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ミドルプレスの練習方法を図なしで見える化

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ミドルプレスは「守りながら奪いに行く」現実的な選択肢です。この記事では、図や画像なしでも頭に絵が浮かぶように、言葉と合図で動きを合わせる方法をまとめました。練習設計、合図、評価までを一気通貫で言語化し、現場でそのまま使える形に落とし込みます。

導入:図なしでも「見える」ミドルプレスとは

この記事のゴールと到達基準

ゴールは「合図ひとつで全員が同じ矢印を向ける」こと。到達基準は次の3点です。1) プレスの開始合図と役割が口頭で共有できる。2) 練習から試合へ同じ言葉で移行できる。3) 奪取位置と回数を簡易に可視化し、修正サイクルを回せる。

ミドルプレスの定義とローブロック/ハイプレスとの違い

ミドルプレスは自陣と相手陣の中間エリア(センターサード)から圧力を高め、外へ誘導して奪う守備です。ローブロックはより低い位置でブロックを固め、ハイプレスは最前線から即時奪回を狙います。ミドルは「相手の前進を遅らせ、ミスを引き出して狙い所で奪う」中強度の選択肢です。

前提となる個人技術・体力・コミュニケーション

個人は「間合い」「体の向き」「減速~再加速」。チームは「追い込み先の一致」と「背後管理」。言語は短く、誰でも再現できる単語で統一します。

ミドルプレスの練習方法を図で理解(図なしで言語化)

文章と合図で空間を共有する考え方

合図は短く、方向と意図が同時に伝わる言葉にします。例:「外!」「内切れ!」「縦消せ!」「逆注意!」「プッシュ!」。声と同時に体の向きと指差しで矢印を示し、全員の頭に同じ線を引きます。

ピッチを言葉で分割するフレーム

横は「左-中央-右」、縦は「後ろ-中-前」。さらに縦5レーンを言葉に置き換え「タッチライン-ハーフスペース-中央-ハーフスペース-タッチライン」。合図は「右ハーフ閉じて」「中央ロック」「左外へ」などで統一します。

練習設計における可視化の原則

原則は3つ。1) 名称固定(誰が聞いても同じ場所/動きが浮かぶ)。2) 合図→アクション→評価の1サイクルを最短化。3) 得点条件や本数で「正解の動き」を強調する。

原則の言語化:判断を速くする5つの優先順位

優先1:中央封鎖(相手アンカーの消し方)

最前線と中盤の影を重ねてアンカーを二重で隠します。合図は「ナカ消せ」。相手が内側を見上げた瞬間に前が半歩出て縦を切ります。

優先2:外へ誘導(タッチラインを味方に)

内を閉じて外へ。外に出たらサイドで数的同数以上を作り「遅らせ→囲む」。合図は「外!」。

優先3:縦パスの抑止とパス後の即圧力

縦を許す時は「背中から刺す」準備。縦刺しが出たら「パス後0.5秒」で圧力。合図は「背中!」。

優先4:背後管理(最後のラインの統率)

CBとGKが最終責任。「ライン上げる/下げる」を短く「プッシュ/ドロップ」で。背後のランナーは受け渡しを「指名」で確定。

優先5:奪った後の前進ルート確保

奪取地点の逆方向(弱サイド)に最初の出口を用意。「逆!」の合図で1本目を通し、2本目で離脱します。

プレス開始のトリガー集と合図

CBの横運び・顔上げ直後

合図「内切れ」。2トップ(またはCF+IH)で縦を消し、外へ誘導。

SBへのパスが背中側にずれる瞬間

トラップに時間がかかるので「プッシュ!」で一気に圧縮。縦ラインを同時に上げます。

アンカーの足元への縦刺し

「背中!」で受け手の体勢に合わせて前後サンド。前は遅らせ、後ろが奪い切る。

バックパス/GKへの戻し

「ゴー!」で最前線が斜めに切り、外へ。2列目は中をロック。

浮き球の滞空時間を利用

「寄せろ!」。落下点に先着+セカンド回収で一気に押し上げ。

合図(コールワード・ジェスチャー)の統一

言葉は10語以内、指差しは矢印、掌で「止まれ/遅らせ」。視線でマークの受け渡しを示す。

基本配置と役割(4-4-2/4-3-3/3-4-2-1に対応)

4-4-2:2トップの切り方とサイドMFの絞り

2トップは縦を消して外へ切る。サイドMFは内側に絞り、SBに出る時は背中のIH/CBと連携。「外は出る、内は閉じる」。

4-3-3:ウイングの内外スイッチと8番の出入り

ウイングが内切りでアンカー遮断、8番がSBへ圧力。逆の8番は中央を蓋。CFはCB間を斜めに。

3-4-2-1:シャドーの矢印とWBの高さ管理

シャドーは内切りで縦を閉じ、WBが外圧。3CBはライン統率と逆サイドのケア。

GKの積極関与:背後統率とスローでの再プレス

GKは「プッシュ/ドロップ」の号令役。奪った後は速いスローで相手整う前に再度圧力。

コミュニケーション設計:情報量を減らして速くする

口頭コール(短い単語で意思統一)

推奨:外、内、縦、逆、プッシュ、ドロップ、スイッチ、トラップ、背中、残れ。

指差し・掌の向き・体の向きで意図共有

指差し=追い込み先、掌=止める、体の向き=切る方向。

視線のセットプレー:誰が誰を見るかのルール化

ボール→最前線、縦パス先→ボランチ、背後→CB/GKと固定し、受け渡しは指名制。

練習設計の全体像(段階的に“見える化”)

ステップ1:個人技術(間合い・体の向き)

1対1で外切りの角度と減速方法を習得。

ステップ2:ユニット連動(2〜4人)

外へ誘導→サンドの2対2、3対3で矢印の整合性を練習。

ステップ3:ライン連動(中盤—最終ライン)

背後管理と押し上げのタイミングをコールで同期。

ステップ4:全体ゲームへの移行

トリガー指定から自由選択へ。評価指標を共有。

観察ポイントと修正の順序

中央封鎖→外誘導→背後→回収→前進の順で修正。

ドリル1:方向限定の2対2+サーバー(基礎の矢印作り)

目的:外へ誘導しながら前進を遅らせる

内を消し、外タッチラインを味方に。

設定:コート寸法・制約・得点条件

幅12〜16m×長さ18〜22m。攻撃はサーバーから開始。守備は内切り必須。外で奪取or外へ押し出しで1点。

進行:段階的難易度アップ

素足→2タッチ制限→フリータッチ→逆サイド解放。

成功基準:身体の向き・距離・ステップ

半身、1.5〜2m、最後は小刻みステップで減速。

コーチングキュー:最初の一歩と遮断角度

最初の一歩で縦を切る。足は外足前、内足を引いて斜めに。

ドリル2:3対3+2フリーマン(中央封鎖と背中管理)

目的:内を消して外へ、外で奪う

中央通過を激減させる狙い。

設定:レーン分割と侵入ルール

3レーン(左-中-右)。フリーマンは外のみ。中央レーン縦通過=攻撃加点、守備は外奪取=加点。

進行:フリーマンの位置で難易度調整

外2→外1→内1(難)。

成功基準:縦パスの本数削減

5分間の中央縦刺し本数を記録し低減を目標化。

コーチングキュー:受け渡しの声と指差し

「スイッチ!」で交代、「背中!」で二重挟み。

ドリル3:6対6ゾーン分割(横スライドの速度)

目的:ボールサイド過密と逆サイド管理

同サイド圧縮と逆サイドの遅延を両立。

設定:3ゾーン+タッチ制限

横3ゾーン。攻撃2タッチ、守備自由。逆サイドは最大2人まで。

進行:移動制限を段階解除

ゾーン固定→1人フリー→全員自由。

成功基準:奪取までの回数と時間

1奪取までのパス本数と秒数を短縮。

コーチングキュー:ラインの押し上げタイミング

外へ出た瞬間に「プッシュ!」で一段前へ。

ドリル4:8対8ハーフコート(トリガー反復)

目的:試合に近い密度でトリガーを自動化

指定トリガーで全員が同時に動く習慣化。

設定:ビルドアップ側の制限と得点方法

相手CBは2タッチ、GKへの戻しで守備2点。高位奪取→10秒以内得点は+1点。

進行:トリガー指定→自由選択へ

「バックパスのみ」→「2つ選択」→「自由」。

成功基準:高位奪取の回数と質

相手陣ハーフ内の奪取回数と直後の前進成功率。

コーチングキュー:最前線の切り方設計

CFはCB間を斜め、ウイング/IHは内切り固定。

ドリル5:11対11条件付きゲーム(評価と定着)

目的:チームルールの検証と微調整

実戦環境で言語ルールを検証。

設定:得点2倍ゾーンと回数目標

相手陣センターサードで奪って得点→2倍。高位奪取5回/45分を目標。

進行:前後半でルール差を比較

前半:トリガー固定。後半:自由。結果比較で修正点を抽出。

評価指標:PPDA簡易版と回収位置

相手の自陣~中盤でのパス本数÷こちらの守備アクション(奪取、インターセプト、タックル)。数値が小さいほど圧力が高い。

コーチングキュー:交代選手の即時適応

入る前にコールワードと追い込み先を確認。「外/内」「プッシュ/ドロップ」だけでも共有。

トリガー別の反復メニュー集

CBの横運び→外誘導→サイド罠

内切り→外へ→サイドで2対1の遅らせ→囲む。

アンカー背中受け→即圧力→背面奪取

前は遅らせ、後ろが刺す。足裏で止めた瞬間が合図。

SBが高い配置→背後使わせず外圧縮

縦を切り、足元限定。内側はボランチが蓋。

バックパス→ライン押し上げ→GKへ矢印

全員2m前進。GKの利き足側を切って一方向へ。

相手の弱い足へ追い込み→逆足処理の強要

身体の向きで誘導。逆足トラップ時に一気に。

個人守備の技術を磨く

間合いと減速(ブレーキの作り方)

最後の2mで歩幅を半分→重心低く→横へ対応。

体の向き:股関節の開き角と半身

内を閉じる時は外足前、骨盤は外へ45度。

ステップワーク:サイドステップとクロスオーバー

短距離はサイド、距離詰めはクロス→減速はサイドへ戻す。

タックルの種類と使い分け

ブロック、プレス、スライドの3種。基本は足を出し切らず遅らせる。

“奪い切らない守備”で時間を稼ぐ

奪うより先に方向を限定。数秒稼げば味方が囲める。

フィジカルと呼吸管理:走れるミドルプレスへ

インターバル処方(距離×本数×休息比)

30m×8本×3セット、作業:休息=1:2。フォーム維持が前提。

再加速の反復(RSE:Repeated Sprint Effort)

15mダッシュ+減速+15m再加速を10~12反復、セット間3分。

ウォームアップとクールダウンの型

動的ストレッチ→可変ペース走→方向転換。終了後は呼気を長く、下肢中心の静的ストレッチ。

練習週内の負荷マネジメント

高-中-低-休の波を作る。トリガー反復は高日に集中。

データと言葉で“見える化”する評価法

PPDA簡易版のつけ方(手書き運用)

相手が自陣~中盤で回したパス数をカウント。こちらの守備アクション(チャレンジ/インターセプト/奪取)で割る。練習ごとに記録。

ボール奪取位置の言語ヒートマップ

「左外/左内/中央/右内/右外」の5区分で本数を線で記す。週ごとの偏りを確認。

チェックリスト:原則遵守率

中央封鎖、外誘導、背後管理、即圧、出口確保の5項目を◯/△/×で評価。

動画の撮り方と振り返り設計

斜め後方の高い位置から全体が入るように。合図と動きが一致した/してない場面を抽出。

よくある失敗と修正アプローチ

追い込み先の不一致→コールワード再統一

「外/内」を5分間ゲームで固定し、声が出ない人を指名。

距離感が広い→ライン間縮小の基準づくり

「ボールから自軍最終ラインまで30m以内」を合図「縮めろ」で即時修正。

背後のケア不足→最後尾の指揮命令確立

GK/CBが常に「プッシュ/ドロップ」を発信。無言を減点対象に。

ファウル多発→体の向きと接触の質改善

正面からぶつからず、半身で横圧を基本に。

前線の空回り→後方の準備が整うまで待つ

「待て!」の合図を許可し、全体でラインを合わせてから。

レベル別・人数別アレンジ

高校・大学・社会人向けの強度設計

セット時間4~6分、レスト2分。トリガー2種同時運用。

小学生・親子での導入(安全と楽しい導線)

幅狭コートで外へ誘導→タッチで加点。接触少なめ。

少人数(3〜6人)で成立するメニュー

2対2+1/3対3ロンド(外切りルール)で反復。

屋内・雨天時の代替案

フットサルコートでタッチ制限強め、背後はパス1本禁止に。

ポジション別の最重要習慣

ストライカー:切り方と影の作り方

CB間の縦を影で消す。片方のCBへ斜め寄せ。

ウイング:内外スイッチのタイミング

ボールが外へ出た瞬間に内切り→SBに出る。

インサイドハーフ:背中の情報収集

常に首振り。縦刺しの前兆を拾う。

アンカー:内側の蓋と後退の基準

縦を最優先で遮断。背後ランは指名して渡す。

CB:背後管理と押し上げの号令

GKと声を二重化。「プッシュ/ドロップ」を最短ワードで。

SB:縦スライドと外切りの角度

外に出る時も内を切る半身を崩さない。

GK:逆サイド管理とリスタートの質

逆サイドの枚数確認と素早い再開で二次プレスへ。

セットプレー→即ミドルプレスの移行設計

自チームCK/FK直後の隊列再編

キッカーの「戻れ」で2列化、背後はCB+アンカーで蓋。

相手リスタートへの1stアクション

ホイッスル前に追い込み先を宣言。「外固定!」。

境界線上のファウルからの再配置

ボールと逆サイドは1枚残し。ライン高さをGKが決定。

チームルールの言語化テンプレート

共通語彙リスト(10語以内)

外/内/縦/逆/プッシュ/ドロップ/スイッチ/トラップ/背中/残れ。

毎試合のKPI設定と共有方法

高位奪取回数、PPDA簡易、奪取から10秒以内の前進成功率の3点を試合前に掲示。

試合後の振り返りシート例

良かったトリガー/噛み合わなかった場面/次戦の強化トリガー(1つに絞る)。

FAQ:現場で出る疑問に答える

相手がロングボール多用のときは?

最終ラインのスタート位置を3~5m下げ「落下点主義」。セカンド回収に人を厚く。

走れない時間帯の対処は?

ローブロックへ一時移行。合図「ドロップ」でライン統一、回復後に再プレス。

主審の基準が厳しいときの守備は?

接触を減らし、影で消す守備へ。奪い切りより遅らせに比重。

交代直後の選手がハマらないときは?

入る前に「追い込み先」「自分の合図」を確認。最初の1プレーを簡単に設定。

まとめと次のステップ

今日から始める最小セット

共通語彙の決定→2対2外誘導→8対8トリガー固定で10分。まずは矢印を揃える。

4週間プログレッションの例

1週目:個人と2対2/2週目:3対3+ゾーン/3週目:8対8トリガー反復/4週目:条件付き11対11と評価。

定着後の発展(ハイブリッド化)

相手や時間帯でミドル⇄ハイ/ローを切り替え。合図は同じ言語で運用。

あとがき

ミドルプレスは「どこで奪うか」を全員で決めるスポーツの会話です。図がなくても、短い言葉と同じ矢印があれば十分に機能します。今日決めた言葉を、明日の練習、週末の試合にそのまま持ち込み、数値で振り返る。これを繰り返せば、守備は必ず“見える化”され、再現性が上がります。継続してアップデートしていきましょう。

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