「毎試合頑張っているのに、何を伸ばせばいいかわからない」「指導の言葉が選手に届かない」。そんなモヤモヤを解消する鍵が、よくできた選手評価シートです。この記事では、サッカーの現場で実際に使える“弱点が見える”評価シートの作り方を、初期設計から運用、面談、練習への落とし込みまで丁寧に解説します。図や画像がなくても、読みながらそのまま作れるように、定義と言葉の粒度にこだわってまとめました。
目次
評価シートで弱点が『見える』理由
パフォーマンスの『感覚』と『事実』のズレを埋める
サッカーは流れのスポーツで、印象が強い1プレーが評価を大きく左右しがちです。実際には、試合全体の中で「何回できたか」「どの場面で成功したか」が重要です。評価シートは、感覚的な評価を「定義された指標」に沿って記録することで、ズレを減らし、改善ポイントを明確にします。
可視化が意思決定(練習・起用・進路)に与える影響
- 練習:数値で優先順位が決まり、時間配分が合理的になります。
- 起用:役割適性(強み×弱み)から、最適なポジションや交代タイミングを決めやすくなります。
- 進路:客観データは、セレクションや進学時の説明材料になります。
この記事で作れる評価シートの完成形イメージ
- 評価カテゴリ(技術・戦術理解・フィジカル・メンタル・ゲームインテリジェンス・セットプレー・チーム原則・ポジション特性)を網羅
- 各項目に5段階ルーブリック(観察可能な行動定義)
- 頻度・成功率・影響度を記録、重要度で重み付け
- 試合別ログと月次の集計タブ、弱点アラートと強みハイライト
- 1on1面談用のサマリー自動化(次の4週間目標)
まず決めるべきは『目的』:評価は何のためか
目標(ゴール)→KPI→指標の階層設計
- 目標(例):チームの得点機会を増やす/失点期待値を下げる
- KPI(例):ファイナルサード侵入回数、被決定機会の抑制数
- 指標(例):ライン間で前向き受け回数、危険地帯でのインターセプト数、縦パス成功率
いきなり細かい指標から作るのではなく、目標→KPI→指標の順番で落とし込むと、評価が試合の勝ち方とリンクします。
チーム戦術と個人育成のバランス
戦術の要求水準(例:ハイプレス)と個人の現状能力が乖離すると、評価は下がりがちです。そこで「戦術必須項目」と「個の伸ばしたい項目」を分け、配点を6:4や7:3などで調整してバランスを取ります。
短期の試合貢献と長期の選手成長を両立する視点
短期は「今の役割で結果に直結する指標」を、長期は「ポジション基礎力と将来ロール」を追います。例えばWGなら、短期はクロス質とプレス強度、長期はライン間受けと逆足フィニッシュなど、時間軸で評価項目を分けておくと迷いません。
評価カテゴリの設計図
技術(ボール扱い・キック・ファーストタッチ)
- ファーストタッチで前向き化できた割合
- 左右キックの精度(短・中・長の距離別)
- ボールロストの原因内訳(タッチミス/判断遅れ/対人負け)
戦術理解と判断(ポジショニング・トリガー認知)
- 自陣/敵陣での適切な立ち位置の継続度
- プレス・オーバーロードのトリガー認知と反応時間
- ライン間/背後/足元の優先順位選択の質
フィジカル(スピード・力・持久力・アジリティ)
- 5m/10m/30mの加速タイム(定点テスト)
- 空中戦の競り合い勝率
- 高強度ランの回数/合計時間
メンタル・生活(集中・継続・セルフマネジメント)
- プレー後のリカバリー速度(ネガティブ反応の短さ)
- トレーニング出席率・睡眠/体重の記録率
- ゲームプランの遵守度
ゲームインテリジェンス(状況把握・予測・優先順位)
- 首振り(スキャン)の頻度とタイミング
- セカンドボール予測で先に触れた回数
- 数的優位/不利でのリスク管理の一貫性
セットプレー(攻守の役割と実行率)
- 自分のマーク責任範囲の遂行率
- キッカーの配球精度(狙いゾーン到達率)
- セカンドボール回収率
チーム原則への適合度(守備の合言葉・ビルドアップの規律)
- 合言葉(触る/遅らせる/限定するなど)に沿った守備行動
- 後方からの前進パターンの遵守と代替案提示
- トランジション時の最優先行動の徹底度
ポジション特性(役割遂行力)
ポジション別のコア項目は後述しますが、共通して「役割定義→遂行率→影響度」で測る設計が基本です。
指標の作り方:曖昧さをなくす定義と尺度
SMART基準で指標を言語化する
- Specific:何を(例:前向き化のファーストタッチ)
- Measurable:どう測る(成功/試行と事例)
- Achievable:現実的か(世代・レベルに適合)
- Relevant:目標とつながるか
- Time-bound:期間内に評価できるか
行動で測る(観察可能な言い回しにする)
「判断が良い」ではなく「受ける前に2回以上スキャンし、最短2タッチで前進に寄与」など、誰が見ても同じ意味になる言葉で定義します。
5段階ルーブリックの作成手順
- レベル1:できない/誤った行動が多い(頻度低・成功低)
- レベル2:試行はあるが成功が安定しない
- レベル3:標準的な成功率。状況によりムラ
- レベル4:高成功率。難易度高い状況でも再現性
- レベル5:チームを上位に引き上げるレベル。周囲を修正できる
記述例:前向き化のファーストタッチ
- 1:前向き化ほぼできず、背後からのプレッシャーでロスト
- 3:受け直し含め状況により前向き化。ロストは月2回以下
- 5:圧力下でも前向き化し、前進に直結する判断を自ら作る
頻度・成功率・影響度の3軸で記録する
- 頻度:試合で何回試みたか
- 成功率:成功/試行
- 影響度:得点・決定機・危険回避などスコアへの近さ
同じ成功率でも、影響度が高いプレーは評価を上げます。
重要度に応じた重み付けの考え方
- チーム戦術必須項目に高配点(例:DMの守備スイッチ=×1.5)
- 選手の伸ばしたい項目は中配点(継続動機を維持)
- 今季非重点は×0.5で記録のみ
観察と記録:現場で使えるデータ取得法
試合観察チェックリストの作り方
- 事前に「今日の3観点」を決めて紙1枚に絞る
- 各観点にチェックボックスを並べ、分刻みメモ欄を用意
- ハーフタイム時点で速報評価、試合後に補正
トレーニングでの定点テスト(反復可能な測定)
- 5m/10m/30mスプリント、Tテスト(アジリティ)
- ロングキック的中率(指定ゾーン5つ×10本)
- 1v1守備の制限方向の徹底率
動画とタグ付けの最小運用
- スマホで前後半1本ずつ。タグは「奪う/前進/最終局面/セット/失う」の5つに限定
- 重要場面のタイムスタンプを評価シートに貼る
簡易スタッツ(タックル成功、被奪回数など)の取り方
- 選手ごとに最大5項目まで。試合中は正のプレーのみカウント、試合後に負のプレーを補足
- 集計の負担を減らすため、担当を分ける(守備/攻撃)
主観評価と客観データの統合ルール
- 主観スコアは±1の補正枠として扱う
- 衝突した場合は「事例優先」。タイムスタンプを根拠に合議
評価のバイアスを減らす運用設計
複数評価者と合議のプロセス
- 最低2名で独立採点→差が2以上なら映像確認→合意スコア決定
- 月1回、全体の採点傾向を振り返る
根拠のテキスト記録(タイムスタンプと事例)
各スコアに1行コメント(例:「62:15 逆サイドの幅認知→スルーパスで決定機」)を付けると、面談で説得力が増します。
アンカー(基準映像・事例)で尺度を固定する
レベル3/5の基準事例をチームで共有。新規スタッフにも同じ物差しを提供できます。
自己評価・相互評価の位置づけ
- 自己評価:気づきの質を高める(採点には反映せずコメント比較)
- 相互評価:役割理解を促す(攻守の視点差を学ぶ)
ポジション別コア指標セット
GK:守備範囲・セービング・配球・ビルドアップ関与
- クロス対応(キャッチ/パンチの選択と成功)
- ショットストッピングの反応速度とセカンド対応
- 足元配球の精度(内外/ライン間/背後)
- 背後カバーの開始位置と回収率
CB:対人・カバー・ライン統率・前進パス
- 対人勝率/ファウルの質
- カバーリングの初動と体の向き
- ラインコントロール(押し上げ/統率のコール)
- 縦パスでのライン間通過数
SB/WB:サイドの制圧・オーバーラップ/アンダーラップ・クロス質
- 1v1守備の限定方向と突破許容
- 攻撃参加のタイミング(数的優位を作れた回数)
- クロスの質(ニア/ファー/カットバックの到達率)
DM:守備スイッチ・前向き化・配球の安定と縦パス
- 守備のスイッチ声と実行率
- 受けてから前向き化までの最短手数
- 縦パスでライン間に刺した回数と成功率
CM:運動量・サポート角度・第3の動き
- サポートの角度と距離(前進を促す位置取り)
- ボックス到達回数(遅れて入る第3の動き)
- トランジション両方向の関与回数
AM:最終局面の創造・ライン間受け・ラストパス
- ライン間での前向き受け回数
- 決定機創出(キーパス/ラストパス成功)
- シュートの選択と質(ブロック回避)
WG:1v1突破・裏抜け・カットインの脅威
- 仕掛けの成功/仕掛けない判断の質
- 背後ランのタイミングとボール呼びの工夫
- 逆足シュート/クロスの威力と精度
ST:ポスト・フィニッシュ質・プレスのトリガー
- ポストの収め率と前向きなリターン
- xGに対する実得点(フィニッシュの質を示唆)
- プレス開始の合図と限定方向の徹底
年代・レベル別に何を変えるか
高校生:伸びしろの見極めと学業・生活の両立指標
- 基本技術の再現性と負荷下の安定
- 生活習慣(睡眠・食事・体重)記録の徹底
- 試験期間の練習調整とセルフマネジメント
大学・社会人:即戦力性とロール適応
- 戦術適応速度(新しい役割の習熟までの期間)
- スペシャリティの明確さ(強みで時間を勝ち取れるか)
- チームの期待値に対する貢献(出場時間×影響度)
ジュニアユース:保護者が支援できる観点と注意点
- 結果ではなく「行動」の言語化をサポート
- 成長期のコンディション変動を前提に無理をさせない
- 成功よりも「試行回数」を評価する
シートのフォーマット設計(紙・スプレッドシート共通)
一覧タブ(チーム全体の俯瞰)
- 氏名/ポジション/主要5指標/総合スコア/アラート
- フィルタで役割別・学年別に切替
個人タブ(詳細ルーブリック・コメント欄)
- カテゴリ→項目→定義→5段階→頻度/成功率/影響度→重み→スコア
- タイムスタンプ付きコメント欄、次回目標欄
試合別ログ(対戦相手・役割・戦術文脈)
- 相手の特徴、味方のゲームプラン、担当ロールを記録
集計タブ(スコア・トレンド・警告表示)
- 過去5試合の推移、±の変化点、弱点アラート
メモ/課題ボード(次の行動計画)
- 今週の重点×3、練習メニュー連動、家庭での支援事項
モバイルでの入力を前提にしたUI工夫
- ドロップダウンとチェックボックス中心、1画面1観点
- 音声メモ→後でテキスト化も許容
スコアリングと『弱点の見せ方』
標準化スコア(指数化)の設計
- 各指標を0–100に正規化(基準=世代平均や自チーム平均)
- 重みを掛けて総合スコアを算出(攻/守/トランジション別も)
Zスコア/偏差値的な相対比較の使いどころ
- 同ポジション内の相対比較に限定して活用
- サンプルが少ない場合は使用を控え、時系列比較を優先
レーダー/棒グラフを想定した数値整理(図なしでも伝わる言語化)
- テキスト指標例:「技術72/100|戦術68|フィジカル80|メンタル65」
- 弱点は「60未満」、強みは「80以上」と文章で示す
閾値設定とアラート(改善優先度の自動抽出)
- 重要度×スコアが一定以下なら「優先改善」に自動表示
- 連続3試合で低下は「トレンド注意」
強み×弱みマトリクスで役割提案まで繋ぐ
- 強み高×弱み低:ロール拡張の候補
- 強み低×弱み高:練習重点と出場ロールの見直し
フィードバック面談の技術
1on1の進め方(事実→解釈→選択肢→約束)
- 事実:データと事例を確認
- 解釈:理由を一緒に言語化
- 選択肢:改善策を3つ出し、選手が選ぶ
- 約束:4週間の行動と測り方を決める
SBIモデルで具体化する
- Situation:後半20分、右サイドで押し込まれた場面
- Behavior:逆サイドの幅を見ずに中央へ選択
- Impact:奪われてカウンター、被決定機
次の4週間の重点目標と検証方法
- 目標:受ける前のスキャン2回を平均で達成
- 検証:動画タグ「スキャン」でカウント、練習も同様に記録
保護者・指導者・選手の合意形成
- 指標と重みを共有、家庭での支援項目(睡眠/食事/自主トレ)を明文化
練習メニューへの落とし込み
指標→ドリルへのマッピングの作法
- 指標「前向き化」→ドリル「背後圧×2タッチ前進(制限付き)」
- 指標「守備スイッチ」→ドリル「限定方向の合言葉ゲーム」
個別トレとチーム戦術の接続
個別で磨く技術は、戦術の文脈(角度/タイミング/味方の位置)と必ずセットで設計します。
自主トレ計画(頻度・負荷・記録様式)
- 週3回×20分、明確な回数/成功基準をノートに記録
- 動画は週1本だけ、良い/悪い各1事例を保存
PDCA:続く仕組みを作る
週次レビュー(小さな仮説検証)
- 今週の重点3つの可否確認、翌週の微修正
月次レビュー(トレンド検証と重みの見直し)
- 上がらない指標は原因分析→重み再配分も検討
期末レビュー(役割再定義と来期設計)
- 強みの核を明確化し、ロール案を2つ提示
更新タイミングとアーカイブの運用
- 指標定義は四半期ごとに見直し。旧版は必ず保存
よくある失敗と回避策
項目過多で運用が破綻する
- 最大でも試合中は5観点、総項目は20以内で開始
採点のぶれと甘辛補正
- 基準事例で開始前にすり合わせ、差が出たら即映像確認
結果のみ評価してプロセスを見失う
- 「良い試行×適切な判断」を加点対象にする
継続しない問題を仕組みで解決する
- 入力時間は試合後10分以内に収まる設計にする
フォーム/入力体験の悪さを改善する
- スマホ最優先、プルダウンとチェックで完結
サンプル項目と導入手順
最小構成10項目テンプレ案
- 前向き化のファーストタッチ
- 縦パス成功率(中距離)
- 1v1守備の限定方向
- プレス開始のタイミング
- ライン間受け回数
- スキャン頻度(受ける前2回)
- 高強度ラン回数
- セットプレー責任の遂行
- ボールロスト原因(技術/判断)の比率
- メンタルリセットの速さ
CSV/スプレッドシート設計の例
date,player,position,category,metric,definition,attempt,success,impact,weight,score,comment,ts2025-04-01,山田太郎,WG,技術,前向き化,受けて2タッチ以内で前向き化,7,5,2,1.2,72,"62:15前向き化→クロスで決定機",62:152025-04-01,山田太郎,WG,戦術,プレス開始,味方合図と同時に限定,9,7,2,1.0,70,"前半は良、後半遅れ2回",--
クラウド共有と権限管理の注意点
- 閲覧:選手本人と保護者は個人タブのみ
- 編集:指導者と分析担当のみに限定
- 変更履歴を有効化、バックアップは週1
導入初月のロードマップ
- 週1:指標の仮決め(10項目)とルーブリック草案
- 週2:練習と練習試合で試用、入力時間の実測
- 週3:重み調整、面談フォーマット作成
- 週4:本運用開始、1on1で4週間目標を設定
FAQ
毎試合すべてを埋める必要はある?
ありません。試合中は最大3〜5観点、試合後に補足で十分です。継続可能性を優先しましょう。
数値化が難しい項目はどう扱う?
5段階の行動記述で評価し、代表事例にタイムスタンプを付けます。数値化は無理に狙わず、一貫した基準を重視します。
保護者が評価する際の注意点は?
採点は指導側に任せ、保護者は生活・体調の観点を中心にコメント。結果ではなく行動の良さを認める姿勢が有効です。
怪我・コンディション不良時の評価は?
別タブで「コンディション」を管理し、該当期間はスコア集計から除外または重みを下げます。復帰プロトコルを明記します。
複数ポジションを兼ねる場合の設計は?
共通指標+ポジション別指標の二層構造にし、試合ごとに適用セットを切り替えます。相対比較は同ポジション内でのみ行います。
まとめ:作成手順の要約と次のアクション
5ステップで評価シートを完成させる
- 目的を決める(目標→KPI→指標)
- カテゴリを選び、5段階ルーブリックを作る
- 頻度/成功率/影響度と重みを設計
- 現場入力を最小化(チェック式・モバイル前提)
- 面談と練習に接続し、月次で見直す
今週やることチェックリスト
- 最小10項目を選ぶ
- 各項目のレベル3/5の基準文を1行で書く
- 試合用チェックリスト(3観点)を紙1枚で作る
- 面談用テンプレ(事実→解釈→選択肢→約束)を準備
継続と改善のコツ
- 「まずは小さく、早く回す」。2週間で不便を洗い出す
- 良い事例をチームで共有し、基準を固定する
- スコアは目的のための手段。練習と役割提案に必ず結びつける
サッカー 選手 評価 シートで弱点が見える作り方は、難しい理論より「定義の明確さ」と「続く仕組み」がすべてです。今日から小さく始めて、次の試合で検証し、翌週に直す。この地道なサイクルが、あなたのチームと選手の成長速度を確実に上げてくれます。
