試合前に「今日はこう戦う」と腹落ちできるマッチプランがあるかどうかで、プレーの迷いは大きく変わります。この記事は、サッカーの現場でそのまま使える「相手分析〜想定シナリオ」までを1枚に落とし込むためのフォーマット見本と書き方のガイドです。映像やデータから拾った事実を、現場で実行可能な言葉に翻訳することに集中しました。テンプレートはコピペして手元のノートやスマホに移せます。情報は少なく、合図は明確に。あなたのチームの文化に合わせてカスタマイズしてください。
目次
- はじめに:現場で使えるマッチプランとは
- この記事の使い方とフォーマットの全体像
- 前提整理:ゲームモデルと勝利条件(KPI)の明確化
- 相手分析のコア項目(現場で抑える最低限)
- 自チームの前提・リソースチェック
- フォーマット見本:1枚で伝わるマッチプラン
- フェーズ別の具体プラン書式(コピペ用テンプレート)
- 想定シナリオと分岐プランの書き方
- 交代プランとプレーヤーロールのテンプレ
- タイムアウト/飲水タイム/ハーフタイムの話法テンプレ
- 試合中の観察・記録フォーマット
- トレーニング設計への落とし込み(前日まで)
- 試合後レビューのフォーマット
- 高校・アマチュア向け簡易フォーマット見本
- よくある失敗と最終チェックリスト
- まとめ:フォーマットを武器にする
はじめに:現場で使えるマッチプランとは
マッチプランの目的と価値
マッチプランの目的は「90分を意図通りに運ぶ確率を上げること」です。相手の特徴と自分たちの強みを重ね、流れがぶれても戻れる基準をチームで共有します。価値は大きく3つ。
- 意思決定のスピード化:迷いを減らし、1秒を稼ぐ。
- 共通認識の形成:合図ひとつで全員が動ける。
- レビューの質向上:意図と結果を結び、学びを蓄積。
相手分析〜想定シナリオを一枚にまとめる意味
情報は多いほど安心に見えますが、現場では過多がミスを生みます。1ページに絞ることで「今日の勝ち筋」「避けたい負け筋」「合図と基準」にフォーカスできます。詳細は別紙(もしくは頭の中)でOK。選手に渡すのは1枚だけが原則です。
現場で機能する条件(簡潔・具体・実行可能)
- 簡潔:見出しは7語以内、文は1行15〜25字目安。
- 具体:曖昧語を避ける(例:「早く」ではなく「2タッチ以内」)。
- 実行可能:合図とトリガーがある(誰が、いつ、何で始めるか)。
この記事の使い方とフォーマットの全体像
完成形イメージと記入順序
おすすめの記入順序は「前提→相手→自分→勝ち筋→フェーズ別→想定シナリオ→交代→話法→ライブタグ→トレーニング→レビュー」。先にKPIと勝ち筋を固め、細部は後から埋めます。
1ページ版と詳細版の使い分け
- 1ページ版:選手配布用。勝ち筋/負け筋、トリガー、KPI、ハンドサイン。
- 詳細版:スタッフ用。映像タイムコード、代替案、相手の分岐、審判・天候の運用。
必要な事前準備(映像・データ・現地情報)
- 映像:直近3試合+相性の近い相手との試合。セットプレーは全本数。
- データ:シュート位置、奪取位置、プレス強度、クロス方向など。
- 現地情報:ピッチサイズ/芝/風/照明、審判の基準傾向、相手の遠征状況。
前提整理:ゲームモデルと勝利条件(KPI)の明確化
自チームのゲームモデル要約(攻守と切替)
まずは自分のモデルを3行で固定します。
攻撃:○○型(例:2-3-5で幅固定、IHが裏抜け)守備:○○型(例:中盤3枚で内閉じ、外誘導→サイド圧縮)切替:ネガは3秒奪回、ポジは縦優先(中央→外の順)
今節の勝利条件とKPI(定量・定性)
- 定量KPI例:ファイナル侵入12回以上、敵陣奪取10回以上、被ロングカウンター2回未満、CK×シュート直結3回。
- 定性KPI例:「外誘導→サイド圧縮」成功の再現3回以上、「カットバックの質」A評価2本。
リスク許容度の設定(前半/後半/終盤)
前半:プレス高め(10分までは最前列から)。背後はCBのカバー優先。後半:ブロック重心。勝っているなら押し込まれても構わない。終盤:+1は時計管理/-1は交代2枚で勢い重視/0はセット一発狙い。
相手分析のコア項目(現場で抑える最低限)
基本情報:フォーメーション/選手特性/交代傾向
- 陣形:守備時と攻撃時の形、可変ポイント(誰が降りる/出る)。
- 特性:キープレーヤー3名(強み・弱みを1行ずつ)。
- 交代:時間帯/ポジション/狙い(流れを変えるタイプか守るタイプか)。
攻撃フェーズ:ビルドアップ/前進/フィニッシュ
- ビルドアップ:GKの配球傾向、CBの利き足、IHの立ち位置。
- 前進:外回し/内通しの比率、三角形の作り方、スイッチ役。
- フィニッシュ:クロス種別(ニア/ファー/カットバック)、PA外からのシュート頻度。
守備フェーズ:プレスの高さ/トリガー/背後の守り方
- 高さ:ハイ/ミドル/ローブロックの使い分け。
- トリガー:バックパス/横パス/トラップミス/サイドチェンジ時など。
- 背後対応:ラインの統一性、CBのスピード、GKのスイーパー度。
トランジション:ネガ/ポジの第一歩と弱点
- ネガ:即時奪回の人数と時間、ファウルで止める基準。
- ポジ:第一パスの方向、運ぶ人と走る人の役割分担。
- 弱点:ボールロスト直後の空白区域、逆サイドの遅れ。
サイド/中央の攻略傾向とスイッチのタイミング
- サイド偏重か中央突破か、スイッチの合図(誰の体の向き/パス)。
- 縦ズレ(SBとCBの間/CHの背中)の出現頻度。
セットプレー分析(攻守別のパターンと狙い所)
- 攻撃:主軸のラン(ブロック/ニアダッシュ/二段目)。
- 守備:マンツー/ゾーン/ハイブリッド、飛び出しの質。
- 狙い所:マークの薄い人、キッカーの癖、セカンド回収位置。
試合運営要因:ピッチ/天候/審判傾向/ベンチワーク
- ピッチ・天候:滑りやすさ/風向/逆光。ロングボールやミドルの採用判断に影響。
- 審判:接触の基準、カードの運用傾向。早い段階で観察して基準を共有。
- ベンチワーク:相手の修正パターン(システム変更/交代の合図)。
根拠と確信度の記載方法(映像タイムコード/データ引用)
根拠:vs□□(R△△節)00:12:34 CK守備でゾーンの手前が空く確信度:A(再現性高い/3試合で同様)B(2例)C(1例)
自チームの前提・リソースチェック
出場可否/コンディション/戦術適正
- 出場可否:傷害・累積・復帰明けの分数制限。
- コンディション:スプリント回数、連戦疲労、睡眠状況。
- 戦術適正:今日のプランにハマるか。代役の有無。
強み・弱みのアップデート(直近3試合)
強み:敵陣奪取→即シュート、右サイドの崩し弱み:自陣での不用意な横パス、2nd回収の遅れ
役割の再配置と可変性(可変システムの有無)
可変は「狙い→合図→初期配置→戻す合図」までセットに。選手個々の負担も記載。
フォーマット見本:1枚で伝わるマッチプラン
ヘッダー:試合情報/目的/KPI
試合:〇〇大会 R△節 相手:□□ 会場:△△目的(1行):前進を外へ誘導し、サイドで圧縮→奪取から即シュートKPI(定量):敵陣奪取10+/ファイナル侵入12+/被背後2-KPI(定性):外誘導→圧縮の再現3回/カットバックA評価2本
相手プロフィール要約(3行)
1:4-2-3-1→非保持は4-4-2、左サイドで前進傾向2:ビルドはCB→CH→左IH、切替は早いが逆サイド遅い3:CK守備はニア弱い。交代は65分にWGのスピード投入
今日の勝ち筋/避けたい負け筋
勝ち筋:右で時間を作り、逆→左のカットバックから決め切る負け筋:自陣の不用意な横パス→ショートカウンターの被弾
スターティングプラン(圧の高さ/基準/合図)
圧の高さ:前半はミドル、相手CB横への横パスで前向きに圧基準:2タッチ以内/内切り禁止/背後の声かけはCBが主導合図:「赤」=前向き圧開始、「青」=一段下げる、「白」=ライン押し上げ
主要トリガーワードとハンドサイン一覧
- 「赤」:プレスGO(右手を握る)
- 「青」:ブロック形成(手のひら下向きで下げる)
- 「スイッチ」:逆サイド展開(人差し指で円を描く)
- 「3秒」:ネガトラ全員圧(腕で3を示す)
キープレーヤー対応(限定・封鎖・誘導)
#10:利き足外切りで限定。背中で受ける時はCB出ずにCHが潰す#9:背後ランはオフサイド管理。クロス時はニア優先で体を入れる
フェーズ別の具体プラン書式(コピペ用テンプレート)
自陣ビルドアップ:立ち位置/誘導/出口
立ち位置:CBは広く、CHは縦関係。SBの高さは交互誘導:相手の1列目を左右に揺らし、CHの背中へ縦刺し出口:IHが裏抜け/逆サイドWBへスイッチ。NG=横パス長時間
敵陣プレス:開始合図/罠/回収後の第一手
合図:相手CB→SBの外向きトラップ罠:外で蓋→内に切らせてCHで狩る第一手:即縦/即シュートレンジへ運ぶ。遅攻への移行は3本以内
攻撃最終局面:クロス/カットバック/シュート基準
クロス:ニアに1/ファーに1/エリア外1(カバー)カットバック:ペナ角からグラウンダー優先。折り返しはPA外の逆足待ちシュート基準:PA内は躊躇なし、PA外はブロック2枚以下のみ
守備ブロック:中盤ライン/最終ラインの連動
中盤:内閉じ→外誘導。CHの間は10m以内最終ライン:背後管理はCB主導。SBはボールサイドは絞る連動:CHが出たらCBは5m前進。出た分だけ全体で押し上げ
トランジション:ネガトラ/ポジトラのルール
ネガトラ:3秒全員圧。奪えない時はファウル基準を共有(危険地帯のみ)ポジトラ:縦→逆→ゴールの順。運ぶ人/走る人/残る人を即決
セットプレー攻守:配置/コール/再開後の狙い
攻撃CK:キッカー=右/左固定。ニアブロック→二段目で打つ守備CK:1枚ゾーン+マンツー。ニアの人は弾く意識100%再開後:セカンド回収位置をPA外正面に1人固定
想定シナリオと分岐プランの書き方
0-0が続くときの微修正(強度/幅/高さ)
- 強度:プレスは10分刻みで強→弱→強に波を作る。
- 幅:SBの高さを交互に。逆SBはアンカー脇に絞る。
- 高さ:ライン5m押し上げ、背後はGKのカバー範囲を拡大。
先制時のゲーム管理(リスク/テンポ/陣形)
リスク:中盤の背後は捨てない。2点目狙いはCK・FK中心テンポ:スローイン/セットをゆっくり。不要な中央突破は抑制陣形:5-4-1化の合図「青」
失点直後の再起動(リスタート/メンタル介入)
30秒ルール:円陣→事実1点→指示1点→合図再確認キックオフ:後方で一度落ち着き、相手1列目のトリガーを確認
終盤(75分〜)のスコア別運用(+1/0/-1)
- +1:ボール保持で呼吸を作る。敵陣CK獲得を増やす。
- 0:フレッシュなスプリンター投入→カウンター2本に絞る。
- -1:SBの一枚をWG化、クロス本数をKPI化して押し切る。
数的優位・劣勢/退場時の即時対応
優位:幅を最大化、サイドチェンジ回数を増やす(目標5本/10分)劣勢:中央密度を最優先、カウンターは2人に限定
天候/ピッチ/審判傾向への即応(基準の再設定)
- 風:逆風時は地上経由、追い風時は背後に質の高いボール。
- 滑り:強いパス/足元よりスペースへ。タッチ数制限。
- 審判基準:前半15分で傾向を共有。接触強度の調整を全員に通達。
プランB/Cの導入トリガーと撤退基準
プランB:ファイナル侵入が前半6回未満→CFをポスト型に交代プランC:被背後3回以上→ライン5m下げ、ブロック化撤退:導入後10分でKPI改善なし→元に戻す
PK戦・延長を見据えた準備(大会規定に応じて)
- 延長の交代プランとキッカー順は前日決定。
- GKの事前ルーティン、キッカーのルーティンを共有。
交代プランとプレーヤーロールのテンプレ
分刻み交代計画と想定スコア別の分岐
60分:CH→CH(走力維持) 0-0/-1で実行70分:WG→WG(スプリント強化) どのスコアでも80分:CF→CF(空中戦or裏抜け 特性で選択) +1は見送り可
ポジション別ロール定義と評価指標
CF:前進の壁(背負う2回/10分)/ファーストDF(遅らせ1回/5分)WG:裏抜け5本/前向き受け3回/カットバック1本CH:前進パス3本/スイッチ1本/被背後0
交代後1分で伝える要点(目標・指標・合図)
目標:右サイドで時間を作り逆展開1本指標:最初の3タッチで縦1回、内切り0合図:赤=プレスGO、スイッチ=逆展開
タイムアウト/飲水タイム/ハーフタイムの話法テンプレ
1分で伝える構造:事実→判断→指示→合図
事実:相手は左偏重、内通し2回判断:外誘導は効いている、最終ラインは5m上げられる指示:CHは外切り徹底、WGは逆幅で待つ合図:赤でプレス、青でブロック
ハーフタイムのメッセージ台本(前半→後半)
良い点:外誘導→圧縮の再現◎修正点:2nd回収の遅れ、縦ズレの管理後半プラン:最初の10分は高い位置で圧→セットで仕留める
個別声かけテンプレ(DF/MF/FW/GK)
- DF:ラインの高さOK。背後はCB主導で声を先に。
- MF:内切り禁止の徹底。スイッチの合図は自分から。
- FW:最初の守備で基準を作ろう。2本に1本は裏へ。
- GK:風向に合わせた配球。前半と後半で距離を再設定。
試合中の観察・記録フォーマット
ライブタグのキー(自/相/中立事象)
自:BUP成功/敵陣奪取/被背後/2nd lose/SP得失相:プレス高さ/サイド偏重/キック方向/交代の狙い中立:審判基準/風向/芝すべり/照明
確信度・再現性の簡易評価法
確信度A:3回以上出現/複数試合確信度B:2回出現/同一試合確信度C:1回。要再確認
ベンチスタッフの役割分担と情報フロー
- アナリスト:タグ付け→10分ごとに要点をホワイトボードで共有。
- コーチ:合図と配置の修正を現場に翻訳。
- 監督役:プランの採用/撤退を意思決定。
トレーニング設計への落とし込み(前日まで)
セッション案:制約を使った再現ドリル
テーマ:外誘導→サイド圧縮→即シュート制約:中央通過禁止/サイドで2タッチ/奪ったら7秒以内にフィニッシュ
セットプレーの反復とコールの統一
- コール名を短く(例:N=ニア、F=ファー、B=ブロック)。
- ランの速度と角度を合わせ、二段目の整理を徹底。
負荷管理とリスク回避(直前調整)
- スプリント回数と合図の確認を優先、接触は軽め。
- キッカーとGKのルーティンを必ず確認。
試合後レビューのフォーマット
KPI評価とクリップ紐付け
KPI結果:敵陣奪取12/目標10+ 達成クリップ:#03_12:34 外誘導→圧縮→得点(A評価)
意図どおり/意図と異なる/偶発の分類
- 意図どおり:プランに沿った再現。
- 意図と異なる:結果OKでもプロセスNG。
- 偶発:個の閃きや相手のエラー。再現性は低めに評価。
次戦への学びとフォーマット更新
「言葉の精度」「合図の分かりやすさ」「撤退基準」の3点を毎回更新。テンプレは固定し、例文だけ差し替えます。
高校・アマチュア向け簡易フォーマット見本
15分で作れる最低限版(手書き/スマホ)
勝ち筋:右で時間→逆→左カットバック負け筋:自陣横パス→奪われカウンターKPI:敵陣奪取8+/被背後2-合図:「赤」GO/「青」下げ/「3秒」奪回
選手向け1枚資料とスタッフ版の分離
- 選手版:合図と基準のみ。文章は短く。
- スタッフ版:根拠と分岐、交代プランを詳細に。
共有運用(配布タイミングと口頭補足)
- 前日夜:選手版を配布、当日ロッカーで口頭確認。
- 飲水タイム:合図の再確認だけに絞る。
よくある失敗と最終チェックリスト
情報過多/曖昧語/根拠不明の排除
- 1枚に収まらない=削る。曖昧語は数値や行動に置換。
- 根拠なしの断定は禁止。確信度を明記。
実行可能性テスト(合図と再現性)
- 「誰が」「いつ」「何で」動くかが明確か。
- 練習で3回再現できるか。再現できないなら書き直し。
当日朝の最終更新と配布ルール
- 天候・審判・相手スタメンで1行だけ更新。
- 更新箇所は合図の横に星マークで可視化。
まとめ:フォーマットを武器にする
継続運用で精度を上げるポイント
- 同じ型に情報を入れ続けると、差分が見える。
- KPIは少数精鋭で、毎試合振り返る。
現場からのフィードバックの取り込み方
- 選手に「分かった言葉/分からない言葉」を聞く。
- 合図とハンドサインは年に数回までしか変えない。
次回アップデート予告(拡張項目の例)
- プレー原則カード化(ポケットサイズ)
- 相手ごとのSPデザイン集
- 試合中アラートbot(タイムタグ自動共有)の作り方
最後に
サッカーのマッチプランは、難しい言葉や膨大な情報よりも、現場で通じる「短い言葉」と「明確な合図」が命です。この記事のフォーマット見本を土台に、あなたのチーム仕様へ少しずつ最適化してください。相手分析と想定シナリオが1枚にまとまると、90分の意思決定は必ず速く、強くなります。