トップ » 戦術 » サッカーのオランダ代表戦術、3-5-2/4-3-3の強み弱みと対策

サッカーのオランダ代表戦術、3-5-2/4-3-3の強み弱みと対策

カテゴリ:

サッカーのオランダ代表戦術、3-5-2/4-3-3の強み弱みと対策

リード

オランダ代表は「前進の美学」と「合理的な守備」を両立させるチームです。近年は3-5-2(守備時は5-3-2)と4-3-3を状況に応じて使い分け、相手や大会、選手のコンディションで柔軟に最適化してきました。本記事では、オランダ代表の戦術モデルを3-5-2と4-3-3に分け、強みと弱み、そして実戦的な対策までを一気通貫で解説します。戦術の言葉はできるだけやさしく、練習メニューは図なしで再現できる形に落とし込んでいます。自チームの準備、個人スキルの向上、親子での観戦・学習にも役立つはずです。

オランダ代表の戦術概要:3-5-2と4-3-3の二本柱

近年のトレンドと可変性(相手・大会・選手特性での使い分け)

オランダは歴史的に4-3-3のイメージが強いですが、国際大会や強豪相手では3-5-2(守備時5-3-2/5-4-1)を選ぶ場面が増えました。理由はシンプルで、センターバックの層が厚く、ウイングバックや前線のスプリンターの特性を引き出しやすいからです。相手の前線枚数、空中戦の強度、サイドの突破力などを見て、4-3-3で主導権を握るのか、3-5-2で強度とカウンターを優先するのかを柔軟に選びます。

攻撃と守備のゲームモデルの特徴(ポジショナルとトランジションの両立)

攻撃では「幅を保ち、内側で数的優位を作る」ポジショナルな原則を重視しつつ、奪った瞬間の速攻も強力です。守備は前からの連動プレスとリトリート(素早く自陣に戻る)を使い分けます。ボールを失った直後の数秒で取り返す意識が強く、いわゆる“即時奪回”がゲームのキーポイントになっています。

試合ごとのフォーメーション選択の傾向と判断材料

  • 相手の2トップ/3トップの形とプレス耐性
  • 自チームのWB/ウイングのコンディションと上下動の質
  • 先制の必要性(勝ち点状況)と試合の流れ
  • セットプレーの相性(空中戦・マークの優位)

3-5-2(5-3-2)の基本構造と攻守の狙い

基本配置と役割整理(3CB・WB・IH・2トップ)

3CBは中央の守備と前進の起点。真ん中のCBはカバー役、両脇のCBは前に出て相手の中盤に圧をかけます。WBは幅と推進力を担い、守備時は最終ラインに下がって5枚を形成。IH(インサイドハーフ)は縦関係でボールを引き出し、前線に走る“サードマン”の動きをサポート。2トップは片方が降りてつなぎ、もう片方が背後を狙う分業が基本です。

ビルドアップのパターン(3+2/3+1+1の作り方)

初期形は3CB+アンカー+IHで3+2。相手の1トップには3で数的優位、2トップにはアンカーを落として3+2を維持します。より垂直に進めたい時は3+1+1(IHの一枚が高い位置でライン間に立つ)を使い、縦パス→落とし→前進のテンポを上げます。

幅の作り方:ウイングバックの高低差と逆サイドの管理

WBは同時に高い位置を取るとカウンターに弱くなるため、高低差をつけ、逆サイドは一段低い位置でセカンドボールとリスク管理を担当します。これでサイドチェンジを受ける逃げ場を確保しつつ、ボールロスト時の即時奪回も狙えます。

中央攻略:インサイドレーンでの三角形とサードマン

IH・降りるFW・アンカー(あるいはCB)で三角形を作り、縦→落とし→斜めの“サードマン”で相手中盤の背中を刺します。ここで大事なのは、落としの受け手が前向きでボールを持てること。受け手の体の向きとサポートの角度が成否を分けます。

守備フェーズ:5-3-2ブロックのスライドと跳ね返し

守備は5-3-2の横スライドでサイドに誘導し、クロスはCBの枚数で跳ね返す考え方。中央は常に“3枚で守る”を徹底し、ボランチ背後のスペースはCBが前に出て潰すか、WBの絞りで閉じます。

トランジション:回収地点設計と即時奪回(5秒ルール的発想)

ロスト直後の5秒でボールに最も近い2~3人が寄せ、後方の一枚が逆サイドケア。狙いの回収地点をサイドライン際に設定し、タッチに逃がしてスローインから回収するのも一手です。

3-5-2の強みと弱み

強み:中央密度・カウンター・空中戦の優位性

  • 中央の人数が多く、ライン間の防御が固い
  • 2トップの走力を活かしたカウンターが出やすい
  • 3CBでクロス対応とセットプレーに強い

弱み:サイド背後・逆サイド切り替え・WB背中の管理

  • WBの背中(SBとCBの間)を狙われやすい
  • 逆サイドの切り替えに遅れると展開負けする
  • 押し込まれるとWBの運動量頼みになりがち

展開別リスク:先行時の押し下げ/ビハインド時の前進手段

先行時はブロックが低くなり過ぎると押し込まれます。ビハインド時は2トップが孤立しやすく、IHの一枚が早めに最前線へ出て“3人目”を常に作る意識が必要です。

3-5-2への実戦的対策

攻撃での攻略:素早いサイドチェンジと逆サイド解放

5枚の最終ラインは横移動に時間がかかるため、素早いサイドチェンジが有効です。片側で時間を作り、逆サイドのWB背後へロング気味の対角パス。受け手は斜めに走って内側へ侵入、カットバックで仕留めます。

守備での抑止:CBからの縦差し遮断と2トップ分断

3CBの縦パスが生命線。前線は影でアンカーを消し、内側誘導を遮断して外回りに。2トップの片方をボールサイドに引きつけ、もう一人の背後走りをCB–SB間で受け渡す声掛けを徹底します。

セットプレー対策:ニア潰しとファー詰めの優先順位

3CBが強いので空中戦は拮抗します。攻める側はニアに強い一枚をぶつけて軌道をずらし、ファーで詰める二段構え。守る側はゾーンの高さを崩さず、キッカーの軌道に合わせて一歩目を素早く。

練習ドリル(図なしで実施可能):6v6+2フリーマン/サイド制限ゲーム

ドリル1:6対6+2フリーマン(逆サイド解放)

  • コートを縦長に設定し、両サイドに3mのレーンを設置。
  • 攻撃側はサイドレーンを使えるが、同時に入れるのは片側のみ。
  • スイッチ(逆サイド解放)後の3タッチ以内でフィニッシュを目指す。

ドリル2:サイド制限ゲーム(WB背後攻略)

  • タッチライン際からの対角パス→内側侵入→カットバックを反復。
  • 守備側WB役は背後の管理と中へ絞るタイミングを学ぶ。

4-3-3の基本構造と攻守の狙い

基本配置と役割(アンカー・IH・ウイング・SBの連動)

アンカーは前後のバランスと配球、IHはライン間の受けと前進、ウイングは幅と裏抜け、SBは重なり(オーバーラップ)や内側走り(インナーラップ)で数的優位を作ります。前線3枚で相手CB–SBを広げ、中央に通路を作るのが基本です。

ビルドアップ:2-3-5化と偽9的振る舞いの活用

SBの一枚を中へ絞ってアンカーと並べ、2-3-5の形で前線に5人を配置。CFが一度中盤に降りる“偽9”の動きで相手CBを釣り出し、空いた背後にウイングやIHが差し込みます。

サイド攻撃:ワイド維持とインナーラップの使い分け

ウイングがタッチラインに張ってSBを外へ縛り、IHかSBが内側を走る“インナーラップ”でPA内へ侵入。外→中の角度を増やしてカットバックの確度を高めます。

守備フェーズ:4-1-4-1/4-4-2への移行とプレス合図

守備は4-1-4-1で中央を閉め、前から行くときはIHが一枚跳び出して4-4-2化。相手CBの外足トラップや後ろ向きのパスがプレス合図になりやすいです。

トランジション:即時奪回の距離設計とリトリート判断

周囲5~10mの距離感を保ってボール周辺に数をかけます。かわされたら無理をせず、素早く4-1-4-1に戻ってリトリート。判断の切り替えが大切です。

4-3-3の強みと弱み

強み:五レーン占有と幅・深さの同時確保

  • ピッチを5つの縦レーンで満たし、パスコースが豊富
  • 幅と深さを同時に作れるため、崩しの再現性が高い
  • 即時奪回の人数を確保しやすい

弱み:アンカー露出とCB–SB間の背後スペース

  • アンカーが広い範囲を守るため、背後を消すサポートが必須
  • SBが高い位置を取るとCB–SB間の背後が空く

相性:低ブロック相手/ロングボール主体相手への傾向

低ブロック相手には幅を最大化してライン間で受ける回数を増やすのが有効。一方、ロングボール主体の相手には、アンカー周りと背後ケアの徹底が求められます。

4-3-3への実戦的対策

ビルドアップ阻害:アンカー消しと外誘導の二択管理

CFがアンカーのコースを影で消し、ウイングがSBへ外誘導。内側での前進を遮ってサイドで奪うのが基本です。アンカーに入った瞬間は全員の距離を詰めて逆サイドへの展開を遅らせます。

最終局面の守り:逆サイドケアとカットバック遮断

折り返し(カットバック)での失点が多くなりがち。PA内の“斜め45度”を常に一人で埋めるルールを明確にし、逆サイドのウイングをボールより内側で捕まえます。

攻撃での狙い:ウイング背後の刺しとハーフスペース攻略

相手SBが高い時は背後へ。中盤の外側(ハーフスペース)で前を向ければスルーパスやミドルが選べます。CFが降りるふりをしてCBを引き出し、その背後を三人目が走る形が有効です。

練習ドリル:3対2+GK切り替え/波状攻撃の再現タスク

ドリル1:3対2+GK(カットバック守備)

  • 攻撃3、守備2+GKでPA手前から開始。
  • サイド侵入→カットバックを守備側は“ファー足でブロック”。
  • 奪ったら即座に逆攻へ。切り替え判断を鍛える。

ドリル2:波状攻撃再現

  • クロス→クリア→セカンド回収→再クロスを連続で実施。
  • 逆サイドウイングのPA二列目侵入をルール化して得点率を上げる。

オランダ代表の可変とゲームモデルの実際

守備時5-2-3/5-4-1への変形(前線の枚数調整)

3-5-2の形でも、守備ではウイングバックが低くなり、前線は2~3枚で段差を作ります。相手のボランチ数に合わせて前線の枚数を調整するのが特徴です。

試合中のシステム変更トリガー(得点状況・サイド優位・カード)

  • 先制後:5枚を明確化してブロック重視
  • サイドで優位:WBやSBの押し上げを増やし、4-3-3寄りへ
  • カードや疲労:CBの枚数で安全度を上げる

リード時/ビハインド時のゲームプラン差分(テンポ・リスク許容)

リード時はテンポを落とし、相手のサイドで時間を使う。ビハインド時はIHの高さとSBの参加を増やしてPA内の枚数を確保。交代で走力と空中戦を同時に強化する傾向があります。

ポジション別攻略ポイント

GK/CBへのプレッシング設計(影のパスコースと背後管理)

CFは体の向きでアンカーへのコースを影で消し、ウイングはCB→SBの外回りを待ち構える。背後はCB–SB間の受け渡しを声で整理し、一本目のロングに対するセカンド回収を最優先します。

WB/SBとの1対1に勝つ原則(体の向き・間合い・縦切り)

  • 外足で縦を切り、内側に追い込む
  • 間合いは1.5歩、フェイントの一歩目で踏み込まない
  • 奪えない時は遅らせる。背後のカバーと連動

中盤3枚の捕まえ方:マンツー/ゾーンの切替基準

相手IHがライン間に入ったらマンツー気味に寄せ、背中でアンカーを感じながらゾーンへ戻る“往復”がコツ。奪いどころは相手の背向きトラップの瞬間です。

最前線の動き出し:背後脅威と足元サポートの両立

一人は常に背後へ脅威を出し、もう一人は足元で時間を作る。内外のレーンチェンジで相手CBの基準を曖昧にして、二人目三人目がフリーになります。

スカウティングと分析のチェックリスト

映像で見るべき局面:初期配置・立ち位置の揺らぎ・セットプレー

  • キックオフ後5分の配置とビルドの出口
  • ボールサイドの密度と逆サイドの待機方法
  • CK/FKの合図(ニア/ファーの優先、ブロックの有無)

データ指標:PPDA/最終3分の進入回数/トランジション時間

  • PPDA(守備のプレッシング強度)
  • 最終3分の進入回数(PA周辺の侵入頻度)
  • トランジション時間(奪回/前進にかかる平均秒数)

プレス合図と背後狙いの傾向(ラインコントロールの習性)

外足トラップ、バックパス、GKへの戻しで一気にラインを上げる傾向をチェック。背後は同サイドのウイングやIHが時間差で狙うため、マークの受け渡しを事前に整理します。

練習メニュー例(チーム/個人)

チーム:可変3-2ビルドアップ対策のストリームゲーム

  • 自陣からの連続前進。SBが中へ入り2-3-5化する相手を想定。
  • 外誘導→サイド罠→ショートカウンターまでを流れで反復。

チーム:4-3-3のカウンタープレス回避(出口設定)

  • ボール奪取後の“第一の出口”を事前指定(タッチライン際)。
  • 落とし役→サイドチェンジ→背後ランで一気に脱出。

個人:サイドでの半身受け/ワンタッチ前進

  • 半身で受け、遠い足でファーストタッチ。前向きの選択肢を増やす。
  • ワンタッチで内外へはたく反復で、奪われにくい体の向きを習得。

個人:フィニッシュ精度/カットバック対応ディフェンス

  • PA内の左右両足フィニッシュ、逆足の押し込みも練習。
  • 守備はゴールとボールの直線上に体を置き、ファー足でコース遮断。

よくある誤解と注意点

誤解1:3-5-2=守備的のみという固定観念

3-5-2はWBとIHの高さで十分攻撃的になります。枚数の多さは“前向きに出る人”を増やせるという意味でもあります。

誤解2:4-3-3=ポゼッション一辺倒という単純化

4-3-3でも速攻は可能。五レーンを満たしていれば、奪って3パスで決める縦の速さも出せます。

注意点:相手適応と自チームの強みからの逆算

形ありきではなく、誰が得意か・どこで優位が取れるかから逆算しましょう。プレス耐性、空中戦、走力。武器に合う布陣を選ぶのが近道です。

試合準備テンプレート(プランA/B/C)

立ち上がり15分:リズム掌握とハイライン試験

  • 最初の5分で相手のビルド方向とアンカーの位置を確認。
  • 一度ハイプレスをかけ、裏の走力とGKの足元をテスト。

ハーフタイム修正:幅/高さ/枚数の再配分

  • 左右の優位が出た側を“優先レーン”に設定。
  • PA内の枚数が足りない場合はIHの高さを一段上げる。

終盤の交代と布陣リスク管理(5バック化/2トップ化)

  • 守り切り:WBの一枚をDF化して5バックでクロス対応強化。
  • 追う展開:2トップ化+サイドからの供給を増やす。

まとめ:現実的な勝ち筋と学びの抽象化

育成年代への落とし込み(原則→ドリル→ゲーム)

原則を一つに絞り、ドリルで形にし、最後にゲームで確認する。たとえば「背後と足元の同時提示」「逆サイド解放」「カットバック遮断」など、言葉を短く統一しましょう。

アマチュアでも再現できるコーチングキーワード

  • 前向きの受け方(半身・遠い足)
  • 三人目の動き(縦→落とし→斜め)
  • 逆サイドの準備(幅と高さの事前セット)

次のアクション:スカウティング→練習→テスト→改善

相手の傾向を一つだけ特定し、それに合わせた練習をひとつ導入。次の試合でテストし、映像とデータ(PPDAやカットバック被弾数など)で改善サイクルを回しましょう。オランダ代表の3-5-2/4-3-3は、原則が明確だからこそ真似しやすく、学びも多い。自分たちの武器に合わせ、現実的な勝ち筋を積み上げていきましょう。

RSS