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幅と深さの取り方でチームは変わる|イメージでわかる

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ピッチの上で同じ11人でも、立ち位置と動きの“幅”と“深さ”が変わるだけで、まるで別チームのようにボールが回り、相手が苦しみ、ゴールの匂いが濃くなります。本記事は、図解がなくても頭の中で絵が浮かぶように、言葉とイメージで「幅と深さ」を整理します。難しい理屈よりも、今日の練習・明日の試合で使える合図と判断を重視。チームの共通言語づくりに役立つ実戦的な内容をお届けします。

はじめに|幅と深さでサッカーの景色は変わる

この記事の狙いと読み方(イメージで理解する)

狙いはシンプルです。「幅=横の広がり」「深さ=縦の押し引き」を、配置と動きで再現できるようにすること。各章では、状況→基準→合図→イメージの順で短く整理します。トレーニングで使うなら、セクション末の“合図ワード”と“人数・回数”のヒントだけでもメモしておくと現場で便利です。

“幅”と“深さ”のシンプル定義

幅とは、相手の守備を横に引き伸ばす立ち位置とボール循環。深さとは、相手の背後・最終ライン裏とライン間を同時に脅かす押し出しと走り。どちらも「ボール保持者の選択肢を増やすための空間づくり」と捉えると、役割の分担が明確になります。

なぜいま幅と深さなのか(現代サッカーの文脈)

現代は守備のスライドが速く、ブロックの距離も短い傾向。つまり“ただ回すだけ”では崩れません。幅で時間を作り、深さでラインを動かし、再び幅で決定機へ。相手の集団意思決定を遅らせる鍵が、この二つのかけ算にあります。

基本概念をそろえる|ピッチをどう切り取るか

5レーンとハーフスペースの考え方

ピッチを縦に5分割(左サイド−左ハーフ−中央−右ハーフ−右サイド)。ハーフスペースはゴールに近く、角度も作れる“渋滞しない幹線道路”。誰がどのレーンを占有するかが、幅と深さの骨格になります。

縦ズレ・横ズレ・斜めズレの作り方

ズレは「ラインを一枚はがす工夫」。縦ズレは最終ライン背後とライン間、横ズレはサイドチェンジ、斜めズレは受け手と出し手の角度調整。ボール保持者と受け手の二人で“目線のズレ”を作るのが最短です。

ライン間・最終ライン背後・サイドレーンの言語化

共通言語を統一しましょう。ライン間=CBとMFの間、背後=最終ラインの裏、サイドレーン=タッチライン寄りの通路。「間」「裏」「外」の三語で十分伝わります。

攻撃における幅の取り方|相手を横に裂く技術

タッチラインを使う・使わないの判断基準

相手のSBが狭く守るなら“張る”。WBやWGが高い位置で張ると、相手は横スライドが長くなります。逆にSBが外で待っているときは“内側に絞る”。タッチラインは味方の壁にもなるので、受け手が孤立しそうなら一歩内へ。

ウイングが張る/SBが張るの使い分け

WGが張るならSBは内側へ(偽SB化)して中盤の数的優位を作る。SBが張るならWGは内側でライン間へ。外と内の役割を入れ替えるだけで、相手の基準点を狂わせられます。

IHやCFの流動で幅を生む方法(偽ウイング化)

サイドで数的不利なら、IHやCFが一時的に外へ流れて“偽ウイング化”。外で数的同数を作り、内側の味方が顔を上げる時間を確保します。戻るときは必ず斜めに戻ってマークを引き連れるのがコツ。

逆サイドの幅・高さの管理(反転の準備)

ボールサイドと逆サイドで高さをずらすと、サイドチェンジ一発でフリーを作れます。逆サイドの選手は“オフサイドラインと平行ではなく、半歩後ろ”が目安。視野にボールと背後の両方を入れておくこと。

イメージで理解:幅で2対1を作る配置

絵を思い浮かべてください。サイドレーンに張る選手(外)とハーフスペースの選手(内)が、相手SBの両肩を挟みます。ボール保持者は外に出し、内が背中側へスプリント。相手SBが外に釣られた瞬間、内への縦パスか裏スルー。肩を同時に押さえる“二点止め”で2対1が完成します。

攻撃における深さの取り方|相手を縦に裂く技術

最終ラインの背後を脅かす“見せるラン”

常に裏へ抜ける必要はありません。重要なのは「相手CBの首を一回振らせる」こと。1歩抜ける“見せるラン”でラインを後退させ、足元の選択肢を広げます。無駄走りではなく“抑止力の走り”です。

ライン間の受けと背後走りの連動

ライン間に降りる選手と背後に走る選手はセットで動くと効果が倍増。降りた瞬間に周囲が裏を取ると、相手は食いつくか下がるかの二択に。ボール保持者はどちらでも正解になる角度を作るのが役割です。

タイミング論:ボールより先に動く/遅れて動く

背後への動きは“出し手の視線が上がる前に動く”のが基本。あえて遅らせたいときは、受け手が足元で引きつけてから“遅れて”斜めに抜ける。走り出しの合図をチームで統一しましょう。

イメージで理解:釣って刺す“深さ”の作法

CFがCBを連れて一歩手前に降りる→IHがその背中を通って斜めに裏へ→SBからIHへスルー。釣り(降りる)と刺す(裏抜け)が一直線ではなく“斜めで交差”するほど、相手は捕まえづらくなります。

幅×深さのかけ算|崩しの方程式

幅で広げて深さで刺す(原則パターン)

外で時間を作る→内で加速、が基本。サイドで数的同数を確保し、逆サイドの深さ役が準備。相手が遅れて中央が開いたら、カットインから背後へスルーで決定機に。

深さを見せて幅を空ける(逆手パターン)

早い段階で裏を2度見せると、相手SBとWGが深さに釣られて外が空きます。以後は外で数的優位を作り、クロスや折り返しへ。先に縦を匂わせるのがポイント。

中央密度とサイド解放のバランス

中央に人を集めるほど外は空き、外に張るほど中は開きます。意図的に“中3外2”などの枚数設計を。迷ったら、中盤は同数、最終ラインは+1、最前線は深さ1枚が目安。

イメージで理解:3人目の動きで三角を貫く

外(SB)→内(IH)→外(WG裏抜け)とボールは二辺を通り、3人目が三角の頂点を貫きます。受け手は足元を見せておいて、パスが来る瞬間に“背中側へ角度を変える”のが決め手。

ビルドアップ段階別にみる幅と深さ

自陣ビルドアップ:幅でプレス回避、深さで一発脱出

CBとSBの距離を広げ、アンカーが相手1stラインの背後で顔を出す。深さ役はCFがCBの間に立ち“見せるラン”を繰り返す。横→縦の切り替え点を決めておくとミスが減ります。

中盤進行:ハーフスペースの占有とローテーション

IHとWG、SBが三角形で回りながらハーフスペースを交代利用。受け手が潰されたら、即座に別の味方が同じ場所に“次の顔”を出します。空間を連続占有するイメージです。

最終局面:ニア・ファー・カットバックの深さ設計

クロス時は“ニアで釣る・ファーで仕留める・ペナ外で拾う”の三層を必ず用意。高さ違いも加えて、相手の視線を分散します。カットバック役は一歩引いたパーキングの位置へ。

イメージで理解:ラインを1本ずつ越える地図

1stラインは幅で、2ndラインは間で、最終ラインは深さで超える。地図をなぞるように「広げる→差す→こぼれを拾う」の順で層を崩します。

布陣別の最適解|4-3-3/4-4-2/3-4-2-1の違い

4-3-3:WGとSBの幅役割、IHの深さ進出

基本はWGが幅、SBは内側で数的優位、IHが背後へ差し込み。CFは降りて楔の起点。相手に合わせてWGとSBの外内を入れ替えると、同じ形でも違う表情が出ます。

4-4-2:2トップの深さ表現とサイドハーフの幅

2トップでCB間に立ってラインを押し下げ、SHが幅と内走りを両立。片方のトップが降り、もう片方が裏で“釣りと刺し”を分業すると分かりやすいです。

3-4-2-1:WBの高幅、シャドーのライン間占有

WBが高い幅で押し上げ、シャドーがライン間で受けて縦関係を作る。CFはCBを固定し、逆サイドWBの二次加速でファー狙い。外の高さが出やすい分、リスク管理の合図を共有しましょう。

選手特性に合わせた“幅・深さ”の再配分

足の速いWGがいなければIHを深さに、配球型SBなら内側に。システムより“誰がどの空間で生きるか”で配分を再設計。固定観念に縛られないのがコツです。

ポジション別タスク|誰が幅を作り、誰が深さを出すか

SB:内外の立ち位置で幅を操る

外に張れば縦突破のレール、内に入れば中盤の数的優位。ボールサイドでは速く、逆サイドでは遅く高くが目安。ボールを受ける前に身体の向きを作りましょう。

WG:張る・絞る・裏抜けの三択管理

張る=時間を作る、絞る=角度を作る、裏抜け=脅威を作る。毎回三択を宣言するつもりでポジション取りを。足元だけで完結しないのが強いWGです。

IH/シャドー:ライン間で振る舞う“受け手と出し手”

半身で受ける→ワンタッチで外か裏へ。背中に相手がいるなら“触る前に決める”。出し手と受け手を1プレー内で切り替えられると攻撃が加速します。

CF:深さの起点と釣り役(楔・裏・落とし)

体の向きは常にゴールと味方の両方へ。楔で止める、裏で引っ張る、落として走る。3つを1本のプレーでつなぐと守備者はついてこられません。

守備における幅と深さ|奪うための“圧縮と背後管理”

横スライドと縦コンパクトネスの両立

ボールサイドへ横スライドしつつ、背後は最終ラインと中盤の距離を短く保つ。ボールから最も遠い選手の高さで縦の基準線を合わせると、間延びを防げます。

最終ラインのコントロール(背後の消し方)

「出る・下がる」をCBが宣言。背後のスペースはGKと共有し、相手が見せるランだけのときは“我慢してライン維持”。飛び出すのは出し手の視線が上がった瞬間です。

プレス誘導:幅をあえて与え、深さを消す

外へ誘い、縦を切る。内側のパスコースを影で消して、サイドで捕まえる。奪った後の出口(味方の位置)まで設計しておくとカウンターが刺さります。

イメージで理解:三角形でボールを囲い込む

正面1人、内側1人、背後カバー1人でボール保持者を三角形で挟む。前から奪えなくても、内側の縦パスを遮断して外へ追い込み、タッチラインを“4人目”として使います。

トランジションの幅・深さ|3秒と6秒の原則

奪った直後:最速の幅取りと最短の深さ出し

最初の3秒で“外・裏・安全”の三択を瞬時に。逆サイドが一気に幅、高さ1人が裏へ、出し手は安全に前向き。最初のパスが前を向けるかどうかで、その後の展開が決まります。

失った直後:即時奪回の幅圧縮と背後遮断

6秒は奪い返しの黄金時間。周囲3人で囲い、逆サイドは背後を消す。ファウルで止める判断も含め、チームで共通基準を持ちます。

セーフティとリスクの判断基準

敵陣なら前向きに賭ける、自陣なら内側のロストは避ける。相手の人数とゴールまでの距離で判断。迷ったら“外へ出す>縦へ急ぐ”を優先。

イメージで理解:矢印の向きを揃える

ボールが奪えそうな方向へ、全員の矢印(体の向き・重心)を揃える。最短距離で三角形を作れば、2本目のパスで前進できます。

セットプレーで変わる“幅と深さ”の勝負

CK:ニア/ファー/リバウンドの深さ分布

ニアは触ってコースを変える、ファーは仕留める、ボックス外は二次回収。配置の高さ違いで相手のマークを迷わせます。キッカーは蹴る前に“狙いの高さ”を合図。

FK:直接と間接で変わる幅の取り方

直接狙いは壁の外側を広く空けてGKの視界を遮らない。間接はオフサイドラインをずらし、二段モーションで裏へ。走り出しのタイミングを統一しましょう。

スローイン:即時の幅確保と三角形再生

近い、遠い、背後の三択を常設。背中を触られても体を開いて投げやすい角度に。入ってすぐの“戻し”で三角形を作り直すのが安全策です。

イメージで理解:二次攻撃の配置図

ファーで外したボールを、ペナ外の“Dの手前”で回収→即サイドへ→低く速い折り返し。外→中→外の二次攻撃で守備者の重心を振ります。

よくある課題と修正のアイデア

幅を取る選手がいない/被りが起きる

「外は誰?」を事前に宣言。被ったら内側優先で一人が深さへ逃げる。ベンチからの合図は「張れ/絞れ」で統一。

深さの脅威がなくラインが上がってこない

裏への“見せるラン”を1本増やすだけでも効果あり。CFが降りたらWGかIHが自動で裏へ。縦の役割を常に2人で分担します。

逆サイドが死ぬ(攻撃の片寄り)

逆サイドWGは“ハーフウェー+半歩前”で待機。ボールが内に入ったら同時に高さを上げる。サイドチェンジの起点はアンカーとSBで作ります。

改善チェックリストと合図(コールワード)

  • 幅:張る/内へ/逆待て
  • 深さ:裏見せ/止まれ/遅れて
  • スイッチ:外→中! 中→裏!
  • 安全:リセット(やり直し)/外逃げ

トレーニングメニュー|個人・ユニット・チーム

個人:第3の動きと視野確保のルーティン

2人目が受ける瞬間に3人目が走る“第3の動き”を反復。コーン2本をゴールと見立て、半身で受け→ワンタッチで前向き→斜めに抜ける。30秒×6本を目安に。

ユニット:SB×WG×IHの三角連動ドリル

三角形で外→内→裏の順にパスとラン。役割をローテーションして全員が“張る・絞る・刺す”を体験。制限は最大2タッチ、合図は「裏見せ→足元→刺す」。

チーム:5レーン管理のゾーンドリル

縦5レーンにマーカー。各レーンに最低1人、最大2人まで。サイドチェンジ後3秒以内に逆サイドの高さを作るルールで、幅と深さのリズムを学びます。

負荷調整と段階的進行(制限ルールの使い方)

成功したらタッチ制限を厳しく、失敗が増えたらフリーマンを追加。負荷を“ボール速度→判断速度→走力”の順で上げると怪我が減ります。

試合準備と分析|幅・深さを数値と映像で見る

相手分析:サイド圧と最終ライン速度の見極め

相手SBの初動(内外)とCBの背走速度をチェック。サイド圧が強いなら内側で数的優位、背走が遅いなら早めに深さを連打。前日ミーティングで共有。

自チームの指標化:ライン間距離・レーン占有率

目安として、守備時のライン間は10〜15m、攻撃時は15〜20m。5レーンの占有は常時3〜4レーンを確保。完璧でなくてOK、傾向を掴むことが大切です。

映像振り返りのフレームワーク(静止画3点法)

静止画にして「ボール保持者」「幅の起点」「深さの起点」の3点を毎回確認。3点が一直線なら崩れにくい、三角になっていれば選択肢が増えます。

イメージで理解:ゲームプランの地図化

前半は幅で疲れさせ、後半は深さで刺す、など時間帯別に矢印を描く。選手が頭の中で地図を持てば、迷いが減ります。

ケーススタディ|状況別の判断テンプレート

押し込んだが崩せない時の幅・深さ

外で待つだけでなく、内に一度入れてから外へ“出し直す”。逆サイドの高さを1枚上げ、カットバックの準備を増やします。

押し込まれた時の脱出とカウンター準備

外へ逃がし、縦に1本。CFは体を張り、周囲が“落としの次”を用意。最初のパスで前向きになれるかを最優先に。

雨・強風・硬いピッチでの調整ポイント

雨は足元より裏、強風は地を這うパス、硬いピッチはファーストタッチを大きく。環境に合わせて“幅は浅く、深さは速く”が合言葉です。

終盤のスコア状況別(勝ち切り/追いつく)

勝ち切りは逆サイド高めで時間を作り、深さは最低限。追いつくなら外幅を保ちつつ、IHの連続裏抜けで枚数を増やす。リスクはボールサイドで限定。

Q&A|現場でよく出る疑問に答える

幅を取りすぎると孤立する問題

外が孤立するのは“内のサポート角度不足”が原因。ボール保持者の視野に入る45度の位置へ、必ず一人が寄りましょう。

深さを出す走りの疲労と配分

全力の裏抜けばかりは不要。“見せるラン”と“全力ラン”を1:3で配分。走る前に視線で駆け引きすると省エネです。

可変システム時の役割迷子の解消

背番号や名前ではなく「外・間・裏」の3役で呼ぶ。交代や可変でも役割がぶれず、意思疎通が速くなります。

ジュニア年代での伝え方と言語化

「広がる=友達が見える」「深く=ゴールに近づく」と具体に。大人の言葉を短く、合図はジェスチャーも併用。

まとめ|“幅と深さ”をチーム文化にする

今日からできる3つの即効アクション

  • 合図を統一:「張れ/絞れ/裏見せ/遅れて」
  • 逆サイドの高さを1枚上げるルール化
  • 静止画3点法で週1回の映像確認

練習から試合へつなげる共通言語の定着

練習メニュー名に“外・間・裏”を入れ、声かけでも同じ言葉を使う。言語が揃うと、判断が揃います。小さな成功体験を積むほど、幅と深さは自然に出ます。

チェックリスト(試合前・ハーフタイム・試合後)

  • 試合前:外を誰が取る? 裏は誰が走る?
  • ハーフタイム:逆サイドの高さは作れている?
  • 試合後:崩せた場面で三角はできていた? 改善点は合図で表現できる?

おわりに

戦術は複雑に見えて、現場で効くのは単純で再現性のある合図と配置です。幅で時間、深さで脅威。たったこれだけで、チームの“景色”は変わります。今日の練習から一つずつ、共通言語を増やしていきましょう。

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