トップ » 戦術 » 偽サイドバック 基本と狙いを図解風に整理

偽サイドバック 基本と狙いを図解風に整理

カテゴリ:

偽サイドバック 基本と狙いを図解風に整理

「偽サイドバック(インバーテッドSB)」は、近年のポジショナルプレーを語るうえで外せないキーワードです。サイドバックが内側に入り、数的優位と角度をつくりながら前進と守備の両立を図るアイデア。聞いたことはあるけど、実際の配置や手順、狙いを言語化するとどうなるの?という声に応えて、図解風のメモ表現でスッキリ整理しました。現場での合図や練習メニュー、評価指標までまとめてあるので、練習の前にそのまま使えます。

なぜ今「偽サイドバック」か

概要:偽サイドバックとは何かを一文で

サイドバックが外のレーンから内側に移動し、中盤に枚数と角度を足してビルドアップと守備の安定を同時に狙う配置の工夫です。

用語整理:偽サイドバック/インバーテッドSB/中へ絞るの違い

  • 偽サイドバック(インバーテッドSB):内側に入って中盤化する明確な意図と役割を伴う動き。
  • 中へ絞る:守備時やボールサイド圧縮のために一時的に内側へ寄る広義の行動。常に中盤化とは限らない。
  • インバート(内反):国やチームで表現は違うが、概ね「外のSBが内に立つ」現象を指す。

この記事の読み方:図解風メモの記号と擬似配置の使い方

シンプルな記号で配置を表します。

■=CB □=SB ▲=IH ●=アンカー ◆=WG ★=CF→=パス ↔=入れ替え ⇆=可変 ◎=数的優位[外]=タッチライン側 [内]=ハーフスペース/中央  

基本定義と役割の全体像

定義:外のSBが内側レーンに侵入し中盤化する動き

ボール保持時、SBがタッチラインからハーフスペース〜中央のレーンへ入り、アンカー脇やIHの背後に立って配球・カバー・循環のハブを担います。

ポジショニングの基本:タッチライン→ハーフスペース→中盤の軌道

初期は外の幅を確保し、前進が詰まる/相手2トップが内を切る/IHが外で釣れた等のトリガーで内に移る。内に入ったら、背後への同時支援や逆サイドへのスイッチ角度を作れる位置に立つのがコツです。

フェーズ別の役割:ビルドアップ/攻撃展開/守備/トランジション

  • ビルドアップ:後方に「2-3」または「3-2」の土台を作り、縦パスのレーンを開ける。
  • 攻撃展開:前線5枚の関係(5レーン管理)に角度とリズムを供給。
  • 守備:内側のカバーリング、カウンター初動の遅らせ、インターセプト狙い。
  • トランジション:ロスト直後の5秒で即時奪回網の一角を形成。

図解風テンプレートで理解する配置

図解風メモ1:2-3-5の骨格(CB2+中盤3+前線5)

後方  ■        ■中盤     □   ●   □前線  ◆    ▲   ★   ▲    ◆= 2-3-5。SBが内に入ると中盤3が安定、前線5が幅と高さを確保。  

図解風メモ2:3-2-5への可変(SBが内→CBが外に広がる)

後方  ■   ■   ■中盤     □       ●前線  ◆    ▲   ★   ▲    ◆= 3-2-5。CBが幅を取り、片側SBが中盤へ。状況で「2-3」と使い分け。  

図解風メモ3:5レーン管理と非対称配置(ボールサイド厚み/逆サイド幅)

[左幅][左HS][中央][右HS][右幅] 左で厚み(IH+SB+WG)、右はWGがタッチラインで張る=非対称。  

図解風メモ4:外→内→再外の三角形で前進

外(WG)→内(SB/アンカー)→再外(逆WG or 上がるSB)= タッチ数を抑えつつ相手ブロックをずらす「三角移動」。  

狙いとメリットを言語化する

中央の数的優位と角度の創出(縦パス→落とし→スルー)

内側の枚数が増えると、縦パスの受け手と落としの相手が常に近くに。SBが受け手・落とし手・三人目の動きのいずれも担え、背後へのスルー角度が増えます。

カウンター耐性:レストディフェンスの安定化(2-3 or 3-2の後方網)

SBが内にいることで、失った瞬間にも中央から遅らせや即時奪回が可能。後方の2-3/3-2構造は、相手のファストブレイクを中央で遮断しやすくします。

サイド誘導→スイッチの速度向上

相手をサイドに寄せてから、内側のSBが反対サイドへ素早く配球。スイッチの初速が上がり、逆サイドWGの1対1が生まれやすい。

IHの解放とWGの1v1創出

IHが外へ釣り出し役になることで、内側にはSBが立ち替わる。WGは幅と孤立のバランスを保ちつつ、仕掛けの時間とスペースを得られます。

リスクとデメリット、対策

タッチライン裏のスペース露出

SBが内にいるぶん、サイド裏にスペース。対策はCBのスライドとアンカーのカバー角、GKのスイーパー的立ち位置の共有です。

役割過多による判断負荷と運動量過多

内外の往復は負担大。役割を「時間帯で分ける」「片側のみ運用」「パス角だけ確保して上がりすぎない」など段階的に導入します。

中央ロストの即被弾リスク

中央で奪われると一気にゴール前。原則は「前進できない縦パスは打たない」「体の向きが開けない時は外経由」。

対策されやすいパターンと回避(偽らない時間を作る/左右非対称)

常時インバートは読まれる。あえて外に残す時間を作る、片側だけ偽る、IHやWGが内外を入れ替えるなど、非対称と変化で対抗します。

ビルドアップ局面の手順とトリガー

初期配置:CBの幅/アンカー位置/SBの高さ

  • CB:GKのパス角を確保しつつ、相手1トップなら広め、2トップならやや狭め。
  • アンカー:CBの斜め前。相手のライン間を見ながら受ける角度を確保。
  • SB:外で開始。相手WGの位置を見て高さを調整。

内側に入る合図:ボール保持の安定+IHの外引き出し+相手の2トップ挙動

GK→CBの保持が安定し、IHが外で相手を釣れた時、さらに相手2トップが内切りでCBにプレッシャーをかけた瞬間がインバートの合図です。

2-3化と3-2化の切り替え基準

  • 2-3化:相手の前線人数が少ない/ライン間侵入を重視する状況。
  • 3-2化:相手の2トップ+10番が中央圧力をかける/サイド裏ケアを強めたい状況。

縦パス後の連続アクション:次の位置取りを0.5秒前に決める

縦付け→落とし→前進のコンビ後、SBは「再外」「同レーンの前進」「逆サイドへの準備」の3択を、パスが足を離れる前に決めます。

最終局面への関与とフィニッシュ設計

ハーフスペース侵入のタイミング(裏抜け/遅れの到達)

WGが幅で釣った瞬間、SBは一列スライドしてハーフスペースへ遅れて到達。クロスや折り返しの“第二波”を狙います。

カットバックの作り方:逆サイドSBの二次侵入

ボールサイドが深さを取ったら、逆SBはペナルティアーク周辺に二次侵入。カットバックの受け手か、こぼれ球回収役に。

リエントリー原則:配球→間を空けて再関与

一度触れたら、すぐに再要求せず「2〜3タッチ分」間を空けて別角度で再登場。受け手同士が重ならないための原則です。

守備とトランジションの要点

ロスト直後:即時奪回か遅らせかの判断ルール

味方3人以内で囲える距離感なら即時奪回。囲えないなら内を締めて遅らせ、背後の走らせ競争に持ち込ませないことを優先します。

サイドチェンジ対応:内から外へのスライド速度

インバート時は内側起点。サイドチェンジが出た瞬間にSB/IH/アンカーが“斜め外へ”同時スライド。ボール到達前に着地するのが合図。

ファーサイドSBの初期位置と絞り角度

逆サイドSBは、ボールサイドCBの背後ライン上にオフセットして中央寄りに絞る。クロス対応とセカンド回収の両立が目的です。

CK・FK後のリスタート時の整列

攻撃CK後は、外SB→内待機、IHの一人→外抑え、アンカー→バイタル管理。3人で“レストの三角”を作る約束を持ちます。

相手のシステム別に見る使い分け

対4-4-2:中盤3対2を作る内側侵入の深さ

SBはアンカー横の一段下、IHは一段上で“縦の三角”。2CHの横を素早く通過し、背後のCBに縦ズレを強要します。

対4-2-3-1:トップ下の背中を取る位置取り

トップ下がアンカーを捕まえるなら、SBがその背中に立つ。縦パス→前向きで運ぶ一歩目を確保しやすくなります。

対5バック:外→内→外で幅を保つ非対称運用

外はWBが出てくるため、最初は外で引き出し→内に刺して中央を通過→最後は逆サイド外で仕留める非対称の流れが有効です。

自チーム布陣別:4-3-3/4-2-3-1/3-4-3への落とし込み

  • 4-3-3:片側SBのみ内側化し、逆SBは外で幅。
  • 4-2-3-1:SBが内、もう一方はアンカー脇に残りやすい=3-2-5に可変。
  • 3-4-3:WBの一時的内側化で似た効果。CBが幅を確保しやすいのが利点。

選手像と必要スキルセット

技術:半身の受け/第3の動き/逆足ショートパス

半身で受けて前を向く、パス出し後に新しい角度へ“第3の動き”、逆足で10〜15mのワンタッチ配球が基礎です。

認知:首振り頻度と身体の向き作り

受ける前2回、受けた後1回の首振りを習慣化。体の向きは常に“次の出口”へ。

守備:内側でのカバーリングとインターセプト狙い

パスコースを閉じながら奪いに行く。ボールとマークを同一視野に収めるスタンスを身につけます。

フィジカル:反復スプリントと怪我予防(股関節・内転筋)

内外の往復が多いため、反復走と方向転換、股関節・内転筋のプレハブをルーティン化します。

練習メニュー(図解風ドリル)

ドリル1:SB内側化→2-3-5形成リレー(認知+ポジショニング)

GK→CB→(合図で)SB内→アンカー→IH→WGへ展開。コーチ合図「内」でSBがスライド。3分×4セット。

ドリル2:縦パス→落とし→前進の三人組(角度と距離)

CB→IHへ縦、IH→SBへ落とし、SB→CF or 逆WGへ。各距離8〜12m、テンポは3タッチ→2タッチ→1タッチの段階化。

ドリル3:ロスト→5秒間の即時奪回(トランジション)

縦パス後に意図的ロスト。5秒でボール保持に戻すか、内側で遅らせて全員再整列。成功基準を数値化(5秒内の奪回率)。

ドリル4:逆サイドスイッチ→カットバック(非対称攻撃)

左で作って右で仕留める一連。SB内→アンカー→逆IH→逆WGのワンタッチ。最後はカットバックのゾーン指定で精度を高めます。

個人ドリル:半身受け・首振り・逆足10m通し

マーカー2本で出口を作り、半身→逆足ワンタッチ→次の出口へ。30秒回×6セット。

コーチングの言語化・合図の統一

合図ワード:内/外/背中/壁/スイッチ

短く、誰でもすぐ反応できる言葉に統一。「壁」は落とし役の合図に使用。

キーフレーズ:先に内側、後で幅/縦付けたら前進準備

“先に内側”で角度を作り、“後で幅”で仕留める。縦パスが出た瞬間、周囲は次の出口に移る準備を。

ミスの共有:タッチマップと動画の併用で客観化

SBのタッチ位置が外に偏っていないか、逆に内に固定化していないかを可視化。動画は「入る合図」の直前2秒に注目。

分析と評価指標

タッチゾーン・ヒートマップで中盤化を可視化

SBの内側タッチ比率(例:内側30〜45%)を目安に、相手やプランで変動を評価します。

パスネットワーク:SBノードの位置に注目

SBがアンカー脇で“結節点”になっているか。エッジ(パス)の太さと方向で機能を確認。

PPDA・フィールドTiltとレストディフェンスの関係

保持局面の押し込み度(Tilt)が高まるほど、即時奪回の成功率が上がるかを併せて追います。

失点パターンの洗い出しチェックリスト

  • サイド裏→クロスの被弾が増えていないか。
  • 中央ロスト→スルーパス一発が出ていないか。
  • 自陣FK後の再整列で穴が開いていないか。

よくある失敗と修正アプローチ

内側に入りっぱなし問題→往復のメリハリ付与

「3回内→1回外」のリズムを設定。外での関与を挟むことで相手の予測を外します。

CBの広がりすぎ→距離指標の設定(目安ヤード)

自陣でのCB間は約25〜35m、敵陣での可変時は20〜28mを目安に。広がり過ぎは縦の距離感を崩します。

アンカーと役割のかぶり→レーン分担の事前合意

アンカーは最終ライン前の“水平レーン”、SBは半身で“斜め前”。同じ高さに並ばないこと。

逆サイドの孤立→循環速度と二次侵入のルール化

スイッチは2本で届かない時は3本で。逆SBはペナルティアークに遅れて侵入を合図化します。

事例研究(一般化できるポイント)

事例1:マンチェスター・シティの2-3-5(SB→IH化の機能)

SBが内でIH的に振る舞い、後方2-3の安定から前線5枚へ連結。中央の角度が増えることで、WGの1対1が際立ちます。

事例2:アーセナルの非対称偽SB運用

片側のみ内側化し、逆側は幅を維持。非対称のままテンポを変え、相手のスライドを遅らせる狙いが見られます。

事例3:代表チームの可変的アプローチの一般例

試合ごとに内外の比率を変更し、相手の守備メカニズムに合わせて可変。固定化せず、合図を共通言語にします。

高校・ユース現場での落とし込みと制約

走力差やピッチサイズの制約がある分、「片側のみ」「時間帯限定」「スローイン後だけ」など条件付き導入が現実的です。

レベル別導入ロードマップ

初級:8人制・9人制での簡易内側化

外→内→外の“三角”だけに絞る。合図は「内」「外」の2語でOK。まずは迷わないことを優先。

中級:県リーグ相当での非対称運用

片側固定の偽SB化+逆側は外で張る。可変は「押し込んだら内」「押し込まれたら外」に単純化。

上級:全国・大学年代でのスカウティング連動

相手の2トップ/10番の守備習性を分析し、2-3/3-2の使い分けや内側侵入の深さを事前プラン化します。

Q&A(現場の疑問に短答)

SBが小柄でも成立する?必要条件は?

成立します。空間把握と初速、逆足ショートパスの精度があれば十分。競り合いは角度で回避を。

利き足の影響:右SBが左インに入る是非

利き足側に内へ入ると前向き配球が容易。逆足側の内は斜め前のワンタッチが鍵。チームの狙いで選択を。

相手のマンツーマン対応:釣るか留まるか

釣って空けるが基本。付いてくるなら、空いたレーンをIH/CFが使用。付いてこないなら前進のスイッチ役に徹します。

雨天・重いピッチ:外優先への切り替え基準

中央の足元リスクが高まる日は、外回りで前進→内は“中継”の最小限。タッチ数を減らすのが安全策です。

まとめと次アクション

明日の練習で試す3ステップ

  1. 合図の統一:「内/外/背中/スイッチ」を共有。
  2. ドリル2本:縦→落とし→前進/逆サイドスイッチ。
  3. ゲーム形式:片側だけ偽SB化して2-3-5を体験。

試合当日のチェックリスト

  • 初期:CB間隔とアンカー角度は?
  • 合図:内に入るトリガーは共有済みか?
  • リスク:サイド裏のケア担当は誰か?
  • 分析:前半内側タッチ比率とスイッチ成功数。

学習の次の一手:参考資料と観戦ポイント

試合観戦では、SBが内に入る“前後の2秒”に注目。相手の最前線がどう動き、どのレーンが空いたかを観ると理解が深まります。練習映像はタッチマップと合わせ、内外の配分がゲームプラン通りかを振り返りましょう。

RSS