明日の90分を走り切る鍵は、当日の朝食ではなく「前日の24時間」にあります。何を、いつ、どのくらい食べるかでエネルギーの貯まり方や胃腸の安定が大きく変わります。本記事では、試合前日の食事プランを「タイミング」と「量」に分け、実行しやすい形で具体化。家庭・コンビニ・外食の選び方から、体重別の計算、試合時間帯別の微調整までをひとまとめにしました。嘘や誇張はせず、スポーツ栄養の一般的な推奨範囲に沿って整理しています。明日のパフォーマンスを最大化するために、今日から使える前日設計図をどうぞ。
目次
なぜ「試合前日の食事プラン」が勝敗を分けるのか
サッカーの運動特性と筋グリコーゲンの関係
サッカーは有酸素運動をベースに、スプリントやジャンプ、切り返しなど無酸素パワーを繰り返す混合型の競技です。主な燃料は「筋グリコーゲン(筋肉内の糖の貯蔵)」と「肝グリコーゲン(血糖維持)」。これらが少ない状態で試合に入ると、後半のスプリント回数や判断スピードが落ちやすく、けいれんや集中力低下も起きやすくなります。筋グリコーゲンは1日で満タンまで回復しにくいため、前日からの“満たし方”が勝負どころです。
前日に整えるべきは“燃料”と“消化の安定”
前日の狙いは大きく2つ。1つ目は「糖質中心でグリコーゲンを積み増す」こと。2つ目は「当日に響く胃もたれ・腹痛・下痢のリスクを減らす」ことです。脂質や食物繊維、辛味、アルコールは消化に時間がかかったり腸を刺激するので、前日は“控えめ”がセオリー。燃料を満たしながら、胃腸を静かに整えるのがコツです。
当日対策だけでは足りない理由
当日の朝食だけでグリコーゲンを満たし切るのは難しく、消化時間の制約もあります。さらに試合当日の緊張や移動で食欲が落ちやすいことも。だからこそ「前日からの分散投資」が必要です。前日の24時間で余裕を持ってエネルギーと水分を貯めておけば、当日は“微調整”で済みます。
タイミングと量の目安を解説(前日24時間の設計図)
1日の配分フレーム:朝2・昼3・間食1・夕3・就寝前1の比率
前日は「小分け×主食多め」で。カロリーや糖質の比率を目安で配分すると、朝2:昼3:間食1:夕3:就寝前1(合計10)がおすすめ。夕食でドカ食いせず、1日を通じて主食を軸に積み上げると胃腸にやさしく、グリコーゲンの貯蔵効率も上がります。
体重1kgあたりで考える総量の目安
基準は体重1kgあたりで考えると計画が立てやすくなります。
- 炭水化物(糖質):6〜8g/kg/日(コンディションや連戦状況で5〜10g/kgの範囲で調整)
- たんぱく質:1.6〜1.8g/kg/日(1食あたり0.3g/kgを目安に分割)
- 脂質:0.8〜1.0g/kg/日(質は不飽和脂肪が中心、飽和脂肪は控えめ)
- 水分:30〜40mL/kg/日+汗をかく活動の分
例:体重70kgなら、炭水化物420〜560g、たんぱく質112〜126g、脂質56〜70g、水分2.1〜2.8Lが目安です。
翌日のキックオフ時刻から逆算する考え方
試合開始が早いほど、前日の夕食と就寝前の軽食の重要度が上がります。夜に消化の軽い主食中心で“最終補給”しておくことで、当日の朝食が少なめでも不足しにくくなります。逆に午後〜夕方キックオフなら、前日の昼食でしっかり積み増し、夕食は脂質控えめで整えるのが基本です。
栄養素別の最適化ポイント
炭水化物:6〜8g/kg/日を軸にコンディションで5〜10g/kgを調整
前日は「主食を増やす」ことが最優先。白ごはん、うどん、食パン、餅、じゃがいも、バナナなどを使い、1食ごとに主食を明確に“見える量”でよそいます。練習が軽い日は6g/kg、疲労が強い・連戦中は8〜10g/kgを目安に。
- 目安例(70kg・7g/kg=490g):朝100g、昼150g、間食50g、夕150g、就寝前40g
- 消化優先:低脂質・低繊維の主食を選ぶ(白米>玄米)
たんぱく質:1.6〜1.8g/kg/日(1食あたり0.3g/kg目安)
損傷した筋の回復と、食後の満足感(食べ過ぎ防止)に役立ちます。消化を優先し、脂質が少ない調理法で。
- 70kgなら1回あたり約20〜25gを4〜5回に分けて
- 食品例:鶏胸・ささみ、白身魚、ツナ(水煮)、豆腐、納豆、卵、ギリシャヨーグルト
脂質:0.8〜1.0g/kg/日と質の選び方(飽和脂肪を抑える)
脂質は完全に“悪”ではありませんが、摂りすぎは胃もたれの原因に。バター・揚げ物・霜降り肉など飽和脂肪は控えめにし、オリーブオイル、菜種油、青魚、ナッツなどから適量を。
食物繊維とFODMAPの配慮(前日は“やや控えめ”)
便秘気味の人でも、前日は繊維の摂りすぎでガスや腹部膨満が起きることがあります。玉ねぎ、にんにく、豆類、リンゴ、梨、牛乳などFODMAPが高めの食品に反応しやすい人は少し控えめに。主食は白米やうどん、パンは食パン中心が無難です。
ビタミン・ミネラル・鉄:不足しやすい栄養と食品例
貧血予防の鉄、エネルギー代謝に関わるビタミンB群、筋痙攣対策に関わるマグネシウムやカリウムは日頃から意識を。前日は刺激物を避けつつ、消化にやさしい食材で。
- 鉄:赤身肉、レバー、あさり、納豆、ほうれん草+ビタミンC(果物・野菜)
- カリウム・マグネシウム:バナナ、キウイ、芋、ほうれん草、ナッツ(少量)
- ビタミンD:鮭、サバ、卵
水分・電解質:30〜40mL/kg/日+ナトリウムの目安
前日は「こまめに飲む」。汗をかく活動がある日は、ナトリウムを含む飲料(スポーツドリンクなど)も併用。発汗時は飲料中のナトリウム濃度500〜700mg/L程度が目安です。
時間帯別の食事プラン(前日)
前日朝(起床〜1時間):低脂質・中GIでスタート
- 例:白ごはん大盛り+焼き鮭(小)+味噌汁+バナナ半分+ヨーグルト
- ポイント:脂質は控えめ、主食を増やす。朝から“燃料モード”に切り替える。
前日昼(就寝の8〜10時間前):主食多めで“積み増し”
- 例:親子丼(ごはん多め)+うどん半玉 or おにぎり1個+果物
- ポイント:このタイミングで炭水化物の“山”を作る。脂質は中量まで。
前日午後の間食:軽い糖質で血糖と集中をキープ
- 例:カステラ、あんぱん、もち、バナナ、スポーツゼリー、甘酒(少量)
- ポイント:胃に負担をかけない量で。水分も忘れず。
前日夕食(就寝の3〜4時間前):主食中心・低脂質・低刺激
- 例:和風鶏そぼろ丼(油少なめ)+うどん小+温野菜+みそ汁
- 避けたい:揚げ物、激辛、にんにく大量、焼肉・ラーメンこってり
就寝前の軽食(就寝の60〜90分前):消化に優しい“微調整”
- 例:おにぎり小1個+ヨーグルト or ココア牛乳(少量)
- ポイント:炭水化物中心、脂質少なめ。食べ過ぎない(満腹は睡眠の質を下げる)。
試合時間帯別に前日を微調整
翌朝キックオフ(午前試合)への前日最適化
- 夕食で主食をしっかり(体重1kgあたり2g前後の炭水化物を目安)
- 就寝前に小さな追加(0.5〜0.7g/kg)で翌朝の負担を軽減
- 当日の朝食は軽めでもOK(消化優先)。前日で“貯め切る”。
午後・夕方キックオフへの前日最適化
- 前日昼で主食多めに積み増し、夕食は低脂質で整える
- 就寝前はごく少量でOK。睡眠を最優先。
延長・PKの可能性を見据えた備え
- 前日からのナトリウム確保(塩分過多はNG、飲料で適度に)
- 試合用に携帯できる糖質源(ジェル、エナジーバー、干し芋、小包装ようかん)を準備
体格・コンディション別の量調整
体重別の計算例(60/70/80kg)
- 60kg:炭水化物360〜480g、たんぱく質96〜108g、脂質48〜60g、水分1.8〜2.4L
- 70kg:炭水化物420〜560g、たんぱく質112〜126g、脂質56〜70g、水分2.1〜2.8L
- 80kg:炭水化物480〜640g、たんぱく質128〜144g、脂質64〜80g、水分2.4〜3.2L
連戦・合宿・疲労蓄積時のカーボ量の上げ幅
疲労が強い、二部練や連戦では炭水化物を8〜10g/kgへ引き上げ。胃腸に不安がある場合は、白米・うどん・パン・じゃがいもなど“軽い主食”に寄せて小分け回数を増やします。
胃腸が弱い/便秘がち/下しやすい場合の調整
- 低繊維・低脂質に寄せる(白米、うどん、豆腐、白身魚、卵)
- 乳糖不耐の疑いがある場合は牛乳→ラクトース低減乳やヨーグルトへ
- 辛味・生もの・新規食品は避ける。よく食べ慣れたものを選ぶ。
食品選びとメニュー例(家庭・コンビニ・外食)
家庭の食卓:和食ベースの組み立て方
- 基本形:主食(白米・うどん)+主菜(鶏胸・魚・豆腐)+副菜(温野菜・味噌汁)+果物
- 調理法:焼く・煮る・蒸す。揚げ物・濃厚ソースは控える。
コンビニで揃える実用セット(主食+たんぱく+果物+乳製品)
- 例1:おにぎり2〜3個+サラダチキン+バナナ+ヨーグルト飲料
- 例2:鮭おにぎり+ツナおにぎり+卵焼き+カットフルーツ+お茶
- 例3:ロールパン+低脂肪ミルク+チーズ(少量)+和風スープ
外食での選び方と避けたい落とし穴(油・辛味・生もの・新規食品)
- 選ぶ:定食のごはん大+焼き魚 or 照り焼き鶏(皮少なめ)+小鉢+味噌汁
- 避ける:揚げ物山盛り、激辛、にんにく大量、海鮮の生もの、こってり系ラーメン
水分・電解質の具体的プラン
目安量とセルフチェック(体重差・尿色・回数)
- 目安:30〜40mL/kg/日をベースに、活動で汗をかいた分を上乗せ
- 尿色:薄いレモン色を目標(濃ければ不足)
- 回数:日中で6〜8回ほどが目安
- 体重:起床時と就寝前の差が大きい場合は補水が足りていない可能性
移動・遠征日の“こまめ飲み”戦略
- 移動中は20〜30分ごとに150〜250mLを目安に小刻み補給
- 冷房・暖房・標高差で体感が変わるので、喉の渇き任せにしない
スポーツドリンクと水の使い分け
- 日中:水中心+合間にスポーツドリンク(薄めても可)
- 練習あり:発汗時はナトリウム500〜700mg/L程度の飲料を優先
- 就寝前:量は少なめ、甘すぎない飲料で胃もたれ回避
サプリメントの扱い方(必要性と注意点)
カフェイン・クレアチン等のエビデンスと“前日の可否”
- カフェイン:試合当日60分前に体重あたり約3mgが一般的目安。前日はルーティンにない摂取は控えるか、量を落とす(睡眠を優先)。
- クレアチン:日常的に3〜5g/日を継続している人は前日も通常通りでOK。初使用を前日に試すのは避ける。
鉄・ビタミンD・プロバイオティクスの考え方
- 鉄・ビタミンD:不足が疑われる場合は医療機関で検査の上、指示に従う。
- プロバイオティクス:効果を狙うなら数週間単位の継続が前提。前日だけでの変化は期待しすぎない。
ドーピングリスクと製品選びの基本
- 第三者認証(Informed-Sport、NSF Certified for Sport等)を選ぶ
- 成分表示が不明瞭、過剰な効果を謳う製品は避ける
- 初めての製品は前日に試さない
よくあるNGとその対策
糖質不足/脂質過多/“新しい食品”のリスク
- 主食が少ないとグリコーゲンが貯まらない→各食で主食を“見える量”に
- 脂質多め(揚げ物・こってり)は消化遅延→脂質は質と量をコントロール
- 前日に新規食品はリスク→「いつも食べ慣れたもの」を徹底
辛味・アルコール・カフェイン・睡眠負債の罠
- 辛味・アルコール:胃腸刺激と睡眠の質低下→前日は避ける
- カフェイン遅い時間:入眠を妨げる→午後〜夜は控えめ
- 寝不足:食事の効果も半減→就寝時刻を死守、画面時間も短縮
食べ過ぎと食べなさ過ぎを避ける量の見極め
- 食後2〜3時間で“軽く空腹”が理想。満腹・膨満感はNGサイン。
- 体重・尿色・便通をセットで確認し、翌回に反映。
前日24時間のチェックリストとテンプレ
行動チェック:食事・水分・睡眠・排便・体重
- 食事:朝2・昼3・間食1・夕3・就寝前1の配分で主食中心に
- 水分:30〜40mL/kgは達成?尿色は薄いレモン色?
- 睡眠:就寝前のスマホ時間を短縮、就寝3〜4時間前に夕食完了
- 排便:普段通りか、繊維と乳製品の量は適正か
- 体重:朝と夜で大きく減っていないか(補水不足の目安)
量の計算テンプレ(g/kg)と記録フォーマット
計算テンプレ
- 炭水化物=体重(kg)×6〜8(状況で5〜10)
- たんぱく質=体重(kg)×1.6〜1.8(1食0.3g/kg)
- 脂質=体重(kg)×0.8〜1.0
- 水分=体重(kg)×30〜40(mL)
記録フォーマット(メモ例)
- 体重/目標量(炭・たん・脂・水)
- 朝/昼/間食/夕/就前:主食◯g、たんぱく源、脂質、体調
- 尿色・回数、睡眠時刻、胃腸の状態、むくみ/けいれん有無
当日朝につなげるための最終確認ポイント
- 就寝前の軽食は適量で完了したか(満腹で寝ない)
- 当日朝に食べる内容を決め、用意は済んだか
- 試合中の補給(ジェル・ゼリー・ボトル)の準備はOKか
まとめ:明日のプレーを最大化する“前日の積み上げ”
タイミング×量を整えるとパフォーマンスが安定する
前日の24時間で、炭水化物を中心に「朝からコツコツ、夕に整えて、就寝前で微調整」。この一貫した流れが、当日の集中力・スプリント回数・終盤の粘りにつながります。
個人差を踏まえた微調整の進め方
体重・試合時刻・胃腸の強さで最適解は変わります。まずは一般的な目安から入り、尿色・体重・便通・睡眠感を“指標”として少しずつ調整しましょう。新しい食品やサプリは前日に試さないのが鉄則です。
今日から実行するための最小ステップ
- 主食量を増やす(各食で“見える量”)
- 脂質・辛味・食物繊維を控えめに
- 水分はこまめに、ナトリウムも適度に
- 就寝の3〜4時間前に夕食を終える
「試合前日の食事プランで差が出る最適なタイミングと量」を形にすれば、当日は落ち着いてプレーに集中できます。明日のために、今日の一皿から整えていきましょう。
