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DOGSO とは?退場基準と判定の4要素を解説

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ゴール直前で相手を倒してしまい、一発退場になった――サッカーを見ていると時々起こるこのシーン。そこに関わるキーワードが「DOGSO(ドグソ)」です。本記事では、IFAB競技規則に基づき、DOGSOの意味、退場基準、判定の4要素(いわゆる4D)を、選手・指導者・保護者にも分かりやすく解説します。どんなプレーがレッドカードになり得るのか、そして防ぐためにどんな守り方があるのか。ルール理解はプレーの質と安全性を確実に高めます。

DOGSOとは?用語の意味と出典(IFAB競技規則)

DOGSOの正式名称と日本語訳(Denial of an Obvious Goal-Scoring Opportunity=決定的得点機会の阻止)

DOGSOは「Denial of an Obvious Goal-Scoring Opportunity」の略で、日本語では「決定的得点機会の阻止」と訳されます。簡単に言えば、明らかにゴールが狙える状況を、反則によって潰してしまうこと。これに該当すると、原則として退場(レッドカード)が科されます。

IFAB競技規則(Law 12)での位置づけと最新動向

DOGSOはIFAB(国際サッカー評議会)の競技規則、特に反則と不正行為を扱う「Law 12」に定義されています。対象は「直接または間接フリーキックで罰せられる反則」や「ハンドの反則」によって、攻撃側の明白な得点機会が失われた場合。判定は映像の有無に関わらず、試合のレベルを問わず適用されます。競技規則は毎年更新されるため、最新の改正点は各シーズン前に確認するのが安全です。

DOGSOと退場(レッドカード)の関係:どんなときに一発退場になるか

相手の明白なゴール機会を、反則で止めたと審判が判断した場合に退場となります。例外は後述の「ダブル・ジョパディ(2重罰)例外」。ただし、ハンドによる阻止や、保持・引っ張り・押さえ込みなど「ボールをプレーしようとしていない」反則には、この例外は適用されず、退場が原則です。

退場基準の全体像:何が「決定的得点機会」なのか

一発退場が検討される典型的シーン(1対1、無人のゴール等)

次のような場面はDOGSOの検討対象になりやすいです。

  • ゴールキーパーと攻撃側の選手が1対1、背後からの反則で倒す
  • 無人のゴールへ向かうシュートやトラップを、ハンドで阻止する
  • 高速カウンターで最終局面、明らかにシュートに移れそうな場面を掴みや引っ張りで止める

ただし「倒れた=DOGSO」ではありません。次章の4要素で総合評価します。

SPA(有望な攻撃の阻止)との違いと線引き

SPAは「有望な攻撃の阻止」で、原則イエローカード。DOGSOは「明白な得点機会の阻止」で、原則レッドカード。違いは「得点に直結する明白さ」。距離、方向、ボールコントロールの可能性、守備者の位置などが、単なる有望な攻撃なのか、明白な得点機会なのかを分けます。

ファウルDOGSOとハンドDOGSOの違い(直接FK/PK/間接FKの整理)

  • ファウルDOGSO:チャージ、タックル、保持、押さえなどの反則。発生位置と反則の種類に応じて直接FKまたはPK(守備側の直接FK対象反則がPA内ならPK)。
  • ハンドDOGSO:意図的な手や腕の使用でゴールや明白な機会を阻止。守備側のPA内でも原則レッド+PK。ゴールライン上のハンドは典型例です。
  • 間接FK対象の反則(例:接触のないインピーディングなど)でも、明白な得点機会を否定したならDOGSOは成立します。

判定の4要素(4D)を徹底解説

1. ゴールまでの距離:距離が近いほど決定性は高い

ゴールとの物理的距離が短いほど、シュートまでのステップ数が少なく、阻止の確率が低くなるため、決定性が高まります。逆にミドルレンジ以上だとGKの対応余地も大きく、DOGSOの成立は下がります。

2. ゴール方向へのプレー:進行方向とプレー可能性

攻撃者が「実効的に」ゴール方向へ向かっているかが鍵。完全な直進だけでなく、角度を付けたドリブルであっても、次のアクションでシュート・決定的パスが選択できる態勢なら、決定性は高いと評価されます。タッチライン方向へ逃げている、背中を向けて遠ざかる場合は決定性が下がります。

3. ボール保持・支配の可能性:コントロール可能性の評価

「その選手が実際にボールをコントロールできるか」。トラップ可能な速度か、次の一歩で触れる距離か、足元か前方か、ピッチとボールの状態(バウンド、濡れ具合)も加味します。高く弾んでいても、競技レベルや選手の技術次第ではコントロール可能と見なされることもあります。

4. 守備者の位置と数:最後のDFかどうかではなく「他の守備者への到達可能性」

人数よりも「次のプレーに間に合う守備者がいるか」。カバーリングの角度、走力差、GKの距離とスタンス、ブロックに入れるかが重要です。「最後のDFだからDOGSO」ではなく、到達可能性で判断します。

4要素の総合評価と優先順位:チェックリストの使い方

4要素は足し算。どれか1つだけで自動的にDOGSOになるわけではありません。とはいえ、PA付近で前向き、ボールは足元~半歩先、GKと1対1、他DFは追いつけない――といった条件が重なるほど、DOGSOの成立に近づきます。現場では次の順に瞬時に確認するとスムーズです。

  • 距離は?(近い)
  • 方向は?(ゴールへ)
  • コントロールは?(可能)
  • 他DF/GKは?(到達不可)

具体例で理解するDOGSO(ケーススタディ)

斜め後方からのタックルで転倒させたケース:角度と距離の評価

カウンターでPA手前、斜め45度の進入。後方からのチャレンジで転倒。距離は近く、進行方向はゴール寄り、ボールは足元、GKは前に出るもシュートモーションに入れた可能性が高い。ほかDFは追いつけない位置。総合するとDOGSOに該当する可能性が高い場面です。

GKと1対1でPA外の反則:ファウルDOGSOの典型

長いスルーパスに抜け出し、PA外でGKが足を引っ掛けた。フリーでゴールへ向かう状況を反則で止めており、DOGSOが強く疑われます。再開は直接FK、懲戒は退場が基本線です。

ペナルティエリア内でのチャレンジによる反則:PKとカード色

守備側がPA内で、ボールをプレーしようとしたチャレンジの結果として反則が発生し、DOGSOが成立する状況でも、「ダブル・ジョパディ例外」により退場ではなく警告+PKになるのが原則です。単に「PK=退場」ではない点に注意。

ハンドでのゴール阻止:ゴールライン上/シュートブロックの判断

ゴールへ入るシュートを手や腕で止めた場合は、原則としてハンドDOGSO=退場。ゴールライン上でのブロックは典型例です。なお、自陣PA内のGKによるハンドは反則ではないため、DOGSOの対象外です。

オフサイドが絡むケース:先に違反があればDOGSOは成立しない

攻撃側に先にオフサイドの違反があった場合は、その時点でプレーは停止の対象。以降の守備側の通常の反則によるDOGSOは成立しません(暴力行為など別の重大な反則があれば別途処置)。

ダブル・ジョパディ(2重罰)例外の正しい理解

PA内でボールをプレーしようとしたDOGSOは原則「警告」

守備側が自陣PA内で「ボールをプレーしようとして」反則し、PKとなるDOGSOは、原則として警告(イエローカード)に軽減されます。PK+退場の“2重罰”を避ける趣旨です。

プレー意図がない/保持・引っ張り・押さえ込み等は「退場」

保持、引っ張り、押さえ込み、手や腕で妨害など、ボールをプレーする意図がない反則は例外の対象外。PA内でも退場が原則です。

ハンドDOGSOに例外は適用されない(GKの自陣PA内は別記)

ハンドによるDOGSOは、PA内であっても退場が原則。GKの自陣PA内のハンドは反則ではないため、そもそもDOGSOの成立条件を満たしません。

GK特有の留意点:自陣PA内のハンドDOGSOは適用外

GKが自陣PA内でボールを手で扱うこと自体は反則ではありません(特定の状況を除く再開手の扱いなどは別)。よって、GKの自陣PA内ハンドでのDOGSOは成立しません。一方で、GKがタックルや保持など「ハンド以外の反則」をした場合は、他の選手と同様にDOGSOの評価対象です。

審判の視点:実際の判定プロセス

反則の特定→4要素評価→再開方法→懲戒の順序

判定は次の流れで整理されます。反則の種類と場所を特定(DFK/IFK/PK)→4要素でDOGSO/SPA/なしを評価→再開方法を確定→カード色を決定。この順序を崩さないことで、一貫性のある処置ができます。

最適視野の確保:アングル・距離・走路の取り方

斜め後方からの視野確保、スプリントでの間合い調整、選手とボールの間に入らない走路が重要。副審の視線と三角形を作るイメージで、接触の有無と方向性を見極めます。

アドバンテージとDOGSO:得点成立時の警告への切り替え

DOGSO相当の反則でも、明確な得点機会が続いてゴールが決まれば、原則として得点を認め、犯した選手は警告に切り替えます。ゴールが成立しなければ、元の反則に戻って退場と相応の再開を適用します。

笛・カード・リスタートの一貫性と伝達

笛は早すぎず遅すぎず。カード提示の前に再開方法を明確化し、主審・副審・第4の審判で合意。ジェスチャーと短い説明(「DOGSO:距離近い・前向き・コントロール可能・カバーなし」など)で納得感を作ります。

アマチュア現場での現実的なコミュニケーション

激しい抗議を避けるために、落ち着いた声で根拠を一言。長い説明は不要ですが、キーワードの共有(距離・方向・コントロール・カバー)で理解が進みます。

VAR・副審・第4の審判との協働(上位カテゴリー向け)

VAR介入の対象:明白かつ重大な見逃し(レッドカード)

VARはレッドカード相当の事象(DOGSO含む)に限定して介入します。主審の見逃しや明らかな事実誤認が疑われる場合、レビューが推奨されます。

オン・フィールド・レビュー(OFR)の進め方と映像の使い方

OFRでは、接触点、方向、距離、他守備者の位置を映像で確認。スローと実速を組み合わせ、決定性(4D)を再評価します。最終判断は主審が下します。

副審の役割:オフサイドとDOGSOの連携(旗の遅延含む)

得点機会が続く場合は旗を遅らせ、攻撃の結末を見届ける運用が一般的。DOGSOとオフサイドの優先関係(どちらが先か)を明確に伝えることで、正しい再開と懲戒が整います。

VARがない試合での運用:チームワークと事前合意

主審と副審の役割分担(接触・方向・距離・カバーの誰が何を見るか)を試合前に合意。決定機の想定事例を共有しておくと、瞬時の意思疎通がスムーズです。

よくある誤解と落とし穴

「最後のDFならDOGSO」ではない:人数ではなく位置と到達可能性

「最後の1人」かどうかは直接の基準ではありません。重要なのは、他の守備者やGKが次のプレーに間に合う位置・角度・距離にいるかです。

進行方向は「ゴールに直進」だけではない:実効的な攻撃方向の捉え方

やや外に流れていても、次のタッチでシュートや決定的パスが可能なら、方向要素は十分と評価されます。

転倒=DOGSOではない:4要素の総合判断が必須

単に倒れた、止められたでは不十分。距離・方向・コントロール・カバーの4点が揃って、はじめてDOGSOが成立します。

4要素は条件式ではなく評価軸:機械的適用のリスク

「ライン上なら必ず」などの機械的運用は誤り。状況全体の文脈で評価することが求められます。

SPAとの境界:決定性を左右する具体的な要素

PAから遠い、ボールが長く流れている、角度が厳しい、GKが対応できる距離――こうした要素があるならSPA(警告)にとどまる可能性が高くなります。

選手・指導者ができる対策:DOGSOを避けつつ守る

リスクを下げる体の向き・ステップワーク・遅らせ方

正面から不用意に差し込まず、半身で外へ誘導。ステップは細かく、相手のタッチに合わせて遅らせる。手や腕は広げすぎないのが基本です。

背走時の押さえ・引っ張りをしないための腕の使い方

腕はバランスに使い、相手の上体やショルダーを掴まない。肘での押し出しはリスク大。肩を並走させてコースを切る意識を徹底します。

数的不利での守備原則:角度切りと時間稼ぎ

真ん中を切って外へ誘導、味方の帰陣時間を稼ぐ。スライディングは最終手段に限定。GKと声を合わせ、正面のシュートを選ばせる形に持ち込みます。

GKの1対1:飛び出す/待つの判断基準と接触回避

相手のタッチが長い・足元から離れた瞬間に前進。間に合わなければ無理に触らず、角度を切ってシュートコースを限定。体を開かず、接触を避けるステップを選びます。

練習メニュー例:DOGSO回避を組み込んだ守備ドリル

  • 2対1トランジション:守備は角度切りと遅らせ、手の使い方をコーチング
  • GK-DF連携1対1:タッチ長短の判断、飛び出しor待ちの合図づくり
  • 「ノーファウル10秒」ドリル:PA手前で10秒遅らせることに成功で勝ち

保護者・観戦者が知っておくと役立つポイント

育成年代での適用と安全配慮:危険なチャレンジの抑止

DOGSOの厳格な運用は、無謀なチャレンジを抑え、選手の安全を守る効果があります。退場はチームに痛手ですが、怪我の予防につながるという視点も大切です。

応援・声かけのマナー:審判への過度な圧力を避ける

判定は瞬時の総合判断。罵声よりも冷静な応援が、次のプレーへの集中力を高めます。

試合後の振り返り視点:4要素に基づく建設的な会話

「距離は?方向は?コントロールは?カバーは?」の4点で振り返ると、感情論に流れず建設的な学びになります。

事例クイズ:あなたはどう判定する?

事例1:中央突破、背後からのチャレンジ(FK+カードは?)

PA手前の中央、攻撃者は前向きで足元にボール、他DFは背後10m。背後から足に接触して転倒。

事例2:PA内のスライディングで倒した(PK、カード色は?)

右45度から侵入。守備側がボールに行こうとスライディング、わずかに届かず足に接触。GKはニアを切る位置。

事例3:手でのゴール阻止(位置とGKの権利)

無人のゴールに向かうシュートを、戻ったDFが腕を広げてブロック。自陣PA内での出来事。GKは前に出た後で戻れない。

解答と解説:4要素ごとの評価表

  • 事例1の解答:直接FK+退場。距離近い/前向き/コントロール良好/他DF到達不可で4要素が強く成立。
  • 事例2の解答:PK+警告(原則)。PA内でボールをプレーしようとしたチャレンジによる反則でDOGSO相当。ダブル・ジョパディ例外を適用。
  • 事例3の解答:PK+退場。ハンドによるDOGSOは例外適用なし。なお、GKが自陣PA内で手を使うのは反則ではないが、このケースはフィールドプレーヤーのハンド。

競技規則の参照と最新アップデートへの追従

IFAB競技規則(Law 12)の該当箇所を押さえる

DOGSOはLaw 12で定義されています。条文は簡潔ですが、用語の意味(DFK/IFK、ハンドの定義、アドバンテージ)を合わせて読むと理解が深まります。

毎年の改正サイクルと確認方法(公式サイト・通達)

競技規則は毎年更新されます。シーズン前に公式サイトや各協会の通達を確認しましょう。解釈事例や運用指針も参考になります。

国内大会のローカルルール・通達の確認ポイント

大会要項での特記事項(VAR運用の有無、ベンチ規定、懲戒の累積)を事前に確認。ローカル通達がある場合はそれに従います。

まとめ:公平性と安全性を両立するためのDOGSO理解

DOGSOを正しく理解するメリット(選手・指導者・審判・観戦者)

プレー中の判断の質が上がり、無用な退場を避けられる。指導では守備原則が明確になり、審判は一貫性のあるゲームコントロールが可能に。観戦者も納得感のある見方ができます。

今日から使える4要素チェックフレーズ

  • 距離は近い?
  • ゴールへ向かってる?
  • コントロールできる?
  • 他に守れる人いる?

この4つを、プレー中もベンチでも合言葉にしておくと、瞬時の判断がブレにくくなります。

継続学習のための推奨リソースと次のステップ

公式の競技規則と解説、審判講習会の資料、試合映像でのケーススタディを定期的に確認しましょう。チーム練習では、DOGSOを避ける守備ドリルをメニュー化。次の試合から、角度切りと遅らせの徹底、手の使い方の改善をすぐに取り入れてみてください。

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