目次
はじめに
サッカーの交代ルールは「知っているつもり」で試合に入ると、思わぬところでハマります。人数は何人まで?タイミングはいつ?再出場はできる?大会ごとに微妙に違う点もあるので、ベースとなる競技規則(Law 3:The Players)を土台に、実務的な運用の違いまで一気に整理します。この記事では、交代の基本を「人数・タイミング・再出場」の3本柱でスッキリ把握し、試合で迷わないためのチェックリストまで用意しました。今日から交代を“ただの選手入れ替え”ではなく、勝点を動かす戦術ツールにしていきましょう。
交代ルールの全体像
競技規則(Law 3)と大会規定の関係
サッカーの交代は、IFABが定める競技規則(Law 3:The Players)をベースに、各大会が「大会規定」で具体的な運用を上書き(または詳細化)する仕組みです。つまり「土台は同じ、細部は大会次第」。最大交代人数、延長での追加枠、ベンチ入り人数、脳振盪対応などは、大会規定を必ず確認するのが正解です。
用語整理:交代・交代機会(ウインドウ)・再出場・ローリングサブ
- 交代(Substitution):登録メンバー内で、退く選手と入る選手を入れ替えること。
- 交代機会(ウインドウ):プレーが止まっている間に交代を実施できる「回数」の概念。複数人を同時に出し入れしても「1機会」にカウント。
- 再出場:一度交代で退いた選手が、再び試合に戻ること。原則不可。
- ローリングサブ:再出場可(交代自由)を採用する特別ルール。主に育成年代やアマチュアで見られ、大会規定に明記されます。
プロとアマで“原則は同じ・運用が違う”という前提
交代の根本は同じでも、プロは第四の審判員が介在し、タイムマネジメントや表示機器が整備されています。アマや学校大会では第四の審判員がいない、ローリングサブを採用する、といった違いが出ます。準備段階で「この大会は何が違うのか」を押さえることが実務上の最優先です。
交代できる人数の基本
五交代制の定着:最大何人まで交代可能かは大会規定次第
近年は「最大5人までの交代」を採用する大会が一般的になりました。ただし、最大交代人数はあくまで大会規定で決まります。3人のまま、または5人まで、という幅があるため、必ず事前確認が必要です。ひとつの試合で使える交代枠は「同時に二人・三人を入れ替えても“人数としては二人・三人消費”」というのが基本です。
延長戦での追加交代が認められるケース
延長戦に入ると「追加で交代を1人認める」大会が多く見られます。これにより、90分での最大交代人数に加えて、延長専用の1枠(=合計6人まで)を使えるケースがあります。ただし採用の有無は大会規定によるため、数字は必ず確認しましょう。
ベンチ入り可能人数(メンバー表)と選手登録の扱い
- 選手登録:シーズンや大会を通じて出場資格がある選手の母集団。
- メンバー表:当日の出場可能メンバー(先発と控え)。
- ベンチ入り人数:当日ベンチに座れる人数で、これも大会規定で決まります(例として7〜12人程度の範囲がよく見られます)。
「登録されている=当日出られる」ではありません。当日のメンバー表に載っていて、かつベンチ入りが認められていることが必要です。
交代できる回数(交代機会/ウインドウ)
90分での交代機会は原則3回(ハーフタイムはカウント外)
五交代制の大会でも、試合中(90分)の交代機会は原則「3回」まで。ハーフタイムの交代は機会にカウントされません。つまり「バラで5回」ではなく「3つの止まったタイミングで最大5人をやり繰りする」という考え方です。同一の止まりで2〜3人を同時に入れ替えると、機会の節約になります。
延長戦での追加交代機会と休憩時間の扱い
- 延長突入時の休憩(ハーフタイムと同様の扱い):交代機会にカウントされません。
- 延長中は「交代機会を1回追加」できるのが一般的です(採用の有無は大会規定次第)。
- 延長前後半のハーフタイムも、交代機会にはカウントされません。
90分で交代機会を使い切っていても、延長で追加の機会が与えられるケースがあります。逆に、延長を見据えて90分で機会を温存する判断も戦術になります。
飲水タイム・VAR介入・負傷対応時に同時実施する際の考え方
飲水タイムやVAR介入、負傷対応でプレーが止まった場面は、交代の好機です。ただし「その止まりで交代を行えば、それは1機会としてカウント」されます(ハーフタイム等の休憩を除く)。相手が交代に動いた止まりに便乗するのは機会節約の定石。逆に、むやみにバラで出し入れすると交代機会を早く使い切ってしまうので注意しましょう。
交代のタイミングと手順
交代はプレーが止まってから、主審の承認が必要
交代の実施には「プレーの停止」と「主審の承認」が必要です。ボールがアウトオブプレーになった瞬間に勝手に入るのではなく、主審が合図するまで待機します。
第四の審判員への通告と交代ボード表示の流れ
- ベンチ側で交代用紙を用意し、第四の審判員に提示(第四の審判員がいない場合は主審または副審へ)。
- 番号ボードで「入る選手・退く選手」を表示。
- 主審が準備完了を確認し、合図して交代成立。
混乱を避けるため、交代候補は事前にビブスやすね当て、テーピングなど用具を整えておきましょう。準備不足で主審の合図が遅れると、交代機会を逃すこともあります。
退く選手は最寄りの境界線から離脱が原則
時間遅延を防ぐ目的で、交代で退く選手は「最寄りのタッチラインまたはゴールライン」から出るのが原則です。安全上の懸念(相手サポーター席の近くなど)や負傷の程度次第では、主審の判断でハーフウェーライン付近から出ることが認められる場合もあります。
入る選手は主審の合図後にハーフウェーラインから入場
入る選手はハーフウェーライン付近で待機し、主審の合図で入場します。合図前にピッチに足を踏み入れると反則(無許可の入場)となり、警告の対象になります。
再出場の可否と例外
原則:交代で退いた選手の再出場は不可
通常の交代制では、一度交代で退いた選手が再び出場することはできません。戦術上の判断ミスを巻き戻せない緊張感がある一方、交代の重みを高める仕組みでもあります。
例外:ローリングサブ(再入場可)を採用する大会
主に育成年代やアマチュアの一部では、ローリングサブ(再入場可・交代自由)を採用します。これにより複数回の出入りが可能になりますが、「タイムキーパー運用」「入退場位置の指定」「同時人数制限」など大会独自の細則が付くことが多いです。必ず大会規定を確認してください。
GKのポジション変更(フィールドプレーヤーとの交代)との違い
ゴールキーパー(GK)とフィールドプレーヤーの「ポジション変更」は、交代とは別扱いです。プレーが止まっている間に主審へ申告すれば、GKとフィールドの入れ替わりが認められます(この場合、交代枠は消費しません)。ただし装備(GK用ユニフォーム等)が適正であることが条件です。
出血・装備不備で一時退場した選手の復帰手順
出血や装備不備(すね当て欠落、アクセサリー類など)がある選手は、一時退場して処置が必要です。処置完了後、主審(または第四の審判員)のチェックと合図で再入場できます。これは「交代」ではないため、交代枠は消費しません。
特別な交代ルール
脳振盪(コンカッション)交代の仕組みと大会ごとの差
脳振盪が疑われる場合、選手の安全を最優先するために「追加の永久交代(APC:Additional Permanent Concussion Substitutions)」を採用する大会があります。これは通常の交代枠とは別に、脳振盪疑いの選手を交代できる制度で、採用方式や詳細(例:相手にも追加枠が与えられるか等)は大会によって異なります。導入の有無と具体策は必ず大会規定を参照してください。
PK方式(KFTPM)開始後の交代制限とGKの取り扱い
- PK方式(Kicks from the Penalty Mark)開始後は、原則として交代はできません。
- 例外として、GKが負傷などで続行不能になった場合、規定の範囲で交代が認められる方式があります(大会規定による)。
- PKに参加できるのは、延長終了時(延長がない場合は90分終了時)にフィールド上にいた選手です。退場処分の選手は参加不可。
試合開始前・ハーフタイム・延長前後の交代の可否
- キックオフ前:メンバー表提出後の変更は制限があります。負傷などやむを得ない場合に限り、審判・大会規定の範囲で交代可とする運用が一般的です(変更された選手は試合に出場できないなどの扱いが付きます)。
- ハーフタイム:交代可能で、交代機会にはカウントされません。
- 延長戦の開始前・延長ハーフタイム:交代可能で、交代機会にはカウントされません。
反則・トラブル時の扱い
主審の許可なく入退場した場合の罰則と再開方法
主審の許可なく入退場すると、原則としてその選手は警告(イエローカード)の対象です。プレーを止めて処置する場合、通常は間接フリーキックで再開します。無許可の入場者がプレーに干渉した場合は、状況に応じて直接フリーキック(またはPK)で再開となるケースがあります。
交代に伴う遅延行為への警告基準
交代を利用した時間稼ぎ(極端にゆっくり歩いて退場する、入場準備を引き延ばす等)は、警告の対象になります。退く選手の「最寄りのラインからの離脱」原則も、遅延抑止の一環です。
人数超過(12人目のプレー)発覚時の処置
ピッチ上に規定以上の人数がいる状態(いわゆる12人目)が発覚した場合、主審は試合を停止し、余剰の者を退出させ、関係者を警告します。再開は、干渉があった場所から相手のフリーキック(状況により直接または間接)またはPK。得点が絡む場合は「再開前なら得点取り消し」「再開後に判明した場合は得点は有効」の取り扱いが基本です。
大会ごとの主な違い
国内リーグ・国際大会での一般的な運用例
- 最大交代人数:3または5。
- 延長戦での追加枠:採用する大会が多いが、数や有無は大会規定次第。
- ベンチ入り人数:大会により幅がある(例:7〜12人程度)。
- 脳振盪の追加交代:採用有無と方式が異なる。
同じ“プロの大会”でも、国内と国際で細部が違うことがあります。大会資料の最新版を必ずチェックしましょう。
学校・アマチュア・ジュニア年代でのよくあるローカルルール
- ローリングサブ(再入場可)を採用。
- 交代エリアや合図の方法が簡略化。
- ベンチ入り人数やメンバー表の取り扱いがシンプル。
試合ごとに「今日はローリングサブか?」「交代は誰に申告?」など、主審と事前にすり合わせるとトラブルを防げます。
地域リーグ・社会人で見られる再入場可(交代自由)のパターン
地域・社会人カテゴリーでは、体力差や参加者の事情を考慮して交代自由を採用することがあります。守るべきは「主審の承認」「入退場位置」「人数管理」。自由に見えても、無秩序な入退場は反則なので注意しましょう。
現場で迷わないためのチェックリスト
試合前:メンバー表・用具確認・交代役割の分担
- 大会規定の確認(最大交代人数、交代機会、延長の追加枠、ベンチ入り人数、脳振盪対応、ローリングサブ有無)。
- メンバー表の提出と背番号の最終確認。
- 控え選手の用具チェック(すね当て、テーピング、スパイク、ユニフォームの色)。
- 交代の役割分担(誰が第四の審判員に行くか、番号ボード、合図役)。
試合中:交代候補のウォームアップと合図の定義
- ウォームアップの場所・範囲・人数の制限を確認(大会規定・主審の指示に従う)。
- 「交代の合図」のチーム内ルール(目印の言葉、ベンチのジェスチャー)。
- 同一の止まりで複数人を同時投入し、交代機会を節約。
- 相手の交代に便乗する判断(ゲームの流れを切らない工夫)。
終盤:時間帯・カード状況・セットプレー要員の整理
- 残り交代機会と交代人数の残りを明確に(ホワイトボードやメモで可視化)。
- 警告者の管理(リスクが高ければ早めの交代)。
- セットプレー用の高さ・キッカー・マーカー役を意識して交代。
- 延長やPKを見据えたGK・キッカー適性の再点検。
よくある質問(FAQ)
交代直後の選手が反則になりやすい場面は?
代表例は「主審の合図前にピッチに入る」「入った直後にプレーへ急接近して接触」「最寄りのラインから出ない(遅延)」です。交代の瞬間は周囲もスピードが上がりやすいので、入場直後は体の向きと相手の位置関係に注意しましょう。
背番号や用具は交代で引き継げる?
背番号はメンバー表に紐づきます。交代で背番号を受け渡すことはできません(別の選手として扱われるため)。用具は競技規則に適合したものを各自が用意し、装備不備があれば再入場前に主審のチェックが必要です。
交代枠と“負傷による一時離脱の復帰”の違いは?
負傷や装備不備で一時的に外へ出た選手は、主審の承認で戻れます。これは交代ではないので交代枠は消費しません。交代は「別の選手と入れ替える」行為で、枠と機会を消費します。混同しないようにしましょう。
まとめ:人数・タイミング・再出場を押さえて交代を武器にする
要点ハイライト
- 人数:最大交代人数は大会規定次第。近年は5人が一般的、延長で追加枠を認める大会も。
- 機会:90分での交代機会は原則3回。ハーフタイム等の休憩はカウント外、延長で機会追加がある場合あり。
- 手順:プレー停止中に主審の承認が必要。退場は最寄りライン、入場はハーフウェーラインが原則。
- 再出場:原則不可。ローリングサブ採用時のみ再入場可(大会規定を確認)。
- 特別ルール:脳振盪追加交代、PK方式中の交代制限、GK扱いなどは大会で差が出る。
- トラブル対応:無許可入場は警告。人数超過は相手FK/PK再開や得点取り消しの可能性。
競技規則の参照先と最新動向の追い方
基準はIFABの「Laws of the Game(Law 3)」です。毎年更新されるため、シーズン前に最新版を確認する習慣を。実際の運用は大会規定が上書きするため、主催団体が配布する大会要項・通達・マッチコミッショナー説明を必ずチェックしましょう。現場では「主審の説明が最終インターフェース」。疑問点はキックオフ前にすり合わせておくと、安全かつフェアにプレーできます。
おわりに
交代のルールは「知っていれば得、曖昧だと損」。人数・タイミング・再出場の基本線を押さえ、さらに大会ごとの差を踏まえれば、交代は確実にチームの武器になります。次の試合では、ベンチワークの準備と現場の合図を整理し、交代を“勝ち筋”に変えていきましょう。