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サッカー女子の生理中、練習どうする?エビデンスで強度設計

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サッカー女子の生理中、練習どうする?エビデンスで強度設計

「生理中って、練習を休むべき?それとも普段どおり?」——答えは、個人差を尊重しつつ、エビデンスに沿って柔軟に強度を調整することです。この記事では、月経サイクルとパフォーマンスに関する科学的知見をわかりやすく整理し、現場で使える強度設計、代替メニュー、栄養・コンディショニング、チームでの運用方法までを一気にまとめます。無理のない方法で、今日から実践できる「強度の合わせ方」を一緒に作っていきましょう。

結論と全体像:生理中の練習は“個別化×エビデンス×柔軟性”

一目で分かるポイント(強度・症状・安全の優先順位)

  • 最優先は安全。強い痛み、めまい、気分不良、過度な出血などがある日は、強度を下げるか休む選択もOK。
  • 症状が軽い日は、普段の計画に沿う。ただし「始めてから上げる」考え方で、ウォームアップ中に体調を再チェック。
  • 「達成したい目的」と「その日の身体の反応」を常にすり合わせる。目的が高強度でも、身体がNOなら設計変更。

オートレギュレーションで強度を合わせる理由

月経サイクルの影響は個人差が大きく、同じ人でもサイクルごとに変わります。だからこそ、練習前・中・後の主観指標(RPE=きつさの自己評価、痛み、睡眠、気分)で「その日の最適解」を決めるオートレギュレーションが有効です。外から決めた強度に自分を合わせるのではなく、身体の反応にメニューを合わせる。これがケガ予防とパフォーマンス維持に直結します。

研究の合意点と不一致点を前提に設計する

  • 合意点:月経によるパフォーマンスの変動は「小さい〜個人差が大きい」。症状が強い日は影響が出やすい。
  • 不一致点:特定フェーズでの明確な有利・不利は一枚岩ではない。ACLなどのケガリスクも結論は分かれている。
  • 実務解:一般化に頼らず、本人の履歴(症状・RPE・記録)で調整するのが安全で現実的。

月経とパフォーマンスの科学的知見

ホルモン変動と体温・痛み・疲労:基本メカニズム

  • 黄体期は体温がわずかに上がりやすい(目安0.3〜0.5℃)。暑熱下では疲労感や脱水に注意。
  • 生理期は子宮収縮による下腹部痛や腰痛、頭痛が出やすい。睡眠の質が落ちる人もいる。
  • 鉄の損失が続くと、持久系のパフォーマンス低下や回復遅延の一因になることがある。

パフォーマンス差に関するエビデンス:効果は小さく個人差が大きい

スプリント、ジャンプ、VO2max、筋力などの指標は、月経サイクルによる差が小さいか不確定という報告が多く、個人差が目立ちます。つまり「誰にでも当てはまる黄金パターン」はなく、症状の強弱や睡眠・栄養状態が実力発揮を左右しやすい、というのが現実的な見方です。

けがリスクの知見(ACL等):結論は一枚岩ではない

一部の研究で、排卵期に靱帯のゆるみ(弛緩)が増える可能性が指摘されていますが、リスク増加を一貫して示す結果ばかりではありません。実務上は、着地・減速・方向転換の質、疲労管理、筋力・協調性のトレーニングを通年で高めることが、最も再現性のある予防手段です。

体調と知覚強度(RPE)の関係

同じ練習でも、体調が落ちているとRPEは高く出ます。生理期や黄体期のコンディション低下時は、RPEでセッション強度を調整し、週全体の負荷が過度に跳ねないように管理するのが実践的です。

強度設計の基本原則:エビデンスと実践の橋渡し

3ゾーン強度モデル(低・中・高)とサッカーの運動特性

  • 低強度(ゾーン1):会話ができる程度。技術練、ポゼッションの広めの間合い、リカバリー走。
  • 中強度(ゾーン2):会話が途切れる程度。ポジショナルゲーム、対人の制限付き。
  • 高強度(ゾーン3):息が上がる短時間の反復。スプリント、短い強度ドリル、狭い局面の対人。

サッカーは断続的な高強度スポーツ。高強度の刺激は必要ですが、症状が強い日は「量を保ち、ピーク強度を抑える」などで適応できます。

セッションRPEと週次負荷管理(急性/慢性負荷の目安)

  • セッションRPE=練習後の「きつさ(0〜10)」×「時間(分)」で、その日の負荷を見える化。
  • 週合計で急に跳ね上がるとケガリスクに関連しやすいとされます。比率の厳密な数値に固執するより、「先週比で大幅増を避ける」発想が現実的。
  • 試合週は高強度日を2回以内に。非試合週は3回までOKだが、間に低〜中強度の回復日を挟む。

主観指標+客観指標(心拍・スプリント回数)の併用

RPEや痛みスコアなどの主観に、心拍、移動距離、スプリント回数・最大速度などの客観指標を重ねて判断します。どちらか一方だけだと見誤りが起きやすいので、最低限「RPE・時間・スプリント本数」は記録しておくと実務で役立ちます。

症状スコアと強度の連動ルール(上げる/維持/下げる)

  • 症状スコア0〜3(軽い):計画どおり。高強度もOK。ウォームアップ中に再評価。
  • 4〜6(中等):メインは中強度。高強度は量を半分以下に、または技術ドリルに置換。
  • 7〜10(強い):低強度中心か休養。可動性、コア、技術、映像分析に切り替える。

フェーズ別の練習設計(個人差を前提とした目安)

生理期(出血期):痛み・貧血リスクを考慮した強度コントロール

  • 狙い:痛みと疲労の管理。技術の質を落とさず、ボリュームを確保。
  • メニュー例:ポゼッション(広め・タッチ制限)、セットプレー確認、パス&サポートのドリル。
  • 回避:接触の強い対人、長時間の全力反復。必要なら高強度は短く切って実施。
  • 備え:鉄リッチな食事と補食、水分・電解質、鎮痛薬の使用は医療者に相談のうえ判断。

卵胞期:技術習得と高強度刺激の積み上げ方

  • 狙い:学習効率が上がりやすい人もいる時期。スプリント、加速、技術の細部に投資。
  • メニュー例:短距離スプリント反復、1v1/2v2のスピード系、フィニッシュ付きのトランジションドリル。
  • 注意:高強度日が連続しないように。疲労が残る場合はボリュームを抑える。

排卵前後:俊敏性・跳躍系の適用と注意点

  • 狙い:切り返し、着地動作の質を高める。大腿後面・臀部の活性化をウォームアップに組み込む。
  • メニュー例:減速→方向転換のドリル、ジャンプ→着地→スプリントの連結、反応を伴うアジリティ。
  • 注意:疲労が強い日は、接触プレーやハイリスク着地を避け、技術重視に切り替える。

黄体期:体温上昇・睡眠の質低下に対する調整戦略

  • 狙い:熱ストレス管理と回復確保。夕方以降の高強度は睡眠に影響する人も。
  • メニュー例:中強度のポジショナルゲーム、ゲーム形式の戦術落とし込み、短時間の質高いスプリント。
  • 工夫:クーリング(冷たいタオル、日陰、扇風機)、こまめな水分・電解質、就寝前のルーティン確立。

症状別アプローチ:痛み・疲労・メンタル・胃腸

月経痛(下腹部痛・腰痛・頭痛):動的ウォームアップと練習設計

  • ウォームアップ:骨盤周りの可動、股関節・胸椎モビリティ、軽いジャンプ→反応スプリントで段階的に上げる。
  • 設計:対人強度は控えめにし、技術・戦術の理解に時間を配分。痛み7以上なら低強度+代替メニューへ。
  • ケア:温熱、呼吸法、睡眠確保。薬は医療者と相談して安全に。

鉄欠乏・貧血のサイン:検査・食事・練習強度の考え方

  • サイン例:以前より走れない、回復が遅い、動悸・息切れ、顔色不良。気になる場合は受診・検査を。
  • 食事:赤身肉、魚、レバー、貝、豆、緑葉野菜を日常に。ビタミンCで吸収を高め、食後すぐの濃いお茶・コーヒーは控えめに。
  • 練習:疑いがある時期は高強度を減らし、中強度の技術・戦術に寄せる。サプリは自己判断での高用量は避け、検査結果で判断。

胃腸症状・食欲低下:補食・タイミングの最適化

  • 練習前:消化しやすい炭水化物(おにぎり、バナナ、ヨーグルト、ゼリーなど)を少量ずつ。
  • 練習中:30〜60分を超える場合は、口に含めるジェルや電解質ドリンクで少量頻回。
  • 練習後:まず水分・電解質、次に炭水化物+たんぱく質(牛乳、豆乳、サンドイッチ、うどん)。

睡眠・気分変動:負荷配分と回復リチュアル

  • 負荷:睡眠の質が落ちた翌日は、量を維持し強度を下げる。午後の仮眠20分は有効な人も。
  • ルーチン:入浴→軽いストレッチ→画面オフ→就寝の順番を固定。就寝前の温かい飲み物も◎。
  • メンタル:短時間の呼吸法や日記で感情の整理。必要に応じて指導者・家族に早めに共有。

ポジション別・場面別の代替メニュー

GK・DF・MF・FW:負荷を変えずに刺激を変える工夫

  • GK:反応・キャッチング・ポジショニングの反復。高い衝突や長距離ダイブは症状次第で調整。
  • DF:ビルドアップ、カバーリングの立ち位置、対人は制限付き(接触弱め)で質を担保。
  • MF:視野拡張、方向転換の質、パス角度の練習量を増やし、最大スプリントは本数を絞る。
  • FW:フィニッシュの多様化、裏抜けのタイミング、1stステップの爆発力は短時間の高質反復で。

試合週・非試合週:ピーキングとテーパリングの調整

  • 試合週:試合3〜4日前に最後の高強度、以降は中→低で調整。生理期が重なる場合は高強度を短く切る。
  • 非試合週:高強度2〜3回を分散。症状が強い日は計画を中強度に置換し、週合計の負荷を整える。

気温・湿度・環境(炎天下/寒冷/遠征)での強度修正

  • 炎天下×黄体期:休憩間隔を短く取り、冷却と電解質を優先。高強度はインターバルを長めに。
  • 寒冷:ウォームアップを長めに。関節周りの可動→筋温アップ→反応系の順で段階的に。
  • 遠征:移動疲労によりRPEが上がりやすい。初日は中強度で土地勘とリズムを掴む。

栄養と水分戦略:パフォーマンスを支える基盤

鉄・ビタミンD・B群:不足予防と摂取の現実解

  • 鉄:食事ベースを最優先。疲労感が続く・走力低下が顕著なら検査を。サプリは医療者と相談。
  • ビタミンD:屋内活動や冬季は不足しやすい。日光と食事(魚、卵)を意識、必要に応じて検査。
  • B群:エネルギー代謝を支える。主食+たんぱく源(肉・魚・豆)+野菜でバランス良く。

炭水化物の周期化:高強度日に合わせる燃料計画

  • 高強度日:前日夕食と当日朝で炭水化物をしっかり。練習前に軽い補食をプラス。
  • 中・低強度日:量を少し控え、野菜・たんぱく質を増やし体調を整える。
  • 連戦・合宿:1日に複数回の炭水化物補給で回復を前倒し。液体や柔らかい食品を活用。

水分・電解質:黄体期の体温上昇と熱ストレス対策

  • 開始時に脱水しないことが最重要。練習前にコップ1〜2杯、練習中はこまめに。
  • 汗が多い人・暑熱環境では、電解質を適量。味や濃度は胃腸に合うものを選ぶ。
  • 体重変動でざっくりチェック。終了時に大きく減っていれば、次回は飲水量を見直す。

サプリメント利用時のリスク管理(品質・アンチドーピング)

  • 品質の確かな製品を選ぶ。第三者認証の有無を確認。
  • 成分の過剰摂取は逆効果になり得る。特に鉄は自己判断の高用量は避ける。
  • 競技規則に抵触しないか、最新情報を確認。迷ったら専門家へ。

医学的サポートとホルモン療法の選択肢

低用量ピル等の選択肢とパフォーマンスへの影響(現時点の知見)

低用量ピルなどのホルモン療法は、周期や症状を安定させる目的で用いられることがあります。パフォーマンスへの影響は小さいか個人差が大きいという報告が多く、利点・副作用ともに人それぞれ。導入は医師と相談のうえで決めましょう。

受診の目安(月経困難症・過多月経・起立性など)

  • 鎮痛薬でコントロールできない強い痛み、長引く大量出血、めまい・失神、極端な疲労が続く。
  • プレーに支障が出る日が毎月ある、貧血が疑われる、周期が極端に不規則。
  • これらは医療機関で相談を。早期の対応が競技継続の近道です。

スポーツドクター・栄養士・トレーナーへの相談体制

  • 役割を分担:医師=診断と治療、栄養士=食事戦略、トレーナー=現場の強度設計と調整。
  • 選手の主観(RPE・痛み・睡眠)を共有し、同じ情報で意思決定する。

チーム運用:トラッキングとコミュニケーション設計

月経・症状トラッキング:プライバシーを守る仕組み

  • 本人の同意を前提に、アプリやシンプルな記録表で周期・症状・RPEを管理。
  • 共有は必要最小限。コーチは「強度調整に必要な情報だけ」を受け取り、詳細は個人に委ねる。

コーチ・保護者・選手の対話ガイド(言葉の選び方)

  • NG:「根性でいける?」「皆やってるから」→症状を軽視しない。
  • OK:「今日のRPEと痛みは?」「この部分を代替しよう」「次のサイクルでどう生かす?」
  • 安心感の土台が、早めの申告とケガ予防につながる。

免除・代替メニュー・休養のルール化で安心を作る

  • 症状スコア基準で免除・代替を事前に明文化。選手は迷わず申告できる。
  • 休む=弱さではない。計画的な休養は強度設計の一部。

よくある誤解と事実チェック

「生理中は運動すべきでない?」への回答

一律に運動を避ける必要はありません。症状が軽い人はいつも通りで問題ないケースが多く、むしろ軽い運動が気分や痛みに良い影響を与える人もいます。強い痛みや体調不良があるときは、強度を下げる・休む判断が妥当です。

「排卵期は必ずACLが増える?」エビデンスの現状

排卵期にリスクが高まる可能性を示す研究はありますが、結論は一致していません。月経フェーズだけでなく、疲労、着地動作、筋力バランス、環境など複数要因の管理が重要です。

「鉄は多いほど良い?」過剰摂取と検査の重要性

鉄は不足も過剰も問題。サプリでの高用量摂取は避け、気になる症状があれば検査のうえで適切に対応しましょう。まずは食事から整えるのが基本です。

「痛みは気合で乗り切る?」リスクと代替手段

痛みの無視はフォームの崩れやケガにつながります。代替メニューや回復、技術練、映像分析への切り替えは「逃げ」ではなく、賢いトレーニングです。

期別・症状別の1週間サンプルメニュー

症状が軽いケース:高強度を生かす配分例

  • 月:中(技術・戦術の落とし込み、ポゼッション)
  • 火:高(スプリント反復、対人スピード、フィニッシュ)
  • 水:低(回復走、可動性、コア+映像)
  • 木:高(アジリティとトランジション、狭い局面のゲーム)
  • 金:中(セットプレー、ゲームモデル確認)
  • 土:試合またはゲーム形式
  • 日:完全休養またはアクティブリカバリー

症状が中等度:中強度中心のゲーム関連ドリル

  • 月:中(方向転換の質、ポジショナルゲーム)
  • 火:中(制限付き対人、スプリントは本数少なめ)
  • 水:低(可動性、低強度技術、コア)
  • 木:中(戦術確認、セットプレー)
  • 金:中(ゲーム理解、リハーサル)
  • 土:試合/紅白戦は時間短縮も可
  • 日:休養

症状が強い:技術・セットプレー・分析・回復を軸に

  • 月:低(技術の精度、壁当て、パス角度の反復)
  • 火:低(セットプレー確認、位置取りの整理)
  • 水:休養(温熱、軽いストレッチ、睡眠確保)
  • 木:低〜中(接触なしのゲーム理解、戦術ボード)
  • 金:低(可動性、コア、短いスプリント数本まで)
  • 土:出場可否は当日RPEと痛みで判断
  • 日:休養

まとめ:今日から使えるチェックリスト

当日のセルフチェック(RPE・痛み・睡眠・出血量)

  • 睡眠の質(良い/普通/悪い)と起床時の疲労感
  • 痛みスコア(0〜10)、出血量(少/普/多)
  • 練習前の気分・集中度、体温感・暑さ耐性
  • →総合して、今日の強度を「上げる/維持/下げる」

コーチ向け確認事項(負荷・代替・安全・連絡)

  • セッションRPE×時間で負荷を記録。週合計が急増していないか。
  • 症状スコアに応じた代替メニューを即提示できるか。
  • 水分・冷却・休憩の設計、安全第一の声かけ。
  • プライバシー尊重と、共有ルールの明確化。

次サイクルに活かす振り返り(記録と改善)

  • 周期・症状・RPE・試合/練習の出来を簡単に記録。
  • 「うまくいった調整」「合わなかった対策」を次回へ。
  • 必要に応じて医療者・栄養士・トレーナーに相談。

おわりに:強度は“合わせても強くなれる”

生理中の練習は、がんばりを止める話ではありません。身体の声に合わせて設計を変えることは、むしろ賢い強化です。個別化×エビデンス×柔軟性。今日のコンディションで最善を尽くす積み重ねが、明日の大きな伸びにつながります。自分(もしくは選手)のデータを手がかりに、安心して前に進んでいきましょう。

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