PKはルールを正しく理解しているかどうかで、勝敗が変わるフェーズです。実は「なんとなく」知っているつもりで、細かい反則や再蹴の条件を取りこぼしがち。この記事では、競技規則(IFAB Laws of the Game)に沿って、試合中のペナルティキックと勝者を決めるためのキック(いわゆるPK方式)の違いまで、反則・再蹴の判断をズバッと整理します。プレーヤーはもちろん、指導者や保護者にも役立つよう、実戦の注意点やトレーニングのヒントも詰め込みました。
目次
PKの基本を押さえる
ペナルティキック(PK)の定義と適用場面
ペナルティキックは、守備側の競技者が自陣ペナルティエリア内で直接フリーキックの対象となる反則(例:不正なチャージ、ハンドなど)を犯したときに与えられます。キッカーはペナルティマークからキックし、守るのはゴールキーパー(以下GK)のみ。他の競技者は規定の位置で待機します。
重要なのは「どのファウルがPKになるか」。直接フリーキックの対象となる反則がエリア内で起きたかどうかが基準です。間接フリーキックの反則(危険なプレーなど)ではPKにはなりません。
試合中のペナルティキックとPK方式(勝者を決めるためのキック)の違い
試合中のPKは通常のプレーの一部で、ボールはインプレーになってからリバウンドの追撃も可能。一方、試合後に行うPK方式(Kicks from the Mark、以下KFTPM)は勝者決定の方法で、各チームが交互にキックし、リバウンドの追撃はありません。KFTPMでは、適格選手の範囲、順番、交代の扱いなど、運用上の規定が加わります(大会規定で細部が定まることが多い)。
フィールド上の位置関係:ペナルティマーク・エリア・アークの意味
位置関係を正しく理解すると、侵入(エリア/アーク)反則を避けられます。
- ペナルティマーク:ゴールラインから11mの地点。ボールはここに静止させます。
- ペナルティエリア:守備側の大きな四角。キッカーとGK以外はエリア外に出て待機。
- ペナルティアーク:マークから半径9.15mの半円。待機者はアーク外で、かつペナルティマークより後方に。
実施手順をステップで解説
主審の合図とボールの条件(静止・設置)
主審が準備完了を確認して笛で合図。ボールはペナルティマーク上に正しく置かれ、完全に静止していなければなりません。ライン上であっても可ですが、ズレは再蹴の原因になり得ます。
キッカーの明確化と変更不可のタイミング
主審はキッカーを特定します。原則として、笛の合図後にキッカーの変更は不可。合図前であれば変更可能です。KFTPMではチーム内の順番管理も重要で、同一選手が2度続けて蹴ることは(適格者が残っている限り)できません。
ゴールキーパーの位置と義務:片足ライン要件
GKはキックの瞬間、少なくとも片足の一部がゴールライン上、またはラインと同一平面上にある必要があります(いわゆる片足ライン要件)。左右の移動は自由ですが、前進はキックの瞬間まで不可。また、ポスト・バー・ネットに触れて揺らす、過度にキッカーを惑わせる行為は禁止です。
他の競技者の位置:エリア外・アーク外・ペナルティマークの後方
他の全ての競技者は「ペナルティエリア外」「アーク外」「ペナルティマークより後方」を同時に満たす位置で待機します。ラインを踏むのも侵入に含まれると考えて、余裕を持った立ち位置を徹底しましょう。
ボールがインプレーになる瞬間とその後のプレー可否
主審の笛の後、ボールが「蹴られて明確に動いた瞬間」にインプレー。試合中のPKでは、他の競技者はその瞬間からエリア内に侵入可能で、リバウンドも追えます。ただしキッカーは、ボールが他の選手に触れるまで二度目のプレーは不可(ダブルタッチ反則)。
反則と再蹴の判断を完全整理
侵入(エリア/アーク):攻撃側・守備側・双方が侵入した場合の結末
- 攻撃側のみが侵入
- ゴールが入った:守備側の間接フリーキック(得点無効)。
- 外れた/セーブされた:守備側の間接フリーキック。
- 守備側のみが侵入
- ゴールが入った:得点を認める。
- 外れた/セーブされた:原則再蹴(守備側の侵入が影響したと判断される場合)。
- 双方が侵入:原則再蹴。
侵入の影響判定は審判の裁量が入ります。明確な影響がなければ再蹴にならない場合もあります。
キッカーの反則:ダブルタッチ・違法なフェイント・後方キック
- ダブルタッチ:他の選手に触れる前にキッカーが再びボールに触れた場合、守備側の間接フリーキック(手で触れた場合は直接フリーキック)。
- 違法なフェイント:助走中のフェイントは許容。但し「蹴る動作を完了した後に蹴るフリだけをする」など、キック直前・直後の不正なフェイントは反則。守備側の間接フリーキック+キッカーに警告。
- 後方キック:ボールは前方に蹴られなければならない。後ろ向きに動かした場合、守備側の間接フリーキック。
ゴールキーパーの反則:前進・バー/ポスト/ネット接触・遅延行為
- キックの瞬間の前進(片足ライン不履行):セーブや明確な影響があれば再蹴対象。繰り返せば警告。
- ポスト・バー・ネットへ触れて揺らす/心理的挑発:不正な妨害として警告対象。状況により再蹴。
- 遅延行為(過剰な時間稼ぎ、ボールの位置直しを繰り返す、装備調整を口実に遅らせる等):警告の可能性。
同時反則や特殊ケースの扱い(両チームの違反など)
- 両チームが侵入:原則再蹴。
- GKとキッカーが同時に反則:キッカーの反則を優先して守備側の間接フリーキック、キッカーに警告(該当時)。
- 主審合図前にキック:原則やり直し(再蹴)。明白な無視や繰り返しは警告対象。
反則発生時の再開方法を言語で早見表化
- 攻撃側侵入:得点なら取り消し→守備側の間接FK/得点ならず→守備側の間接FK。
- 守備側侵入:得点→ゴール/得点ならず→再蹴(侵入の影響があると判断)。
- 双方侵入:再蹴。
- キッカー違法フェイント・後方キック:守備側の間接FK(警告あり得る)。
- ダブルタッチ:守備側の間接FK(手の場合は直接FKまたはPK相当の位置ならDFK)。
- GK前進(影響あり):再蹴(繰り返しで警告)。
警告・退場が出やすい状況と基準
- キッカー:違法なフェイント、ボールを蹴らずに相手を欺く行為、再三の合図無視。
- GK:遅延行為、キックの瞬間の前進を繰り返す、ゴール枠・ネットを意図的に揺らす。
- その他:不正な進入で明確な利得を得た場合、繰り返しの非紳士的行為。
ここで差がつく実戦的な注意点
助走とフェイントの許容範囲:どこまでOKでどこからNGか
助走の緩急、刻むステップ、体の向きでGKの逆を突くのはOK。一方、「完全に蹴る動作を終えてから足を止めて相手を欺く」「ボールに触れる直前でわざと空振り」などはNG。迷ったら、助走中の変化のみで勝負するのが安全です。
横パスPK(いわゆる二人PK)の合法性と条件
試合中のPKでは、ボールが前方に動けば、味方にパスしてから得点を狙うことも合法です(歴史的に成功例あり)。ただし条件は厳格:
- ボールは必ず前方に動かす。
- 味方はエリア外・アーク外で待機し、ボールがインプレーになってから走り込む。
- オフサイドに注意(キック時点でオフサイドポジションなら反則)。
KFTPMでは不可(リバウンド追撃やパスは認められません)。
笛の前に蹴ってしまった場合/空笛トラブルの扱い
主審の合図前に蹴った場合は基本やり直し。繰り返せば警告もありえます。万一、誤って笛が鳴った(空笛)場合は、公平性を保つため再蹴が妥当とされます。
前半・後半終了時の時間延長で行うPKの取り扱い
前半・後半終了直前にPKが与えられた場合、時間は延長されてキックが実施されます。ただし「キックの完了」で直ちに終了。完了の基準は、ボールがゴールに入る/外に出る/GKにセーブされてプレーが続いても、原則として追撃は不可(リバウンドからの得点はなし)。キッカーの二度触りもできません。
ピッチ・天候・ボール管理が与える影響とリスク回避
- 足元:滑るピッチは最後の一歩で沈みやすい。踏み込み地点を事前に均す。
- ボール:バルブ位置やパネルの向きにこだわる選手も。規定内で安定する置き方を習慣化。
- 風雨:強風は助走や蹴り分けに影響。雨天は足裏とボールの水膜を拭う時間を確保。
ゴールキーパー視点:守備の自由度と落とし穴
片足ライン要件の実際と合法的なステップワーク
最小要件は「片足の一部がライン上または同一平面」。よって、キックの瞬間に前足を浮かせると反則になりやすいです。合法的に最大限の反応を得るには、両足をライン上に残したまま横ステップ→重心移動→セーブ方向へ発進、が基本。片足をわずかに残す意識を持ちましょう。
クロスバー・ポスト・ネットへの接触禁止の理由
視覚的にキッカーを惑わせたり、ゴール枠を揺らす行為は不公平な妨害とみなされます。結果として警告、再蹴の対象になり、チームに不利益。ルーティンは「ライン確保→静止→集中」の三段構えで安定を。
遅延行為とみなされる行動例(装備調整・水分補給など)
グローブの締め直し、ポストの確認、水分補給などを理由に不必要に時間を使うのはNG。主審の指示に速やかに応じ、必要最低限に留めること。繰り返すと容易に警告までエスカレートします。
セーブ後の二次対応:リバウンドへの最初の一歩
試合中のPKではリバウンド対応が勝敗を分けます。セーブ後は即座に一歩前に出てボールにアタック。前に弾くより、外側高めへ弾く技術を磨くと二次被弾が減ります。
審判クルーとVARの運用ポイント
VARが介入しうる場面(GK前進・侵入・キーパーとキッカーの反則)
VARは「得点に直結する明白な誤り」を補助します。PKでは、GKの前進によるセーブ、侵入が得点やクリアに直接関与したケース、キッカーの違法フェイントなどが介入対象になり得ます(大会のVAR運用規程による)。
副審・第4の審判の役割と合図の流れ
- 主審:手順全般、合図、反則の最終判断。
- 副審:ゴールライン・GKのライン要件・ボールの完全な通過を注視、侵入も補助。
- 第4の審判:テクニカルエリア管理、交代・装備確認、全体の円滑化。
再蹴の判断とアナウンスの実務
再蹴の理由(GK前進、侵入、合図前キックなど)を迅速に示し、選手とベンチの混乱を抑えます。VAR介入がある場合はシグナルで明確化し、再開を丁寧にセットアップします。
年代・大会でのバリエーション
大会規定で変わりやすいポイント(交代枠・延長有無・PK方式の運用)
交代枠の数、延長戦の有無、KFTPMの実施方法は大会規定に依存します。KFTPMにおけるGKの交代可否(負傷・特別交代)や順番の取り扱いも規定を要確認。事前の読み込みが「想定外」を防ぎます。
ジュニア・学徒年代での運用上の注意(競技規則の適用と通達)
学年・カテゴリにより用具やボールサイズ、審判の運用通達が異なる場合があります。特に侵入やGKのライン要件の指導は「わかりやすい合図」と「一貫した運用」が鍵。試合前ミーティングで両チームに説明できるとトラブルを減らせます。
PK方式(勝者を決めるためのキック)ならではの留意点
- キッカーは交互に実施。リバウンド追撃なし。
- 対象は試合終了時にフィールド上にいた選手(大会規定による例外あり)。
- GKのライン要件・違反の扱いは試合中と同様だが、結果への影響が大きい分、VARや審判チームの確認が慎重に行われる。
よくある勘違いQ&A
GKが前に出たがシュートは枠外:再蹴になる?
GKの前進が「結果に影響した」と判断されれば再蹴。明らかに関与がなく枠外であれば、そのままゴールキックになることもあります。判断は審判の裁量で、VARの確認対象になり得ます。
味方が先に侵入してゴール:どう判定される?
攻撃側のみが侵入し得点した場合、得点は無効で守備側の間接フリーキックで再開します。
キッカーが滑って二度触れた:再開方法は?
意図にかかわらずダブルタッチは反則。守備側の間接フリーキック(手で触れた場合は直接フリーキック)で再開です。
走り込んだ選手がこぼれ球を押し込んだ:許される条件は?
主審の合図後、ボールが蹴られて明確に動いた瞬間にインプレー。他の選手はその時点から侵入可能。オフサイドや侵入の反則がなければ、こぼれ球の押し込みは有効です。
キッカーの変更やGKの交代はどこまで可能?
キッカーの変更は合図前まで。合図後は不可。GK交代は通常の交代枠や大会規定に従います。KFTPM中のGK交代(負傷など)は大会規定の定めを必ず確認しましょう。
練習とコーチングのポイント
ルール順守を組み込むドリル設計(侵入防止・合図待ち)
- 待機列の足元をラインテープで可視化して、アーク外・エリア外・後方を習慣化。
- 笛→キックの遅延をランダム化し、合図待ちの集中力を鍛える。
キッカーのルーティン構築とメンタルの整え方
- 置く→後退歩数→視線→合図→呼吸→助走→蹴る、のチェックリスト化。
- フェイントは助走内で完結。狙いのコース2本+保険1本を作っておく。
GKの片足ライン維持トレーニングと初動改善
- ライン上サイドステップ→リアクションジャンプの連続ドリル。
- 片足残しのフォーム撮影で瞬間位置を可視化し、違反リスクを下げる。
チーム全体での役割分担と再蹴を避ける文化づくり
- PK発生時の役割(キッカー、リバウンド担当、待機列の統率)を事前指定。
- 「侵入しない」「合図まで待つ」をチームルールとして徹底。再蹴はリスクでしかないと共有。
まとめ:PKで損をしないための要点整理
試合中のPKで必ず守るチェックリスト
- ボールはマークに静止、主審の笛を待つ。
- 他の選手はエリア外・アーク外・マーク後方を厳守。
- キッカーは前方へキック、助走内フェイントのみ。二度触り禁止。
- GKは片足ライン要件を守り、枠・ネットに触れない。遅延しない。
反則・再蹴の判断早見の記憶法
- 攻撃侵入は基本「得点取り消し/守備側間接FK」。
- 守備侵入は「入ればゴール/外れれば原則再蹴(影響次第)」。
- 双方侵入は「再蹴」。
- キッカーの違法フェイント・後方キックは「守備側間接FK+警告あり得る」。
- ダブルタッチは「守備側間接FK(手は直接FK)」。
- GK前進のセーブは「再蹴(繰り返しで警告)」。
PKは技術だけでなく、ルール理解が勝敗を分けます。チームで共通認識を整え、再蹴や取り消しといった“もったいない”をゼロにしていきましょう。