目次
DOGSO 意味 わかりやすく:一発退場の境界線
はじめに:一発退場の「線」を言語化する
試合の流れを一変させる一発退場。その代表例がDOGSO(決定的得点機会の阻止)です。「最後のDFだから赤」「ボールに触れたからセーフ」といった誤解が広がりやすいテーマでもあります。本記事では、競技規則に基づく客観的な判断材料と、現場での実用的な見極め方を合わせて、DOGSOの境界線をできるだけわかりやすく整理します。守備側はリスク管理の指針に、攻撃側は権利を守る知識として活用してください。
DOGSOの意味とは?一発退場をわかりやすく
DOGSOの正式名称と競技規則上の位置づけ
DOGSOは「Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity」の略で、日本語では「明白な得点機会の阻止」と訳されます。競技規則(IFAB『Laws of the Game』)では、相手の明白な得点機会を反則で止めた場合は退場(直接の退場、いわゆる赤)が示されると定められています。対象となる反則はトリッピング、チャージ、タックル、ホールディング、プッシング、ハンド(特に手や腕でのブロック)など。暴力的行為や著しく不正なプレーなど他の退場理由とは別に、DOGSOは「機会を奪ったこと」自体が退場の根拠になるのが特徴です。
「明白な得点機会」を判断する4要素
審判は個々のシーンを総合的に評価しますが、核となるのは次の4要素(通称4D)です。
- 距離:ゴールまで、ボールまでの近さ。シュート可能距離か。
- 方向:プレーやボール運びがゴール方向に向かっているか。
- 守備者:GKを含め、他に守備者が介入できる位置にいるか。
- コントロール:ボールを保持・獲得できる現実性があるか。
これらはチェックリストではなく「総合評価」です。4つが強く揃うほど「明白」になり、DOGSOの可能性が高まります。
SPA(有望な攻撃の阻止)との違い
SPAは「有望な攻撃の阻止」で、通常は警告(イエロー)が示されます。DOGSOとの違いは「機会の質」。SPAはまだ「得点の可能性が高い段階」ですが、DOGSOは「このままならほぼ決定的」というラインを超えています。同じホールディングでも、残る守備者が多く角度も悪ければSPA、全ての条件が揃えばDOGSOです。
一発退場の境界線を決める4つの要素
距離:ゴール・ボール・プレー可能性までの近さ
シュートレンジに入っているか、トラップ1~2回でシュートに至れるかは重要な判断材料です。同時に「ボールまでの距離」も評価対象。足元や半歩先ならコントロール可能性は高く、5メートル以上離れていれば不確実性が増します。
方向:プレーがゴールへ向かっているか
真っ直ぐゴールへ向かうほどDOGSOに近づきます。横や後方へのタッチであっても、次の一歩でゴール方向へ運べる構図なら「方向性あり」と評価され得ます。規則に角度の閾値はありません。
守備者:残っている守備者の数と位置
GKの位置、カバーに入れるDFの距離・角度・スピードを現実的に評価します。単に人数ではなく「介入可能性」がポイント。3メートル横にいるDFより、10メートル後方でもライン上にいるDFのほうが効果的にゴールを守れることもあります。
コントロール:ボール保持・獲得の現実性
高速のロングボール、バウンド、風、芝の状況など環境要因も含め、アタッカーが「実際に」次のプレーを選べるかを見ます。胸や足元に収まりかけているのか、まだはじいて追いかける段階なのかで評価は変わります。
ペナルティエリア内のDOGSOと「二重罰」緩和
ボールをプレーしようとした場合の扱い(PK+警告)
ペナルティエリア内で、守備側選手が「ボールをプレーしようとした」結果のファウル(例:スライディングで遅れて接触、チャレンジの遅れによるトリップ)の場合は、PK+警告となる取り扱いが導入されています。これは「PK+退場+出場停止」の過度な影響を緩和する趣旨です。
ホールディング・プッシング・ハンドの扱い(退場のまま)
一方で、ホールディング(つかむ・引っ張る)、プッシング(押す)、ハンド(手や腕でのブロック)など「ボールをプレーしようとした」とは言えない反則で明白な得点機会を止めた場合は、ペナルティエリア内でも退場が維持されます。ゴールに向かうシュートを手で止める、後ろからユニフォームをつかみ続ける、といった場面が典型です。
GKのケースでの注意点
- GKの正当なボールへのチャレンジでのファウル(例:遅れて接触)は、PK+警告の対象。
- GKのハンドは自陣PA内では反則ではありません(ただしバックパスなど特定の違反は間接FKでDOGSOの対象外)。
- GKがPA外でハンドして決定機を止めた場合はDOGSOで退場となり得ます。
判定を分ける具体例
GKのPA外ハンドでのDOGSO
ロングボールに抜け出したFWと競争。PAの外に出たGKが、胸トラップ寸前のボールを手で触れて止めた場合。距離はゴールに近く、方向はゴールへ、他の守備者は届かず、FWはコントロール可能性が高い。総合するとDOGSOのハンドで退場の可能性が高い事例です。
背後からのホールディングで抜け出しを止める
センターライン付近でスルーパスに反応したFWのユニフォームを、最後尾のDFが数歩にわたり引き続けた場面。方向性とスペースが整い、他の守備者が介入できないならDOGSO。ホールディングはPA内でも退場扱いが維持される点に注意。
スライディングでボールに触れずに転倒させる
PA内でのスライディングが遅れ、ボールに触れず足に接触して転倒させた。ボールをプレーしようとしたチャレンジなら、PK+警告が基本(DOGSO緩和)。ただし、チャレンジの形が危険で無謀(無謀・過度の力)の場合は、別の退場理由(著しく不正なプレー等)が成立し得ます。
オフサイドが絡むケース(DOGSOが成立しない例)
スルーパスに反応した選手がオフサイドポジションからプレーに関与しようとしている場面で、守備側がファウル。すでに攻撃側のオフサイド反則が成立(関与)しているなら、明白な得点機会自体が競技規則上は成立しません。どちらの違反が先に起きたか(関与のタイミングとファウルの発生順)を判断し、先に起きたほうを適用します。オフサイドが先ならDOGSOは適用されません。
VARと審判チームの視点
VAR介入の条件と「明白で重大な見逃し」
VARは、得点、PK、直接退場(DOGSOを含む)、人違いの4類型に限定して介入します。基準は「明白で重大な誤り、または重大な見逃し」。グレーな判定を白黒反転させる場ではありません。映像で明確に条件を満たしていないと判断できる場合にのみ推奨が入ります。
主審・副審・第4の役割分担
- 主審:4要素の総合評価、反則の性質(ボールプレーの試みか否か)、アドバンテージの適用有無を決定。
- 副審:オフサイドや守備者の位置関係、ホールディングの継続性などを視野角から補完。
- 第4:選手管理、チームベンチの対応、情報整理で判定をサポート。
- VAR:映像での事実確認(接触点、守備者の位置、ボールのコントロール可能性)を提示。
リプレイがあってもグレーが残る理由
「コントロールの現実性」「介入可能性」「方向性」には客観映像だけでは割り切れない要素が残ります。だからこそ、競技規則は4要素の総合評価を求め、明白でない場合は従来判定を尊重する運用がとられます。
グレーゾーンの見極め方
スピードとボールコントロールの評価
フルスプリント時はタッチが伸びがちで、次触の確度が下がります。逆に、足元に収めて姿勢が整っていれば得点可能性は跳ね上がる。映像ではボールの移動距離、タッチの質、次のステップの自由度を手がかりに評価します。
角度の「閾値」は規則にない
「ゴールから○度以内ならDOGSO」といった数値基準は規則にありません。角度が厳しくても、GKとの1対1が成立し、他の守備者が介入できないならDOGSOたり得ます。角度だけで白黒を決めるのは危険です。
アドバンテージ適用時のカード運用
- SPA:有望な攻撃を止める反則にアドバンテージを適用し、攻撃が継続・得点に至った場合、通常は警告不要(反則の質により警告の可能性はあり)。
- DOGSO:アドバンテージの結果ゴールが決まった場合、退場ではなく警告が示されます(得点機会は最終的に否定されなかったため)。
いずれも「反則の種類(無謀、過度の力など)」が重い場合は、別の理由での警告・退場が成立し得る点は押さえておきましょう。
守備者がとるべき安全策
遅らせる・コースを切る・体を入れる
- 遅らせる:真正面から無理に奪いにいかず、シュートや前進のタイミングを遅らせる。
- コースを切る:ゴールへ向かう最短ルート上に身体を置き、角度を悪化させる。
- 体を入れる:肩と胸でボールと相手の間に位置取り、接触は腕を使わずクリーンに。
「腕で止めない」「引っ張らない」を徹底する
ホールディング、プッシングはDOGSOのときPA内でも退場になる類型。腕で相手を止める癖は最終局面で高リスクです。「並走→身体を寄せる→ボールに寄せる」の順で、腕に頼らない守備を習慣化しましょう。
最後の局面でのスライディングの判断基準
- ボールに確実に触れる見込みがあるか(触れないなら出ない)。
- 背後からは基本NG。並走のアングルから刈り取るなら可。
- GKの位置・味方のカバーを即座に計算。遅らせる選択肢を第一に。
ポジション別のリスク管理
GK:飛び出し・手の使い方・1対1の間合い
- PA外の飛び出しで手を使わない判断を徹底。胸・足でのブロックを優先。
- 1対1は「待って角度を消す」が基本。滑るなら正面でボールに向かう軌道を確保。
- PA内でのチャレンジは、ボールプレーの意図を明確に。腕での抱え込みや押しは厳禁。
DF:カバーリングとラインコントロール
- 最終ラインの間隔とカバー角度を共有。縦スルーへの「誰が下がるか」を明確に。
- 数的不利時は「遅らせ役」と「絞り役」を瞬時に決めるコーチングを。
- ボールロスト後3秒の即時カバーで、DOGSOに至る前段を摘む。
MF/FW:即時奪回のファウルリスク
背後からの小さな引っ張りでも、状況次第でDOGSOへ発展します。カウンターストップは「寄せて遅らせる」を第一に。戦術的ファウルはSPAの範囲に留め、腕の使用・抱え込みを避けること。
指導とトレーニングへの落とし込み
小中高年代での伝え方と言語化
- 4要素を短い言葉で共通化:「距離・方向・人数・ボール」。
- 「腕NG・背後NG・無理スラNG」を合言葉に。
- 動画教材で同一シーンを見比べ、なぜDOGSOか、なぜSPAかを言葉にする。
シナリオドリル:DOGSOにならない守備
- 1対1遅らせドリル:ゴールまで15m、DFは内側を締めて角度を悪化させる。
- 並走カバーリング:2対2で片方が遅らせ、もう片方が射線に入る反復。
- GKのブロッキング:PA内での「待つ→広げる→ボールに正対」を段階練習。
チーム戦術でDOGSOを避ける
- トランジション設計:失った瞬間の役割(遅らせ・遮断・回収)を明確に。
- 背後管理:最終ラインの高さと圧力の連動で、単独突破の状況自体を減らす。
- ファウルゾーン設定:危険地帯では腕・抱え込みをしない共通ルールを徹底。
よくある誤解と正しい理解
「最後のDF=自動退場」ではない
最後尾かどうかは一要素に過ぎません。GKや他DFの介入可能性、角度、ボールコントロールを総合評価します。人数だけで赤が決まるわけではありません。
「ボールに触れればOK」ではない
ボールに触れても、その後の接触で相手の明白な機会を奪えば反則です。無謀または過度の力のタックルなら、別の退場事由(著しく不正なプレー)になる場合もあります。
「PA内は必ず退場」ではない
PA内でボールをプレーしようとした結果のファウルは、PK+警告の運用が原則です。ただしホールディング・プッシング・ハンドは退場の対象が維持されます。
最新ルールを追うための情報源
IFAB競技規則の確認ポイント
- 毎年更新される『Laws of the Game』のLaw 12(ファウルと不正行為)を確認。
- DOGSOの記述、PA内の緩和規定、ハンドの定義変更を中心にチェック。
- 「解釈とガイドライン(Practical Guidelines)」も合わせて読むと理解が深まります。
国内大会の規程と運用差のチェック方法
- 主催団体(協会・リーグ)の通達や審判委員会資料で運用を確認。
- ユースや地域大会では審判員配置やVAR有無が異なるため、現実的な対応(選手への指導ポイント)を調整。
まとめ:DOGSOを理解して賢く守る
DOGSOは「明白な得点機会を反則で奪ったか」を、距離・方向・守備者・コントロールの4要素で総合的に判断します。PA内での緩和は「ボールをプレーしようとした」反則に限られ、ホールディング・プッシング・ハンドは退場のまま。VARは明白な誤りの是正に限定され、グレーは現場の総合評価が尊重されます。
守備の現場解はシンプルです。腕に頼らない、背後から行かない、無理なスライディングをしない。まずは遅らせて角度を悪化させ、味方のカバーを待つこと。チームとしては、トランジションの約束事とライン管理で「決定機の手前」で止める仕組みをつくることが、最も確実なDOGSO回避策です。
ルールの理解は武器です。知っているだけで選択が変わり、カード1枚・勝点1の差に直結します。今日から練習の声がけとドリルに落とし込み、賢く、クリーンに、そして強い守備を身につけていきましょう。