプリント反復の質、加速/減速のフォーム、可動域(足首/股関節/ハム)
- メンタル:ゲームモデル理解度、役割受容、試合中のコミュニケーション
KPI設定とベンチマーク(例:得点機会、シュート効率、スプリント回数)
数字は行動を変えます。まずは3〜5項目に絞って測定。
- チームKPI例:ペナルティエリア進入(試合10回以上)、被進入(8回未満)
- シュート効率:枠内率45%以上、ゴール期待値xGに対する実得点の差
- スプリント:11m/s基準が難しい場合は「全力走の本数」を自己申告+GPS/アプリで補助
- パス前進距離:自陣→中盤→敵陣での前進回数
リソース確認(人数・ポジション・グラウンド・用具・予算)
- 人数/ポジション:SSGの最適人数を逆算(4v4、6v6、8v8)
- グラウンド:フル/半面/三分割でのメニュー互換表を作成
- 用具:マーカー40、ミニゴール2、ラダー/ハードル、ストップウォッチ、ホワイトボード
- 予算:ビデオ撮影はスマホ+三脚+無料アプリで開始可能
安全とコンプライアンス(メディカル情報・保険・暑熱/寒冷対策)
- メディカル:既往歴、アレルギー、RTP(復帰基準)を事前共有
- 暑熱:WBGTの目安で強度/休憩を調整。給水は15〜20分毎
- 寒冷:ウォームアップ延長、着脱可能ウェア、指先と耳の保護
- 保険:対人・施設・移動時を確認し、緊急連絡網と役割分担を明確化
期分け(ピリオダイゼーション)の考え方
マクロ・メゾ・マイクロサイクルの基礎
- マクロ:90日の全体設計(3つの30日)
- メゾ:30日単位でテーマ集中(基盤→浸透→仕上げ)
- マイクロ:週の波(負荷の山谷)と休養設計
学校・リーグ日程から逆算するスケジューリング
重要試合の2〜3週前にピークが来るように逆算。テスト期間や行事は負荷軽減週に設定。遠征は「戦術定着→確認」の週に置くと学びが深まります。
試合の負荷管理(RPE・出場時間・回復デザイン)
- RPE(主観的運動強度)×セッション時間で「日負荷」を可視化
- 出場時間:90分超の選手には翌日回復、短時間出場選手には補強セッション
- 回復:低強度ジョグ+モビリティ10分、翌日フィジオロジーに沿った軽負荷
90日フェーズ設計(3つの30日メゾサイクル)
フェーズ1(Day1–30)基盤構築:原則・テクニック・体力基礎
- 狙い:プレー原則の言語化、1stタッチとサポート角度の徹底、FIFA 11+の習慣化
- ドリル:3v1/4v2ロンド、2v2+サーバー、方向づけSSG(縦ゴール)
- フィジカル:有酸素ベース+短い加速(10–20m)繰り返し
フェーズ2(Day31–60)戦術浸透:連携・強度・反復
- 狙い:ビルドアップ出口(IH/ウイング/CFの連動)、トランジション5秒ルール
- ドリル:6v6+GKsの制限付きゲーム、フェーズドプレー(自陣→中盤→最終)
- フィジカル:RSA(反復スプリント能力)と方向転換の質向上
フェーズ3(Day61–90)仕上げ:試合モデル最適化・セットプレー強化
- 狙い:ゲームプランの複線化(プランB)、デッドボール期待値の底上げ
- ドリル:11v11のゲーム強度管理、CK/FKルーチン、時間帯別シナリオ練習
- フィジカル:疲労をためない維持メニュー+速度のキレを確保
週の設計(マイクロサイクルのテンプレート)
試合1回/週の例:回復→強度→戦術→調整→試合
- 試合翌日:回復(RPE低)/補強組は強度中
- −4日:強度高(対人+スプリント)
- −3日:戦術(11v0/11v11で配置と原則)
- −2日:セットプレー+部分戦術(強度中)
- −1日:調整(テンポと自信)
試合2回/週の例:短縮マイクロサイクルとローテーション
- 回復→戦術確認→試合→回復→試合
- 出場時間管理:先発固定を避け、60/30の分担設計
試合なし週の例:発展ブロックでの個別強化
- 技術反復+SSGのボリュームを増やす
- フィジカルはスピードと方向転換の質を最優先
雨天・施設制約時の代替メニュー(屋内・狭小スペース対応)
- 3v3/4v4の壁当て利用、反転・カットバックの反復
- コーディネーション(ラダー、足首/股関節モビリティ)
- 戦術ホワイトボード+映像ミーティング(15〜20分)
セッション設計の原則(1回90分モデル)
ウォームアップ:動的可動域+ボール導入
- 10分:ジョグ+動的ストレッチ(足首・股関節・ハム)
- 10分:FIFA 11+のコア+ジャンプ着地+方向転換基礎
- 5分:ボールストライキング(両足、距離と質)
メイン1:テーマ別小人数ゲーム(SSG)で原則学習
- 20分:4v4+2フリーマン(サポート角度/方向づけ)
- 制限:2タッチ、前進で加点、逆サイドチェンジでボーナス
メイン2:11人戦術へのブリッジ(フェーズドプレー)
- 20分:自陣ビルド→中盤前進のパターン化と崩し
- 制限:時間制限(8秒で前進)、外レーンの幅確保義務
フィニッシュ:セットプレー/フィニッシュ/ゲーム形式
- 15分:CK2種+FK1種を反復(役割固定と合図)
- 10分:8v8/10v10ゲームで学びを実戦化
クールダウンと振り返り(2分アンケート・RPE回収)
- 5分:軽ジョグと呼吸
- 2分:今日の気づき1つ、RPE入力、怪我の有無
戦術テーマ別の90日配分例
ビルドアップとプレス回避(自陣〜中盤前進)
- 前半30日:GK含む3人目の関与、IHの背後取り
- 制限ゲーム:外→中→外のスイッチで加点
トランジション(攻守の切り替えと5秒ルール)
- ボールロスト後5秒の圧縮/遅らせ、即時前進のスイッチ
- ドリル:5秒カウントの奪還ゲーム、3ゴールゲーム
守備ブロックとプレス(ハイ/ミドル/ローの使い分け)
- 合図とトリガーの言語化(外背中で誘導、内切りで限定)
- ライン間距離:10〜15m目安で圧縮
最終局面:クロス・カットバック・中央攻略・セットプレー
- ファー詰め/ニアアタック/カットバックの役割固定
- xGを上げるショットセレクション(PA内での決定機創出)
ゴールキーパー統合(スイーパー起用・セットプレー組織)
- 背後の深さ管理、配球の判断、ライン統率の合図
- CK守備:マン+ゾーンのハイブリッドとニアの守り
技術・体力の統合トレーニング
技術反復をゲームに結びつける設計(締切のある反復)
- 1stタッチ→2タッチ以内の前進→5秒以内のフィニッシュ
- 締切が意思決定を鍛え、試合で再現される
サッカー特異的持久力(HIIT・RSA)と強度管理
- HIIT:15秒高強度/15秒低強度×10〜12本をボールありで
- RSA:30mスプリント×6本、15秒レスト×3セット(個人差で調整)
スプリント・加速/減速・方向転換トレーニング
- 10m/20m加速、減速の姿勢(低重心・膝前/踵着地回避)
- COD:45°/90°/180°の切り返しドリル
怪我予防(ハムストリング・足首・膝)とFIFA 11+活用
- ノルディックハム、ヒップヒンジ、片脚バランス
- 着地時の膝内側倒れを避ける意識づけ
リターン・トゥ・プレーの基準づくり
- 痛みゼロ、関節可動域左右差小、スプリント/方向転換テストを段階クリア
- 段階復帰:個別→限定練習→全体合流→出場時間制限
データと評価の運用
週次・月次の評価ループ(KPIダッシュボード)
- 週:PA進入、被進入、枠内率、RPE平均を更新
- 月:傾向を見てテーマの入れ替えや負荷再設計
映像とタグ付けの基本(低予算でのワークフロー)
- スマホ+三脚で定点撮影、ゴールシーン/ビルド/トランジションをタグ
- 共有:3〜5クリップに絞り、練習前5分で確認
個人面談とIDP(個別育成計画)の進め方
- 1人10分、強み2/課題1/行動1のシンプル設計
- 目標は数値+行動(例:弱足パス100本/週、RPE提出100%)
成果の見える化と共有(選手・保護者・スタッフ)
- 月次レポート1枚(KPI、怪我、次月テーマ)
- 保護者向けは専門用語を減らし、取組姿勢や安全面を明記
コミュニケーションとチーム文化
コーチングスタイルと合意形成(原則・ルール・役割)
- 原則を短文で掲示(例:前進・幅・深さ・サポート)
- 役割は「誰が/いつ/どの合図で」を一枚表に
フィードバック技法(SBI・問答法・即時/遅延の使い分け)
- SBI:「場面→行動→影響」で具体化
- 問答法:選手に気づかせる「なぜ?次は?」の対話
モチベーション設計(内発的動機づけを引き出す仕組み)
- 選択肢の提示(メニューA/B)、進歩の可視化、役割の意味づけ
- 成功体験の小分け(今日のベスト3を共有)
年齢・レベル別の調整ポイント
高校生・大学生・社会人の違いと配慮
- 高校生:成長期の負荷管理、睡眠と栄養指導を重視
- 大学生:週2試合想定、ローテーションと時短メニュー
- 社会人:時間制約に合わせた60分版テンプレの活用
初級〜上級の負荷と複雑性の調整
- 初級:ルール1つ、タッチ制限少なめ
- 上級:条件2〜3、時間/ゾーン制限を増やす
少人数チーム/兼用選手への対応策
- 6〜10人でも回るSSG中心、守備の型は2パターンに絞る
- 兼用選手はRPEと出場時間で個別調整
栄養・回復・生活習慣のガイドライン
練習前後の補食と水分戦略
- 前:軽食(炭水化物中心)+水分
- 後:30分以内に炭水化物+たんぱく質、こまめな水分
睡眠と回復(微細な疲労サインの察知)
- 眠気/集中低下/筋肉の張りは黄色信号。負荷を下げる勇気
- 寝る前のスマホ時間短縮、ルーティン化
学業・仕事と両立するタイムマネジメント
- 週初に予定表共有、移動中の映像学習は短時間で
- 練習後30分の帰宅シーケンス(補食→整理→入浴)
よくある失敗と回避策
計画倒れ(過密・複雑化)の兆候と修正
- 兆候:説明時間が長い、選手が混乱
- 修正:ルールを1つ減らす、面積と人数で強度を上げる
反復不足/測定不足が招く停滞への対処
- 同テーマを最低2週は継続、KPIで小さな伸びを確認
- 映像で「できた場面」を見せて定着
怪我多発のサインと是正フロー
- サイン:同部位の張り、同タイプの怪我が連続
- 是正:FIFA 11+徹底、スプリント量/強度の調整、回復日に切替
チームルールの形骸化を防ぐ運用
- 3つまでに絞る、毎週1分で確認、守れた事例を称賛
90日ロードマップの実践テンプレート
月間計画テンプレート(印刷用/共有用)
月間テーマ:試合日:重点KPI(3つ):技術:戦術:体力:セットプレー:IDPトピック:
週次プランとセッション記録フォーマット
週番号:試合(日時/相手):今週の狙い(1文):月→日の負荷計画:セッション要旨(90分の配分/ルール):RPE平均/怪我状況/メモ:
KPIトラッカーと選手ノートの例
チームKPI:PA進入 / 枠内率 / 被進入 / セットプレー期待得点個人KPI:弱足使用率 / デュエル勝率 / インターセプト回数選手ノート:今日の学び / 次回の焦点 / 体調メモ
キックオフミーティング台本と資料構成
- 台本:目的→90日の流れ→役割→KPI→安全→質疑
- 資料:1枚もの(原則/週の流れ/測定方法)
現実制約のマネジメント
施設・用具・予算の最適化アイデア
- 半面×3レーンで回すライン設計、ミニゴールはコーンで代替
- 動画は縦構図固定で容量節約、共有は限定リンク
天候・気温(暑熱/寒冷)対応とリスク管理
- 暑熱日は休憩を増やしゲーム時間を短縮、氷/冷却タオル準備
- 寒冷日はウォームアップ延長、ゲームは短い反復で体温維持
遠征・移動・試合運営との両立術
- 移動日は回復セッション扱い、到着後の軽いモビリティ
- 荷物チェックリストを標準化し忘れ物ゼロ
FAQ(現場の悩みに答える)
練習時間が60分しかない日の優先順位は?
- ウォームアップ10分(FIFA 11+短縮)→SSG25分→戦術ブリッジ15分→セット/振り返り10分
参加人数が9人以下のときはどう組む?
- 3v3+2フリーマン、4v4+1GK、インターバル短めで回転
GKが不在の日の処方は?
- 小ゴール2基でコース選択を優先、足元の配球訓練にシフト
連戦で消耗したときの回復戦略は?
- RPE集計→スプリント量を削り、戦術確認と可動域確保に集中
明日から始めるチェックリスト
初日までに準備する10項目
- ゲームモデルの一行要約
- KPI3〜5項目の決定
- 月間/週次テンプレ印刷
- RPE回収フォーム準備
- FIFA 11+リスト
- ミニゴール/マーカー/ビブス確認
- 映像撮影の導線確認
- 緊急連絡網
- 保険/メディカル情報の共有
- 保護者/選手向け案内文
7日・30日・60日・90日の確認項目
- 7日:RPE提出率/練習の理解度
- 30日:PA進入/被進入の改善、怪我ゼロを目標
- 60日:トランジションの反応速度、セットプレー成果
- 90日:勝ち筋の再現性、プランBの実行度
次の90日への引き継ぎとアップデート
- データと映像から「継続/停止/新規」の3分類
- 新たなKPI1つを追加、マンネリ化を防止
まとめ
練習は「設計→実行→測定→適応」の循環で強くなります。90日の中で、原則の言語化、SSGでの反復、フェーズドプレーでの橋渡し、セットプレーの積み上げ、そして体力・安全管理を欠かさない。小さな進歩を見える化し、選手と合意して前に進めば、チームは安定して伸びていきます。今日からテンプレを1枚、KPIを3つ、RPE回収を始めましょう。変化は必ず起こります。
