「サッカー韓国の特徴を解剖:速攻と圧縮守備」。このテーマは、現代サッカーの中核である“トランジション”を理解する近道です。韓国代表やKリーグの多くのチームは、強い圧力と切り替えの速さで試合のテンポを握ります。本記事では、その設計思想と実践モデルを言語化し、練習に落とし込める形で解説します。数字に頼りすぎず、現場で再現できる原則と判断基準に絞ってまとめました。
目次
導入:なぜ「韓国の速攻と圧縮守備」を解剖するのか
本記事の狙いと結論の先出し
狙いは3つ。1つ目は、韓国の「圧縮守備」と「速攻」の原則を具体化すること。2つ目は、誰でも取り入れられる練習メニューに翻訳すること。3つ目は、対策側の視点も提示し、試合準備に使えること。結論はシンプルです。距離・角度・初速の3点を揃えるだけで、強度重視のスタイルは再現可能。さらに、速攻の走路を習慣化し、カウンタープレスを外す“最初の一手”を持てば、得点までの最短距離が見えてきます。
キーワード整理:速攻・圧縮守備・トランジション・プレッシング
速攻=奪ってから最短でゴールに向かう前進。圧縮守備=縦横の距離を詰め、内側を閉じて奪いに行く構え。トランジション=攻守が入れ替わる数秒の勝負時間。プレッシング=ボール保持者と周囲に圧力をかけて選択肢を減らす行為。これらを「距離感」「トリガー」「走路」の設計で結びます。
本記事の読み方(実践者向けの活用ガイド)
各章は「原則→判断→練習→試合運用」の流れで構成。練習前に原則をチームで共有し、週のトレーニングで2つだけ重点を選ぶと効果的です。最後のチェックリストは印刷・コピペ推奨。
韓国代表サッカーの戦術的アイデンティティの概観
歴史的背景と近年の変遷(監督・世代交代の影響)
韓国は伝統的に走力と対人強度を武器にしつつ、指揮官の方針でブロック位置や攻撃の厚みが調整されてきました。近年は欧州組の増加もあり、前進の質と守備の同期が改善。ミドルブロックとハイプレスを試合状況で使い分ける傾向が目立ちます。
コア原則:速攻・圧縮・高いデュエル強度
共通項は「まず詰める」「まず前へ」「まず競り勝つ」。奪取後の最初の3秒で前進、守備時は内側を閉じて限定。接触局面では人数と初速で優位を取る設計が核にあります。
代表とKリーグのスタイル相関
Kリーグでは守備のコンパクトネスとトランジション速度を重視するチームが多く、代表選手の“強度基準”を底上げしています。リーグで鍛えた「距離感の詰め方」や「セカンド回収」が代表にも反映されやすい構造です。
試合の流れを握る“強度基準”の設定
韓国は強度の基準を高めに設定し、序盤から圧をかけて主導権を握るアプローチが目立ちます。ボールを持つ/持たないに関係なく、切り替えの速度でゲームのテンポを決めにいくのが特徴です。
圧縮守備を支えるメカニズム
ブロックの高さ(ロー/ミドル/ハイ)の使い分け
ハイは「相手の組み立て速度が遅い」「CBが足元型」の時。ミドルは「中央を閉じたい」「相手の背後走りが鋭い」時。ローはリード時や終盤の時間管理で。高さは“相手の一番得意を消す”視点で選びます。
横幅の圧縮と縦ズレの連動(コンパクトネスの維持)
横幅はボールサイドに5〜8m刻みで圧縮。縦は最終ライン—中盤—前線のギャップを10〜12m程度に保つイメージ。片側が前進したら反対側は半歩内へ絞り、「縦ズレの連鎖」で真ん中を閉じます。
プレスのトリガー:背向き受け・逆足・浮き球・タッチ数
相手が背を向けた瞬間、逆足トラップ、浮き球の落下、2タッチ以上のため、が合図。声かけは短く統一。「背」「逆」「浮」「二」でOK。反応をチーム全体で同期させます。
カバーシャドウで内側を封鎖する方法
アプローチ角度を斜めにし、背中でインサイドのパスコースを消す。足で奪いに行くのではなく、影で奪えない選択肢を作るのが狙い。これにより外へ誘導し、奪う地点を事前に決められます。
サイド誘導とタッチラインを“第12のDF”にする設計
外へ追い込んだら、サイドバックとウイングで挟み、縦・内・戻しの3択を制限。戻しにはCFが待機。タッチラインは逃げ道を半減させる“味方”。体の向きで相手の選択肢を作らせないのがコツです。
セカンドボール設計と回収率の高め方
競り合いの真下+前後5mに2人ずつ配置し、こぼれの角度を予測。バウンド高が上がる時は一歩引き、低い時は前へ。回収後の前向き体勢をつくるため、片方は常に半身で構えます。
ファウルマネジメントとリスクコントロール
カウンターの起点になりそうな場面では、中央手前で“遅らせる”接触を選択。イエロー管理はベンチが即共有。無理なスライディングよりも、外へ追いやる遅延のファウルが安全です。
速攻(トランジション攻撃)の型
奪取後3秒の前進原則と最短ルートの選択
奪った瞬間、最初の3秒で「前・斜め・縦」の優先順位を決めます。ボール保持者は最短ルートを探し、周囲は“前向きの味方”を最速で作る。後ろからの余計なサポートは遅延の原因です。
斜めの一発か縦への直進か:判断基準
CBの足が止まっているなら縦。SBが内を締めたなら斜め。2列目の逆サイドが空くなら深い斜め。相手の体の向きと重心で決めるのが、韓国の速攻に見られる合理性です。
逆サイドのウイング走路とファー詰めの習慣化
ボールサイドに寄りすぎず、逆サイドは“ファーの定位置”へスプリント。クロスの質に関係なく、ファー詰めの人数がシュート数を決めます。ゴール前はニア1人・中央1人・ファー1人が基本。
オーバーロード→サイドチェンジのスイッチワーク
一度ボールサイドに人数をかけて相手を圧縮し、逆へ素早く展開。ロングでなくても、2本のショートでテンポよく入れ替えると守備は遅れます。受け手は最初から前向きの体勢で。
カウンタープレス回避の一手(ワンタッチ・壁パス・縦抜け)
奪取直後は相手の再奪取が最強。そこでワンタッチ、壁役のセット、縦抜けの3パターンを即実行。触る回数を減らし、相手の“寄せ切る前”にラインを超えるのが鍵です。
フィニッシュパターン:ニア叩き/ファー折り返し/カットバック
速攻の終点は3択で十分。ニア叩きでGKの視界を切る、ファー折り返しで逆を突く、カットバックで遅れて入る。どれを選ぶかはCBの重心と戻り人数で決めます。
セットプレーの位置づけ
守備的セットプレー:ゾーン×マンのハイブリッド
ニアはゾーンで弾き、主砲にはマン。セカンドはエリア外の正面に2人。走り込む相手への“並走・接触・視野確保”の3点を徹底し、被ブロックを避けます。
攻撃的セットプレー:初速とスクリーンの使い方
ニアへ強い初速を入れるか、スクリーンで主砲を解放。キッカーは高低差を使い、相手の最も高いDFを外すコース取り。セカンド狙いのミドルは常に1枚構えます。
リスタートからの速攻接続(スローイン・FK・GK)
スローインは内側に落とし、ワンタッチで前へ。自陣FKやGKはサイドの裏へ“早く深く”。相手の陣形が整う前に一列飛ばす発想が有効です。
キープレーヤー像と役割
1stディフェンダー(CF/ウイング)の守備任務と走行管理
最前線はコースカッター。CBからアンカーの縦を消し、外へ誘導。スプリントの総量を抑えるため、3回走ったら1回休む“リズム管理”もタスクです。
ダブルボランチ:スライドと縦ギャップ管理
片方が前に出たら、もう片方が背中を塞ぐ。縦7〜10mの間隔を維持し、カバーと奪取を兼任。前を向かれたら一旦遅らせ、サイドへ誘導します。
サイドバック:外幅/内側絞りの可変とカウンター耐性
攻撃時は外で幅、守備は内側絞りでライン間を埋める。背後を消す体の向きと、奪われた瞬間の“内→外”の切り替えが生命線です。
センターバック:対人と裏管理の優先順位
ボール保持者が前向きなら下がって裏管理、背向きなら前へ圧縮。跳ね返すだけでなく、セカンド回収の角度を作るクリアも意識します。
GK:スイーパー能力と前進パスのコア
背後の広いスペースを管理し、ラインの高さを支える。キャッチ後の素早いスローと低い弾道のキックで、速攻のスイッチ役を担います。
データで見る速攻と圧縮守備
PPDAとボール奪取位置の傾向
PPDAが低いほどプレス強度が高い指標。韓国は試合や相手で変動しますが、相手陣での奪取を狙う局面が多く見られます。奪取位置はサイドのミドルゾーンに集中しやすいのが特徴です。
速攻起点からの到達時間とシュート期待値の関係
一般に到達時間が短いほど決定機に直結。3〜8秒でPA侵入できる構造を持つと、期待値は安定します。最初の縦パスの成功率が成否を左右します。
守備距離・横幅(チーム幅)と被突破率
横幅を詰めすぎるとサイドチェンジで崩れ、広げすぎると内で前進されます。目安はボールサイド35〜40m以内。ライン間10m前後での維持が被突破率低下に寄与します。
セットプレーの得点/被得点の特徴
ニアの攻防が鍵。守備はニアの初速対応、攻撃はニアで触る設計が結果に影響しやすい傾向。セカンド対応の準備度合いが試合の流れを左右します。
試合事例を抽象化するタイムライン解剖
序盤(0〜15分):初期圧力と陣地回復
立ち上がりはハイ基準で圧力。相手の最初のビルドアップを外へ限定し、深い位置でのスローインやCKを多く獲得して陣地を押し上げます。
中盤(16〜75分):押し引きとゲームスピードの調整
ペース配分を取りつつ、5〜10分単位でミドルとハイを切り替え。速攻と遅攻を織り交ぜ、相手の集中が切れた瞬間に一気に刺す展開を狙います。
終盤(76分〜):時間管理・交代カード・ブロック強度の維持
交代で前線のスプリント力を補充。ファウルの質を管理し、外へ逃す守備で時間を進めます。クリアはタッチへ、敵陣でのプレー時間を増やすのがセオリーです。
トレーニングへの落とし込み
4対4+3サーバーで学ぶ圧縮守備の距離感
中央に中立3枚。守備側は内を閉じ、サイドへ誘導。制限は3タッチ以内。縦・横の距離を音声合図で共有し、奪ったら即ゴールへ5秒ルール。
6秒ルール付きトランジションゲーム(奪取→即前進)
6対6+GK。奪取後6秒以内にシュートで2点、以降は1点。最初のパス方向と走路の優先順位を習慣化します。
2ライン間7m固定のブロック整備ドリル
マーカーで7m固定。スライドに合わせて全員が半歩ずつ“連鎖”。前が出たら後ろは同時に詰め、縦ズレの感覚を統一します。
カウンター走路の3レーン化と役割分担
中央・左レーン・右レーンの3路を可視化。ニア突撃、中央サポート、ファー詰めの役割を固定し、スプリントのタイミングを合わせます。
フィニッシュ時のリスク管理(リストディフェンス)
PA外に2人残し、カウンターの中央ルートを遮断。クロス時はこぼれ球に対して即時の“内→外”トランジションを準備します。
コンディショニングと復元力(リカバリー)
無酸素反復走とレスト比の設計
30〜40mの反復スプリント×6〜8本を1セット、レストは1:3を目安。週2回、合計2〜3セットでスピード持久を底上げします。
減速の技術:方向転換と怪我予防
片足で減速→骨盤正面→再加速の順。足幅を肩幅内に収め、上体が流れないこと。ブレーキの質がハムストリングス保護につながります。
試合後48時間の回復プロトコルと睡眠・栄養
試合直後は炭水化物+タンパク質の補給、24時間以内に軽い有酸素、48時間で可動域回復。睡眠は7.5時間以上、就寝2時間前の画面オフが推奨です。
メンタリティとコミュニケーション
合図言語(トリガーワード)の統一と共有
「背」「逆」「浮」「二」など短い合図で全員が同じ反応をする文化を作る。聞こえなくても口の形で伝わる一音が有効です。
デュエル強度の標準化とファウルコントロール
接触の強さを段階化(1〜5)し、チームで共通認識を持つ。危険域では3、外では4、といった使い分けでカードを避けます。
主審との距離感・感情マネジメント・クールダウン
抗議はキャプテンに一本化。感情の高ぶりは呼吸で下げ、試合後は相手・審判への挨拶で切り替え。次戦へ気持ちを運びます。
対策:このスタイルにどう立ち向かうか
早い縦を遅らせるビルドアップ設計(逆誘導と外し)
誘いは外でなく内へ。あえてアンカーに入れてリターンし、プレスラインの裏のSBへ。相手の限定を逆手に取り、ワンタッチで外します。
背後管理へのダミー走りと逆走路の活用
表の抜け出しに合わせ、逆方向の“掃除機ラン”でCBを釣る。空いたレーンへインサイドハーフが差し込むと、ラインが割れます。
セカンドボールの事前配置と“拾い勝ち”の仕込み
ロング時はこぼれ地点に対し“前後2枚+外1枚”。落下点を読む人員を固定し、拾った瞬間に内へ通すルールを決めます。
トランジション即時予防(レストディフェンスの徹底)
攻撃時も常に2〜3人を残し、中央を閉じておく。クロス前の配置でカウンターの芽を摘むのが、速攻対策の最短ルートです。
学べるポイントと注意点(取り入れる/取り入れない)
取り入れるべき原則:距離・角度・合図・初速
守備は距離と角度、攻撃は初速と走路。合図言語で反応をそろえるだけで、再現性は一気に上がります。
避けるべき過剰一般化と選手特性の見極め
「走れば解決」は誤り。選手の加速タイプ/持久タイプを見極め、役割を調整。ボールを持てる時間が必要な選手には逃げ場を用意します。
ポジショナルプレーとのハイブリッド運用
保持の原則と衝突しません。ポジショナルで崩し、失った瞬間は韓国型の即時圧縮で回収。両立が現代的です。
よくある誤解とQ&A
「フィジカル一辺倒」ではない根拠
強度は武器ですが、守備の角度設定やカバーシャドウの精度は戦術的。身体能力に頼るのではなく、奪う地点をデザインしています。
「ポゼッションが苦手」かの検討ポイント
保持を“手段”として使う試合もあり、状況適応が前提。相手やスコアで保持率は変わり、保持の“質”で勝負している局面も見られます。
反則数と強度の関係をどう読み解くか
強度が高いと反則も増えがちですが、重要なのは“場所と質”。カウンター芽の早期刈り取りは戦略的ファウルで、カードリスクを抑える運用が鍵です。
まとめと次の一歩
今日から実践できる3アクション
- 合図言語を4語に統一(背・逆・浮・二)
- 奪取後3秒の前進ルールを設定(前・斜め・縦の優先順位)
- カウンター時の3レーン走路を固定(ニア・中央・ファー)
練習・試合で使える分析チェックリスト
- 守備幅はボールサイド40m以内か
- ライン間は10m前後で維持できたか
- プレスのトリガー合図が共有されているか
- 速攻到達時間(奪取→PA侵入)は8秒以内が何回あったか
- セットプレーのニア対応は成功したか
継続的な改善サイクルの回し方
週単位でテーマを2つに絞り、動画で振り返り→合図の修正→ドリル再実施。指標は「距離・角度・初速」。数値ではなく“意思決定の速さ”に焦点を当てると伸びが早いです。
あとがき
韓国の「速攻と圧縮守備」は、難解な理論ではなく、現場で機能するシンプルな原則の積み重ねです。強度を“設計”で支える発想を持てば、どのカテゴリーでも再現可能。自チームの色に合わせて、まずは合図と言語化から始めてみてください。継続がすべてを変えます。
