「良いパスは、良い受け手が作る」。この考え方に立つと、パスの精度やキック力だけでは勝てない理由がはっきりします。相手の守備をずらし、味方の選択肢を増やす“動き方”こそが、チーム全体のテンポと危険度を一気に引き上げます。本記事では、サッカーのパスでパスコースを作る動き方の基礎と実戦を、練習に落とし込める形で一気通貫に解説します。図や画像は使わず、言い換えや例を多用してわかりやすく進めます。今日から練習で試し、週末の試合で使えるように、再現性のある原則とドリルを用意しました。
目次
- 導入:パスコースを作る力が試合を変える
- 基礎の整理:パスコースの定義と3要素(角度・距離・速度)
- 視野と体の向き:受ける前に勝負の8割が決まる
- パスコースを「作る」動きの原則
- 出し手と受け手の連携術
- 三人目の動きでパスコースを増殖させる
- ゾーンとスペースの活用:サイド・中央・ハーフスペース
- フェーズ別:ビルドアップからフィニッシュまでの動き方
- 守備ブロック別攻略:相手の意図を逆手に取る
- ポジション別:パスコースを作る動き方
- よくあるミスと即効修正ドリル
- 個人・少人数・チームでの実戦ドリル集
- 実戦の読み:パスコースを消されても作り直す思考法
- 評価指標と自己分析:伸びを数値で確かめる
- 練習設計テンプレート:1週間・4週間の組み立て
- シーン別Q&A:現場でよくある悩みへの処方箋
- 用語の簡易整理
- まとめ:今日から実戦で効く3アクション
- あとがき:現場で根づく「通り道」の作り方
導入:パスコースを作る力が試合を変える
なぜ「動き方」がパス精度以上に重要なのか
パスは「蹴る技術×状況作り」で成立します。状況作りの中心が、受け手の動き方です。受け手が角度を作り、相手の視野から消え、次の選手へ前向きの道を用意できれば、平凡なキックでも有効打になります。逆に、最高のキックでも受け手の角度が悪ければ、前を向けずに潰れます。つまり、動き方はパス精度の“使い道”を広げます。
この記事で得られること(基礎→実戦の一貫性)
基礎概念(角度・距離・速度)→体の向き→二人・三人の連携→ゾーン活用→守備ブロック別対策→ポジション別→ドリル→評価指標→練習設計まで、一つの軸でつながるように構成しています。「何を」「なぜ」「どうやって」までセットで理解でき、練習メニューにすぐ落とし込めます。
良いパスは良い受け手が作るという前提
出し手の責任は当然ありますが、受け手が「見えやすい角度」「触りやすい距離」「合う速度」を作れば成功率は跳ね上がります。合図は声よりも位置取り。最後の2歩が勝負です。
基礎の整理:パスコースの定義と3要素(角度・距離・速度)
パスコースとは何か(ボールの通り道+認知の通り道)
パスコースは、ボールが通る道だけでなく「味方と自分の頭の中で同時に見えている道」です。相手の足に届く前に、こちらの視界と味方の視界を一致させること。これが「認知の通り道」です。
角度:90度に近づける発想と例外
基本は出し手に対して「L字」を意識し、90度に近い角度を作ると守備者を一枚外せます。例外は、相手が縦を切っているときの斜め45度、もしくは背後のスルーを狙う時の一直線です。原則は「相手の足の届く線を踏まない」。
距離:近づきすぎの罠と最適距離の目安
近づきすぎると守備者も一緒に連れてきます。最適距離は「出し手が一歩も動かずにパススピードで解決できる範囲」。具体的には10〜15mが扱いやすい基準。密集では5〜8m、展開では20m超も選択肢です。
速度:出し手と受け手のスピードを合わせる
速すぎるとコントロール不能、遅すぎると狙われます。受け手が減速し始める瞬間に着弾する速度が理想。出し手は受け手のステップ(ピッチの刻み)を見て、ミートの1歩前に通すイメージを持ちましょう。
幅と深さ:ライン間と背後を同時に脅かす配置
幅(横の広がり)で相手の横スライドを遅らせ、深さ(縦の奥行き)で背後の恐怖を維持します。幅だけ広げても怖くない。常に「ライン間で前向き」と「背後ラン」の両方が見える配置が理想です。
視野と体の向き:受ける前に勝負の8割が決まる
スキャン(首振り)の頻度とタイミング
1回のプレーにつき最低2回。味方がコントロールした瞬間と、ボールが自分に出る直前。見る対象は「相手の足・肩」「味方の位置」「空いている芝生」。
ボディシェイプ:半身で受ける基本
肩とつま先をゴール方向に45度開く半身。背中で受けないための初期設定です。半身なら次のパスコースが2〜3個増えます。
オープンな足(前向き)とクローズド(背負う)の使い分け
前向きにできる時は迷わずオープン。潰されそうなら一度クローズドで背負い、リターンやスイッチで立て直す。使い分けの基準は「相手の最初の一歩が自分に向くかどうか」。
ファーストタッチの方向で次のパスコースを増やす
止めるではなく、置く。相手の届かない足の外側に1m運ぶだけで、角度と時間が生まれます。次の味方の“前向き”が自動的に増えます。
パスコースを「作る」動きの原則
外して入る:相手の視線から消えてから現れる
マークの正面に止まらない。一歩外して相手の目線から消え、パスの出る瞬間にスッと入る。これだけで同じパスでも通りやすくなります。
寄る・離れる・ずらすの三原則
- 寄る:角度を作って前向きの選択肢を作る
- 離れる:相手を引き伸ばし、パス速度を上げる
- ずらす:最後の2歩で縦か横へズレてマークを外す
タイミングの黄金則:味方のコントロールオリエンテーションを合図にする
味方のトラップの向き(コントロールオリエンテーション)が自分の背中に向いた瞬間は待機、前を向いた瞬間が動き出しの合図。合図は「ボールの向き」です。
足元→裏、裏→足元の連続でマークを揺さぶる
一度足元で引き出してから背後にスプリント、もしくは逆。2本目までセットで設計すると、相手は読み切れません。
同一レーンに留まらない(レーン変更の基準)
同じ縦レーンに3秒以上滞在したら一度外す習慣。基準は「味方の視野に斜めで入る」こと。斜めで見える=次の選択肢が増えます。
出し手と受け手の連携術
視線・体の向き・ステップで意図を伝える
目線でフェイク、体の向きで本命、ステップでタイミングを合わせる。声が届かない距離でも、足の運びで会話しましょう。
ワンタッチ/ツータッチの事前合意(状況判断のサイン)
ワンタッチなら前足を軽く開く、ツータッチなら体を少し被せるなど、チームでシンプルなサインを共有するとテンポが上がります。
パススピードと受け手の減速・加速の合わせ方
受け手が減速→到達直前にもう一度加速。この二段階に出し手の速度を合わせると、前向きに入りやすい。止まって受ける時間を消すのが狙いです。
呼ぶ声より速い「位置取り」で会話する
声が届く頃には遅い場面も多いもの。ポジションで先に答えを出すのが最短のコミュニケーションです。
三人目の動きでパスコースを増殖させる
壁当て(ワンツー)を三角で成立させる
二人が詰まったら、三人目が角度の頂点に立って“壁”を作る。ワンツーの戻し役を第三者に置くと、守備の寄せを外しやすくなります。
アップ・バック・スルーの型と崩しのトリガー
アップ(前へ預ける)→バック(後ろへ戻す)→スルー(背後へ)。相手CBの一歩前進、もしくはボランチの前のめりがトリガー。型で待つのではなく、トリガーで出す。
三角形とダイヤモンドの基本配置
三角は近距離の解決、ダイヤモンドは縦と横の選択肢を両立。常に「対角」が開いている配置を保ちます。
二人で詰まったら三人目の原則
二人が相手2人に挟まれたら、第三者が縦か対角で“出口”を作る。出口の角度は90度が基本です。
ゾーンとスペースの活用:サイド・中央・ハーフスペース
タッチラインは守備者(サイドでの体の向き)
サイドは逃げ道が半分ない。だからこそ、内側へ半身で受けるか、外足で前へ運ぶ準備を。ラインに背中を向けないことが大切です。
ハーフスペースで前向きを作る方法
サイドと中央の間(ハーフスペース)は前向きが取れる金脈。外から内へ斜めに入り、DFとMFの間で半身。味方SB/ウイングと三角を作ると生きます。
中央で受けるリスク管理(背中の情報量)
中央は四方から圧が来ます。受ける前に2回以上スキャン、半身、ファーストタッチは相手の逆足側へ。前を向けない時は一度預けて再配置。
逆サイドの事前準備とスイッチの質
逆サイドは“今”動かすのではなく“前もって”動かす。ボールが反対に移る前から幅と深さを作り、切り替えた瞬間にアタック。スイッチは浮き球か強い対角で。
フェーズ別:ビルドアップからフィニッシュまでの動き方
ビルドアップ:CB-ボランチ間の角度作り
CBが外に運び、ボランチは内外でL字を作る。相手1トップの背中に立たず、脇で半身。GKを頂点に三角形を常に確保。
前進局面:ライン間での半身受けと楔の選別
楔(くさび)は「前を向ける時だけ打つ」。背負わされたらリターンか第三者へ。ライン間に立つ人は常に45度で受ける。
フィニッシュ:ペナルティエリア前での三人目
PA前は密度が高いので、三人目が命。落とし→スルー、外→中、裏→カットバックの連続で相手の重心を揺らします。
攻守トランジション:即時サポートとカウンタープレス回避
ボールを失ったら即リカバリー、奪い返したら最初のパスは外へ安全、または前へ速く。中央での横パスは避け、三角形で安全を作り直す。
守備ブロック別攻略:相手の意図を逆手に取る
マンツーマン対策:連続的なスクリーンとローテーション
味方を“通り道”にしてマークを外し、ポジションをローテ。相手が人を追うほど、空いた場所が生まれます。
ゾーン守備対策:レーン跨ぎとマーカーの引き連れ
一つ横のレーンへ受けにいき、マーカーを連れて動かす。ズレが出た瞬間に縦パス。斜め斜めでライン間へ。
ミドル/ローブロック:ライン間滞在と釣り出し
焦って裏だけを狙わない。ライン間で粘って相手ボランチを引き出し、空いた背後へ三人目。
ハイプレス:GKを含む三角形の拡張と背後活用
GKを使って数的優位化。縦一発か、サイドの深い位置へ。長短のミックスで1本目のプレッシャーを外します。
ポジション別:パスコースを作る動き方
センターバック:外側を踏ませて内側を通す
ボールを外へ運んで相手を誘い、内側へ縦パス。逆足で持ち替えるフェイクが効きます。
ボランチ:縦横の二枚鏡(裏表のサポート)
最短の受け皿と、対角の逃げ道を同時に提示。常にL字、半身、二方向の出口を見せ続けます。
インサイドハーフ:ライン間での半身と第三の動き
足元→落とし→前進、または背後へスプリント。受けた後の2本目まで計画しておくのが鍵。
ウイング/サイドハーフ:幅の維持と内外の出入り
幅を取りつつ、内に入るタイミングはSBの位置と連動。外で引き伸ばし、内で前向きを作る。
サイドバック:内側化(偽SB)と外側高取りの使い分け
内側へ入り数的優位を作るか、外で高さを取り相手WGを下げるか。中盤の人数と相手の守り方で選択。
センターフォワード:楔、落とし、裏抜けの三役
背負う時はワンタッチで落とし、余裕があれば前向きにターン、マーカーが寄れば裏へ。三役を行き来して相手の重心を狂わせます。
よくあるミスと即効修正ドリル
近づきすぎ問題:最適距離を体感するドリル
マーカーコーンを10m、12m、15mに置き、同じ強さでパス交換。受けやすい距離と速度の組み合わせを体感します。
止まって受ける癖:最後の2歩でズレを作る
コーチの合図で左右どちらかに2歩ズレてから受けるドリル。常に動いて受ける感覚を育てます。
背中で受けるミス:事前スキャンと半身の習慣化
「見る→半身→受ける」を声掛けでルーティン化。首振り2回できなければ受けないルールで徹底。
足元固定の単調さ:足元→裏の2本目まで設計
足元で受けたら必ず次は背後へ走る制約で3分間。体に選択肢の連続を入れます。
同じレーン滞在:レーン変更の合図とルール化
3秒同一レーン禁止の制約ゲーム。味方が外へ張ったら自分は内、内に入ったら自分は外を即交換。
個人・少人数・チームでの実戦ドリル集
個人:首振りテンポ+壁当ての方向付け
首振り2回→壁当て→ファーストタッチで45度前進。左右交互に1分×3セット。
2人組:寄る・離れる・ずらすの連続ドリル
出し手を見る→寄る→受ける→離れる→再びずらす。20本連続のテンポで行い、最後の2歩の質を上げます。
3人組:アップ・バック・スルーのタイミング合わせ
中央が受けて落とし、第三者が背後へ。トリガーは相手役の一歩前進。声ではなく位置で合図。
4人組:ダイヤモンドでの三方向選択肢トレーニング
底辺→サイド→頂点→対角の循環。常に前・横・対角の3択を提示し続けます。
チーム:制約付きポゼッション(レーン/タッチ数/前進条件)
3レーンを設定し、同一レーン3秒禁止、ワンタッチ1回/3回の切替、3本で前進トライ。意思決定を強制的に速くします。
ゲーム形式:得点が入るパス前向き受け回数ボーナス
前向き受け10回=1点などのボーナスを設定。形ではなく目的(前向き)を意識付けます。
実戦の読み:パスコースを消されても作り直す思考法
第一案・第二案・第三案の同時保持
足元、対角、背後。常に3案を持ち、消えた瞬間に残りへスイッチ。頭の中で常に並列に用意します。
相手の足と肩の向きを読む
足が内、肩が外なら縦は閉じ、斜めは開く。肩の角度は“今どこが空くか”のサインです。
消された瞬間の再配置(逆サイド・背後・戻す)
正面が閉じたら、1)逆サイドへ大きく、2)背後へ速く、3)安全に戻して三角を作り直す。この3択でリスク管理。
ミス後の立て直し:安全な三角形の再構築
奪われたら最短で三角形に戻る。前・横・斜めの3点ができると、カウンターを止めやすい。
評価指標と自己分析:伸びを数値で確かめる
前向き受け回数/試合と前進率
試合で何回前を向いて受けたか。そこから何回ラインを越えられたか。数えるだけで改善点が見えます。
楔→前進の連結成功数(セカンドアクション込み)
楔を入れて、落としや第三者で前進できた回数。受けて終わりにしない評価です。
三人目関与回数とシュート期待値への影響
三人目で絡んだ回数と、その後のシュート数。関与の質を可視化します。
被インターセプト率の低減とパス速度の相関
奪われた本数/総パス本数と、平均パス速度(主観でOK)の関係をメモ。スピード調整の改善を追います。
動画チェックのポイント(停止フレームの基準)
味方がコントロールする瞬間で一時停止。自分は半身か、角度はL字か、出口は2つ以上あるか。これだけで質が上がります。
練習設計テンプレート:1週間・4週間の組み立て
1週間:技術→連携→ゲームの流れ
- 月火:個人技術(首振り、半身、ファーストタッチ)
- 水木:2〜4人連携(三角・ダイヤ・アップバック)
- 金:制約付きゲーム(レーン、タッチ数)
- 土:セットの確認、短時間の高強度
- 日:試合
4週間:基礎固め→選択肢拡張→速度向上→実戦最適化
- 1週目:角度・距離・速度の基礎徹底
- 2週目:三人目とゾーン活用
- 3週目:判断スピードとパススピードの同調
- 4週目:守備ブロック別の最適解づくり
試合前日:負荷を落として判断スピードを保つ
短いポゼッション、ワンタッチ多め、距離は短く。体は軽く、頭は速くを合言葉に。
シーン別Q&A:現場でよくある悩みへの処方箋
雨・悪ピッチでパスコースが消える時の対策
地を這う速いパスはリスク。浮き球のワンバウンド、足元ではなくスペースへ置くパスに切り替え。距離は短めに。
人工芝でスピードが出すぎる時の調整
受け手は一歩早めに減速、出し手は足首を柔らかく使い、バウンドの強さを抑える。ワンタッチは面を少し開いて吸収。
身体が重い日の最小限の動き方
走る量より角度の質。最後の2歩、半身、受ける前の首振りだけは死守。これで大半の問題は緩みます。
年代が低い選手への教え方(言葉と合図)
難語禁止。「見て・斜め・置く」の3語で統一。コーチは手でL字を作り、体の向きを視覚で示すと伝わりやすいです。
用語の簡易整理
ボディシェイプ/半身/スキャン
ボディシェイプ=受ける時の体の形。半身=45度で開く。スキャン=受ける前の首振り確認。
レーン/ハーフスペース/ライン間
レーン=縦の通り道。ハーフスペース=中央とサイドの間。ライン間=相手の中盤と最終ラインの間。
三人目/アップ・バック・スルー
三人目=出し手と受け手以外で関与する選手。アップ・バック・スルー=預け→戻し→抜け出しの型。
まとめ:今日から実戦で効く3アクション
受ける前に2回見る(スキャン→半身)
視野が整えば、プレーは半分決まります。受ける前の2回で勝負の8割が決まる意識を。
最後の2歩で角度を作る(寄る・離れる・ずらす)
止まって受けない。最後の2歩で“見える角度”に自分を置く。声より速いコミュニケーションです。
一度で崩せなくても三人目で作り直す
詰まったら、第三者が出口。二人で戦わず、三角で外す。これが安定して前進するコツです。
あとがき:現場で根づく「通り道」の作り方
パスコースは偶然では生まれません。小さな角度、1mの位置取り、最後の2歩のズレ、そして三人目の準備。これらが積み重なると、チームのボールは自然と前へ進みます。今日の練習から「見る→半身→2歩ズレる→三人目」の順番を合言葉にしてください。数週間後、あなたの“通り道”は明らかに広がっているはずです。
