WG(ウイング)が「カットイン」と「外(縦)」をどう使い分けるかは、試合の流れとスコアに直結します。この記事では、状況別に役割・立ち位置・判断基準を整理し、現場で迷わないためのフレームとトレーニングまでを一気通貫でまとめました。難しい理屈よりも“現場で再現できる目線”を大切にしています。今日からチームで共有し、あなたの武器にしてください。
目次
- なぜWGの「カットイン」と「外(縦)使い分け」が勝敗を分けるのか
- 役割の全体像:WGに求められる4つの機能
- 立ち位置の基礎:幅・高さ・レーンの三原則
- 判断基準フレーム「B-SMART」で迷いを減らす
- システム別の使い分け:4-3-3/4-2-3-1/3バックの文脈
- 状況別1:低いブロックを崩すときのカットインと外
- 状況別2:ミドルサードの前進とハイプレス回避
- 状況別3:トランジション(攻守切り替え)での最適解
- 人数関係で変わる選択:1対1/2対2/オーバーロード→アイソレーション
- 利き足とサイド特性:右利き左WG/右利き右WGの違い
- 相手SB/CBのタイプ別攻略
- 味方との連動メカニズム:三角形とレーンローテーション
- マイクロスキル:成否を分ける細部
- ラストアクションの選択:シュート・クロス・パスの精度を上げる
- データ視点の一般論:期待値で考える使い分け
- トレーニングメニュー:判断と連携を鍛える
- よくあるミスと修正ポイント
- 試合前チェックリスト:準備で7割決まる
- 育成年代への伝え方と家庭での支援
- メンタルと意思決定速度:再現可能なルーティンを作る
- 試合中の自己フィードバックとハーフタイム調整
- まとめ:カットインと外の意思決定テンプレート
- 後書き
なぜWGの「カットイン」と「外(縦)使い分け」が勝敗を分けるのか
現代サッカーにおけるWGの価値と役割拡張
WGは単なるサイド突破役ではありません。得点、チャンスメイク、幅と深さの管理、守備のスイッチまで、攻守の“合図役”になっています。相手のSBを縦と内の両脅威で縛り、CBやボランチを横ズレさせる。これができると中央の選手が前を向け、チーム全体の前進速度が上がります。
用語整理:カットイン/外取り(縦突破)/内絞り/幅取り
- カットイン:外から内へ切れ込み、シュートやスルーパスのコースを作る動き。
- 外取り(縦突破):大外の幅を維持し、縦のラインで背後やクロスの角度を作る動き。
- 内絞り:ハーフスペースやライン間に侵入し、前向きで受ける準備。
- 幅取り:相手SBを広げ、中央にスペースを作る意図のポジショニング。
勝ち筋との関係:創造性と再現性のバランス
カットインは一撃の破壊力があり、外は再現性の高い崩しを成立させやすい。チームとしては「崩しの土台=外」「試合を決める刃=内」のバランスが肝です。状況に応じて内外の比率を変えることが、勝ち筋の共有になります。
役割の全体像:WGに求められる4つの機能
得点源としての機能(ファー詰め・逆足シュート)
逆足のカットインからのシュート、逆サイドのクロスに対するファー詰めは、WGの主要な得点パターン。ゴール前では「ニアに触らせてファーで決める」イメージで、動き直しをセットにしましょう。
チャンスメイク(カットバック・クロス・スルーパス)
縦突破からのグラウンダーのカットバックは高精度のチャンスを生みやすい傾向があります。内側では逆サイドへのスルーパスや、IHへの差し込みでフィニッシュの一手前を担います。
幅と深さの確保(ストレッチ効果と背後脅威)
幅は相手の横スライドを引き伸ばし、深さは最終ラインの背後を意識させます。内外の脅威でSBとCBを縛り、ボランチのサポートを遅らせるのが狙いです。
守備の第一線(プレス方向づけと戻りの角度)
プレスは内を閉じて外へ誘導、または逆に外を切って内へ追い込むなどチームの約束次第。戻りは「内→外」の順で中央を閉めてから外へ。角度がズレると、一発で剥がされます。
立ち位置の基礎:幅・高さ・レーンの三原則
タッチラインかハーフスペースか:最適解の見つけ方
相手SBが広く出てくるなら内(ハーフスペース)で受け、SBが内を締めるなら外で幅取り。ボールサイドのIHやSBの位置と連動して、空いているレーンを素早く埋めることが基礎です。
高さ設定:最終ライン背後を取るのか、ライン間で受けるのか
背後狙いはCBの背中付近で並走し、タイミングで加速。ライン間受けはオフサイドラインから半歩降りて、前向きのファーストタッチができる位置を確保します。
身体の向きと受け方:外向き・内向き・オープンスタンス
外向きは縦の脅威を示すサイン、内向きはカットインの準備。半身(オープンスタンス)で受けると、どちらにも出られます。受ける直前に相手SBとカバーの位置をスキャンしましょう。
判断基準フレーム「B-SMART」で迷いを減らす
B(Ball):ファーストタッチの質と前進可能性
置き所でプレーが決まります。外足インで内へ、外足アウトで縦へ。触れた瞬間に次の2手が増えるタッチを選ぶこと。
S(Space):縦の背後と内側レーンの空き具合
縦背後にスペースがあるなら優先度は高い。内が空くのはIHやCFの動きでボランチが引き出された瞬間です。
M(Matchup):対面SBの強み・弱み・ヘルプの距離
対面がフィジカル型ならタッチ数制限と背後脅威。スピード型なら減速→再加速で間合いを崩す。ヘルプの距離が遠いときが勝負所。
A(Angle):パス角度・シュート角度・リターン角度
角度がないカットインは詰まります。SBを外に釣って内角度を作る、もしくは縦で深さを作ってカットバック角度を確保する発想を。
R(Rhythm):加速・減速・横ズレでタイミングをずらす
一拍置く減速、外に小さくズレてから内、横スライドでマークを外す。リズム変化が決定的差になります。
T(Team/Transition):味方の配置・トランジション前提
味方SB/IH/CFとの三角形を常に意識。失った瞬間の守備(ネガトラ)で中央を閉じられる立ち位置かもチェック。
システム別の使い分け:4-3-3/4-2-3-1/3バックの文脈
4-3-3:IHとのハーフスペース連携とSBのオーバーラップ
WGが幅、IHが内の差し込み、SBが外の加速。WGの内カットインにIHのリターン、SBは最終局面で“時間を作る”役割が効果的です。
4-2-3-1:トップ下との縦関係と外での時間創出
トップ下がライン間で受けやすいので、WGは外で時間を作り、遅れて出るSBのオーバーラップでカットバック角度を確保します。
3-4-3/3-4-2-1:WBとのレーン共有と内外ローテーション
WBが幅、WG(インサイドFW)が内で起点に。外→内の連続性を高めるとCBの迷いを誘発できます。
状況別1:低いブロックを崩すときのカットインと外
カットインで崩す条件:内側の数的優位とカバーの遅さ
IHやCFが内に寄り、相手ボランチのサポートが遅いときがチャンス。カットインはワンタッチからのミドル、またはリターンでPA角に差し込むのが現実的です。
外で崩す条件:大外の孤立回避とカットバックの角度作り
外は孤立すると難しいので、SBかIHの三角形で深さを確保。ゴールライン近くまで運んで“引き戻す”カットバックが有効です。
SB・IHとの三人目活用:内外を連続で変える
外→内→外の3手でSBの重心を揺さぶる。三人目が背後に抜けることで、相手の足が止まります。
状況別2:ミドルサードの前進とハイプレス回避
外で時間を作る:背中でボールを隠す・ファウルマネジメント
タッチラインを“壁”にして背中で隠す。身体を間に置いてファウルを引き出し、ラインを押し上げます。
内への絞りで前進:ライン間で前を向くための準備
ボールサイドのボランチが釣られた瞬間、内絞りで前向きに。最初のタッチで縦に刺すか、外へ逃がすかを即決しましょう。
逆サイドの活用:サイドチェンジと二次攻撃の設計
逆サイドWGは幅最大、ファーで待機。一本で届かないなら、中継点(ボランチやCB)を使ってテンポよく振り直す設計が大切です。
状況別3:トランジション(攻守切り替え)での最適解
ポジトラ:外走で幅を最大化するか、内斜めで最短距離を取るか
数的優位なら内斜めでゴールへ直進。数が足りないなら外走で時間を作り、後方の押し上げを待ちます。
ファーストタッチの方向づけで加速を作る
縦方向へ“流れる”タッチで最高速に乗る。足元で止めると相手の整備を待つだけになります。
ネガトラ:中央閉鎖と外誘導、戻りの角度
失った瞬間は内側を先に閉め、外へ誘導するコースを作る。戻りはゴール側斜めで、パスラインを1本消しながら下がります。
人数関係で変わる選択:1対1/2対2/オーバーロード→アイソレーション
1対1:速度差・切り返し幅・間合い管理
踏み込みの幅を一定にしない、間合いを半歩外す、最後は相手の重心と逆へ。縦を見せて内、内を見せて縦が基本です。
2対2:内外ローテーションと相手の視線をずらす動き
SBとオーバー/アンダーを交互に出す。受け手と囮をローテーションして視線を分断し、クロスorカットインの選択を最後に残す。
サイド過負荷からの逆サイド隔離(O→I)の作法
サイドに人数を集めて相手を圧縮し、逆サイドWGを孤立(アイソレート)させる。長いサイドチェンジは浮かさず速く、着弾前に走らせるのがコツです。
利き足とサイド特性:右利き左WG/右利き右WGの違い
右利き左WG:カットインの脅威と外のスピードを両立
内でのシュート脅威を見せながら、縦へ出る二刀流が理想。内側は混んだら一度外へ逃がし、再び内で刈り取る流れが効きます。
右利き右WG:縦突破とニアゾーン攻略のパターン
縦の突破でニアゾーン(PA角)を破り、低いクロスかニア撃ち。外足アウトのタッチで相手を置き去りにする技術が重要です。
両足化の優先順位:フィニッシュ・クロス・ショートパス
まずは逆足フィニッシュ、次に逆足低クロス、最後に短いパスの質。順番を決めて練習すると習得が早くなります。
相手SB/CBのタイプ別攻略
対人強い相手:先手のタッチ数制限と背後の脅かし
触る回数を減らし、先手で背後へ。壁当てのワンツーや一発のサイドチェンジで力比べを回避します。
スピード型:減速からのギアチェンジと間合い拡大
等速はNG。減速→一気の加速、触らせない距離を保ってからスイッチ。足を止めさせましょう。
内を締める相手:外での数的優位と角度の作り直し
内が閉じているなら、外で時間を作りSBを引き出す。角度を作り直してから再度内を突く二段構えで。
高い位置を取る相手:背後への即時ランと早い配球
SBが前がかりなら、奪った瞬間の背後がご馳走。1本で出す準備をボール保持者と共有しましょう。
味方との連動メカニズム:三角形とレーンローテーション
SBのオーバー/アンダーラップの使い分け
相手の視線がWB/SBに向いた瞬間、WGは逆へ。オーバーで縦の角度、アンダーで内の角度を作ります。
CFのポスト・釣り出し・ニアアタックの連動
CFがCBを外へ引き出すと、WGの内カットインが刺さる。ニアの突入とファー詰めの役割分担も明確に。
IHのハーフスペース占有と縦ズレの作成
IHが内で起点になると、SBのヘルプが遅れます。縦ズレを作って、カバーが間に合わない瞬間を生み出しましょう。
逆サイドWGの仕事:二次ポストとファー詰め
逆サイドは常に“次の一手”。ファーで待ち、弱サイドのスペースを刺す準備を忘れずに。
マイクロスキル:成否を分ける細部
ファーストタッチの置き所(外足イン/アウト)
外足インは内に行く意思表示、外足アウトは縦。相手の重心と逆へ置くと、反転時間を奪えます。
身体の向きとスキャン頻度:受ける前に3点見る
対面SB、内のカバー、背後のライン。この3点を受ける直前に確認。情報量が多いほど判断が速くなります。
加速・減速・ストップで時間差を作る
0→100の加速だけでなく、50→0→100のギアチェンジを使い分け。ストップで寄せさせてから抜くのも有効です。
ボールプロテクトと接触の受け方
接触は怖がらず、軸足の外にボール、肩で相手を感じながら前進。審判基準も試合中に把握しましょう。
ラストアクションの選択:シュート・クロス・パスの精度を上げる
シュートのトリガー:ブラインドの瞬間と角度確保
DFが一瞬体を入れ替える瞬間や、GKの視線がボールから切れた瞬間がトリガー。角度は自分で作る意識を。
グラウンダーカットバックとエリア内の優先順位
マイナスのグラウンダーは高品質なチャンスにつながりやすい傾向。ニア→PKスポット→ファーの順で見ます。
ニア/ファーの使い分けとキーパー重心の読む技術
GKの重心がニアに乗ればファー、ファーを消されたらニア上。視線と踏み込みで判断を誘導しましょう。
PA外からのスルーパス:速度・コース・タイミング
速すぎず遅すぎず、相手の逆足側へ通す。受け手の走り出しと同時に出すのが原則です。
データ視点の一般論:期待値で考える使い分け
xG/xAの観点で見るショットレーンとカットバック
多くの分析で、ゴールライン際からのグラウンダーカットバックは比較的xG/xAが高くなる傾向が示されています。再現性を武器にしましょう。
カットインは失いやすい局面の整理とリスク管理
内側は密度が高く奪われやすい。最後列のカバーや即時奪回の準備がないとリスクが跳ね上がります。
クロス成功率の現実と狙い所の明確化
浮き球クロスは成功率が高くないことが一般的。ニアゾーン攻略やマイナスの速いボールに狙いを絞ると効果的です。
トレーニングメニュー:判断と連携を鍛える
B-SMART反復ドリル:合図で内外を即時選択
コーチの合図(音/色)で縦or内を即決。ファーストタッチ→2手目までを3秒で完了するルールで反復します。
2人組ローテーション:SBとのオーバー/アンダー
交互に走路を変え、受ける人は半身、出す人は角度優先。ラストはカットバックとニア突入までセットで。
4対4+2の幅/内スイッチゲーム
幅を取るフリーマン2人を配置し、縦→内→縦のスイッチでポイント。3手連続で角度を変えると加点などのルール化が有効です。
自宅でできる視野・スキャン練習
壁パス中に番号カードを見る→口頭でコール→次のタッチ。目と足を同時に鍛えます。
よくあるミスと修正ポイント
決め打ちカットイン/縦一本化の弊害
選択が読まれると守られます。最初の2タッチで“どちらもある”状況を作るのが修正の近道。
深さ不足で相手ラインが楽になる問題
縦の脅威がないと相手は前向きで守れます。1本背後、1回ライン間の前向き、をセットで提示しましょう。
絡み過ぎて渋滞を作る:内外の間欠的ポジショニング
常に関わるのではなく、間隔を空けて“次の一手”の位置に移動。渋滞を避けます。
守備での戻りの角度とプレスの方向づけ
直線で戻らず、パスラインを1本消す斜め戻り。チームの合図に合わせて方向づけを統一します。
試合前チェックリスト:準備で7割決まる
相手SBの癖・利き足・体の向き
外を切るのか内を切るのか、利き足側のタックル傾向はどうか。初手で見抜きましょう。
ピッチ状態・風・照明とボールの伸び
縦の蹴り出しが伸びるかどうかは重要。雨なら低いボール優先、強風なら足元連携を増やします。
審判の基準と接触の許容度
序盤で判断。許容が広いならコンタクトを活かし、厳しければファウルマネジメントを。
ベンチとの合図・合言葉の共有
「外時間」「内刃」など、短いキーワードで意思統一。交代選手にも同じ言語を共有します。
育成年代への伝え方と家庭での支援
「フリー」の定義を具体化するコーチング
「前向きで2タッチできる」がフリー、など言語化を。子どもほど基準が曖昧になりがちです。
役割固定を避ける内外体験の設計
右も左も、内も外も経験させる。判断の幅が将来の武器になります。
保護者の声かけ例:選択の理由を問う対話
「なぜ縦?なぜ内?」と選択理由を一緒に振り返る。結果よりプロセスを褒めるのがコツです。
メンタルと意思決定速度:再現可能なルーティンを作る
3秒ルール(トレーニング用の目安)で選択を明確化
受ける前のスキャン→1秒で方向決定→2秒で実行。練習で時間制限を入れると試合で余裕が生まれます。
キーワードルーティンで判断を短縮
「縦見せ内」「内見せ縦」「一拍」など、自分の合言葉を決めておくと迷いません。
失敗後のリセットと次のアクション優先
失った直後の守備でチームを助ける。次の良いアクションが、メンタルの立て直しになります。
試合中の自己フィードバックとハーフタイム調整
デュエルの勝敗要因の内訳を整理する
負けた理由が速度か間合いか角度かを言語化。後半の改善策を具体にします。
立ち位置の微修正:幅・高さ・レーンの再設定
相手のズレ方に応じて、50cm単位で微修正。小さな修正が大きな差になります。
後半の勝ち筋:内外の比率をチームで共有
「外6:内4」など割合を決めて共有。チームの意思決定速度が上がります。
まとめ:カットインと外の意思決定テンプレート
カットイン判断テンプレ:B-SMARTからの手順
- Space:内レーンが空いているか/IHの位置は?
- Matchup:対面の重心とカバーの距離は?
- Angle:シュートorスルーパスの角度があるか?
- Ball:内へ向くタッチで2手分の余裕を作れるか?
- Team:失ったとき中央を閉じられる配置か?
外(縦)判断テンプレ:再現性の高い崩し方
- Space:背後とサイドラインの余白を確認。
- Matchup:速度優位/間合い確保できるか。
- Angle:ゴールライン際でのカットバック角度を確保。
- Rhythm:減速→加速、横ズレで抜けるタイミングを作る。
- Team:SB/IH/CFの三人目を必ず連結。
試合後の振り返りチェックポイント
- 内外の選択比率はゲームプランと一致していたか。
- ファーストタッチの置き所で何回優位を作れたか。
- 逆サイドのWGを何回活用できたか。
- ネガトラの角度と中央閉鎖は機能したか。
後書き
「カットインか、外か」の答えは、常に状況次第です。だからこそ、判断基準とチームでの共通言語が武器になります。B-SMARTで情報を整理し、三角形の連動で角度を作る。あとはファーストタッチとリズムの変化で勝負しましょう。今日の練習から、内外の使い分けをチームのルーティンに落とし込んでみてください。積み重ねが、試合を決める一手になります。
