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PPDAとは?見方と限界—プレス強度を読み解く鍵

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PPDAは、ピッチ上の“圧”を数で確かめるためのシンプルな指標です。数字は冷静で便利ですが、文脈を外して読むと誤解も生みます。本稿では、PPDAの定義と計算、見方のコツ、限界、補完指標との組み合わせ、そして現場での使い方までを一気通貫で解説します。試合中の判断にも、トレーニング設計にも役立つ“現実的な使い道”を重視しました。

導入:なぜPPDAが注目されるのか

プレス強度を“数”で語るメリット

プレスは「勢い」や「迫力」といった感覚で語られがちです。PPDA(Passes allowed Per Defensive Action)は、相手にどれだけパスを許したかを、自チームの守備アクション数で割ることで、圧力を数字で捉えます。これにより、以下のメリットがあります。

  • 感覚のズレを減らし、選手・スタッフ間で共通言語を作れる
  • 時間帯や相手による変化を比較しやすい
  • 映像確認の“当たり”をつける索引として機能する

ポゼッション時代からトランジション重視へ—文脈の変化

保持率だけでは主導権は語り切れません。近年はボールを失った瞬間の圧縮、奪回の速さが勝敗を左右しています。PPDAは、保持“されている時間”の中で、どれだけ能動的に働きかけているかを示す目安として、トランジション重視の流れにフィットします。

PPDAが示すこと・示さないことの全体像

  • 示すこと:相手に許したパス本数に対して、どれだけ守備アクションが発生したか(傾向としての圧力)
  • 示さないこと:プレスの高さ、誘導の質、トラップの巧みさ、奪ってからの効率

つまりPPDAは“入口”。本質に迫るには、補完指標と映像確認がセットです。

PPDAの定義と計算式

PPDAとは何か(Passes allowed Per Defensive Action)

PPDA=相手のパス本数 ÷ 自チームの守備アクション数(特定エリア内)。値が低いほど、相手が1本パスするまでに多くの守備アクションが起きている=圧力が強い傾向を示します。

基本の計算式と分子・分母の内訳

  • 分子:相手のパス本数(一般的には成功パス。提供元により試行パスを使う場合も)
  • 分母:自チームの守備アクション数(タックル、インターセプト、ファウル、プレッシング関連アクションなどの合算)

重要なのは「どのエリアでカウントするか」「何を守備アクションとみなすか」のルール化です。

どのエリアを対象にするか(相手陣内・ハーフ・サード別)

  • 一般的な運用:相手陣内および中盤の一部(いわゆる前方60%)を対象にすることが多い
  • 別案:相手ハーフのみ、またはサード別(最前線/中盤/自陣)に分けて計測

ハイプレス評価なら前方エリアに絞る、ブロック強度なら中盤〜自陣を含める、という使い分けが有効です。

守備アクションの定義差(タックル・インターセプト・ファウル等)

守備アクションには主に以下が用いられます。

  • タックル(成功/試行)
  • インターセプト
  • ファウル(接触でプレーを止めた行為)
  • デュエル/チャレンジ(地上・空中の競り合いを含むかは運用次第)
  • プレッシングイベント(タグがある場合のみ)

何を含めるかで数値は大きく変わります。自チーム内での定義統一が最優先です。

データ提供元による仕様の違いと注意点

  • 対象エリアの境界が異なる
  • 分子が「成功パス」か「試行パス」かで変わる
  • 守備アクションに含めるイベントの範囲が違う

異なる提供元のPPDAは単純比較しないのが無難です。自チームの“社内基準”を決め、同一仕様で推移を見ることをおすすめします。

PPDAの見方:数字から読み取れること

数値が低い・高いの意味合い(低い=圧力が強い傾向)

低い=相手がパスを回しづらい(ボール保持1回あたりの窒息度が高い)傾向。高い=相手に数多くのパスを許している傾向。ただし“高さ”は別問題で、後述の通り補完が必要です。

ハイプレス/ミドルブロック/ローブロックとの関係性

  • ハイプレス:前方エリアのPPDAが下がりやすい
  • ミドルブロック:中盤サードで下がりやすい
  • ローブロック:全体では上がりやすいが、ペナルティ前での局所的な圧で下がることも

ゲーム状態(先制・ビハインド・同点)による変動

ビハインド時は前向きな守備が増えPPDAは下がりがち。リード時は撤退と時間管理で上がりがち。終盤は特に影響が大きいので、時間帯別に切って見ると実像に近づきます。

相手のビルドアップ様式(ロング直結/保持志向)の影響

相手がロングボール主体だと分子(相手パス数)が減り、PPDAは見かけ上“低く”出る罠があります。逆に保持志向で短いパスが多い相手だと分子が増え、PPDAは“高く”なりやすい。数値の比較には必ず相手の様式を添えましょう。

ホーム/アウェイ、日程と疲労が及ぼす影響

移動と中2〜3日の連戦は、寄せの1歩目の遅れとなって現れがち。アウェイや連戦時のPPDA上昇は珍しくありません。コンディション指標と合わせると納得感が増します。

短期と長期で数値が語る“らしさ”の違い

単発の試合は相手や展開の影響が強くブレが大きい。一方で10試合程度のローリング平均まで伸ばすと、チームの“らしさ”が浮かび上がります。

サード別・ゾーン別で深掘りするPPDA

最前線〜中盤〜自陣のサード別PPDA

サード別に分けると、戦術の狙いが見えます。

  • 最前線サード:GK・CBに圧をかけたいチームの指標
  • 中盤サード:誘導してから奪う設計のチームで効いてくる
  • 自陣サード:撤退後の粘りやブロック内の強度

サイド/中央のレーン別傾向をどう読むか

中央レーンPPDAが低い=中央圧縮が効いている可能性。サイドで低い=ウイング/サイドバックの連動やサイドトラップが奏功しているサイン。レーン別の偏りは狙い通りかを確かめる材料になります。

ライン間圧縮とパス本数の関係

ライン間が詰まると短いパス交換の余地は減り、分子(相手パス数)は減る傾向。結果としてPPDAは下がりやすい。逆に間延びすると相手が落ち着いてパスを刻み、PPDAが上がりやすくなります。

キックオフ後/再開直後の局面別傾向

再開直後は共通認識の徹底で差が出ます。スローイン、GKからの再開、FK後など、リスタート別にPPDA傾向を出すと、仕込みの精度を評価できます。

試合とシーズンでの使い分け

単発の試合での読み方(5分割・15分割での波を捉える)

5分帯で粗く波形を、15分帯で傾向を確認するのが現実的。ベンチでの介入タイミングに直結します。

ローリング平均で“偶然”をならす

試合ごとのPPDAを5〜10試合の移動平均で可視化すると、相手の当たり外れをならし、チームのトレンドが見やすくなります。

対戦相手強度・スタイルの補正をどう考えるか

  • 強度:上位相手はPPDAが上がりやすい(保持が上手い)。相手順位や直近フォームでグループ化して比較
  • スタイル:ロング主体/保持志向でセグメントを分ける

サンプルサイズと分散:過信しないための閾値感覚

1試合単位のPPDA差が±2〜3程度なら、文脈次第で誤差の範囲。継続的に±4〜5の差が続くと“変化”と捉えると過度な反応を避けられます(仕様一定が前提)。

PPDAの限界:数値に現れないもの

プレスの“高さ”と“強度”は別物

高い位置で待つだけでは強度は測れません。PPDAは“どれだけ働きかけたか”の近似であり、“どこで構えたか”は別指標で補う必要があります。

誘導・トラップ・カバーシャドーの質は可視化しにくい

コースを切る、限定する、釣って奪う——これらの巧みさはイベントデータだけでは十分に捉えられません。映像確認が欠かせません。

受動的ブロックと能動的守備の“同じ数値”問題

深い位置で粘って相手のパス数が増えた結果の高PPDAと、中盤で見送っているだけの高PPDAは同じ見え方をします。数値の背景を必ず確かめましょう。

審判基準やファウル傾向が与える影響

接触に厳しい基準だと、守備アクションにカウントされるファウルが増え、PPDAは下がりやすくなります。反対に流し気味の基準では上がりやすいことも。

記録基準(イベントのタグ付け)によるブレ

同じプレーが「デュエル」か「タックル」か、提供元やアナリストの基準で変わることがあります。運用を固定し、同一基準内で比較するのが鉄則です。

補完指標と組み合わせ方

フィールドチルト(陣地率)で主導権を確認する

相手陣内でのパス/タッチ比率を用いた陣地率。PPDAが低く、かつ陣地率が高いなら、押し込みながら圧をかけられている可能性が高いです。

ハイターンオーバーと回数/位置/シュート転換率

相手陣内または中盤高い位置でのボール奪取回数、そこからのシュート/得点期待値への転換率を見ると、プレスの“成果”を評価できます。

PPDA×被ロングボール割合で“押し出し”を測る

PPDAが低く、相手のロングボール割合が高いなら、相手を蹴らせている可能性。逆にPPDAが高く、被ロングが低いなら、相手に落ち着いて繋がれている恐れがあります。

守備ラインの平均位置・守備距離で高さを補足

最終ラインの平均位置、ボールからの守備距離(全体の重心)を加えると“高さ×強度”の二軸で理解が深まります。

チャレンジインテンシティ(相手保持1分あたりの守備アクション)

相手保持60秒当たりに発生した守備アクション数。保持時間の差をならせるので、PPDAの弱点を補います。

プレス起点のxG/xThreatで効率を評価する

プレスで奪った直後の攻撃がどれだけ期待値を生み出したか。回数だけでなく「質」まで踏み込めます。

ケーススタディ:数値の“読み違い”を防ぐ

保持志向チーム相手にPPDAが高く出る理由

短く細かく繋がれると分子が増え、PPDAは上がります。プラン通りに左右へ誘導できていたなら、数字が高くても悲観する必要はありません。陣地率や被ファイナルサード進入とセットで判断を。

ロングボール主体相手でPPDAが低く出る罠

蹴られてしまうと相手のパス数が減り、PPDAは下がりやすい。空中戦・セカンド回収率、被侵入で裏付けを取りましょう。単に“蹴らされた”のか“蹴られた”のかを峻別することが大切です。

終盤のリード時に数値が改善する現象の解釈

リードを守るためのファウル活用や時間の使い方で守備アクションが増え、PPDAが下がることがあります。これは「強くなった」というより「終戦処理」の性質。時間帯別での解釈が必須です。

カップ戦とリーグ戦での差異

一発勝負はゲーム状態の振れ幅が大きく、PPDAも揺れます。リーグのトレンドと同列比較せず、別枠管理が無難です。

現場での活用法:チーム・個人の改善に落とし込む

チームKPI設計:PPDAの目標値とアラート閾値

  • 目標帯:過去10試合移動平均−10%をまずは目安に
  • アラート:試合内15分帯で基準より+3超なら介入(高さ/人選/誘導方向の調整)

5分帯のPPDAでベンチが判断するべき合図

  • 開始0〜5分で高止まり:前線のスタート位置/体の向きの修正サイン
  • 後半立ち上がりで悪化:ハーフタイムの修正が落とし込めていない可能性

前進阻止のトレーニング設計(制限付きポゼッション/小規模ゲーム)

  • 制限付きポゼッション:中央縦パスにボーナス、奪回6秒で得点など、行動を誘導するスコア設計
  • 小規模ゲーム(4v4+3):サイドへの誘導→タッチラインをトラップにするルール化

カウンタープレス6秒ルールとPPDAの接点

奪われてから6秒の再奪回にフォーカスしたドリルは、分母(守備アクション)を短時間に増やす狙いに直結。時間帯別PPDAと合わせて効果測定を。

ポジショニングと身体の向き(カバーシャドー)の指標化

映像タグで「前進阻止につながる体の角度」「逆サイド切り」をカウント。PPDAの変化と相関を見ると、技術の落とし込み度を可視化できます。

選手個人の“寄せの質”をどう数と映像で紐づけるか

  • 個人プレス関与回数(到達距離×到達時間のしきい値を設定)
  • 関与後の奪回率/被前進率
  • 該当シーンのクリップ化で定性確認

手動トラッキングでPPDAを測る:現実的な手順

最小限の記録項目(相手パス数/自軍守備アクション数/対象エリア)

  • 時間帯(5分/15分)
  • 対象エリア(例:相手ハーフ or 前方60%)
  • 相手成功パス数
  • 自軍守備アクション数(タックル/インターセプト/ファウル/デュエル)

PPDA=相手成功パス数 ÷ 守備アクション数。試合後にサード別、レーン別に再集計できるよう、位置も簡易に記録しておくと便利です。

ベンチ1名で回す簡易シート(Googleスプレッドシート例)

  • 列A:時間帯、列B:エリア、列C:相手成功パス、列D:守備アクション、列E:PPDA(=C/D)
  • 条件付き書式でE列がしきい値以上で赤、以下で緑に
  • データ入力はキーボードのショートカット(↑↓)でカウントアップできる仕組みに

二重カウントを避けるルール作り

  • ボールがラインを割ったら、そのプレーは打ち切り
  • 同一プレー内での連続接触は「最初のチャレンジのみ」or「実際に接触が起きた回」のどちらかに統一
  • セットプレー直後は別枠管理(後述)

学校・育成年代での運用Tips(担当割・復習用映像の使い方)

  • 担当を「相手パス」「守備アクション」で分け、二人体制で正確性を上げる
  • 試合後に映像で5分帯のズレを照合、来週の目標値を合意

よくある誤解とチェックリスト

PPDAが低ければ“必ず良い”わけではない

相手のロング主体や審判基準で低下するケースがあります。陣地率、被侵入、シュート期待値と合わせて三点チェックを。

ポゼッション率とPPDAの関係を取り違えない

保持率が高くても、相手保持時の圧力が弱ければPPDAは高いまま。保持と非保持は切り分けて評価しましょう。

セットプレー後の連続局面は別枠で観る

CK/ロングFK後はクリア→再回収の連鎖でパス数とアクションが偏りやすい。時間帯集計から除外、または“再開直後”として別管理が無難です。

数値を見た後に必ず確認する映像ポイント(3箇所)

  • 前線のスタート位置と体の向き(内切りか外切りか)
  • ボールサイドの絞りと逆サイドの管理(背後の人数)
  • 奪った後の一手目(前進の優先度とサポート距離)

まとめ:PPDAを“鍵”に、プレスの全体像を描く

PPDAで仮説を立て、補完指標と映像で検証する流れ

  1. PPDA(全体/サード別/時間帯別)を確認し仮説を立案
  2. 陣地率、ハイターンオーバー、被ロング割合、守備ライン位置で裏取り
  3. 決定的なシーンを映像で検証し、誘導・トラップの質を評価

試合前・ハーフタイム・試合後の運用テンプレ

  • 試合前:相手様式別の目標帯(保持志向/ロング主体)を設定
  • HT:5分帯のPPDAと映像1〜2本で修正ポイントを明確化
  • 試合後:ローリング平均の更新と次節のKPI合意

次の一手:ゾーン別目標と練習メニューへの接続

「前方60%でPPDAを10%改善」「左サイドレーンのPPDAをチーム平均に近づける」などゾーン別の具体ターゲットに落とし込み、制限付きポゼッションや小規模ゲームで反復。数と映像を往復することで、意図と実行がシンクロします。

PPDAは単純ゆえに強力です。ただし単独では真実の一部しか映しません。補完指標と映像で立体化し、時間帯とゾーンで分解する——この基本を守れば、数字は“現場が使える言葉”になります。今日の練習設計、次の試合のベンチワークに、さっそく取り入れてみてください。

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