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サッカーの水分補給タイミングは?脱水を先回りする前後15分戦略

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走る、止まる、切り返す、そしてまた走る。サッカーの90分は、体内の水と電解質をじわじわ奪っていきます。喉が渇いたと感じた時には、もう一歩遅い。そこで提案したいのが「前後15分」で先回りする水分補給です。試合や練習の“前・中・後”それぞれの15分をどう使うかで、判断スピード、スプリント、技術精度、そして怪我の予防まで変わります。今日の記事は、科学的な根拠と現場での運用をブリッジさせた、実践重視のガイドです。

導入|なぜ「前後15分」なのか—サッカーに最適化した水分補給の考え方

サッカーの運動特性と脱水リスク(高強度反復・試合中断の少なさ)

サッカーは、ジョグとスプリントが交互に来る「高強度反復運動」です。さらにプレーは流れ続け、バスケットボールのような頻繁なタイムアウトはありません。つまり「少しずつ脱水されるのに、飲むチャンスが限られる」競技。だからこそ、飲めるタイミングを設計しておくことがパフォーマンスの土台になります。

脱水がパフォーマンスに与える影響(判断・スプリント・技術精度・怪我リスク)

体重比で約2%の脱水から、集中力や判断スピード、スプリント反復能力、ボールタッチの精度は落ちやすくなります。さらに、筋けいれんや痙攣、肉離れなどのリスクも上がる可能性が示されています。微妙な遅れやミスが、勝負の行方を左右するサッカーでは、脱水のダメージは目に見えにくいのに結果には表れやすいのが厄介です。

“先回り”が鍵になる理由:喉の渇きは指標として遅れる可能性

喉の渇きは、身体の遅延アラートです。運動中は交感神経が優位になり、喉の渇き感が抑えられることもあります。つまり「渇いたから飲む」では遅い。前後15分で先回りすることで、脱水の坂道を下る前にブレーキをかけられます。

今日の結論|前後15分戦略の全体像

キックオフ・練習開始の15分前:トップアップ

  • ウォームアップ開始の15分前までに、200–300mlを目安に軽く“上乗せ”。
  • 朝イチや暑熱日は、少量の電解質(塩分)入りが有効。
  • 胃の重さが出ない量と温度(やや冷たい程度)を優先。

ハーフタイムの15分:再水和とエネルギーの再構築

  • 前半の汗で失った分をコンパクトに回収する時間。
  • 300–500mlを、数回に分けて飲む。
  • 炭水化物とナトリウムを含む飲料で、後半のエネルギーと体内の電解質バランスを整える。

終了後15分以内:回復を動かす初動

  • クールダウンと同時に、最初の再水和(1回目)。
  • 炭水化物とたんぱく質を少量合わせると回復の立ち上がりが早い。

量の目安は体重と汗量から逆算(“%体重変化”を基準に)

運動前後の体重差で脱水程度を推定します。理想は終了時の体重減少を2%以内に抑えること。終了後は「失った体重1kgにつき1.25–1.5L」を目安に数回に分けて補うと、尿で出る分も見越して回復が進みます。

科学的な土台|何を根拠にタイミングと量を決めるのか

2%体重減少の意味:守るべき上限と個人差

多くの研究で、体重比2%の脱水は認知機能や運動パフォーマンスの低下に関連します。ただし個人差はあります。早めに影響が出る人もいれば、多少強い人もいます。だからこそ、自分の汗のかき方を把握し、事前準備とハーフタイムでの調整をセットにします。

ナトリウム(電解質)と炭水化物の役割

  • ナトリウム:汗で失われやすく、体内の水分保持と神経・筋の働きに必須。飲料のナトリウム含有はおおむね20–50mmol/L(約460–1150mg/L)が目安。
  • 炭水化物:運動中の主要な燃料。飲料の濃度は6–8%(100mlあたり6–8g)にすると吸収とエネルギー補給のバランスが取りやすい。

飲み過ぎのリスク(低ナトリウム血症)と安全域

水だけを大量に飲むと、血中のナトリウムが薄まり、頭痛やむくみ、重い場合は危険な状態(低ナトリウム血症)に繋がることがあります。長時間・大量発汗時は、塩分を含む飲料や少量の塩分補給を組み合わせるのが安全です。

“飲むタイミング”が胃腸トラブルを減らす理由

一気飲みは胃に負担がかかり、吸収も追いつきません。前後15分に分けて少しずつ入れると、胃から腸への移行がスムーズになり、脇腹痛や吐き気のリスクも下がります。飲料温は10–15℃前後が目安。冷たすぎると胃が驚き、ぬるすぎると飲み進みにくいことがあります。

あなた専用の目安を作る|発汗量を見える化する

発汗量の簡易計測:体重差とボトル記録で分かること

方法はシンプル。トイレを済ませたら、ウェア込みで運動前に体重測定。運動後にも同じ条件で測る。飲んだ量はボトルの目盛りで記録。これだけで、あなたの「汗の時給」が見えます。

計算式と読み解き方(L/時=(体重差+摂取−排尿)÷運動時間)

汗量(L/時)=(運動前後の体重差[kg]+運動中の摂取量[L]−運動中の排尿量[L])÷運動時間[時間]
例えば、前後で0.8kg減、飲んだのが0.5L、排尿なし、運動時間が1.5時間なら、(0.8+0.5−0)÷1.5=0.87L/時。これがあなたの基準値になります。

尿色チェックの活用(言語化で判断基準を持つ)

淡いレモン色が目安。濃い琥珀色に近いほど水分不足のサインです。朝イチは濃くなりがちなので、日中のトレーニング前の尿色で判断を。

週1回の“コンディション・テスト日”の作り方

  • 同じ時間帯・同じ強度の練習で測る。
  • 前夜の食事と朝食を大きく変えない。
  • 3週連続で取れば、季節差・体調差の傾向が見える。

前後15分戦術の詳細|状況別にやることリスト

ウォームアップ開始15分前:200–300mlのトップアップと電解質の整え

  • 飲料:水+少量の塩分、または低濃度のスポーツドリンク。
  • 暑熱時:氷入りで冷却も兼ねる。胃が重くなりやすい人は常温寄りで。
  • 補足:口ゆすぎだけでも主観的な疲労感が軽くなることがあるが、基本は飲む。

キックオフ直前〜前半:最初の給水チャンスまでをつなぐコツ

  • ピッチイン直前に小さめの一口(50–100ml)。
  • 給水タイムやスローイン前の隙に“口を湿らす”程度のミニ補給。
  • 高濃度の糖質は胃もたれの原因になるので6–8%を目安に。

ハーフタイムの15分:順番(冷却→飲む→食べる→再準備)

  1. 冷却:日陰、冷水スプレー、氷袋で首・腋・鼠径部などを冷やす。
  2. 飲む:300–500mlを分割で。ナトリウム入り+6–8%炭水化物。
  3. 食べる:バナナ半分やジェル、少量の塩せんべいなど。
  4. 再準備:スパイク調整、軽いドリルで感覚を戻す。

後半の運用:ベンチに戻るたびの“ミニトップアップ”

交代や治療、給水タイムごとに50–150ml。口渇に頼らず、時計でリマインドする発想が大事です。

終了後15分以内:1回目の再水和と軽食の合わせ方

  • 飲む:0.3–0.5Lから開始。喉にスッと入る温度で。
  • 食べる:おにぎり1つ+乳製品(またはプロテイン)など、糖質+たんぱく質。

終了後15〜60分:体重差に応じた補完と次セッションへの橋渡し

体重1kg減につき1.25–1.5Lを目安に、15–20分おきに分割。尿が淡い色に戻ってきたら順調です。夜間のトイレが心配な場合は、寝る2時間前までに大半を終えると◎。

量の目安とアジャスト法|体重・時間・強度で変わる

開始15分前:200–300ml(胃の快適さを優先)

朝練で脱水気味のときは300ml、涼しい夕方は200mlなど、体調と気温で微調整。

プレー中:おおよそ0.4–0.8L/時を基準に個別化

汗の多い選手や暑熱時は上限寄り、寒冷時は下限寄り。あなたの汗量テストを最優先します。

ハーフタイム:300–500mlを分割で

一気ではなく3–4回に分ける。糖質6–8%+ナトリウムで後半に備える。

終了後:失った体重1kgにつき1.25–1.5Lを数回に分けて

ガブ飲みではなく、15–20分ごとに。むくみや胃の負担を避けられます。

強度・ポジション・ベンチ時間による微調整

  • 反復スプリントが多いポジションは上限寄り。
  • ボールに関与し続ける選手は、判断維持のためにHTの糖質を意識。
  • ベンチ時間が長い日は、少量ずつ計画的に。冷え過ぎにも注意。

環境別の勝ち筋|暑熱・寒冷・遠征での差を埋める

真夏・高湿度:冷却ストラテジー(氷袋・冷飲料・日陰)と電解質強化

  • 飲料はやや塩分多め(ナトリウム濃度の高い製品や少量の塩追加)。
  • 直射日光を避ける動線作り。インターバルは日陰で。
  • 氷袋で首・腋・前腕を冷やすと体感が楽。冷却ベストがあれば活用。

寒冷:喉が渇かなくても飲む“リマインダー”設計

寒いと喉が渇きにくく、気づかぬ脱水が起きがち。常温の飲料を用意し、時計やプレーの節目で一口飲むルールを作ると安定します。

高地・長距離移動・時差:到着48時間の水分・塩分マネジメント

  • 到着直後は、少量多回の水分+塩分でむくみを避けつつ慣らす。
  • 寝不足時は尿色が濃くなりやすいので、朝食時に意識的に補給。

WBGTや気温・湿度の見方と練習強度の調整

暑さ指数(WBGT)が28以上は厳重警戒、31以上は危険域とされます。強度や練習時間、休憩回数を調整し、給水タイムを必ず設定しましょう。

ポジション・役割別の注意点

サイドバック/ウイング:反復スプリント型の汗対策

サイドの往復で発汗が多くなりやすい。HTは上限側(500ml近く)を想定し、ナトリウム濃度もやや高めを選ぶと後半の足つり対策に。

ボランチ/センターバック:意思決定への脱水影響を最小化

判断の質が落ちるとチーム全体に波及。HTの糖質+電解質を最優先。前後の15分に“脳の燃料”を切らさない意識を。

GK:プレー間隔と集中維持のための“間欠トップアップ”

プレーの合間に小まめに飲める利点を活かす。50–100mlのミニ補給を定期化し、冷却もセットで集中を持続。

交代出場・途中出場:ベンチ待機中の準備水分

出場10–15分前に200ml程度のトップアップ。直前に一口。出てすぐ動けるよう、糖質入りを選ぶと良いです。

飲料の選び方|水・スポドリ・経口補水液・自作ミックス

水で足りる場面/足りない場面(汗の塩分・運動時間で判断)

  • 水で足りる:涼しい日、60分未満、汗が少ない人。
  • 水だけだと不足:暑熱・長時間・汗の塩味が強い人(ウェアが白く塩を吹く)。

スポーツドリンク:炭水化物6–8%とナトリウム含有の意味

運動中の吸収とパフォーマンス維持に合致した濃度。後味が甘すぎる場合は、水で少し薄めてもOK。

経口補水液:使いどころと注意点(高強度時の糖質補給との整合)

発熱や下痢などの体調不良、重い暑熱で大量発汗時などに有効。糖質は低めの設計が多いので、高強度運動中は別途ジェルや固形物で糖質を足すとバランスが取れます。

自作ミックスの基礎(糖質・塩・水のバランス)

例:水1Lに砂糖60–80g、食塩1–2g、レモン果汁少々。お腹が緩くなる場合は砂糖を減らし、飲みやすさで調整。

カフェイン・炭酸・人工甘味料との付き合い方

  • カフェイン:タイミング次第で集中にプラス。ただし個人差と夜の睡眠に配慮。
  • 炭酸:運動直前は避けるのが無難(ゲップ・胃の張り)。
  • 人工甘味料:ゼロカロリーでも糖質は入らない。暑熱時の主飲料としては不向き。

よくある失敗と対策

“喉が渇いてから”しか飲まない

対策:前後15分を固定ルーティン化。時計や笛のタイミングで一口。

水だけ大量→脚つり・低ナトリウムのリスク

対策:長時間・大量発汗時は必ず電解質入りを。塩タブレットや塩せんべいを少量合わせる手も。

一気飲みで胃が重い→分割と温度管理

対策:10–15℃で小分けに。ハーフで3–4回に分けると吸収が楽。

ボトル共有・管理不備→衛生と補給量のブレ

対策:名入れボトル2本運用。1本は水、1本は電解質入り。キャップは替えを持参。

暑熱時に糖質ゼロ飲料だけを選ぶミスマッチ

対策:運動中は糖質6–8%を基本に。ゼロ飲料は休憩時の気分転換に回す。

未成年・保護者のための運用ポイント

部活スケジュールに“前後15分”を組み込む導線設計

集合時間の15分前に到着→トップアップ→ウォームアップ。終了後も15分は残る前提で、再水和と軽食を確保。

塩分と間食(おにぎり・バナナ等)の合わせ技

おにぎり+スポドリ、バナナ+経口補水液など、糖質と塩分をセットで。甘さが苦手なら、塩むすび+水+少量の塩タブで調整。

エナジードリンク・高カフェイン製品への注意

カフェイン量や糖濃度が高すぎる製品は、未成年では特に注意が必要。夜の睡眠を削ると回復が遅れ、翌日のパフォーマンスに響きます。

試合日の持ち物テンプレ(ボトル2本運用・替えキャップ・冷却具)

  • 名入れボトル×2(“水”と“電解質”)。
  • 替えキャップ、氷のう、タオル、簡易冷却スプレー。
  • 軽食(おにぎり、バナナ、ジェル)、ゴミ袋。

実践ツール|今日から使えるチェックリスト

7日間“水分・体重・尿色”ログの取り方

  • 毎回:運動前後の体重、飲んだ量、尿色(1〜8の色スケールで記録)。
  • 気温・湿度・主観(だるさ、脚つり感)も一言メモ。

マッチデー・リスト(開始前15分/HT/終了後15分の行動)

  • 開始前15分:200–300ml+電解質、装備チェック。
  • HT:冷却→300–500ml分割→軽食→再準備。
  • 終了後15分:0.3–0.5L+糖質・たんぱく質→体重測定。

チーム運用:ボトル名入れ・給水ルール・役割分担

ボトルは必ず名入れ。HTはスタッフが分割提供(小カップ数回)にすると飲み過ぎ・飲み足りなさを防げます。

セルフテスト:練習後の体重差と主観の突き合わせ

体重-1.5%で「ふらつく」「脚が攣りそう」などが出る人は、HTの摂取量を増やすなど事前に対策を。

FAQ|現場の悩みに即答

トイレが近くなるのが不安

少量多回で飲めば急激な尿意は出にくいです。試合2時間前からは“こまめに”を徹底し、直前の一気飲みを避けましょう。

胃もたれ・吐き気が出やすい

濃度を6%寄りに下げ、温度は10–15℃、炭酸は避ける。HTはカップ数回で分けて飲む。直前の固形物は量を抑える。

給水の時間が取りづらい試合形式では?

前後15分の質を上げるのが最優先。ピッチサイドに自分のボトルを置き、プレーが切れた瞬間に一口を習慣化。

汗で塩が白く残る人の対処

ナトリウム高めの飲料を選ぶ、HTに塩タブレットを少量、終了後の食事で味噌汁や梅干しなど塩分を補う。

夜のむくみと水分補給の両立

終了直後〜2時間の再水和を手厚くし、就寝2時間前からは量を控えめに。塩分は摂り過ぎに注意しつつ、電解質はバランス良く。

まとめ|明日からの3アクション

体重差とボトル記録で“自分の時給(汗)”を知る

1週間のログで、あなたの汗のクセが見えます。数値化が最短の上達ルートです。

開始前・HT・終了後の“前後15分”を固定ルーティン化

タイミングが9割。渇く前に先回りするだけで、試合の後半が変わります。

環境(暑さ・寒さ)で電解質と量を微調整する

同じ自分でも、季節と気候で必要量は変わります。WBGTや気温・湿度をチェックして、賢くアジャスト。

あとがき

水分補給は“センス”ではなく“設計”で上手くなります。前後15分の小さな積み重ねが、90分の最後の一歩に効いてきます。今日の練習から、まずは「開始15分前の200–300ml」と「HTの分割飲み」を試してみてください。身体はすぐに答えを返してくれます。

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