ゴールキーパーのスローイングは、ただ「投げる」だけではありません。味方を一気に前進させる、攻撃の第一歩です。小学生のうちから基本を親子でコツコツ身につければ、試合での判断や自信が大きく変わります。この記事では「サッカーGKスローイング小学生向け:親子でできる基本と反復ドリル」をテーマに、フォーム、種類、距離別のドリル、判断力を伸ばすゲーム、4週間の練習プランまで、すぐに使える内容を厳選して紹介します。道具はボール1つでもOK。10分から始められるメニューで、継続しやすさも大切にしました。
目次
この記事のねらいと学べること
ゴールキーパーの配球におけるスローイングの価値
スローイングは「安全・正確・素早い再開」ができる配球手段です。足元が不安定でも、ボールを手でコントロールできるため、小学生でも再現性を高く保ちやすい特徴があります。短い距離のつなぎ、タッチライン際のフリーの選手への展開、相手が戻り切っていない時のクイックリスタートに有効です。投げる技術が安定すると、守備で受けたプレッシャーを一気に解放でき、チームの攻撃テンポを作れます。
親子練習の強みと継続のコツ
親子練習は「距離感を合わせやすい」「フィードバックがすぐ届く」「安全に反復できる」のが強みです。毎回のテーマを1つに絞り、成功の基準を共有しておくと継続しやすくなります。たとえば「今日はリリースの高さだけに集中」など、評価を明確にしましょう。
今日から始めるための準備ポイント
- 10m程度のスペースと安全な足元(段差や濡れた路面は避ける)
- サイズに合ったボール(後述)と水分、動きやすい服装
- 練習は10〜20分を目安に、集中が切れる前に切り上げる
用具と安全ガイド
推奨ボールサイズと材質(3号・4号の選び方)
- 低学年〜中学年前半:3号球が扱いやすく、手のサイズに合います。
- 中学年後半〜高学年:4号球が試合に近い感覚。移行期は3号と4号を併用が現実的です。
- 材質:公式球に近い合皮は弾みや重量が安定。室内や近距離反復はソフトタイプも有効です。
濡れたボールは滑りやすく、握力を余計に使うため、タオルで拭く・グリップの再確認を習慣にしましょう。
スペース確保と周囲への配慮
- 向きは人や車の少ない方向へ。ネットや壁を背にすると安心です。
- 住宅地では早朝・夜間は避け、反響音を抑える工夫(後述の室内アレンジ)を。
- 投球ラインに第三者が入らないよう、開始前に合図のルールを決めます。
ウォームアップの基本(肩・肘・手首)
- 肩:アームサークル前後10回ずつ、肩甲骨寄せ・開き各10回
- 肘:肘の曲げ伸ばし10回、前腕回旋(内外)10回
- 手首:上下左右各10回、円運動10回、ボール握り潰し10回
全身としてはジョグ1分+サイドステップ30秒×2セットで体温を上げます。
セルフチェックと無理をしない基準
- 痛みを10段階で自己評価し、3以上は強度を下げる、5以上は中断。
- しびれ・鋭い痛み・腫れは中止して休養。必要に応じて専門家に相談。
- 疲労時は距離や回数を半分に。質の高い10本>雑な100本です。
小学生GKの発達段階と指導のコツ
低学年:遊び要素を活かす
ゲーム性を前面に。ボールを「運ぶ」「当てる」「狙う」を成功体験に変えましょう。合図の色・数字遊びを多用すると集中が続きます。
中学年:正確性を高める声かけ
狙いの「高さ」「強さ」を具体化します。例:「胸の高さにワンバウンドで」「足元にゆっくり」。成功のイメージを先に共有すると修正が早いです。
高学年:判断とスピードを連動
スキャン→ステップ→リリースを一連動作で。3秒以内のクイックリリースなど、時間制限を設けると試合に近づきます。
練習時間と休憩の目安
- 10〜15分×1〜2ブロック、休憩は1〜2分
- 投球本数は50〜120本/日が目安(フォームが崩れない範囲)
- 高強度日は翌日を軽負荷にするなど波を作る
スローイングの基本フォーム
スタンス(足幅・重心)
足幅は肩幅〜1.5倍。投げ手側の足を軽く後ろに引き、重心は母指球に。かかと体重はNGです。
グリップ(指と手のひらの使い分け)
指で“引っかける”意識。手のひらベタ掴みはスナップが死にやすいので、ボールに5本の指を広げ、親指と中指でC字フレームを作ります。
肩甲骨の引きと体幹のひねり
肩を後ろに引くのではなく、肩甲骨をスライドさせる意識。骨盤—胸郭—肩の順にひねりを溜めると、腕に頼らず飛距離が伸びます。
ステップ(リードフットと体重移動)
投げ手と逆足で前へ小さく踏み込み、かかと→母指球へスムーズに体重移動。踏み込みが止まるとボールが抜けます。
リリースポイント(高さとタイミング)
基本は目線〜頭の高さ。近距離は低め、遠距離はやや高め。ボールが体の前に来た瞬間に“スッと離す”のがコツです。
フォロースルー(指先と腕の向き)
指先はターゲットを指し、腕は投球ラインに沿って伸び切るまで。親指が下を向くように返るとスピンが安定します。
視線と狙い(ターゲットの置き方)
人を狙うより「胸」「足元」「スペース」の具体地点を狙います。早めの視線移動→短い静止→投げの順でぶれが減ります。
スローの種類と使い分け
ローリングスロー(ボウリング)
安全性が高く、足元への正確な配球に最適。低学年の基礎作りにも向きます。
アンダーアームスロー(ショート配球)
10m前後のショートレンジ。相手の足元を避けつつ味方の前に置くイメージで。
サイドアームスロー(中距離・速い展開)
体の横から鞭のように出す中距離用。弾道が低く速いので、カウンターの起点に。体幹のひねりが鍵です。
オーバーハンドスロー(遠投)
高さと距離を両立。体の前で高めにリリースし、味方の進行方向へ落とす弾道を選びます。
チェストパス(至近距離・速い再開)
2〜5mで瞬時につなぐ用。両手でボールを胸前から押し出し、バウンドを入れると安全性が増します。
ジャンプスローの注意点と可否
ジャンプ自体は反則ではありませんが、小学生は着地の衝撃や体幹の安定に不安が残る場合が多いです。無理に空中で捻らず、着地が安定してからのリリースを基本にしましょう。混雑時は危険回避のため控えめに。
受けてから投げるまでの一連動作
セーブ後の保持と安全なポジショニング
胸前で2点保持(両手+前腕)→相手から体で隠す→スペースへ2〜3歩移動。落ち着きを優先します。
スキャン(味方・相手・スペースの確認)
視線は「中央→サイド→背後」の順で素早く。味方の利き足側に置けると初動が速くなります。
方向づけステップと身体の向き
投げたい方向の逆足を前に置き、胸と骨盤をターゲットへ正対。足がクロスすると精度が落ちます。
ターゲットへの合図とコミュニケーション
「はい右!」「足元!」など短く具体的に。親は合図の練習相手として、わざとフェイントを入れるのも効果的です。
リリース後の次のプレー準備
投げたら即座に構え直し。次のボールに入れるよう、バックペダルで中央へ戻る癖をつけましょう。
よくあるミスと直し方
肘が下がる(修正ドリルとキュー)
ドリル:壁に向かって肘の高さを保ったままチェストパス20本。キュー:「肘で線を引くように」
手首が固い(スナップ強化)
ドリル:タオルスナップ(後述)と軽いボールでスナップだけの投げ20本。キュー:「指先で送る」
体が開く(踏み込みの矯正)
ドリル:マーカーを一直線に置き、ライン上で踏み込み→投げ。キュー:「鼻・胸・ボールが一直線」
リリースが早い・遅い(角度調整)
ドリル:目線・頭・肩の3段高にテープ目印を貼り、段ごとに狙い分け。キュー:「顔の前で離す」
ステップが止まる(連続動作の習得)
ドリル:2ステップ→投げ→2ステップのリズム練。キュー:「踏み込みと同時に腕を振る」
狙いがぶれる(ターゲットの取り方)
ドリル:的当て(低・中・高)で高さだけを先に固定。キュー:「点ではなく“線”を通す」
親子でできる基礎ドリル(1日10分)
タオルスナップで手首の感覚づくり
- 方法:フェイスタオルの端を握り、スナップだけで先端を“ピッ”と走らせる。20回×2セット。
- ポイント:肘・肩は力まない。指先で空気を切る感覚。
ニーリングターゲットスロー(片膝・両膝)
- 方法:片膝立ち→上半身のひねりを使って10m先へ投げる。左右各10本。両膝版は体幹意識。
- ポイント:下半身を固定し、体幹と腕の連動を感じる。
壁タッチ&スロー(素早い設定)
- 方法:壁をタッチ→反転→親の合図で狙いへスロー。10本×2セット。
- ポイント:スキャン→ステップ→リリースの順を崩さない。
的当て3点ゲーム(低・中・高)
- 方法:低(足元)・中(腰)・高(胸)の3点にターゲット設定。合図に合わせて投げ分ける。
- ルール:3点連続成功で1ポイント。5ポイント先取。
片膝アップステップからの投げ
- 方法:片膝立ち→素早く立ち上がり1ステップ→スロー。10本×2。
- ポイント:立ち上がりと同時に視線をターゲットへ。
近・中・遠の距離別反復ドリル
5m:正確性100本チャレンジ
足元→胸→足元…と交互に。命中80%以上で合格。短時間でフォームの再現性を磨きます。
10m:速さとコントロールの両立
3秒以内にキャッチ→スロー。20本×2。ぶれたらスピードを落としてフォームを再確認。
15m:アーク(弾道)管理
低・中・高の3種弾道を各10本。中弾道は最も使いやすい標準弾道です。
20m:サイドアームでの展開
体幹のひねりを主エンジンに。腕だけで投げない。10本×2で質重視。
連続10本成功のタイムトライアル
成功=狙いの高さ±30cm。失敗でタイムはリセット。集中と安定の同時強化に有効です。
判断力を鍛えるゲーム形式
色・番号コールでターゲット選択
3つのターゲットに色や番号を付け、直前コールで投げ分け。視線切り替えを鍛えます。
3秒ルールでクイックリリース
キャッチから3秒以内に投げる。迷いを減らし、体の準備を素早く整える癖を作ります。
2ゴール選択(守備圧の想定)
親が“プレッシャー役”で片方を塞ぐジェスチャー。空いている方へ即決で配球。
シルエットターゲット(動く的)
親が歩く・止まるをランダムに。止まった瞬間に足元へ。動作予測とタイミング感覚を養います。
ターン&スロー(背面スタート)
背中を向けてスタート→合図でターン→スキャン→スロー。実戦の方向転換に近づけます。
狭いスペース・室内アレンジ
軟らかいボールとクッション壁の活用
スポンジボールや布ボールなら反響音と破損リスクを軽減。壁面に毛布やマットを掛けて使うと安心です。
ソフトターゲットの自作アイデア
洗濯バサミ+布テープで軽い吊り的を作成。床には滑り止めマットを。
騒音対策と床保護
ラグマット+ヨガマットの二重使い。夜間はチェストパス中心に切り替えましょう。
安全ルール(距離・方向・スピード)
- 人や割れ物の方向には投げない
- スピードはコントロールできる範囲に限定
- 合図なしで投げない(掛け声ルール)
週4回・4週間の練習プラン
1週目:フォーム固めと基礎感覚
タオルスナップ、ニーリング、5m正確性。動画で肩・肘・手首の連動を確認。
2週目:正確性と反復数
的当て3点、10mクイック、壁タッチ&スロー。80%命中を目標に。
3週目:距離と弾道の安定
15m弾道管理、20mサイドアーム。本数は少なめでも、毎本の質に集中。
4週目:判断とスピードの統合
色・番号コール、2ゴール選択、3秒ルール。試合想定で連続タスクに。
休養日の使い方と軽負荷メニュー
肩甲骨モビリティ、握力ボール握り、体幹プランク20秒×3。痛みや張りがある日は完全休養も選択肢です。
進捗の見える化とチェックリスト
命中率シートの作り方
距離×高さ(低・中・高)でマス目を作り、日付ごとに◯△×を記録。1週間ごとの平均を出して目標設定。
リリース角度の目安(低・中・高)
- 低:胸の下〜腰
- 中:胸〜顔
- 高:頭より上(遠投時)
キャッチから投げまでの時間計測
親がストップウォッチで計測。3秒以内成功率を数値化すると、判断の成長が見えます。
ステップの一貫性と動画チェック
踏み込み足、骨盤の向き、リリース位置を毎週同角度で撮影。小さな改善を言語化します。
自己評価と親のフィードバックの分担
- 子:今日の良かった1点・直したい1点
- 親:具体的に1つだけ褒める・1つだけ提案
体づくりとケガ予防
肩甲骨モビリティ(可動域)
キャット&ドッグ10回、壁スライド10回。肩甲骨が動くと腕が軽くなります。
前腕と握力の簡単トレーニング
新聞紙ちぎり、テニスボール握り潰し各1分×2。過負荷は不要、日常強度で十分です。
体幹安定と姿勢づくり
プランク20秒×3、デッドバグ左右10回。腰が反らないように注意。
股関節のひねりと下半身連動
ランジツイスト左右8回×2。下半身からの力の伝達が投球を安定させます。
クールダウンとアイシングの目安
軽いジョグ→ストレッチで心拍を落とす。痛みや腫れがある場合のみ、患部を冷やし過ぎない範囲で短時間(10〜15分)を目安にします。
競技規則のミニ知識(スローイング関連)
6秒ルール(ボール保持時間)
ゴールキーパーは自陣ペナルティーエリア内でボールを手で保持できる時間に6秒の制限があるのが一般的です。審判の運用には幅がありますが、素早い再開を心がけましょう。
ペナルティーエリア外でのハンドに注意
エリア外で手や腕でボールに触れると反則になります。境界線の位置感覚を日頃から確認しましょう。
ボールは手から離れたらインプレー
キーパーがエリア内でボールを放した時点で基本的にインプレーです。相手選手への危険な投球は反則になり得ます。
相手競技者への不当な投球の禁止事項
相手に向けて意図的・過度に強い投球を行うなど、危険または不当な行為は反則・懲戒の対象になる場合があります。安全第一で。
よくある質問(Q&A)
手が小さい場合のグリップの工夫
指を広げ、手のひらで支えすぎない。3号球やソフトボールから始め、指の掛かりを優先しましょう。
左右どちらで投げるべき?
基本は利き手で安定化。余裕が出たら逆手でのチェストパスや短距離投げも取り入れると選択肢が増えます。
肩が痛むときの対処と中止基準
鋭い痛み・動作時痛が続く・腫れや熱感がある場合は中止。翌日まで残る痛みは負荷を下げ、専門家の意見を検討しましょう。
雨天・濡れたボールでの注意点
グリップ低下によりスリップしやすいです。リリースをやや遅らせ、低めの弾道で。タオルと替えグローブがあると安心です。
親の声かけとモチベーションづくり
具体・即時・少量のフィードバック
「さっきの胸への中弾道、最高!」のように、良い点を具体的に短く。修正は1点のみ伝えると集中が保てます。
成功の定義を共有する方法
「胸±30cmなら成功」「3秒以内に投げられたら成功」など数値化。評価のブレをなくします。
失敗の言語化と次の一手
「遅れた→ステップが止まった→次は踏み込みを先に」のように、原因→対策まで短く口に出す習慣を。
ご褒美より習慣化の設計
曜日・時間を固定し、10分だけでも実施。終わりの合図や片付けまでセットでルーティン化します。
練習を続ける仕掛け
スコアリングゲームで成長を可視化
命中でポイント、3秒以内でボーナスなど、週ごとにハイスコア更新を狙います。
スタンプカードと目標設定
1日1スタンプ。10個で「親子対決デー」を開催など、練習そのものをイベント化。
親子対決デーのルール例
的当て3点×10本勝負。親は非利き手のみ、子は2回までやり直し可。ハンデで競争性を調整します。
友だちと協力するチームドリル
2人が動く的、1人がキーパー。役割交代で運動量も確保。安全ルールは最初に共有を。
まとめと次の一歩
今日のチェックポイント再確認
- 指で“掛ける”グリップと肩甲骨からの連動
- 踏み込みと同時のリリース、フォロースルーはターゲットへ
- 3秒以内の再開で試合の時間を前に進める
次に覚える配球(キックとの連携)
スローで相手を引き寄せ、次はキックで裏へ、など配球の“使い分け”ができると、ゲーム全体をコントロールしやすくなります。次のテーマに「ゴールキック・パントキックとの組み合わせ」も検討してみてください。
試合で試すときのコツと注意
まずは安全第一。無理な速攻より、味方が準備できているかを優先します。成功体験を1つ積むことが、次のチャレンジへの一番の近道です。
あとがき
スローイングは、小学生でも毎日少しずつ伸ばせる技術です。親子の合図と笑顔が増えるほど、狙い通りのボールが増えていきます。無理なく楽しく、でも丁寧に。今日の10分が、未来の“ビッグセーブ後の一手”につながります。