目次
サッカー オフサイド 意図的プレー解釈とディフレクション判定の核心
リード
同じ「相手にボールが触れた」でも、オフサイドが成立したりしなかったり。勝敗を分けるのは、相手の接触が「意図的プレー(Deliberate Play)」なのか「ディフレクション(Deflection)」なのか、そして「セーブ(Save)」かどうかの見極めです。本記事では、競技規則第11条(オフサイド)の現在の考え方とIFABのガイダンスに沿いながら、現場で迷いやすい境界線の判断を、選手・指導者目線で言語化します。
言葉の定義→評価基準→ケーススタディ→戦術的アジャスト→練習メニュー→副審・VARの視点→チェックリスト、という流れで立体的に理解できる構成です。図解がなくても、プレーの質感が浮かぶように具体的なフレーズでお届けします。
オフサイドの基礎リフレッシュ
オフサイドが適用される3条件の整理
- 条件1:味方がボールをプレー(または触れる)した瞬間に基準が固定される
- 条件2:その瞬間、相手陣内で「ボールおよび相手競技者(セカンドラスト)よりも前」に、体(手・腕を除く)の一部が位置していた
- 条件3:その後にアクティブに関与した(後述の3類型のいずれか)
この3つが揃ってはじめてオフサイドの反則が成立します。位置だけでは反則になりません。
関与の3類型:プレー・相手の妨害・利益を得るの違い
- プレー(play/触れる):ボールにプレーし、触れる行為。
- 相手の妨害(interfere with an opponent):視野を妨げる、挑む、明確な動作で相手のプレー能力に影響を与えるなど。
- 利益を得る(gain an advantage):ゴールポスト/クロスバー/審判員/相手からのディフレクションやリバウンド、または相手のセーブの後にボールをプレーすること。
競技規則第11条の現在地と用語の前提
近年の追加説明では、特に相手に当たった後の扱いを明確化するため、次の用語が重視されています。
- Deliberate Play(意図的プレー)
- Deflection(ディフレクション=跳ね返り/偶発的接触)
- Save(セーブ=ゴールへ向かうボールを止める行為)
結論だけ先取りすると、相手の接触が「意図的プレー」ならオフサイドはリセットされやすく、「ディフレクション」または「セーブ」ならリセットされません。
意図的プレーとディフレクションの定義
Deliberate Play(意図的プレー)の意味
相手競技者が「ボールをコントロールしたり、方向付けたり、明確な意図を持ってプレーしようとした」接触。結果がミスでも、意図と選択肢があったなら意図的プレーに該当し得ます(クリア、ヘディング、キック、トラップの試みなど)。ただし「セーブ」は別扱いです。
Deflection(ディフレクション)の意味
予期せぬ/避けがたい/反応の余地が少ない状態で、ボールが体に当たって跳ね返っただけの接触。方向や速度を自らコントロールしていないため、原則としてオフサイドはリセットされません。
Save(セーブ)の扱いとオフサイド判定への影響
ゴールへ向かう、または非常に近いコースのボールを止める/弾く行為は「セーブ」。GKに限らず、フィールドプレーヤーの体によるブロックもセーブになり得ます。セーブは意図的プレーとは別枠で、セーブ後にオフサイドポジションの選手が関与すれば、原則としてオフサイドが成立します。
なぜ区別がスコアに直結するのか:帰結の違い
- 意図的プレー:相手が「プレーした」と解釈されるため、オフサイドはリセットされる方向。以後は新たな局面。
- ディフレクション/セーブ:味方のプレーの延長とみなされるため、オフサイドは継続。オフサイドポジションの選手が関与すれば反則。
IFABガイダンスに基づく意図的プレーの評価基準
時間とスペースの余裕:選択肢があったか
相手が「見る→判断→動作を選ぶ」だけの時間とスペースがあったか。余裕があれば意図的プレーに寄り、距離が極端に近い/速度が速すぎる場合はディフレクションに寄ります。
ボールコントロール可能性:意図と結果の関係
「止める/弾く/方向付ける」いずれかを現実的に実行できたか。ミスしても、コントロールの試みが読み取れれば意図的プレーと判断されやすいです。
接触部位と接触品質:足・頭・体の違い
- 足(インサイド/インステップ):面を作れていれば意図性の根拠に。
- 頭:額で合わせる準備が見えるか、後頭部/側頭部に偶発的に当たったか。
- 体(すね/腰/背中/肩):面の準備が難しく、偶発扱いになりやすいが、体をひねって方向付けしたなら意図性が上がる。
身体のバランス・動作方向・準備性
ステップワーク、体の向き、膝/股関節/上体の使い方など。バランスが整っていて、プレー選択の準備が見えるほど意図的プレーに傾きます。
ボールの軌道・速度・距離・予見可能性
見えていた時間、バウンド回数、スピン、弾道の素直さ/不規則さ。予見可能なボールほど意図的プレーの可能性が高く、不規則な跳ねや至近距離のロケットクロスはディフレクション寄り。
複合評価:単一基準では決めないという考え方
どれか1項目だけで決まることはほぼありません。総合点で判断。例えば「距離は近いが、ステップを刻んで面を作り、明確に弾いた」なら意図的プレー。「時間はあったが、後頭部に当たっただけ」ならディフレクション、という具合です。
ディフレクション/セーブ判定の核心
ディフレクションの特徴:不可避・偶発・反応の余地の少なさ
- 直前まで視野に入っていない/遮られていた
- 至近距離/高速度で、身体反応のみ
- 方向付けの意思/結果が読み取れない(ただ当たった)
セーブの定義:枠内シュートとゴール阻止行為
枠内、または枠に非常に近いシュート/ボールを止める・弾く行為。GK以外でも成立。セーブ後にオフサイドポジションの選手が関与すれば、原則オフサイドが適用されます。
ポスト・クロスバー・審判員からの跳ね返りの扱い
ゴール枠や審判員に当たった跳ね返りは、攻撃側のプレーの延長と解釈されます。よって、オフサイドポジションの選手がそのボールに関与すれば「利益を得る」に該当し、オフサイドです。
ケーススタディ:境界線で揺れる実例を言語化する
高速クロスに対するニアサイドDFの接触
ニアに鋭いクロス。DFが至近距離で反応し、足に当たってコースが少し変わる。距離が極端に近く、面づくりの時間がないならディフレクション扱いになりやすい。一方、1〜2歩の準備でインサイドを作り、外へ逃がす意思が見えれば意図的プレーと評価され得ます。
スライディングカットのわずかな触れと意図の評価
スライディングでパスカットを試み、ほんの先端で触れて逸れる。スライド自体は意図的でも、ボールに対してコントロール/方向付けの現実性が乏しい場合、ディフレクション寄りの評価になりがち。逆に、コースを読み、面を作って確実に外へ逃がしたなら意図的プレー。
浮き球のクリアミスとセカンドボールの帰属
ルーズボールをDFが待ってヘディングクリア。時間と視野があり、額で合わせにいったがミスし、オフサイド位置の相手に渡る。この場合は意図的プレーと見なされ、オフサイドはリセットされる公算が高いです。
GKの弾き(セーブ)からのオフサイドポジションの詰め
枠内シュートをGKが弾き、オフサイド位置のFWが押し込む。これはセーブ→利益を得るの流れ。原則としてオフサイド。
インターセプト狙いがずれた場合の扱い
パスコースを読み、前に出てインターセプトを狙う。トラップ/パス/クリアの選択肢がある状況で触れたが、ミスしてオフサイド位置の相手へ。時間と意図があれば意図的プレー扱いになり、オフサイドはリセットされます。
ロングボールの競り合いでのかすり接触
空中戦でDFとFWが競り、DFの肩に軽く当たって背後へ。ジャンプの体勢が不安定で、ボールの軌道変化も偶発的ならディフレクションの可能性が高い。明確にヘディングして方向付けできていれば意図的プレー。
副審・VARの視点:現場で何を見ているか
オフサイドラインとセカンドラストDFの認識
副審は常にセカンドラストDFとボールの位置関係を整合させ、プレー瞬間を遅延旗で管理。微妙な場面はプレーを継続させ、得点時にVARと協調して確認します。
接触の質を見極める観察順序
- 味方のプレー瞬間にオフサイドポジションか
- その後、相手の接触は意図的プレーか、ディフレクション/セーブか
- 接触の前提(時間/距離/視野/体勢/接触部位/方向付け)
- その後の関与が「プレー」「妨害」「利益を得る」のどれか
VAR介入の条件とオンフィールドレビューの要点
得点に直結するオフサイドはVARチェック対象。位置は事実判定、意図的プレーかディフレクションかは評価(主観要素)で、明確な基準に照らして「明白かつ重大な誤り」がある場合に介入。OFRでは接触の質(準備、面、方向付け、時間/距離)を反復確認します。
『明白かつ重大な誤審』基準の運用
グレーは原則「オンフィールド維持」。映像で明確に基準に反する場合のみ変更。だからこそ、選手側もリスク管理が重要です。
選手が取るべき戦術的アジャスト
最終ライン裏の立ち位置とリトリートラン
- 攻撃側:意図的プレーが出やすい相手(時間と面を作りがち)には、裏のオフサイドラインぎりぎりで待つより、二次局面へ素早く関与できる「半身のスタート姿勢」を。
- 守備側:クロス前の一歩目でラインを整え、至近距離の「当たり」を避けるリトリートランでディフレクションリスクを下げる。
二次球の狙い:意図的プレーか否かで変わる判断
味方が撃った直後、相手の接触がセーブ/ディフレクションならオフサイド継続。最前線は飛び込まず、後方からオンサイドで詰める役割分担を明確に。
サイドバックのクロス対応プロトコル
- 至近距離×高速度は「面を作れない」=無理に当てず、コース封鎖と距離管理を優先。
- 余裕があるときは、インサイドで明確に外へ逃がす(意図性を高める)。
センターバックのラインコントロールとステップ管理
一歩下がってボールと距離を作ると、面づくりが可能=意図的プレーにできる確率が上がる。逆に詰め過ぎは偶発接触を招きます。
GK・DF間のコールとトリガーワード
- 「当てるな」「逃がせ」「GK」など短いコールで意思統一。
- GKは枠内か否かを即時コール(セーブ意図の共有)。
練習メニュー:判定に強いプレーを身につける
認知スピードと予見可能性を高めるドリル
- カラーコール・スキャンドリル:配球直前に色や番号をコール→視野切替→正面化。
- ディレイ&ディスタンス:至近距離/遠距離での配球を混在させ、最適な距離取りを学習。
クリアとカットの技術練習(足・頭・体の精度)
- インサイドの「逃がし」反復(角度3種:タッチライン外・ニア外・ファー外)。
- 額でのヘディング方向付け(高さ/距離/角度の3変数)。
- 体でのブロック→着地2歩で次アクション(セカンド回収)。
クロス対応の段階的トレーニング設計
- 無圧で面づくり→方向付け
- 軽いプレッシャー下での判断速度
- ゲーム形式でのニア/ファー役割固定→可変
セカンドボール反応ゲームでの意思決定強化
シュート→GK弾き→3人目が詰める設定。オフサイドラインと走り出しのタイミング(後方スタート/オンサイド維持)を厳密に採点。
判断の言語化とレビュー習慣の作り方
- 「余裕/面/方向/速度/予見」の5語でセルフ評価。
- 試合後は該当プレーを書き出し、次回のトリガーワードを決める。
審判との対話とマネジメント
主張すべきポイントの優先順位
- 相手の接触の質(面を作って弾いていた/ただ当たった)
- 時間と距離(余裕があった/至近距離)
- 枠内シュートかどうか(セーブ該当性)
抗議で損をしない言い方とタイミング
- 具体: 「相手はインサイドで外に弾いてました。意図的プレーだと思います」
- 冷静: プレイが止まったタイミングでキャプテンが一言。
キャプテン・コーチの役割分担と合意形成
キャプテンは要点の提示、コーチは記録と次の対応。長時間の抗議は逆効果、短く要点だけ。
よくある質問(FAQ)
『触れたら常に新しいプレー扱い?』への回答
いいえ。相手の接触が「意図的プレー」の場合のみリセットされやすく、ディフレクション/セーブではオフサイドは継続します。
『ジャンプして避けた場合は?』への回答
触れていなくても、相手を妨害したりGKの視界を遮れば反則になり得ます。影響がなければ反則ではありません。
『背中や肩に当たったら?』への回答
体のどこであっても、意図的に方向付けしたなら意図的プレー。見えない背中に偶発的に当たっただけならディフレクションになりやすいです。
『意図的でも明らかなミスだったら?』への回答
ミスでも、意図と選択肢があったなら意図的プレーと判断され得ます(セーブを除く)。その場合はオフサイドがリセットされる可能性が高いです。
チェックリスト:即時判断のフローチャート
余裕・コントロール・方向・速度・予見の5観点
- 余裕:時間と距離はあったか?
- コントロール:止める/弾く現実性は?
- 方向:自分でコースを作ったか?
- 速度:至近距離の高速弾か?
- 予見:見えていた/読めていたか?
チームで共有する簡易フローと合言葉
「見えた? 面作れた? 方向つけた?」の3段コールで統一。どれもNOならディフレクション寄り、YESが複数なら意図的プレー寄り、と即時に腹合わせをします。
まとめ:微差を味方にするために
今日から変えられる3つの行動
- 守備:至近距離では無理に当てず、半歩下がって面を作る準備を優先。
- 攻撃:セーブ/ディフレクション前提で二次球の役割を固定(オンサイドの後方スタート担当を決める)。
- 全員:合言葉「余裕・面・方向」で判定観点を共有。
試合後レビューの型化と継続のコツ
該当シーンを「距離/時間/視野/接触部位/方向付け」の5項目でメモ→翌練習の冒頭10分でフィードバック→次のトリガーワードを更新。これだけで判断の再現性が上がります。
公式資料でアップデートを続ける習慣
競技規則の年次更新や追加説明は継続的に確認。言葉の意味が整理されるほど、現場の迷いは減り、微差を勝負強さに変えられます。