トップ » 体調管理 » 水分補給の量とタイミングは?中高生の試合・練習別最適解

水分補給の量とタイミングは?中高生の試合・練習別最適解

カテゴリ:

試合の最後まで走り切る、判断を鈍らせない、技術ミスを最小限にする。その土台は“水分補給の量とタイミング”です。同じ1リットルでも、いつ・何を・どう飲むかで体の反応は大きく変わります。この記事では、練習と試合それぞれに最適な量とタイミングを、科学的な目安と現場で使える工夫に落とし込みます。結論はシンプル。「のどが渇く前に、あなたの汗に合わせて、賢く分割して飲む」。今日から実行できる具体策を一気に整理していきましょう。

水分補給の量とタイミングは?中高生の試合・練習別最適解

導入:なぜ「量」と「タイミング」が中高生サッカーのパフォーマンスを左右するのか

脱水は走力・判断力・スキル精度に何をもたらすか

体重の約2%の水分を失うと、体温が上がりやすくなり、心拍数が高くなります。サッカーで起こるのは、「走行距離の低下」「スプリント回数の減少」「意思決定の遅れ」「トラップやパスの精度低下」。つまり、走力・判断力・スキルが同時に落ちます。わずか1〜1.5kg(体重50〜75kgの場合)の体重減で、後半に顕著な差が出るのは珍しくありません。

“のどの渇き”を指標にしない理由

のどの渇きは、すでに脱水が進んだサインになりがちです。暑熱環境や試合の緊張下では渇きを感じにくく、気づいた時には手遅れということも。目安は「体重変化」と「尿色」。主観だけに頼らず、数値でコントロールするのが近道です。

練習と試合で戦略が変わる背景

練習は休憩を調整しやすく、試行錯誤が可能。一方、試合はタイムアウトが限られ、摂取チャンスが少ない。だからこそ、試合は「事前に仕込む(プリチャージ)+限られた機会に集中的に補正」。練習は「個人差を測り、最適量を見つける場」と位置づけて戦略を切り替えます。

基礎知識:水分補給の考え方を3本柱で整理する

体液・電解質・エネルギーのバランス

汗で失うのは水だけではありません。特にナトリウム(塩分)は筋収縮や神経伝達に関わり、不足すると痙攣や集中力低下の誘因になります。さらに、90分の試合では炭水化物(糖)補給が後半のエネルギー維持に有効。水・電解質・炭水化物をバランスよく考えるのが基本です。

目標は体重減少2%未満

競技中の体重減を2%未満に留めるのが国際的な目安です。体重60kgなら1.2kg以内。これを超えるとパフォーマンス低下と熱関連障害のリスクが上がります。

量・濃度・回数(タイミング)の最適化

同じ総量でも、濃度と回数で胃腸の負担と吸収速度は変わります。原則は「6〜8%炭水化物・適度なナトリウムの飲料を、15〜20分ごとに分割」。暑熱時や大量発汗では、もう少し薄め(3〜5%)で回数を増やすのも手です。

個人差の見える化:発汗量(スウェットレート)の測り方

前後体重測定の手順と注意点

  • 同じ条件(同じ服装・同じタイミング・同じ計測器)で測る。
  • 運動前にトイレを済ませ、軽装で体重を測定。
  • 運動中に飲んだ量(mL)と排尿の有無・量を記録。
  • 終了後、タオルで汗を軽く拭き、同じ服装で体重を測定。
  • 雨天やスパイク・衣類が濡れた場合は誤差に注意(可能なら乾いた衣類で)。

1kgの体重減=約1Lの水分損失という考え方

スウェットレート(L/時)の簡易式:
(運動前体重 − 運動後体重)kg + 飲んだ量L − 排尿量L ÷ 運動時間(時)

例:前60.0kg→後59.0kg、飲んだ0.5L、排尿なし、90分練習
損失=1.0+0.5=1.5L、1.5L ÷ 1.5時間=1.0L/時

練習日誌への記録フォーマット

日付/気温・湿度/メニュー/前体重kg/後体重kg/飲んだ量mL/排尿mL/発汗量L/時/体重減%/主観(疲労・足攣り・集中度)

量の目安:練習・試合の前/中/後でどれくらい飲むか

前日〜当日朝:ベースを整える

  • 目安:体重×35〜45mL/日(気温・活動量で増減)。
  • 食事で塩分・炭水化物を確保(味噌汁・ご飯・具だくさんの丼など)。
  • 当日朝:500〜700mLを1〜2時間で分けて。尿色が濃ければやや多めに。

ウォームアップ前:吸収しやすいプリチャージ

  • 3〜4時間前:5〜7mL/kg(例:60kg→300〜420mL)。
  • 1〜2時間前:尿が濃い・汗かきなら追加で3〜5mL/kg。
  • 10〜15分前:200〜300mL。暑熱時はもう少し薄めのドリンクで。

プレー中(15〜20分ごと):こまめに分割摂取

  • 一般目安:0.4〜0.8L/時(個人の発汗量で調整)。
  • 1回100〜200mLを目安に、給水タイム・プレー止まり・スローイン前などで素早く。
  • 炭水化物6〜8%+ナトリウム入りが無難。大量発汗なら3〜5%に薄めて回数を増やす。

ハーフタイム/給水タイム:集中的に補正する

  • ハーフタイム:300〜600mL。大量発汗者は体重減・暑さに応じて上限寄り。
  • ナトリウム入り(約460〜1,150mg/Lが目安)。甘すぎる時は水で薄める。
  • 固形物は胃に残るので、必要ならジェルやバナナ少量を水と一緒に。

終了直後〜2時間:リカバリーを最速化

  • 損失量の1.25〜1.5倍を目安に補給(1kg減→1.25〜1.5L)。
  • ナトリウムを含む飲料やスープ+炭水化物(おにぎり・パン)でグリコーゲン回復。
  • 一気飲みで胃を壊すより、15〜20分おきに分割。体重が当日中に戻るかを確認。

タイミング設計:学校生活と移動を踏まえた現実的プラン

通学中・午前中の授業時間の工夫

  • 通学:家を出る前に200mL、到着後に200mL。
  • 授業:50分授業なら1コマにつき100〜150mLを小分けに。教員に事前に相談してボトル持込を徹底。

昼休み〜放課後の分割摂取

  • 昼食時に300〜500mL(塩分と炭水化物を意識)。
  • 放課後〜移動中に300〜500mL。トイレ問題が気になるなら、キックオフ60分前までに多め、以降は小分けに。

会場到着からキックオフまでのカウントダウン

  • 60分前:200〜300mL(軽食があるなら一緒に)。
  • 30分前:150〜200mL。
  • 10〜15分前:100〜200mL(暑い日は氷や冷たい飲料でプレクーリング)。

試合間のリカバリーと次試合へのブリッジ

  • インターバル60〜120分:体重を測れない時は尿色と体調で判断しつつ、700〜1,000mL/時を上限に分割。
  • ナトリウムと炭水化物は毎時間摂る。固形は消化しやすいものを少量ずつ。

飲み物の選び方:水・スポドリ・その他の使い分け

水だけで足りる場面/足りない場面

  • 涼しい日・短時間(〜45分)・軽い強度→水でOK。
  • 暑熱・90分試合・連戦・大量発汗→電解質と炭水化物入りが有利。

電解質(特にナトリウム)と濃度の目安

  • ナトリウム:20〜50mmol/L(約460〜1,150mg/L)。500mLなら約230〜575mg。
  • 汗の塩味が強い・白い塩跡が出る人は上限寄りを意識。

炭水化物濃度と吸収速度の関係

  • 3〜5%:吸収が速く、暑熱時や大量発汗で◎。
  • 6〜8%:試合向けのバランス型。後半のエネルギー維持。
  • 9%以上:吸収が遅く、胃もたれリスク。原液は薄める。

炭酸・カフェイン・エナジードリンクの注意点

  • 炭酸:膨満感とゲップでパフォーマンス低下の恐れ。
  • カフェイン:少量は集中に寄与する場合もあるが、個人差・年齢を考え慎重に。初めての試合での使用は避ける。
  • エナジードリンク:高カフェイン・高糖でリスクがあり、競技中の水分補給には不向き。

環境条件で変える:気温・湿度・季節別の調整指針

真夏の高温多湿でのリスク管理

  • 開始前から薄めのスポドリを小分けで。氷・冷タオルで事前冷却。
  • 飲量はスウェットレートに近づけつつ、上限は1.0L/時程度を目安に胃腸と相談。

冬場・寒冷時の“隠れ脱水”対策

  • のどが乾きにくいが、空気の乾燥で失水は進む。温かいスープや白湯も活用。
  • 給水間隔を自分でアラーム管理(15〜20分)。

雨天・風強・人工芝の放熱条件の影響

  • 人工芝は表面温度が上がりやすい→暑熱対策を強める。
  • 風が強いと汗が乾きやすく渇きを感じにくい→定期給水を厳守。

競技特性で変える:ポジション・練習内容別の補給

サイド/中盤など高走行量ポジションの工夫

  • スローイン・CK時にベンチ前で素早く一口(100mL)。
  • 炭水化物は下限6%を確保し、後半に落ちないように。

GKの特性と試合中の補給ポイント

  • プレー断続性が高く、「こまめに飲める」利点を使う。
  • 暑熱時は冷却(氷・冷水)とナトリウム補給をセットで。

インターバル走・筋力トレ・戦術練での違い

  • インターバル走:低濃度(3〜5%)を短間隔で。合間に100〜150mL。
  • 筋力:発汗量は少なめだが、セッション前後に300〜500mL+塩分。
  • 戦術練:給水タイムをチームで固定(20分ごと)し、習慣化。

過不足のリスク管理:よくある失敗と対策

のどが渇いてから飲む/直前の一気飲み

  • 渇き待ちは遅い。一気飲みは胃もたれ・横っ腹痛の原因。
  • アラームやコーチの合図で「ルーティン給水」を。

低ナトリウム血症を避ける考え方

  • 長時間、低ナトリウムの水を過剰摂取しない。
  • 大量発汗時はナトリウム入り飲料・食塩を食事で補完。

“甘すぎる”による胃腸トラブルと回避策

  • 原液が甘いと感じたら1.2〜1.5倍に希釈。
  • 気温が高い日は濃度を下げ、回数を増やす。

トイレ問題との折り合いの付け方

  • キックオフ60分前までに必要量の6〜7割を済ませる。
  • 以降は一口(100mL)を目安に分割。アップ前に必ずトイレ。

現場で使えるモデル:練習用/試合用の補給テンプレート

90分試合日のモデルプラン

  • 朝:500〜700mL+塩分を含む朝食。
  • 到着60分前:200〜300mL。
  • 30分前:150〜200mL。
  • 試合中:合計0.5〜1.0L(15〜20分ごとに100〜200mL)。
  • ハーフ:300〜600mL。
  • 終了〜2時間:体重減×1.25〜1.5L+炭水化物・塩分。

移動120分+90分練習日のモデルプラン

  • 移動中:30分ごとに100〜150mL。到着時にトイレ。
  • アップ前:200〜300mL。
  • 練習中:0.4〜0.8L/時で分割。
  • 帰路:300〜500mL+軽食(おにぎり等)。

夏合宿1日のモデルプラン

  • 起床〜朝食:500〜700mL。
  • 午前練:スウェットレートを基準に0.6〜1.0L/時。
  • 昼食:300〜500mL+味噌汁などで塩分補給。
  • 午後練:午前と同等。氷・冷却を併用。
  • 夜:体重を朝の基準に戻すまで分割補給。

セルフモニタリング:毎日できる状態チェック

尿色チャートの活用

薄いレモン色が目標。濃い琥珀色なら不足のサイン。朝一と練習後の2回を確認。

朝夕の体重変化と主観スケール

  • 朝体重を基準に、練習後の減少を記録。
  • 主観(のどの渇き・頭痛・だるさ・足攣り)を10段階でメモ。

めまい・筋痙攣・悪心などの危険サイン

めまい、吐き気、筋痙攣、ふらつき、判断の遅れ、皮膚が異常に熱いなどは要警戒。無理せず直ちに休止・冷却・補給を。

応急対応:熱関連障害の初期対応と復帰判断

迅速なクーリングと冷却方法の優先順位

  • 日陰へ移動→防具を外す→冷水・氷水・濡れタオルで頸・腋・鼠径部を冷却。
  • 可能なら冷水浴が最優先。経口可能ならナトリウム入り水分を少量ずつ。

プレー継続/中止の判断基準

  • 症状が軽快しない・意識がぼんやり・吐き気が強い→即中止。
  • 完全に症状が消え、体温・体重・尿色が戻るまで再開は待つ。

医療機関受診の目安と情報共有

  • 意識障害、けいれん、嘔吐の持続、歩行困難は救急受診を検討。
  • 練習記録(気温・飲量・体重変化)を伝えると評価がスムーズ。

保護者・指導者ができる支援

ボトル本数/容量/ラベル管理のコツ

  • 500mL×2〜3本を基本セット。名前・塩分濃度・開始時の残量目盛りを記載。
  • 暑熱日は1Lボトル+氷バッグを追加。

チームの給水ルール作りと徹底

  • 20分ごとの強制給水をコーチ合図で固定。
  • ハーフタイムの目標摂取量(例:300mL以上)を全員で共有。

記録とフィードバックの仕組み化

  • 週1回、体重減%と足攣り発生を一覧化。改善策を全体で確認。

Q&A:現場でよくある疑問と誤解の整理

塩タブレットは必要か?

大量発汗時の補助として有効な場合がありますが、基本は飲料と食事でのナトリウム補給。飲料のナトリウム量(目安460〜1,150mg/L)を満たしていれば無理に追加する必要はありません。使う場合は水だけで流し込まず、炭水化物も併せて。

牛乳/お茶/100%ジュースはいつ使う?

  • 牛乳:リカバリー向け(たんぱく質・糖・電解質)。試合中は不向き。
  • お茶:少量なら問題ないことが多いが、カフェイン入りは就寝前や試合直前は控えめに。
  • 100%ジュース:原液は糖濃度が高く吸収が遅い。薄めて補給、またはリカバリー時に少量。

食事(塩分・炭水化物)との組み合わせ方

  • 試合前:おにぎり+味噌汁などで塩分と炭水化物を確保。
  • 試合間:消化の良い炭水化物を少量ずつ(バナナ、ゼリー、薄いサンド)。
  • 終了後:炭水化物+たんぱく質+電解質を60分以内に。

まとめ:自分専用の“最適解”を更新し続けるために

データに基づく微調整の進め方

まずは発汗量を測り、2週間で自分の「暑い日」「普通の日」の基準を作りましょう。飲みすぎ・飲み足りない日の体重減%と体調を並べると、最適量が見えてきます。

試合日・練習日・休養日の三層設計

  • 試合日:事前に仕込み、限られたチャンスで補正。
  • 練習日:発汗量の測定と検証の場。
  • 休養日:ベース水分と食事で整え、翌日に疲労を残さない。

次の一歩:チーム全体での標準化

ボトル管理、給水タイマー、ハーフでの目標量、体重計の常備。この4点をチーム標準にすれば、個人差に対応しながらも抜け漏れを減らせます。

あとがき

「強いチームは、給水も強い」。水分補給は才能ではなく、習慣で決まります。今日の練習から、たった一つでも実行してみてください。3週間後、きっと後半の走りが変わります。

RSS