試合の振り返り(リフレクション)は、センスや才能に頼らずに実力を伸ばすための、いちばん再現性の高いトレーニングです。この記事は「試合の振り返りの書き方:3視点×5質問の実践テンプレ」をテーマに、誰でも同じ手順で、短時間で、次の試合に直結する振り返りができるように設計しています。紙でもスマホでも、そのまま使えるテンプレートと記入例、ポジション別のコツ、データ化の最低限、NG回避、練習への接続、年間運用まで一気通貫でまとめました。今日の試合から、明日の成長につなげましょう。
目次
導入:なぜ「試合の振り返り」は実力を伸ばす最短ルートか
リフレクションがパフォーマンスに与える効果(注意・判断・再現性)
振り返りの本質は「出来事を言語化し、次の行動に変える」ことです。言語化は注意の向き先を整え、判断スピードを高め、成功パターンの再現性を生みます。例えば「なぜそのパスコースを選んだか」を言葉にすれば、次回は同様の状況で迷わず最適解に近づけます。観た感想や気持ちだけで終わらせず、事実→意図→要因→次の一手→KPIの順に整理すると、改善が続く土台ができます。
メモや動画だけでは不十分な理由
動画やスタッツは強力ですが、単体では「自分の意図」と結びつきません。「なぜ、そうプレーしたのか」を置き去りにすると、同じ失敗が起きた時に対処できないからです。逆に主観メモだけでは思い込みに偏ります。主観(現場の感覚)と客観(事実・数字・動画)をつなぐこと。これが振り返りの要です。
本記事のゴールと使い方
ゴールはシンプルです。「試合後24時間以内に、15分で、次の練習メニューとKPIまで落とし込める」状態をつくること。この記事のテンプレをコピーして、毎試合のルーティンに組み込んでください。慣れてきたら、ポジション別の項目やチームの約束事に合わせてカスタマイズしましょう。
3視点×5質問フレームの全体像
3視点=「個人」「チーム」「相手」の定義
個人視点は自分の技術・体力・判断。チーム視点は戦い方(ゲームモデル)、役割分担、連動の質。相手視点は相手の強み・弱み・傾向と、それへの自分たちの対応です。3つを切り分けると、原因の置き場所が明確になり、改善の打ち手がブレません。
5質問=事実/意図/要因/次の一手/KPIの意味
- 事実:いつ・どこで・何が起きたか(映像で再確認できる内容)
- 意図:自分は何を狙って選択したか(判断の理由)
- 要因:うまくいった/いかなかった決定要因(技術・認知・ポジショニング・味方/相手/状況)
- 次の一手:同じ状況での具体的な改善策
- KPI:次の試合までに測る1〜2個の指標(数値またはチェック可)
1回15分で回す書き方の流れ(試合後24時間のルーティン)
- 感情のメモ(1分):嬉しい/悔しいなどを一言で書いて頭をクリアにする。
- 事実の抽出(5分):得点/失点/決定機/ピンチのタイムスタンプを3〜5件。
- 3視点×5質問(7分):重要シーンを優先し、各視点で1件ずつ。
- 行動化(2分):次の練習課題3つとKPIを決める。
実践テンプレ(そのまま使える書式)
個人視点テンプレ:技術・体力・判断の整理
- 事実:[前半/後半、分、場所、状況]
- 意図:[なぜその選択をしたか]
- 要因:[技術/体力/判断/認知/ポジショニングのどれが決め手か]
- 次の一手:[次に同じ場面で何を変えるか]
- KPI:[回数/成功率/チェック項目]
補助欄(任意):疲労/気温/ピッチ/相手個人の特徴などの状況メモ。
チーム視点テンプレ:戦術・役割・連動の整理
- 事実:[相手の配置、自チームの狙い、ライン間の距離、スライド速度]
- 意図:[ゲームモデル上の優先順位(例:内側を締めて外に誘導)]
- 要因:[距離/角度/合図/役割理解/交代の影響]
- 次の一手:[合図の統一、距離の基準、プレッシングトリガーの明確化]
- KPI:[回収までのパス本数/サイド圧縮の成功回数/ビルドアップ突破回数]
相手視点テンプレ:強み対策・弱点攻略の整理
- 事実:[相手のビルドアップの出口/狙う背後/セットプレーの形]
- 意図:[こちらは何を消す/何を使う狙いだったか]
- 要因:[個々の特長(スピード/キックレンジ/対人)、チーム傾向]
- 次の一手:[人/ゾーンの基準変更、誘導方向の統一、相手弱点の再利用]
- KPI:[相手の得意形の出現回数/こちらの狙いで奪った回数]
記入例(得点シーン/失点シーン)
得点シーン例
- 事実:後半23分、右ハーフスペースで受け→ワンタッチで裏へスルー、FWが抜け出して得点。
- 意図:相手CBが前に出た瞬間に背後を使う狙い。
- 要因:事前のスキャンでSB内側が空くと判断、体の向きが前向きでパススピードも適切。
- 次の一手:同型を増やすため、受ける前に右肩越しのスキャンを1回増やす。
- KPI:ハーフスペース前向き受け→裏への決定機演出2回/試合。
失点シーン例
- 事実:前半15分、左サイドからのクロス。ニアで触れず、ファーで合わされ失点。
- 意図:外切りでクロッサーに寄せ、クロス質を落とす狙い。
- 要因:寄せの開始が遅れ、CBとSBの間隔が広がった。カバーの声が弱い。
- 次の一手:寄せのトリガーを「相手SBが前向きでコントロールした瞬間」に統一。CBは一つ内側へ絞る基準を共有。
- KPI:相手からの有効クロス(成功)を前後半で3本以内に抑える。
具体例で学ぶ:ポジション別の書き方
FW:裏抜け、フィニッシュ、プレス開始の判断
- 事実:ライン設定、CBの体の向き、味方の持ち方。
- 意図:ニア/ファー/足元/背後の優先順位。
- 要因:スタートの角度、オフサイド管理、最初のタッチの質。
- 次の一手:片足スタートの習慣化、GKの重心確認、プレスの合図(合図語を統一)。
- KPI例:裏抜けでのファーストタッチ成功率60%以上、プレス開始の合図→奪回3回。
MF:スキャン、配球、ライン間の受け直し
- 事実:受ける前の視線回数、受ける位置(縦/横/深さ)。
- 意図:前向き化の優先、相手中盤の背後を取る狙い。
- 要因:体の向き(オープン/クローズド)、ワンタッチ判断、逆サイドの関与。
- 次の一手:受け直しの「出入り」タイミングを味方の視線に合わせる。
- KPI例:受ける前のスキャン2回以上/保持、縦パス後の前進成功4回。
DF:カバーシャドー、ラインコントロール、ビルドアップ
- 事実:カバーシャドーで消したコース、ラインの高さ、背後の管理。
- 意図:中央を締めて外へ誘導、縦を切って横へ運ばせる。
- 要因:サイドでの1st/2nd/3rdの役割理解、足元精度、運ぶ判断。
- 次の一手:合図と高さの基準(センターサークル基準など)を明確化、逆足のキック練習を加える。
- KPI例:背後に出されたボール対応の先触り率70%、前進パスライン突破5回。
GK:ポジショニング、ビルドアップ関与、セットプレー対応
- 事実:守備時の立ち位置(ボール/ゴール/相手の三角形)、配球選択。
- 意図:背後警戒と前進の両立、速攻/遅攻のスイッチ。
- 要因:キックの質、声の距離感、相手のプレッシング方向の把握。
- 次の一手:相手ブロックの外へ運ぶドリブルを1本増やす、セットプレーはゾーン基準を再確認。
- KPI例:前進に直結する配球6本、PA外のスイーパー対応3本。
データ化のコツ:主観と客観をつなぐ
最低限のスタッツ(シュート、デュエル、奪回、被チャンス)を数える
全てを数える必要はありません。まずは次の4つだけで十分です。シュート(枠内/外)、デュエル(地上/空中)、奪回(相手陣/自陣)、被チャンス(決定機の回数)。これだけでも課題の輪郭が見えます。各ポジションで重点を1つ追加してもOKです(例:FWの裏抜け回数、DFの背後対応)。
タイムスタンプの付け方と動画の使い方
- タイムスタンプは「時:分+場所+出来事」で簡潔に(例:23′ 右HS 裏抜け失敗)。
- 試合後24時間以内に、重要シーンだけ3〜5本を見返す。
- 動画を見て「事実」を修正、主観メモの精度を上げる。
主観メモを「事実→解釈→次の行動」に整理する
メモは流し書きでも構いませんが、必ず最後に「次の行動」を1行で書いて締めます。例:「後半は足が止まった」→事実:走行強度低下、解釈:補食と配分ミス、行動:後半頭にジェル補給+前半のスプリント配分を見直す。
よくあるNGとリカバリー例
結果だけ評価する/原因を外に置く
NG:「点が取れなかった=ダメ」。リカバリー:プロセスを分解(走り出しのタイミング、味方の視線、相手の体の向き)。「自分にできる操作可能な要因」に戻すのが基本です。
書いて満足する/練習メニューに落ちない
NG:振り返りノートが増えるだけ。リカバリー:最後に「次の一手」を練習メニューに翻訳。例:裏抜けのタイミング→マーカー2本で角度走を10本、味方の視線合図でスタート。
情報過多で続かない/15分テンプレに戻す
NG:細かく書き込みすぎて1時間かかる。リカバリー:重要シーン3つ、各視点1件、KPI1〜2個までに制限。深掘りは月次レビューで。
振り返りを練習に接続する設計
次の1週間の練習課題を3つに絞る方法
- 課題の重複を除く(同じ根っこを1つにまとめる)。
- 影響度×可変性で優先度を決める(効果が大/自分で変えられる)。
- 1課題=1ドリルで表現できるレベルまで具体化する。
個人KPIとチームKPIの作り方
- 個人KPI:自分の選択や技術の質を測る(例:前向き受け回数、スプリント再加速)。
- チームKPI:連動やモデルの実現度を測る(例:高い位置での奪回、左右への展開速度)。
- どちらも「試合で数えられる」「練習で再現できる」ものに限定。
試合日前日のチェックリスト(前回の振り返りの再確認)
- 次の一手3つを音読。
- 個人KPIをスマホのメモに再掲。
- 合図語(チーム内コール)を再確認。
- 補食/水分/装備の準備。
親・指導者と連携するコミュニケーション
保護者ができる質問5つ(責めない・引き出す)
- 一番うまくいった場面はどこ?なぜだと思う?
- 次に同じ場面が来たら、何を一つ変える?
- 今日のキーポイントの合図は機能した?
- 試合中に見えた相手の傾向は?
- 来週の練習で試すことは何?
コーチに伝えるべき事実と要望の書き分け
- 事実:タイムスタンプ付きのプレー内容(主観を混ぜない)。
- 要望:改善したい意図と、練習で試したい案を1行で。
- 避けたいこと:感情だけの評価、他者批判。
チームで共有する際の注意点(守秘とリスペクト)
共有は「学びの交換」が目的です。名前を出さない形で事実を共有し、特定の選手の失敗を責めない。相手チームの情報は取り扱いに配慮し、試合後の公開範囲をチームで決めておきましょう。
年間を通じた運用:蓄積が武器になる
月次レビューと成長曲線の見える化
- 月初に先月のKPI推移を1枚にまとめる(上がった/停滞/下がった)。
- 成長に効いた練習ベスト3と、効かなかったものワースト1を記録。
- 来月のフォーカスKPIを1つに絞る(他は維持)。
オフシーズンにやる総括テンプレ
- ベストゲーム3本の共通点。
- 課題が露出したゲーム3本の共通点。
- 来季の役割に合わせた「やめること/続けること/始めること」。
モチベーションが落ちた時の再起動手順
- 成功体験クリップを3本観る(自信の再起動)。
- KPIを1つだけに減らす(負荷を下げる)。
- 練習の最初に「できるメニュー」を入れて流れを作る。
付録:コピペ用「3視点×5質問」チェックリスト
そのまま使える質問20選(予備も含む)
- 個人/事実:一番影響の大きかった自分のプレーは何分、どこで起きた?
- 個人/意図:その選択の狙いは?他の選択肢は何だった?
- 個人/要因:技術・判断・体力のどれが決め手?
- 個人/次:同じ状況で何を一つ変える?
- 個人/KPI:次の試合で数える指標は?
- チーム/事実:自陣/相手陣での狙いは実行できた?根拠は?
- チーム/意図:プレッシングの合図は統一されていた?
- チーム/要因:距離・角度・役割のどこにズレ?
- チーム/次:共有すべき合図や基準は?
- チーム/KPI:前進/奪回/決定機の数は?
- 相手/事実:相手の得意形は何回出た?
- 相手/意図:それをどう消す/使う狙いだった?
- 相手/要因:個々とチームの強み/弱みは?
- 相手/次:次に当たったら何を最初に試す?
- 相手/KPI:出させない/引き出す形の回数目標は?
- 予備:自分のメンタルと集中は何で揺れた?
- 予備:補食・水分・睡眠は十分だった?
- 予備:審判/環境の影響をどう中和できる?
- 予備:次週の練習で検証できるドリルは?
- 予備:今日の学びを一言で言うと?
スマホ記入のショートカット例文
- tt: [分][場所][出来事] 例)23 右HS 裏抜け失敗
- it: 狙い=( )代替=( )
- yn: 決め手=技/判/体/位/認
- nx: 次は(行動1個)
- kpi: 次戦( )回/( )%
チーム全体ミーティング用のアジェンダ雛形
- 1)前提共有(相手の傾向/自分たちの狙い)3分
- 2)重要シーン3本(事実→意図→要因)10分
- 3)次の一手(合図/基準/役割)7分
- 4)KPI確認(個人/チーム)5分
- 5)担当と期限を決める 3分
まとめ:振り返りは「短く・深く・続ける」
試合の振り返りは、時間をかけるよりも「型」を守って続けることが力になります。3視点×5質問で事実と意図をつなぎ、次の一手とKPIまで落とし込む。主観と客観を橋渡しするために最小限のデータを数え、練習に翻訳し、チームや家族と共有する。あとは、毎試合15分のルーティン化です。テンプレを自分用に少しずつ磨き、蓄積を武器にしていきましょう。今日の一本が、次の一歩を作ります。