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ビルドアップの仕組みを図解感覚でつかむ

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「頭の中で図が見える」と、ビルドアップは一気に楽になります。この記事では、図や画像を使わずに、言葉だけで“図解感覚”を作ることに挑戦します。フィールドをどう分割して、どの順序で前進の糸口をほどくのか。数の有利、位置の有利、技術の有利をつなぎ直しながら、GK起点から最終ライン背後へ届くまでのルートを、練習ですぐ使える言葉と動きに落とし込みます。

リード:ビルドアップの仕組みを図解感覚でつかむ

「味方の立ち位置がいつも重なる」「出し先はあるのに前進できない」——それは配置や角度の小さなズレが原因です。図で線を引けないなら、頭の中に線を引きましょう。5レーン、三角形、半身。この3つを合言葉に進めます。

この記事の狙いと前提

ビルドアップとは何かを30秒で整理

ビルドアップは「後ろから前へ、意図を持って前進する一連のプロセス」です。目的は“前進”と“優位の創出”。単にパス本数を増やすことではなく、相手の守備ラインを一つずつ壊し、ゴールに近づく選択肢を増やす行為です。

なぜ「図解感覚」で理解すると上達が速いのか

試合中に図は見られません。代わりに、頭の中に「見取り図」を持っておくと、判断が0.5秒速くなります。誰がどのレーンにいて、次の三角はどこにできるか——空間の“当たり”を先に決めることで、技術が安定します。

前提となる用語(5レーン/ハーフスペース/レーン/ライン間)

  • 5レーン:ピッチを縦に5本の通路(左外・左内・中央・右内・右外)に分けて考える方法。
  • ハーフスペース:左右の「内」レーン。縦パスと斜めパスが両方効きやすい“攻めの通路”。
  • レーン:縦の通り道。原則、同じレーンに同時に立ちすぎない。
  • ライン間:相手の守備ライン(最前線−中盤−最終ライン)の「間」。受けると前を向きやすい。

ビルドアップの原理原則(3つの優位と2つの角度)

数的優位・位置的優位・質的優位の相互作用

  • 数的優位:単純な人数の多さ。例:CB2+GKで前線1枚のプレスに対抗。
  • 位置的優位:良い場所にいること。例:ライン間やハーフスペースで受ける。
  • 質的優位:個の勝負で上回ること。例:1対1で剥がせるWGやドリブラー。

前進は、この3つを“同時に”作るほど成功率が上がります。例えば、GKを絡めて数的優位を作り、ハーフスペースの位置的優位に差し込み、質の高い選手が前を向く——この重ね合わせが理想です。

サポート角度と身体の向き(半身・オープンの作り方)

  • 角度は「45°」を基準に。縦一直線は読まれやすい。
  • 半身=ボールと相手とゴールを“同時に”視野に入れる向き。腰と肩を開いて受ける。
  • オープンは「次の出口」に身体を向ける。受ける前に出口を決めるとタッチが生きる。

パスの質より、受け手の角度が先。半身で受けられれば1stタッチで相手を外せます。

三角形と菱形:常に第3の味方を意識する

ボール保持者−サポート−第3者で三角形を作るのが基本形。片側で詰まったら、アンカーや逆SBが加わり菱形を作って出口を増やします。「出す先」と同時に「落とし先(第3者)」を常にセットで準備しましょう。

図解感覚で捉えるフィールドの見取り図

5レーンと縦3分割を頭の中に重ねる

縦は5レーン、横は「自陣−中盤−敵陣」の3分割。このマトリクスを頭に重ねます。自陣では幅を最大化、中盤では内側に人を置く、敵陣では背後と幅の両方を脅かす——ゾーンごとにルールを切り替えます。

レーンをまたぐ移動で生まれるパスライン

味方が同一レーンで重なると、相手はひと目で守れます。1人が隣レーンへスライドするだけで、斜めの線が開きます。迷ったら「横に一歩」、それだけで守備者の視線がズレます。

ハーフスペース活用の基本ルール(中→外→中の循環)

  • 中へ入れて相手が締めたら、外へスライド。
  • 外で前進が止まったら、再び中へ差し込む。
  • 循環のテンポは「中1回→外1回→中で加速」が目安。

常に“戻れる中”を確保しておくと、外で詰まっても逆を突けます。

フェーズ別のビルドアップ(G→1→2→3)

GK起点:ゴールキック/リスタートの配置原則

  • 原則1:CBは幅を取り、SBは高さを分散(片方内、片方外も可)。
  • 原則2:アンカーは相手1列目の“影の外”に立つ。
  • 原則3:最前線は背後脅威を示し、DFラインを押し下げる。

短い再開なら「GK−CB−アンカー」で三角を確保。長い再開なら、背後とセカンド回収の配置を優先します。

第1フェーズ:自陣低い位置でのプレス回避

狙いは「縦パスの予告」と「逆サイドの余白作り」。片側に誘ってから、逆へ開放。GKを含めた3対2、4対3の数的優位を作り続け、1列目を外します。

第2フェーズ:中盤ラインを越えるスイッチの作り方

  • 縦パス→落とし→前向きの第3者(いわゆる“縦直”)。
  • 外→内→外の三角循環でサイド圧縮を解く。
  • 相手のボールサイドCHを外側へ引っ張って、内側へ差し込む。

「第3者の準備ができた瞬間がスイッチの合図」。合わなければ無理をしない。

第3フェーズ:最終ライン背後への接続とタイミング

背後は“見せる→止める→出す”の順。足元を見せてDFを前に出させ、止めた瞬間に裏へ。同時に逆サイドのWGは二列目からの侵入でゴール前を埋めます。

形の可変と役割の言語化

4-3-3の3-2化(SBのインサイド化/アンカー落ち)

ビルドアップ時にSBが中へ入り「3-2」を作ると、中央に数的優位と出口が増えます。逆にアンカーがCB間に落ちる形は、1列目の圧力が強い時に有効。合言葉は「中を増やすか、最後尾を増やすか」。

4-4-2の2-3化と偽SBの使い方

SBが中へ、WGが幅を保持して「2-3」を形成。相手2トップの脇で前進しやすくなります。偽SBは内側で数的優位を作る手段。注意点は、外のレーンに“誰が残るか”を明確にすること。

3バック化のメリット・デメリット

  • メリット:最初のラインの安定、サイドの高さ確保。
  • デメリット:中盤人数が減ると中央前進が停滞しやすい。

相手の前線人数と釣り合いを見て採用。2枚プレスに対し3枚起点は安定します。

GKをフィールド選手化する時の原則とリスク管理

  • 原則:GKは「縦の出口」と「逆サイドのスイッチ」を優先。
  • リスク管理:背後のカバー角度、バックパスの強度、判断速度を事前に統一。

相手プレス別の読み解きチャート

4-4-2ミドルプレスへの解法(SBの立ち位置でズレを生む)

  • SBが高く広く立つ→相手SHが下がる→CHが横スライド→内側のレーンが開く。
  • 逆にSBが内側へ→相手SHが中へ寄る→外の幅で前進。

解法は「SBで相手SHの矢印を動かす」。動いた方向と逆へ刺すのが基本です。

4-2-3-1のトップ下封鎖への対処(アンカーの影の外で受ける)

トップ下がアンカーを消す狙い。対処は2つ。CBが運ぶ、もしくはIHが1列落ちて「偽アンカー」を作る。影の外(背中ではなく横)で受ければ前を向けます。

4-3-3ハイプレスの第1ライン突破(GK+CB+アンカーの三角)

GKを含めて3対3を避け、4対3以上を作るのが前提。CBの片方が幅、もう片方が前進気味、アンカーは背後の受け直し。GKの1stタッチで逆サイドへ運べると一気にフリーが生まれます。

マンツーマン傾向へのズレと抜け(釣り出しと背中取り)

  • 釣り出し:ボールサイドで敢えて密集を作り、逆サイドでフリーを作る。
  • 背中取り:マークの視界から消え、相手の肩の後ろに立つ。

走る方向は“相手の背中”へ。足元を見せてから背後へ抜ければ、マークは遅れます。

パスラインを開く具体テクニック

1stタッチで角度を作る:内足・外足の使い分け

  • 内足インサイド:球足を殺して角度を作る。スイッチ前に最適。
  • 外足アウトサイド:相手の逆を突く方向転換。運び出しに有効。

受ける前に「次の出口」を決める→1stタッチで体を向ける→2ndタッチで運ぶ、の3拍子。

針の穴パスとスイッチングの判断基準

  • 縦パス基準:受け手が半身/第3者の落とし準備/相手CHの足が止まる瞬間。
  • スイッチ基準:ボールサイドに守備5人以上/逆サイドの幅が空く/時間が2秒以上生まれる。

斜めの関係(内→外/外→内/縦→斜め)の原則

縦の次は斜め、外の次は内。この“向きをずらす”だけで、守備の重心がズレて前進の余白が生まれます。

足元を見せて背後を突く/背後を見せて足元で受ける

意図的なフェイク。CBの縦パスでは、CFが足元を指差して呼び、同時にWGが背後へ。逆に背後を示してDFを下げ、足元で前を向く。見せるものと狙うものを逆に。

情報収集の質を上げるスキャン習慣

受ける前1秒・0.5秒・接触時の視線ルーティン

  • 1秒前:相手の矢印(プレス方向)確認。
  • 0.5秒前:第3者と出口の位置。
  • 接触時:足元ではなく、相手の“肩”を見る(どちらの足が出るか)。

視線と体の向きで守備者を動かすフェイク

視線で外、体で内。もしくはその逆。パス前の首振りは「情報収集」だけでなく「相手を動かす合図」にも使えます。

スキャン→決断→実行のテンポ設計(テンポ1・2・3)

  • テンポ1:安全にセット。時間を作る。
  • テンポ2:相手の重心をずらす小さな加速。
  • テンポ3:一気に縦へ。背後やライン間へ差し込む。

よくある失敗と修正ポイント

ボールは動くが相手が動かない問題(意味のあるパスへ)

横パスが多いだけでは相手は楽。守備者の向きや足を止める、釣る、矢印を変える——どの効果を狙うパスかを決めて出す。

三角形が潰れる配置の癖(同一縦線回避)

縦一列に並ぶと三角が消えます。1人は“半歩横へ”。迷ったら、ボール保持者から45°の位置に立つ。

受け手が同一レーンで詰まる現象(横幅の再確保)

外の幅が消えると出口がない。サイドの選手はライン際で「幅の旗」を立て続けるイメージを。

「安全第一」が前進阻害になる瞬間(リスクとリターンの線引き)

常に戻すと、相手は前へ圧縮してきます。戻すときは「逆サイドへ運ぶ準備がある」かを基準に。

練習メニュー(図解いらずで再現できる)

3対1→4対2→6対3の連結ロンド(第3者介入を増やす)

  • ルール:縦パス後は必ず“第3者”のワンタッチ関与を挟む。
  • 狙い:縦直のテンポ、半身受けの習慣化。

5レーン・シャドーゲーム(外-内-外の原則を定着)

  • コートをテープで5分割(イメージでOK)。
  • 同レーンに2人以上立たない制限。ハーフスペースで受けたら次は外へ。

方向付きポゼッション2ゾーン→3ゾーン(前進基準の導入)

  • 2ゾーン:後方ゾーンから前方ゾーンへ通過で1点。
  • 3ゾーン:中ゾーンを経由した縦直通過は2点。

GK含むビルドアップ回路ドリル(3-2-5化のタイミング)

  • 合図でSBが中へ→即座にWGが幅を保持→IHはライン間に差し込む。
  • GKのスイッチパスで逆サイドを解放するまでを一連で。

レベル別の落とし込み

高校・大学カテゴリ:強度と意思決定の両立

制限時間付きの前進ポイント制(縦直は2点、背後は3点)で意思決定を高速化。走る量が多い分、スキャンと半身を徹底。

社会人・アマチュア:短時間で実装できる簡易形

「SBは片方だけ中へ」「アンカーは影の外」「WGは常に幅」——3ルールに絞ると失敗が減ります。

ジュニア・ジュニアユース:言い換えと制限ルールで教える

専門用語を避け、「ななめに立とう」「相手のおへそと逆へ」「横一列に並ばない」などの合図で伝える。

試合で使える合図と共通言語

キーワード例(固定/解放/差し込む/外す/挟む)

  • 固定:相手を引きつけて離さないこと。
  • 解放:逆へ逃がす、スイッチする。
  • 差し込む:縦やライン間へ刺す。
  • 外す:マークを外す、角度を外す。
  • 挟む:第3者で囲む、落としを回収。

身振り・指差し・体の向きで意思疎通する

指で示すのは「今の出口」。体の向きで「次の出口」。声は短く、動きで伝える習慣を。

セットプレー後の即時ビルドアップ(相手の整う前に前進)

CKやFK後は相手の配置が崩れがち。素早いリスタートと逆サイド展開で“整う前”に刺す。

データで見る前進の質

プログレッシブパス/第3者介入数/前進回数の見方

  • プログレッシブパス:自陣から敵陣へ、または大きく前進するパス。回数と成功後のシュート関与を追う。
  • 第3者介入数:縦直の「落とし」を誰が何回受けたか。三角の機能度合いの指標。
  • 前進回数:自陣→中盤→敵陣のゾーン通過数。形の機能性を測れる。

ターンオーバーの位置と危険度(期待失点の観点)

自陣中央でのロストは失点リスクが高い傾向。外で失う設計と、即時奪回の人数配分をデータで確認。

個人KPI:受け直し回数/半身受け割合/前進関与

  • 受け直し回数:一度パスが来なくても、動き直して再度受けた数。
  • 半身受け割合:前を向いて受けた回数の比率。
  • 前進関与:前進の起点・中継・終点に関与した回数。

親・指導者がサポートできること

家でできる観察練習(テレビ観戦の視点化)

  • 「今、三角はできていた?」と一言問いかける。
  • 5レーンのどこに立っていたかを口に出して確認。

声かけの言い換え(結果よりもプロセス評価)

「ミスした」ではなく「次の出口を先に決められた?」と問い直す。判断を褒めると成長が安定します。

怪我予防とビルドアップの関係(姿勢・視野・減速)

半身や視線の習慣は接触を避ける助けにも。減速して受ける技術は足首・膝の負担軽減に役立ちます。

試合前チェックリスト

相手スカウティングの要点3つ(枚数・矢印・トリガー)

  • 枚数:前線プレスが1枚か2枚か。
  • 矢印:プレスの向き(内を切るのか外を切るのか)。
  • トリガー:GKへの戻し、サイドへの展開など何でスイッチが入るか。

ピッチ状態・風向き・日差しが与える影響

ボールが走る/止まるで判断時間が変わる。逆光や風下は安全配球と背後狙いの比率を調整。

初期配置と最初の10分計画(安全/挑戦の配分)

開始10分は相手の矢印を観察。安全7:挑戦3から、手応え次第で5:5へ移行が目安。

FAQ(現場でよく出る疑問)

足元が上手くないとビルドアップはできない?

技術は大切ですが、角度と位置で多くが解決します。三角と半身を守れば、必要な技術もシンプルになります。

リスクを取る境界線はどこに置く?

「第3者が準備できているか」「逆サイドが空いているか」。このどちらかが満たされていれば、前進のリスクは取りやすい。

ビルドアップを捨てる判断はいつする?

連続して自陣中央でロストが起きた時、または相手のハイプレスが整理されている時は、背後とセカンド回収に切り替えるのが現実的です。

用語ミニ辞典

主要用語の簡潔定義と使い所(アンカー/逆サイド/切り替え等)

  • アンカー:中盤底の選手。前進の受け皿とスイッチ役。
  • 逆サイド:ボールと反対側。圧縮の反対、最大の余白。
  • 切り替え:失った/奪った直後の数秒。最も点が動きやすい時間。
  • 縦直(たてなおし):縦パス→落とし→前向きの第3者。
  • 可変:守備と攻撃で並びを変えること。

まとめ:ビルドアップの仕組みを図で理解するために

原理→形→相手対応→技術→習慣の循環

まず原理(三角・半身・5レーン)を覚える→形(3-2や2-3)で再現→相手の並びで対応を選ぶ→技術(1stタッチ・斜めの関係)で支える→スキャンと合図で習慣化。循環が回るほど、判断は速く、選択はシンプルになります。

次の練習で試す1つの行動

「受ける前に出口を決め、半身で1stタッチ」を全員の合図に。これだけで前進の質が一段上がります。

学習の続け方(映像・メモ・フィードバック)

  • 映像:前進できた場面を3つだけ切り出す。
  • メモ:なぜ進めたかを「角度/位置/数」の観点で一言ずつ。
  • フィードバック:次の試合の合図を1つ決める。

おわりに

ビルドアップは“見える化”がすべて。ピッチに線は引けませんが、頭の中に線を引くことはできます。三角、半身、5レーン——この3つをいつでも思い出せるように、今日から言葉と習慣でチームに染み込ませていきましょう。

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