「守備がハマらない」「前進できない」——原因の多くは“距離感”にあります。とくにチームのブロックが縦方向にどれだけ圧縮・拡張できるか(上下幅)は、攻守のつながりを決める核心。この記事では、図解のように頭に浮かぶ“テキスト図解”を使いながら、上下幅の基本原則を実戦レベルで整理します。難しい理屈は最小限。今日から使える合図、距離の目安、練習メニューまで一気通貫でまとめました。
目次
はじめに:なぜ「ブロックの上下幅」が勝敗を左右するのか
用語整理:ブロック/ライン間/上下幅/縦ズレの定義
・ブロック:守備時にチームが形成するまとまり。最終ライン〜前線までを含む“塊”。
・ライン間:最終ラインと中盤、中盤と前線など、横一列(ライン)同士の間のスペース。
・上下幅(縦の長さ):ブロックの最前列から最後尾までの縦方向の長さ。チーム全体の“伸縮”。
・縦ズレ:ライン間の段差や意図的な高さ違い。攻守で相手の基準をずらすための上下の差。
上下幅は「圧縮すれば守備が安定、伸ばせば攻撃が前進」。ただし圧縮しすぎると背後を使われ、伸ばしすぎると分断されます。だから、状況で“可変”にする設計が肝心です。
縦のコンパクトネスと横のコンパクトネスの相互作用
縦を詰めるほど横のスライドも速くなり、奪った瞬間のサポート距離も短縮されます。逆に縦が間延びすると横のギャップも増え、スライドが遅れ、孤立やカウンターのリスクが上がります。基本は「縦を先に整え、横で微修正」。合図の順番も「押し上げ(縦)→寄せる(横)」が安定します。
状況別の目安レンジ:理想の上下幅は何メートルか
・ハイプレス実行時:チーム全体の上下幅25〜35m目安。ライン間は8〜12m。
・ミドルブロック:上下幅35〜45m。ライン間10〜15m。
・ローブロック(ゴール前):上下幅20〜28m。ライン間6〜10m。
・攻撃で前進中:一時的に45〜55mまで拡張。ただしレストディフェンスは30〜40mに維持。
数値はピッチサイズや相手の特徴、脚力によって調整してください。基準を決め、ブレ幅(±3〜5m)をチームで共有することが重要です。
守備の基本原則と上下幅
三層構造の連動:最終ライン・中盤・前線の距離管理
三層が“同じタイミングで出入り”することが肝。前が出たら中盤が連動して押し上げ、最終ラインは背後の脅威(ランナー・ロングボール)とオフサイドの駆け引きで管理。ライン間が12mを超えて固定化すると、縦パス一発で剥がれやすくなります。
プレッシング時:前向きに出るための圧縮と背後管理
・圧縮:ボールサイドで上下幅を25〜35mに短縮。背後はGKとCBでカバー。
・トリガー:相手の負荷タッチ、背面トラップ、バックパス、浮き球の滞空。
・背後管理:SBの内外、CBのカバー角度、GKのスイーパー化でケア。CBが出たらアンカーが落ちて穴埋め。
リトリート時:ゴール前での超圧縮と縦パス遮断
PA前で上下幅20〜28m、ライン間6〜10m。内側のパスラインを遮断し、外へ誘導。シュートブロックとリバウンド対応をセットで準備。跳ね返した後の二次回収位置(PA外〜Dゾーン)も事前に共有します。
ミドル/ローブロックの選択基準と上下幅の違い
・ミドル:奪って出ていく距離が短く、背後の脅威も中程度。上下幅35〜45mで、奪ったら3枚が一気に縦へ。
・ローブロック:押し返す足と陣地回復が鍵。上下幅20〜28mで、ボックス内の枚数を確保。前進はサイドライン沿いの脱出ルートを優先。
ゾーン基準とマンツーマン傾向での縦距離コントロール
ゾーン寄りなら上下幅を一定に保ち、ボールの移動でブロックごとスライド。マンマーク傾向が強いほど上下幅が崩れやすいので、「離れ過ぎアラート(12m超)」を設け、意図的にラインを止めて“待つ”判断を設定しておくと分断を防げます。
攻撃の基本原則と上下幅
幅と深さの設計:伸ばすべき局面と縮めるべき局面
・相手のブロックを伸ばしたい時:最終ライン背後と最前線を最大化(50m前後まで)。同時に中盤のサポート距離は10〜12mに保つ。
・崩しの直前:ライン間での受け手を増やすため、意図的に縮めて密度を上げる(35〜40m)。
レストディフェンス(攻撃時の守備準備)における上下幅
フィニッシュに向かっても、背後の“釣り糸”は切らない。ボール非保持側のCBとアンカーが30〜40mの上下幅を維持し、サイドの逆サイドWG/SHをハーフスペースに寄せて即座の再奪取位置を確保します。
3人目の動きとライン間の使い方
縦ズレを作って受け手をフリーにするには、2人目が引き付け、3人目がライン間や裏へ。3人目が出る瞬間は、残るプレーヤーが“止まる”ことでレストディフェンスの上下幅を崩さないのがコツです。
ビルドアップの段差づくりと意図的な縦ズレ
アンカーの落ちる・出るで最終ラインに段差を作り、1stラインの食いつきを誘発。意図的な縦ズレ(インサイドハーフの背中取り)で中盤のライン間を開閉します。段差は“常に1枚分”。2枚以上の縦ズレは分断の元になりやすいので注意。
トランジションでの上下幅最適化
ネガトラ初動:3秒で収縮するための合図と順序
合図は「止める→寄せる→挟む」。最初の3秒で上下幅を10m縮める意識。最寄り3人が矢印型で圧縮し、背後はGKと最終ラインがスイーパー的にケア。ボールより先に“中央のライン間”を閉じるのが成功率を高めます。
ポジトラの拡張:一気に縦に伸ばす判断基準
奪った瞬間に相手CBが背走、相手アンカーが背中向き、またはタッチライン際で数的同数なら拡張サイン。上下幅を45〜55mまで一気に伸ばし、最前線は最終ラインと一直線に並ばないよう斜めの段差を作るとパスコースが増えます。
カウンタープレス耐性を高める距離感の作り方
サポート距離は8〜12m、逆サイドの距離は12〜18mを目安に。縦ズレは最大でも2段まで。3段以上のズレはカウンターの的になります。背後の安全網(CB+アンカー+逆SB)で三角形を保つと、ボールロスト後の収縮が速いです。
フォーメーション別:上下幅の基準とパターン
4-4-2:二列の圧縮と背後スペースの配分
二列が“蛇腹”のように同時に縮むのが理想。FWとMFのライン間は10〜12m、MFとDFの間は8〜10m。SBの背後はCBと反対側のSHが斜めに落ちるルールで管理。縦ズレを作るなら2トップの片方が中盤へ降り、もう片方が裏抜け。
4-3-3/4-2-3-1:中盤の段差で縦を制御する方法
アンカーを基準にIH/OMFの高さを交互にズラす。守備時はアンカーの前後6〜8mにIH/OMFが位置して、中央を塞ぎながらプレスの矢印を作る。攻撃時はIHの片方をライン間、もう片方をサポート低めにしてセーフティネットを形成。
3バック(3-4-2-1/3-5-2):最終ラインの可変と押し上げ
外側CBが前に出る可変を前提に、アンカーが落ちる/逆IHが埋めるのどちらかをルール化。WBが高い位置を取る時は、逆サイドWBが5〜8m低い段差でバランス。上下幅は守備時30〜40m、攻撃時45〜55mまで可変。
可変システム(2-3-5/3-2-5):レーン管理と上下幅の再配置
前線5枚を固定せず、ハーフスペースの深さを交互に設定。2-3-5化ではアンカー+SBで30〜35mのレストディフェンスを維持。3-2-5化ではアンカー2枚が縦の綱を張り、最終ラインの押し上げを遅らせすぎないことがポイント。
ピッチエリア別の原則:自陣・中盤・敵陣
自陣3分の1:ゴール前の超圧縮と跳ね返し準備
ライン間6〜10m、ブロック上下幅20〜28m。外へ誘導し、クロスにはニア・中央・ファーの三点で段差を作り跳ね返す。弾いた後の回収はPAアーチ周辺に2枚を常駐。
中盤3分の1:縦パス遮断と前進阻止の距離感
縦を閉じ、横に誘導して奪う。アンカーは背中に“壁”を作り、IH/SHが外切りで回収。上下幅は35〜45m、ライン間10〜12mを基準に、奪った瞬間の縦型カウンターを狙います。
攻撃3分の1:二次回収とレストディフェンスの配置
ボックス周辺では人数をかける一方、逆サイドは内側に寄せて二次回収。CB+アンカー+逆SBで三角形を残し、上下幅30〜40mを維持。ミドルシュートこぼれを狙う位置取りもセットで。
相手タイプ別のアジャスト
ロングボール主体へのライン間管理とセカンド回収
最終ラインは1〜2m低めにスタートし、跳ね返しの落下点へ中盤を5m前進。セカンドは“外→中”の順に回収。前線の1枚が相手アンカーを抑え、カウンターの出どころを塞ぎます。
間受けが巧みな10番への対策:アンカーとCBの連携
アンカーが前向きを許さない距離(1.5〜2m)で背中をコントロール。10番が前を向いた瞬間はCBが出る合図、出たCBの背後はSBと逆CBで斜めカバー。入れられる前に“パスラインを切る体の向き”を全員で共有します。
サイドチェンジが速い相手:横×縦の同時圧縮
逆サイドのSH/WGが内側に絞った状態を常に先取り。サイドチェンジが出そうなときは、上下幅を5〜8m縮めて到達時間を短縮。止めるのが難しい相手には、中央の最終ラインを1m高く設定し、インターセプトの角度を増やします。
テキスト図解テンプレート:頭の中で描ける距離感
5m/10m/15mの上下幅イメージサンプル
[5m圧縮]前線==== (前線〜中盤の間隔 約5m) ====中盤 ====最終[10m圧縮]前線======== ========中盤 ========最終[15m圧縮]前線============== (ライン間 約15m) ==============中盤 ==============最終
グラウンドの白線やセンターサークル(半径9.15m)を“目盛り”として活用すると、5〜15mの距離感を頭に描きやすくなります。
3ライン“目盛り”の口頭チェック方法
- 「10!」=ライン間10mに調整の合図
- 「詰める5!」=全体で5m圧縮
- 「段差1枚!」=縦ズレは1枚分だけ作る
試合中に共有する合図・コールと立ち位置の微調整
- 止める:一旦ラインを固定、背後ケアを優先
- 押し上げ:最終ラインから前進、全体で連鎖
- 入れ替える:マークや担当ゾーンを交換
- 閉じる:中央のライン間を優先的に圧縮
測定と分析:客観データで可視化する
GPSやトラッキングがない環境での簡易計測法
・ピッチ基準の活用:センターサークル半径9.15m、PA幅40.3m、縦ライン間の白線間隔を基準化。
・ステップ計測:自分の6歩=約5mなど、個人目盛りをチームで統一。
・マーカー使用:ライン間にマーカーを置き、ウォームアップから距離感を視覚化。
動画分析:フレーム単位でのライン間距離の読み取り
固定カメラで全体を撮影し、静止画で前線〜最終ラインの距離を白線基準で推定。プレス開始フレームと奪取/被突破フレームの上下幅を比較して、成功時の共通レンジを抽出します。
KPI設計:平均/最大/標準偏差としきい値の決め方
- 平均上下幅(守備時):目標35〜40m
- 最大上下幅(攻撃時):55m以内
- ライン間の標準偏差:±3m以内(ブレを抑制)
- ネガトラ3秒収縮率:70%以上(3秒で10m縮める達成率)
トレーニングメニュー:実装のための段階設計
ウォームアップ:距離感リテラシーゲーム
内容
グリッド内でコーチが「10!」とコールしたら全員が近いライン間を10mに合わせるミニゲーム。合図を増やし、反応速度を測定。
狙い
“目盛り”の共通化と合図の定着。
時間
10〜12分。
守備ブロックの横幅×上下幅ドリル(制限付きポゼッション)
内容
40×30mグリッドで6v6+フリーマン。攻撃は3タッチ以内。守備は「10mルール(ライン間10m)」を維持しながら奪取を狙う。
狙い
上下幅の維持と横スライドの連動。
時間
15〜18分。
トランジション反復:3秒ルールと再配置の自動化
内容
8v8で奪い合い。ロスト後3秒以内に“止める→寄せる→挟む”を実行。成功で1点。
狙い
収縮の速度と順序の習慣化。
時間
12〜15分。
フィニッシュ付き可変ビルドアップ:段差と縦ズレの体得
内容
後方3+中盤2+前線3の8v6で前進→フィニッシュ。アンカーの落ちる/出るで段差を作り、3人目の動きで崩す。ロストしたら即ネガトラ。
狙い
意図的な縦ズレとレストディフェンスの両立。
時間
18〜20分。
週次プラン例:負荷管理と学習テーマの回し方
- 火:距離感リテラシー+守備ブロック
- 水:可変ビルドアップ+3人目
- 金:トランジション反復+セットプレー時の上下幅
- 前日:確認と低負荷ゲーム(上下幅の目盛り合わせ)
よくある失敗と修正ポイント
前線だけが出てしまう“分断”とその解消
原因は合図不足と最終ラインの躊躇。解決は「押し上げの主導権を最終ラインへ」移すこと。FWのプレス開始はCBの合図とセットで。
最終ラインの下がり過ぎと押し上げトリガー
無用に下がるとライン間が空洞化。押し上げのトリガーは、相手が背向き・浮き球・サイドでの後退パス。GKも“上げろ”の一声を標準化。
アンカーの位置取りミスと背中の管理
ボールウォッチで背中を空けるのが典型。修正は「半身」と「背中に味方の声」。アンカーの背後はCBが前に出るOKサインを早めに。
GKのコーチング不足:合図と言語の標準化
「止める」「上げる」「背後注意」「段差1枚」など短い語彙で統一。長文指示は届きません。トレーニングから同じ言葉を使用。
交代直後の間延び対策:即時リマインドとタスク整理
交代選手に“3ワード(上下幅・ライン間・段差)”をベンチで確認。入った直後は自分の列の横の味方と距離を声で合わせるのが最優先。
コミュニケーションと役割分担
キャプテン/GK/アンカーの主導権と責任領域
・GK:最後尾の押し上げ合図、背後ケア。
・アンカー:中央の開閉と10番管理。
・キャプテン:ゲームの流れで上下幅の基準変更を宣言(例「今は35!」)。
トリガー語彙集:押し上げ・圧縮・止める・入れ替える
- 押し上げ!=最終ライン主導で前進
- 圧縮!=ボールサイドに全体で寄せる
- 止める!=背後優先で陣形固定
- 入れ替える!=マーク/ゾーンの交換
ベンチからの修正メッセージ:簡潔な伝え方
「ライン間広い→10!」「背後注意→止める!」「奪ったら伸ばす→50!」のように、数値と動詞で短く。
年代・レベル別の適用と注意点
高校・ユースでの導入ステップと評価方法
週次テーマを1つに絞り、数値KPIを掲示。練習後に“上下幅の自己評価(5段階)”を記入し、映像で照合すると学習が進みます。
社会人アマの現実解:出欠変動と簡易ルール化
全員参加が難しい前提で、「合図と言葉」「ライン間10m目安」「ネガトラ3秒」の3点に絞って共通化。複雑な可変は最小限に。
育成年代での教え過ぎ回避と学習設計
距離を“感じる”遊びを増やし、言葉は少なく。広げる・縮めるの体験と成功体験を優先。数値は参考程度に。
試合前後のチェックリスト
キックオフ前に共有する5項目
- 上下幅の基準(ミドルなら35〜40m)
- ライン間の目安(10〜12m)
- 押し上げの合図と主導者(最終ライン)
- ネガトラ3秒の順序(止→寄→挟)
- 相手の脅威(10番/ロング/サイドチェンジ)
ハーフタイムの距離感レビュー手順
1)成功シーンの上下幅を口頭で数値化→2)失敗シーンの原因を「広い/遅い/段差過多」で分類→3)後半の合図を一つだけ増やす(例:段差1枚)。
試合後の振り返りシート:改善ループの回し方
- 平均上下幅(守備)と最大上下幅(攻撃)
- ネガトラ3秒収縮率
- 被縦パス本数(中央)
- 二次回収率(敵陣/自陣)
まとめ:攻守が噛み合うチームへ
今日から実践する3アクション
- 合図の統一:「止める/押し上げ/段差1枚/10!」
- 目盛りの共有:センターサークル9.15mを基準に距離感を合わせる
- 3秒収縮:ネガトラの“止→寄→挟”を全員の習慣に
継続的改善のループ設計と次のステップ
練習→試合→映像→KPI更新のサイクルを固定し、季節や相手に応じて“基準のブレ幅”を調整。上下幅は固定値ではなく、全員で動かす“チームのレバー”。このレバーを使いこなせば、攻守の噛み合いは自然と高まり、勝敗に直結します。
あとがき
上下幅は、抽象的に見えて実は“測れるスキル”です。数センチ単位の正確さは要りません。合図、目盛り、3秒の収縮——この3つをチームの共通言語にして、試合での迷いを消していきましょう。次の一歩は、練習の最初の10分で決まります。
