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ビルドアップ練習メニュー、初心者が失わない基礎5選

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ビルドアップ練習メニュー、初心者が失わない基礎5選。この記事では、ボールを「失わない」ための原理と、明日からグラウンドでそのまま使える練習メニューを具体的にまとめました。パスの本数を増やすより、質を上げる。難しい戦術語は最小限に、実践で差がつくポイントだけに絞って解説します。

はじめに:ビルドアップの目的と「失わない」基礎の定義

ビルドアップとは何か:自陣から前進しチャンスを創る方法

ビルドアップは、自陣でボールをつなぎながら前進し、相手の守備を動かしてスペースを作り、攻撃の土台を築くプロセスです。狙いは「前進」と「ボール保持の安定」。無理に縦へ急ぐのではなく、相手のズレを生み、タイミングよくライン間やサイドのスペースへ侵入します。

初心者がまず身につけるべき“失わない”基礎の考え方

  • ボールを見る前に周りを見る(先に情報、後にボール)
  • 受ける角度と距離を整える(三角形・菱形で味方を助ける)
  • ファーストタッチで次の選択肢を増やす(半身・オープン)
  • テンポを自分でコントロール(速くも遅くもできる)
  • リスクの置き所を決める(中央は慎重、外で数的優位)

練習効果を最大化するための環境づくり(スペース・人数・ルール)

  • スペース:狭すぎず広すぎず。ロンドなら1人当たり8〜12㎡を目安。
  • 人数:2〜3人の基礎→4〜6人の連携→8人以上でゲーム形式へ段階化。
  • ルール:タッチ数制限、方向性のあるゴール、制限時間の導入で意図を明確に。

失わないための原則:視野・角度・距離・テンポ・リスク管理

視野確保とスキャン(見る→選ぶ→実行のサイクル)

受ける前に2回、受けた後に1回のスキャンを基準に。見る→選ぶ→実行を一定のリズムで回すと、慌てずにプレーできます。目線はボールと相手・味方を行き来させ、首振りを習慣化します。

サポートの角度と距離(三角形・菱形の形成)

縦一直線ではなく、斜めに位置取りしてパスコースを2本以上作るのが基本。距離は8〜12mが目安。遠すぎると精度が落ち、近すぎるとプレスの餌食になりがちです。

ファーストタッチの方向づけ(オープンボディ)

体を半身にして、ピッチの内と外の両方を見られる向きで受けること。ファーストタッチで前へ運ぶ準備をし、相手の足の届かない方向へボールを置きます。

テンポとタッチ数のコントロール

速くさばく場面と、あえて持って相手を引きつける場面を使い分けます。タッチ制限は手段であり目的ではありません。目的はテンポを自分で選べることです。

リスク管理:中央とサイドの優先順位、上下の使い分け

中央のロストはカウンター直結なので慎重に。外側で相手を集め、逆サイドや背後を使っていきます。前進できない時は、一度下げてやり直す勇気も「失わない」技術の一部です。

ビルドアップ練習メニュー:初心者が失わない基礎5選

基礎1:2人1組「オープンボディ&方向づけファーストタッチ」

  • 準備:10〜12mの距離で向かい合い。マーカー2つで受ける角度を指定。
  • ルール:パサーは左右に振りながらパス。レシーバーは半身で受け、ファーストタッチで前へ運ぶ方向へ置く。2タッチで返す。
  • ねらい:半身での受け方、触れる面(イン・アウト)の使い分け、次の選択肢の準備。
  • 発展:パス前コール「右/左」、弱い足のみ、グラウンダー→浮き球ミックス。
  • 時間:1セット90秒×3、足と向きの入れ替え。

基礎2:3人三角形パス「サポート角度・距離・第三の動き」

  • 準備:辺8〜10mの三角形。A-B-Cで配置。
  • ルール:A→B(縦)→Bはワンタッチ落とし→Aが前進パスでCへ。パス後は空いた頂点へ素早く移動。第三の動きで受け手を作る。
  • ねらい:サポート角度、距離の最適化、縦→落とし→前進の連鎖。
  • 発展:受け手は背中を取る動き→角度をずらして受ける、片側2タッチ制限。
  • 時間:2分×3周(回転方向を入れ替える)。

基礎3:4対1/4対2ロンド「失わない判断とワンタッチの質」

  • 準備:12×12mグリッド。ボール保持4、守備1または2。
  • ルール:外周フリーマンなしの基本ロンド。3本連続成功で1点。タッチは自由→2タッチ→1タッチと段階化。
  • ねらい:首振りで予備情報を取り、最短で空いている足へ展開。ボールスピードと受け手の準備を揃える。
  • 発展:守備2人、インターセプト=攻守交代。縦スプリットパスは2点。
  • 時間:90秒ゲーム×4本(間30秒)。

基礎4:GK-CB-ボランチのライン連携「出口を作るビルドパターン」

  • 準備:ペナ幅相当のゾーン(横40〜45m、縦25m)。GK1、CB2、ボランチ1〜2、サイドバックorウイング1〜2(マネキンでも可)。
  • ルール:GK→CB→ボランチ→外→前進の型を左右で反復。相手役1〜2人を配置しコース限定のプレッシャーをかける。
  • ねらい:GKの立ち位置調整、CBの持ち出し、アンカーの背前/背後の受け分け、出口(サイドorライン間)の明確化。
  • 発展:相手のプレス方向を指定(内切り/外切り)して逆解き。2タッチ制限でテンポUP。
  • 時間:3分×3本(左右対称)+プレッシャー強化2本。

基礎5:方向転換とサイドチェンジ「スイッチゲームで前進率を上げる」

  • 準備:20×30m、縦長グリッド。中央に制限ライン。チーム4〜6人vs同数、フリーマン1人可。
  • ルール:一方のサイドゾーンで5本つないだら、逆サイドへサイドチェンジで1点。中央ラインはドリブル通過不可の制約で、パスの質を高める。
  • ねらい:相手を片側に寄せてから逆を突く判断、方向転換の技術、ロングパスの精度。
  • 発展:サイドチェンジはグラウンダー限定、1タッチでのスイッチに加点。
  • 時間:3〜4分ゲーム×3本。

各メニューのコーチングポイントと成功指標(KPI)

基礎1のポイント:身体の向き・触れる面・次の選択肢の準備

  • 半身で受け、遠い足でコントロール。
  • インサイド/アウトサイドを使い分け、相手の届かない位置へ置く。
  • KPI:1分あたりの良質ファーストタッチ回数(前向きに運べた数)。

基礎2のポイント:背中を取る動き・縦パス→落とし→前進の連鎖

  • 縦受けは相手の視野外から角度をずらす。
  • 落としはパススピードに合わせて足の面を作り、次の人の前へ。
  • KPI:連続3本の前進成功回数、落としのミス率。

基礎3のポイント:タッチ制限・奪われた原因の言語化

  • 奪われたら「視野不足」「体の向き」「パス精度」のどれかに分類して即修正。
  • 守備が寄った方向と逆へ最短ワンタッチ。
  • KPI:10分あたりの被ターンオーバー数、1タッチ成功率、平均パススピード(主観評価A/B/Cでも可)。

基礎4のポイント:GKの立ち位置・CBの持ち出し・アンカーの背後/背前

  • GKはボールと相手の位置で縦横に微調整(角度と距離を作る)。
  • CBは運べる時は迷わず持ち出し、相手の中盤を引き出す。
  • アンカーは背前(相手より前)で受けられない時は背後へズレる。
  • KPI:前進の出口(外/中)を作れた回数、プレス回避成功率。

基礎5のポイント:プレスを引きつける→逆サイドへ時間を作る

  • 片側であえてテンポを遅らせて相手を寄せる→逆は速く。
  • ロングの前はスキャン2回、受け手は逆足でオープン。
  • KPI:サイドチェンジ後の初手前向きプレー率、前進成功率。

共通KPI:10分あたりの被ターンオーバー数・前進成功率・スキャン頻度・パススピード

  • 被ターンオーバー数:-1/10分を目標に段階的に減らす。
  • 前進成功率:3回の試行で2回以上を目安(状況により調整)。
  • スキャン頻度:受ける前2回+受けた後1回の実施率。
  • パススピード:味方が止まらず受けられる速度を基準に、主観A/B/Cで評価。

よくあるミスと修正法(初心者が陥りやすいポイント)

体の向きが閉じる/背中で受ける→オープンの作り方

  • 受ける前に1歩外へずれて、斜めの角度を作る。
  • 遠い足で触り、ボールを体から半歩分離す。

サポートが遅い・重なる→角度とタイミングの基準

  • 味方がボールに触る瞬間に動き出す(ボールの移動中に到着)。
  • 縦に被らず、斜め45度の関係を優先。

距離が近すぎる・遠すぎる→最適距離の目安と声かけ

  • 8〜12mを基準。近いなら「広がる」、遠いなら「寄る」と短くコール。

視野が狭い・見てから止まる→スキャンのタイミング練習

  • ボールが味方の足元にある時に首を振る(移動中とトラップ直前)。
  • 「見る→止まる」ではなく、「見る→動く」の順番に。

縦パス一辺倒/リスク過多→中央・外側の優先順位整理

  • 中央は確実にライン間へ通せる時だけ。迷ったら外→逆サイドへ。

GKの静止ポジション→ボールと相手に連動した微調整

  • ボールが動くたびに30〜50cm単位で前後・左右へ調整して角度を作る。

人数・スペース・レベル別の調整方法(スケーリング)

1〜2人・小スペースでの代替ドリル

  • 壁当て+首振り:壁から7〜9m、左右にマーカー。パス→スキャン→方向づけ。
  • 1人シャドープレイ:マーカー3つで三角形、ボールを運びながら角度変更。

4〜6人での簡易ビルドアップ練習

  • 4対1ロンド+出口:4本つないだら指定コーンへ前進パスで1点。
  • GK役1+CB役2+MF役1のパターン反復。

8〜12人での半面ビルドアップゲーム

  • ハーフコート、方向付き。自陣10本保持orミドル3人目で前進に加点。
  • 相手は外切り/内切りをコーチが宣言し、解き方を学ぶ。

初心者→中級者→上級者へのステップアップ条件

  • 初心者:2タッチ基準でパス成功率70%を安定。
  • 中級者:1タッチ混在でも被ロストを10分あたり2以下。
  • 上級者:プレス方向を読み、逆解きの選択を自発的に実行。

小中高・成人での負荷と制約の調整

  • 小学生:距離短め(5〜8m)、時間短め、タッチ制限ゆるめ。
  • 中高生:8〜12m、2タッチ制限、守備人数を増やして判断負荷。
  • 成人:ゲーム形式で制約(片側滞在時間、縦パス加点)を強める。

ポジション別の役割連動と声かけ例

GK:視野の共有・逆サイドの合図・ファーストタッチの方向

  • 合図:「リターンOK」「逆いる」「運べる」。短く一語で。
  • タッチは内に置けば縦、外に置けばサイドの示唆になる。

CB:持ち出しのトリガー・縦パスと横運びの判断基準

  • 相手の1stラインが横並びの時は運ぶ、縦が空いたら即差す。
  • 声:「背中取って」「預けて前向け」。

SB:幅と高さ・内側/外側レーンの使い分け

  • 相手WGが外に張るなら内側レーン、内に絞るなら外で幅確保。

ボランチ:背前/背後のポジショニング・半身で受けるコツ

  • 相手の影に隠れない。ラインを跨いで視界から出入りする。
  • 受ける足は遠い足、肩越しに背後確認を習慣化。

攻撃的MF/CF:ピン留めと落とし・第三の動きで前進を助ける

  • CBをピン留めして中盤の時間を作る。落としは味方の前へ。
  • 三人目の動きで受ける位置に先回り。

チーム内の共通ワードとコール例

  • 「逆」「運べる」「寄る/広がる」「背中」「スイッチ」「時間」

戦術理解を深めるミニ理論

ピッチの5レーンと3ゾーンの使い方

縦に5本(サイド・ハーフスペース・中央)を意識し、同レーンに重複しない配置でパス角度を増やします。自陣・中盤・敵陣の3ゾーンでは、進入ごとにリスク許容量を少しずつ上げます。

第三の動きと三人目での前進

パスコースを作るのは出し手と受け手だけではありません。三人目が先に動くことで、最短距離の前進が生まれます。「縦→落とし→前進」はその代表例です。

幅(ワイド)と内側(ハーフスペース)の優先順位

まず幅で相手を広げ、内側で前進。内側が塞がれば再び幅へ。揺さぶりの順序をチームで共有しましょう。

相手プレスの傾向を読むチェックポイント

  • 外切りか内切りか(相手の立ち位置と体の向き)。
  • 2人目が前向きか背中向きか(連動の強さ)。
  • 奪いどころの合図(掛け声・ラインの押し上げ)。

セッション設計:60分・90分の練習メニュー例

60分プラン:ウォームアップ→基礎→ロンド→ゲーム

  • 10分:動的ストレッチ+壁当てスキャン
  • 12分:基礎1(半身&ファーストタッチ)
  • 15分:基礎3(4対1/4対2ロンド)
  • 18分:スイッチゲーム(基礎5の要素)
  • 5分:整理体操と振り返り

90分プラン:個人基礎→連携→制約付きゲーム→仕上げ

  • 10分:コーディネーション+片足バランス
  • 15分:基礎1+基礎2(三角形で第三の動き)
  • 20分:基礎4(GK-CB-ボランチ連携)
  • 25分:制約付きゲーム(外で5本→逆サイド1点)
  • 10分:ゲームフリー(KPI意識)
  • 10分:クールダウン+口頭で原因分類

ウォームアップとクールダウンの要点

  • アップ:心拍を上げる→関節可動→ボールタッチ→スキャン習慣の順。
  • クールダウン:呼吸を整え、股関節・ふくらはぎ・足首を中心にストレッチ。

家でもできる補強ドリルとフィジカル要素

壁当て+スキャンの習慣化

  • 10分でOK。壁にパス→首を振って左右どちらかのマーカーへファーストタッチ。

コーディネーション(ラダー代替)とアジリティ

  • テープやタイルで簡易ラダーを作り、前後/左右/斜めのリズムを入れ替える。

片足バランス・股関節可動域・足首の柔軟性

  • 片足立ち30秒×左右×2、股関節回し20回、足首の背屈ストレッチ各30秒。

計測と振り返り:データで上達を見える化

ターンオーバーの原因分類(技術・判断・サポート)

  • 技術(トラップ/パスミス)、判断(無理な縦/遅れ)、サポート(角度/距離不足)でチェック。

スキャン頻度・タイミングのチェック方法

  • 練習中、相棒が数えるだけでも効果大。「受ける前2回・受けた後1回」の達成率。

パスの方向・速度・本数の簡易記録

  • 縦・横・斜めの比率をメモ。速度は主観A/B/Cで統一して比較。

動画のセルフレビュー手順とチェックリスト

  • 1. 受ける前に首を振っているか 2. 半身か 3. 最短で逆へ展開できたか。

安全配慮とフェアプレーの基本

接触・怪我予防(体の向きと減速)

  • 受ける前の減速と、相手の進路を見た体の向きで接触を減らす。

暑熱・寒冷時の留意点

  • こまめな水分・塩分、重ね着と着脱、無理をしない休息サインの共有。

声かけとリスペクトのルール作り

  • 短く前向きなコールを徹底。ミスに対して責めない文化が上達を早めます。

よくある質問(FAQ)

ロンドは試合のビルドアップに直結する?

直結します。視野、角度、テンポ、相手の誘い方など、試合の縮図です。方向性や出口を設定すると、より試合に近づきます。

足元に自信がない選手の始め方は?

2人基礎と壁当てから。遠い足で受けることと、ファーストタッチの置き所だけにテーマを絞ると、ロストが一気に減ります。

小学生には難しい?年齢別の工夫は?

距離短め、時間短め、成功体験を増やす配点で工夫しましょう。例えば3本成功で大きく加点し、楽しさと集中を保ちます。

人数が足りないときの代替案は?

2人基礎+壁当て+ミニロンド(3対1)で十分に効果が出ます。相手役はコーンやマネキンで代用可能です。

まとめ:明日から使える“失わない”チェックリスト

練習前・練習中・練習後の自己点検ポイント

  • 前:遠い足で受ける/半身で受けるを口に出して確認。
  • 中:受ける前2回、受けた後1回のスキャン実施。
  • 後:被ターンオーバーを原因分類(技術/判断/サポート)。次回のテーマを1つだけ決める。

試合での評価軸と次回の練習テーマ設定

  • 評価軸:前進成功率、逆サイド活用回数、中央のロスト数。
  • 次回テーマ例:「外で相手を寄せてからのスイッチ」「縦→落とし→前進の速度UP」。

おわりに

ビルドアップは特別な才能より、積み重ねた基礎で安定します。半身で受ける、首を振る、角度と距離を整える――この3つを外さなければ、ロストは確実に減り、前進は増えます。今日の練習から、まずは1つでいいのでKPIを決めて取り組んでみてください。継続が、あなたのチームの“失わない”力を底上げします。

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