サッカーのノルウェー代表戦術とフォーメーションを読み解く。強力な点取り屋と欧州トップクラブで磨かれた司令塔を中心に、ノルウェー代表は「縦に速い直線性」と「整理されたポジショニング」を両立させるチームに進化しています。本記事では、ノルウェー代表の現在地から基本フォーメーション、ビルドアップ、守備・トランジション、セットプレー、さらにトレーニングへの落とし込みまでを一気に整理。難しい専門用語は避け、試合観戦や現場の練習にすぐ役立つ視点でお届けします。
目次
ノルウェー代表の現在地と全体像
欧州中堅から上位をうかがうチーム像
ノルウェー代表は、欧州の中で「中堅から上位をうかがう」位置づけが妥当です。大陸大会の常連というほどではありませんが、欧州主要リーグで主力を務める選手が増え、攻撃の決定力と守備の粘り強さが同居。ビルドアップで丁寧につなぐ局面と、素早く背後を狙う局面の切り替えが明確で、試合のテンポを自分たちに引き寄せられる時間帯を作れるのが近年の強みです。
選手層と世代交代の流れ
前線と中盤のコアに20代のピークへ向かう選手が集まり、世代交代は比較的スムーズ。前線は世界的ストライカーを中心とし、ウイングやセカンドトップに走力と推進力のある人材が多い印象です。中盤はサイズとテクニックを兼ねる選手が増え、保持でも非保持でも強度が落ちにくい。守備陣は空中戦とカバーリングに長けたセンターバックが軸で、欧州の「強度の高い週末」を経験している点が安定感につながっています。
データで見る強みと弱み(空中戦・走力・得点傾向)
公開データや試合映像からは、空中戦の競り合いに強みがあり、クロスやセットプレーで得点期待値が高まりやすい傾向がうかがえます。走力面ではスプリント回数・中長距離の走行で強度が保たれ、トランジション局面の迫力が特徴。一方で、低ブロックを長時間崩し切る再現性や、サイドを起点にした二次攻撃の質に波が出る試合もあり、攻撃の「最後の一押し」の精度が課題として語られることがあります。
基本フォーメーションの整理
4-3-3の基盤と可変(2-3-5/3-2-5)
ノルウェー代表の土台は4-3-3。保持時は片方のサイドバックが内側に絞って中盤化し、2-3-5や3-2-5に可変します。これにより、ハーフスペースのレーンを5レーンで埋めつつ、前方の五枚に明確な役割(幅・ハーフスペース・フィニッシャー)を割り当てられます。背後の2~3枚でカウンター耐性を確保し、重心を上げたまま攻撃を継続する狙いです。
4-4-2の守備ブロックとトランジション
非保持ではウイングが落ちて4-4-2の二段ブロックを形成する形がベース。サイドを締めつつ中央は二列目で抑え、奪ったら素早く縦に刺すトランジションへ。前線の二枚は背後と楔の両方を使い分けられるため、相手のラインが浅ければ背後、深ければポストワークで押し上げます。
4-2-3-1のバランス型オプション
ボール保持の安定と二列目の創造性を両立させたい試合では4-2-3-1を採用。ダブルボランチで中央の安全装置を置き、トップ下が前進のハブになります。ウイングは内外のどちらも取れる選手を配置し、サイドバックの出所と連動させて崩しの形を作ります。
相手や試合状況でのフォーメーション選択
ハイプレス主体の強豪には4-2-3-1で後方の安定性を担保、ローブロック相手には4-3-3で五レーン占有を強める、といった判断が一般的。リード時は4-4-2のミドルブロックへ、ビハインド時はSBの同時位置取りを増やして2-3-5寄りに重心を上げるなど、状況に応じた変形が見られます。
ビルドアップと前進方法
1stフェーズ:GK+CBの形とSBの立ち位置
最初の出口はGKとCBの三角形。相手の一枚目が1人ならCBが持ち出して縦パス、2人ならSBを絡めて数的優位を作ります。右SBが内側に入ればアンカー横のサポートが生まれ、左SBが高い位置を取れば幅の起点に。CBの片方は縦運びが得意で、相手の中盤ラインを引き出して背後にスペースを創出します。
2ndフェーズ:縦パスと落とし、ロングボールの使い分け
中盤や9番への縦パス→落とし→三人目の前進は基本パターン。相手が中央を締めてくれば、早めのロングボールで背後のチャネル(CBとSBの間)を狙います。ここで大事なのは「予告されたロング」。出し手と受け手の合図を共有しておくことで、単発の蹴り合いではなく、回収まで含めた計画的な前進にできます。
3rdフェーズ:ハーフスペース攻略とラストパスの作り方
最前線は5レーンを使い、ハーフスペースの選手がターンできれば一気に決定機。ウイングが幅を取り、内側にIHやトップ下が侵入して「縦スライス(縦の分断)」を作ります。ラストパスは逆サイドのウイングへの速いスイッチ、またはニアゾーンのギャップ通しが有効。ペナルティエリア角での一瞬の2対1を増やせると、カットバックの質が上がります。
サイド攻撃とクロス戦術
ウイング×SBの関係性(内外の使い分け)
ウイングが外に張るならSBは内側で数的優位を作り、ウイングが内に入るならSBが高く外。二人のレーン被りを避けるのが原則です。相手のSBが食いついた瞬間に背後へスプリントを差し込む「同時動き」でラインを割り、逆サイドのウイングは二次展開に備えて背後の幅を確保します。
早いクロスとカットバックの選択基準
相手最終ラインが整う前は早いクロス、相手が自陣に人数を揃えたらグラウンダーのカットバック。ニア・ファー・ペナルティスポットの三点をタイミングよく走り分け、ペナルティアーク手前の「こぼれ球ゾーン」に一人を配置すると得点期待が安定します。
セットされたワイド攻撃からのフィニッシュパターン
セットされた局面では、内側で三角形を作って相手のボランチを引き出し、空いた外レーンへ配球→折り返しが王道。ファー側ウイングの二列目到達、IHのニアゾーン差し込み、9番のセカンドポスト取りをセットで仕込んでおくと、崩しからのフィニッシュ再現性が高まります。
中央攻撃の設計
インサイドハーフの役割とポケット侵入
IHは「ポケット(最終ラインと中盤の間)」で前を向く役。背中を取ったら少ないタッチで縦に刺し、サイドで作った時間に合わせて中央のギャップへ走り込みます。相手のアンカー脇を使う動きが増えると、守備が横に開いてサイドも活きます。
10番的プレーメーカーの配置と連携
トップ下(または右IH)がゲームを落ち着かせるハブ。サイドに振るか、背後に通すか、保持と加速のアクセルを握ります。9番の落としとウイングの背後抜けの「三本柱」を一本の線でつなげるのが役目で、ボールを引き付けてからのワンタッチ解放が効果的です。
最前線の動き直しとラインブレイク
9番は最終ラインの「肩」に立ち、動き直しでオフサイドラインを操作。CBの間・SBの背中・ボランチ脇の三方向へ走れるよう、スタート位置の工夫が鍵になります。局面によっては楔→リターン→背後の三手で一気に仕留めにいきます。
トランジション(攻守の切り替え)
カウンターの出しどころと走力活用
奪った瞬間、相手のSB裏やアンカー背中へ前向きに差し込めると一気に加速できます。前線の走力とフィジカルが生きる局面なので、奪う場所をサイドの中盤ライン上に設定すると、タッチラインを味方にできて安全に前進可能です。
ネガトラ5秒ルールとカウンタープレス
失った直後の5秒間でボール周辺を圧縮し、縦パスだけは切る。外に逃げられる分にはOKという整理で、中央の危険地帯を閉じます。前がかりになりすぎると背後のケアが疎かになるため、逆サイドのSBやアンカーがリスク管理役を担います。
二次攻撃・二次回収の仕組み
クロスやスルーパスが弾かれた後の「二次回収」をチームで取りに行く設計がポイント。アーク手前と逆サイド内側に回収ユニットを置き、もう一度ハーフスペースから刺し直す「二次攻撃」で相手の集中を削ります。
守備戦術の全体像
ハイプレスのトリガーと矢印合わせ
バックパス、サイドチェンジの浮き球、相手SBの内向きファーストタッチがトリガー。最前線の矢印(身体の向き)を外向きに合わせ、縦のパスコースを影で遮断します。ウイングは縦圧を掛けつつ内側のレーンを消す「二足の草鞋」が求められます。
ミドル/ローブロックのスライドと縦ズレ
ミドルでは横スライドを素早く、縦のズレ(前に出る・下がる)をはっきりと。ローブロックではペナルティエリア内の枚数を確保し、PA角のショットコースを優先的に封鎖します。前に出る選手と残る選手の役割が明確なため、ライン間を開けにくいのが特徴です。
サイド圧縮とクロス対応
サイドではタッチラインを味方にして数的優位を作り、クロッサーの利き足を外に向けます。クロス対応はニア優先、セカンドポストは遅れて入ってくる相手に合わせ、アーク前のこぼれ球も含めて三層で守ります。
セットプレー守備(ゾーン+マン・ミックス)
ゴール前はゾーンをベースに、主要ターゲットに部分的マンマークを付けるミックス。ライン設定はGKの出やすさと相手の走り込み速度を天秤にかけ、オフサイドトラップはリスク低めに運用するのが一般的です。
キープレーヤー別の戦術的役割
エーリング・ハーランド:背後とボックス支配
強烈なスプリントとフィニッシュ精度で、背後とボックス内の両方を支配する存在。縦パスの受け方はシンプルでも、動き直しの質で差を生みます。彼を囮にハーフスペースへ通す二次の崩しも有効で、味方の得点機会を増やす重力を持っています。
マルティン・ウーデゴー:ゲームコントロールと前進
前進のハブであり、試合のテンポを調整する司令塔。相手のボランチ脇や右ハーフスペースでボールを引き出し、ワンタッチやアウトサイドで局面を前へ進めます。守備でもプレスのスイッチ役を担い、攻守のバランサーとして機能します。
ウイングのプロファイル別起用法
縦突破型を起用するなら早いクロスとロングスプリントの回数を増やし、インサイド型ならカットインとカットバック、逆サイドへのスイッチで崩します。相手SBのタイプ(守備的/攻撃的)に応じて、ミスマッチを突ける側を主戦場に設定するのが定石です。
セントラルMFの守攻バランス
サイズと運動量のあるボランチがアンカー脇をカバーしつつ、前向きな守備で前進の芽を摘みます。もう一枚は前方支援とライン間侵入に積極的で、セカンドボールの回収率を左右します。
CBとGKの配球・空中戦
CBは配球とカバーリングの両立が求められ、片方が前に出て潰す、片方が背後を管理する関係。GKは足元の安定とロングの正確性が重要で、背後のボールを回収して素早く前進させる「攻撃の始発駅」も担います。空中戦は全体の武器であり、攻守のセットプレーで存在感を発揮します。
相手別ゲームプランの変化
5バック相手への崩し方
五枚の最終ラインには、IHやトップ下が最終ライン手前でタメを作り、サイドの二対一を増やすのが効果的。ウイングの内外の出入りでWBの判断を遅らせ、逆サイドのファー走り込みで仕留めます。
ハイプレスを仕掛ける相手への解法
GKを含む逆サイドの即時展開、三人目の縦抜け、そして計画的なロングでチャネルを狙う三本立て。相手の一列目を引き出したうえで、インバートSBが中盤の出口になれると前進が安定します。
低ブロックを崩す再現性
五レーン占有+カットバックの反復、そしてペナルティアーク前の二次攻撃がカギ。ハーフスペースで前を向ける回数と、同サイドでの「壁作り(落とし役)」の質がそのままチャンス数に直結します。
リード時/ビハインド時のマネジメント
リード時は4-4-2ミドルで中央を閉じ、前進の起点をサイドに限定。ビハインド時はSBの同時前進と交代カードで深さを確保し、クロスの枚数と二次回収を増やします。時間帯に応じたファウルマネジメントやリスクの掛け方も徹底します。
セットプレーの攻守
攻撃セットプレー:キッカーとターゲットの動き
キッカーはインスイング/アウトスイングを使い分け、ターゲットはブラインドからの遅い助走でニアに入り、ファーには長身の選手が流れ込みます。ニアで触ってファーで押し込む二段構えが基本形です。
ロングスロー/セカンドボール対応
ロングスローはニアで触る選手、GK前でブロックを作る選手、アークで回収する選手に役割を分担。相手のカウンターに備え、最終ラインにはスピードのある選手を一枚確保しておきます。
守備セットプレー:マーク配分とライン設定
主要ターゲットにマン、その他はゾーンでライン際を守るミックス。クリア後のセカンド対応までを一連でデザインし、相手のショートコーナーにも即応できる配置を作ります。
データで読み解く指標と傾向の見方
xG/xGA・PPDA・フィールドTiltの読み方
xGは決定機の質、xGAは被決定機の質を示し、PPDAはプレス強度の目安、フィールドTiltは相手陣内での支配度を表します。ノルウェーは対戦相手と試合展開で数値の振れ幅が出やすく、リード時の管理とビハインド時の押し込みで指標が変化しやすいチームと見るのが自然です。
クロス頻度・空中戦勝率・ロングボール比率
クロスは得点源の一つで、空中戦の強さが裏付けになります。ただし、ロングボール比率は相手次第で変動。追いかける展開では増え、先行時は抑えて保持を混ぜる傾向が見られます。
選手レベルのプレス/進入データの活用
個人の最終三分の一進入回数、プレス成功回数、ターンオーバー起点の位置などを合わせて見ると、どのレーンで優位を作れているかが把握しやすくなります。ウイングとIHの進入バランスが整う試合はチャンス数が安定しやすいです。
トレーニングへの落とし込み
ハーフスペース連携ドリル(2人/3人)
2人:縦パス→落とし→背後抜けを左右で反復。制限タッチでテンポを上げ、受け手は半身で前を向く。
3人:外→内→外の三角形で相手ボランチを引き出し、最終的にハーフスペースへ差し込み。3分×4セット。
クロス&フィニッシュの反復メニュー
左右同時レーンで、早いクロスとカットバックを状況判断で打ち分け。ニア・ファー・スポットの走り分けを固定し、合図でローテーション。5本1セットを連続で。
切り替え強度を高める小規模ゲーム
4対4+2フリーマン、ゴール後/奪取後の5秒間は得点2倍ルール。ネガトラの圧縮と即時前進の両方を身体に落とし込みます。
セットプレーの設計と合図
コーナーはニア潰し/ファー流し/ショートの3パターンを用意し、腕やコールの合図で使い分け。守備は主要ターゲットにマンをつけ、残りはゾーンで二次対応まで徹底します。
試合観戦チェックリスト
キックオフから10分の立ち上がり
前進の出口(SBの位置/アンカー脇の活用)と、プレスの初期設定がハマっているかを確認。背後への一発に合図が通っているかもポイント。
プレスのスイッチとライン間距離
誰の寄せでスイッチが入るか、最終ラインと中盤の距離は適切か。ズレがあると相手の前進が容易になります。
サイドチェンジの頻度と効果
同サイドで詰まったら、逆サイドへ速く大きく。チェンジ後に数的優位が生まれているか、セカンドアクションまで連動しているかを観ます。
交代策の意図と陣形変化
走力の上書きで背後を増やすのか、トップ下を足して間での受けを増やすのか。交代でフォーメーションがどう可変したかを整理すると理解が深まります。
よくある誤解と検証
「ロングボール一辺倒」ではない多様性
背後への長いボールは強力な武器ですが、縦パス→落とし→三人目の前進や、ハーフスペース連携も明確な持ち味。相手によって攻め筋を使い分けています。
「フィジカル頼み」だけでは勝てない理由
空中戦や走力は強みでも、ポジショニングの整理とタイミングの共有があってこそ。可変で五レーンを占有し、二次回収までデザインする緻密さが試合を支えています。
若手タレントと戦術の相互作用
個の推進力があるからこそ、全体の配置で「一人を活かす道」を作ればチームが強くなる。戦術が若手を伸ばし、若手が戦術の幅を広げる好循環が見られます。
今後の展望とまとめ
欧州のトレンドとの適合
可変による五レーン占有、ハイプレスとネガトラの即時圧力、セットプレーの細部設計など、欧州トレンドと親和性は高い領域が多い。さらなる上積みは「低ブロックを崩し切る反復性」と「ゲーム終盤の管理」にあります。
人材プールとポジション別課題
前線と中盤の柱は国際基準。課題は厚みの分散で、ウイングのタイプ別バリエーションと、攻撃的SBの継続的な輩出が鍵。GKとCBの配球力がもう一段上がると、保持の安定感が増します。
国際大会に向けた優先課題
決勝トーナメント水準を見据えるなら、強豪相手にボールを持てない時間帯での「脱出ルートのテンプレ化」、リード時の「ファウル・時間管理」、劣勢時の「交代での深さ確保」が優先度高め。細部が積み上がるほど、決定力が勝ち点につながります。
おわりに
ノルウェー代表は、強力なフィニッシャーと司令塔を軸に、直線的な迫力と整理された構造を両立させるチームへ。可変で五レーンを満たし、トランジションの強度で上位に食らいつく姿は、現代サッカーの実例そのものです。観戦では「可変の形」「背後への予告」「二次回収の配置」を、練習では「ハーフスペース連携」「クロスの走り分け」「5秒のネガトラ」を合言葉に。戦術を知れば、ピッチで見える景色が一段クリアになります。
