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サッカーVARハンド判定基準の判断軸を言語化

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「ハンド判定」が試合の流れや結果を左右する時代、納得できる説明と共通の言葉を持っておくことはプレーの質にも直結します。本記事は、IFAB(国際サッカー評議会)の競技規則とVARプロトコルに沿いながら、ハンドの「判断軸」をできるだけわかりやすく言語化したガイドです。選手・指導者・審判・観戦者が同じ地図を持てるよう、チェックリストやテンプレートも用意しました。感情論ではなく、共通言語で「なぜ今のはハンド/ノーハンドなのか」を整理していきましょう。

はじめに:なぜ「ハンドの言語化」が必要か

感情論から判断軸へ——納得感を生む共通言語の重要性

「絶対ハンドだ」「いや当たっただけだろ」。議論が感情に寄るほど、当事者は納得しにくくなります。そこで大切なのが、誰が見てもチェックできる「判断軸(言語化)」です。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)がある現代では、映像と規則を同じ目線でつなぐ言葉が、ピッチでも視聴者席でも必要になります。

言語化の効能は3つ。判断がブレにくくなること、説明責任が果たしやすくなること、そして戦術・トレーニングに落とし込みやすくなることです。特に「不自然に身体を大きくしたか」「回避可能だったか」といった軸は、守備の腕管理や壁の作り方など具体行動に直結します。

選手・指導者・審判・視聴者の認識ギャップを埋める

同じプレーでも、立場によって見え方は変わります。選手はスピードと距離感、指導者は再現性とリスク管理、審判は規則と一貫性、視聴者は映像と公平性を重視しがち。ギャップを埋めるには、どの視点でも共通に使える言葉(アームポジション、反応可能性、デフレクションなど)で事実を整理することが近道です。

公式ルールの土台を確認(IFAB競技規則とVARプロトコル)

ハンドの反則の基本定義(競技規則第12条)

競技規則では、手・腕に関わる反則は「手や腕でボールに触れること」ではなく、状況とポジションの評価が前提です。手・腕の範囲は「脇の下の下端まで(肩の側面は腕に含まれない)」が目安です。そのうえで、次のような場合に反則が取られやすくなります。

  • 腕で身体を不自然に大きくしてボールに当たった場合
  • 肩より上・外側など、プレーに不必要な位置に腕があった場合
  • 攻撃側が手・腕に当てた直後に自ら得点した、または直ちに明確な得点機会を作った場合(偶発的でも反則)

逆に、至近距離で避けられない接触や、支え腕などプレー上必要な腕の位置は、反則にならないことがあります。重要なのは「故意かどうか」より「行為・ポジション・影響」です。

VARが介入できる4類型とハンドの関係(ゴール/PK/退場/人違い)

VARが介入できるのは、原則として次の4つに限られます。

  • 得点かどうか(ゴールの有無)
  • ペナルティキックに関わる事象
  • 一発退場相当(著しい反則行為、乱暴な行為など)
  • 人違い(違う選手を警告・退場させた)

ハンドは主に「ゴール」「PK」に関わる場面でレビュー対象になります。例えば、攻撃側の偶発的ハンドから直後に得点が生まれたか、守備側のハンドでPKが相当か、などです。

「明白かつ重大な見逃し」とオンフィールドレビューの流れ

VARは「明白かつ重大な誤り(または見逃し)」がある場合にのみ介入します。主審が見た事実と映像が大きく食い違うとき、オンフィールドレビュー(OFR)で主審がピッチサイドモニターを確認します。事実認定(どこに当たったか等)が中心ならリプレイのスピードや角度、スロー再生の使い方も吟味されます。

主審の最終決定権とVARの役割分担

最終決定は主審にあります。VARは助言と映像提供を行い、介入閾値を超えたと判断した場合にのみ介入提案を行います。審判団の役割分担を理解すると、判定に一貫性が生まれやすくなります。

ハンド判定のコア判断軸を言語化

意図(故意性)ではなく行為(アクション)を評価する視点

「わざと手に当てたか」は主観に頼りがちです。そこで評価の主軸は「腕の位置」「身体の使い方」「プレーの必要性」に置きます。例えば、ブロックに行く前から腕が外側に張り出していたか、シュートに対する自然な回避動作の範囲だったか、などです。

不自然に身体を大きくする(Unnaturally Bigger)の評価フレーム

不自然に身体を大きくするとは、相手やボールの進路を腕で広く塞ぐような形を指します。評価のポイントは以下です。

  • 肩より外・上への張り出し量(体幹の延長線から離れているほど不利)
  • プレーに必要な動作か(バランス維持や着地準備など)
  • 腕がボールの通り道を意図せず塞ぐ必然性があったか

アームポジションの基準線(肩ライン/体幹角度/シルエット)

基準線を言語化すると判断が安定します。

  • 肩ライン:肩より上は原則としてリスクが高い
  • 体幹角度:体幹に沿う位置(体の幅の内側)は安全、外に出るほどリスク
  • シルエット:守備時は「胴体+自然な腕配置」を超えないシルエットを意識

反応可能性:距離・速度・視認性の三要素

回避可能かどうかは、距離(至近距離か)、速度(強いシュートか)、視認性(視界が開けていたか)の三要素で見立てます。極端に近い距離や視界が遮られていた状況では、回避不能と評価されやすくなります。

デフレクション(直前の跳ね返り)と予見可能性

ボールが直前に別の選手や自分の体に当たって軌道が変わると、予見は難しくなります。自分の足→自分の腕の順で当たったようなケースは、腕の位置が明らかに不自然でない限り、反則にならないことがあります。

支え腕・倒れ込み・スライディング時の特例的評価

倒れ込みやスライディングで地面を支える腕(支え腕)は、プレー上の必然が認められやすい要素です。ただし、支えに必要な範囲を超えて腕が外側に広がっている、または体から離れてボールの進路を塞いでいる場合は、反則と評価され得ます。

攻撃側の偶発的ハンドと得点の扱いの要点

現行の運用では、攻撃側が偶発的に手や腕に触れた直後に、その「当てた本人」が得点したり明確な得点機会を即座に得た場合は反則になります。一方で、偶発的接触があっても、その後のプレーを経て味方が得点したケースは、反則とならない運用が一般的です(大会の指針により微差あり)。

ゴールキーパー:ペナルティエリア内外での扱いの違い

ゴールキーパーは自陣ペナルティエリア内でボールを手で扱えます。ただし、味方からの意図的な足元のパスを手で扱うなど別の反則は存在します。一方、エリア外ではフィールドプレーヤーと同様にハンドの評価対象になります。

実戦での言語化テンプレート(主審・選手・指導者共通)

守備側ハンドのチェックリスト10項目

  • 腕は肩より上にあったか
  • 腕は体幹の幅を明らかに超えていたか(シルエット拡大)
  • ボールまでの距離は極端に近かったか
  • シュート・クロスの速度は極端に速かったか
  • 視界は確保されていたか(遮蔽なし)
  • 直前にデフレクション(跳ね返り)はあったか
  • 腕はバランス維持や着地のために必要だったか
  • スライディングの支え腕だったか(必要範囲内か)
  • 腕の動きがボールの進路に向かっていたか
  • 結果として明確なチャンス阻止になったか

攻撃側ハンドのチェックリスト7項目

  • 手・腕→即座に自分の得点(または明確な決定機)になったか
  • 接触は偶発的か、コントロールしようとした動きがあったか
  • 肩と腕の境目(脇の下ライン)より下だったか
  • 腕の位置は不自然に大きかったか
  • デフレクション後の不可避な接触だったか
  • 接触から得点までの「間」に相手の関与や新たなプレーが挟まったか
  • ゴールキーパーとの競り合いなど特殊状況だったか

VAR視点の優先確認順(フレーム→接触点→結果)

  1. フレーム:最良の角度・再生速度を確保(通常速→スロー→停止)
  2. 接触点:肩か腕か、手のどの部分か、先にどこへ当たったか
  3. 結果:チャンス阻止/得点直結/プレーの連続性

副審・第4の審判とのコミュニケーション・キーワード

  • 「アームポジション」:肩上/体外/体内
  • 「シルエット」:拡大の有無
  • 「ディスタンス&スピード」:回避可能性の要素
  • 「デフレクション」:直前の変化
  • 「ビュー」:視認性(遮蔽の有無)
  • 「サポートアーム」:支え腕かどうか

グレーを減らす判定プロセス(擬似フローチャート)

ステップ1:接触の事実認定(どこに当たったか)

肩(脇の下ラインより上)か腕か、ボールは先にどこへ当たったか(自分の体→腕か、相手→腕か)を確定します。

ステップ2:アームポジションの妥当性評価

肩より上・体から離れていたか、自然なプレーの範囲か、シルエットの拡大があったかを整理します。

ステップ3:反応可能性と回避可能性の見立て

距離、速度、視認性、デフレクションの有無を総合して、避ける現実的時間があったかを判断します。

ステップ4:プレーへの影響(シュート阻止/チャンス創出)

明確なシュートブロック、決定機の阻止、得点直結かどうか。結果の重大性は介入の妥当性にも影響します。

ステップ5:VAR介入の要否判定(閾値の明確化)

「明白かつ重大な誤り」かどうか。主審の見立てを覆すに足る明確さが映像にあるかを確認します。

判定を左右する周辺要素

体格差・腕の長さ・姿勢(ジャンプ/スライディング)の影響

体格差や四肢の長さでシルエットは変わります。ジャンプ時は腕が自然に上がることもありますが、着地準備やバランス維持の範囲を超えた張り出しは不利です。スライディングは支え腕の評価を丁寧に。

壁の場面・クロスブロック・至近距離シュートの典型パターン

  • 壁:腕は体の後ろに組む、体の幅を超えない。ジャンプ時は下げる工夫を。
  • クロスブロック:半身で寄る時は、外側の腕を畳む。軌道と並走する腕の管理。
  • 至近距離:極端な近距離は回避不能になりやすいが、腕が高位・外側なら不利。

環境要因:ピッチ状況・ボール速度・視界の遮蔽

濡れたピッチでバウンドが変わる、複数人で視界が遮られるなど、外的要因で予見が難しくなる場合があります。映像レビューではこれらも補助的に考慮されます。

リーグや大会ごとの運用傾向と説明責任

競技規則は共通ですが、運用ガイダンスや研修の強調点は大会でわずかに異なることがあります。公式の見解やレビュー番組の説明をチェックすると、判定基準の「今」が掴みやすくなります。

実例を想定したケーススタディ(文字で再現)

近距離シュートが肘に当たった守備者:PKかノーファウルか

状況:ペナルティエリア内、至近距離の強いシュートが守備者の肘に当たってコースが変わる。腕は胸の前で畳まれていた。
評価:至近距離・腕は体幹付近・回避困難。ノーハンドの可能性が高い。腕が肩より上や外側に広がっていればPKに傾く。

スライディングの支え腕に当たったケース:自然体の境界

状況:クロスブロックでスライディング、地面に着いた支え腕にボールが当たる。
評価:支え腕は自然体として容認されやすい。ただし、体から大きく外れた位置で進路を塞いでいれば反則。支えの必然性と腕の角度が鍵。

クロスブロックで腕が横に広がっていたケース:不自然拡大の判断

状況:サイドの低いクロスに対し、守備者が身体を開いてブロック。外側の腕が体の幅を超えて広がって当たる。
評価:シルエット拡大、進路遮断。PKの可能性が高い。外側の腕は畳むのが鉄則。

攻撃側の偶発的な接触から得点:得点の可否判断

状況:攻撃者の腕に偶発的に当たってから自分で押し込む。
評価:当てた本人が直後に得点=反則で得点無効。別の味方が後続で決めた場合は、偶発的接触であれば得点が認められる運用が一般的。

背を向けた守備での接触:回避可能性の評価

状況:至近距離のクロスに背を向けた守備者の腕に当たる。腕は体の横、肩より下。
評価:視認性が低く至近距離なら回避困難。腕の位置が自然ならノーハンドに傾く。腕が広がっていれば反則リスク上昇。

誤解しがちなポイントと最新ルールの要点整理

「手に当たった=すべてハンド」ではない理由

接触の有無は出発点に過ぎません。腕の位置、回避可能性、支え腕、結果への影響などを総合評価します。

故意性の誤用と「自然体」概念の誤解

「わざとじゃない」は免罪符ではありません。「自然体」はプレーに必要な腕の位置かどうかで判断されます。バランス・着地・スイングなどの必然性が鍵です。

攻撃側の偶発的ハンドに関する近年の変更点の要約

偶発的接触でも、当てた本人が直後に得点・明確な決定機を得た場合は反則。一方、偶発的接触から味方の得点へつながるケースは、原則として反則としない運用が広がっています(各大会の通達に留意)。

肩と腕の境界の定義と判別の実務

「脇の下の下端」が肩と腕の境目の目安。映像ではラインをイメージし、当たり所が上なら非ハンド、下なら腕の評価対象になります。

トレーニングへの落とし込み

守備の腕のたたみ方と重心操作ドリル

  • ミラードリル:コーチの合図で左右にステップしつつ、肘を体幹に沿わせて畳む習慣化
  • ジャンプ&ランディング:着地時に腕を肩より上に残さない反復
  • 半身ブロック:半身で寄る際の外側の腕を背中側に回すフォーム固め

壁・ブロックの腕管理ドリル(反応距離を意識)

  • フリーキック想定:ジャンプしない設定→ジャンプ設定で腕の位置を固定
  • 至近距離反応:3m以内のシュートに対し、腕を体の幅内に保つ反射練習

クロス対応でのシルエット最適化トレーニング

  • アウトサイドインのクロスに合わせ、外側の腕を畳む→内側は自然位置のキープ
  • スライディング時の支え腕角度をセットプレーで繰り返し確認

チームで共有する判定語彙リスト(コールワード)

  • 「アームイン!」:腕を体の幅内に
  • 「シルエット!」:広がるな
  • 「ビュー確保!」:視界を切る位置取りを
  • 「サポート!」:倒れ込み時は支え腕を意識

試合で抗議する前に確認したいこと

質問の順序:事実→判断→基準の三段階

まず「どこに当たりましたか?」(事実)→「腕の位置は不自然と見ましたか?」(判断)→「競技規則のこの点ですか?」(基準)。順序立てると対話がスムーズです。

キャプテンが得られる情報と限界

キャプテンは主審から要点説明を得やすいですが、VARの内部会話の詳細までは聞けません。要点と根拠キーワードを短く確認しましょう。

冷静なコミュニケーションが次の判定に与える影響

冷静なやり取りは、次の50/50で信頼を得やすくなります。感情のコントロールも競技力です。

よくあるQ&A

至近距離で避けられないときはハンドになる?

至近距離や視界遮蔽、デフレクションなど回避不能の要素が強いと、ノーハンド評価になりやすいです。ただし、腕が肩より上・体から外に大きく出ていれば反則の可能性は残ります。

肩と腕の境目はどこで決まる?

目安は「脇の下の下端ライン」。そこより上の肩側はハンドになりません。映像では角度を変えて接触点を確認します。

胸に当たってから腕に当たった場合の扱いは?

自分の体→腕の順での接触は、腕の位置が自然ならノーハンドに傾きます。逆に腕が不自然に広がっていれば反則の可能性があります。

審判はどの映像と角度で判断している?

通常速→スロー→静止と角度を変え、接触点・腕位置・結果を総合します。OFRでは決定的な角度の映像が優先されます。

ユース年代での指導ポイントはプロと同じ?

基準は同じですが、反復練習で「腕を畳む」「視界の確保」「支え腕の角度」を早期に習慣化することが特に重要です。リスク認知の言語化もセットで教えましょう。

まとめ:納得感を高めるための「共通言語」

判断軸の再確認と次に取るべきアクション

  • 接触点→腕位置→回避可能性→影響、の順で整理
  • 「不自然な拡大」「支え腕」「デフレクション」をキーワード化
  • 壁・ブロック・クロス対応での腕管理を練習メニューに落とし込む

チーム内運用ガイドラインの短文化・定着法

  • ベンチ掲示用に「守備の腕ルール3箇条」を作る(肩上禁止/外側禁止/支え腕は最小限)
  • 試合前ブリーフィングで「VAR ハンド 判定 基準」の確認を30秒で共有
  • 試合後は気になったシーンを「接触点・ポジション・影響」の3点で振り返る

おわりに

ハンド判定は「白黒だけでは語れない」からこそ、判断軸の言語化が効きます。VAR時代の共通言語をチームで持てば、抗議より早く修正ができ、無駄なPKや失点を減らせます。今日から「アームイン」「シルエット」「デフレクション」という3語だけでも現場に持ち込み、プレーと対話の質を一段引き上げていきましょう。

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