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サッカー二列目の逆走でDFを釣り出し、列間を裂く術

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導入:逆走で列間を裂く、その核心

二列目の逆走は、相手DFの意識と基準を“ズラす”ための小さな一歩です。マークの裏をかくというより、守備者の視線と身体の向きを奪い、空間を生み出すためのデザインだと捉えると理解が進みます。この記事では、逆走の定義から役割別の使い方、タイミング、トレーニングまでを一気通貫で整理。明日の試合でそのまま使える“合図・連動・再現性”に落とし込みます。

二列目の逆走とは何か:定義と目的

用語整理(二列目・逆走・釣り出し・列間・ライン間)

二列目はIH/シャドー/ウイング/偽9などの中盤〜前線の間の選手群。逆走は“前進方向に対して一度後ろへ動く”こと。釣り出しは守備者を本来の位置から外す行為。列間/ライン間はDFラインと中盤ラインの間のゾーンを指します。

なぜ逆走が列間を裂くのか(守備基準の破綻を狙う)

多くの守備は人/ボール/スペースの複合基準。逆走は守備者に「つくか、渡すか」の二択を同時に迫り、判断の遅延を発生させます。その遅延を味方の背後走や縦パスが突きます。

どんな相手に有効か(マンツーマン傾向・4-4-2ミドルブロックなど)

人基準が強いチーム、4-4-2でCHが前後にスライドするチームに特に有効。CBが前に出る習慣の少ない相手にも、偽9の深い逆走が効きやすいです。

戦術的原理:相手の守備基準を“ズラす”

視線・身体向き・基準点の分断(ボール/人/スペース)

逆走は守備者の視線を手前へ、身体向きを内外へズラします。結果、ボール・人・スペースの三点が同一直線に揃わず、カバーシャドウが薄くなります。

コンパクトネスの横と縦の破綻を同時に誘発

一人の逆走でCHが縦に外れ、隣のCHが横スライド。横と縦の圧縮が同時に緩み、列間とハーフスペースが開口します。

ピン留め(ピンニング)と空間生成の因果関係

CFやWGが最終ラインを固定(ピン留め)するから、逆走の吸引力が増します。前線が止め、二列目がズラし、三人目が刺す。この順番が肝です。

役割別の逆走:IH・シャドー・ウイング・偽9

インサイドハーフ(8/10)の逆走とサードマン解放

IHはアンカーの前から背中へ逆走して縦壁を作り、戻し一発でサードマン解放。ハーフスペースで半身を作れると前向きの一歩が早くなります。

シャドー/トップ下の逆走とCFの背後走りの両立

シャドーの浅い逆走でCHを手前へ釣り、CFが同サイドCBの背後へ同時走。縦と斜めの二択でCBの決断を奪います。

ウイングの内側逆走(インバート)でSBを釣る

WGが内側へ逆走するとSBが内絞り。結果、外幅のSB/ウイングバックが解放され、クロスやカットバックの質が上がります。

偽9の深い逆走とCBの引き出し(背後の空洞化)

CFが中盤まで逆走しCBを動かせると、背後に大きな空洞。ウイングの内走やIHの縦抜けの価値が最大化します。

逆走のトリガーとタイミング設計

視覚トリガー:CBの前体勢・SBの視線外・アンカーの逸脱

CBが前体勢なら背後警戒が薄い合図。SBがボールに吸われた瞬間や、相手アンカーが横へ出た瞬間が逆走の好機です。

ボールトリガー:バックパス・横パス・縦パスの準備動作

バックパスで相手が一歩前へ。横パスの準備動作で足が止まる。縦パス準備で重心が上がる。その半拍前に動きます。

味方トリガー:CFのピン留め開始・SBの幅取り・アンカーの降り

CFがCBを抑えた瞬間、SBがタッチラインに張った瞬間、アンカーが降りて数的優位を作った瞬間がシグナルです。

タイミングの黄金則(パスが出る“半拍前”に動く)

パス後では遅い。蹴り脚が引かれる半拍前に初動を切り、守備の視線がボールに固定された一瞬を突きます。

身体の向き・初動の作法

半身(オープン/クローズ)の使い分け

受ける前はクローズで相手を引き寄せ、受ける瞬間にオープンへ切り替え。背中で相手を感じつつ前を向く角度を事前に作ります。

フェイント逆走:肩の角度と足元の偽装

肩を一度前に差してから引くと、相手の重心が前へ。足元は踏み替えでリズムをずらし、身体を置いていきます。

初動の一歩目を“相手の死角”へ送る角度作り

真正面ではなく、相手の背中のラインへ一歩目。半歩外→内の曲線で腕を使い、接触を受け流します。

走法とスピードコントロール

減速→停止→再加速(ストップ&ゴー)でマークを剥がす

止まる勇気がズレを生む。止まって見せてから2歩で再加速すると、守備の反応は必ず遅れます。

歩幅とピッチの切り替えで“絡まる”感覚を与える

小刻み→大股→小刻みの切替で相手のステップを乱し、身体接触の主導権を握ります。

スロー・ファスト・スーパーファストの三段変速

視線誘導はスロー、間合い調整はファスト、抜ける瞬間はスーパーファスト。目的ごとに速度を変えます。

ランニングラインとレーン管理(5レーン/ハーフスペース)

外→中の逆走でハーフスペースを開く

外から内へ引き、SB/CHを内側に吸い込ませると、外のレーンが空きます。戻しで幅を使い直せます。

中→外の逆走で中央の列間を裂く

中の選手が外へ引くとアンカーの迷いが発生。中央の列間にIHや偽9が顔を出しやすくなります。

縦・斜め・曲線のライン選択(ダイアゴナルの利点)

直線は読まれます。ダイアゴナルや曲線で相手の視線をズラし、背中から抜ける角度を常に確保します。

連動の設計:誰が釣り、誰が刺すか

CFのピン留めと二列目の逆走の同期

CFが最終ラインを固定した瞬間に二列目が逆走。固定→ズラし→刺しの三位一体が理想です。

SBの幅取り/インナーラップとIHの背後抜け

SBが幅を取り、IHが逆走から背後へ。インナーラップの気配でCHを迷わせ、IHがフリーで前進します。

アンカーの立ち位置で相手アンカーを固定

自チームのアンカーが相手アンカーの前で幅を作ると、相手は動けません。逆走するIHが浮きます。

CBの持ち出しで中盤の視線を引きつける

CBが運ぶとCHの視線が低くなり、背中が空きます。そこへ二列目が逆走で入ると綺麗に前進できます。

具体的連携パターン集

逆走→縦壁→サードマン(裏抜け)

IHが逆走で縦壁、落としを受けたアンカーがサードマンへスルー。最短で背後に到達します。

逆走ダミー→外→内の三角解放

逆走は受けないダミー。外へ逃がしてから内の列間へ再侵入。三角で前向きに差し込みます。

偽9逆走→ウイング内走→SB解放

偽9でCBを引き出し、WGが内へ。SBが空いた外を獲得してクロスやカットバックへ。

二列目の同時逆走でダブルピン留め

IHとシャドーが同時に引くとCHが縦に割れ、アンカーは選択を誤りやすい。中央が裂けます。

逆走→戻し→スルーのタイムラグ活用

戻しの瞬間に守備は前体勢。ワンタッチの時間差スルーで背後へ差し込みます。

守備ブロック別攻略

4-4-2ミドルブロック:CHの縦分断を誘う逆走

IHがCHの背中→足元へ逆走し縦壁。もう一方のIHが背後に走るとライン間が裂けます。

5-3-2/3-5-2:ウイングバックの判断を狂わせる逆走

WGの内側逆走でWBが内に吸われると外が解放。CB/WBの受け渡しに遅延が出ます。

4-1-4-1:アンカーの釣り出しと内側の列間活用

偽9やIHの逆走でアンカーを前へ。背後のハーフスペースへシャドーが差し込みます。

マンツーマン気味のチームへの対応

逆走は特効薬。ただし受ける角度と再加速の質が命。連続的なポジションチェンジで剥がします。

ゾーン別アプローチ(自陣→中盤→最終3rd)

自陣ビルドアップでの逆走:プレッシャー緩和と前進路形成

IHが一度降りて相手CHを連れ出し、CBやSBが運ぶレーンを開けます。戻し角度も確保。

中盤での逆走:ライン間で前向きに受ける準備

逆走でマークを剥がし、半身で受けて前を向く。1タッチ目の方向付けが勝負です。

最終3rd:逆走と背後走の二択でCBの決断を迫る

ボールサイドは逆走、ウイークサイドは背後走。二択の同期でCBの足を止めます。

セットプレー/リスタートでの逆走活用

スローインの逆走で戻し角度を作る

受けるフリで引いて、即時の戻しラインを確保。二人目が前向きで差し込めます。

ショートコーナーと逆走で二対一を早期形成

コーナー受け手が逆走でマーカーを釣り、内外の2対1を素早く作ります。

FKの二次攻撃でCHの逆走→ミドルレンジ解放

クリア後の混乱時、CHが逆走でフリーマン化。こぼれ球を前向きで叩けます。

相手の対策とこちらの再対策

アンカーの固定/カバーシャドウ対応への解答

逆走が切られたら、外幅→内折り返しでシャドウの背中受けへ。角度をずらして通します。

CBの前進拒否(無反応)に対する次手

無反応なら前進でOK。CBが出ない背後には針を刺さず、運んで引き付けてから外→内へ。

SB内絞りとWG追尾への配置転換

WGをタッチラインに固定しSBを外へ引き戻す。IHが内側で数的優位を作ります。

早いスライドに対する逆回転(戻す→逆サイド)

逆走で時間を作り、素早く逆サイドへ回す。走らせて疲弊させ、終盤の隙を待ちます。

トランジション管理と守備リスク

逆走時の“置き去り”を防ぐレストディフェンス

逆走する側とは反対のSB/CHが残り、中央と逆サイドの即時遮断ラインを確保します。

失った瞬間の即時奪回位置(5レーン基準)

失ったサイドの外-内-内の三角で包囲。逆サイドはバランス維持に徹します。

ファウルマネジメントと危険地帯の切り離し

背後で抜かれたら接触の質で減速。中央を切り、外で時間を稼ぐ軽いファウル管理も選択肢です。

スカウティング/動画分析チェックリスト

相手CHの視線と背中のスペース観察

常にボール視か、人視か。背中にスペースを残しやすい方を特定します。

アンカーの守備基準(人/スペース)判定

人基準なら偽9が効く。スペース基準ならIHの幅取りとサードマンを優先。

CBの引き出されやすい側(利き足/体の向き)

利き足側に誘うと前に出やすいCBもいます。体の向きの癖をメモします。

逆走後の“空きエリア”の継続的出現パターン

開きやすいハーフスペースやレーンを特定し、試合中に狙い続けます。

トレーニング設計(制約主導)

2対2+フリーマンでの逆走タイミング制約

逆走後の受け→落としのみ得点可。半拍前の初動と身体の向きを徹底します。

4対4+2サイドでのサードマン限定得点

得点はサードマン経由のみ。逆走のダミー価値と外-内の角度を体得します。

6対6+GKで“逆走→背後”のみ得点カウント

逆走で釣ってからの背後抜けでしか加点されないルールで、再現性を作ります。

ゾーントレーニング:列間ゾーン通過で加点

ライン間を通過した回数でポイント化。狙うべき場所をチームで共有。

ゲーム形式での接触回数/方向転換回数の計測

逆走の質は接触と切替の頻度に現れます。数値化して習慣化します。

年代・レベル別導入ポイント

高校・大学:基準の共有と言語化を先行

「半拍前」「背中を取る」など短い合図を共通言語化。動画での振り返りをセットに。

社会人/アマ:負荷管理と簡潔な原則に絞る

走力に依存せず、角度とタイミング重視。3つのトリガーだけに絞って運用します。

ジュニア/ユース:遊び要素で逆走の感覚づくり

鬼ごっこ式のストップ&ゴー、背中タッチゲームで“死角に入る”感覚を育てます。

フィジカル準備と傷害予防

減速耐性(エキセントリック:ハム/臀筋)の強化

ノルディックハム、RDLで制動力を養成。ストップ&ゴーの基礎になります。

股関節可動と骨盤コントロールで初動を速く

90/90ストレッチとヒップエアプレーンで可動+安定。初動の一歩が軽くなります。

足首/膝のアライメント管理(切り返し耐性)

カーフレイズ、片脚スクワットで膝内倒れを抑制。方向転換の怪我を予防します。

ウォームアップ:多方向ラン+視線スイッチ

コーディネーションラダーに“後方確認”を組み合わせ、逆走特有の視線切替を準備。

メンタル・認知スキル

スキャン頻度と“何を見るか”の優先順位

ボール→最近接DF→背中のスペースの順で0.5秒ごとにスキャン。優先順位を固定化します。

偽装(デセプション)の使いどころ

受ける直前の肩入れ、視線の外しで守備の重心を誘導。やりすぎず一点豪華主義で。

認知負荷を減らす合図(キュー)の共通言語化

「半拍」「背中」「ピン」の短語で意思疎通。複雑さを現場で削ります。

よくある失敗と修正法

動き出しが早すぎる/遅すぎる問題

蹴り脚の引き始めを合図に。早いなら一度止まる、遅いなら曲線でショートカット。

逆走が深すぎて背後が遠くなる問題

2〜3歩で十分。深さは“触れそうで触れない距離”を目安に調整します。

身体の向きが閉じて前進できない問題

受ける前に足先と骨盤を開く。落とし先の視線を先に作ると自然にオープンになります。

ボール保持者と視線が合わない問題

逆走前に一度アイコンタクト。見えないなら手のジェスチャーで合図します。

成功指標(KPI)と自己評価法

逆走でDFを釣り出した回数/試合

試合後に数値化。3回/試合をまずの目標にします。

列間受けからの前向きタッチ率

前向きの1stタッチが何%か。60%超で影響が出始めます。

逆走→背後の決定機創出数

逆走が起点の決定機をカウント。1以上/試合で武器化の兆し。

逆走関連のロスト後即時奪回率

失っても5秒で奪い返せるか。レストディフェンスの評価にも直結します。

試合中のコーチング用キーフレーズ

“半拍前!”“背中で受けて!”“逆を踏んで!”

初動と角度の質を一言で喚起。繰り返し使える短語が効果的です。

“ピン留め継続!”“戻し速く!”“逆サイ準備!”

連動の役割を即時共有。戻しの速度と逆サイドの準備が逆走成功率を上げます。

選手間のショートコール設計例

「ピン」「半」「背」「逆」「今」。誰でも言える短さで統一します。

ケーススタディ:国内外の試合例から学ぶ視点

4-3-3のIH逆走でCBを引き出す場面の観点

IHが背中に落ちるとCBが迷い、ラインが割れます。CBの一歩目が出た瞬間の裏抜けが鍵です。

偽9の逆走とウイング内走の連鎖の観点

偽9が縦壁、WGが内走、SB解放。三者の距離が10〜15mだとテンポが崩れません。

SBの幅取りが逆走成功率に与える影響の観点

SBが広く取るほどCHの横スライドが遅れます。幅取りは逆走の“見せ筋”です。

1週間の練習メニュー例(マイクロサイクル)

MD-4:個人戦術(初動/体の向き/減速)

30分のストップ&ゴー+半身ドリル。短時間高品質で基礎固め。

MD-3:小集団戦術(2v2+3のサードマン)

逆走→落とし→刺ししか得点にならない制約で、連動の速度を上げます。

MD-2:チーム戦術(8v8でトリガー確認)

視覚/ボール/味方の各トリガーを言語化し、共通キューをテスト。

MD-1:セット/定位置の確認と負荷調整

ショートコーナーとスローインの逆走パターンを軽めに反復。

MD:ゲーム中の合図とKPI共有

ベンチからのキーフレーズを統一し、KPIを試合後に即時レビューします。

よくある質問(FAQ)

逆走の深さはどのくらいが適切?

2〜4歩が目安。背中に入るが、受けても前を向ける距離をキープしてください。

マンツーマン相手に効かない時の代替案は?

逆走を囮に“位置交換”を増やします。CFとIH、WGとSBの連続入れ替えで剥がします。

体格差がある相手への工夫は?

接触前に角度勝ち。曲線走と半身で正対を避け、触られる手前でボールを離します。

まとめ:逆走は“合図・連動・再現性”で武器になる

原理の再確認と優先順位

固定(ピン)→ズラし(逆走)→刺し(背後/縦差し)。この順を崩さないことが最優先です。

小さく始めて大きく適用するステップ

個人の初動→小集団のサードマン→チームのトリガー統一。段階的に拡張しましょう。

試合で明日から使えるミニチェックリスト

半拍前に動く/受ける前に半身/逆走は2〜4歩/戻しはワンタッチ/逆サイ準備を忘れない。

用語集と参考リソース

用語集(列間/ピン留め/サードマン/ハーフスペース)

列間:ライン間のゾーン。ピン留め:最終ラインを固定する動き。サードマン:2人のやり取りから3人目が受けて前進。ハーフスペース:中央とサイドの中間レーン。

試合観戦でのチェックポイント早見表

逆走の発生位置/相手の誰が動いたか/空いたスペース/パスの方向/次の再現性の可能性。

学習を深めるための素材整理のヒント

ハイライトだけでなくビルドアップ局面を集める。逆走→背後の連鎖が見える場面を切り抜きます。

あとがき

逆走はド派手ではありませんが、守備の“基準”にノイズを入れる最短手段です。走る量より質、スピードより角度。合図をそろえ、連動を増やし、再現性で武器にしてください。小さな一歩で、相手の大きな穴を開けられます。

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