「ドローバックって反則なの?」——ピッチでよく聞こえるこの疑問、実は言葉の使い方から少し整理が必要です。本記事は、サッカーで最も判定が割れやすい“相手の進路妨害(impeding)”を、競技規則に基づき実戦レベルで解説する完全ガイド。誤解されがちな用語の整理から、審判が見るチェックポイント、グレーゾーンの線引き、練習で身につける方法まで、今日から使える視点に落とし込みます。反則を避けつつ賢く守る、そしてカードやPKを招かないための実践知を、丁寧かつカジュアルにお届けします。
目次
はじめに—サッカー ドローバック 反則 基準と進路妨害の線引き完全ガイド
用語の整理:「ドローバック」は競技規則の正式用語ではない
まず大前提として、「ドローバック」は競技規則に登場しない用語です。現場では「引き戻す動き」「相手をブロックする動き」をまとめて“ドローバック”と呼ぶケースがありますが、審判はこの言葉で判定しません。競技規則上の評価軸は「ボールにプレーできるか」「接触の質」「相手の進路を不当に遮っていないか」です。この記事では、俗称としての“ドローバック”を、進路妨害(impeding)やチャージ、ホールディングなどの正式概念に置き換えて解説します。
よくある混同:ドラッグバック(足裏で引く)、プルバック(折り返し)、バックパス、シールド(ボールキープ)
- ドラッグバック:足裏でボールを引くフェイントやターン。技術の名称で反則とは無関係。
- プルバック:サイドでえぐって折り返すクロス(引き戻し)。戦術用語で反則とは別物。
- バックパス:味方が意図的に足で蹴ったボールをGKが手で扱うと反則(間接FK)。進路妨害とは別の条文。
- シールド(シェアリング/プロテクト):ボールを身体で守る合法行為。ただしボールがプレー可能距離で、手で掴んだり押したりしないことが条件。
この記事の狙い:相手の進路妨害の判定基準を実戦レベルで理解する
曖昧になりがちな“ブロック”や“スクリーン”の線引きを、競技規則の言葉に翻訳し、審判の視点で噛み砕いていきます。読後には、「今のはOK」「ここはNG」という判断が自信を持ってできるようになるはずです。
競技規則の基礎:進路妨害(Impeding the progress of an opponent)の全体像
定義と成立条件:ボールにプレーする意図・可能性がない遮断は間接フリーキック
進路妨害とは、相手の進行を邪魔するために相手の行く手を遮り、相手がボールにプレーするのを不当に妨げる行為を指します。特に、ボールが自分の“プレー可能距離”にないのに、相手の前に立ちはだかって邪魔をする場合が該当します。この場合の再開は「間接フリーキック」です。
接触の有無で変わる罰則:接触なし=間接FK、接触あり=直接FK/PK(ホールディング、チャージ等)
接触がない純粋な遮断は間接FK。しかし遮断の過程で手や腕で抑える、押す、背後から当たるなど接触が発生した場合は、ホールディング、プッシング、チャージなどの直接FK(ペナルティエリア内ならPK)に格上げされます。接触の質が「不注意」「無謀」「過度な力」のいずれに当たるかでカードの有無も決まります。
正当なチャージとの違い:ボールがプレー可能距離・肩と肩・過度な力でないこと
肩と肩の正当なチャージは許容されます。ただし条件が重要です。ボールが双方のプレー可能距離にあること、肩からの接触で腕を広げたり押し出したりしないこと、力が過度でないこと。この条件から外れるとチャージではなくファウル評価になります。
バックパスやGK関連の反則との区別:遅延行為・手使用の特例との線引き
GKの「バックパス反則」(意図的に味方が足で蹴ったボールを手で扱う)や「スローインを受けての手使用」は間接FK。再開時の遅延行為や、6秒ルールなどもGK固有の条文です。進路妨害とは別枠なので、状況を切り分けて考えましょう。
相手の進路妨害の判定基準(審判が見るチェックポイント)
ボールとの距離:プレー可能距離かどうかが第一関門
最初に見られるのは「ボールが自分のプレー可能距離にあるか」。これがYESならシールドの可能性、NOなら遮断(impeding)に傾きます。
身体の使い方:合法的シールドと違法なブロックの線引き
合法:ボールと相手の間に体を入れる、肩幅の範囲で姿勢を保つ。違法:肘を広げて道を塞ぐ、体を開いて“壁”を作る、ボールから離れた位置でスクリーンする。
進行方向の変更と停止:自然な体の向きか、意図的なスクリーンか
プレーの流れでの減速や方向転換は自然ですが、相手の進路に対して急停止・横移動して壁になる動きはスクリーンと見なされやすくなります。
視線・速度・角度:意図推定に用いられる行動手がかり
審判は、視線がボールにあるか相手に固定されているか、加速減速のタイミング、接近角度などの“態度証拠”から意図を推定します。
接触の質:肩と肩・腕の広げ方・背後からの遮断の評価
肩と肩の接触でも、腕で抱える・押す・背後からラインを切ると直接FK。腕や手が“体を大きく見せる”範囲を超えて相手に働きかけていないかが鍵です。
プレーの文脈:ボールを守っているのか、相手のみを止めているのか
ボール保持側がキープの一環として体を入れているのか、ボールに関与できない場所で相手だけを止めているのか。文脈の読み違いが判定の分かれ目です。
ケースで学ぶグレーゾーン:OKとNGの線引き
ドラッグバック中の接触:足裏でボールを引く際に相手と交錯したら
OKの例
自分のプレー可能距離でボールを足裏で引き、肩と肩の範囲で相手を外す。腕は広げず、接触が軽微で自然。
NGの例
足裏で引いた瞬間、腕で相手を押し退ける/背後から進路を切る。接触が伴えば直接FK、無接触でも相手の進路を遮るだけなら間接FKの可能性。
プルバックに向かうランのブロック:クロスの折り返し前後の進路遮断
OKの例
自分がボールにプレーできる位置でマークを体で抑えつつ、肩の接触で競り合う。
NGの例
ボールから離れた位置で相手の走路に立ち、スクリーンのように壁になる。無接触でも間接FK、接触すれば直接FK。セットプレーでは特に厳しく見られます。
ボールに届かない距離のスクリーン:ボール非接近時の立ちはだかり
NGの典型
ルーズボールから遠い位置で、相手の前に回り込んでブロック。ボールに触る意図がなければ進路妨害=間接FK。
ロングボール競り合い:前方へ斜行して相手のラインを切る動き
OKの例
落下点を読んでポジションを取り、肩と肩で競り合う。腕は体側、視線はボール。
NGの例
相手の走路に斜行して接触でカット。腕でブロック、背中からの体当たりは直接FK/PKの対象。
コーナーやセットプレー:マーキング中のホールディング/ピン留め
判定のポイント
抱える・引く・押すはホールディングで直接FK/PK。軽い接触でも継続的に腕で拘束していれば反則。スクリーンの“連携プレー”はサッカーでは認められません。
カウンター阻止:戦術的ファウル(SPA)とDOGSOの見極め
有望な攻撃を止めるSPAは原則イエロー。明白な得点機会(DOGSO)を反則で奪えばレッド。ただし、ペナルティエリア内で“ボールにプレーしようとした”チャレンジでPKとなるDOGSOはイエローに減免されます。進路妨害がIDFKでもDOGSOに該当すれば退場になり得ます。
GKとバックパス:意図的キックの手使用、間接FKとなる典型例
意図的な足のパスをGKが手で扱うと間接FK。これを避けるために相手の進路を遮って時間を稼ぐ“壁作り”は、ボールがプレー可能距離になければ進路妨害になります。線引きを意識しましょう。
プレーヤー向け実戦ガイド:反則にしない身体の当て方
合法的シールドの5原則:ボール・姿勢・腕・足・方向
- ボール:常にプレー可能距離に保つ(触れる・触れそう)。
- 姿勢:胸・骨盤はボール方向、背中で相手を感じる。
- 腕:肘を張らず体側に。バランスに使うが“押さない”。
- 足:スタンスは肩幅、踏み替えで相手を外す。
- 方向:円を描くように回り込み、進路を“導く”。壁にならない。
ステップで“誘導”する守備:ブロックではなくラインコントロール
コースを消す時は、相手の前を横切る“スクリーン”ではなく、半身で寄せて外へ誘導。二の足でカバーの味方に繋ぐ設計が安全です。
腕と手の管理:カラダを大きく見せつつ拡張しすぎないコツ
肩甲骨を開きつつ肘は緩く曲げて体側に。手のひらが相手のユニフォームに触れない運用を徹底するとホールディング判定を避けやすいです。
間接FKを招かない間合い:ボールから離れすぎない/寄りすぎない
“寄り過ぎて当たる”は直接FK、“離れ過ぎて遮る”は間接FK。ボールに触れる距離でステイするのが最も安全。迷ったら半歩ボール寄りへ。
遅延と時間稼ぎの許容範囲:ボール保持と非保持での注意点
- 保持側:コーナー付近でのキープはOK。ただし抱える・押すはNG。
- 非保持側:リスタート妨害(ボールキック・距離不保持)は警告対象。抗議で時間を使うのも悪手です。
審判の視点と最新傾向を知る
アドバンテージと基準の一貫性:ファウル基準が揺れる局面の考え方
審判は攻撃の継続が有利なら流し、次の停止時に警告だけ出すことがあります。アドバンテージ適用でも、ファウル自体が消えるわけではありません。前後の一貫性を見て、試合の流れに合わせるのが得策です。
VAR/AVAR/副審の役割分担:介入対象と現場運用の実情
- 介入対象:得点、PK、退場(直接)、人違い。進路妨害自体は介入対象外でも、PKやDOGSOに絡めばチェックされます。
- 副審:視野角からブロックやホールディングの継続性を補足。主審と役割分担されています。
大会やレベルによる傾向差:国際大会・国内リーグ・育成年代での違い
国際大会は接触の基準がやや厳格。国内でもリーグやカテゴリーで傾向差があります。育成年代は安全が最優先で、腕の使用や背後からの接触に敏感です。
最新の競技規則の読み方:毎季の改正点を確認するチェックポイント
- 接触の評価語(不注意/無謀/過度)
- DOGSOとSPAの適用整理
- ハンドやGK関連の細則改定
毎季の改正で解釈が微調整されるため、公式の競技規則原文・解説の確認を習慣化しましょう。
判定を外さないためのチェックリスト
4つの質問で即判定:ボール距離/意図/接触/安全性
- ボールは自分のプレー可能距離か?
- 意図はボールの保護か、相手の遮断か?
- 接触はあったか?質は適正か?
- 相手の安全を脅かしていないか?
“線引き”を誤りやすい言動:腕の広がり・視線の逸らし・急停止
肘を張る、視線を相手に固定、走路上での急停止はNGに寄るサイン。自覚的に排除しましょう。
チームで統一するルール共有:選手・指導者・審判との事前合意
セットプレーのコンタクト基準、キープ時の腕の使い方など、事前にチーム内で合意。試合前ミーティングで審判の傾向もすり合わせるとトラブルを減らせます。
トレーニングドリル:基準を身体で覚える
2対2ライン誘導ドリル:合法シールドの反復練習
- 設定:縦20m×横12m、ミニゴール2つ。
- ルール:守備側は外側ラインへ“誘導”して奪う。腕の使用・背後からの接触は禁止。
- 狙い:ボールをプレー可能距離に保つ/半身の寄せ/ステップワーク。
笛役を交代する判定シミュレーション:見る目を養う
- 3人1組(攻撃/守備/笛)。30秒ごとに役割交代。
- 守備は遮断ではなく誘導を選択。笛役は「IDFK/DFK/プレーオン」を即断。
- 終わりに4質問チェックリストで答え合わせ。
ビデオレビューの方法:チェック項目と振り返りの手順
- 1本目:ボール距離だけに注目して視聴。
- 2本目:接触の質(肩/腕/背後)をチェック。
- 3本目:意図の手がかり(視線/角度/減速)。
- 最後:判定とカードの妥当性をディスカッション。
よくある質問(FAQ):相手の進路妨害の疑問を解消
ボールに触れなくても反則になる?
なります。ボールがプレー可能距離にない状態で相手の進路を遮れば、接触がなくても進路妨害で間接FKです。
相手を見ていなければ妨害ではない?
視線だけでは判断されません。動きの結果として相手の進路を不当に遮っていれば反則になり得ます。
肩で押せば常に正当なチャージ?
いいえ。ボールがプレー可能距離にあり、肩と肩の接触で、力が過度でない場合のみ正当です。腕や手で押したらホールディングやプッシングです。
GKは特別に守られているの?
ペナルティエリア内の空中戦でGKへの接触は厳しく評価されがちですが、基本は同じ基準です。バックパスなどGK固有の条文は別枠で存在します。
接触が軽ければカードは出ない?
接触の強さだけでなく、攻撃の有望度(SPA)や得点機会(DOGSO)でカードが出ます。軽接触でも戦術的ファウルなら警告対象です。
指導と保護者対応:安全とリスペクトを両立する
育成年代への伝え方:“止める”ではなく“導く”という言い換え
「ブロックする」でなく「コースへ導く」と表現を変えると、違反リスクの低い守備が身につきます。声かけも「壁」ではなく「角度」。
審判へのリスペクト:抗議の線引きと建設的な対話
キャプテンが事実確認を短く行う、ハーフタイムに冷静に質問するなど、手順を統一しましょう。抗議で流れを失うのが最も損です。
怪我リスクを下げる練習設計:接触強度と人数/スペース設定
- 接触強度を段階化(無接触→軽接触→実戦)。
- 人数を絞り、スペースを調整してスピードを管理。
- 腕の使い方を個別にフィードバック。映像が効果的です。
まとめ—相手の進路妨害を避けつつ、賢く守るために
今日から実践できる3ポイント:距離・角度・腕の管理
- 距離:常にボールをプレー可能距離に置く。
- 角度:正面の“壁”ではなく半身の“誘導”。
- 腕:体側キープ。押さない、掴まない、抱えない。
チームとしての共通言語化:用語と基準の一致がミスを減らす
「シールド=ボール距離」「スクリーン禁止」「肩と肩」「SPA/DOGSO」の言葉を共有。セットプレーは特に事前合意を。
次の一歩:公式競技規則の原文確認と試合映像での復習
競技規則の該当項目(チャージ、ホールディング、進路妨害、DOGSO/SPA、GK条文)を原文で確認。自チームの映像に本ガイドのチェックリストを当てて振り返れば、判定のばらつきが減ります。
あとがき
“ドローバックは反則か?”という疑問の裏には、「どこまでがシールドで、どこからが妨害か」という線引きの難しさがあります。答えはシンプルです。ボール、身体の向き、接触の質、この3つを正しく管理できれば、ほとんどのシーンで自信を持ってプレーできます。今日の練習から、半歩ボール寄り、半身の誘導、腕は体側。この3つだけでも、ファウルとカードのリスクは確実に下がります。賢く守って、主導権を握りましょう。