「パス成功率 目安は何%?ポジション別の考え方」というテーマで、実戦と練習の両面から“使える数字”に落とし込む方法をまとめました。結論から言うと、理想の成功率はチームの目的や戦い方、ポジションの役割で変わります。数字を上げるだけなら簡単ですが、勝つための数字にするには設計が必要。この記事では、定義や測り方、ポジション別の目安、練習法、KPI設計までを一気通貫で解説します。
目次
はじめに:パス成功率を『目的』から考える
なぜパス成功率だけで上手さは測れないのか
パス成功率は便利な指標ですが、それ自体はゴールではありません。たとえば、自陣で横パスばかりを繋げば成功率は上がります。でも前進できないなら、得点には近づきません。逆に、相手の背後に刺す縦パスはリスクが高く成功率は下がりがちですが、刺さったときのリターンは大きい。つまり、数字の高さ=良い選手とは限らないのです。重要なのは「どの局面で、どの意図で、そのパスが選ばれたか」。
チームのゲームモデルとKPIの整合性
ボールを保持して押し込むのか、奪って速く攻めるのか、戦い方で目指す数字は変わります。ポゼッション重視なら中盤の成功率を高く保ち、ファイナルサードでは「キーパス数」や「ライン間到達回数」を追いたい。トランジション重視なら、縦パスの成功率は多少下がっても「前進速度」や「奪ってからの3本」を重視する、など。ゲームモデルとKPIが揃うほど、チームの成長スピードは上がります。
パス成功率とは何か:定義・計測・注意点
計測の基本:成功・失敗の判定基準
基本は「意図した味方にボールが渡ったら成功」。インターセプト、カット、出し手のミスでずれたら失敗。グラウンダー/フロート/ロング/クロスといった種類は補助タグとして扱うと分析が深まります。こぼれ球や50:50は曖昧になりやすいので、事前にチームで統一ルールを決めましょう。
データ取得の方法(スタッツサービス/自記録)
外部サービス(各種トラッキング・スタッツ)を使えば手間が省けますが、映像からの自記録でも十分改善できます。スマホやタブレットで試合を撮影し、後で「ゾーン(自陣/中盤/敵陣)」「方向(前進/横/後退)」「結果(成功/失敗)」を簡易タグ付けするだけでも、次戦に効く気づきが得られます。
落とし穴:安全なパスが高める数字の罠
自陣の横/後ろに限定すれば成功率は簡単に上がります。ですが、相手にとって怖くないパスは脅威を与えません。数字が上がっているのにチャンスが増えないと感じたら「前進パス比率」「ライン間到達回数」「ペナルティエリア侵入」を併せて確認しましょう。
局面別に分けて見る重要性(自陣・中盤・敵陣)
- 自陣:安全性が最優先。目安の成功率は高くてOK。
- 中盤:前進と保持のバランス。相手のプレス次第で変動大。
- 敵陣:リスク許容ゾーン。成功率は下がっても、チャンス創出が増えていればOK。
パス成功率の目安は何%?レベル別・局面別の考え方
年代・レベル別に見る現実的なレンジの考え方
あくまで目安ですが、11人制の試合での総合的な成功率は以下のレンジで考えると実態に近いことが多いです(相手強度や戦い方で上下します)。
- 高校〜地域リーグ:全体で約70〜85%
- 大学・社会人上位カテゴリー:全体で約78〜88%
- ポゼッション強めのチーム:全体で約82〜90%程度に乗ることも
局面別では、
- 自陣:85〜95%
- 中盤:75〜85%
- 敵陣:65〜80%
この差は「どこで、どれだけリスクを許容するか」によるもの。敵陣でのチャレンジが増えれば、総合成功率は自然に下がります。
前進パスと横・後ろのパスで目安は変わる
- 前進パス(縦・斜め):約55〜75%(難易度・距離で大きく変動)
- 横・後ろのパス:約85〜95%(プレス下では低下)
チームで「前進パス比率」を20〜35%程度に保ちつつ、成功率の下限を設定すると、攻守のバランスが取りやすくなります。
相手のプレス強度・天候・ピッチ状態の影響
- 強い前向きプレス:全体で3〜8%程度落ちることも
- 雨・強風・荒れた芝:ボールの走りが悪く、ロング・浮き球の成功率が特に低下
- ナイター/照明環境:視認性の差が長短に影響
レビュー時は試合条件も必ずメモ。数字の意味がブレません。
ポジション別の考え方:役割に応じた目安と解釈
ゴールキーパー(GK):配球とリスク管理
- 短い配球(CB・SBへ):90%前後をキープしたい
- 中〜長距離の配球:40〜65%(狙いどころの明確化が鍵)
- 評価補助:前進距離、プレス回避成功数、ハーフスペースへの配球回数
GKは「失ってはいけない場所」での安全性と「前向きに剥がす一手」の両立がポイント。自陣中央での無理な縦は避け、タッチライン側のロングを使い分けると安定します。
センターバック(CB):ビルドアップの安定性
- 総合成功率:85〜92%
- 縦パス(ライン間・レーン越え):55〜70%
- 評価補助:ライン間到達回数、相手1stライン突破回数、失い方(中央/外)
横と後退で底上げするのは簡単ですが、1試合に数本の質の高い縦差しがあるかで価値が変わります。
サイドバック/ウイングバック(SB/WB):縦パスとクロスのバランス
- 総合成功率:75〜85%
- 縦パス・内側差し:55〜70%
- クロス(味方へ到達基準):20〜35%
- 評価補助:対角展開成功、カットバック本数、裏抜けへのタイミングパス
「無理クロスの乱発」は数字も結果も悪化しがち。カットバック(グラウンダーの折り返し)を増やす設計が有効です。
守備的MF(アンカー/DMF):前進の起点と安全度
- 総合成功率:80〜90%
- 前進パス:60〜75%
- 評価補助:前進方向へのボールタッチ割合、前向きで受けた回数、奪われた位置
中央のロストは致命傷になりやすいので、受ける前のスキャンと体の向きでリスク管理。横→縦の二手で剥がす発想が安定します。
インサイドハーフ/CMF:ライン間での配球
- 総合成功率:75〜85%
- スルー気味の縦差し:50〜65%
- 評価補助:ライン間受け回数、前進距離、連続前進(2本連続で前方向)
プレッシャー下での一撃が求められるため、成功率は多少下がっても「前進の質」で評価しましょう。
攻撃的MF(AMF/トップ下):リスキーな創造性の許容範囲
- 総合成功率:65〜78%
- キーパス・スルーパス:35〜55%
- 評価補助:xA(アシスト期待値)、キーパス数、ペナルティエリア侵入に直結したパス
チャレンジを萎縮させると良さが消えます。チームとして許容値を明確に。
ウイング(WG):縦突破とカットイン時の選択
- 総合成功率:60〜75%
- クロス:20〜30%(カットバックは上振れしやすい)
- 評価補助:1対1後のパス選択、ボックス進入に繋がる折り返し
単純な放り込みより、ドリブルで引きつけてからのマイナスのパスが効果的です。
センターフォワード(CF/ST):落としとラストパスの質
- ポストプレーの落とし:70〜85%
- 決定機創出パス:35〜55%
- 評価補助:前進を助けたワンタッチ数、背後への落とし場所の質
背負いながらの正確な落としはチームの前進を安定させます。味方の向きを見た落とし先を徹底。
3バック/5バック運用時の配分と指標のズレ
3CBでは外CBの前進負担が増え、外CBの成功率が下がる代わりに「運ぶドリブル」「対角展開」の価値が上がります。WBはクロス本数より「ペナルティエリア内でのパス回数」で評価すると、意思決定が改善しやすくなります。
プレースタイル別の基準:ポゼッションか、トランジションか
ポゼッション志向:高成功率とボール循環
自陣〜中盤で85%以上、敵陣でも70%前後を目安に。補助指標は「ファイナルサード進入」「ライン間到達」「スイッチ回数」。リスクは敵陣で取る設計に。
ダイレクト志向:低い成功率でも価値が出る条件
ロングや縦早めで全体の成功率は下がりがち。それでも「セカンド回収率」「相手陣内でのターンオーバー位置」「奪ってからの3本以内のシュート試行」など結果に直結するKPIで評価すれば、戦い方に合った数字になります。
ロングボール・プレス回避の例外設計
相手の前線プレスが強いときは、あえてロングで回避する局面を設計。成功率の評価は厳しくせず、落下点の優位性や回収率を重視します。
シチュエーション別に見る:どのパスが数字を押し下げるか
縦パス・スルーパス・ラインブレイク
最もリターンが大きい一方で、成功率は低下しやすい。相手の背後スペースがあるか、味方の準備(ランと角度)があるかで選択を。
スイッチ・対角・サイドチェンジ
中長距離での精度と受け手の体の向きが鍵。逆サイドのフリーを早く見つけるスキャン習慣が成功率を底上げします。
クロスとカットバック
高いボールのクロスは阻止・競り合いの影響が大きく成功率は低め。終盤のパワープレー以外は、グラウンダーのカットバックを増やすと効率が上がります。
リターン・安全なバックパス
成功率は高いですが、増やしすぎると前進が止まります。「リターン→縦」の二手目を決めておくと、循環が前向きになります。
パスの『質』を足し算する:成功率以外のKPI
ライン間到達回数/前進距離/ファイナルサード進入
数値は単純で現場に落とし込みやすい三種の神器。成功率と組み合わせて「どれだけ相手を動かせたか」を把握します。
キーパス・アシスト期待値(xA)・xThreatの活用
キーパスやxAはチャンス創出を可視化。xThreat(領域の脅威増加)も参考になりますが、モデル差があるため「相対比較」で使うのが無難です。
プログレッシブパスとターンオーバー位置の関係
前進値の大きいパスは価値が高い反面、奪われた位置が悪いと失点リスクに直結。前進量とロスト位置はセットで追いましょう。
練習で上げる:技術・認知・判断の分解
ファーストタッチと身体の向き
受ける前の半身、足裏とインサイドの使い分け、前に置く/角度をつける一歩で次の選択肢が激増します。止める技術がパス成功率の土台。
スキャンニング頻度とタイミング
受ける直前の2回(ボールが来る前の最後の1秒)を癖づけ。相手の影と味方の位置を同時に確認できる角度に移動するのがコツです。
サポート角度と三角形づくり
縦・斜め・横の三角形を常に確保。真横に止まらず、相手の足の届かないラインにずらすだけで成功率が自然に上がります。
片足固定を避ける重心操作とキックの再現性
軸足の向きと踏み込みの深さを一定化。膝下ではなく股関節から振る意識で、浮き球とグラウンダーの打ち分けを安定させます。
制限付きゲームでの負荷設計(タッチ制限・方向制約)
- 2タッチ制限+前進パスに加点:判断スピードと前向きの選択を促す
- 縦パス後は必ず3人目関与:連続性を強化
- 敵陣でのリスク許容ゲーム:失っても5秒で即回収にルール化
測定とモニタリング:自チームで回せる運用
タグ付けルールの決め方(前進・横・後退)
チームで以下を統一します。
- 前進=ボールがゴール方向へ少なくとも5m進む、または相手のラインを1枚越える
- 横=前進・後退に該当しないもの
- 後退=自陣側へ下げるもの
スプレッドシートでの簡易ログ例
- 列:時間/ゾーン(自・中・敵)/方向(前・横・後)/パス種別(短・中・長・クロス等)/成功or失敗/備考
- 派生:選手名を行にして、前進成功数・総本数・成功率を自動集計
週次レビュー:質と量のバランス確認
- 前進パス比率が落ちていないか
- 敵陣でのロストが増えすぎていないか
- 個人の強み(縦差し・対角展開・カットバック)が出ているか
よくある誤解と対策
高い成功率=良いプレーとは限らない
敵陣でのチャレンジが減ると成功率は上がりますが、得点期待値は下がることも。局面別・方向別で評価を。
1試合の数字で判断しない(サンプルサイズ)
相手のスタイルや天候でブレます。3〜5試合の移動平均で見ると安定します。
全員同じ目安にしない(役割差の尊重)
AMFやWGまでCBと同じ基準を当てるのは現実的ではありません。役割に応じたKPIを設計しましょう。
ケーススタディ:仮想チームのKPI設計
前提条件(リーグレベル・戦術)
県リーグ上位を目指すチーム。ポゼッション6:トランジション4のハイブリッド。自陣では安全に外し、敵陣で積極的に勝負する設計。
ポジション別KPIの割り当て例
- GK:短い配球成功90%以上/対角展開1本/試合以上/ロング回収率チームで45%以上
- CB:総合88%以上/1stライン突破パス4本/試合/中央ロスト0回
- SB:前進パス成功12本/試合(成功率60%以上)/カットバック2本/試合
- DMF:ライン間到達6回/試合/前進パス成功率65%以上
- CMF:連続前進(2本連続前向き)3回/試合/総合78%以上
- AMF:キーパス3本/試合/xA合計0.2以上/総合成功率は65%以上で可
- WG:ボックス内パス3本/試合/クロスは「到達」25%以上
- CF:落とし成功75%以上/PA内での受け5回/試合
6週間の改善サイクル
- Week1-2:測定と基準線づくり(タグ統一/動画レビュー)
- Week3-4:練習での制限ゲームを導入(2タッチ/カットバック加点)
- Week5:個別課題の強化(CBの縦差し、AMFの最終パスなど)
- Week6:指標の見直し(過剰な安全/過剰なリスクの是正)
シーズン目標の立て方と見直し
SMARTに落とす目標設計
「中盤の前進パス成功率を6試合平均で60%→68%へ」など、具体・測定可能・達成可能・関連性・期限の5条件で整理。
対戦相手別の可変目標
ハイプレス相手は成功率を厳しく追いすぎず「ロング回避成功」「セカンド回収率」を重点に。引いて守る相手には「ライン間到達」「PA侵入」を強化。
期中のチューニング方法
月次で「上げたいKPIを1つだけ」入れ替えると、現場が混乱しません。
試合当日の実践チェックリスト
キックオフ前の共通言語
- 自陣は安全、敵陣は積極(どこでリスクを取るか)
- 縦→リターン→3人目の約束事
- 逆サイドのフリーを5秒に1回スキャン
ハーフタイムの修正ポイント
- 前進パス比率/成功率の確認
- 失い方(中央でのロストが多い?)
- 相手のプレス方向に対する出口の設計(対角 or 裏)
試合後の即時レビュー項目
- 良い前進3本と、避けたいロスト3つを共有
- 次戦で強化する1つのKPIを決める
まとめ:数字を勝利に結びつけるために
指標の優先順位を明確にする
「パス成功率」は出発点。局面・方向・位置と掛け合わせ、チームのゲームモデルに沿ったKPIに分解すると、数字が意思決定を後押ししてくれます。
学習を継続するための小さな習慣
- 動画に最低でも3つタグを付ける(ゾーン/方向/結果)
- 週1回、個人で“ベスト3本”を切り出して共有
- 練習で1つだけ制限をかけ、翌週に効果を確認
「パス成功率 目安は何%?ポジション別の考え方」は、ただの正解探しではありません。あなたのチームにとっての“勝てる目安”を設計し、現場で回し続けること。数字は、意図と一緒に育てると武器になります。
