「ゲーゲンプレス(Gegenpressing)」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。プロの世界で注目されてきたこの戦術は、高校生から社会人チーム、さらには子どもたちの育成現場でも、サッカーの楽しさや奥深さを一層感じさせてくれます。本記事では、ゲーゲンプレスの基本から実践的なコツ、そして失敗しないポイントまで、幅広く解説。サッカーを本気で上達したい方、大人になってからの挑戦、子どもをサポートしたい親御さんに向け、丁寧かつわかりやすくお伝えします。
目次
ゲーゲンプレスとは何か?|サッカー戦術の新潮流
ゲーゲンプレスの基本概念
ゲーゲンプレスとは、守備から攻撃へ、攻撃から守備へと切り替わった瞬間に、ボールを失った側がすぐさまプレッシャーをかけて、相手からボールを奪い返す戦術です。従来の“まず守備ブロックを作る”守備戦術と異なり、「攻守の切り替え」の速さと、連動したプレッシングが特徴。
ドイツ語で「gegen(逆、反)」と「pressing(圧力)」を組み合わせたワードで、「逆圧力」=相手のカウンター直後にこちらがプレスを仕掛けるという考え方になります。
サッカー界における位置づけと歴史
ゲーゲンプレスは2010年代にドイツやヨーロッパのトップクラブで顕著に活用されはじめ、多くの監督が戦術の軸に据えました。プレースタイルやクラブ文化ごとにアレンジが施されているものの、「奪われた瞬間に複数人で一気に包囲し、即時奪回を狙う」点は共通です。
それ以前のマンツーマン主体や守備ブロックを重視する戦い方とは一線を画し、現代サッカーの“トランジション(攻守転換)”重視の動きと合致し、時代の要請にもマッチしています。
現代サッカーでのゲーゲンプレス事例
プロの世界では、多くの強豪クラブとナショナルチームがゲーゲンプレスを導入。「奪った直後の5秒間」が勝負といわれるほど徹底されており、これが多くのゴールチャンスに繋がっています。
日本国内でも、系譜を受け継ぐ指導者や戦術に精通した指導現場で日常的に採用・実践されています。こうした最先端の現場事例を「自分たちのチーム」で活かすことも、決して夢ではありません。
ゲーゲンプレスが求められる理由と主な効果
攻守転換時の優位性
攻撃から守備へと移った瞬間、相手がまだ体勢を整えていないタイミングで複数人が連動して圧力をかけることで、相手のビルドアップを混乱させ、ショートカウンターのリスクを最小限にできます。
これにより、フィールドの高い位置でボールを回収しやすくなり、自チームのゴールに近い危険なエリアでの守備負担も減るのです。
チーム全体の意識変革
ゲーゲンプレスが浸透したチームは、選手全員が「一秒でも早くボールを奪い返し、また攻撃に転じる」という積極的な姿勢を持つようになります。守備だけでなく、攻撃に向かう切り替えも速くなり、チーム全体の意識が一段アップ。
プレーに“受け身”がなくなり、どの局面でも能動的に動ける集団へと進化します。
プレー強度とパフォーマンス向上
高いプレースピードのなかで連続してプレスをかけるため、自然と基礎体力・反射・走力など個人能力の底上げにもつながります。
試合に向けて普段の練習やトレーニング方法が見直され、選手一人ひとりの“強度”と“質”も全体的に底上げされるため、好循環でチーム力が高まります。
成功するゲーゲンプレスの要素とプレイヤーの心構え
個人・グループ間の連携
ゲーゲンプレスは1人で行うものではありません。最初にプレスに向かう選手だけでなく、その周囲2~4人が独自にカバーやサポートをしながら、局面全体で「囲い込み」を作り出すことが大切です。
ポジションごとに求められる動きや役割は少し異なりますが、「声を出してコーチングする」「味方が動いたスペースをカバーする」など、グループ内の細やかな意思疎通が肝要です。
適切なプレッシングの開始タイミング
重要なのは“いつ”プレッシングを始めるか。相手に持ち直す時間を与えないことがゲーゲンプレスの真骨頂ですが、無理に個人で飛び込むと逆にかわされるリスクもあります。
「ボールを失った直後、相手もまだ体勢が中途半端な時」に、全員で合図を合わせて一斉に仕掛ける、これが基本です。
失敗しないための正しい距離感とカバー
全員が一体となって「玉際の距離感」を意識しないと、一つのプレスで受け渡しが遅れると一気に剥がされてしまいます。
「あと一歩で届く」「相手が体を向けきる前に寄せる」といった“距離感”を全員がつかみ、裏に抜けられた時のディフェンスもサポートする。これがゲーゲンプレスを成功させる鉄則です。
実践で差が出る!ゲーゲンプレスを習得するトレーニング方法
基礎体力と敏捷性トレーニング
ゲーゲンプレスは切り替えの速さが命。そのベースとなるのが「走れる体」と「素早く反応できる身体能力」です。
ラダー(梯子)を使ったアジリティドリル、30mダッシュ、間隔を短くした反復横跳びなどで下半身の素早さを鍛えたり、HIIT系の全身トレーニングで持久力も底上げしましょう。
また、1日の練習の前後にダイナミックストレッチを挟むことで、瞬発的な動きも向上します。
小グループでの圧力練習ドリル
3~5人の小さなグループごとに「2対3」や「3対4」などの数的不利な状況で守備側がボールを奪う練習(通称ボール奪取ドリル)を行うと、自然と密集地帯での囲い込み(ゲーゲンプレスの実践)が体得できます。
この時、「誰かが寄せたら残りのメンバーがパスコースカット・サポートに動く」意識を徹底しましょう。
頻繁に組み替えを行い、ポジション別でも役割を意識することで現実的な試合のイメージが湧いてきます。
状況把握力を養うゲームメイク法
実戦形式のミニゲームの中で、「ボールロスト直後は全員で5秒間だけプレスをかける」などの制約を設けます。
この“限定条件ゲーム”は、プレーヤーに対して瞬時の状況判断や情報共有の重要性を体感させてくれる訓練法。時には「ただ突っ込むだけでは崩される」という局面も体験でき、的確な判断力の養成につながります。
動画や定点カメラで自分たちのプレーをあとから見返すことも、改善ポイントの発見に大きく役立ちます。
ゲーゲンプレスの失敗パターンとその克服法
個々の連動不足によるギャップ発生
最も多い失敗が「一人や二人がやる気よく飛び込むが、後続がついてこない」という連動不足パターン。これを放置すると、逆に相手にスペースを与えてしまい、簡単にプレスを外されてしまいます。
解決策は、「声を掛け合う」「事前に“合図”を決める」「局面ごとに全員で狙いを共有する」こと。
一見地味ですが、根気よくこれを積み上げることがゲーゲンプレス成功の近道です。
空回りするプレスとリスク管理
無理に人数を一気にかけすぎて、逆サイドや“最後の砦”が手薄になる場合もありがちです。
特に相手がロングキックやサイドチェンジを得意とするケースでは、一か八かのプレスは避けるべき。
「追い込みながら奪えない場合は遅効守備へ切り替える」「必ず中央へのパスコースを閉じる」など、リスク管理も含めた“引き際”を覚えることが不可欠です。
チーム全体の意思統一ができない場合の対処法
ゲーゲンプレスがワークするかどうかは「ピッチ全員で同じ絵を持てるか?」にかかっています。しかし意思統一が難しいのも正直なところです。
対策としては、「定期的に戦術ミーティングを開く」「実際の動画や図解を使って共通認識を深める」など、コミュニケーション面の工夫も大切。
また、「誰がプレスの合図役かを決めておく」「リーダー的存在を中心にプレースタイルを明確にする」などの現実的な役割分担も有効です。
高校生・大人世代がゲーゲンプレスを磨くための実践アドバイス
高校・大学世代に合う練習メニュー例
この年代は体力・判断力も養われてくるため、ミニゲームやポジショナルプレーの中で「限定条件付き(例:5秒間全力プレス)」を日常的に取り入れるのが効果的です。
また、定期的に“ゲーム映像を見て、自分の動き・仲間との連携を振り返る”習慣をつけてみてください。自主練習でも、スプリントとジョグの反復や細かい1v1・2v2プレスなど、実戦に近い動きを強調していきます。
社会人チームでの戦術落とし込みポイント
社会人チームは練習頻度や参加メンバーが日によってバラバラ――というケースも多いはずです。
そのため「個人で持っておく最低限の原則」(例:誰がボールロストしたら、付近の選手は5m以内に即アプローチ、など)を共有・定着させることで、全体のレベル差をカバーしましょう。
参加状況に応じて「人数合わせの工夫(例:少人数制限ゲーム)」や「コミュニケーション重視の練習」を積むことも大切です。
親として子どもをサポートする視点
お子さんが「ゲーゲンプレスって何?」「難しそう、キツそう」と感じていたら、まずは「みんなで一緒に頑張る楽しさ」や「小さな成功体験」をたくさん共有してあげてください。
「プレスでボールを奪えたらハイタッチ」や「動画でナイスプレーを一緒に見直す」など、プレッシャーにならない形でモチベーションを応援するのがコツです。
体づくりや栄養、休養面の環境づくりも、継続的な上達には欠かせない大切なサポート要素になります。
ゲーゲンプレスの極意まとめ|次の一歩を踏み出すために
ゲーゲンプレスは“最先端の戦術”でありつつ、突き詰めるほど「基本に忠実なサッカー」とも言えます。攻守の切り替えを一瞬も無駄にせず、勇気を持って一歩目を踏み出す。それは、どんなレベルや年齢でも、チームの雰囲気を変え、勝利を引き寄せる大きな武器となるはずです。
この記事で紹介した基本と実践のコツをチームや個人の練習に一つずつ取り入れ、あなた自身・あなたのチームにしかできないゲーゲンプレスをぜひ作り上げてみてください。
サッカーは競技だけでなく、人間力やチームワークをも成長させてくれる素晴らしいスポーツです。失敗を恐れず、まずは楽しみながら“次の一歩”を踏み出してみませんか?