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サッカー目標設定シートの作り方|試合で効く逆算術

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試合でパフォーマンスを上げる「最短ルート」は、根性論ではなく設計図です。サッカーは連続する意思決定のスポーツ。だからこそ、試合から逆算して「いま、何を、どれくらい、どんな質で」取り組むかを1枚のシートに落としておくと、迷いが消えて集中が続きます。本記事では、誰でもすぐ作れて、試合で効く「サッカー目標設定シート」の作り方を、テンプレート付きで詳しく解説します。必要な項目、KGI・KPIの決め方、練習や映像学習への落とし込み、レビューの回し方まで、実行しやすい順に並べました。今日から運用できる具体例も多めです。

サッカー目標設定シートの作り方|試合で効く逆算術(概要)

「逆算術」とは—試合から逆に計画する考え方

逆算術は、試合で発揮したい「役割の成果」から必要な行動を遡る設計法です。結果(例:決定機を3回作る)→行動(例:最終ライン背後への走り直し5回、縦パスの引き出し8回、前向きで受けるための肩チェック10回)→準備(例:前日の睡眠7.5時間、反応速度ドリル5分)という流れで分解します。目的と手段がつながるので、練習や日常の優先順位がハッキリします。

目標設定シートの役割と期待できる効果

  • 迷いの削減:やるべきことが1枚に集約され、判断疲労を減らす
  • 質の底上げ:練習がKPIに直結し、意図的な反復が増える
  • 再現性の向上:良かった試合の要因が言語化され、再現しやすい
  • 振り返りの速さ:試合後の事実→解釈→次の一手が早くなる

結果指標(KGI)と行動指標(KPI/KR)の違い

KGIはゴール(例:失点0、決定機4)、KPI/KRはそこへ向かう行動や過程の指標です。KPIは量と質の両面で定義し、KR(Key Results)として「達成の証拠」を一行で言える形にします。KGIはコントロールしにくいので、KPIをコントロールしてKGIに近づける、という考え方が実務的です。

目標設定シートの全体像とフォーマット設計

年間・月間・週間・試合当日の4階層レイアウト

1枚のシートで全期間を管理しようとすると破綻します。推奨は4階層:

  • 年間:シーズンの狙いとピーク設定
  • 月間:重点テーマとKPIの焦点化
  • 週間:次の試合から逆算したタスク
  • 試合当日:実行リストとマインドリマインダー

定量と定性を両立する欄の作り方

定量(回数・割合・距離)で進捗が見え、定性(判断の質・ポジショニングの妥当性)でプレーの質が育ちます。両者を「セット」で記入しましょう。例:縦パス受け前の肩チェック10回(定量)+受けて前向きに運べた割合70%(定性)。

SMARTとFASTの両輪で目標精度を上げる

  • SMART:具体・測定可能・達成可能・関連性・期限
  • FAST:頻回レビュー・野心・可視化・透明性

SMARTで設計し、FASTで運用頻度と透明性を担保すると、現場で回り続けます。

シートに必ず入れる基本項目チェック

  • 期間・試合情報(相手・会場・キックオフ)
  • 自分の役割と今日のテーマ
  • KGI(結果)とKPI/KR(行動・証拠)
  • 技術・戦術・体力・メンタルのタスク
  • 前後48時間のルーティン
  • レビュー欄(事実・気づき・次の一手)

作り方ステップ1:最終ゴールを言語化(試合で何を達成するか)

チーム戦術と役割の確認(整合性をとる)

個人目標はチームのゲームモデルと矛盾しないことが前提です。例えば、後方からのビルドアップを重視するなら、FWのKGIは「最終局面のフィニッシュ」だけでなく「前進の起点になる」が含まれます。監督・コーチに意図を確認して、言葉を合わせましょう。

ポジション別に定義する成果の言葉

  • FW:決定機の質×量、背後脅威、プレスの合図
  • MF:前進のハブ、ボール循環の速度、守備のスイッチ
  • DF:ライン統率、危険管理、前進阻害
  • GK:守備組織の起点、背後管理、ビルドの安定

「何をもって良しとするか」を一言で言えると、KPIの選定が速くなります。

勝敗以外の“機能”をKGIに落とすコツ

勝敗は相手もあるためブレます。機能KGI(例:敵陣でのボール保持率55%以上、PPDA○以下、CKからの被ショット0)なら、チームの狙いに即した達成度を測れます。個人では「自分の役割が機能したか」をKGIにしましょう。

作り方ステップ2:KPIを決める(攻守+トランジション+セットプレー)

攻撃KPIの例:前進・フィニッシュ・決定機創出

  • 前進:前向きでライン間受け3回以上、縦パス前の肩チェック10回、内外のサポート角度調整10回
  • フィニッシュ:枠内シュート2本、PA侵入5回、逆サイドへの崩しスイッチ2回
  • 決定機創出:キーパス3本、ラスト30mでの数的優位創出2回

守備KPIの例:プレス強度・奪回・被決定機抑制

  • プレス:トリガー(後ろ向き受け・バックパス)での圧縮5回
  • 奪回:中盤での即時奪回3回、低い位置での遅らせ成功5回
  • 抑制:危険幅(ゴール正面中央)への侵入0回、PA内フリーで撃たせない

トランジションKPI:5秒の意思決定と距離短縮

切り替え最初の5秒で何をするかを固定します。例:奪った瞬間は最短で前進ラインを探す、失った瞬間はボールサイド5m以内へ圧縮。距離・秒数で定義すると実行率が上がります。

セットプレーKPI:役割別タスクと再現性

  • 攻撃CK:ニア潰れの走り直し2回、ブロックの角度固定、セカンドボール回収2本
  • 守備FK:壁のジャンプタイミング統一、ラインアップのコール主導、セカンド対応の逆サイド絞り

「誰が・どこに・いつ・何を」の4要素を明記すると、再現性が高まります。

作り方ステップ3:技術・戦術・体力・メンタルに分解する

技術:ポジション必須スキルの優先順位

全てをやろうとすると薄まります。今月の最重要2つに絞り、反復回数と質を定義。例:インサイドの質(体の向き固定→逆足でのファーストタッチ)を毎日100回、弱い方の足の浮き球トラップ20回。

戦術:ゲームモデル理解と意思決定パターン

自分の「定石」を3つ用意します。例:ライン間で受ける→背後・前進・リターンの優先順。守備では、縦切り→外へ追い出し→サンド、など。状況と選択のセットをシートに書いておくと、試合中の迷いが減ります。

体力:ポジション別フィジカル指標(走行・加速・反応)

  • FW:5〜15mの加速回数、背後スプリントの反復間隔
  • MF:反復走(シャトル)と方向転換の質、心拍回復
  • DF:初速の一歩、背走・横走の切替、ジャンプの再現
  • GK:反応時間、ステップワーク、飛び出しの到達点

測定が難しければ、主観RPE(きつさ10段階)を併用し、負荷管理を簡易化します。

メンタル・生活:睡眠・栄養・セルフトーク

  • 睡眠:就寝・起床を固定、7〜8時間を目安に
  • 栄養:試合前の炭水化物と水分、試合後30分のリカバリー
  • セルフトーク:キーワード3つ(例:「準備」「前進」「やり切る」)

作り方ステップ4:時間軸に落とす(年間→月間→週間→日次)

年間(マクロ):シーズンプランとピーキング

公式戦の山に向けて逆算。強度を波形で管理し、ピーク前はボリュームを落としてキレを上げます。怪我リスクの高い時期(初夏・真冬)にケアを厚めに設定。

月間(メソ):テーマ設定と重点KPIの選定

月にテーマは1〜2個。KPIも最大3つに絞り、反復とレビューの頻度を上げます。例えば「前進の質」と「即時奪回」を今月の軸にする、など。

週間(ミクロ):試合逆算の3日構成

  • 試合-3〜-2日:強度高め(戦術×フィジカル)
  • 試合-1日:強度を落としてスピードと確認
  • 試合当日:実行リストとウォームアップの質に集中

試合前後48時間:準備と回復のルーティン化

  • 前日:睡眠・水分・溜めない食事・イメージトレーニング
  • 当日:到着時間、補食、アップのチェック項目
  • 直後〜翌日:栄養補給、クールダウン、軽い有酸素、ストレッチ

作り方ステップ5:練習メニューと学習タスクに変換

個人練習:技術ドリルをKPIに直結させる

「今日のKPI=今日のドリル」。例:ライン間受け→肩チェック→前向きの3点セットを5分×2。弱い足のファーストタッチ→前進パス10本など、試合の行動をそのまま練習に落とします。

チーム練習:意図のすり合わせと役割確認

口頭で1分の共有を習慣化。自分のKPIをペアに伝えて、練習中にフィードバックをもらう仕組みにすると、認識のズレが減ります。

映像学習:タグ付けと“1クリップ振り返り”

全て見る必要はありません。自分のKPIに関わるシーンだけをタグ付け(例:トランジション、ライン間、背後ラン)。試合後は各KPIにつき「ベスト1・改善1」のクリップを選び、次週の行動に変えます。

オフの過ごし方:超回復と怪我予防のタスク化

  • 睡眠・栄養・水分の確保
  • 関節可動域の維持(股関節・足首・胸椎)
  • 痛み0/10の範囲での血流促進(バイク・ウォーク)

作り方ステップ6:評価と更新(レビューサイクル)

試合後レビュー:事実→解釈→次アクション

  • 事実:数字・位置・時間で記録
  • 解釈:なぜ起きたか(相手・味方・自分)
  • 次アクション:次回の具体行動を1行で

週次レビュー:KPIの増減要因を特定する

増えた(or減った)理由を1つに絞り、翌週のシートに反映。条件(相手の守り方、味方の立ち位置)に紐づけると再現性が上がります。

月末レビュー:やめる・続ける・始めるの決断

  • やめる:効果が薄いKPIやタスクを削除
  • 続ける:効いている習慣を固定化
  • 始める:新たな課題に1つだけ着手

数値化できない成長の記録方法

定性的メモを残します。例:「前向き受けの準備が味方の安心につながった」「声かけでラインが整った」。行動の文脈を可視化することが、数字の裏づけになります。

目標設定シートの書き方テンプレート(コピペ可能な項目例)

ヘッダー:期間・対戦・役割・テーマ

【期間】YYYY/MM/DD〜MM/DD【試合】◯◯リーグ 第◯節 vs ◯◯(会場:◯◯)【自分の役割】ポジション/サブ or 先発/交代予測時間【今週のテーマ】例:前進の質を上げる/即時奪回

KGI・KPI欄:攻撃/守備/トランジション/セットプレー

【KGI(結果)】・例:決定機4回創出/被決定機2回以内【KPI/KR(行動・証拠)】<攻撃>・ライン間前向き受け3回・背後ラン5回(ラスト30m)・枠内シュート2本<守備>・プレスの合図5回(後ろ向き受け・バックパス)・中盤での即時奪回3回・危険幅での被前進0回<トランジション>・奪ったら5秒以内に前進コース探索→最短パス1本・失ったら5秒以内に圧縮:ボールサイド5m<セットプレー(役割別)>・攻撃CK:ニア潰れ走り直し2回/セカンド回収2本・守備FK:壁ジャンプ同期/ラインアップのコール主導

タスク欄:技術・戦術・体力・メンタル

【技術】例:逆足ファーストタッチ50回/浮き球トラップ20回【戦術】例:ライン間受けの角度3パターンを確認【体力】例:5-15m加速×6本(休90秒)/可動域モビリティ5分【メンタル】例:セルフトーク「準備・前進・やり切る」/呼吸3分

チェックリスト:日次・試合日・回復

【日次】睡眠7.5h/水分2L/ストレッチ8分/映像15分(KPIタグ)【試合当日】到着90分前/補食(炭水化物)/アップの合図確認【回復】30分以内の栄養補給/有酸素10分/痛みチェック0/10

コメント欄:学び・改善・次の一手

【学び】事実ベースで良かった点【改善】次にやめる・直す1点【次の一手】次試合の具体行動(1行)

ポジション別KPI例と逆算のコツ

FW:決定機の質×量を増やす逆算

  • KPI例:ニア・ファーの走り分け各2回、枠内2本、背後ラン5回
  • 逆算:肩チェック→初動の角度→ラスト3歩の減速で身体を作る

MF:前進のハブ指標と守備のスイッチ

  • KPI例:前向き受け3回、縦パス通し4本、守備の合図5回
  • 逆算:受ける前の身の置き方と、次のパス先の事前確認をセットで

DF:ライン統率と危険管理の可視化

  • KPI例:ラインアップのコール8回、背後ケア0.5秒以内、被決定機0
  • 逆算:ボールが動く前にラインを動かす習慣化、片足前の構え

GK:守備組織の起点としての指標設計

  • KPI例:ビルドの前進パス8本、クロス処理2本、背後カバー3回
  • 逆算:味方CBの視野外情報を提供、スタート位置の基準づくり

ユーティリティ/途中出場:短時間で効かせるKPI

  • KPI例:最初の5分でデュエル2回、ボールタッチ3回、スプリント2回
  • 逆算:入る前にタスク1つに絞る(例:背後狙いのみ徹底)

年代別の作り方(高校・大学/社会人・保護者の支援)

高校:学業と両立する時短型シート術

項目は最小限に。KPIは3つ以内、映像はベスト1・改善1のみ。平日は15分で記入→5分で振り返れる量に抑えます。

大学/社会人:時間ブロックと負荷管理

練習・学業/仕事・回復を時間ブロック化。週の中で高・中・低強度を割り当て、疲労の波形をコントロールします。

保護者:介入しすぎない伴走と声かけ

記入や管理を親が主導しすぎないことが大切です。子どもが自分で決めたKPIを、試合後に「事実」を一緒に確認する姿勢が継続を助けます。

データの取り方と記録の工夫(紙・アプリ活用)

紙のシート:持ち運びと集中のメリット

ロッカーや鞄に1枚。試合前の再確認がしやすく、余計な通知もありません。チェックは○/×/△で十分です。

スプレッドシート/Notion:複製と共有のしやすさ

月次の集計やコーチ共有に便利。テンプレ化して、試合ごとに複製→更新が時短のコツです。

簡易トラッキング:○/×/△で続ける方法

完璧主義は続きません。達成○、やったが不十分△、未達×でOK。3回連続×は項目を削るサインです。

映像タグ:時間帯・ゾーン・プレータイプで整理

例:時間帯(0-15/16-30/…)、ゾーン(自陣/中盤/敵陣)、タイプ(前進/フィニッシュ/奪回)。同じタグの集計が次のテーマ決めに役立ちます。

よくある失敗とNG例、改善チェックリスト

目標が抽象的すぎる/多すぎる

「頑張る」「集中する」はNG。KPIは3つまで、数字と行動で書く。減らす勇気が質を上げます。

練習が試合のKPIに結びついていない

今日の練習が何のKPIに効くかを書いてから始める。効かない練習は置き換えるか削る。

レビュー不足で同じミスが続く

試合後24時間以内に1行で「次の一手」を決める。長文の反省は不要、行動に変えるのが目的です。

チェック:削る・束ねる・置き換える

  • 削る:効果の薄い項目は捨てる
  • 束ねる:似た項目は1つに集約
  • 置き換える:抽象語→行動語へ

小さな習慣で続ける仕組み化

If-Thenプランニングで自動化する

「もしAならBする」。例:練習後にスパイクを脱いだら、映像を10分見る。条件と行動をセットにします。

トリガー・実行・報酬の設計

トリガー(合図)→実行(短時間)→報酬(小さな満足)。例:歯磨き後にモビリティ3分→完了チェックで満足感。

誘惑を遠ざける環境づくり

スマホの通知を切る、練習スペースにボールとコーンを置くなど、作業摩擦を下げます。

チームメイトと相互レビューの約束

1週間に1回、KPIを言い合い、クリップを見せ合う。透明性が努力の質を上げます。

Q&A:目標設定 シート 作り方の疑問に答える

シーズン途中で目標を変えても大丈夫?

OKです。状況が変われば目標も更新。月末レビューで「やめる・続ける・始める」を判断しましょう。

スランプ時は何を見直すべき?

KGIではなくKPIの「量と質」を再点検。行動が足りないのか、質が低いのか、どちらかに絞って対処します。

指導者の方針変更への合わせ方

まず意図を質問で確認。自分のKGIの文言をチーム用語に置き換え、KPIの優先順位を更新します。

ケガのときのシート再設計

競技KPI→リハビリKPIに切り替え。可動域・筋力・痛みスケール・有酸素の4本柱で進捗を可視化しましょう。

まとめと次の一歩(最短で作るミニ版シート)

今日作るべき“最低限3項目”

  • KGI:次の試合で何をもって「役割が機能した」と言えるか
  • KPI:最大3つ、数字と行動で
  • レビュー欄:ベスト1・改善1・次の一手

次の試合までのミニ計画の立て方

  • 試合-3〜-2日:テーマの反復(強度高)
  • 試合-1日:確認とスピード(強度中)
  • 当日:実行リストの再読とアップの質

継続のコツと更新リズムの再確認

小さく始めて、週1で更新。数字は厳密すぎなくてOK。重要なのは、試合での実行が増え、振り返りが次の行動に変わることです。

あとがき

強いチームや選手ほど、目標をシンプルに言えます。そして、やることが日常に落ちています。シートはあなたの専属コーチのようなもの。完璧を目指さず、まずは使ってみてください。1枚の更新が、試合の1プレーを変え、その積み重ねがシーズンを変えます。次のキックオフに間に合うように、今から1行目を書き始めましょう。

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