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ウォームアップ試合前メニューで15分の勝ち支度

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ピッチに出た最初の15分で勝負は半分決まります。体温、神経、関節、そして判断。これらを過不足なく立ち上げられるかどうかで、前半立ち上がりの質が変わります。本記事では「ウォームアップ試合前メニューで15分の勝ち支度」をテーマに、科学的な考え方と現場で使える具体メニューをひとつにまとめました。タイム配分、心拍の上げ方、ドリルの回数と距離、ポジション別の微調整まで、今日からそのまま使えるロードマップをお届けします。

試合前15分で何を最大化するか:ウォームアップの目的と原則

パフォーマンス向上の4要素(体温・神経・可動域・判断)

短時間のウォームアップで優先すべきは次の4つです。

  • 体温(Raise):筋肉温度が上がると粘性が下がり、動き出しがスムーズに。心拍も試合域に近づけます。
  • 神経(Potentiate):スプリントや方向転換の前に神経系へ刺激。高出力の準備を作ります。
  • 可動域(Mobilize):動的ストレッチで競技特異的レンジを確保。ケガ予防と動作効率に直結します。
  • 判断(Decision):視野、コール、色判断などの軽い課題で「サッカー脳」を試合モードへ。

15分設計の考え方(累積疲労を出さない・心拍の波形)

ポイントは「上げすぎない、下げすぎない」。理想の心拍は、導入で緩やかに上がり、中盤で短いピークを作り、最後に試合開始心拍へ落ち着かせる波形です。汗ばむが息は乱れすぎない状態(主観的運動強度RPEで4〜6/10)。ラストでゼーゼーしているのは上げすぎ、入って数分で寒いのは上げ不足のサインです。

科学的背景の要点(RAMP原則・動的ストレッチ推奨の理由)

近年の推奨はRAMP原則です。Raise(体温・心拍)、Activate & Mobilize(活性化と可動化)、Potentiate(高出力の準備)。動的ストレッチはパワー・スプリント・敏捷性に好影響が示される傾向があり、試合前の長い静的ストレッチは瞬発系の出力を一時的に下げる可能性があると報告されています。静的ストレッチは短時間またはクールダウンに回す方が無難です。

よくある誤解(長い静的ストレッチは不可/ボール触らずに終える)

  • 誤解1:長く伸ばせば伸ばすほど良い → 試合直前の長時間の静的保持は避け、動的・アクティブに。
  • 誤解2:ボールは試合が始まってから → 最後の2〜4分で軽い判断課題と共に必ずボールタッチを。
  • 誤解3:アップは汗をかくまでやる → 目的は「準備」。疲労をためないラインを守りましょう。

15分の勝ち支度:標準メニュー全体像(0〜15分のロードマップ)

0〜3分:循環促進と体幹起動(脈を上げすぎない導入)

ジョグ、スキップ、体幹スイッチで温める時間。呼吸は会話できる程度に。

3〜7分:可動域×弾性の動的ストレッチ

ランジ系、股関節の開閉、ハム・ふくらはぎの弾性を引き出すメニューをテンポ良く。

7〜11分:スプリント準備と加速・減速

10mの加速、3〜4歩の減速、横→前の切替。中枢神経に高出力の合図を送ります。

11〜13分:ボールタッチと判断負荷のプライミング

2人1球のワンタッチ、色コールでの方向判断など。視野と足元のつながりを起動。

13〜15分:ゲームスピードの仕上げとキックオフ心拍へ

ショートロンド、短い高強度→間のリカバリーで心拍を試合域に合わせる。

タイムキーパーのコツとチーム全体の整列方法

  • 1分刻みで口頭コール(例:「残り2分でボール」「次、加速」)。
  • 列は2〜3列に分け、密を避けて滞りをなくす。
  • ボールセクション前に全員が1度心拍を落とす合図を共有。

各フェーズの具体ドリル解説(人数・スペース・回数)

0〜3分のドリル例:スキップ、Aラン、体幹スイッチ

  • ジョグ→スキップ:20m往復×2。アンクル→ニーアップの意識。
  • Aラン(ドリル):10m×2。前傾と足の引き付け。
  • 体幹スイッチ:デッドバグ20秒、バードドッグ20秒、サイドプランク左右各20秒。スペースは1人1m四方で可。

3〜7分のドリル例:ウォーキングランジ+ツイスト、コサック、ヒップオープン

  • ウォーキングランジ+ツイスト:片脚5歩ずつ。胸を開き背骨も動かす。
  • コサックスクワット:左右各6回。内転筋の弾性を感じる範囲で。
  • ヒップオープン/クローズ:前進しながら各6歩。股関節の前後・外旋を滑らかに。
  • カーフ・ハムのダイナミック:足踏みしながらのカーフレイズ10回、RDLタッチ(片脚で前屈)左右各6回。

7〜11分のドリル例:10m加速×3、減速コントロール、ラテラル→アウト

  • 10m加速:70%→85%→90%で各1本(歩いて戻る)。
  • 減速コントロール:8m加速→3歩でピタ止まり×3。膝が内側に入らないよう注意。
  • ラテラル→アウト:横移動3歩→前へ8mダッシュ×2方向。守備の切り替えを想定。

11〜13分のドリル例:2人1球ワンタッチ、視野制限コール、カラー判断

  • 2人1球ワンタッチ:5m間隔で30秒×2。体の向きとファーストタッチの質。
  • 視野制限コール:背後の味方が「右・左・ターン」をコール、受け手はコールに従いワンタッチかターン。
  • カラー判断:マーカー2色を提示、言われた色へファーストタッチ。30秒×2。

13〜15分のドリル例:3対1ロンド30秒×3、30-30心拍合わせ

  • 3対1ロンド:10×10m。30秒×3本(間20秒)。タッチ制限は2タッチ。
  • 30-30心拍合わせ:30秒間75〜85%でコーン間シャトル→30秒歩き。2サイクルで終了。

GK向け追加:キャッチ→コラプス→ダイブの段階化

  • 正面キャッチ:5本。
  • コラプス(低い倒れ):左右各4本。ボールは1.5m横。
  • ダイブ:左右各3本。セーブ後の立ち上がりまでセットで。
  • キック距離合わせ:ゴールキック3本、スロー2本。疲労を残さない本数で。

ポジション別・役割別の微調整

CB/FB:空中戦と後方からの加速

  • ジャンプ→着地のリズムを3本(手を振って高く、着地は静かに)。
  • 後方→前方の加速(バックペダル5m→前へ10m)×2。

CM/アンカー:方向転換と視野切替

  • 半身の受け→ワンタッチ展開(2人1球)30秒。
  • 三角コーンで「右・左・奥」コールに応じたターン×各2。

WG/SH:反復スプリントとインアウトカット

  • 7mカットイン→7m縦突破×左右各2。
  • 5秒スプリント→15秒歩き×2セットで心拍を合わせる。

CF:背負いと反転、フィニッシュの感覚合わせ

  • 背後からの当たりを受けてキープ→反転シュート(軽め)各側2本。
  • クロスに対するステップワークとヘディングの感覚合わせ2本。

GK:反応・踏み込み・キック距離の合わせ方

  • 近距離リアクション(1.5m、左右のタップ→正面キャッチ)30秒。
  • 踏み込み脚のチェック(1歩で届く距離の低弾)左右各3本。

レベルや年齢に応じた安全なスケーリング

中高生の注意点:成長痛対策と負荷調整

  • シンスプリントやオスグッドがある場合、ジャンプ系は本数を半分に。
  • 動的ストレッチは可動範囲を「痛気持ちいい」までに留める。

社会人・復帰明け:RPE管理と10分短縮版

  • RPE5を上限に。ラストの高強度は1セットにとどめる。
  • 短縮版は動的ストレッチを2分、加速は2本で十分。

子どもと一緒のアップ:遊び要素で心拍を上げる方法

  • 色鬼(コールされた色のコーンにタッチ)で心拍と判断を同時に。
  • ボール運びリレーで楽しみながら温める。

ウォームアップで痛みが出た時の判断基準

  • 鋭い痛み、力が入らない、腫れ感は中止のサイン。
  • 違和感レベルなら動作を軽くし、静的ストレッチは10〜15秒以内で様子見。

試合環境によるアレンジ

寒冷・猛暑・雨天それぞれの修正ポイント

  • 寒冷:導入を4分に延長、レイヤー着用で汗冷え防止。
  • 猛暑:加速本数を1本減らし、ミニ休息を増やす。水分は少量をこまめに。
  • 雨天:減速ドリルで足元確認、踏み切り方向を安定させる。

人工芝と天然芝での踏み込み差

  • 人工芝はグリップが強め。切り返し角度をやや浅く、膝のねじれを減らす。
  • 天然芝は滑りやすい状況も。減速コントロールを1セット追加。

アウェイ会場・スペースが狭い場合の立ち上げ

  • 直線10mが取れない場合、5mシャトル×本数で代替。
  • ロンドは6×6mに縮小、タッチ制限を厳しめにして負荷を担保。

キックオフ時刻に合わせた糖質と水分計画

  • 補食はキックオフ60〜90分前に消化の良いもの(バナナ、ゼリー等)。
  • 15分前までは少量の水分摂取で口渇をリセット。飲みすぎは腹部不快を招くことも。

チーム運用:キャプテンとコーチの役割分担

号令・コールの共通言語化

  • 「上げる」「落とす」「ボールへ」「フィニッシュHR」など、短い共通ワードを決める。

15分メニューの配布カードと責任者設定

  • 小さなカードで時刻とドリル、合図を書き、キャプテンと副キャプテンがタイム管理。

トレーナーのチェック項目(痛み・左右差・呼吸)

  • 片脚動作の左右差、呼吸が肩で上がっていないか、痛みのセルフ申告を確認。

ベンチ組の再起動ルーティン(交代前3分)

  • 30秒ジョグ→動的ストレッチ1分→加速2本→ボールタッチ30秒。ベンチ脇で実行。

よくある失敗と対策チェックリスト

アップで疲れ切る問題を避ける心拍の目安

  • 会話できる呼吸が8割の時間を占め、ゼーゼーは合計1分未満。

静的ストレッチの入れ所と所要時間

  • どうしても必要な部位は10〜15秒の短時間で、動的の前後に。長い保持はクールダウンへ。

直前のキックミスで自信を落とさないために

  • ラストのキックは「方向性」と「フォーム確認」。強度より再現性を優先。

ルール違反にならない器具の使い方

  • ミニバンドや軽いコーンは可。大型器具や危険物は持ち込み不可の会場が多い。事前確認を。

15分メニューのテンプレート(保存版)

フィールドプレーヤー用テンプレ

  • 0:00–1:30 ジョグ&スキップ
  • 1:30–3:00 体幹スイッチ(デッドバグ/バードドッグ)
  • 3:00–7:00 動的ストレッチ(ランジ+ツイスト/コサック/ヒップオープン)
  • 7:00–11:00 加速・減速・ラテラル→アウト
  • 11:00–13:00 2人1球ワンタッチ+カラー判断
  • 13:00–15:00 3対1ロンド30秒×3 or 30-30心拍合わせ

GK用テンプレ

  • 0:00–2:00 ジョグ&モビリティ
  • 2:00–4:00 フットワーク(サイドステップ→前進)
  • 4:00–7:00 正面キャッチ→コラプス
  • 7:00–10:00 ダイブ左右
  • 10:00–12:00 配球(ローリングスロー、アンダー)
  • 12:00–15:00 キック距離合わせ+リアクション

10分短縮版

  • 0:00–2:00 ジョグ+体幹スイッチ
  • 2:00–4:00 動的ストレッチ(主要3種)
  • 4:00–7:00 加速2本+減速2本
  • 7:00–10:00 2人1球→ミニロンド1本

20分拡張版(待機が長い大会向け)

  • 0:00–4:00 導入(ジョグ・スキップ・体幹)
  • 4:00–9:00 動的ストレッチ+股関節補助
  • 9:00–14:00 加速・減速・方向転換を各3本
  • 14:00–18:00 ボールタッチ(2人1球→ロンド)
  • 18:00–20:00 心拍合わせ(短い高強度→リカバリー)

ミニFAQ

動的ストレッチだけで十分?

試合前は動的が基本。特定部位に張りがある場合のみ、10〜15秒の短い静的を挟んでもOKです。

ロンドは何人が最適?

時間が短い試合前は3対1や4対2が回転も速く、判断負荷とタッチ数のバランスが良いです。

個別ルーティンとチームアップの両立

最初の3分と最後の2分はチームで統一。中盤の2〜3分を個別に割り当てるのが現実的です。

補食は何分前まで?

60〜90分前が目安。直前は少量の水分程度に留め、胃の重さを避けましょう。

まとめ:15分で上げすぎず、必要十分に整える

要点の再確認と次の行動

  • RAMP原則に沿い「体温・神経・可動域・判断」を順に起動。
  • 心拍は緩やかに上げ、短いピークを作ってから試合域へ。
  • 動的ストレッチ中心、ボールタッチはラスト2〜4分で必ず。
  • 環境と役割に合わせて本数と距離を微調整。

チェックリストの使い方

  • タイム配分をカード化し、キャプテンが口頭コール。
  • 各セクションで「呼吸」「痛み」「左右差」をセルフチェック。
  • 終わった直後にRPEと心拍感覚をメモ。次回の微調整に活かす。

ウォームアップ試合前メニューで15分の勝ち支度は、難しいことを増やすのではなく、やるべきことを削ぎ落として「確実に積み上げる」設計です。今日の試合から、あなたの15分をチームのアドバンテージに変えていきましょう。

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