ワンツー(壁パス)は、スピードや体格に頼らず相手のラインを一気に突破できる強力な武器です。コツは難しいテクニックではなく「角度」と「視線」をどう使うか。この記事では、試合で即使える5つの法則を中心に、基礎からポジション別の使い方、練習メニュー、チェックリスト、よくある失敗の直し方まで、やさしく丁寧に解説します。図解なしでも再現できるよう、角度・距離・声かけまで言葉で具体化しました。明日の練習で、一本目のワンツーから相手を割れるように準備しましょう。
目次
導入:ワンツーが試合を変える理由
ワンツー(壁パス)の定義と仕組み
ワンツーは、ボール保持者が近距離の味方にパス(ワン)を出し、受け手が素早くリターン(ツー)を返すことで、守備者の横や背後を一気に抜ける連携です。特徴は「パスの移動中に攻撃側が位置を変える」こと。守備者の重心がボールに引かれた瞬間、空いた“背中”を突きます。ボールスピードと走るスピードが合わさり、1人でドリブルするより速く安全に前進できます。
ワンツーが効く局面:サイド・中央・トランジション
サイドではタッチラインを“壁”にして角度を作りやすく、中央では縦パスから一気に門を開ける効果、奪ってすぐ(トランジション)では相手が整う前にラインを飛ばす効果が出ます。密集での細かい突破にも、広いスペースでの加速にも対応できる“万能な前進手段”と言えます。
本記事の焦点「角度と視線」で崩すという考え方
成功率を上げるカギは、入口(受ける角度)と出口(返す角度)を設計し、視線で守備者を外すこと。「角度×視線×タイミング」の三点を合わせるだけで、特別なフェイントがなくても抜けられます。以下で具体化します。
基礎の確認:成功するワンツーの前提条件
ファーストタッチの方向づけ(次の動きが出る止め方)
止める=止まる、ではありません。次の出口へ“押し出すタッチ”が基本。足裏で止めてから考える癖があると間に合いません。インサイドで進行方向へ半歩押し出す、アウトサイドで体から遠ざけすぎない、などタッチの質が角度を決めます。
コツ
- ボールの上ではなく“横”を触って前へ押す
- 触った瞬間に視線は出口(返し先or抜けるスペース)
- 受ける前に足首を作っておき、接触でもぶれない
身体の向きと重心(パス前から出口を作る)
正面向きだとDFから見て意図が読めます。半身(肩を開く)で、縦と横の両方を見せ、どちらにも出られる重心を作りましょう。膝は軽く曲げ、地面を押せる姿勢。ボールとDFの間に体を入れる“ボール隠し”もワンツーの安全装置になります。
パススピードと距離感(強さ・回転・バウンド)
短すぎるとDFに触られ、強すぎると受け手が崩れます。目安は10〜14mで強いグラウンダー。スリッピーなピッチでは回転を抑え、荒れた芝ではやや強めにしてバウンドを減らす、といった調整が有効です。
合図とタイミング(声・ジェスチャー・ステップ)
声は短く、動きは早く。合図から実行までの“時間差”をチームで合わせると成功率が跳ね上がります。詳細は後述のチェックリストにまとめます。
角度と視線で崩す5法則(本編)
法則1:入口の角度—受け手は45度の斜め差し込みでDFの背中を作る
受け手はパサーに対して真正面ではなく、やや前方45度の位置へ差し込みます。DFの視野から自分が半分消える角度を作ると、DFはボールに正対しながらあなたの抜けを“背中側”で失います。結果、ワンツーの返しが通る“背中のレーン”が生まれます。
実践ポイント
- 差し込みの最後2歩で減速→向き直り→要求の手
- 足元要求ではなく、体の前へ通すパスコースを開ける
法則2:出口の角度—壁役は外足・前進体勢で縦に通す
壁役(返す側)は、ボールが来る前に外足の面を作り、体を前へ向けておきます。内足で返すと軌道が内へ入りがち。外足で軽く外側に押し出すように返すと、縦のレーンが自然に開きます。返す位置は、走り抜ける相手の進行方向“半歩先”。
実践ポイント
- 返す瞬間、膝から前へ出る“前進体勢”を崩さない
- グラウンダー7割、浮かすなら膝下のハーフバウンド
法則3:視線のフェイク—視線は外へ、ボールは内へ(逆を見る)
DFはボールと同じくらい“目”を見ています。返す瞬間に外を見て内へ通す、縦を見て横へ抜けるなど、視線の逆を選ぶだけでDFの初動を遅らせられます。深呼吸するような自然な目線移動でOK。大げさな首振りは読まれます。
法則4:縦横スイッチ—縦を見せて横抜け、横を見せて縦抜け
最初に縦の抜けを示し、DFが寄った瞬間に横へスライドして受け直す。逆も有効です。二択を同時に提示し続けることで、DFは“正解を消す”のに遅れます。チームとして「見せる方向」と「実際の出口」を1テンポずらす設計がコツ。
法則5:三人目の“影”を使う—背後の存在でDFを固定して通す
二人だけで崩すより、三人目の存在が“影”となってDFを止めます。三人目が裏を走るフリだけでもCBの足を止められ、返しの縦パスが通りやすくなります。ボールが触れなくても価値がある動きです。
ポジション別の使い方と配置の工夫
サイドバック×ウイング:タッチライン際の角度設計
SBが内側に絞り、ウイングが外で幅を取りつつ45度で受ける。SBは外足で縦へ返し、ウイングは裏へ抜けるか、内へ折れてシュートレンジに。相手がサイドを閉じたら、視線を縦に置きつつ内側のIHへ“逆”を通すのも有効です。
インサイドハーフ×CF:楔→落とし→抜けの最短ルート
IHが縦パスをCFへ。CFは背負いながら外足ワンタッチでIHの前へ返し、IHはそのままエリアへ侵入。CFが裏の“影”を維持することでCBを動かし、中央突破が加速します。
アンカー周辺:狭い中央を一気に抜ける“縦ワンツー”
アンカーが縦パスを刺し、戻しを前向きで受ける形。相手の2トップ間を一気に抜けると、前線と中盤のラインを分断できます。短い距離でも角度を作れると効果的。
カウンター局面:最少人数で加速する2タッチ解放
奪った直後は、最寄りの味方と2タッチでラインを1枚飛ばすと安全に加速できます。運ぶより先に“通す”。横ずれが遅い相手には特に刺さります。
セットオフェンス:三角形ローテーションとの相性
サイドで三角形を作り、入口と出口をローテーション。誰が壁役でも同じ質を保つため、外足返しの統一は必須です。
守備者タイプ別攻略パターン
前に食いつくDF:背中を作って一発で外す
足を出してくるタイプには、入口45度+視線縦で引きつけ、背中で壁を作ってから“ツー”で縦抜け。パスは強めのグラウンダーで一気に背後へ。
待つDF:外足コントロールで角度をずらす
寄せない相手には、壁役が外足でライン外へ返して角度を変える。受け手は横へ抜け、次の縦につなげます。無理に縦にこだわらないのがコツ。
マンツーマン:視線フェイクと三人目の影で剥がす
視線は外へ、ボールは内へ。三人目が裏を走り、マンマークの注意を分散。ボールタッチ数を減らし、0.5秒以内で解放する意識が効果的です。
低ブロック4-4-2:ハーフスペースの門を開ける
ウイングが幅、IHがハーフスペースで入口を作る。SBが外足で縦へ返し、IHが裏へ。縦が閉じたら、折り返しでエッジのシュートコースへ。
ハイプレス:ワンツーで一列飛ばす解放手段
後方でのワンツーはリスクが高い反面、決まれば一気に前へ。GK/CB/アンカーを三角に置き、1タッチで横→縦と飛ばす設計が有効です。
具体的トレーニングメニュー(ひとり・ふたり・チーム)
2人基礎ドリル:壁→抜け出しの強度・角度・距離
- 距離10〜12m、グラウンダー限定。外足返しのみで3分×3セット
- 返しの置き所を「半歩先」に固定し、抜けのスピードを合わせる
- 合言葉を1音節(例:裏、門)で統一
3人連動:三角形で“入口と出口”を移動させる
- 三角形の辺10m。A→B→Aのワンツーに、Cが“影”で裏走り
- 10本中3本は視線フェイクを義務化(外を見て内へ)
角度限定ドリル:コーン門で45度・30度を体得
- 受け手の入口に45度の門、出口に30度の門を設置
- 門を通した回数を競い、角度感覚を数値化
視線フェイクドリル:コーチコールで逆を見る習慣化
- 返す瞬間、コーチが「外」or「中」とコール
- コールとは逆を見る→指定方向へパス。反射的に視線をズラす癖をつける
ゲーム化:4対2→4対4+2で実戦テンポに移行
- 4対2ロンドで外足返し限定→成功2回で得点
- 4対4+2(フリーマン)で、ワンツー成功=ライン突破1点
よくある失敗と即効修正ポイント
パスが弱い/強すぎる:足首固定と踏み込み距離
弱い→踏み込みが近い。0.5歩遠くに置いて蹴る。強すぎ→腰が開きすぎ。へそをターゲットへ向け直す。
抜け出しが早い/遅い:パサーの動作合図を読む
蹴り足が引かれた瞬間がスタート合図。早すぎるとオフ、遅いと通らない。0.2〜0.5秒のラグを意識。
身体の向きが内向き:半身で“出口を先に作る”
受ける前から肩を開き、出口の面を先にセット。止めてから探すをやめる。
壁役が単調:前進パス・ワンタッチの質を上げる
返す位置を“相手の半歩先”に固定。強さと方向を毎回変えないことが質です。
スペース共有不足:合言葉と事前ポジション修正
合言葉の意味をチームで統一。位置がズレたら、ボールが来る前に2mスライドして角度を作る。
試合で使うためのチェックリスト
フィールドスキャンの順序(味方→敵→スペース)
- 味方(壁役の足・体勢)→敵(重心・距離)→スペース(出口)の順で0.5秒
合図→実行の時間差(0.2〜0.5秒の意識)
- 声or手の合図→0.2〜0.5秒→ボールが動く→抜け出す
狭い時のセーフティラインとリスク管理
- 縦が閉じたら“横→縦”に二手で解放。無理な縦は避ける
ワンツーの成功判定KPI(進入・前進・シュート関連)
- ライン突破回数、PA進入回数、シュート関連(起点or関与)
終了後の振り返りルーティン(再現性の確保)
- 入口角度/出口角度/視線のログを短文で記録(30秒)
映像・自己分析のポイント
視線と首振り:受ける前の確認回数を可視化
受ける前に最低2回、方向を変えて見る。映像で数えて習慣化します。
助走角度:受け手の入り方と出口の一致率
45度で入り、返しの出口30度と一致していたかをチェック。
DFの重心変化:どの瞬間に剥がれたかを特定
DFの踏み替え・停止・首の向きが変わる瞬間が“刺すタイミング”。
タッチ数とボール速度:2タッチ解放の再現度
1タッチ返しが何本成功したか、ボールが止まらなかったかを測る。
成功パターンの分類:縦抜け/横抜け/三人目
自分が得意な型を把握し、相手に合わせて選択肢を持つ。
レベル・環境別アレンジ
高校生・社会人向け:スピード強度と接触対応
強度を上げ、接触下でも外足面を崩さない。片手で相手を感じ、もう片手は空けてバランスを取る。
上級者向け:逆足ワンタッチと片足方向づけ
逆足の外足返しを習得。片足だけで受けて返す“一連動作”を滑らかに。
親子でできる庭トレ:狭いスペースの角度習得
距離5〜7mでOK。コーン2つで入口45度の門を作り、門→返し→門の反復。
少人数・人数不足の時:2対1連続ドリル化
DF1人で連続10本。DFは食いつき/待ちを交互に。攻撃は法則1〜5を順番に適用。
雨天・狭小ピッチ:バウンド管理と安全設計
強め低めのグラウンダー、足元ではなく半歩先。スパイク選択と減速の声かけを徹底。
コミュニケーション設計と合言葉
コールの音量・トーン・短さ(1音節化)
「裏」「門」「逆」「待て」など1音節で統一。小さい声でも明確に。
キーワード例:縦・門・裏・壁・逆・待て
- 縦=縦通し、門=間を通す、裏=背後、壁=返す準備、逆=視線逆、待て=タイミング遅らせ
目線を合わせるタイミング(触れる前/後)
受け手は触る前に1回、壁役は返す直前に1回。これだけでずれが減ります。
無言の合図:腕の角度・ステップの踏み方
抜ける方向の腕を少し開く、最後の細かいステップで“行く”を示す。
ミスの後のリセット術:同型再トライの合図
指2本を立てて「もう一回同じ」。直後に成功させると相手の予測を乱せます。
データ的視点と安全配慮
ワンツーが生まれやすいゾーンの傾向
サイドのハーフスペースと中央の相手2列間で発生しやすい傾向。幅と深さが同時に使える場所を選ぶと成功率が上がります。
パス距離・強度の目安(短中距離の基準作り)
10〜14mのグラウンダーを基準に。味方の走力に合わせて+/-2mを調整。
ボールタッチ時間とテンポ管理
壁役の接触時間は0.2秒以内を目標。ボールが止まる瞬間を作らない。
接触回避と怪我予防(視線・周辺視の活用)
受ける前の首振りで接近者を確認。身体接触時は膝を緩め、相手と地面の“二点”でバランスを取る。
練習から試合へのトランスファー設計
ドリル→制限付きゲーム→通常ゲームの順。制限(外足返し、1タッチ)を外しても同じリズムで出せるかを確認します。
まとめ:5法則を明日から使うために
今日の要点の再整理(角度×視線×タイミング)
- 入口45度でDFの背中を作る
- 出口は外足前進で縦へ通す
- 視線は逆を見る、縦横をスイッチする
- 三人目の“影”でDFを固定
明日の練習プラン(15分で回せるメニュー)
- 5分:2人外足返し(距離10m、強いグラウンダー)
- 5分:角度門ドリル(45度→30度)
- 5分:3人三角+視線フェイク義務1/3本
試合前の準備リスト(合図・配置・共通言語)
- 合言葉の確認(裏/門/逆/待て)
- 入口と出口の立ち位置ルール
- 1タッチ返しの担当を共有
成長を記録する方法(動画・KPI・リフレクション)
- ライン突破/PA進入/シュート関連を数値化
- 成功シーンの角度・視線・タイミングをメモ
FAQ:よくある疑問に答える
足が遅くても通用する?角度と先手で解決
入口45度と視線フェイクでDFの初動を遅らせれば、足の速さの差は小さくできます。先手で走ることが最重要です。
相手に読まれた時の対策:縦横スイッチと三人目
同じ型を続けず、次は“見せた方向の逆”へ。三人目が裏を走るフリを入れるだけでも通る道が増えます。
狭いエリアの出口確保:外足前進とボール隠し
外足返しで1mでも前へ押す。体を入れてボールを隠し、相手の足を出させない姿勢作りが大切です。
利き足じゃない時の判断:触る・触らないの基準
面が作れないなら無理に触らずスルーで“通す”判断を。触るなら外足ワンタッチ限定で。
監督・コーチへの提案:合言葉と成果の見せ方
練習前に合言葉の共有、試合後はKPI(突破/進入/関連)で成果を提示。客観的な数でコミュニケーションが円滑になります。
おわりに
ワンツーは、個の技術より「角度と視線の設計」で勝負が決まります。入口を45度、出口を前進外足、視線は逆。三人目の影で固定し、0.2〜0.5秒の時間差で刺す。この5法則をチームの共通言語にすれば、今日から攻撃はもっと軽く、速く、賢くなります。練習は短くても、角度を明確に。次の一歩が、相手の背中を切り裂く一歩になります。
