試合でパフォーマンスを上げる「最短ルート」は、根性論ではなく設計図です。サッカーは連続する意思決定のスポーツ。だからこそ、試合から逆算して「いま、何を、どれくらい、どんな質で」取り組むかを1枚のシートに落としておくと、迷いが消えて集中が続きます。本記事では、誰でもすぐ作れて、試合で効く「サッカー目標設定シート」の作り方を、テンプレート付きで詳しく解説します。必要な項目、KGI・KPIの決め方、練習や映像学習への落とし込み、レビューの回し方まで、実行しやすい順に並べました。今日から運用できる具体例も多めです。
目次
- サッカー目標設定シートの作り方|試合で効く逆算術(概要)
- 目標設定シートの全体像とフォーマット設計
- 作り方ステップ1:最終ゴールを言語化(試合で何を達成するか)
- 作り方ステップ2:KPIを決める(攻守+トランジション+セットプレー)
- 作り方ステップ3:技術・戦術・体力・メンタルに分解する
- 作り方ステップ4:時間軸に落とす(年間→月間→週間→日次)
- 作り方ステップ5:練習メニューと学習タスクに変換
- 作り方ステップ6:評価と更新(レビューサイクル)
- 目標設定シートの書き方テンプレート(コピペ可能な項目例)
- ポジション別KPI例と逆算のコツ
- 年代別の作り方(高校・大学/社会人・保護者の支援)
- データの取り方と記録の工夫(紙・アプリ活用)
- よくある失敗とNG例、改善チェックリスト
- 小さな習慣で続ける仕組み化
- Q&A:目標設定 シート 作り方の疑問に答える
- まとめと次の一歩(最短で作るミニ版シート)
- あとがき
サッカー目標設定シートの作り方|試合で効く逆算術(概要)
「逆算術」とは—試合から逆に計画する考え方
逆算術は、試合で発揮したい「役割の成果」から必要な行動を遡る設計法です。結果(例:決定機を3回作る)→行動(例:最終ライン背後への走り直し5回、縦パスの引き出し8回、前向きで受けるための肩チェック10回)→準備(例:前日の睡眠7.5時間、反応速度ドリル5分)という流れで分解します。目的と手段がつながるので、練習や日常の優先順位がハッキリします。
目標設定シートの役割と期待できる効果
- 迷いの削減:やるべきことが1枚に集約され、判断疲労を減らす
- 質の底上げ:練習がKPIに直結し、意図的な反復が増える
- 再現性の向上:良かった試合の要因が言語化され、再現しやすい
- 振り返りの速さ:試合後の事実→解釈→次の一手が早くなる
結果指標(KGI)と行動指標(KPI/KR)の違い
KGIはゴール(例:失点0、決定機4)、KPI/KRはそこへ向かう行動や過程の指標です。KPIは量と質の両面で定義し、KR(Key Results)として「達成の証拠」を一行で言える形にします。KGIはコントロールしにくいので、KPIをコントロールしてKGIに近づける、という考え方が実務的です。
目標設定シートの全体像とフォーマット設計
年間・月間・週間・試合当日の4階層レイアウト
1枚のシートで全期間を管理しようとすると破綻します。推奨は4階層:
- 年間:シーズンの狙いとピーク設定
- 月間:重点テーマとKPIの焦点化
- 週間:次の試合から逆算したタスク
- 試合当日:実行リストとマインドリマインダー
定量と定性を両立する欄の作り方
定量(回数・割合・距離)で進捗が見え、定性(判断の質・ポジショニングの妥当性)でプレーの質が育ちます。両者を「セット」で記入しましょう。例:縦パス受け前の肩チェック10回(定量)+受けて前向きに運べた割合70%(定性)。
SMARTとFASTの両輪で目標精度を上げる
- SMART:具体・測定可能・達成可能・関連性・期限
- FAST:頻回レビュー・野心・可視化・透明性
SMARTで設計し、FASTで運用頻度と透明性を担保すると、現場で回り続けます。
シートに必ず入れる基本項目チェック
- 期間・試合情報(相手・会場・キックオフ)
- 自分の役割と今日のテーマ
- KGI(結果)とKPI/KR(行動・証拠)
- 技術・戦術・体力・メンタルのタスク
- 前後48時間のルーティン
- レビュー欄(事実・気づき・次の一手)
作り方ステップ1:最終ゴールを言語化(試合で何を達成するか)
チーム戦術と役割の確認(整合性をとる)
個人目標はチームのゲームモデルと矛盾しないことが前提です。例えば、後方からのビルドアップを重視するなら、FWのKGIは「最終局面のフィニッシュ」だけでなく「前進の起点になる」が含まれます。監督・コーチに意図を確認して、言葉を合わせましょう。
ポジション別に定義する成果の言葉
- FW:決定機の質×量、背後脅威、プレスの合図
- MF:前進のハブ、ボール循環の速度、守備のスイッチ
- DF:ライン統率、危険管理、前進阻害
- GK:守備組織の起点、背後管理、ビルドの安定
「何をもって良しとするか」を一言で言えると、KPIの選定が速くなります。
勝敗以外の“機能”をKGIに落とすコツ
勝敗は相手もあるためブレます。機能KGI(例:敵陣でのボール保持率55%以上、PPDA○以下、CKからの被ショット0)なら、チームの狙いに即した達成度を測れます。個人では「自分の役割が機能したか」をKGIにしましょう。
作り方ステップ2:KPIを決める(攻守+トランジション+セットプレー)
攻撃KPIの例:前進・フィニッシュ・決定機創出
- 前進:前向きでライン間受け3回以上、縦パス前の肩チェック10回、内外のサポート角度調整10回
- フィニッシュ:枠内シュート2本、PA侵入5回、逆サイドへの崩しスイッチ2回
- 決定機創出:キーパス3本、ラスト30mでの数的優位創出2回
守備KPIの例:プレス強度・奪回・被決定機抑制
- プレス:トリガー(後ろ向き受け・バックパス)での圧縮5回
- 奪回:中盤での即時奪回3回、低い位置での遅らせ成功5回
- 抑制:危険幅(ゴール正面中央)への侵入0回、PA内フリーで撃たせない
トランジションKPI:5秒の意思決定と距離短縮
切り替え最初の5秒で何をするかを固定します。例:奪った瞬間は最短で前進ラインを探す、失った瞬間はボールサイド5m以内へ圧縮。距離・秒数で定義すると実行率が上がります。
セットプレーKPI:役割別タスクと再現性
- 攻撃CK:ニア潰れの走り直し2回、ブロックの角度固定、セカンドボール回収2本
- 守備FK:壁のジャンプタイミング統一、ラインアップのコール主導、セカンド対応の逆サイド絞り
「誰が・どこに・いつ・何を」の4要素を明記すると、再現性が高まります。
作り方ステップ3:技術・戦術・体力・メンタルに分解する
技術:ポジション必須スキルの優先順位
全てをやろうとすると薄まります。今月の最重要2つに絞り、反復回数と質を定義。例:インサイドの質(体の向き固定→逆足でのファーストタッチ)を毎日100回、弱い方の足の浮き球トラップ20回。
戦術:ゲームモデル理解と意思決定パターン
自分の「定石」を3つ用意します。例:ライン間で受ける→背後・前進・リターンの優先順。守備では、縦切り→外へ追い出し→サンド、など。状況と選択のセットをシートに書いておくと、試合中の迷いが減ります。
体力:ポジション別フィジカル指標(走行・加速・反応)
- FW:5〜15mの加速回数、背後スプリントの反復間隔
- MF:反復走(シャトル)と方向転換の質、心拍回復
- DF:初速の一歩、背走・横走の切替、ジャンプの再現
- GK:反応時間、ステップワーク、飛び出しの到達点
測定が難しければ、主観RPE(きつさ10段階)を併用し、負荷管理を簡易化します。
メンタル・生活:睡眠・栄養・セルフトーク
- 睡眠:就寝・起床を固定、7〜8時間を目安に
- 栄養:試合前の炭水化物と水分、試合後30分のリカバリー
- セルフトーク:キーワード3つ(例:「準備」「前進」「やり切る」)
作り方ステップ4:時間軸に落とす(年間→月間→週間→日次)
年間(マクロ):シーズンプランとピーキング
公式戦の山に向けて逆算。強度を波形で管理し、ピーク前はボリュームを落としてキレを上げます。怪我リスクの高い時期(初夏・真冬)にケアを厚めに設定。
月間(メソ):テーマ設定と重点KPIの選定
月にテーマは1〜2個。KPIも最大3つに絞り、反復とレビューの頻度を上げます。例えば「前進の質」と「即時奪回」を今月の軸にする、など。
週間(ミクロ):試合逆算の3日構成
- 試合-3〜-2日:強度高め(戦術×フィジカル)
- 試合-1日:強度を落としてスピードと確認
- 試合当日:実行リストとウォームアップの質に集中
試合前後48時間:準備と回復のルーティン化
- 前日:睡眠・水分・溜めない食事・イメージトレーニング
- 当日:到着時間、補食、アップのチェック項目
- 直後〜翌日:栄養補給、クールダウン、軽い有酸素、ストレッチ
作り方ステップ5:練習メニューと学習タスクに変換
個人練習:技術ドリルをKPIに直結させる
「今日のKPI=今日のドリル」。例:ライン間受け→肩チェック→前向きの3点セットを5分×2。弱い足のファーストタッチ→前進パス10本など、試合の行動をそのまま練習に落とします。
チーム練習:意図のすり合わせと役割確認
口頭で1分の共有を習慣化。自分のKPIをペアに伝えて、練習中にフィードバックをもらう仕組みにすると、認識のズレが減ります。
映像学習:タグ付けと“1クリップ振り返り”
全て見る必要はありません。自分のKPIに関わるシーンだけをタグ付け(例:トランジション、ライン間、背後ラン)。試合後は各KPIにつき「ベスト1・改善1」のクリップを選び、次週の行動に変えます。
オフの過ごし方:超回復と怪我予防のタスク化
- 睡眠・栄養・水分の確保
- 関節可動域の維持(股関節・足首・胸椎)
- 痛み0/10の範囲での血流促進(バイク・ウォーク)
作り方ステップ6:評価と更新(レビューサイクル)
試合後レビュー:事実→解釈→次アクション
- 事実:数字・位置・時間で記録
- 解釈:なぜ起きたか(相手・味方・自分)
- 次アクション:次回の具体行動を1行で
週次レビュー:KPIの増減要因を特定する
増えた(or減った)理由を1つに絞り、翌週のシートに反映。条件(相手の守り方、味方の立ち位置)に紐づけると再現性が上がります。
月末レビュー:やめる・続ける・始めるの決断
- やめる:効果が薄いKPIやタスクを削除
- 続ける:効いている習慣を固定化
- 始める:新たな課題に1つだけ着手
数値化できない成長の記録方法
定性的メモを残します。例:「前向き受けの準備が味方の安心につながった」「声かけでラインが整った」。行動の文脈を可視化することが、数字の裏づけになります。
目標設定シートの書き方テンプレート(コピペ可能な項目例)
ヘッダー:期間・対戦・役割・テーマ
【期間】YYYY/MM/DD〜MM/DD【試合】◯◯リーグ 第◯節 vs ◯◯(会場:◯◯)【自分の役割】ポジション/サブ or 先発/交代予測時間【今週のテーマ】例:前進の質を上げる/即時奪回
KGI・KPI欄:攻撃/守備/トランジション/セットプレー
【KGI(結果)】・例:決定機4回創出/被決定機2回以内【KPI/KR(行動・証拠)】<攻撃>・ライン間前向き受け3回・背後ラン5回(ラスト30m)・枠内シュート2本<守備>・プレスの合図5回(後ろ向き受け・バックパス)・中盤での即時奪回3回・危険幅での被前進0回<トランジション>・奪ったら5秒以内に前進コース探索→最短パス1本・失ったら5秒以内に圧縮:ボールサイド5m<セットプレー(役割別)>・攻撃CK:ニア潰れ走り直し2回/セカンド回収2本・守備FK:壁ジャンプ同期/ラインアップのコール主導
タスク欄:技術・戦術・体力・メンタル
【技術】例:逆足ファーストタッチ50回/浮き球トラップ20回【戦術】例:ライン間受けの角度3パターンを確認【体力】例:5-15m加速×6本(休90秒)/可動域モビリティ5分【メンタル】例:セルフトーク「準備・前進・やり切る」/呼吸3分
チェックリスト:日次・試合日・回復
【日次】睡眠7.5h/水分2L/ストレッチ8分/映像15分(KPIタグ)【試合当日】到着90分前/補食(炭水化物)/アップの合図確認【回復】30分以内の栄養補給/有酸素10分/痛みチェック0/10
コメント欄:学び・改善・次の一手
【学び】事実ベースで良かった点【改善】次にやめる・直す1点【次の一手】次試合の具体行動(1行)
ポジション別KPI例と逆算のコツ
FW:決定機の質×量を増やす逆算
- KPI例:ニア・ファーの走り分け各2回、枠内2本、背後ラン5回
- 逆算:肩チェック→初動の角度→ラスト3歩の減速で身体を作る
MF:前進のハブ指標と守備のスイッチ
- KPI例:前向き受け3回、縦パス通し4本、守備の合図5回
- 逆算:受ける前の身の置き方と、次のパス先の事前確認をセットで
DF:ライン統率と危険管理の可視化
- KPI例:ラインアップのコール8回、背後ケア0.5秒以内、被決定機0
- 逆算:ボールが動く前にラインを動かす習慣化、片足前の構え
GK:守備組織の起点としての指標設計
- KPI例:ビルドの前進パス8本、クロス処理2本、背後カバー3回
- 逆算:味方CBの視野外情報を提供、スタート位置の基準づくり
ユーティリティ/途中出場:短時間で効かせるKPI
- KPI例:最初の5分でデュエル2回、ボールタッチ3回、スプリント2回
- 逆算:入る前にタスク1つに絞る(例:背後狙いのみ徹底)
年代別の作り方(高校・大学/社会人・保護者の支援)
高校:学業と両立する時短型シート術
項目は最小限に。KPIは3つ以内、映像はベスト1・改善1のみ。平日は15分で記入→5分で振り返れる量に抑えます。
大学/社会人:時間ブロックと負荷管理
練習・学業/仕事・回復を時間ブロック化。週の中で高・中・低強度を割り当て、疲労の波形をコントロールします。
保護者:介入しすぎない伴走と声かけ
記入や管理を親が主導しすぎないことが大切です。子どもが自分で決めたKPIを、試合後に「事実」を一緒に確認する姿勢が継続を助けます。
データの取り方と記録の工夫(紙・アプリ活用)
紙のシート:持ち運びと集中のメリット
ロッカーや鞄に1枚。試合前の再確認がしやすく、余計な通知もありません。チェックは○/×/△で十分です。
スプレッドシート/Notion:複製と共有のしやすさ
月次の集計やコーチ共有に便利。テンプレ化して、試合ごとに複製→更新が時短のコツです。
簡易トラッキング:○/×/△で続ける方法
完璧主義は続きません。達成○、やったが不十分△、未達×でOK。3回連続×は項目を削るサインです。
映像タグ:時間帯・ゾーン・プレータイプで整理
例:時間帯(0-15/16-30/…)、ゾーン(自陣/中盤/敵陣)、タイプ(前進/フィニッシュ/奪回)。同じタグの集計が次のテーマ決めに役立ちます。
よくある失敗とNG例、改善チェックリスト
目標が抽象的すぎる/多すぎる
「頑張る」「集中する」はNG。KPIは3つまで、数字と行動で書く。減らす勇気が質を上げます。
練習が試合のKPIに結びついていない
今日の練習が何のKPIに効くかを書いてから始める。効かない練習は置き換えるか削る。
レビュー不足で同じミスが続く
試合後24時間以内に1行で「次の一手」を決める。長文の反省は不要、行動に変えるのが目的です。
チェック:削る・束ねる・置き換える
- 削る:効果の薄い項目は捨てる
- 束ねる:似た項目は1つに集約
- 置き換える:抽象語→行動語へ
小さな習慣で続ける仕組み化
If-Thenプランニングで自動化する
「もしAならBする」。例:練習後にスパイクを脱いだら、映像を10分見る。条件と行動をセットにします。
トリガー・実行・報酬の設計
トリガー(合図)→実行(短時間)→報酬(小さな満足)。例:歯磨き後にモビリティ3分→完了チェックで満足感。
誘惑を遠ざける環境づくり
スマホの通知を切る、練習スペースにボールとコーンを置くなど、作業摩擦を下げます。
チームメイトと相互レビューの約束
1週間に1回、KPIを言い合い、クリップを見せ合う。透明性が努力の質を上げます。
Q&A:目標設定 シート 作り方の疑問に答える
シーズン途中で目標を変えても大丈夫?
OKです。状況が変われば目標も更新。月末レビューで「やめる・続ける・始める」を判断しましょう。
スランプ時は何を見直すべき?
KGIではなくKPIの「量と質」を再点検。行動が足りないのか、質が低いのか、どちらかに絞って対処します。
指導者の方針変更への合わせ方
まず意図を質問で確認。自分のKGIの文言をチーム用語に置き換え、KPIの優先順位を更新します。
ケガのときのシート再設計
競技KPI→リハビリKPIに切り替え。可動域・筋力・痛みスケール・有酸素の4本柱で進捗を可視化しましょう。
まとめと次の一歩(最短で作るミニ版シート)
今日作るべき“最低限3項目”
- KGI:次の試合で何をもって「役割が機能した」と言えるか
- KPI:最大3つ、数字と行動で
- レビュー欄:ベスト1・改善1・次の一手
次の試合までのミニ計画の立て方
- 試合-3〜-2日:テーマの反復(強度高)
- 試合-1日:確認とスピード(強度中)
- 当日:実行リストの再読とアップの質
継続のコツと更新リズムの再確認
小さく始めて、週1で更新。数字は厳密すぎなくてOK。重要なのは、試合での実行が増え、振り返りが次の行動に変わることです。
あとがき
強いチームや選手ほど、目標をシンプルに言えます。そして、やることが日常に落ちています。シートはあなたの専属コーチのようなもの。完璧を目指さず、まずは使ってみてください。1枚の更新が、試合の1プレーを変え、その積み重ねがシーズンを変えます。次のキックオフに間に合うように、今から1行目を書き始めましょう。
