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オフサイド 守備側が触れたら?「意図的なプレー」の線引き

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リード文

「守備が触れたらオフサイドは解除でしょ?」——そう言い切ってしまうと、痛い目を見ます。サッカーのオフサイドは「位置」だけでなく「関与の仕方」と「その前に何が起きたか」で判定が変わります。とくに混乱しやすいのが、守備側がボールに触れたあとに攻撃側が関与したとき。鍵となるのは、守備側の『意図的なプレー(deliberate play)』か、それとも『ディフレクション(偶発的な当たり)』か、そして『セーブ(得点を防ぐ行為)』かという線引きです。本記事では、競技規則の要点を平易に整理しつつ、現場で役立つ目安、練習方法、ケーススタディまで一気に解説します。

はじめに:なぜ『守備側が触れたら』が論点になるのか

試合で頻発する“触れた後のオフサイド”混乱の理由

ボールが守備に触れた瞬間、味方ベンチは「解除!」と叫び、相手は「オフサイド!」と手を挙げる——どちらも起こりがちです。原因は単純で、「守備が触れた事実」と「プレーが意図的だったかどうか」が混同されやすいから。競技規則上、“触れた”だけでは判定は動きません。触れ方の質が問われます。

結論の先取り:『意図的なプレー』が線を引く

大枠のルールはこうです。守備側が『意図的にプレー』した場合、オフサイドの対象となる攻撃者の“利得(リバウンドやこぼれ球を得る)”はリセットされ、関与が許されます。一方、守備側の触球が『ディフレクション(単なる当たり)』や『セーブ(得点を防ぐ行為)』であれば、リセットは起きず、オフサイドは継続します。この線引きがわかれば、ほとんどの場面は整理できます。

オフサイドの基礎を30秒で整理

3つの要素(位置・タイミング・関与)

  • 位置:味方がボールを蹴った瞬間、相手陣内で「ボールと2人目の相手より前」にいるとオフサイド“ポジション”。
  • タイミング:判定の基準時は味方の「キックの瞬間」。
  • 関与:その後のプレーでボールや相手に関与したかどうかで反則が決まる。

『ポジションにいるだけ』では反則にならない

オフサイド“ポジション”にいるだけでは反則ではありません。ボールに触れる、相手の視界を妨げるなど「関与」があって初めて反則の可能性が生まれます。

関与の3タイプ(プレー・相手の妨害・リバウンドでの利得)

  • プレー:ボールに触れる、プレーしようとする。
  • 相手の妨害:視界を遮る、チャレンジして動きを阻害するなど。
  • 利得(gaining an advantage):ポストや相手、GKの弾きから有利を得る。

キーワード解説:守備側の『意図的なプレー』とは何か

定義の要点:自らボールをプレーする意思と行為

『意図的なプレー』とは、守備側が自分の意思でボールにプレーしようとし、その結果としてボールに触れた状況を指します。完璧にコントロールできている必要はなく、ミスになっても「意思と行為」があれば意図的に該当します。

『ディフレクション(単なる当たり)』との違い

『ディフレクション』は、近距離・高速・不意などで避けられずに当たっただけの状況。体のどこかに偶発的に跳ね返った場合で、守備側がプレーを選べなかったとみなされます。これはリセットになりません。

『セーブ(得点を防ぐ行為)』は別扱いでリセットしない

『セーブ』は、ゴールへ向かう、または非常に近いシュートやキックを止める/止めようとする行為。GKに限らず、フィールドプレーヤーのブロックや頭での阻止も含まれます。セーブは意図的であってもオフサイドのリセットにはなりません。

判定のチェックポイント7(時間・距離・速度・姿勢・視認・プレー方向・相手の圧力)

  • 時間:ボールに備える余裕があったか。
  • 距離:ボールまでの距離は十分だったか。
  • 速度:ボールのスピードは対応可能だったか。
  • 姿勢:体勢やバランスは整っていたか。
  • 視認:ボールを見て判断できたか。
  • プレー方向:どこへプレーしようとしたか(意図が見えるか)。
  • 相手の圧力:チャージや接触で不可抗力になっていないか。

線引きの実例:ケーススタディで理解する

ゆるいクロス→DFがヘディングを試みミスキックに:多くは『意図的』

ボール速度が中速以下で、DFがジャンプしてヘディングを選択。狙いはクリアや味方への落とし。結果がミスで相手に渡っても、意思と行為があれば『意図的なプレー』としてリセットされる可能性が高いです。

至近距離の強烈な折り返し→太腿に当たって跳ねる:多くは『ディフレクション』

1〜2mの至近距離で高速のボールが当たっただけなら、選択の余地がなく『ディフレクション』。リセットは起きません。

GKがシュートを弾いたボール→攻撃側が受ける:『セーブ』はリセットしない

枠内シュートのセーブはリセット対象外。オフサイド位置の選手が利得を得ればオフサイドの可能性が高いです。

スライディングブロックで触れた場合:ブロックかプレーかの見極め

「ゴールやシュートコースを塞ぐブロック」はセーブやディフレクション寄りでリセットしにくい。一方、スライディングでパスカットし、はっきりと方向づけを狙ったなら『意図的』の評価が上がります。

背後へのロングボール→DFが後方ヘディングで戻す:意図の有無とコントロール可能性

余裕を持って後方ヘディングでGKへ戻す試みは『意図的』になりやすい。ジャンプの余地がなく、振り向きざまに頭に当たっただけなら『ディフレクション』の可能性が高まります。

胸トラップを試みてこぼした場合:プレー意思があれば『意図的』に該当しやすい

胸で収める、足元に落とすといった明確な操作の意思が見えるなら、ミスでも『意図的』。結果ではなく過程が評価されます。

ハンドが関係する場面:反則判定とオフサイドの優先関係

守備の手や腕に当たった場合、審判がハンドの反則と判定すればその時点でプレーは止まり、オフサイドは問題になりません。ハンドでないと判断された軽微な接触は、意図的なプレーには原則数えられず、当たり方の性質(意図・可否)で評価されます。なお、手や腕はオフサイド“位置”の判定には含まれません(GKを含む)。

判断プロセス:主審・副審・VARはこう考える

副審の『遅延フラッグ』とプレー継続

明白な得点機会が続く場面では、副審はすぐに旗を上げず、プレー結果を待ってから合図することがあります。誤ってチャンスを止めないための運用です。

VARチェックの焦点:ボールが『いつ』『誰に』『どう触れたか』

VARは、キックの瞬間(位置)、最後に触れた相手の種類(意図的/ディフレクション/セーブ)、関与のタイミングを映像で詳細に確認します。

フェーズのリセット:『最後に意図的にプレーした相手』で更新される

守備側の『意図的なプレー』があった時点でフェーズは更新。『セーブ』は更新しません。更新後に関与したなら、たとえ直前にオフサイドポジションだった選手でも罰せられないことがあります。

よくある誤解の整理

『守備が触れたら常にオフサイド解除』は誤り

解除条件は『意図的にプレーしたか』です。セーブとディフレクションは解除になりません。

『ミスは意図的じゃない』は誤り(意思と行為があれば意図的)

狙いがあり、自らプレーしたならミスでも『意図的』に該当します。

『キーパーが触れたら解除』は条件付き(セーブは除外)

GKのプレーでも、シュートを止めるセーブはリセットしません。パス処理やキャッチミスなどは局面により『意図的』になり得ます。

『一度オフサイドなら何をしても反則』は誤り(関与時点とリセット)

関与の瞬間にリセットが起きていれば反則ではありません。起点は常に動きます。

判定の目安:フィールドで使える7つの質問

ボールまでの距離は十分だったか?

3〜5m以上の余裕があれば『意図的』の可能性が上がります。

速度や弾道は予測できたか?

中速〜低速、視界に入っている弾道は対応可能と見なされやすいです。

視界と体の向きは整っていたか?

正対し、準備できていれば『意図』が問われます。背後からの当たりは『ディフレクション』寄り。

ボールへ自ら動いてプレーしたか?

踏み込み、ジャンプ、体を運ぶなどの“選択”が見えればプラス評価。

片足・頭・体幹などコントロール可能部位で触れたか?

胸や足インサイドなどは『意図的』評価に寄りやすい。かかとや脛の偶発接触は寄りにくい。

相手の強い圧力や接触で不可抗力になっていないか?

明確な接触でバランスを崩しての接触は『ディフレクション』判定を後押しします。

結果(ミスの有無)ではなく行為の質で判断できるか?

「ミス=非意図的」ではありません。過程を見ましょう。

攻撃側の実戦対策:有利にするためのプレー原則

守備に時間を与えない圧力で『ディフレクション』を誘発

速い折り返しやニアゾーンへの速いグラウンダーで、守備が選択できない状況を作ると、ディフレクションが起きやすくなります。

二次攻撃の準備:こぼれ球・セカンドボールの優先順位

セーブやブロック後はオフサイドが継続する可能性が高いので、オンサイドの選手が“二列目の拾い役”として準備すると安全です。

関与の注意点:GKやDFの視界を妨げれば反則になる

オフサイドポジションでの駆け引きは、相手の視界や動きを妨げると反則。立ち位置・動線は慎重に。

味方のキック瞬間を合図に動き直す(再スタートの感覚)

フェーズが更新されるのは相手の『意図的なプレー』のあと。味方の次のキックを“リセットの合図”として、動き直しを徹底しましょう。

守備側の実戦対策:リセットを許さない・させる判断

はっきりクリアかコントロールかを即決する

曖昧な触球は相手にチャンスを与えます。危険地帯では「ブロック=セーブ寄り」でOK、余裕があれば落ち着いてコントロールを選択。

第一タッチの方向づけでリスクを減らす

外へ逃がす、タッチライン方向へ運ぶなど、明確な方向づけは『意図的』でも安全度が高い選択です。

危険地帯では『セーブ』の選択でオフサイド維持

枠内の強いシュートはまずブロック。たとえこぼれても、オフサイド継続が期待できます。

ライン統率と声かけ:意図的プレーの可否をチームで共有

「今は触るな」「クリア優先」といった合図を共通言語に。DFラインとGKの意思疎通で、不要なリセットを避けましょう。

年代別の教え方のコツ

中高生向けの覚え方:『時間があって自分から触れたら意図的』

「準備できて、自分から触ったらリセット、当たっただけは継続」——短いフレーズで脳に刻みます。

保護者・初心者への説明フレーズ:『当たっただけは解除じゃない』

難語を使わず、まずはこれだけ伝えると観戦がスムーズになります。

チーム内共通言語の作り方:プレー/ブロック/セーブの言い分け

「プレー(コントロールまたは明確な方向づけ)」「ブロック(コースに入る)」「セーブ(得点阻止)」と用語を整理して共有すると、試合中の判断の質が上がります。

トレーニングドリル例:判断力と技術を同時に鍛える

ヘディングの判断ドリル(前進・後退・横移動)

コーチがさまざまな弾道でボールを供給。選手は「クリア」「落とす」「スルー」の選択を瞬時に判断。合図で状況(時間・距離)を変え、意図的プレーの品質を上げます。

スライディングブロックからのリカバリー対応

クロスやシュートに対してブロック→こぼれ球対応までをセットで。セーブ後のマーキングと二次守備を素早く整える習慣を付けます。

GKの弾き出しとDFのセカンド対応ゲーム

GKは枠内シュートを外へ弾く技術、DFは弾かれた方向の優先順位を決めてセカンド回収。攻撃側はオンサイドでの詰めを徹底。

判定付きゲーム形式:主審役を交代しながら学ぶ

選手が交代で主審役を担当し、「意図的」「ディフレクション」「セーブ」を宣言。判定理由を言語化し、認識を合わせます。

競技規則の要点を押さえる

競技規則第11条の該当箇所(オフサイド)

第11条では、オフサイドの判定基準と『意図的なプレー』『ディフレクション』『セーブ』の扱いが定義されています。判定は「位置」「キックの瞬間」「関与の仕方」で構成されます。

『意図的なプレー』『ディフレクション』『セーブ』の用語整理

  • 意図的なプレー:守備が自らボールにプレーしようとした行為(ミスでも可)。
  • ディフレクション:選択の余地なく当たっただけの跳ね返り。
  • セーブ:ゴールへのショット等を止める/止めようとする行為(誰が行ってもリセットしない)。

最新版の確認方法(公式資料の参照先)

最新の競技規則は、IFAB(The IFAB)公式サイトまたは日本サッカー協会(JFA)の競技規則ページで公開されています。大会ごとの通達や運用メモも確認しましょう。参考:theifab.com、jfa.jp

境界事例の深掘り:難しいグレーを解像度高く見る

至近距離のシュートブロックとこぼれ球

1〜2mでの強いシュートへのブロックは多くが『セーブ』扱い。こぼれ球でオフサイド位置の選手が得点しても、リセットがないためオフサイドが成立しやすいです。

背後からの接触で軸足が崩れたタッチ

接触によりコントロール不能になった場合、触球は意図的評価が下がり、『ディフレクション』寄りに捉えられることがあります。

風やバウンドの影響で想定外に逸れたボール

環境要因で軌道が変化しても、準備時間があり選手が意思をもってプレーしていれば『意図的』と評価される余地はあります。逆に準備がないまま当たっただけなら『ディフレクション』です。

味方同士の接触後に守備が触れたケース

味方のタッチは関係ありません。最後に「守備側がどう触れたか」が重要。そこが『意図的』ならリセット、『ディフレクション/セーブ』なら継続です。

ミニクイズ:あなたならどう判定する?

ケース1:ゆるいクロス→DFのミスヘッド→前方の攻撃者が得点

判定の目安:『意図的なプレー』。ヘディングを選択し、準備時間があったならリセット。オフサイド位置の攻撃者でも関与が許される可能性が高い。

ケース2:至近距離の折り返し→DFの足に当たり→オフサイド位置の選手へ

判定の目安:『ディフレクション』。解除なし。オフサイド成立の可能性が高い。

ケース3:GKのセーブ→ポスト→同じ選手が押し込む

判定の目安:『セーブ』はリセットしない。オフサイドポジションであれば利得によりオフサイド。

ケース4:DFがスライディングで触れコースが大きく変化→攻撃者が受ける

判定の目安:プレー意図の有無が鍵。パスカットの方向づけを狙って触れたなら『意図的』、ただのブロックなら解除なし。

ケース5:DFが胸で収め損ねる→高く浮いたボールをオフサイド位置の選手が拾う

判定の目安:胸トラップの意思が明確なら『意図的』。ミスでもリセットが起き、オフサイドは取られにくい。

ベンチとピッチで使えるチェックリスト&要点まとめ

一行まとめ:『自分からプレーしていれば解除、当たっただけは解除じゃない』

まずはこの一行を全員で共有しましょう。

試合中に即確認する3ポイント(触れ方・距離・圧力)

  • 触れ方:クリアやコントロールの意思が見えるか。
  • 距離:準備できる距離があったか。
  • 圧力:接触や至近距離で不可抗力だったか。

選手・指導者の共通確認シート(試合前ブリーフィング用)

  • 守備:危険地帯はブロック優先/余裕はコントロール。
  • 攻撃:セカンドはオンサイドの選手が詰める。
  • 全員:『意図的』『ディフレクション』『セーブ』の用語共有。

FAQ:現場でよく出る質問

意図的にオフサイドポジションにいるのは反則?

位置取り自体は反則ではありません。ボールや相手に関与したときに判定されます。

手・腕はオフサイド判定に含まれる?

含まれません(GKも同様)。ただしハンドの反則は別問題として先に判定されます。

スローイン・ゴールキック・コーナーキックではオフサイドはある?

スローインとゴールキック、コーナーキックから“直接”はオフサイドになりません。

VARがない試合ではどう運用される?

基本の考え方は同じです。副審は状況に応じて遅延フラッグを用いることがあり、主審と連携して「意図的か、ディフレクションか、セーブか」を総合判断します。

用語ミニ辞典

ディフレクション(Deflection)

選択の余地なく偶発的に当たって跳ね返ること。リセットにならない触球。

リバウンド(Rebound)

ゴールポスト・クロスバー・相手などから跳ね返ったボール。オフサイド位置の選手が利得を得ると反則になり得ます。

セーブ(Save)

ゴールへ向かう、または非常に近いボールを止める/止めようとする行為。誰が行ってもリセットになりません。

相手の妨害(Interfering with an opponent)

視界の妨害、チャレンジ、動きを制限するなど、相手のプレーに悪影響を与える行為。

関与(Involvement)

ボールをプレーする、妨害する、リバウンドで利得を得るなど、オフサイドの判定対象となる行為。

まとめ:判定の物差しをチームで共有しよう

“守備が触れたら解除”ではなく、“どう触れたかで決まる”。この視点をチーム全員が持てば、攻守の判断はもっとクリアになります。意図的=解除、ディフレクション/セーブ=継続。判定は結果ではなく行為の質を見る——この原則を、練習とミーティングの中で言語化して繰り返し確認しましょう。迷ったら、距離・速度・姿勢・視認・方向・圧力の7点チェックへ。試合の細部で差がつきます。

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