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ゲーゲンプレッシング 基本を図解イメージで整理

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リード文

ゲーゲンプレッシング(カウンタープレス)は、失ったボールを即座に奪い返し、相手が体勢を整える前に主導権を取り戻すための現代サッカーの核となる考え方です。本記事では「図解イメージ」を言語で再現しながら、ピッチの区分、時間と距離の基準、体の向き、誘導、役割分担までを一つの設計図として整理します。難しい理屈は最小限に、プレー中にパッと浮かぶ“映像”として理解できるようにまとめました。練習メニューとチェックリストまで通しで揃えているので、今日から導入・改善に活用してください。

導入:ゲーゲンプレッシングとは何か(カウンタープレスの定義と目的)

定義と歴史的背景(カウンタープレスとの関係)

ゲーゲンプレッシングは、ボールを失った直後に複数人で圧力をかけて即時奪回を狙う守備の原則です。欧州のトップレベルで体系化が進み、「攻め→守り→攻め」の切替を連鎖させるための方法として広まりました。カウンタープレスはほぼ同義で、相手のカウンターを起こす前に潰す発想がベースです。目的は「ボール奪回の確率を高める」「相手の前進を遅らせる」「奪回からのショートカウンターで即座にゴールへ向かう」の3つに集約されます。

得点との相関:奪回から10秒の価値

奪回直後は相手の配置が乱れており、守備の準備が不十分です。この「揺らぎ」の時間は長くても10秒前後とされ、ここでの前向きなファーストアクションがゴール期待値を押し上げます。逆に、奪回後に横パスや後ろ向きのタッチが続くと、相手の整列を待ってしまい優位が消えやすくなります。

図解イメージの読み方(本文では言語化で再現)

本記事では図の代わりに、位置関係を以下のように言語で表現します。例:「中央ハーフスペース・相手ボランチ背中・縦10m」→中央寄りのハーフスペースで、相手ボランチの背中側に、縦方向に10mの距離がある状況。矢印「→」は誘導方向、斜線「/」は遮断ラインのイメージとして読み替えてください。

図解イメージの前提:ピッチの区分と言葉の揃え方

縦5レーン・横3ゾーン(中央/ハーフスペース/サイド)

縦は「左サイド—左ハーフスペース—中央—右ハーフスペース—右サイド」の5レーン、横は「自陣—中盤—相手陣」の3ゾーンで認識を統一します。話を合わせるだけで連携の速度が上がるため、チーム内の共通語にしておくと実戦で迷いが減ります。

ライン間と背後の可視化(距離・角度)

相手の最終ラインと中盤の間(ライン間)、最終ライン背後の余白(背後)を常に言語化します。例:「ライン間8m・背後20m」→前向きで受けられる余白が8m、背後の走り込み余白が20m。角度は「斜め前」「カバーシャドウの外/内」で共有しましょう。

味方と相手の参照点(ボール、ゴール、相手の体の向き)

参照点は3つ。1)ボール位置、2)両ゴールとの直線、3)相手受け手の体の向きです。守備の誘導は「相手の視線と軸足」を読むと精度が上がります。体の向きが外向きならサイド圧縮、内向きならインターセプトを狙う、といった判断がスムーズになります。

基本原則を図解イメージで整理(5つの原理)

原理1:ボール周囲5秒・10m原則(時間と距離)

失った直後の5秒、半径10mが勝負。最短で2〜3人が圧力をかけ、遠い選手は前を切りつつラインを押し上げます。「5秒以内に触る/蹴らせる」「10m以内に味方2枚」の数的密度を作るのが基本です。

原理2:三方向からの囲い込み(影の圧力を使う)

正面の1stが遅らせ、背後と斜めから2nd/3rdが挟む三方向の囲い込み。「頭上→足元→背中」の順で選択肢を削り、背後からはカバーシャドウ(自分の影)で縦パスを消しながら奪取を狙います。

原理3:片側圧縮と逆サイド封鎖(誘導して奪う)

ボールがある側へ全体をスライドして密度を上げ、逆サイドは「見せて消す」。一見空いているように見せつつ、パスライン上にカバーシャドウを置いて実際は通らない状態を作ると、ミスや浮き球を誘えます。

原理4:体の向きでパスコースを遮断する

半身のスタンスで内側or外側を消すのがコツ。足の向きは誘導方向、肩の線は遮断ラインのイメージ。正面から真正面はぶつかるだけなので、必ず「切る→寄せる→奪う」の順にします。

原理5:奪回後のファーストパス原則(前進か保持か)

奪回の次の1タッチで運命が決まります。原則は「前向きに置く→縦or斜め前のフリーマンへ」。前進が無理なら2タッチ以内で角度を作り直し、相手の戻りが整う前に再加速します。

トリガーと合図:開始条件の図解イメージ

背向きトラップ・視線ダウンの瞬間

相手が背中で受ける瞬間は最も狙い目。視線が下がり、選択肢が足元だけになるため「寄せて切って挟む」がハマります。「背中!」など短いコールで全員のスプリントを同期させましょう。

浮き球・ハイボールの滞空時間

滞空中は相手がボールに縛られます。着地点に先回りして三角形で囲い込み、セカンドボールの弾道を予測。最初の接触で相手が後ろ向きなら、さらに一段強く踏み込みます。

タッチライン際での受け手孤立

タッチラインは“味方の壁”。外側が消えているので、内側と後ろの2択を切れば行き止まりになります。体の向きで内側を消し、縦を外へ流して奪取orスローインに逃がすのが得策です。

GKへのバックパスと弱い足への誘導

GKに戻った瞬間は全体押し上げの合図。キック精度が落ちる弱い足側へ切りながら寄せるとロングボールの精度を下げられます。最前線は縦のコースをシャドウで消しましょう。

ワンタッチ制限がかかった時(タッチ数・重心)

受け手の重心が後ろ、または足元が詰まってワンタッチしか使えない時は即プレス。コースが限定されるので、跳ね返りの先回りで奪う確率が高まります。

役割と配置:ポジション別タスクの言語化

1stディフェンダー:アプローチと誘導方向

最短で寄せ、片足を前に出して半身で誘導。原則は内切り外誘導(中央封鎖)ですが、相手の得意足や味方の配置で逆もあり。踏み込みの最後はボールと地面の間を狙ってタッチ方向を限定します。

2nd/3rdディフェンダー:カバー&インターセプト

2ndは1stの背中に三角の頂点を作り、縦パスをシャドウで消す。3rdは裏抜け警戒と奪取後の前進レーンを確保。ボール移動中に1歩前へ出る「予防」こそ成功率を引き上げます。

中盤三角形:背後ケアとライン間管理

中盤は背後の差し込みを監視しながら、ライン間で前向きを許さない配置をキープ。三角形を崩さず、誰かが飛び出したら他が蓋をする“伸縮”がカギです。

最終ライン:押し上げとコンパクトネス維持

プレスに合わせて4〜8m押し上げ、縦の分断をなくします。最終ラインが止まると間延びし、簡単に剥がされます。外→中へスイッチされた瞬間こそライン全体で一歩前へ。

GK:スイーパー・キーパーとしての裏ケア

背後のロングに対しては積極的にカバーリング。味方ラインの押し上げを後押しする位置取りを心がけ、奪回後は素早い配球で再加速のスイッチ役も担います。

局面別の図解イメージ(サイド/中央/ロングボール)

サイドでのトラップ:タッチラインを“味方”にする

1stが内切り、2ndが背中、3rdが内側の斜め前で三角形。外はラインで消えているので、出口は実質一つ。そこで奪うか、相手に苦しいバックパスを選ばせます。

中央での圧縮:ハーフスペースを使う/消す

中央は危険だが一番奪いやすい場所。ハーフスペースに2nd/3rdを立たせ、縦パスの受け手を半身でロック。背中側からのタッチで体を外向きにし、横へ逃がして回収します。

ロングボール対応:セカンドボール回収とライン管理

競り合いの周囲5〜8mに三角形を素早く展開。背後のスペースに対して最終ラインは1歩前で弾道を予測、GKはスイーパー対応。弾いた先を先回りする“予測力”が勝敗を分けます。

優位性の作り方:数的・位置的・質的の三層設計

2対1・3対2を作る立ち位置(三角形・菱形)

囲い込みは「三角形」で方向を限定、「菱形」でセカンドボールまで管理。数的優位を一時的にでも作るため、遠い選手が一歩踏み出して“余り”を作るのがポイントです。

影圧と誘導で縦パスを切る(半身の立ち方)

半身で内側のパスラインに影を落とし、外側に誘導。奪うのは次の局面でもOK。まず通したくない縦を消し、外で挟んでから刈り取ります。

過負荷→空間スイッチで即時攻撃につなぐ

片側を過負荷で奪い、奪回後は逆のハーフスペースへいち早くスイッチ。相手のスライドが戻る前に、2本目の縦で仕留める設計がフィニッシュに直結します。

フィジカルとメンタル:実行力を支える要件

短時間高強度(反復スプリント能力と回復)

5〜8秒の全力→20〜30秒の回復を繰り返せる能力が核。インターバル走と短距離ダッシュの組み合わせで、実戦に近い負荷を習慣化します。

方向転換と減速の技術(ステップ・角度)

速く寄せるだけでなく、減速して“止まれる”ことが大切。ラダー+減速ステップ、45°・90°の切替え練習で、踏み込みからの体重移動を磨きます。

合図の共通言語化(コール・ハンドサイン)

短いコール(例:背中!外!時間なし!)と指差しで全員の判断を同期。全員が同じ合図で動くほど、1歩目のズレが消えて成功率が上がります。

練習メニュー:図解イメージで理解を深める設計

3色ポゼッション:トリガー学習と即時切替

3チームでローテーション。奪われたチームが即プレス役に切替。コーチは「背向き」「滞空」「ライン際」などのトリガーをコールし、反応速度を鍛えます。

4対4+3フリーマン:中間ポジションの感覚化

中立のフリーマンを活用し、縦・斜めの中間ポジションを取る癖を作る。守備側はシャドウで縦を消し、外に誘導してからの刈り取りを徹底します。

5秒ルールのゲーム化:カウントダウンで習慣化

ボールロストから5秒は得点2倍などのルールで、即時奪回をスイッチ化。誰がカウントするかを決め、全員が時間を共有します。

ハーフコートのサイド圧縮ドリル:タッチ制限付き

サイドレーンで2タッチ制限を設定。内切り外誘導→三角囲い→出口封鎖までを流れで反復。タッチラインを“壁”として使う感覚を磨きます。

トランジション連続ゲーム:攻守切替の連鎖

シュート後すぐ新ボール投入で切替を連鎖。奪回→前進→ロスト→即プレスの循環を、心拍数が高い状態で反復します。

よくある失敗と修正ポイント

遅い第一歩と距離感のミス:スタンスと踏み込み

最初の1歩が遅いと全てが後手。膝を柔らかくして前足荷重、合図と同時に「半身の一歩」で距離を詰めます。最後は足裏で減速して真正面の衝突を避けます。

体の向きが平行で奪い切れない:半身で誘導

正対は選択肢を与えがち。片肩を前に出し、切る面と誘導面を明確に。ボールに足を出す前にコースを潰しておくのが肝です。

最終ラインの置き去り:押し上げタイミングの共有

前線だけがスイッチしても間延びします。ボールが外へ出た瞬間、バックパスの瞬間など「押し上げ合図」を固定し、ライン全体で1歩前へ。

ファウル多発:アプローチ角度と接触のコントロール

横からの無謀な差し込みは反則の温床。背中側のカットラインに入ってから、ボールと地面の間を狙うタッチに切り替えます。接触は胸より下、腕は広げないが基本です。

試合で使うためのプランA/B/C

リード時の強度調整とリスク管理

リード時は「トリガー限定型」に切替。全局面で追い回すのではなく、ライン際やバックパスなど確度の高い場面に絞って強度を集中させます。

交代選手の投入基準(強度・スプリント指標)

反復スプリントと回復速度を重視。投入直後の3分はプレス再加速の時間としてタスクを渡し、役割を明確化します。

暑熱・連戦時の負荷分散(ブロック化と波)

10〜15分の“波”を作って強度を上げ下げ。ブロック時間はラインを整え、波の時間はトリガー多めに。体力配分を設計して持続可能性を担保します。

相手が対策してくる時の打ち手

ロングボール回避への対応(カバーと回収の役割)

相手が早めに蹴るなら、競り+セカンド回収の準備を増やします。2nd/3rdは着地点予測、最終ラインは弾道読み、GKは背後ケアで分業を明確に。

可変3バック相手へのプレス設計

外のCBにボールが出た瞬間が狙い目。ウイングが外切り、インサイドが内を消す二段構えで、アンカーの足元をシャドウに入れます。

GKが起点のビルドアップ強者への圧力配分

GKへは遅らせ優先、内側の中盤へはパスコース遮断を徹底。誘導の先に“奪う場所”を設計し、外で数的優位を作って刈り取ります。

データで見る効果測定

PPDAと敵陣奪取回数(相関の捉え方)

PPDA(守備1回あたり相手に許すパス数が少ないほど高圧)と敵陣でのボール奪取回数は、プレス強度の指標になります。両者の変化を合わせて追うと、強度と成果のバランスが見えます。

奪回後10秒以内のシュート率

「10秒以内にシュート(またはPA侵入)」の割合は、ゲーゲンプレッシングの質を映しやすい指標。数値が伸びれば、奪回後の前進設計が機能しています。

ハイインテンシティランとプレス成功の関係

高強度ラン(一定速度以上のランの回数)が増えると、即時奪回の成功も比例しやすい傾向があります。疲労度との兼ね合いも見ながら、週単位で増減を管理しましょう。

年代別・レベル別の導入手順

高校・大学での段階的導入(原則→連携→全体)

まずは原則(半身・5秒・10m)を個人で体得→三角の連携→全体の押し上げへ段階的に。合図と言葉の統一を最初に行うと移行がスムーズです。

社会人・アマチュアの現実解(時間・人材の制約)

週2回なら、トリガー限定+セットメニューを固定化。再現性の高い「サイド圧縮」「バックパス合図」など、少数の型に絞るのが現実的です。

10代選手の保護者が見るポイント(安全と成長)

無謀なチャージを避ける技術(減速・角度・半身)を重視して教えることが、安全と上達の両立につながります。成功体験を小さく積み上げる練習設計が効果的です。

安全とフェアプレー:強度とリスペクトの両立

無謀なチャージを避けるための技術

「寄せる→止まる→奪う」の順序を徹底し、真正面の突進を避ける。接触は体幹で正面、腕は使わない、足裏は見せない。技術で奪う姿勢がフェアプレーの近道です。

審判基準の理解と適応(リーグ別傾向)

大会や審判によって接触の見方が異なることがあります。序盤で基準を観察し、許容範囲に合わせてアプローチ角度と強度を微調整しましょう。

チェックリスト:試合前/試合中/試合後

キックオフ前の合意事項(トリガー・合図)

  • トリガー3つ:背向き/バックパス/ライン際
  • 合図:声のキーワード+指差し
  • 押し上げの合図:外→中の瞬間/GK戻し

ハーフタイムの確認(距離感・押し上げ)

  • 5秒内接触できているか
  • 最終ラインの一歩前が同期しているか
  • 奪回後のファーストパス方向は前向きか

試合後レビュー(クリップと指標の照合)

  • 敵陣奪取の回数・時間帯
  • 奪回→10秒内のシュート/侵入
  • 失敗の原因分類:距離・角度・体向き・合図

ケーススタディ:傾向から学ぶ

国際大会で見られる共通原則の傾向

切替の最初の3歩が速い、囲い込みは三角、奪回後は逆サイドハーフスペースへ。どの国・チームでも、原則の徹底と“前進の出口”設計が共通しています。

国内クラブの取り組み事例に見える工夫

練習での「固定トリガー」「合図の簡略化」「菱形でのセカンド回収」など、実装の仕掛けが工夫されています。再現性の高い型を日常化するのが鍵です。

高校世代の成功パターン(再現可能な要素)

前線の一体スプリント+中盤の半身+最終ラインの1歩前。難しいことより、原則の丁寧な積み上げが強さにつながります。

用語集(クイック)

カウンタープレス/ゲーゲンプレッシング

ボールロスト直後に即座に奪い返すための集団的な圧力。ほぼ同義として使われます。

コンパクトネス

縦横の距離を詰めて、味方同士のサポートと圧力の密度を保つこと。

影の圧力(カバーシャドウ)

自分の背後に相手を隠し、パスラインを体の影で消すこと。半身で作ります。

リカバリーラン/リトリート

背走で守備位置に戻ること/一度低い位置に引いてブロックを作る判断。

まとめと次のステップ

今日から実装する3アクション

  • 「5秒・10m・半身」を全員の合言葉にする
  • 固定トリガー(背向き/バックパス/ライン際)を決める
  • 奪回後の出口(逆ハーフスペース)を必ず用意する

練習設計の優先順位と評価サイクル

原則の体得→小さな三角形の連携→全体の押し上げの順に。毎試合の「敵陣奪取」「10秒内シュート」「高強度ラン」を簡易記録し、週単位で振り返りましょう。

継続のコツ:小さな成功体験の積み上げ

1回の即時奪回、1本の前向きファーストパス、1歩の押し上げ。小さな達成を見える化すると、チーム全体の基準が自然に上がります。ゲーゲンプレッシングは「設計×合図×最初の一歩」。言葉で図を共有し、全員で同じ映像を持てば、現場での再現性は必ず高まります。

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