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サッカー プレス かけ方 基本から学ぶ、省エネ守備

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90分を走り切るために、守備は「根性」よりも「設計」です。プレスはがむしゃらに走れば効くわけではありません。角度・距離・合図の3つをそろえた時に、最短距離で相手の選択肢を減らせます。本記事では、サッカーのプレスのかけ方を基本から学び、省エネで効かせる考え方と実行方法をまとめます。今日から実践できるチェックリストや練習メニューまで、試合現場で使える形で解説します。

はじめに:省エネで効く「プレス」の考え方

なぜ省エネ守備が必要か(試合終盤の差を生む)

試合の終盤は、スプリントや寄せの遅れが失点に直結します。前半に走り過ぎてガス欠になるより、賢く体力を温存しながら相手に窮屈さを与える方が、90分を通しての失点期待値を下げられます。省エネ守備は「走らない」ではなく「走る回数と距離を減らし、効く場面で一気に上げる」ための手段です。

本記事の狙いと到達点:無理なくできるプレスのかけ方

到達点は3つです。①角度で限定して奪う、②2〜3人で連続性を出す、③チームで休む時間をつくる。この3点が整うと、同じ運動量でもボール回収位置が高くなり、カウンターの出力も上がります。

プレスの基本定義と用語整理

プレスとプレッシングの違い

一般に「プレス」はボール保持者へ圧力をかける行為、「プレッシング」はチーム全体でボール奪取を狙う一連の守備アクションを指すことが多いです。個の寄せと、ラインやブロックを含む組織的な働きかけを分けて考えると整理しやすくなります。

アプローチ・カバー・バランス・スライドの関係

  • アプローチ:最初に寄せる人。距離と角度が命。
  • カバー:抜かれた時の保険。背後と内側を守る。
  • バランス:逆サイドや中央の危険に備える配置。
  • スライド:ボール移動に合わせた横の連動。

この4つが噛み合うと、省エネでも「前から行ける」状況が増えます。

カバーシャドウとは何か(影で切る守備)

自分の背後にできる「影」で、相手のパスコースをふさぐ技術です。正面から寄せつつ、体の向きと位置で背中側の受け手を同時に消します。影を重ねるほど、相手の選択肢は減ります。

遅らせる・限定する・奪い切るの優先順位

基本の優先順位は「遅らせる→限定する→奪い切る」。無理な奪取は抜かれるリスクが高く、省エネとは逆効果です。まず相手の前進を遅らせ、方向を限定し、チャンスが来たら刈り取る。これが安定します。

省エネプレスの原則5つ

走るより「角度」で奪う(体の向きと寄せ方)

真っ直ぐ突っ込むと、一歩でかわされます。相手の利き足側を消し、外か内どちらかへ「曲げる」角度で寄せると、短い距離で主導権を握れます。角度が決まればスピードは6〜7割で十分。

背後を消して前を向かせない(半身の構え)

半身で構え、膝を柔らかく。上体を少し内側に向け、縦パスのレーンを腕と体で「見せない」ようにします。相手が前を向くまでの時間を削ると、周囲も追いつけます。

同数でも勝てる距離感と間合い管理

省エネの鍵は最初の「停止距離」。相手がボールを触る瞬間に、1.5〜2mで止まれる位置取りをキープ。近すぎると一発で外され、遠いと限定できません。

ボールとゴールの直線を守る優先順位

常に「ボール-自ゴール」の直線上に1人置く意識。これだけで中央突破のリスクを下げられ、他の選手は左右の限定に専念できます。

狙うが飛び込まない:減速とストップ技術

最後の1mで減速できるかが勝負。減速のための小刻みステップ(チョップステップ)を2〜3回入れ、左右の反応を残すとファウルも減ります。

プレス開始のトリガー(スイッチ)

不安定なファーストタッチ・逆足・背中向き

相手のタッチが大きい、逆足処理、背中を向いている瞬間はチームで「行く」合図。音声の合言葉で共有すると反応が早まります。

浮き球・高いバウンド・背走の瞬間

地面から離れたボールはコントロールが難しい。浮き球や高バウンド、受け手が背走し始めた瞬間は一斉に距離を詰めます。

タッチラインとサイドを味方にする限定

サイドへ誘導できたら、ラインが「もう一人の守備者」。外切りでタッチライン側に押し込み、縦を切って内へ奪い返す、または外で詰ませる選択を合わせます。

GKへのバックパス・後方受けの合図

GKの足元は多くのチームでプレッシャーポイント。パススピードが緩いバックパスはスイッチ。角度で片側を切って、ロングを蹴らせてもOK(回収位置を上げられる)。

個人のプレス技術(1人で省エネ)

初速より初動の角度:内切りと外切りの選択

相手の利き足とサポート位置で決めます。利き足内側にサポートがいるなら外切り、逆なら内切り。初動の半歩で勝負がつきます。

受け手の視野を切るアプローチ(視野奪取)

受け手の視線とボールの間に体を差し込むと、視野が狭くなりミスが出やすい。腕は広げず、肩と胸でレーンを塞ぐイメージです。

ステップワークと減速(ストップ&ゴー)

3歩ダッシュ→2歩減速→1歩ストップのリズム練習がおすすめ。最後のストップで腰を落とし、どちらにも出せる姿勢を作ります。

フェイントプレスでパスコースを誘導する

片足を軽く出して「そっちを切ってる」演出をすると、相手は逆へ出したくなります。誘導したい先に味方がいれば奪いやすい。これが省エネの誘いです。

反則をしない上半身・腕の使い方

肩で接触方向を示し、前腕は体に近づける。掴むのはファウルリスク。胸で押し戻すよりも、進行方向に体を入れて「前へ進ませない」ことを優先します。

2〜3人の連動(ミニユニットで効かせる)

奪う人・奪わせる人・回収する人の役割分担

  • 奪う人:アプローチと限定。
  • 奪わせる人:第二波でボールに触れる位置取り。
  • 回収する人:こぼれ球と背後ケア。

この分担で、同数でも連続してボール回収が狙えます。

影を重ねるカバーシャドウ連携

1人目が切った影に、2人目が自分の影を重ねて「二重の壁」を作ります。中央の縦パスが消えたら、外へ限定→サイドで奪取の流れが省エネです。

外切り/内切りの合意と合図(声とジェスチャー)

「外!」「内!」「背中!」の3語で統一。手の指差しで方向を確定させ、迷いを排除します。判断の迷いは無駄走りの最大要因です。

8の字スライドで省エネに圧力を継続

2人が8の字を描くように交互に寄せると、省エネで継続的に圧力をかけられます。1人が止まる時に、もう1人が出る。交互の呼吸を合わせましょう。

チーム全体のプレス設計

ハイプレス・ミドルブロック・ローブロックの使い分け

ハイプレスはリスクも高いが回収位置が上がる。ミドルは最も汎用的。ローブロックは陣形を保ってカウンター狙い。相手のビルドアップ能力や自チームの運動量に応じて使い分けます。

4-4-2/4-3-3/3-4-2-1の基本配置と狙いどころ

  • 4-4-2:2トップでCBを制御。片方がアンカーを見る可変が省エネ。
  • 4-3-3:ウイングでSBに矢印。CFがアンカーを影で消す。
  • 3-4-2-1:シャドーでIHを消し、WBがSBに出ていきやすい。

誰がアンカーとSBに矢印を出すかを先に決めると、迷いが減ります。

プレス耐性が高い相手への対処(回避策の封鎖)

ワンタッチで外される相手には、縦のライン間を最初から埋めること。内側のレーンを影で消し、サイドへ誘導しながら数的同数で止めます。

休む時間をつくるブロックの圧縮とライン統一

自陣で休みたい時間帯は、ライン間8〜12mを目安に圧縮。最終ラインと中盤が同じタイミングで下がる・上がるを徹底すると、省エネで防げます。

トランジション守備とリトリート

失った瞬間のプレッシング(カウンタープレス)の考え方

失った瞬間が最も奪い返しやすい。半径10mの「即時圧力ゾーン」をチームで共有し、ボール周辺3人が2秒だけ全力で寄せ切る。その後は即リトリートの二段構えが安定します。

ファウル戦術の境界線とリスク管理

止めるための反則にはカード・FKのリスクがあります。ゴール前での抱え込みや後方からのチャージは避ける。外側でスピードを落とす、遅らせることを優先しましょう。

リトリートの判断基準:時間・人数・位置

「時間(戻り時間が足りない)・人数(数的不利)・位置(中央を破られた)」の3つのうち2つ以上が揃えば、迷わずリトリートが省エネです。

攻撃時の守備準備(レストディフェンス)

逆サイドの絞りと中間ポジション

ボールと逆サイドの選手は、幅を取りすぎず「中間ポジション」。中央のカウンタールートを先に塞いでおくと、ロスト後の走りが短くなります。

ボールロストに備える三角形と背後管理

ボール周辺の三角形(支点・幅・奥行き)を作りつつ、最後列は背後の直線を管理。後方の1人は常に「ロスト後1歩目」を意識します。

サイドバック/ボランチの立ち位置で予防する

SBが同時に高すぎると背後が空きます。片側ずつ高く、逆は抑える。ボランチはアンカー位置でカウンターの起点を消す構えが省エネです。

セットプレー発進の省エネプレス

相手ゴールキックを限定する配置と誘導

前線はCBへ矢印、ウイングはSBの外側で内切り。アンカーは影で消す。蹴らせる先を決めておくと、回収が速くなります。

相手スローインへの即時圧力とトラップ

スローインは受け手が視野を限定されやすい。投げる方向を読んで2人で挟み、背中向きにさせて奪取。タッチラインをもう一人の味方にします。

相手分析で省エネ(スカウティングの要点)

相手CBの利き足と運ぶ癖を読む

利き足側に運びたがるCBには、同側を影で消して逆足へ誘導。運びが長い選手には、タッチが増える瞬間を狙います。

GKの配球傾向と距離感の設定

短い配球が多いGKならハイプレス、ロングが多いならセカンド回収重視に。GKの助走や体の開きで方向を予測できます。

ボランチの体の向きで方向を制御する

ボランチが半身で受けたときの開き方を観察。開く方向に限定し、逆へ出すときはリスクを感じさせる位置取りでミスを促します。

よくある失敗と修正法

飛び込み癖:減速と待つ勇気

最後の1mで減速する癖をつける。1対1練習でも「止まる」を合図化して、抜かれない守備を基準にします。

1列目だけ走る問題:背後の連動を引き出す

前線が追っても中盤・最終ラインが付いてこなければ穴が空きます。ライン全体で5mずつ出る合図を決め、距離感を一定にします。

声が遅い/伝わらない:短い合言葉で統一

「内・外・背中・ストップ」の4語に限定。言葉が少ないほど、情報伝達が速く省エネです。

ライン間が空く:縦ズレと横スライドの再設計

縦は8〜12m、横は選手間10〜15mを目安に。映像でライン間の広がりをチェックし、ズレが大きいポジションから修正します。

練習メニュー(省エネで上達するドリル集)

10分トリガーチェックドリル(個人)

コーチが「逆足」「背中」「浮き球」をコール。選手は2秒でアプローチの角度を選び、1m手前でストップ。角度と減速の反復です。

3対3+2の限定ゲーム(フリーズコーチング)

サーバー2人を外に置き、中央3対3。守備側は「外限定」や「内限定」を宣言してから開始。プレーを止めて角度と影を確認します。

4対4+4のトランジション連続ゲーム

外側4人が攻撃のサポートで、奪われたらすぐ守備へ転換。6秒ルール(6秒で奪回を目指す)を導入し、即時奪回とリトリートの判断を磨きます。

6秒カウンタープレスゲーム(奪回→即攻)

ロスト後6秒は全員で圧力、奪えたら3秒でシュート。時間制限が集中力を高め、省エネでも強度を出せます。

家でもできるシャドーステップ&角度練習

  • 壁に向かって半身で構え、3歩ダッシュ→2歩減速→1歩ストップ。
  • 鏡で肩の角度をチェック。腕を広げず影でレーンを消す感覚を身につける。

コンディショニングと疲労管理

心拍数で分ける守備ブロックの運用

試合中、強度を3段階で運用。「高(ハイプレス)-中(ミドル)-低(ローブロック)」を時間やスコアで配分。全時間帯で高強度は続きません。

インターバル走の代替になる反復ドリル

15秒寄せ→15秒回復を10本×3セット。ゲーム性を入れると継続しやすい。プレスに必要な「止まる力」も同時に鍛えられます。

試合中の呼吸コントロールと回復のコツ

プレーが切れたら、鼻から2拍吸って口から4拍吐く。長く吐くほど副交感神経が働き、回復が早くなります。

メンタルとコミュニケーション

目線・指差し・合図で疲れを減らす

声だけでなく、目線と指差しで方向を共有。視覚情報は瞬時に伝わるため、走る前に理解が進みます。

プレスの合言葉を3語で統一する設計

おすすめは「外・内・背中」。追加で「ストップ」を入れて4語運用でもOK。誰が言っても同じ意味になるよう、定義を決めておきます。

失敗後5秒のリセットルーティン

抜かれた直後は5秒で切り替え。「1歩戻る→味方の位置確認→合図を出す」をセットにし、感情の波で体力を浪費しないようにします。

年齢・レベル別アレンジ

中学生向け:距離感と間合いの基礎化

1.5〜2mで止まる・半身を作る・腕を広げない。この3点の反復が先。戦術よりも姿勢と距離で省エネを身につけます。

社会人/シニア向け:省エネ設計と休む時間の確保

ミドルブロック中心に、時間帯でハイプレスを限定。5分攻撃・5分休むなどの「波」をチームで共有すると無理がありません。

保護者と一緒にできる観戦チェックポイント

  • 守備時、半身で止まれているか。
  • 声や指差しが出ているか。
  • サイドへ誘導しているか(限定の意図)。

練習計画テンプレート(1週間の例)

目的→トリガー→メニュー→評価の流れ

月:個人角度/減速→火:2〜3人連動→水:休養/映像→木:全体設計→金:リハーサル→土:試合→日:回復。毎回「何を切るか」を先に決めてから練習します。

映像チェックリスト(個人/ユニット/全体)

  • 個人:最後の1mで止まれているか、体の向きは適切か。
  • ユニット:影を重ねられているか、8の字で継続できたか。
  • 全体:ライン間距離、限定方向の統一、強度の波。

指標例:PPDA・回収位置・スプリント数

PPDA(相手がパス何本つなぐまでに守備アクションを起こせたか)、自チームのボール回収の平均位置、スプリント数の推移を簡易指標に。省エネを目指すなら、スプリント数が同等でも回収位置が高くなっていれば成功です。

まとめ:省エネでも効くプレスは作れる

今日から実行できる3ステップ

  1. 角度を決める:内か外、どちらに限定するかを先に宣言。
  2. 最後の1mで止まる:減速→ストップの癖づけ。
  3. 影を重ねる:2人目が縦レーンを消し、外で奪う。

次の試合で試すチェックリスト

  • 浮き球と逆足は全員のスイッチになっているか。
  • サイドへ出たらラインが5m上がれているか。
  • ロスト後6秒は全員で圧力、その後は素早くリトリートできているか。

走り勝つより「設計で勝つ」。省エネ守備は、角度・距離・合図の3点を揃えるだけで、今日から確実に良くなります。次の一歩は、練習前に「内?外?」の一言をそろえること。それが、90分の余裕を生みます。

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