「試合分析 ノートの付け方―90分で成長を刻む最小メモ術」は、試合を見ながら“最低限のメモ”で最大の学びを残す方法です。書き込む量を減らし、次の試合に直結する要点だけを拾う。大切なのは、緻密さよりも再現性。誰でも続けられる小さな習慣が、積み重ねるほどに大きな差になります。この記事では、3行×3フェーズ、タグ+時間+矢印、そして1-1-1原則という超シンプルな枠組みで、90分の試合からあなたの成長を具体化するメモ術をまとめます。
“見る→気づく→直す”を1ページに収める。難しい分析ツールは不要。紙のノート1冊とボールペンがあれば今日から実行できます。
目次
結論:90分で成長を刻む最小メモ術の骨子
メモは3行×3フェーズで十分(前半・HT・後半)
1ページを前半・ハーフタイム・後半の3フェーズに分け、各フェーズで「重要な気づき3行だけ」を書きます。情報を絞ることで、行動に移せるメモが残ります。3行に収まらない気づきは、次回の観戦テーマに回すのが継続のコツです。
タグ+時間+矢印の3記号で情報を圧縮
タグ(P=プレス、T=奪取、S=シュート、L=背後ラン、TO=失うなど)と、mm:ssの時間、そして矢印(→は選択、↑↓はライン、⇔はスイッチ)で事実を短く記録。例:「12:40 P→外誘導 失敗」「31:05 L↑ 裏抜け成功」。語句を減らして試合から目を離さない仕組みです。
目標1つ・改善1つ・継続1つの「1-1-1原則」
試合ごとに「今回の目標1」「改善したい1」「継続したい1」を決め、HTと試合後に確認します。狙いを一点集中にすれば、具体的に修正でき、翌週の練習へつながります。
ミニ例
目標:前向きで受ける回数3回/改善:背後ランのタイミング遅れ/継続:プレスの出だしを合図と同期
観戦から学びを残すための原則
事実と解釈を分けて書く(時間・場所・結果/意図・選択理由)
事実は「いつ・どこで・何が起きたか」。解釈は「なぜそう選んだか・何を選べたか」。同じ行に混ぜないこと。例:事実「23:12 右ハーフスペース S 枠外」/解釈「左足で置き直し→遅れ。ファーストで逆足インステップの方が良かった」
評価は相対ではなく原則に照らす
「チームメイトより良い/悪い」ではなく、「自分の原則(例:縦優先、前向き受け、背後警戒)に合っていたか」で評価。相対比較は感情に引っ張られやすく、改善の手がかりを弱めます。
次の試合で再現できる言葉にする
抽象語は避け、行動に翻訳。「もっと積極的に」→「受けたら3歩運ぶ」「縦が空いたら最初に見る」。翌日に読み返して動きがイメージできればOKです。
準備:試合前5分でノートをセットアップ
1ページを3ブロック化(前半/HT/後半)
ページを横線で3分割し、左上に対戦情報(日付・相手・会場)を記載。各ブロックの上段に「Fact」、下段に「Idea」と書いておくと事実と解釈が自然に分かれます。
個人テーマとチーム原則を書き出す
今日の個人テーマを1つ、チームの原則(攻守各1〜2)を事前に明文化。例:「個人:前向き受け3回」「チーム攻撃:縦優先」「チーム守備:内切りで外へ誘導」。
キータグの事前定義(例:P=プレス、T=奪取、S=シュート、L=背後ラン、TO=失う)
タグは5つに絞るのが原則。迷ったら「P/T/S/L/TO」。セットプレー系(CK/FK)、スローイン(TI)、カウンター(CT)を追加しても最大7つまでに。
記録の基準:何を『事実』とし、何を『解釈』とするか
事実は「mm:ss・ゾーン・結果」で固定
例:「18:32 左サイド T→カウンター開始」「41:09 中央3列目 TO→即失」。ゾーンは「左/中央/右」「最終/中盤/自陣/敵陣」など自分の言葉で統一します。
解釈は「意図・代替案・次回の選択」
事実の直下に1行で「意図→代替案→次回」。例:「縦急ぎ→内に時間あり→次回は内→外の順で」。解釈は最長15〜20文字目安。短いほど次に使えます。
ミスの定義を明確化(技術/判断/位置取り)
「ミス」とだけ書かず、種別を括弧で明示。「トラップ流れ(技術)」「縦急ぎ(判断)」「背後空け(位置)」。原因がわかると練習に落ちます。
90分の配分:前半・ハーフタイム・後半で書く内容
0〜15分:相手の狙いと自チームの出口をタグで把握
序盤は全体像の把握に専念。相手の圧力方向、空いている出口(サイド/背後/中)がどこかをタグで3件だけ記録。「06:10 P→外圧」「09:40 L↑ 裏空く」。
15〜45分:個人テーマに集中して3件だけ拾う
自分のポジションに直結する場面を3つだけ。余白があっても埋めないのがルール。焦点がブレないほど、HTで修正が利きます。
HT:3行レビュー(できた/課題/修正)
できた1/課題1/修正1。例:「できた:前向き受け×2」「課題:背後ラン遅れ」「修正:相手CBが前進時にスタート」。可能ならチームメイトと15秒共有。
後半:修正の効果確認と再現の準備
後半は「修正が効いたか」を2件、「次戦につながる再現ポイント」を1件。例:「63:50 L↑ タイミング◎」「次戦:合図=SBのタッチでスタート」。
フェーズ別チェックリスト(攻撃・守備・トランジション・セットプレー)
攻撃:前進手段・サポート角度・ラストパスの質
- 前進手段:縦/斜め/運ぶの優先順位
- サポート角度:受け手の体の向きが作れるか
- ラストパス:強度とコース、相手の足をまたぐか
守備:基準位置・圧力の方向・背後管理
- 基準位置:ラインの高さ、間延び
- 圧力の方向:内切り/外切りの使い分け
- 背後管理:最終ラインとGKの連携
ネガトラ:即時奪回の距離とスイッチ
- 距離:失った瞬間に最も近い2人の反応
- スイッチ:誰の合図で圧力がかかるか
ポジトラ:第一選択の縦と運ぶ/預けるの判断
- 第一選択:縦が空けば優先
- 運ぶ/預ける:相手の向きと人数で決める
セットプレー:担当・役割・セカンドボール反応
- 担当/役割:キッカー、ニア/ファー、マーク
- セカンド:跳ね返りへの最初の一歩
ポジション別ミニ指標と最小メモ例
GK:前進の起点(縦パス本数)とスイーパー対応
指標:縦パス成功本数、背後ケアのクリア数。例メモ「21:10 GK→CM 縦刺し成功」「54:22 裏処理 先出し◎」。
CB:ラインコントロールと対人(体をぶつけるタイミング)
指標:ラインアップ回数、対人奪取、背後カバー。例「33:05 ライン↑ 連動」「70:11 対人 勝」。
SB/WB:幅の確保とインナー侵入のタイミング
指標:幅取り成功、インナー受け回数、クロス質。例「28:44 幅広→S」「61:30 内走→崩し成功」。
CM/DM:前向き受けとスイッチ(縦→横→縦の回数)
指標:前向き受け、スイッチ成功、前進パス。例「18:03 前向き受け→縦」「57:20 縦横縦 成功」。
WG/FW:背後ランの質とフィニッシュへの関与
指標:背後ラン回数、PA内タッチ、枠内シュート。例「41:05 L↑ 釣り出し成功」「76:10 PA内タッチ→S枠」。
交代選手:最初の5分のインパクト可視化
指標:最初の5分での関与数(ボールタッチ/奪取/プレス)。例「72:00〜77:00 タッチ5 奪取1 P2」。
ライブ観戦と映像見直しの使い分け
現地/ライブ配信で拾う最小情報(タグ+時間のみ)
ライブ中は「タグ+時間」だけ。詳細は後で。例:「12:40 P」「31:05 L」。書き込みに集中しすぎてプレーを見逃さないことが最優先です。
録画での二度見ルール(事実→解釈)とタイムコード運用
録画では、1回目は事実だけを追記、2回目に解釈を1行。タイムコードをそのまま残しておくと、次回の見直しが短時間で済みます。
スマホだけで完結するワークフロー
メモアプリで「試合名_日付」のノートを作成→ライブでタグ+時間→帰宅後に事実補完→就寝前に解釈1行→翌朝1-1-1を清書。紙派は撮影してクラウドへ。
親・指導者と共有するときのメモの翻訳
専門用語を短い行動文に変換する
「内切り」「背後ラン」などは、共有時に行動文へ。「ボールがSB→1歩外→背後」が伝われば十分。相手にも再現イメージが湧きます。
フィードバック依頼テンプレート(事実→意図→要望)
例:「23:12 右HSでシュート枠外(事実)。打つ意図はあったが置き直しで遅れ(意図)。ファーストタッチの角度について意見ほしい(要望)。」
感情の扱い方と合意形成のコツ
悔しさは事実と分けて書く。共有時は「次回は何を試すか」を1つだけ合意。方向が決まれば、練習の質が上がります。
ノートから練習メニューへ落とす方法
課題→目標→ドリルの連結(状況・相手・制限)
例:「課題:背後ラン遅れ→目標:相手SBのタッチでスタート→ドリル:合図付き3人連携(制限:2タッチ、オフサイドライン設定)」。
反復回数と負荷の簡易記載
「5本×3セット、強度中、レスト60秒」のようにメモ。翌週、負荷を微増させて成長を確認します。
次戦までのマイクロプラン(週次→日次)
週:原則の反復/戦術の確認/回復の3本柱。日:月=技術、火=戦術、水=強度、木=調整、金=リハーサル、土=試合、日の翌朝=10分振り返り。
数えやすいKPIだけに絞る
位置別の簡易KPI候補(例:前進パス本数、奪取回数、背後ラン)
- GK:縦パス成功、スイーパー対応
- DF:ラインアップ回数、対人奪取
- MF:前向き受け、スイッチ成功
- FW/WG:背後ラン、PA内タッチ、枠内S
累積で成長曲線を作る(3試合移動平均)
1試合ごとの上下に振られず、3試合の平均で見ると成長が見えます。ノートの最後にミニ表を作ると管理が楽です。
勝敗と個人KPIの切り分け方
チームの勝敗は複合要因。個人KPIは「自分の実行に限った指標」。切り分けることで、負け試合でも成長が見え、改善に集中できます。
よくある失敗とリカバリ
書きすぎ/見逃し/思い込みの対処
書きすぎ→3行ルールに戻る。見逃し→時間だけ押さえる。思い込み→録画で事実を再確認し、解釈は15文字以内に収める。
タグ乱立の整理(5個ルールに戻す)
タグが増えたら、次戦はP/T/S/L/TOの5つだけに。足りない場合のみ1〜2個追加。迷いを減らすことが最大の効率化です。
継続のコツ:週2回でも効果を出す仕組み
全試合で完璧を目指さない。週に2回「3行×3フェーズ」だけでも十分。続く量が最強です。
具体例:1ページの最小メモ術テンプレート
観戦メモの書式例(テキストのみで成立)
【試合】◯月◯日 vs ◯◯高(会場)【個人テーマ】前向き受け3回【チーム原則】攻:縦優先/守:内切り→外誘導【タグ】P/T/S/L/TO(+CK/FK)[前半 Fact]06:10 P→外圧 通る12:40 TO 中央3列目31:05 L↑ 裏抜け成功 S枠外[前半 Idea]縦急ぎ→内に時間背後ラン=SBタッチで[HT 3行レビュー]できた:前向き受け×2課題:背後ラン遅れ修正:相手CB前進時にスタート[後半 Fact]54:22 裏処理(GK)◎63:50 L↑ タイミング◎76:10 PA内タッチ→S枠[後半 Idea]運ぶ→預け→再加速次戦:1本目はニア裏
タグ辞書のサンプル(P/T/S/L/TO/CK/FK)
P=プレス、T=奪取、S=シュート、L=背後ラン、TO=失う、CK=コーナー、FK=フリーキック。必要最小限で統一します。
1-1-1レビューの記入例
目標:前向き受け3回→達成2/3。改善:背後ランの合図固定。継続:プレス方向の内切り。
Q&A:よくある疑問に短く答える
ボールから目を離すのが怖い:時間だけ押さえる
プレー中は「mm:ss」だけ。ハイライトは録画で補完すれば十分です。
複数ポジションをこなす人の指標設定
ポジション共通の2軸でOK。「前進への関与(縦/前向き)」「守備の最初の一歩(圧力/背後管理)」。
チーム方針と個人テーマがぶつかったとき
優先はチーム原則。個人テーマは原則の内側で調整。「縦優先」のチームなら、個人の「キープ向上」は「縦を見てからのキープ」に修正。
まとめ:明日から始める3ステップ
ノートを1冊決める(1ページ=1試合)
紙でもスマホでもOK。1試合1ページで統一しましょう。
タグを5つだけ覚える
P/T/S/L/TOを基準に。迷いが消えるほど観戦に集中できます。
次の試合で1-1-1を実行して翌日10分振り返る
目標1・改善1・継続1。翌朝10分で清書し、練習ドリルに落とす。これだけで“試合が練習を導く”循環が生まれます。
あとがき
分析は「正確さ」より「使えること」。試合分析 ノートの付け方―90分で成長を刻む最小メモ術は、続けるほど自分だけの辞書になり、観戦が学習に変わります。次のキックオフから、3行だけの一歩を始めましょう。継続が、あなたの武器を研ぎ続けます。
